特許第6074329号(P6074329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074329
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】磁性流体シール付き軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20170123BHJP
   F16J 15/43 20060101ALI20170123BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20170123BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   F16C33/78 Z
   F16J15/43
   F16C19/06
   F16C33/32
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-137301(P2013-137301)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-10674(P2015-10674A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】小原 武恵
(72)【発明者】
【氏名】永田 真一郎
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−033222(JP,A)
【文献】 特開昭60−205018(JP,A)
【文献】 実開平02−076224(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/06
F16C 33/32
F16J 15/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体から成る内輪と、磁性体から成る外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動可能に介挿される転動体とを有する軸受本体と、
前記軸受本体に一体に保持され、前記内輪または前記外輪との間で磁気回路を形成して前記軸受本体の内部をシールする磁性流体シールと、
を備え、
前記磁性流体シールは、
前記軸受本体の軸方向に磁極が向くように着磁されて、前記内輪と前記外輪の開口側に配設されるリング状の磁石と、
前記磁石を前記転動体に対向させるように前記磁石の軸方向外側面に取着されるとともに、前記内輪側のその内面及び前記外輪側のその外面のいずれか一方を固定側として他方に隙間を形成する、前記磁石と略同一形状のリング状の極板と、
少なくとも前記隙間に保持される磁性流体と
を有し、
前記軸受本体の前記転動体が非磁性体から成ることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項2】
前記磁性流体は、
前記外輪と前記極板との間、及び/又は、前記外輪と前記磁石との間に保持される外輪側磁性流体と、
前記内輪と前記極板との間、及び/又は、前記内輪と前記磁石との間に保持される内輪側磁性流体と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項3】
前記極板は、前記外輪の端面及び前記内輪の端面から窪んだ状態で位置付けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項4】
前記内輪の端面には前記軸方向に対して垂直な面を含む段差が形成され、前記垂直な面の径方向肉厚は、前記内輪側にある前記極板の前記内面から前記段差によって形成される内側エッジまでの前記隙間よりも大きく設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項5】
前記極板の軸方向の厚さの範囲内に前記内側エッジが位置されることを特徴とする請求項4に記載の磁性流体シール付き軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の動力伝達機構に配設され、回転軸を回転自在に支持すると共に、内部に埃や水分などの異物が侵入しないようにする磁性流体シール付きの軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種の駆動力伝達機構に設置される回転軸は、軸受を介して回転自在に支持されている。この場合、軸受は、内輪と外輪との間に周方向に沿って複数の転動体(転がり部材)を収容した、いわゆるボールベアリング(玉軸受)を用いることが多く、このようなタイプの軸受を用いることで、回転軸の回転性能の向上を図っている。
