特許第6074410号(P6074410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6074410分離膜の製造方法、及び分離膜複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074410
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】分離膜の製造方法、及び分離膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/04 20060101AFI20170123BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20170123BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   B01D69/04
   B01D69/10
   B01D71/02
【請求項の数】18
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-504732(P2014-504732)
(86)(22)【出願日】2013年2月1日
(86)【国際出願番号】JP2013052366
(87)【国際公開番号】WO2013136869
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2015年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-60907(P2012-60907)
(32)【優先日】2012年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】和田 一朗
(72)【発明者】
【氏名】酒井 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】市川 明昌
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀之
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−099559(JP,A)
【文献】 特開2010−227767(JP,A)
【文献】 特開2006−021128(JP,A)
【文献】 特開平04−059055(JP,A)
【文献】 特開平08−025029(JP,A)
【文献】 特開2007−160149(JP,A)
【文献】 特開2010−089000(JP,A)
【文献】 特表2011−502750(JP,A)
【文献】 特開2003−080041(JP,A)
【文献】 特開2008−161799(JP,A)
【文献】 特開2009−006205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状の多孔質のモノリス基材の前記セル内に、ディップ製膜法によって分離膜の前駆体溶液を通すことにより、前記セルの表面に、前記前駆体溶液からなる分離膜前駆体を形成する製膜工程と、
前記製膜工程の後に行われる工程であって、前記モノリス基材の前記第一の端面又は前記第二の端面における前記セルの開口部から、前記分離膜前駆体を製膜した前記セル内を吸引するセル吸引工程と、
前記セル内を吸引した前記モノリス基材の前記セルの表面に製膜された前記分離膜前駆体を乾燥させる乾燥工程と、を備えた分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記セル吸引工程において、前記モノリス基材の前記第一の端面における前記セルの開口部が鉛直方向の下向きに開口するように、前記モノリス基材を前記セルの延びる方向が鉛直となるように配置し、前記モノリス基材の前記第一の端面における前記セルの前記開口部から、前記セル内を吸引する請求項1に記載の分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記セル吸引工程において、前記モノリス基材を前記セルの延びる方向が鉛直となるように配置し、その状態を60分以下の時間保持した後に、前記モノリス基材の前記第一の端面における前記セルの前記開口部から、前記セル内を吸引する請求項2に記載の分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記製膜工程において、前記セル内に付着した前記前駆体溶液の質量に対する、前記セル吸引工程において、前記セル内から吸引される前記前駆体溶液の質量の割合が、0.5〜2.5%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程が、前記セル内に熱風を通過させる通風乾燥を行って、前記分離膜前駆体を乾燥させるものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記製膜工程、前記セル吸引工程及び前記乾燥工程を一組の工程として、前記一組の工程を、2回以上繰り返して行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程によって乾燥させた前記分離膜前駆体を、熱分解して炭化させることにより分離膜を得る炭化工程を更に備えた請求項1〜6のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体溶液が、ポリアミド酸溶液である請求項1〜7のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程において、前記分離膜前駆体を乾燥させるとともにイミド化させる請求項8に記載の分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記モノリス基材の外周面の少なくとも一部にシールを施した後、前記製膜工程を行う請求項1〜9のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記製膜工程において、送液ポンプを使用し、前記前駆体溶液を、前記モノリス基材の端面から0.3〜300cm/minの速度で送入する請求項1〜10のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項12】
