特許第6074305号(P6074305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6074305-バイナリー発電システム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074305
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】バイナリー発電システム
(51)【国際特許分類】
   F01K 25/10 20060101AFI20170123BHJP
   F01D 11/04 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F01K25/10 F
   F01K25/10 H
   F01D11/04
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-74486(P2013-74486)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-199026(P2014-199026A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】三島 俊一
(72)【発明者】
【氏名】井上 益男
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正人
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−164043(JP,A)
【文献】 実開昭58−193001(JP,U)
【文献】 実開昭54−52517(JP,U)
【文献】 特開昭59−192802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 25/10
F01D 11/04
F01D 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低沸点媒体の蒸気を作動流体として用いるバイナリー発電システムであって、
低沸点媒体を加熱して低沸点媒体の蒸気を得る蒸発器と、前記低沸点媒体の蒸気の運動エネルギーを回転軸の回転エネルギーに変換するタービンと、前記タービンにおいて運動エネルギーの一部を前記回転軸の回転エネルギーに変換した前記低沸点媒体の蒸気を凝縮させる凝縮器とを備え、且つ、内部で前記低沸点媒体を循環させる閉ループ状の循環系統を有し、
前記タービンは、ケーシングと、前記ケーシングを貫通する回転軸と、前記回転軸に固定された羽根車と、前記ケーシング内で前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記ケーシング内で前記回転軸の軸線方向一方側の外周面と前記ケーシングの内周面との間をシールする第1メカニカルシール部材と、前記ケーシング内の前記第1メカニカルシール部材よりも回転軸の軸線方向他方側に設けられて前記回転軸の外周面と前記ケーシングの内周面との間をシールする第2メカニカルシール部材とを備え、
前記ケーシング内の、前記第1メカニカルシール部材と前記第2メカニカルシール部材との間に位置する第1空間に前記循環系統内から液状の低沸点媒体を供給する媒体供給ラインと、
前記第1空間から前記循環系統内へと前記液状の低沸点媒体を返送する媒体返送ラインと、
を更に有し、
前記タービンは、前記ケーシング内の前記第2メカニカルシール部材よりも回転軸の軸線方向他方側に設けられて前記回転軸の外周面と前記ケーシングの内周面との間をシールする第3メカニカルシール部材を更に備え、
前記ケーシング内の、前記第2メカニカルシール部材と前記第3メカニカルシール部材との間に位置する第2空間に前記低沸点媒体と相溶する媒体よりなる冷却液を流通する冷却液流通機構を有することを特徴とする、バイナリー発電システム。
【請求項2】
前記冷却液流通機構は、前記第1空間内を流れる前記液状の低沸点媒体の圧力よりも低い供給圧力で前記冷却液を前記第2空間へと供給することを特徴とする、請求項に記載のバイナリー発電システム。
【請求項3】
前記循環系統が、前記凝縮器で得た前記低沸点媒体の蒸気の凝縮物を含む液状の低沸点媒体を前記蒸発器に送る媒体送液ポンプを更に備え、