【0003】
このような軸受は、様々な駆動装置における駆動力伝達機構の回転軸の支持手段として用いられるが、駆動装置によっては、軸受部分を通過して、内部に埃、水分等の異物の侵入を防止したいことがある。また、軸受そのものに異物が侵入すると、回転性能が劣化したり、異音が生じる等の問題が生じる。このような問題の対策として、軸受に近接する回転軸の外周に、弾性材からなるシール部材を接触させて軸受部分の防水、防塵を図ることが行われているが、弾性材からなるシール部材の接触圧の影響で、回転軸の回転性能が低下してしまう。
【0004】
そこで、回転軸の回転性能を低下させることなく、軸受部分に対する異物の侵入防止を図る構成として、磁性流体を用いた磁性流体シール機構を備えた軸受(磁性流体シール付き軸受と称する)が知られている。例えば、特許文献1には、外輪と内輪との間に転動体を保持したボールベアリングに関し、相対回転する外輪と内輪との間に磁性体を介在するとともに、磁性体の一方側を固定し、他方側のシール隙間に磁性流体を配設した構成が開示されている。
【0005】
具体的には、内輪と外輪と転動体とから成る軸受本体に、内輪または外輪との間で磁気回路を形成して軸受本体の内部をシールする磁性流体シールが一体に保持され、磁性流体シールは、内輪または外輪との間で磁気回路を形成する磁石と、該磁石を保持する保持板と、内輪または外輪と保持板との間に保持される磁性流体とから成る。
【0006】
すなわち、内輪と外輪との間に磁性体を配設して転動体を閉塞するとともに、磁性体の一方側を固定し、他方側のシール隙間に磁性流体を配設することで、転動体を密閉状態にシールし、回転性能に影響を与える転動体部分への異物の侵入を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記した特許文献1に開示されている磁性流体シール付き軸受によれば、一般に転動体がSUS440Cなどの磁性を有する材料によって形成されているため、転動体が磁性流体シールを構成する磁石の影響を受け、転動体の動きが悪くなるという問題がある。すなわち、磁力によって転動体が内外輪に引き付けられるため、転動体の転がりが滑らかになりにくい(回転トルクが大きくなる)という問題がある。
【0009】
このように、上記した磁性流体シール付き軸受においては、シール性能を従来の軸受に比べて格段に向上できる一方で、転動体が磁石の影響を受けて回転トルクが大きくなる、すなわち、回転し難くなるという問題を内在している。
【0010】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、回転トルクの軽減を図って、転動体の滑らかな転がりを実現できる磁性流体シール付き軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明の磁性流体シール付き軸受は、磁性体から成る内輪と、磁性体から成る外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動可能に介挿される転動体とを有する軸受本体と、 前記軸受本体に一体に保持され、前記内輪または前記外輪との間で磁気回路を形成して前記軸受本体の内部をシールする磁性流体シールとを備え、前記磁性流体シールは、前記軸受本体の軸方向に磁極が向くように着磁されて、前記内輪と前記外輪の開口側に配設されるリング状の磁石と、前記磁石を前記転動体に対向させるように前記磁石の軸方向外側面に取着されるとともに、前記内輪側のその内面及び前記外輪側のその外面のいずれか一方を固定側として他方に隙間を形成する、前記磁石と略同一形状のリング状の極板と、少なくとも前記隙間に保持される磁性流体とを有し、前記軸受本体の前記転動体が非磁性体から成ることを特徴とする。
【0012】
上記した構成によれば、転動体が非磁性体から形成されるため、転動体が磁性流体シールの磁石からの磁力の影響を受けず、したがって、回転トルクの軽減を図って、転動体の滑らかな転がりを実現できる。転動体を非磁性体にする利点は、特に、磁石が極板を介することなく転動体と直接に対向するような配置形態など、磁石の影響が転動体に直接に及ぶような状況(このような状況で、転動体が磁性体であると、転動体が磁石の磁力を直接に受け、転動体の回転がかなり重くなる)において大きい。また、転動体を非磁性体にすると、転動体をセラミック等の軽量の材料から形成することができ、そのため、軸受全体の軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転トルクの軽減を図って、転動体の滑らかな転がりを実現できる磁性流体シール付き軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った断面図。