前記セル吸引工程において、前記モノリス基材の前記第一の端面の1cm当たりに要する吸引時間が、0.1〜3分である請求項1〜11のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記セル吸引工程において、吸引ポンプに接続された管状部材の一端を、前記モノリス基材の前記第一の端面に押し当て、吸引箇所を変えながら、前記第一の端面に開口した全てのセル内を順次吸引する請求項1〜12のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記製膜工程における前記分離膜前駆体を導入する側の前記モノリス基材の端面と、前記セル吸引工程における前記セル内を吸引する前記モノリス基材の端面とが、共に同じ端面である請求項1〜13のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法。
【請求項15】
第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状の多孔質のモノリス基材の前記セル内に、請求項1〜14のいずれか一項に記載の分離膜の製造方法によって分離膜を作製して、前記モノリス基材と前記分離膜とを備えた分離膜複合体を製造する分離膜複合体の製造方法。
【請求項16】
前記分離膜複合体が、第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状の多孔質のモノリス基材と、前記セルの表面に配設された分離膜と、を備え、
前記分離膜の厚さが5μm以上の厚膜部を有しない前記セルの個数の割合が、全ての前記セルの個数に対して、80%以上である請求項15に記載の分離膜複合体の製造方法。
【請求項17】
前記分離膜が、炭素膜である請求項16に記載の分離膜複合体の製造方法。
【請求項18】
前記セルの表面に配設された前記分離膜の平均厚さが、0.1〜3μmである請求項16又は17に記載の分離膜複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜の製造方法、及び分離膜複合体の製造方法に関する。更に詳しくは、分離膜の厚さが部分的に厚くなる厚膜部の発生を有効に抑制することが可能な分離膜の製造方法、分離膜複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護や廃材の有効利用といった観点から、バイオマス技術を利用したエタノールの生産が注目を集めている。従来、このようなバイオマス技術によって生産されたエタノールを回収する方法として、ゼオライト膜の選択透過性を利用した方法が知られている。これは、木質系バイオマスから得られた水とエタノールとを含有する液体混合物をゼオライト膜に接触させ、水だけを選択的に透過させることで、エタノールと水とを分離するものである。
【0003】
ところで、木質系バイオマスから得られる液体混合物には、水とエタノールの他に、酢酸等の有機酸も混在しているが、一般にゼオライト膜は耐酸性が低いため、有機酸による分離性能の低下や早期劣化が懸念される。
【0004】
そこで、最近では、従来、主に気体混合物からの特定成分の分離に使用されてきた炭素膜を、水とエタノール等の有機溶剤との分離に利用する研究も行われている。炭素膜はゼオライト膜に比べて耐酸性に優れており、有機酸の存在下においても長期に渡って安定した分離性能を発揮する。こうした目的で用いられる炭素膜の代表的な使用形態として、多孔質のモノリス基材に形成されたセルの表面に炭素膜が配設されたものが知られている。
【0005】
このような分離膜の製造方法として、例えば、以下のような炭素膜の製造方法を挙げることができる。まず、多孔質のモノリス基材に形成された複数のセル内に、分離膜の前駆体溶液を通すことにより、セルの表面に分離膜前駆体を製膜する。分離膜前駆体としては、例えば、ポリアミド酸膜を挙げることができる。次に、モノリス基材を乾燥機内に入れて、分離膜前駆体を乾燥させる。その後、乾燥させた分離膜前駆体を、窒素雰囲気等の還元雰囲気下にて熱分解することにより炭化させ、炭素膜とする(例えば、特許文献1参照)。分離膜前駆体を製膜する工程において、複数のセル内に、分離膜の前駆体溶液を通す方法を、ディップ製膜法ということがある。
【0006】
また、分離膜の製造方法としては、分離膜前駆体の乾燥を、セル内に熱風を通過させる通風乾燥によって行う分離膜の製造方法も提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。このような従来の分離膜の製造方法においては、分離膜前駆体を製膜する工程と、分離膜前駆体を乾燥する工程とを、複数回繰り返して行って、所望の分離性能を有する分離膜が製造される。以下、分離膜前駆体を製膜する工程を、「製膜工程」ということがある。分離膜前駆体を乾燥する工程を、「乾燥工程」ということがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−286018号公報
【特許文献2】国際公開第2008/078442号
【特許文献3】特開2010−89000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の分離膜の製造方法においては、得られる分離膜の厚さが部分的に厚くなってしまうことがあるという問題があった。特に、上述したディップ製膜法の製膜工程を行った場合に、モノリス基材の片側の端部側に、前駆体溶液が片寄って製膜されてしまい、得られる分離膜の厚さが部分的に厚くなってしまうという問題が極めて頻繁に発生する。以下、分離膜の厚さが部分的に厚くなってしまう部分を、厚膜部ということがある。分離膜にこのような厚膜部が存在すると、この厚膜部からクラックが生じ易くなってしまう。また、モノリス基材のセルの表面に分離膜が配設されている場合に、分離膜が厚膜部から剥がれ易くなってしまう。分離膜にクラックが生じたり、分離膜がモノリス基材から剥がれてしまったりするという欠陥が生じると、その欠陥部分の真空度が、他の健全な部分と比較して悪くなってしまう。また、分離膜に欠陥部分が生じると、分離膜の分離性能も悪くなってしまう。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、分離膜の厚さが部分的に厚くなる厚膜部の発生を有効に抑制することが可能な分離膜の製造方法、及び分離膜複合体の製造方法を提供する。また、本発明は、このような分離膜の製造方法によって得られた分離膜を備えた分離膜複合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下の分離膜の製造方法、分離膜複合体の製造方法が提供される。
【0011】
[1] 第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状の多孔質のモノリス基材の前記セル内に、ディップ製膜法によって分離膜の前駆体溶液を通すことにより、前記セルの表面に、前記前駆体溶液からなる分離膜前駆体を形成する製膜工程と、前記製膜工程の後に行われる工程であって、前記モノリス基材の前記第一の端面又は前記第二の端面における前記セルの開口部から、前記分離膜前駆体を製膜した前記セル内を吸引するセル吸引工程と、前記セル内を吸引した前記モノリス基材の前記セルの表面に製膜された前記分離膜前駆体を乾燥させる乾燥工程と、を備えた分離膜の製造方法。
