(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
既設の便器に取り付ける便器用手摺としては、例えば、
図12に示すようなものがある。この便器用手摺70は、同図に示すように、床に設置された便器Aの左右両側に配設される一対のベースフレーム71、71と、それぞれのベースフレーム71、71の後方側に立設された起立部材72、72と、この起立部材72、72の上端部にそれぞれ支持された手摺部材73、73と、一対の起立部材72、72を、相互に連結する連結部材74と、便器Aの両側部を挟み込む一対の挟持部材75、75とを備えており、車椅子に座った足腰の弱い老人等が用便を行う際に、便器Aの片側に移動した車椅子から便器Aに容易に乗り移ることができるように、手摺部材73、73を、同図に二点鎖線で示すように、後方側に跳ね上げることができるようになっている。
【0003】
また、上述したように、手摺部材を跳ね上げるタイプ以外に、足腰の弱い老人等が車椅子から便器Aに容易に乗り移る際、車椅子に近いほうの手摺部材を、後方側に後退させることができるように、起立部材の上端部に手摺部材を前後方向に進退可能に支持することも考えられる。
【0004】
ところで、このように、手摺部材を前後方向に進退可能に支持する場合は、手摺部材が容易に移動しないように、前進位置や後退位置等の所定位置で手摺部材をロックするためのロック手段が設けられており、具体的には、手摺部材を前進位置や後退位置等に移動させたときに一致する孔を形成しておき、それらの孔にピン等を挿入して手摺部材を所定位置に位置決めするといった手法が一般的に採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こういったロック手段では、ピン等を抜き差しするといった面倒な動作を行わなければならないので、使い勝手が悪く、結局のところ、老人等が手摺部材をロックせずに使用することになる。
【0007】
そこで、この発明の課題は、操作が簡単で使い勝手のよいロック手段を備えた便器用手摺を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、洋風便器の左右両側にそれぞれ起立する左右一対の起立部材を有する本体部と、洋風便器の左右両側で前記本体部に前後方向に進退自在に支持された左右一対の可動ベース部材と、左右一対の前記起立部材の上端部に
、支持部材を介して、前後方向に進退自在にそれぞれ取り付けられた左右一対の
上部可動部材と、
左右一対の前記上部可動部材にそれぞれ取り付けられた左右一対の手摺部材と、前記本体部に取り付けられ、前記本体部を前記洋風便器に固定する固定
部と、前記手摺部材を所定位置でロックするロック手段とを備え、前記ロック手段は、前記
上部可動部材に形成された被係止部と、前記被係止部に係合及び係合解除可能に、前記本体部に取り付けられたロック部材とを有し、前記ロック部材が係合位置側に付勢されていることを特徴とする便器用手摺を提供するものである。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の便器用手摺において、前記ロック部材は、前記被係止部に係合可能な係止部と、前記被係止部に対する前記係止部の係合を解除する操作部とを有し、前記ロック部材は、重力の作用によって前記係止部が前記被係止部側に回動するように、前記本体部に回動可能に支持されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、請求項1に係る発明の便器用手摺は、手摺部材を所定位置でロックするロック手段が、
上部可動部材に形成された被係止部と、この被係止部に係合及び係合解除可能に、本体部に取り付けられたロック部材とを有し、しかも、ロック部材が係止位置側に付勢されているので、ロックを解除するときだけ、ロック部材を操作すればよく、手摺部材をロックする際は、ロック部材と被係止部とが一致した時点で、ロック部材が被係止部に自然に係合
するので、使い勝手がよい。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、ロック部材が、被係止部に係合可能な係止部と、被係止部に対する係止部の係合を解除する操作部とを有し、ロック部材は、重力の作用によって係止部が被係止部側に回動するように、本体部に回動可能に支持されているので、ロック部材を係止位置側に付勢する付勢手段を別途設ける必要がなく、簡単なロック機構で同等の機能を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