図2図1の要部拡大図。
図3】第1実施形態の変形例を示す図。
図4】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第2の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った断面図。
図5図4の要部拡大図。
図6】本発明に係る磁性流体シール付き軸受を適用できるスピニングリールの一部断面を有する側面図。
図7】本発明に係る磁性流体シール付き軸受を適用できる両軸受型リールの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明に係る磁性流体シール付き軸受の実施形態について説明する。
図1及び図2は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、図1は軸方向に沿った断面図、図2図1の要部拡大図である。
【0016】
本実施形態に係る磁性流体シール付き軸受(以下、軸受とも称する)1は、円筒状の内輪3と、これを囲繞する円筒状の外輪5と、前記内輪3と外輪5との間に介装される複数の転動体(転がり部材)7とから成る軸受本体を備えている。前記転動体7は、周方向に延出するリテーナ(保持器)8に保持されており、内輪3と外輪5を相対的に回転可能としている。
【0017】
内輪3および外輪5は、磁性を有する材料、例えばクロム系ステンレス(SUS440C)によって形成されており、リテーナ8は、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)によって形成されている。また、転動体7は、非磁性材料、例えばセラミック(窒化珪素、アルミナ、ジルコニア、SiCなど)、非磁性鋼(オーステナイトステンレス鋼、チタン、チタン合金、超硬材(タングステンカーバイト等)など)、銅合金、プラスチックなどから形成される。また、本実施形態の外輪5は、その露出端面5aが、内輪3の露出端面3aと同一面(略同一面)上となるように構成されているが、いずれか一方が他方より長く形成されていてもよい。
【0018】
内輪3と外輪5の開口側には、以下に詳述する磁性流体シール10が設置されている。この磁性流体シール10は、後述するように、軸受本体に一体に保持され(軸受本体と一体化されて軸受本体と共にユニットとして構成されてもよい)、内輪3または外輪5との間で磁気回路を形成して軸受本体の内部をシールするものであり、具体的には、内輪3または外輪5との間で磁気回路を形成する磁石と、該磁石を保持する極板と、内輪3または外輪5と前記極板及び/又は前記磁石との間に保持される磁性流体とから成る。なお、本実施形態では、内輪3と外輪5の両側の開口に、同じ構成の磁性流体シール10が配設されているため、以下の説明では、片側の構成(図1の左側)について説明する。
【0019】
磁性流体シール10は、リング状に構成された磁石(以下、磁石と称する)12と、磁石12の軸方向外側面に接して配置されるリング状の極板(以下、極板と称する)14と、前記磁石12によって形成される磁気回路に保持される磁性流体(外輪側磁性流体15a、内輪側磁性流体15b)と、を有しており、これらの部材により、前記転動体7内に、埃、水分等が侵入しないようにシールする機能を有している。
【0020】
なお、本実施形態において、磁性流体は、外輪側および内輪側の2か所に設けられるが、いずれか1か所にのみ設けられても構わない。また、本実施形態では、極板14が磁石12の片側(軸方向外側)にのみ設けられているが、磁石12の両側に極板14が設けられ(極板14が磁石12を両側から保持し)てもよい。
【0021】
磁石12は、極板14に対して転動体7に対向する(極板14が磁石12の一方側を保持し、磁石12の他方側が転動体7と対向する)ように取着されており、極板14は、内輪側の内面、及び外輪側の外面のいずれか一方を固定側としている。なお、本実施形態の磁石12は、予め極板14に接着された状態となっており、その内周面12aが極板14の内周面14aから突出しない大きさに形成されている。
【0022】
前記磁石12としては、磁束密度が高く、磁力が強い永久磁石、例えば、焼結製法によって作成されるネオジム磁石を用いることができ、図2に示すように、予め軸方向(軸受の軸芯方向X)に磁極(S極、N極)が向くように着磁されている。また、磁石12の軸方向外側面には、前記極板14が接するように配設される。極板14は、前記磁石12と略同一の形状となっており、磁性を有する材料、例えばクロム系ステンレス(SUS440C)によって形成されている。
【0023】
