特許第6074278号(P6074278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074278
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】改質無機酸化物粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/12 20060101AFI20170123BHJP
   C01F 7/02 20060101ALI20170123BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20170123BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20170123BHJP
   C01B 19/00 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C01B33/12 Z
   C01F7/02 E
   C01G23/04 Z
   C01G25/02
   C01B19/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-16091(P2013-16091)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-144901(P2014-144901A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 展歩
(72)【発明者】
【氏名】楊原 武
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−074923(JP,A)
【文献】 特開2011−148661(JP,A)
【文献】 特開2005−170771(JP,A)
【文献】 特開2005−171199(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/111452(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
C01F 1/00−17/00
C01G 23/04
C01G 25/02
C01B 19/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PhNH−を有するシランカップリング剤である表面処理剤、還元剤、及び塩基性物質が、Si、Al、Zr、Ti、及びSeから選択される元素の単独又は複合酸化物である無機酸化物粒子の表面に結合乃至は付着し、
前記還元剤はトリフェニルホスフィンであり、
前記塩基性物質はヘキサメチルジシラザン、アンモニア、及び/又は炭酸水素ナトリウムである改質無機酸化物粒子。
【請求項2】
前記表面処理剤は一般式(1):(RO)Si(CH(NHCHNHC(式中、Rはアルキル基からそれぞれ独立して選択され、n及びmは0以上の整数)で表される請求項1に記載の改質無機酸化物粒子。
【請求項3】
前記表面処理剤は N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−N’−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(N-Benzyl-N'-[3-(trimethoxysilyl)propyl]ethylenediamine)、及び/又はN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランである請求項1に記載の改質無機酸化物粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理がなされている無機酸化物粒子である改質無機酸化物粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の耐熱性や機械特性などを向上するために樹脂中に無機酸化物を分散させることが行われている(特許文献1など参照)。無機酸化物粒子を樹脂中に分散させるに当たり樹脂への親和性向上などを目的として無機酸化物粒子に表面処理を行うことがある。
【0003】
例えば、CNH基を末端に備えるシランカップリング剤は樹脂界面接着性、ピール特性、耐薬品性、耐湿性に優れるなど優れた特性を発現できる。そこで、本願発明者らはこのシランカップリング剤にて表面処理を行った優れた無機酸化物粒子について種々の応用を検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-298740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
検討の結果、物理特性は充分であるが、経時的に色相変化することが明らかになった。この変化は僅かではあるが、用途によっては僅かな変化であっても避けたいことがある。
【0006】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、CNH基を末端に備えるシランカップリング剤にて表面処理を行い、色相変化が抑制された無機酸化物粒子を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決する改質無機酸化物粒子は、CNH−を末端に有するシランカップリング剤である表面処理剤、還元剤、及び塩基性物質にて表面処理して得られうるものである。
【0008】
本願発明者らが鋭意検討を行った結果、色相変化の原因として酸と酸素とが大きく関与することを発見した。ここで、酸としては表面処理後の改質無機酸化物粒子の表面自体が酸として作用し、酸素としては雰囲気中に存在する酸素が作用することが主だった要因であった。これら酸と酸素との影響は一方だけに対策を行っても充分な効果が得られず、双方共に対策を行うことが望ましいことを見出した。この知見に基づき本願発明は完成した。