【0012】
[2] 前記セル吸引工程において、前記モノリス基材の前記第一の端面における前記セルの開口部が鉛直方向の下向きに開口するように、前記モノリス基材を前記セルの延びる方向が鉛直となるように配置し、前記モノリス基材の前記第一の端面における前記セルの前記開口部から、前記セル内を吸引する前記[1]に記載の分離膜の製造方法。
【0013】
[3] 前記セル吸引工程において、前記モノリス基材を前記セルの延びる方向が鉛直となるように配置し、その状態を60分以下の時間保持した後に、前記モノリス基材の前記第一の端面における前記セルの前記開口部から、前記セル内を吸引する前記[2]に記載の分離膜の製造方法。
【0014】
[4] 前記製膜工程において、前記セル内に付着した前記前駆体溶液の質量に対する、前記セル吸引工程において、前記セル内から吸引される前記前駆体溶液の質量の割合が、0.5〜2.5%である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
【0015】
[5] 前記乾燥工程が、前記セル内に熱風を通過させる通風乾燥を行って、前記分離膜前駆体を乾燥させるものである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
【0016】
[6] 前記製膜工程、前記セル吸引工程及び前記乾燥工程を一組の工程として、前記一組の工程を、2回以上繰り返して行う前記[1]〜[5]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
【0017】
[7] 前記乾燥工程によって乾燥させた前記分離膜前駆体を、熱分解して炭化させることにより分離膜を得る炭化工程を更に備えた前記[1]〜[6]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
【0018】
[8] 前記前駆体溶液が、ポリアミド酸溶液である前記[1]〜[7]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
【0019】
[9] 前記乾燥工程において、前記分離膜前駆体を乾燥させるとともにイミド化させる前記[8]に記載の分離膜の製造方法。
【0020】
[10] 前記モノリス基材の外周面の少なくとも一部にシールを施した後、前記製膜工程を行う前記[1]〜[9]のいずれかに記載の分離膜の製造方法
11] 前記製膜工程において、送液ポンプを使用し、前記前駆体溶液を、前記モノリス基材の端面から0.3〜300cm/minの速度で送入する前記[1]〜[10]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
12] 前記セル吸引工程において、前記モノリス基材の前記第一の端面の1cm当たりに要する吸引時間が、0.1〜3分である前記[1]〜[11]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
13] 前記セル吸引工程において、吸引ポンプに接続された管状部材の一端を、前記モノリス基材の前記第一の端面に押し当て、吸引箇所を変えながら、前記第一の端面に開口した全てのセル内を順次吸引する前記[1]〜[12]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
14] 前記製膜工程における前記分離膜前駆体を導入する側の前記モノリス基材の端面と、前記セル吸引工程における前記セル内を吸引する前記モノリス基材の端面とが、共に同じ端面である前記[1]〜[13]のいずれかに記載の分離膜の製造方法。
【0021】
15] 第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状の多孔質のモノリス基材の前記セル内に、前記[1]〜[14]のいずれかに記載の分離膜の製造方法によって分離膜を作製して、前記モノリス基材と前記分離膜とを備えた分離膜複合体を製造する分離膜複合体の製造方法。
【0022】
16] 前記分離膜複合体が、第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状の多孔質のモノリス基材と、前記セルの表面に配設された分離膜と、を備え、前記分離膜の厚さが5μm以上の厚膜部を有しない前記セルの個数の割合が、全ての前記セルの個数に対して、80%以上である前記[15]に記載の分離膜複合体の製造方法。
【0023】
17] 前記分離膜が、炭素膜である前記[16]に記載の分離膜複合体の製造方法。
【0024】
18] 前記セルの表面に配設された前記分離膜の平均厚さが、0.1〜3μmである前記[16]又は[17]に記載の分離膜複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の分離膜の製造方法及び分離膜複合体の製造方法によれば、分離膜の厚さが部分的に厚くなる厚膜部の発生を有効に抑制することができる。即ち、本発明の分離膜の製造方法においては、製膜工程の後に、モノリス基材の第一の端面又は第二の端面におけるセルの開口部から、分離膜前駆体を製膜したセル内を吸引するセル吸引工程を備えている。このセル吸引工程により、セルの表面に部分的に厚く塗布された余剰の前駆体溶液を吸引して、均一な膜厚の分離膜前駆体を得ることができる。これにより、分離膜の厚さが部分的に厚くなる厚膜部の発生を有効に抑制することできる。
【0026】
また、本発明の分離膜複合体の製造方法によって製造された分離膜複合体は、第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状の多孔質のモノリス基材と、モノリス基材のセルの表面に配設された分離膜と、を備えたものである。そして、この分離膜複合体は、分離膜の厚さが5μm以上の厚膜部を有しないセルの個数の割合が、全てのセルの個数に対して、80%以上である。分離膜複合体は、セルの表面から分離膜が剥がれ難く、且つ、分離膜にクラック等の破損も生じ難い。また、上述したような分離膜の剥がれやクラック等の欠陥が生じ難いため、分離膜の分離性能が低下し難く、良好な分離性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態に用いられるモノリス基材を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態における製膜工程の一例を模式的に示す説明図である。