前記磁石12と極板14は、組み付け時では取着された状態にあり、本実施形態では、両部材は予め接着されているが、接着していなくても良い。この場合、両者を予め接着しておくことで、磁石12の位置決めやセンター出しが容易に行える共に、磁石12と極板14がユニット化され、後述するような組み込み作業が容易に行えるようになる。
【0024】
本実施形態の前記極板14は、その外径が外輪5の内周面に対して僅かに大きく形成されており、接着した磁石12と共に、外輪5の開口側から圧入されるようになっている。そして、磁石12を接着した極板14は、外輪5に対して圧入した際、内輪3の外面との間に隙間Gが生じる大きさに形成されている。
【0025】
前記磁石12は、従来の磁気シール機構のように、一対の極板によって挟持されるのではなく、一方の磁極側(本実施形態ではS極側)のみに極板14が配設されるため、内輪3と極板14との間の隙間Gに磁性流体を注入すると、磁性流体は、内輪3との隙間Gに溜まる(内輪側磁性流体15bを形成する)だけでなく、磁石12の表面を伝わって、圧入側にも溜まる(外輪側磁性流体15aを形成する)ことが可能となる。
【0026】
具体的には、図2に示すように、磁気回路3Mによって極板14と内輪3との間の隙間G、及び磁石12と内輪との間の隙間に保持されると共に、磁気回路5Mによって磁石12と外輪5との間に生じる微小な隙間、及び極板14と外輪5との間に生じる微小な隙間に保持されるようになる。すなわち、上記したように、磁石12を接着した極板14は、外輪5に対して圧入されるが、極板14や磁石12の寸法精度や作成誤差等の影響によって、外輪5との間で僅かに隙間が生じていても、その部分に、注入した磁性流体が流れ込むことができ、固定側においても確実なシールが形成される。
【0027】
前記注入される磁性流体(外輪側磁性流体15a、内輪側磁性流体15b)は、例えばFe34のような磁性微粒子が、界面活性剤によりベースオイルに分散させて構成されたもの(界面活性剤を磁性微粒子にまぶすことにより、ベースオイル内に分散させている)であり、粘性があって磁石を近づけると反応する特性を備えている。このため、磁性流体15a,15bは、磁石12と、磁性材料で構成される内輪3、外輪5及び極板14との間で形成される磁気回路3M,5Mによって、所定の位置に安定して保持される。この場合、磁石12の転動体7側には、極板が存在しないことから、磁性流体は容易に圧入側に移動して外輪側磁性流体15aを形成する。
【0028】
また、前記外輪5の内面には、磁石12に対して転動体7側に段差5bが形成されており、この段差5cにより、外輪5は、開口側が薄肉領域5A、転動体側が厚肉領域5Bとなって、軸方向の外側の内外輪間隔が内側よりも大きく形成されている。この段差5bは、磁性流体を保持するための隙間(段差隙間)を生じさせるように形成されるが、本実施形態では、軸方向に対して垂直な面5cとなるように形成されている(垂直な面とすることにより、磁石12を吸着して、位置決め、固定することもできる)。なお、段差については、本実施形態のように、垂直な面に限定されるものではなく、磁石12との間で磁性流体を安定して保持できるのであれば、階段状に形成されていたり、傾斜状(斜面)に形成されていても良い。この場合、斜面にすることで、磁石12の位置決め、及び磁性流体の保持が可能となる。
【0029】
前述したように、前記極板14は、その外径が外輪5の内周面(薄肉領域5Aの内周面)に対して僅かに大きく形成されており、接着した磁石12と共に、外輪5の開口側に圧入されるようになっている。また、磁石12を接着した極板14は、外輪5に対して圧入した際、内輪3の外周面との間で、所定の隙間Gが生じる大きさに形成されている。さらに、磁石12、及び極板14の軸方向長さは、両者が接着された状態で圧入された際、前記段差5bによる垂直な面5cに対して、隙間G1が生じる大きさに形成されている。
【0030】
上記したように、軸方向に磁極が向くように着磁されている磁石12を接着した極板14を外輪5に圧入すると、内輪3側、及び外輪5側では、図に示すように、軸方向に対して対称となるような磁束(磁気回路3M,5M)が形成される。このため、上記した極板14と内輪3との間の隙間G、及び磁石12と外輪5との間の隙間G1に対しては、それぞれ内輪側磁性流体15b、及び外輪側磁性流体15aを保持させることが可能となる。具体的には、前述したが、磁性流体をスポイト等の注入器具によって前記隙間Gに充填すると、磁気回路3Mによって隙間Gに保持されるとともに、そのまま隙間G1側に移動して、外輪側で形成されている磁気回路5Mによって隙間G1内にも保持されるようになる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、転動体7が非磁性体から形成されるため、転動体7が磁性流体シール10の磁石12からの磁力の影響を受けず、したがって、回転トルクの軽減を図って、転動体7の滑らかな転がりを実現できる。転動体7を非磁性体にする利点は、特に、本実施形態のように、磁石12が極板14を介することなく転動体7と直接に対向するような配置形態(極板14が磁石12の一方側を保持し、磁石12の他方側が転動体7と対向する配置形態)において大きい。仮に、このような配置形態で、転動体が磁性体であると、転動体が磁石の磁力を直接に受け、転動体の回転トルクが大きくなり、転がり難くなる。