【0009】
(1)に記載の改質無機酸化物粒子において、表面処理剤、還元剤、そして塩基性物質は以下の(2)〜(5)に記載のものからそれぞれ具体的に選択することが可能である。
(2)前記還元剤はトリフェニルホスフィンである。(3)前記塩基性物質はヘキサメチルジシラザン、アンモニア、及び/又は炭酸水素ナトリウムである。(4)前記表面処理剤は一般式(1):(RO)Si(CH(NHCHNHC(式中、Rはアルキル基からそれぞれ独立して選択され、n及びmは0以上の整数)で表される。(5)前記表面処理剤は N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−N’−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(N-Benzyl-N'-[3-(trimethoxysilyl)propyl]ethylenediamine)、及び/又はN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランである。
(6)更に上述の(1)〜(5)の改質無機酸化物粒子における前記無機酸化物粒子はSi、Al、Zr、Ti、及びSeから選択される元素の単独又は複合酸化物であることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の改質無機酸化物粒子は上述のシランカップリング剤がもつ性能を発揮できると共に色相変化が抑制される効果が発現された。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の改質無機酸化物粒子について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。
【0012】
本実施形態の改質無機酸化物粒子は無機酸化物に対して表面処理が行われることで得られうるものである。表面処理は表面処理剤と還元剤と塩基性物質とにより行われる。表面処理はそれぞれを別々に反応させても良いが、混合させて同時に無機酸化物粒子の表面に接触させることが望ましい。例えば、表面処理剤と還元剤と塩基性物質とを混合させたものをそのまま利用したり、それらをアルコールや水に溶解させた状態で利用したりして、無機酸化物粒子に接触させることで表面処理を行うことができる。
【0013】
接触の方法は表面処理剤などを液体の状態にて無機酸化物粒子に撹拌しながら噴霧したり、単純に混合させたりすることができるほか、表面処理剤などを気化させた状態で無機酸化物粒子に導入して接触させることができる。反応の促進や、反応の均一化のため、接触後に加熱したり、撹拌したりすることができる。
【0014】
表面処理剤、還元剤、塩基性物質の量は特に限定されない。例えば表面処理剤は目的の性質になるように、その量が調整される。また、無機酸化物粒子の表面に存在するOH基と表面処理剤は反応するため、無機酸化物粒子の表面に存在するOH基の量に応じた量(存在するOH基のすべてに反応できるために必要十分な量)の表面処理剤の量を選択することができる。還元剤及び塩基性物質は酸化の防止や酸の影響を抑制するためのものであるため表面処理剤よりも少ない量にすることが望ましい。例えば表面処理剤の質量を基準として0%超5%以下(4%以下、3%以下、2%以下、1%以下)などの量を適宜選択可能である。還元剤及び塩基性物質は僅かな量であっても、存在する量に応じて酸や酸化する物質が改質無機酸化物粒子に与える影響を低減できる。
【0015】
無機酸化物粒子は無機酸化物の粒子である。粒径は特に限定されない。例えばナノメートルオーダーから、マイクロメートルオーダー程度の大きさが選択可能である。また、球形度を高く(例えば0.9以上)にすることにより樹脂中への充填を行う場合に充填性、分散性が向上できる。無機酸化物としては特に限定されない。例えばSi、Al、Zr、Ti、及びSeから選択される元素の単独又は複合酸化物が例示できる。これらの無機酸化物粒子はどのような方法にて製造される物であっても良いが、例えば無機酸化物に対応する元素の粒子を調製し、その後、その粒子を酸素含有雰囲気中にて燃焼させることで無機酸化物粒子を得る方法(VMC法)、無機酸化物を粉砕などにより適正な大きさに調整した後、火炎中に投入することにより溶融させて球状にする方法(熔融法)、無機酸化物をそのまま粉砕して粒子化する方法などが挙げられる。VMC法、熔融法を採用すると球形度が高い粒子が得られるため、好ましい。
【0016】
表面処理剤はCNH−を末端に有するシランカップリング剤である。シランカップリング剤としては末端に(RO)Si−基を有する化合物が挙げられる。ここでRはアルキル基である。表面処理剤としては、一般式(1):(RO)Si(CH(NHCHNHC(式中、Rはアルキル基からそれぞれ独立して選択され、n及びmは0以上の整数)で表される化合物が例示できる。Rとしては3つともメチル基であることが望ましい。n及びmとしては1、2、3などを採用することができる。
【0017】
具体的好ましい表面処理剤としては一般式(1)の化合物であるか否かは問わず、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(塩酸塩として市販。例えば信越化学製KBM575)、N−ベンジル−N’−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(N-Benzyl-N'-[3-(trimethoxysilyl)propyl]ethylenediamine:塩酸塩として市販。例えば信越化学製KBM6123)、及び/又はN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(例えば信越化学製KBM573)が挙げられる。