前記媒体供給ラインは、前記媒体送液ポンプと前記蒸発器との間で前記循環系統内から液状の低沸点媒体を抜き出して前記第1空間に供給し、
前記媒体返送ラインは、前記媒体送液ポンプと前記蒸発器との間であって、前記媒体供給ラインを用いて前記液状の低沸点媒体を抜き出す位置よりも前記蒸発器側の位置に前記液状の低沸点媒体を返送することを特徴とする、請求項1または2に記載のバイナリー発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低沸点媒体の蒸気を作動流体として用いるバイナリー発電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニア等の水よりも沸点が低い低沸点媒体を加熱し、発生した蒸気を用いてタービン発電機のタービンの羽根車を回転させることにより発電するバイナリー発電システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、タービン発電機を用いた従来のバイナリー発電システムでは、液状の低沸点媒体を加熱して気化させる蒸発器と、低沸点媒体の蒸気の運動エネルギーを回転軸の回転エネルギーに変換するタービンと、低沸点媒体の蒸気を凝縮させる凝縮器と、液状の低沸点媒体を蒸発器に送る媒体送液ポンプとを備える閉ループ内で低沸点媒体を循環させる。そして、このバイナリー発電システムでは、タービンで得た回転エネルギーがタービン発電機の発電機で電気エネルギーに変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−221961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述したバイナリー発電システムでは、タービンの回転軸と、当該回転軸を回転自在に支持する軸受との間の隙間等からアンモニアなどの低沸点媒体の蒸気が外部へ漏れ出す可能性がある。そのため、回転軸と軸受との間の隙間等からの低沸点媒体の蒸気の漏出を防止する必要がある。
【0006】
そこで、本発明者らは、ケーシングと、ケーシングを貫通する回転軸と、回転軸に固定された羽根車と、ケーシング内で回転軸を支持する一対の軸受と、回転軸の軸線方向両端部の外周面側にそれぞれ配置されたメカニカルシール部材とを備えるタービンを使用すると共に、メカニカルシール部材でシールされたタービンのケーシング内に冷却液を流通させることに着想した。このようなタービンを用いれば、メカニカルシール部材と、ケーシング内を流れる冷却液との双方を利用して、低沸点媒体の蒸気がバイナリー発電システムから外部へと漏れ出すのを防止することができる。
【0007】
ここで、バイナリー発電システムの閉ループ内を流れる低沸点媒体蒸気が外部へ漏れ出すのを確実に防止する観点からは、タービンのケーシング内に流通させる冷却液の圧力を閉ループ内の圧力より高くすることが好ましい。しかしながら、本発明者らが更に検討を重ねたところ、タービンのケーシング内に流通させる冷却液の圧力が高いと、ケーシング内からバイナリー発電システムの閉ループ内へと冷却液が流れ出し、低沸点媒体の組成が変化してバイナリー発電システムの性能が低下するという問題が生じることを新たに見出した。
【0008】
そこで、本発明は、低沸点媒体の組成の変化による性能の低下を抑制しつつ、低沸点媒体の蒸気の外部への漏出を防止することができるバイナリー発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のバイナリー発電システムは、低沸点媒体の蒸気を作動流体として用いるバイナリー発電システムであって、低沸点媒体を加熱して低沸点媒体の蒸気を得る蒸発器と、前記低沸点媒体の蒸気の運動エネルギーを回転軸の回転エネルギーに変換するタービンと、前記タービンにおいて運動エネルギーの一部を前記回転軸の回転エネルギーに変換した前記低沸点媒体の蒸気を凝縮させる凝縮器とを備え、且つ、内部で前記低沸点媒体を循環させる閉ループ状の循環系統を有し、前記タービンは、ケーシングと、前記ケーシングを貫通する回転軸と、前記回転軸に固定された羽根車と、前記ケーシング内で前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記ケーシング内で前記回転軸の軸線方向一方側の外周面