図3】製膜工程によって得られた、分離膜前駆体が製膜されたモノリス基材を模式的に示す斜視図である。
図4】本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態におけるセル吸引工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図5A】セル吸引工程において、セル内を順次吸引する工程を説明するための説明図である。
図5B】セル吸引工程において、セル内を順次吸引する工程を説明するための説明図である。
図5C】セル吸引工程において、セル内を順次吸引する工程を説明するための説明図である。
図6】本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態における乾燥工程の一例を示す説明図である。
図7】本発明の分離膜複合体の製造方法によって製造された分離膜複合体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図8】本発明の分離膜複合体の製造方法によって製造された分離膜複合体の一の実施形態の、セルの延びる方向に平行に切断した断面を模式的に示す断面図である。
図9】実施例において、水/エタノール分離性能の評価に使用した浸透気化装置の概略図である。
図10】各実施例及び比較例における、吸引量(%)とエタノール透過流速(kg/mh)との関係を示すグラフである。
図11】各実施例及び比較例における、水透過流速(kg/mh)とエタノール透過流速(kg/mh)との関係を示すグラフである。
図12】厚膜部の発生率(%)とエタノール透過流速(kg/mh)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0029】
(1)分離膜の製造方法:
本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態は、製膜工程と、セル吸引工程と、乾燥工程と、を備えた分離膜の製造方法である。本実施形態の分離膜の製造方法は、図1に示すようなモノリス基材1のセル2の表面に、分離膜を形成する分離膜の製造方法である。図1は、本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態に用いられるモノリス基材を模式的に示す斜視図である。
【0030】
本実施形態の分離膜の製造方法における製膜工程は、多孔質のモノリス基材のセル内に、分離膜の前駆体溶液を通すことにより、モノリス基材のセルの表面に、前駆体溶液からなる分離膜前駆体を形成する工程である。モノリス基材は、第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状のものである。以下、モノリス基材の第一の端面及び第二の端面を総称して、単に「端面」ということがある。
【0031】
セル吸引工程は、モノリス基材の第一の端面又は第二の端面におけるセルの開口部から、分離膜前駆体を製膜したセル内を吸引する工程である。このセル吸引工程により、セルの表面に部分的に厚く塗布された余剰の前駆体溶液を吸引して、均一な膜厚の分離膜前駆体を得ることができる。
【0032】
乾燥工程は、セル内を吸引したモノリス基材のセルの表面に製膜された分離膜前駆体を乾燥させる工程である。上述したセル吸引工程によって、均一な膜厚の分離膜前駆体が得られているため、このような乾燥工程を行うことによって、分離膜の厚さが部分的に厚くなる厚膜部の発生を有効に抑制することできる。本実施形態の分離膜の製造方法においては、乾燥工程が、セル内に熱風を通過させる通風乾燥を行って、分離膜前駆体を乾燥させるものであることが好ましい。
【0033】
本実施形態の分離膜の製造方法においては、上述した製膜工程、セル吸引工程及び乾燥工程を一組の工程として、この一組の工程を、2回以上繰り返して行ってもよい。例えば多孔質のモノリス基材のセル内に、分離膜の前駆体溶液を通すことにより、セルの表面に、前駆体溶液からなる分離膜前駆体を形成する。次に、モノリス基材の第一の端面又は第二の端面におけるセルの開口部から、分離膜前駆体を製膜したセル内を吸引する。その後、セル内を吸引したモノリス基材のセルの表面に製膜された分離膜前駆体を乾燥させる。ここまでの一連の工程は、上述した一組の工程となる。その後、乾燥した分離膜前駆体がセルの表面に配設されたモノリス基材を用いて、上記と同様の方法で、モノリス基材のセル内に、分離膜の前駆体溶液を通すことにより、セルの表面に、前駆体溶液からなる分離膜前駆体を更に形成する。2回目の製膜工程においては、乾燥した分離膜前駆体の表面に、前駆体溶液が塗布され、分離膜前駆体が2層積層された状態となる。その後、再度、セル吸引工程を行った後、2層積層された分離膜前駆体を、再度乾燥させる。製膜工程とセル吸引工程と乾燥工程とを一組の工程として、この一組の工程を、3回以上繰り返して行って行う場合には、2回目の乾燥工程が終了したモノリス基材を用いて、3回目の製膜工程、セル吸引工程、及び乾燥工程を行う。
【0034】
以下、本実施形態の分離膜の製造方法について、工程毎に更に具体的に説明する。
【0035】
(1−1)製膜工程:
本実施形態の分離膜の製造方法においては、まず、図2に示すように、多孔質のモノリス基材1に形成されたセル2内に、分離膜の前駆体溶液を通すことにより、そのセル2の表面に、前駆体溶液からなる分離膜前駆体を形成する。この製膜工程によって、セル2の表面側に、前駆体溶液31が塗布され、セル2の表面側に、前駆体溶液31からなる分離膜前駆体が形成される。図2は、本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態における製膜工程の一例を模式的に示す説明図である。
【0036】
図2においては、長手方向の両端が開口した管状の製膜容器32内に、モノリス基材1を収容し、モノリス基材1の第一の端面11側から、前駆体溶液31をセル2内に流入させることによって、製膜工程を行う場合の例を示す。製膜容器32内にモノリス基材1を収容する際には、モノリス基材1の第一の端面11及び第二の端面12において、パッキン等の環状のシール材33を用いて製膜容器32内部で気密に固定することが好ましい。このような製膜工程を、ディップ製膜法を用いた製膜工程ということがある。図2では、モノリス基材1の第一の端面11側から、前駆体溶液31をセル2内に流入させる場合の例について説明しているが、例えば、モノリス基材1の上下を反転させて、第二の端面12側から、前駆体溶液31をセル2内に流入させてもよい。本実施形態の分離膜の製造方法における製膜工程は、図2に示すような、ディップ製膜法を用いた製膜工程である。なお、その他の製膜工程としては、かけ流し法等を用いた製膜工程を挙げることができる。