【0032】
また、本実施形態のように転動体7を非磁性体にすると、転動体7をセラミック等の軽量の材料から形成することができ、そのため、軸受全体の軽量化を図ることができる。
【0033】
なお、転動体7を非磁性体にすることにより回転トルクの軽減が図れることは、以下の表1および表2に示される実験データからも明らかである。表1は、内径が9mmで外径が17mmの軸受(ボールベアリング)において、磁性流体シールを伴わない通常のボールベアリング(従来品)と、磁性流体シールを伴うボールベアリング(特許文献1製品)と、転動体(ボ−ル)をセラミック材料から形成した本実施形態の構成の磁性流体シール付き軸受(ボールベアリング)(本願実施品)とを回転トルクに関して比較した実験結果である。この実験では、内輪を所定の定速で回転させたときに生じる外輪の回転トルクが測定された。また、これらの3つのタイプの軸受形態では、内輪および外輪の材料(材質)としてSUS440Cが使用された。また、本実施形態の軸受形態では、転動体の材料(材質)としてセラミック(窒化珪素)が使用されたが、他の2つのタイプの軸受形態では、転動体の材料(材質)としてSUS440Cが使用された。更に、軸受にはグリスも注油された。
【0034】
この表1から分かるように、本実施形態の軸受形態(本願実施品)では、磁性流体シールを伴わない通常のボールベアリング(従来品)とほぼ同等の低い回転トルクが示された。これに対し、磁性流体シールを伴うボールベアリング(特許文献1製品)の回転トルクは、本実施形態の軸受形態(本願実施品)の回転トルクの約3倍にも達した。また、内径が7mmで外径が13mmの直径の軸受(ボールベアリング)で同様の実験を行なうと、表2に示されるように、本実施形態の軸受形態(本願実施品)の回転トルクが磁性流体シールを伴わない通常のボールベアリング(従来品)のそれと同一になった。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
また、上記した構成の軸受1によれば、磁石12や極板14を固定する側(本実施形態では、外輪5の内周面)においても、シール効果が得られるため、固定側からの粘性の低い水分や埃の転動体7側への侵入を確実に防止することができる。すなわち、従来の磁性流体シール付き軸受は、磁石や極板を固定する側について、シールの必要性を考慮しておらず、転動体へのシール効果が十分でなかったが、本実施形態のように、内輪側磁性流体15bのシールに加え、固定側となっている外輪側磁性流体15aでもシールすることから、十分なシール効果を発揮することができる。
【0038】
また、シールに際しては、1つの部材である磁石12の磁極を軸方向となるように着磁し、これを極板14に接するように配設するだけであるため、部品点数も少なく、かつ、磁石12については、精密な寸法精度を出す必要もないことから、組み込み作業が容易になり、コストを低減することができる。すなわち、寸法精度が他の部材に対し、不利である磁石を使用した場合においても、十分なシール効果を発揮することができる。
【0039】
さらに、内輪側及び外輪側の双方で、それぞれ磁性流体を保持する磁石12は、1つの部材として構成されており、1箇所からの注油作業で、同時に内輪側と外輪側に磁性流体シールを形成できるため、作業性が良好となる。
【0040】
また、本実施形態では、外輪5に段差5bを形成しているため、その段差を利用して、磁性流体を効果的に保持させるスペース(段差隙間)を形成することができ、容易にシール効果を高めることが可能となる。なお、図2では、外輪側磁性流体15aは、隙間G1に保持されているが、磁石12の外周面と外輪5の内周面との間の隙間や、極板14と外輪5の内周面との間の僅かな隙間にも浸透することができ、外輪側において十分なシール機能を発揮するようになる。
【0041】
図3は、上記した実施形態の変形例を示す図である。
図1及び図2に示した実施形態では、極板14は、径方向において同一の肉厚で構成されていたが、図3に示すように、磁性流体を保持する部分(本実施形態では、径方向内側)に向けて次第に薄肉厚となるようにテーパ状に形成しておくことが好ましい(薄肉厚部を符号14Aで示す)。