と前記ケーシングの内周面との間をシールする第1メカニカルシール部材と、前記ケーシング内の前記第1メカニカルシール部材よりも回転軸の軸線方向他方側に設けられて前記回転軸の外周面と前記ケーシングの内周面との間をシールする第2メカニカルシール部材とを備え、前記ケーシング内の、前記第1メカニカルシール部材と前記第2メカニカルシール部材との間に位置する第1空間に前記循環系統内から液状の低沸点媒体を供給する媒体供給ラインと、前記第1空間から前記循環系統内へと前記液状の低沸点媒体を返送する媒体返送ラインとを更に有し、前記タービンは、前記ケーシング内の前記第2メカニカルシール部材よりも回転軸の軸線方向他方側に設けられて前記回転軸の外周面と前記ケーシングの内周面との間をシールする第3メカニカルシール部材を更に備え、前記ケーシング内の、前記第2メカニカルシール部材と前記第3メカニカルシール部材との間に位置する第2空間に前記低沸点媒体と相溶する媒体よりなる冷却液を流通する冷却液流通機構を有することを特徴とする。
このように、メカニカルシール部材を有するタービンを使用すれば、低沸点媒体の蒸気がバイナリー発電システムから外部へと漏れ出すのを抑制することができる。更に、ケーシングの第1空間内に液状の低沸点媒体を流通させれば、メカニカルシール部材のみでは低沸点媒体の蒸気の漏出を防止できなかった場合であっても、低沸点媒体の蒸気をケーシング内で凝縮させることができるので、低沸点媒体の蒸気がバイナリー発電システムから外部へと漏れ出すのを防止することができる。更に、循環系統内から抜き出した液状の低沸点媒体を第1空間内に流通させると共に、流通させた液状の低沸点媒体を再び循環系統内へと戻せば、ケーシング内を流れるシール用の液状の低沸点媒体が循環系統内に流出しても、閉ループ状の循環系統内を流れる低沸点媒体の組成の変化を抑制することができる。従って、低沸点媒体の組成の変化によるバイナリー発電システムの性能の低下を抑制することができる。また、第3メカニカルシール部材を設けて第1空間よりも回転軸の軸線方向他方側に第2空間を形成し、当該第2空間に低沸点媒体と相溶する媒体よりなる冷却液を流通すれば、第1空間内を流れる低沸点媒体が回転軸の軸線方向他方側に向かってケーシング外部へと漏れ出すのを抑制することができる。従って、バイナリー発電システムからの低沸点媒体の漏れ出しを確実に抑制することができる。
なお、本発明において、「相溶する」とは、混合した際に単一かつ均一な液相を形成することを指す。
【0011】
また、本発明のバイナリー発電システムは、前記冷却液流通機構が、前記第1空間内を流れる前記液状の低沸点媒体の圧力よりも低い供給圧力で前記冷却液を前記第2空間へと供給することが好ましい。第1空間内を流れる液状の低沸点媒体の圧力よりも低い供給圧力で冷却液を供給すれば、冷却液が第2空間内から第1空間内へと流入するのを抑制して、循環系統内を流れる低沸点媒体の組成が変化するのを抑制することができる。従って、第2空間内に冷却液を流通させた場合であっても、低沸点媒体の組成の変化によるバイナリー発電システムの性能の低下を確実に抑制することができる。
【0012】
そして、本発明のバイナリー発電システムは、前記循環系統が、前記凝縮器で得た前記低沸点媒体の蒸気の凝縮物を含む液状の低沸点媒体を前記蒸発器に送る媒体送液ポンプを更に備え、前記媒体供給ラインは、前記媒体送液ポンプと前記蒸発器との間で前記循環系統内から液状の低沸点媒体を抜き出して前記第1空間に供給し、前記媒体返送ラインは、前記媒体送液ポンプと前記蒸発器との間であって、前記媒体供給ラインを用いて前記液状の低沸点媒体を抜き出す位置よりも前記蒸発器側の位置に前記液状の低沸点媒体を返送することが好ましい。媒体供給ラインが媒体送液ポンプと蒸発器との間で液状の低沸点媒体を抜き出して第1空間に供給すれば、追加のポンプを設けることなく、加圧された液状の低沸点媒体を第1空間内に供給して低沸点媒体の蒸気の漏出を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイナリー発電システムによれば、低沸点媒体の組成の変化による性能の低下を抑制しつつ、低沸点媒体の蒸気の外部への漏出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従う代表的なバイナリー発電システムの概略構成を示す説明図である。