【0037】
ディップ製膜法を用いた製膜工程においては、例えば、送液ポンプを使用し、前駆体溶液を、モノリス基材の第二の端面から、0.3〜300cm/min程度の速度で、モノリス基材の各セル内に送入することが更に好ましい。
【0038】
また、本実施形態の分離膜の製造方法の製膜工程においては、図2に示すように、モノリス基材1の第二の端面12が第一の端面11の上方となるように、モノリス基材1を製膜容器32内に配置した状態で行うことが好ましい。この製膜工程においては、モノリス基材1のセル2の延びる方向と、鉛直方向とのなす角度が−10°〜10°の範囲にある状態で行われることが更に好ましい。更に、製膜工程においては、モノリス基材1のセル2の延びる方向と鉛直方向とのなす角度が0°に近いほどより好ましい。このような方法により、図3に示すような、モノリス基材1のセル2の表面に、前駆体溶液からなる分離膜前駆体3が製膜されたモノリス基材1が得られる。図3は、製膜工程によって得られた、分離膜前駆体が製膜されたモノリス基材を模式的に示す斜視図である。
【0039】
製膜工程に使用する分離膜の前駆体溶液としては、従来、分離膜(例えば、炭素膜)の製造に広く使用されているポリアミド酸溶液を用いるのが最も好ましい。ポリアミド酸溶液は、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の適当な有機溶媒に溶解させたものである。ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度は、特に制限はないが、溶液を製膜しやすい粘度とする観点から、1〜20質量%とすることが好ましい。ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度は3〜15質量%であることが更に好ましく、5〜10質量%であることが特に好ましい。
【0040】
本発明における「モノリス基材」とは、第一の端面及び第二の端面を有する柱状の基材に、流体の流路となる第一の端面から第二の端面まで延びる複数のセルが形成された、レンコン状或いはハニカム状の基材のことを意味する。モノリス基材の材質としては、強度や化学的安定性の観点から、アルミナ、シリカ、コージェライト、ムライト、チタニア、ジルコニア、炭化珪素等のセラミックス材料等を好適例として挙げることができる。モノリス基材の気孔率は、多孔質基材の強度と透過性の観点から、25〜55%とすることが好ましい。また、多孔質基材の平均細孔径は、0.005〜5μmとすることが好ましい。多孔質基材の気孔率及び平均細孔径は、水銀ポロシメータによって測定した値である。
【0041】
モノリス基材の形状については、例えば、セルの延びる方向に垂直な断面の形状が円形、楕円形、又は多角形の筒形状であることが好ましい。モノリス基材の全体外径は10〜300mmであることが好ましく、20〜250mmであることが更に好ましく、30〜200mmであることが特に好ましい。モノリス基材の全体外径が10mm未満であると、モノリス基材に形成できるセルの数が少なくなることがある。また、モノリス基材の全体外径が300mmを超えると、モノリス基材が大きくなりすぎて、分離膜の製造が困難になることがある。本明細書において、「モノリス基材の全体外径」とは、モノリス基材のセルの延びる方向に垂直な断面の形状が円である場合には、当該断面(即ち、円)の直径のことを意味する。また、「モノリス基材の全体外径」とは、モノリス基材のセルの延びる方向に垂直な断面の形状が円でない場合には、当該断面と断面積が同じ大きさの円の直径のことを意味する。
【0042】
モノリス基材のセルの延びる方向の長さは、30〜2000mmであることが好ましく、100〜1700mmであることが更に好ましく、150〜1500mmであることが特に好ましい。モノリス基材のセルの延びる方向の長さが30mm未満では、分離膜の膜面積が小さくなることがある。モノリス基材のセルの延びる方向の長さが2000mmを超えると、モノリス基材の製造及び取り扱いが困難になることがある。また、体積当たりの膜面積と強度を考慮して、モノリス基材に形成されるセルの数は、1〜10000個であることが好ましく、10〜5000個であることが好ましく、30〜2500個であることが好ましい。セルの数が10000個を超えると、モノリス基材の製造及び取り扱いが困難になることがある。
【0043】
また、製膜工程においては、モノリス基材の外周面の少なくとも一部に、シールテープ等を用いてシールを施してから製膜を行うことが好ましい。このように構成することによって、前駆体溶液をセル内に通した際に、セルの表面以外に前駆体溶液が付着するのを防止することができる。
【0044】
また、製膜工程においては、モノリス基材全体、又は、分離膜前駆体が製膜されるセルの表面を、50〜350℃に予熱してから製膜を行ってもよい。このような余熱を行うと、乾燥工程による乾燥を加速することができるとともに、最終的に得られる分離膜の分離性能を向上させることができる。
【0045】
(1−2)セル吸引工程:
本実施形態の分離膜の製造方法においては、上記製膜工程の後、モノリス基材の第一の端面又は第二の端面におけるセルの開口部から、分離膜前駆体を製膜したセル内を吸引するセル吸引工程を行う。このようなセル吸引工程を設けることにより、セルの表面に部分的に厚く塗布された余剰の前駆体溶液を吸引して、均一な膜厚の分離膜前駆体を得ることができる。これにより、分離膜の厚さが部分的に厚くなる厚膜部の発生を有効に抑制することができる。
【0046】
モノリス基材のセル内に、前駆体溶液を通すことにより分離膜前駆体を形成する製膜工程においては、製膜時に、前駆体溶液がセル内に過剰に残留して、均一な膜厚の分離膜前駆体を得ることが困難なことがある。特に、セル内に過剰に残留した余剰の前駆体溶液は、セル内の一部に部分的に溜まり易い。即ち、従来の分離膜の製造方法においては、セル内に過剰に残留した余剰の前駆体溶液によって、分離膜前駆体の厚さが局所的に厚くなってしまい、得られる分離膜においても、部分的に膜厚の厚い厚膜部を有するものとなっていた。
【0047】
本実施形態の分離膜の製造方法においては、乾燥工程の前に、モノリス基材の第一の端面又は第二の端面からセル内を吸引して、厚膜部の発生原因となる余剰の前駆体溶液を、吸引除去する。これにより、セルの表面側に塗布された前駆体溶液の厚さがより均一なものとなる。なお、厚膜部としては、例えば、その膜厚が5μm以上の部分のことをいう。
【0048】