【0018】
還元剤は還元作用が発揮できるものであれば特に限定されない。ここでいう還元作用は酸素と表面処理剤との反応が抑制できる程度のものである。還元剤の好ましい具体例としてはトリフェニルホスフィン(TPP)が挙げられる。
【0019】
塩基性物質についても特に限定しない。例えば酢酸と酸塩基反応を行いうる化合物である。具体的に好ましい塩基性物質としてはヘキサメチルジシラザン(HMDS)、アンモニア、及び炭酸水素ナトリウムが例示できる。
【0020】
還元剤及び塩基性物質共に表面処理剤に溶解可能であるか、表面処理剤と共に溶解可能な溶媒が存在することが望ましい。
【実施例】
【0021】
・予備試験1(酸素及び酢酸の共存下での色相変化)
表面処理剤(KBM573)に対して色相変化を観察した。表面処理剤に対し、酢酸を1質量%になるように添加した。この溶液について、そのまま(試験例1−1)、HMDSを追加(試験例1−2)、TPPを追加(試験例1−3)、TPP及びHMDSを追加(試験例1−4)の試料を調製した。対照として表面処理剤のみを用意した。これらを酸素の存在下、60℃で1時間保持し色相の変化を評価した。結果、試験例1−1の色相変化が一番大きかった。次いで、試験例1−2と試験例1−3とが試験例1−1よりも色相変化が少なく、両者同程度の変化であった。そして、試験例1−4は殆ど色相変化が認められず、試験前(色相変化前:対照)の試料と大差なかった。つまり、HMDSとTPPとはそれぞれ単独でも添加の効果が認められ、両者併用することで著しい色相変化抑制効果が認められた。
【0022】
ここで、無酸素雰囲気(非酸化雰囲気)では還元剤を添加しなくても色相の変化は起きないことを確認した。また、酸が存在しない雰囲気では塩基性物質を添加しなくても色相の変化は起きないことを確認した。つまり、酸と酸素との存在により色相変化が促進されることが分かった。以下、両者単独での色相変化への影響を検討した。
・予備試験2(酸素の存在下での色相変化)
表面処理剤(KBM573)に対して色相変化を観察した。表面処理剤に対して、そのまま(試験例2−1)、HMDSを追加(試験例2−2)、TPPを追加(試験例2−3)の試料を調製した。対照として表面処理剤のみを用意した。これらを酸素の存在下、60℃で1時間保持し色相の変化を評価した。結果、試験例2−1の色相変化が一番大きかった。次いで、試験例2−2が試験例2−1よりも色相変化が少なかった。そして、試験例2−3は殆ど色相変化が認められず、対照の試料と大差なかった。つまり、酸素の存在下ではTPPの色相変化抑制効果が大きいことが分かった。
【0023】

・予備試験3(酢酸の存在下での色相変化)
表面処理剤(KBM573)に対して色相変化を観察した。表面処理剤に対し、酢酸を1質量%になるように添加した。この溶液について、そのまま(試験例3−1)、HMDSを追加(試験例3−2)、TPPを追加(試験例3−3)の試料を調製した。対照として表面処理剤のみを用意した。これらから窒素により酸素を追い出した後、密封した状態で、60℃で1時間保持し色相の変化を評価した。結果、試験例3−1の色相変化が一番大きかった。次いで、試験例3−3が試験例3−1よりも色相変化が少なかった。そして、試験例3−2は殆ど色相変化が認められず、対照の試料と大差なかった。つまり、酸の存在下ではHMDSの色相変化抑制効果が大きいことが分かった。
・まとめ
以上の試験から酸素、酸が存在すると、表面処理剤の色相が経時的に変化することが分かった。また、酸素による色相変化の程度は還元剤(TPP)により低減でき(予備試験2)、酸による色相変化の程度は塩基性物質(HMDS)により低減できること(予備試験3)が分かった。また、酸と酸素とが共存していても、それぞれが単独で存在する場合と同様に還元剤及び塩基性物質を添加することにより互いに阻害すること無く色相変化を低減できることが分かった(予備試験1)。
(実施例1)
無機酸化物粒子としての球状シリカ(アドマファインSO−C2:アドマテックス製)100質量部に対し、表面処理剤としてのKBM573(信越化学製)1質量部を混合・撹拌することにより表面処理を行い本実施例の改質無機酸化物粒子とした。KBM573には予めTPPとHMDSとを混合・溶解させた。TPP及びHMDSの濃度は双方共に表面処理剤の質量を基準として1%になるように添加した。
(実施例2)
無機酸化物粒子としての球状シリカに代えて球状シリカ(アドマファインアルミナ:AO502、アドマテックス製)にした以外は実施例1と同様に改質無機酸化物粒子を製造した。
(実施例3)
表面処理剤をKBM573からKBM575(信越化学製)に代えた以外は実施例1と同様に改質無機酸化物粒子を製造した。
(実施例4)
表面処理剤をKBM573からKBM6123(信越化学製)に代えた以外は実施例1と同様に改質無機酸化物粒子を製造した。
(比較例1)
塩基性物質を添加しなかった以外は実施例1と同様に改質無機酸化物粒子を製造した。
(比較例2)
還元剤を添加しなかった以外は実施例1と同様に改質無機酸化物粒子を製造した。
・評価試験
実施例及び比較例の改質無機酸化物粒子を40℃で一週間放置した前後の色相を肉眼にて比較評価した。実施例の改質無機酸化物粒子はすべて有意な色相変化が認められなかった。それに対して比較例の改質無機酸化物粒子では僅かにピンク色に変化した。
・まとめ
結果から明らかなように、還元剤及び塩基性物質を合わせて表面処理を行うことにより改質無機酸化物粒子の色相変化を抑制できることが分かった。
【0024】
また、予備試験1の結果から酸や酸素の存在が色相変化に影響を与えることが分かったため、TPP、HMDS以外の還元剤、塩基性物質の組み合わせであっても色相変化を抑制する効果が発揮されることが推論される。