図2図1に示すバイナリー発電システムのタービンの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
ここで、本発明のバイナリー発電システムでは、低沸点媒体の蒸気を作動流体として用いて発電を行う。なお、本発明のバイナリー発電システムは、アンモニア、ブタン、ペンタン等の単体を低沸点媒体として用いるランキンサイクル方式のバイナリー発電システムであってもよいし、水とアンモニアとの混合物を低沸点媒体として用いるカリーナサイクル方式のバイナリー発電システムであってもよい。
【0016】
<バイナリー発電システム>
図1に、本発明に従うバイナリー発電システムの一例の概略構成を示す。このバイナリー発電システム10は、カリーナサイクル方式のバイナリー発電システムである。
【0017】
バイナリー発電システム10は、タービンTと発電機9とからなるタービン発電機を有している。そして、バイナリー発電システム10では、低沸点媒体タンク1と、媒体送液ポンプP1と、再生熱交換器2と、蒸発器3と、流体加熱器4と、分離器5と、蒸気加熱器6と、タービンTと、吸収器7と、凝縮器8とを備える閉ループ状の循環系統11内で低沸点媒体を循環させることにより、タービン発電機を用いて発電を行う。
【0018】
ここで、低沸点媒体タンク1は、液状の低沸点媒体を貯留するタンクである。そして、低沸点媒体タンク1中の低沸点媒体(この一例のバイナリー発電システム10では、水とアンモニアとの混合物)は、媒体送液ポンプP1により、再生熱交換器2を介して蒸発器3へと送られる。
【0019】
再生熱交換器2は、低温の低沸点媒体と、後に詳細に説明する分離器5において分離された高温の蒸発残液との間で熱交換を行い、低沸点媒体が蒸発器3へと流入する前に低沸点媒体を予加熱する装置である。この再生熱交換器2では、蒸発残液の有する熱エネルギーが低沸点媒体の予加熱に有効利用される。
【0020】
そして、再生熱交換器2で予加熱された低沸点媒体は、蒸発器3において更に加熱され、少なくとも一部が蒸気となる。具体的には、蒸発器3では、低沸点媒体が加熱され、大部分がアンモニア蒸気よりなる低沸点媒体蒸気と、大部分が水よりなる蒸発残液との混合流体が生成する。なお、蒸発器3において低沸点媒体を加熱する際の熱源としては、焼却炉等からの温排水、加熱炉の排気ガス、温泉、蒸気などのバイナリー発電において通常用いられる熱源を使用することができる。
【0021】
流体加熱器4は、蒸発器3で得た低沸点媒体蒸気と蒸発残液との混合流体を更に加熱し、低沸点媒体蒸気の量を増やすと共に、低沸点媒体蒸気を加熱する装置である。なお、流体加熱器4において混合流体を加熱する際の熱源としては、蒸発器3と同様の熱源を使用することができる。
【0022】
分離器5は、流体加熱器4から流出した低沸点媒体蒸気と蒸発残液との混合流体を、低沸点媒体蒸気と、蒸発残液とに気液分離する装置である。そして、分離器5で分離された低沸点媒体蒸気は、蒸気加熱器6へと送られる。また、蒸発残液は、蒸発残液ライン12を通り、再生熱交換器2を経て吸収器7へと送られる。なお、分離器5としては、ミストセパレーターやサイクロンなどの既知の気液分離装置を用いることができる。
【0023】
蒸気加熱器6は、分離器5で分離された低沸点媒体蒸気を加熱し、バイナリー発電システム10の発電効率を向上させるための装置である。なお、蒸気加熱器6において低沸点媒体蒸気を加熱する際の熱源としては、蒸発器3や流体加熱器4と同様の熱源を使用することができる。
【0024】
タービンTは、蒸気加熱器6から流出した低沸点媒体蒸気の運動エネルギーを回転軸の回転エネルギーに変換する装置である。そして、タービンTの回転軸は発電機9に接続されており、タービンTで得た回転エネルギーは、発電機9において電気エネルギーに変換される。
【0025】
吸収器7は、タービンTの回転軸を回転させた後の低沸点媒体蒸気と、分離器5で分離した蒸発残液とを混合し、低沸点媒体蒸気の一部を蒸発残液に吸収させる装置である。なお、吸収器7としては、スプレー塔等の既知の気液混合装置を用いることができる。
【0026】