セル内を吸引する方法については特に制限はないが、例えば、モノリス基材の第一の端面からセル内を吸引する際には、第二の端面を大気開放とし、この第二の端面から第一の端面に向けて、吸引した気体がセル内を流動するようにすることが好ましい。この気体の流れに乗って、余剰の前駆体溶液が、モノリス基材の第一の端面のセルの開口部から排出されることとなる。
【0049】
セル吸引工程においては、例えば、図4に示すように、モノリス基材1の第一の端面11におけるセル2の開口部が鉛直方向の下向きに開口するように、モノリス基材1をセル2の延びる方向が鉛直となるように配置して行うことが好ましい。モノリス基材1をセル2の延びる方向が鉛直となるように配置すると、余剰の前駆体溶液が、自重により第一の端面11側に垂れてくるため、余剰の前駆体溶液の下向きの開口部からの吸引除去がより容易になる。また、セル2の表面には、表面張力によってセル2の表面に付着する前駆体溶液が残るため、セル2の表面に形成される分離膜前駆体の厚さもより均一なものとなる。図4は、本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態におけるセル吸引工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0050】
更に、図4に示すように、モノリス基材1の第一の端面11におけるセル2の開口部が鉛直方向の下向きに開口するように配置した場合には、この第一の端面11におけるセル2の開口部から、セル2内を吸引することがより好ましい。このように構成することによって、モノリス基材1の第一の端面11側に垂れてくる前駆体溶液を積極的に吸引することができるため、余剰の前駆体溶液の吸引除去をより効率的に行うことができる。
【0051】
また、従来の製造方法によって分離膜を製造した場合には、上述したディップ製膜法を用いた製膜工程における鉛直下方の端面側(例えば、第一の端面側)に、厚膜部がより多く発生することも確認されている。このため、鉛直下方の端面側からセル内を吸引することにより、厚膜部がより多く発生する可能性のある箇所を、優先的に吸引することができる。これにより、厚膜部の発生をより抑制することができる。
【0052】
図4においては、モノリス基材1の第一の端面11におけるセル2の開口部が鉛直方向の下向きに開口するように配置した場合の例を示しているが、モノリス基材1の第二の端面12におけるセル2の開口部が鉛直方向の下向きに開口するように配置してもよい。即ち、セル2の開口部が鉛直方向の下向きに開口する端面については、モノリス基材1の第一の端面11であってもよいし、第二の端面12であってもよい。図2に示すようなディップ製膜法を用いた製膜工程を行った場合には、製膜工程において、モノリス基材1の第一の端面11におけるセル2の開口部が鉛直方向の下向きに開口するように配置されていることがある。このような場合には、モノリス基材1の配置状態をそのまま維持し、その後、セル吸引工程を行うことが好ましい。即ち、図2に示すように、第一の端面11が下側となるようにモノリス基材1を配置して製膜工程を行い、製膜工程が終了した後、第一の端面11が下側となるよう状態を維持したまま、図4に示すように、セル吸引工程を行ってもよい。
【0053】
セル吸引工程における吸引方法については特に制限はないが、例えば、図4に示すような方法を挙げることができる。具体的には、まず、真空引き可能な吸引ポンプ20に、中空の管状部材21の一端を接続する。吸引ポンプ20を作動させた後、管状部材21の他端を、モノリス基材1の第一の端面11に押し当て、第一の端面11に開口したセル2の開口部から、セル2内を吸引する。このような吸引方法によれば、余剰の前駆体溶液の吸引除去をより効率的に行うことができる。管状部材21としては、中空のチューブ状やホース状のものを用いることができる。また、管状部材の吸引端には、吸引径を適宜調整(例えば、吸引径を縮小又は拡大)するための治具を取り付けてもよい。
【0054】
上述した管状部材21によって、セル2内を吸引する際には、第一の端面11に開口したセル2のうちの一部のセル2内を、管状部材21の他端から吸引し、吸引箇所を変えながら、第一の端面11に開口した全てのセル2内を順次吸引することが好ましい。例えば、図5Aに示すように、まず、モノリス基材1の第一の端面11の一部に、管状部材21の他端を押し当て、一部のセル2内を吸引する。その後、図5B及び図5Cに示すように、管状部材21の他端を押し当てる位置を移動させて、未だ吸引を行っていないセル2内を、順次吸引することが好ましい。図5A図5Cは、セル吸引工程において、セル内を順次吸引する工程を説明するための説明図である。図5A図5Cは、モノリス基材のセルの延びる方向に平行な断面を示す。
【0055】
図5A図5Cにおいては、セル吸引工程において、セル2内を順次吸引する場合の例を示しているが、第一の端面11に開口した全てのセル2内を、一度に吸引してもよい。但し、全てのセル2内を、一度に吸引する場合には、余剰の前駆体溶液の量がそれぞれのセル2毎に異なるため、吸引抵抗が大きなセル2の吸引が十分に行われないことがある。吸引抵抗が大きなセル2内には、余剰の前駆体溶液の量が多いことが予想されるため、このようなセル2内を積極的に吸引する際には、上述したように、吸引箇所を移動させながら、セル2内を吸引することがより好ましい。
【0056】
セル2内を順次吸引する際に一度に吸引するセル2の個数については、特に制限はない。例えば、セル1個毎に、セル内を吸引してもよい。また、例えば、2〜20個のセル毎に、セル内を吸引してもよい。一度に吸引するセルの個数が多すぎると、吸引抵抗の大きなセルの吸引が十分に行われないことがある。一度に吸引するセルの個数が少なすぎると、モノリス基材1に形成されたセルの総数によっても異なるが、吸引工程に要する時間が長くなることがある。
【0057】
セル内を吸引する時間については、特に制限はない。例えば、モノリス基材の第一の端面の1cm当たりに要する吸引時間としては、例えば、0.1〜3分であることが好ましく、0.3〜2分であることが更に好ましく、0.5〜1.5分であることが特に好ましい。モノリス基材の第一の端面の1cm当たりに要する吸引時間が0.1分未満であると、セル内の吸引が十分に行われず、余剰の前駆体溶液がセル内に多く残留してしまうことがある。上記吸引時間の範囲内であれば、余剰の前駆体溶液の吸引除去を良好に行うことができる。例えば、モノリス基材の第一の端面の1cm当たりに要する吸引時間が3分を超えても、余剰の前駆体溶液の十分な吸引除去が行われたセルからは、それ以上の余剰の前駆体溶液はほとんど排出されないことがある。
【0058】