図1〜
図4に示すように、この便器用手摺1は、基本的に金属製の角パイプによって形成されており、便所の床に固定設置された便器Aの床固定部aの前端よりも後方側において、その床固定部aの両側部に配設される、前後方向に延びる左右一対のベース部材11、各ベース部材11に固着された左右一対の起立部材12、各起立部材12の上端部に固着された、各ベース部材11に対応する位置で前後方向に延びる左右一対の支持部材15及び左右一対の起立部材12を相互に連結する連結部材16を備えた本体部10と、この本体部10に取り付けられた、本体部10を便器Aに固定する左右一対の固定部20と、前後方向に進退自在に本体部10に取り付けられた左右一対の可動部30と、各可動部30に取り付けられた左右一対の手摺部材40と、各手摺部材40を所定位置で保持する左右一対のロック手段50とから構成されている。
【0014】
前記本体部10を構成している起立部材12は、ベース部材11の中央部から垂直に立ち上がる下部支柱13と、この下部支柱13にその上端側から差し込まれて、下部支柱13内を上下にスライドする、上端部が便器Aの幅方向内側に張り出した上部支柱14とから構成されており、上部支柱14の上端部に支持部材15が固着されている。
【0015】
また、下部支柱13の前面には複数のボルト挿通孔13aが上下に形成されており、いずれかのボルト挿通孔13aに通したノブボルト12Aを、上部支柱14の下部前面に形成されたねじ孔(図示せず)にねじ込んで締め付けることにより、上部支柱14を所定の高さに段階的に固定することができるようになっている。
【0016】
前記連結部材16は、左右一対の起立部材12、12を構成している下部支柱13、13から内側に張り出すように、下部支柱13、13の後面における中間高さ位置にそれぞれ固着された、便器Aの幅方向に延びる左右一対の張出部16a、16aと、両端部が左右一対の張出部16a、16aにおける内端側の前面にそれぞれ連設された、便器Aにおける床固定部aの前端上部を取り囲むように、中央部を略U字状に屈曲させた屈曲部16bとから構成されている。
【0017】
前記連結部材16の各張出部16aには、それぞれの外端側から、各張出部16a内を左右にスライドする可動アーム17が差し込まれており、各張出部16aの内端には、合成樹脂製のキャップがそれぞれ装着されている。
【0018】
各可動アーム17は、その先端部が閉塞されており、閉塞された先端部にねじ孔が形成されていると共に、そのねじ孔に、便所の壁面に当接して押圧する押圧部材18が進退可能にねじ込まれている。
【0019】
各張出部16aの後面には、左右方向に延びる長孔(図示せず)が形成されており、この長孔に通したノブボルト17Aを、可動アーム17の内端後面に形成されたねじ孔(図示せず)にねじ込んで締め付けることにより、長孔の長さの範囲内で各可動アーム17を任意の位置に固定することができるようになっている。
【0020】
前記固定部20は、
図1〜
図5に示すように、連結部材16の張出部16a、16aの外端部に立設された支持脚21、21と、この支持脚21、21の上端部にそれぞれ固着され、内側に向かって斜め上方に立ち上がる一対の固定アーム22、22と、それぞれの固定アーム22にその上端から差し込まれて、上下方向にスライドする可動アーム23、23と、各可動アーム23、23の先端に取り付けられ、便器Aの湾曲した上部外表面bに当接して押圧する押圧部25とから構成されている。
【0021】
また、固定アーム22の上面には上下方向に延びる長孔22aが形成されており、この長孔22aに通したノブボルト24を、可動アーム23の下端部に形成されたねじ孔(図示せず)にねじ込んで締め付けることにより、長孔22aの長さの範囲内で可動アーム23を任意の位置に固定することができるようになっている。
【0022】
前記押圧部25は、同図に示すように、可動アーム23の上端に取り付けられたアジャスタ26と、このアジャスタ26に取り付けられた自在アタッチメント27とから構成されている。
【0023】
前記アジャスタ26は、可動アーム23の上端に形成されたネジ孔(図示せず)にねじ込まれる全ネジボルト26aと、この全ネジボルト26aに固定された、全ネジボルト26aを回転させるための回転操作部26bとから構成されており、回転操作部26bを回転させることで、全ネジボルト26aが回転しながら進退し、自在アタッチメント27が、固定アーム22の延びだし方向に進退するようになっている。