凝縮器8は、吸収器7から流出した低沸点媒体蒸気と蒸発残液との混合流体を冷却し、タービンTにおいて運動エネルギーの一部が回転軸の回転エネルギーに変換された低沸点媒体蒸気を凝縮させる装置である。そして、凝縮器8において低沸点媒体蒸気を凝縮させて得られる液状の低沸点媒体(低沸点媒体蒸気の凝縮物と蒸発残液との混合物)は、低沸点媒体タンク1に貯留された後、媒体送液ポンプP1により再び蒸発器3へと送られる。
【0027】
ここで、上述したバイナリー発電システム10のタービンTは、回転軸の軸線方向に沿う断面を図2に示すように、ケーシング100と、ケーシング100を貫通する回転軸110と、回転軸110の軸線方向一端(図2では左側端)に固定された羽根車120と、ケーシング100内で回転軸110を回転自在に支持する一対の軸受131,132とを備えている。
また、タービンTは、回転軸110のうちケーシング100内に位置する部分の外周面側に配置された合計3つのメカニカルシール部材141,142,143を備えている。具体的には、タービンTは、ケーシング100内で回転軸110の軸線方向一方側(図2では左側)の端部の外周面とケーシング100の内周面との間をシールする第1メカニカルシール部材141と、第1メカニカルシール部材141よりも回転軸110の軸線方向他方側(図2では右側)に設けられて回転軸110の外周面とケーシング100の内周面との間をシールする第2メカニカルシール部材142と、第2メカニカルシール部材142よりも回転軸110の軸線方向他方側に設けられて回転軸110の軸線方向他方側の端部の外周面とケーシング100の内周面との間をシールする第3メカニカルシール部材143とを備えている。
【0028】
ここで、ケーシング100は、回転軸110を挿通可能な筒状体であり、特に限定されることなく、軸線方向一方側(図2では左側)に位置する第1ケーシング部材101、軸線方向中央に位置する第2ケーシング部材102および軸線方向他方側(図2では右側)に位置する第3ケーシング部材103の3つの部材で構成されている。なお、第1ケーシング部材101、第2ケーシング部材102および第3ケーシング部材103は、既知の手法を用いて互いに液密に連結されている。
そして、このタービンTでは、一対の軸受131,132および第2メカニカルシール部材142は、第2ケーシング部材102の内側に設けられている。また、第1メカニカルシール部材141は、第1ケーシング部材101の内周面と、回転軸110の外周面との間に設けられている。更に、第3メカニカルシール部材143は、第3ケーシング部材103の内周面と、回転軸110の外周面との間に設けられている。
【0029】
また、回転軸110に固定された羽根車120は、ケーシング100の外側に位置し、複数の羽根121を有している。そして、タービンTでは、羽根車120の近傍に設けられた複数の噴出ノズル122から羽根121に向けて低沸点媒体蒸気を噴き付けることにより、羽根車120と、一対の軸受131、132に軸支された回転軸110とを回転させる。
【0030】
ここで、タービンTの回転軸110は、下記の回転軸シール方法を用いてシールされている。そして、このバイナリー発電システム10では、タービンTの回転軸110が下記の方法を用いてシールされているので、羽根121に噴き付けられた低沸点媒体蒸気がタービンT内を通って蒸気のままバイナリー発電システム10の外へと漏れるのを防止することができる。
【0031】
(タービンの回転軸シール方法)
図2に示すタービンTの回転軸110は、3つのメカニカルシール部材141,142,143と、ケーシング100内に流通させた流体とを用いてシールされている。
具体的には、タービンTでは、ケーシング100内の、第1メカニカルシール部材141と第2メカニカルシール部材142との間に位置する第1空間S1に液状の低沸点媒体を流通させることにより、羽根121に噴き付けられた低沸点媒体蒸気がタービンT内を通って蒸気のまま外部へと漏れるのを防止している。また、タービンTでは、ケーシング100内の、第2メカニカルシール部材142と第3メカニカルシール部材143との間に位置する第2空間S2に冷却液を流通させることにより、第1空間S1内を流れる低沸点媒体がケーシング110の外部へと(即ち、回転軸110の軸線方向他方側に向かって)漏れ出すのを抑制している。
【0032】