セル吸引工程は、余剰の前駆体溶液を吸引除去するための工程であるため、「セル内に付着した前駆体溶液の質量に対する、セル吸引工程において、セル内から吸引される前駆体溶液の質量の割合」により、セル内の吸引状態を判断することもできる。上述した「セル内に付着した前駆体溶液の質量」とは、製膜工程において、セル内に実際に付着した前駆体溶液の実際の質量のことを意味する。「セル内に付着した前駆体溶液の質量」は、製膜工程に使用した前駆体溶液の量と、製膜工程後に回収された前駆体溶液の量の差分を求めることによって算出することできる。また、「セル吸引工程において、セル内から吸引される前駆体溶液の質量」は、セル内を吸引する管状部材に排液トラップ等を設けて、吸引される前駆体溶液を回収し、回収された溶液の質量を測定することによって求めることができる。以下、「製膜工程においてセル内に付着した前駆体溶液の質量に対する、セル吸引工程においてセル内から吸引される前駆体溶液の質量の割合」を、単に、「吸引される前駆体溶液の質量の割合(%)」、又は「吸引量(%)」ということがある。
【0059】
セル吸引工程においては、上記吸引される前駆体溶液の質量の割合(%)が、0.1〜10%であることが好ましく、0.5〜5%であることが更に好ましく、1.5〜2.5%であることが特に好ましい。吸引される前駆体溶液の質量の割合(%)が、0.1%未満であると、余剰の前駆体溶液が未だセル内に残留していることがある。吸引される前駆体溶液の質量の割合(%)が、10%を超えると、正常な分離膜前駆体を構成する前駆体溶液が吸引によりセル外に排出されてしまうことがある。
【0060】
また、上記セル吸引工程においては、1個のセル当りの吸気量が、0.2〜5L/分であることが好ましく、1〜3L/分であることが更に好ましく、1.5〜2.5L/分であることが特に好ましい。1個のセル当りの吸気量が0.2L/分未満であると、余剰の前駆体溶液がセル内に残留しやすい。1個のセル当りの吸気量が5L/分を超えると部分的に吸引されすぎる箇所ができやすくなる。
【0061】
セル吸引工程においては、図4に示すように、モノリス基材1をセル2の延びる方向が鉛直となるように配置し、その状態を一定時間保持した後に、モノリス基材1の第一の端面11におけるセル2の開口部から、セル2内を吸引してもよい。具体的には、モノリス基材1をセル2の延びる方向が鉛直となるように配置した状態を60分以下の時間保持した後に、セル2内を吸引してもよい。勿論、モノリス基材1をセル2の延びる方向が鉛直となるように配置し、その直後にセル2内を吸引してもよい。セル2の延びる方向が鉛直となるように配置した状態を60分以下の時間保持することより、余剰の前駆体溶液31が、自重により第一の端面11側に垂れてくる。そのため、第一の端面11に開口したセル2の開口部からの吸引をより良好に行うことができる。即ち、上述したモノリス基材1の状態を60分以下の時間保持することにより、必要な吸引時間を短縮することができる。モノリス基材1を保持する際には、モノリス基材1が動かないように安定した状態で保持することが好ましい。上記した保持時間が短すぎると、自重によって垂れてくる前駆体溶液31の量が少ないため、吸引時間を短縮する効果が十分に得られないことがある。また、上記した保持時間が60分間を超えても、自重によって垂れてくる前駆体溶液31の量がそれ以降ほとんど増加しないことがある。また、モノリス基材1をセル2の延びる方向が鉛直となるように配置し、その直後にセル2内の吸引を開始して場合においても、セル2内を吸引している間に、前駆体溶液が自重によって垂れてくるため、吸引の効率が向上することがある。
【0062】
(1−3)乾燥工程:
本実施形態の分離膜の製造方法においては、上記セル吸引工程の後、製膜された分離膜前駆体を乾燥する乾燥工程を行う。分離膜前駆体を乾燥する方法については特に制限はなく、従来公知の分離膜の製造方法における、乾燥方法を好適に用いることができる。例えば、図6に示すように、分離膜前駆体3を製膜したモノリス基材1のセル2内に、熱風15を通過させる通風乾燥を行って、分離膜前駆体3を乾燥させることが好ましい。分離膜前駆体3の乾燥を、通風乾燥によって行うことにより、分離膜前駆体3の表面から、分離膜前駆体3全体に均一な熱伝達をもたらしつつ、この分離膜前駆体3を良好に乾燥させることができる。このため、分離膜前駆体3全体をムラ無く均一に乾燥させることができる。ここで、図6は、本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態における乾燥工程の一例を示す説明図である。
【0063】
図6に示す乾燥工程においては、モノリス基材1の第一の端面11側にドライヤー14を配置し、このドライヤー14から、モノリス基材1の第一の端面11に向けて熱風15を送風して熱風乾燥を行う場合の例を示す。上述したように熱風15を送風することにより、モノリス基材1の第一の端面11に開口したセル2の開口部より、所定温度に加熱された熱風15が送り込まれる。そして、モノリス基材1の第二の端面12側に開口したセル2の開口部より、セル2内を流通した熱風15が排気される。このようにしてセル2に熱風15(通風気体)を通すことにより、セル2の表面に製膜された分離膜前駆体3が乾燥する。このような通風乾燥においては、ポリアミド酸膜等の分離膜前駆体3の全体が熱風15によって均一に加熱され、乾燥やイミド化が分離膜前駆体3の表面から均一に進行する。
【0064】
通風乾燥において、セル内を通過させる熱風の温度は、30〜300℃とすることが好ましく、50〜200℃とすることがより好ましく、70〜190℃とすることが更に好ましい。熱風の温度が30℃未満では、分離膜前駆体が乾燥するまでに時間が掛かり過ぎることがある。熱風の温度が300℃を超えると、長時間の乾燥で、分離膜前駆体が燃えてしまうことがある。
【0065】
また、熱風の風速は、0.5〜30m/sとすることが好ましく、1〜15m/sとすることがより好ましく、5〜10m/sとすることが更に好ましい。熱風の風速は、セル内を通過する際の、熱風の速度のことである。熱風の風速が0.5m/s未満では、分離膜前駆体の乾燥やイミド化が不均一となる場合がある。熱風の風速が30m/sを超えると、分離膜前駆体中の溶液の移動が起こり、製膜が不均一となる場合がある。
【0066】
前駆体溶液が、ポリアミド酸溶液である場合には、この乾燥工程において、分離膜前駆体を乾燥させるとともにイミド化させることが好ましい。
【0067】
また、モノリス基材1の全体外径が100〜200mm、セルの延びる方向の長さが200〜2000mmと大口径長尺である場合には、分離膜前駆体をイミド化させる際に、熱膨張によりモノリス基材にクラックが生じることもある。このため、上述したイミド化は、通風乾燥で行わず、昇温速度を制御可能なイミド化乾燥手段(イミド化炉)を使用してもよい。
【0068】