【0024】
前記自在アタッチメント27は、自在継手を介してアジャスタ26に取り付けられており、
図5に二点鎖線で示すように、便器Aの上部外表面bの湾曲状態に応じて、ある程度の自由度を持ってその接触角度を調整できるようになっている。
【0025】
前記可動部30は、
図1、
図3及び
図4に示すように、本体部10を構成している各ベース部材11に差し込まれて各ベース部材11内を前後にスライドする、前後端にキャスタ31a、31aが取り付けられた、ベース部材11の2倍弱の長さを有する左右一対の可動ベース部材31と、本体部10を構成している各支持部材15に差し込まれて各支持部材15内を前後にスライドする、支持部材15の2倍弱の長さを有する左右一対の上部可動部材32と、可動ベース部材31及び上部可動部材32をそれぞれの後端部で連結する連結部材33とから構成されており、上部可動部材32の上面に手摺部材40が取り付けられている。
【0026】
前記連結部材33は、可動ベース部材31の後端部に固着された下部支柱34と、この下部支柱34にその上端側から差し込まれて、下部支柱34内を上下にスライドする、上端部が便器Aの幅方向内側に張り出した上部支柱35とから構成されており、便器Aの幅方向内側に張り出した上部支柱35の上端部に上部可動部材32の後端部が固着されている。
【0027】
従って、各可動ベース部材31と、それぞれに対応する上部可動部材32とが、連動して前後方向に進退することになり、これに伴って、上部可動部材32に取り付けられている手摺部材40を後方にスライドさせると、対応する可動ベース部材31も後方側に移動することになる。
【0028】
前記手摺部材40は、
図1〜
図4及び
図6に示すように、金属製のフレーム41と、このフレーム41に装着されたに樹脂製のカバー42とから構成されており、金属製のフレーム41が、上部可動部材32の上面の前端部及び中間部に固定部材43を介して固定されている。また、本体部10を構成している支持部材15の上面には、前後方向に延びる長孔15aが形成されており、手摺部材40のフレーム41の後方側と上部可動部材32の中間部とを固定している固定部材43が、長孔15a内を前後に移動するようになっている。
【0029】
前記ロック手段50は、
図2及び
図6(a)、(b)に示すように、各支持部材15の下面にそれぞれ形成されたスリット51と、上部可動部材32を前後にスライドさせたときに支持部材15のスリット51に一致する、上部可動部材32の下面に等間隔で形成された3個のスリット52と、便器Aの幅方向内側に張り出した上部支柱14の上端部の前面に回動可能に支持された、回動片54の一端に90度の角度をなすように操作片55が連設された略L字形状のロック部材53とから構成されており、ロック部材53は、回動片54の先端に、相互に一致したスリット51、52に係合可能な係止爪54aが設けられている。
【0030】
前記ロック部材53は、回動片54側の中間部に回動支点が設けられており、通常の状態では、重力の作用によって、操作片55が連設された回動片54の他端側が下方側に回動し、回動片54の先端に設けられた係止爪54aが支持部材15に形成されたスリット51内に進入した状態に保持されるようになっている。
【0031】
従って、上部可動部材32を前後に進退させることによって、上部可動部材32のいずれかのスリット52が支持部材15のスリット51に一致した時点で、スリット51内に進入している係止爪54aが上部可動部材32のスリット52にも進入し、上部可動部材32、即ち、上部可動部材32に取り付けられた手摺部材40がその位置に保持されるようになっており、このロック手段50は、上部可動部材32の3個のスリット52にそれぞれ対応する「前進位置」、「中間位置」または「後退位置」で手摺部材40を保持することができる。
【0032】
このようにして、手摺部材40が「前進位置」、「中間位置」または「後退位置」に保持された状態で、
図2に2点鎖線で示すように、操作片55を便器Aの幅方向内側に回動させると、係止爪54aのスリット52への係合が解除されるので、手摺部材40を前後に進退させることができる。
【0033】
特に、手摺部材40が所定位置に保持された状態、即ち、回動片54の係止爪54aが支持部材15のスリット51及び上部可動部材32のスリット52の双方に進入している状態では、