ここで、このバイナリー発電システム10では、第1空間S1に流通させる液状の低沸点媒体として、閉ループ状の循環系統11内から抜き出した液状の低沸点媒体、即ち循環系統11内を流れる液状の流体を用いる。即ち、図1に示すように、バイナリー発電システム10では、第1空間S1に循環系統11内から液状の低沸点媒体を供給する媒体供給ライン13と、第1空間S1から循環系統11内へと液状の低沸点媒体を返送する媒体返送ライン14とを設け、循環系統11内を流れる液状の低沸点媒体を第1空間S1内に流通させている。
なお、この一例のバイナリー発電システム10では、媒体供給ライン13は、媒体送液ポンプP1と蒸発器3との間、より具体的には媒体送液ポンプP1と再生熱交換器2との間から分岐して延び、ケーシング100の第2ケーシング部材102に設けられた低沸点媒体供給口151に接続されている。また、媒体返送ライン14は、ケーシング100の第2ケーシング部材102に設けられた低沸点媒体排出口152と、循環系統11とを、媒体送液ポンプP1と蒸発器3との間、より具体的には媒体送液ポンプP1と再生熱交換器2との間であって、媒体供給ライン13が分岐する位置よりも蒸発器3側の位置で接続している。因みに、第1空間S1内に流通させる液状の低沸点媒体の流量は、媒体供給ライン13または媒体返送ライン14に図示しない流量調整弁を設けることにより、調整することができる。
【0033】
また、バイナリー発電システム10では、第2空間S2に流通させる冷却液として、低沸点媒体とは組成が異なり、且つ、低沸点媒体と相溶する媒体よりなる冷却液を用いる。ここで、第2空間S2への冷却液の供給は、第2ケーシング部材102に設けられた冷却液供給口153を介して行うことができる。また、第2空間S2からの冷却液の排出は、第2ケーシング部材102に設けられた冷却液排出口154を介して行うことができる。更に、冷却液の供給は、図1に示すように冷却液ポンプP2を用いて行うことができる。そして、これら冷却液ポンプP2、冷却液供給口153および冷却液排出口154は、第2空間S2に冷却液を流通する冷却液流通機構として機能する。
なお、低沸点媒体と相溶する媒体(冷却液)としては、例えば低沸点媒体としてアンモニアと水との混合物を用いた場合には、水を用いることができる。
【0034】
そして、上記バイナリー発電システム10によれば、タービンTのケーシング100内にメカニカルシール部材141,142,143を設けているので、低沸点媒体の蒸気がバイナリー発電システム10から外部へと漏れ出すのを抑制することができる。
また、バイナリー発電システム10では、ケーシング100の第1空間S1内に液状の低沸点媒体を流通させているので、メカニカルシール部材のみでは低沸点媒体の蒸気の漏出を防止できなかった場合であっても、低沸点媒体の蒸気をケーシング内で凝縮させることができる。従って、低沸点媒体の蒸気がバイナリー発電システムから外部へと漏れ出すのを防止することができる。
【0035】
なお、このバイナリー発電システム10では、媒体供給ライン13および媒体返送ライン14を設けて、循環系統11内を流れる液状の低沸点媒体を第1空間S1内に流通させている。従って、第1空間S1内に冷却液などの低沸点媒体とは組成が異なる媒体を流通させた場合とは異なり、第1空間S1内に流通させている流体(低沸点媒体)が第1メカニカルシール部材141と回転軸110の外周面との間の隙間から循環系統11内に流出しても、循環系統11内の低沸点媒体の組成が変化するのを抑制することができる。そして、その結果、低沸点媒体の組成の変化に起因してバイナリー発電システムの性能が低下するのを抑制することができる。そのため、このバイナリー発電システム10では、第1空間S1内に流通させる液状の低沸点媒体の圧力を、タービンTの羽根121に噴き付けられた低沸点媒体蒸気の圧力よりも高い圧力にし、第1空間S1内に流通させている流体を循環系統11内に流出させた場合であっても、バイナリー発電システムの性能が低下するのを抑制することができる。なお、第1空間S1内に流通させる液状の低沸点媒体の圧力を低沸点媒体蒸気の圧力よりも高くした場合、循環系統11内からケーシング100内への低沸点媒体蒸気の流入を抑制することができる。また、第1メカニカルシール部材141の内周面と回転軸110の外周面との間に液状の低沸点媒体を供給して、シール面での摩擦により第1メカニカルシール部材141が損傷するのを抑制することもできる。