【0042】
このような構成によれば、磁性流体15bが軸方向外側(外輪、内輪の露出端面5a,3aから外側)に飛び出すことがないため、組み込み作業時において、磁性流体をふき取ってしまうことが防止され、安定した充填作業を行うことが可能となる。
【0043】
図4及び図5は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第2の実施形態を示す図であり、図4は軸方向に沿った断面図、図5図4の要部拡大図である。
【0044】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様、軸受本体を構成する転動体7が非磁性体によって形成されるが、それに加えて、本実施形態では、図示のように、前記磁石12を取着した極板14が、外輪5の端面5a、及び前記内輪3の端面3aから窪んだ状態で位置付けられている。具体的には、図5に示すように、極板14は、その開口側の端面(露出端面)14bが、外輪の端面5a、内輪の端面3aに対して、所定量Hだけ窪むように位置付けられている(これにより、磁石12と外輪5との間の軸方向の隙間G1が第1の実施形態と比べて小さくなる或いは無くなる)。
【0045】
この場合、窪み量Hは、メンテナンス等によって、外輪部分や内輪部分を指で摘まんでも、シール部分に保持されている前記磁性流体15a,15bが指に付着することが防止できる程度であれば良く、0.01〜1.0mm、好ましくは、0.05mm〜0.5mm程度あれば良い。すなわち、0.01mmよりも浅くなると、指で摘まんだ際、指に付着したり、他物と接触する傾向が強くなり、また、1.0mmよりも深くなると、軸方向長さが不要に長くなってしまい、組み込み性等に影響を及ぼし、好ましくはない。なお、内外輪の端面には、それぞれ円周方向に亘ってテーパ30,50を形成しておいても良い。このようなテーパを形成しておくことで、軸受の組み込みが行ない易くなる。
【0046】
また、本実施形態では、内輪3の端面に段差3Bが形成されている。この段差3Bは、軸方向Xに対して垂直な面3bを含んだ階段状に形成されており、前記極板14は、軸方向の厚さの範囲内(A点とB点の間)に、段差3Bによって形成される内側エッジ3b´が位置するように圧入されている。すなわち、このような階段状の段差3Bを形成したことにより、磁性流体15bは、極板14の端面14bから盛り上がることなく、窪んだ位置にある垂直な面3bとの間で保持されるようになる。この場合、内側エッジ3b´の位置C点が、B点より下方になってしまうと、極板14と内輪との間に磁性流体が十分に保持されなくなってしまう。また、内側エッジ3b´の位置C点が、A点より上方になってしまうと、磁性流体が盛り上がってしまい、外輪部分や内輪部分を指で摘まんだ際、指に付着し易くなってしまう。
【0047】
上記した段差3Bの構成では、その垂直な面3bの径方向肉厚Dは、前記隙間G(極板14の端面14aから内側エッジ3b´までの隙間)より大きく設定しておくことが好ましい。すなわち、径方向肉厚Dの厚さについては、特に限定されることはないが、ある程度距離を取っておく(隙間Gよりも大きく設定しておく)ことにより、磁性流体15bの盛り上がりを抑制することができ、内輪の端部領域に指が触れた際、その指に磁性流体が付着するのを効果的に防止することができるようになる。
【0048】
本実施形態においても、前述したように、軸方向に磁極が向くように着磁されている磁石12を接着した極板14を外輪5に圧入すると、内輪3側、及び外輪5側では、図に示すように、軸方向に対して対称となるような磁束(磁気回路3M,5M)が形成される。このため、上記した隙間G部分にスポイト等の注入器具によって磁性流体を注入すると、磁気回路3Mによって隙間Gに保持されて内輪側磁性流体15bを形成するとともに、その磁性流体は、磁石12の表面を伝わり、磁気回路5Mによって外輪5側における磁石部分(磁石12と垂直な面5cとの間)や極板部分の隙間に溜まって外輪側磁性流体15aを形成する。
【0049】
このため、磁石12や極板14を固定する側(本実施形態では、外輪5の内周面側)においても、シール効果が得られるため、固定側からの粘性の低い水分や埃の転動体7側への侵入を確実に防止することができる。すなわち、従来の磁性流体シール付き軸受は、磁石や極板を固定する側について、シールの必要性を考慮しておらず、転動体へのシール効果が十分でなかったが、本実施形態のように、内輪側磁性流体15bのシールに加え、固定側となっている外輪側磁性流体15aでもシールすることから、十分なシール効果を発揮することができる。この場合、内輪側磁性流体15bは、内輪3と極板14との間、及び/又は、内輪3と磁石12との間に保持されていれば良い。また、外輪側磁性流体15aは、外輪5と極板14との間、及び/又は、外輪5と磁石12との間に保持されていれば良い。