図2に示すように、ロック部材53の操作片55が、支持部材15の外側に立ち上がっているので、手摺部材42を持ちながら、係止爪54aのスリット52への係合を解除する操作を行うことができ、しかも、係止爪54aの係合解除操作を行った後、そのまま手摺部材40の進退操作に移行することができる。
【0034】
また、各ベース部材11の前後端には、それぞれの下面側に、高さ調整を行うためのアジャスタ11a、11aが取り付けられており、排水等を考慮して便所の床に傾斜が設けられている場合でも、それぞれのアジャスタ11a、11aによって部分的に高さ調整を行うことができるので、設置される便器用手摺1のがたつきをなくすことができる。
【0035】
以上のように構成された便器用手摺1は、
図1〜
図4に示すように、手摺部材40を「前進位置」に保持した状態で使用されるが、例えば、便器Aの右側に位置している車椅子から老人等が便器Aに乗り移る際は、右側のロック部材53の操作片55を操作することによって係止爪54aのスリット52への係合を解除し、手摺部材40を後退させて「後退位置」に保持すると、
図7〜
図9に示すように、手摺部材40だけでなく、対応する可動ベース部材31も便器Aの床固定部aの前端よりも後方側に位置することになるので、老人等の移動経路に全く障害物がなくなり、老人等が車椅子から便器Aに円滑かつ確実に乗り移ることができる。なお、老人等が便器Aに乗り移る際は、必ずしも、手摺部材40を「後退位置」まで待避させる必要はなく、
図10及び
図11に示すように、老人等の足腰がそれほど弱くない場合には、手摺部材40を「中間位置」に保持した状態で、老人等に便器Aへの乗り移り動作を行わせることも可能である。
【0036】
以上のように、ロック手段50を構成しているロック部材53は、通常の状態では、回動片54の先端に設けられた係止爪54aが支持部材15に形成されたスリット51内に進入した状態に保持されるようになっており、上部可動部材32を前後に進退させることによって、上部可動部材32のいずれかのスリット52が支持部材15のスリット51に一致した時点で、スリット51内に進入している係止爪54aが上部可動部材32のスリット52にも進入し、上部可動部材32に取り付けられた手摺部材40がその位置に保持されるので、手摺部材40の保持を解除するときだけ、ロック部材53の操作片55を操作して、スリット52に対する係止爪54aの係合を解除すればよく、使い勝手がよい。
【0037】
特に、この便器用手摺1は、上述したように、手摺部材40を持ちながら、ロック部材53の操作片55を操作して、係止爪54aのスリット52への係合を解除することができ、しかも、係止爪54aの係合解除操作を行った後は、そのまま手摺部材40の進退操作に移行することができるので、非常に操作性がよく、手摺部材40の進退及び保持という異なる作業を円滑に行うことができる。
【0038】
従って、従来のように、老人等が手摺部材をロックせずに使用するといった状況を回避することができるという効果が得られる。
【0039】
また、上部支柱14の上端部に回動可能に支持されているロック部材53は、重力の作用によって係止爪54aが支持部材15に形成されたスリット51側に回動するようになっているので、ロック部材53(係止爪54a)を係合位置側に付勢する付勢手段を別途設ける必要もない。
【0040】
なお、上述した実施形態では、重力の作用によって係止爪54aが支持部材15に形成されたスリット51側に回動するようになっているが、これに限定されるものではなく、例えば、バネ等の付勢手段を用いて、ロック部材53(係止爪54a)を、係合位置側に常時付勢するようにしてもよい。
【0041】
また、上述した実施形態では、可動部30を構成している可動ベース部材31を、本体部10を構成しているベース部材11に差し込んで、ベース部材11内をスライドさせるようにしているが、これに限定されるものではなく、左右一対の可動ベース部材は、便器Aの左右両側で前後方向に進退可能に、種々の方法を用いて、本体部に支持されていればよい。
【0042】
また、上述した実施形態では、可動ベース部材31と上部可動部材32とを、連結部材33によって、それぞれの後端部で連結するようにしているが、これに限定されるものではなく、それぞれの前端部で連結することも可能である。ただし、可動ベース部材31と上部可動部材32とをそれぞれの後端部で連結しておくと、起立部材12の前方側が解放されるので、可動ベース部材31の前部と上部可動部材32の前部との間が開放されるので、より望ましい形態であるといえる。