因みに、このバイナリー発電システム10では、媒体供給ライン13が媒体送液ポンプP1と蒸発器3との間で循環系統11から分岐しているので、追加のポンプなどを設けることなく、高圧の低沸点媒体を第1空間S1内に供給して低沸点媒体の蒸気の漏出を確実に防止することができる。
【0036】
また、冷却液などの低沸点媒体とは組成が異なる媒体を第1空間S1内に流通させた場合には、循環系統11内から第1空間S1側へと低沸点媒体蒸気が流入した際に、低沸点媒体蒸気の有する熱量を有効に活用することができず、廃棄しなければならない。しかし、このバイナリー発電システム10では、第1空間S1に液状の低沸点媒体を流通させると共に、媒体返送ライン14を設けて低沸点媒体を循環系統11内へと戻しているので、第1空間S1内へと流入した低沸点媒体蒸気の有する熱量を有効に利用することもできる。
【0037】
更に、バイナリー発電システム10では、ケーシング100内に第2空間S2を形成して、低沸点媒体とは異なる組成を有し、且つ、低沸点媒体と相溶する媒体よりなる冷却液を第2空間S2に流通させている。従って、回転軸110の外周面と第2シーリング部材142との間の隙間から第1空間S1内の低沸点媒体が回転軸110の軸線方向他方側に向かって流出しても、低沸点媒体がケーシング100の外部(例えば、大気中)へと漏れ出すのを抑制することができる。従って、バイナリー発電システムからの低沸点媒体の漏れ出しを確実に抑制することができる。因みに、冷却液に相溶した低沸点媒体は、所定の方法により処理してもよいし、濃度が十分に低ければ、そのまま廃棄処分してもよい。
【0038】
なお、第2空間S2に冷却液を流通させる場合、冷却液ポンプP2を用いて冷却液を第2空間S2へと供給する供給圧力は、第1空間S1内を流れる液状の低沸点媒体の圧力よりも低くすることが好ましい。即ち、バイナリー発電システム10では、冷却液ポンプP2の吐出圧力は、媒体送液ポンプP1の吐出圧力よりも低いことが好ましい。低沸点媒体とは異なる組成を有する冷却液を第2空間S2に高圧で流通させた場合、第2メカニカルシール部材142と回転軸110の外周面との間の隙間を介して第2空間S2内から第1空間S1内へと冷却液が流出し、循環系統11内を流れる低沸点媒体の組成が変化する虞がある。従って、第2空間S2内への冷却液の供給圧力を、第1空間S1内を流れる液状の低沸点媒体の圧力よりも低くすれば、低沸点媒体の組成の変化を抑制して、バイナリー発電システムの性能の低下を確実に抑制することができる。
【0039】
以上、一例を用いて本発明のバイナリー発電システムについて説明したが、本発明のバイナリー発電システムは、上記一例に限定されることはなく、本発明のバイナリー発電システムには、適宜変更を加えることができる。
具体的には、本発明のバイナリー発電システムは、流体加熱器や蒸気加熱器を有していなくてもよい。また、本発明のバイナリー発電システムのタービンは、羽根車を回転軸の中央部に固定し、羽根車の軸線方向両側に、メカニカルシール部材を備え、且つ、冷却液が流通されるケーシングを設けた構造(即ち、回転軸を両側で支持する構造)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、低沸点媒体の組成の変化による性能の低下を抑制しつつ、低沸点媒体の蒸気の外部への漏出を防止することができるバイナリー発電システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 低沸点媒体タンク
2 再生熱交換器
3 蒸発器
4 流体加熱器
5 分離器
6 蒸気加熱器
7 吸収器
8 凝縮器
9 発電機
10 バイナリー発電システム
11 循環系統
12 蒸発残液ライン
13 媒体供給ライン
14 媒体返送ライン
T タービン
P1 媒体送液ポンプ
P2 冷却液ポンプ
100 ケーシング
101 第1ケーシング部材
102 第2ケーシング部材
103 第3ケーシング部材
110 回転軸
120 羽根車
121 羽根
122 噴出ノズル
131,132 軸受
141 第1メカニカルシール部材
142 第2メカニカルシール部材
143 第3メカニカルシール部材
151 低沸点媒体供給口
152 低沸点媒体排出口
153 冷却液供給口
154 冷却液排出口
S1 第1空間
S2 第2空間
図1
図2