【0050】
また、内輪側及び外輪側の双方で、それぞれ磁性流体を保持する磁石12は、1つの部材として構成されており、1箇所からの注油作業で、同時に内輪側と外輪側に磁性流体シールを形成できるため、作業性が良好となる。特に、本実施形態では、極板14は、その開口側の端面(露出端面)14aが、外輪の端面5a、及び、内輪の端面3aに対して所定量Hだけ窪むように位置付けられているため、注入作業時やメンテナンス作業時等、指や作業具等が磁性流体に触れることが防止され、これにより、取扱性の向上が図れるとともに、磁性流体の流出が防止され、シール性が弱くなることはない。
【0051】
なお、上述した実施形態、及び変形例の構成では、内輪3及び外輪5の表面に、電解クロム酸処理を施しておくことが好ましい。このように電解クロム酸処理を施しておくことで、錆や腐食によって表面に亀裂や裂けが生じることが防止でき、埃や異物が内部に侵入して行くことを確実に防止することが可能となる。
【0052】
また、上記した構成では、開口側に配設される極板14の軸方向外側の表面に、軸方向外方からリング状のシールド(密閉カバー)を圧入固定しておいても良い。このようなシールドは、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)や樹脂等によって形成することが可能であり、このようなシールドを配設することで、異物の侵入をより効果的に防止できると共に、砂鉄のような磁性物(異物)が磁石12に付着することを効果的に防止することができる。
【0053】
さらに、上記した構成では、磁石12と外輪5の段差5bの垂直な面5cとの間に、薄肉厚のワッシャや位置決めのためのスペーサ部材を配設しても良い。このようなワッシャやスペーサを配設することにより、寸法管理が簡略化され、より組み込み性の向上を図ることが可能となる。なお、これらのワッシャやスペーサは、安定した磁気回路が形成されるように、磁性体で形成されていることが好ましい。
【0054】
上述したように構成される磁性流体シールを具備した軸受については、防塵性、防水性が要求される様々な装置の回転軸部分に設置することが可能であり、特に、塩分を有する(海水)環境下では、過酷な条件になると考えられる。すなわち、海水は、粘度が低いことから、僅かな隙間から侵入し易く、かつ、侵入した後、乾燥すると、塩分が結晶化して残存し、このような結晶が、転動体部分に付着すると回転性能が著しく低下してしまうからである。
【0055】
このため、上述した実施形態の軸受については、海辺や海上で使用される各種魚釣用リールにおける動力伝達部分の駆動軸部分に配設することで、駆動軸部分を長期に亘って安定して支持することが可能である。
例えば、上述した実施形態の軸受を、スピニングリールのハンドルによって回転駆動される回転軸部分(例えばピニオン軸など)、両軸受型リールのスプール軸部分に配設することが好ましい。また、上述した実施形態の軸受を一方向クラッチベアリングにも適用できる。
【0056】
例えば、上述した実施形態の軸受を、図6に示すような魚釣用スピニングリール60のハンドル軸61、ピニオン軸62等のハンドル回転操作によって回転駆動される回転軸部分(軸受63を上述した磁性流体シール付き軸受で構成する)に配設したり、或いは、スプール64に釣糸を案内するラインローラ65の支持部分にも配設できる。また、図7に示すような両軸受型リール70の場合には、ハンドル軸71の軸受72、ピニオン軸73の軸受74等を上述した磁性流体シール付き軸受で構成することができる。特に、リール本体の左右側板75A,75B間に回転自在に支持され、クラッチ機構76で巻取動力伝達状態がON/OFFされるスプール軸78部分を支持する軸受80部分に配設することができる。特に、上述した実施形態の磁性流体シール付き軸受は、(転動体が磁石の影響を受けることなく)スムーズな軸受の回転性能が得られるので、フリー回転性能が要求される両軸受型リールのスプール軸の軸受部分に使用することが可能となり、魚釣用リールの軸受の適用範囲が広がる。また、上述したタイプの軸受の磁性流体シールは、一方向ベアリング90にも適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 磁性流体シール付き軸受
3 内輪
5 外輪
7 転動体
10 磁性流体シール
12 磁石
14 極板
15a 外輪側磁性流体
15b 内輪側磁性流体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7