上述したように、1回の製膜工程、セル吸引工程及び乾燥工程によって、乾燥後の分離膜前駆体の膜厚が、所望の厚さにならない場合には、所望の膜厚が得られるまで、製膜工程、セル吸引工程及び乾燥工程を、複数回(例えば、3〜5回)繰り返して行ってもよい。
【0069】
(1−4)炭化工程:
本実施形態の分離膜の製造方法は、乾燥工程によって乾燥させた分離膜前駆体を、熱分解して炭化させることにより分離膜を得る炭化工程を更に備えたものであってもよい。この炭化工程は、製造する分離膜が、炭素膜である場合に行われる工程である。
【0070】
例えば、前駆体溶液がポリアミド酸溶液である場合には、製膜工程、及び乾燥工程を経て得られた分離膜前駆体をイミド化させて、ポリイミド膜を得、得られたポリイミド膜を、熱分解して炭化させることにより分離膜(炭素膜)を得ることができる。
【0071】
製膜工程、セル吸引工程及び乾燥工程が複数回繰り返して行われる場合には、必要な回数の製膜工程、セル吸引工程及び乾燥工程が全て終了し、所望の膜厚の分離膜前駆体が得られた後に、炭化工程を行うことが好ましい。
【0072】
炭化工程を行う際には、真空下、又は、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の還元雰囲気下にて行うことが好ましい。炭化工程を行う際の温度は、400〜1000℃であることが好ましい。このような温度範囲で、乾燥させた分離膜前駆体(より具体的には、ポリイミド膜)を、熱分解して炭化させることにより分離膜を得ることができる。例えば、400℃未満の温度で炭化を行うと、ポリイミド膜が十分に炭化されず、分子ふるい膜としての選択性や透過速度が低下することがある。一方、1000℃を超える温度で炭化を行うと、分離膜の細孔径が収縮することにより透過速度が減少する。
【0073】
最終的に得られる分離膜の膜厚は、0.1〜10μmとすることが好ましく、0.5〜5μmとするとより好ましい。分離膜の膜厚が0.1μm未満では膜厚が不十分で十分な選択性を得ることが難しくなる場合があり、10μmを超えると膜厚が厚すぎて、透過流速が小さくなりすぎる場合がある。
【0074】
本実施形態の分離膜の製造方法によって製造される分離膜の用途については、特に制限はない。例えば、本実施形態の分離膜の製造方法によって製造される分離膜は、水とエタノールとの分離に使用すると高い分離性能が得られる。このような分離膜は、バイオマスから得られる水とエタノールとを含有する液体混合物からエタノールを回収する際の分離膜として好適に用いることができる。
【0075】
(2)分離膜複合体の製造方法:
次に、本発明の分離膜複合体の製造方法の一の実施形態について説明する。本実施形態の分離膜複合体の製造方法によれば、第一の端面から第二の端面に延びるように複数のセルが形成された筒状の多孔質のモノリス基材と、このモノリス基材のセルの表面に配設された分離膜と、を備えた分離膜複合体を製造することができる。
【0076】
本実施形態の分離膜複合体の製造方法においては、本発明の分離膜の製造方法に従って、分離膜複合体を構成する分離膜を作製する。即ち、本実施形態の分離膜複合体の製造方法は、多孔質のモノリス基材のセル内に、これまでに説明した本発明の分離膜の製造方法によって分離膜を作製する工程を備えた分離膜複合体の製造方法である。
【0077】
このような本実施形態の分離膜複合体の製造方法によれば、分離膜の厚さが部分的に厚くなる厚膜部の少ない分離膜を備えた分離膜複合体を簡便に製造することができる。本実施形態の分離膜複合体の製造方法によって製造される分離膜複合体は、セルの表面から分離膜が剥がれ難く、且つ、分離膜にクラック等の破損も生じ難い。また、上述したような分離膜の剥がれやクラック等の欠陥が生じ難いため、分離膜の分離性能が低下し難く、良好な分離性能を維持することができる。
【0078】
本実施形態の分離膜複合体の製造方法における、分離膜を作製する工程、及びモノリス基材の選定等については、これまでに説明した本実施形態の分離膜の製造方法に準じて行うことができる。
【0079】
(3)分離膜複合体:
次に、本発明の分離膜複合体の製造方法によって製造された分離膜複合体の一の実施形態について説明する。本実施形態の分離膜複合体は、図7及び図8に示すように、多孔質のモノリス基材101と、分離膜103とを備えた分離膜複合体200である。モノリス基材101は、第一の端面111から第二の端面112に延びるように複数のセル102が形成された筒状のものである。分離膜103は、モノリス基材101に形成されたセル102の表面に配設されたものである。図7は、本発明の分離膜複合体の製造方法によって製造された分離膜複合体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図8は、本発明の分離膜複合体の製造方法によって製造された分離膜複合体の一の実施形態の、セルの延びる方向に平行に切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0080】
本実施形態の分離膜複合体200においては、分離膜103の厚さが5μm以上の厚膜部105を有しないセル102aの個数の割合が、全てのセル102の個数に対して、80%以上である。
【0081】
即ち、モノリス基材101に形成された複数のセル102の表面には、第一の端面111から第二の端面112に掛けて、分離膜103が配設されている。ここで、分離膜103の厚さが5μm以上となる部位を、厚膜部105と称することとする。1つのセル102の表面に配設された分離膜103において、その厚さが5μm以上となる部位が存在するセル102を、厚膜部105を有するセル102bとする。一方、1つのセル102の表面に配設された分離膜103において、その厚さが5μm以上となる部位が存在しないセル102を、厚膜部105を有しないセル102aとする。別言すれば、厚膜部105を有しないセル102aとは、そのセル102aの表面に配設された分離膜103の厚さが、5μm未満ということとなる。本実施形態の分離膜複合体200においては、このような厚膜部105を有しないセル102aの個数の割合が、全てのセル102の個数に対して、80%以上である。言い換えれば、上記厚膜部105を有するセル102bの個数の割合が、全てのセル102の個数に対して、20%未満である。
【0082】
厚膜部105を有するセル102bが非常に多数存在すると、分離膜103の分離性能が悪くなってしまう。即ち、厚膜部105を有しないセル102aの個数の割合が、80%未満であると、分離膜103の分離性能が悪くなってしまう。例えば、分離膜103は、セル102の表面に密着した状態で配設されているが、分離膜103に膜厚部105が存在すると、この厚膜部105から分離膜103が剥がれ易くなってしまう。また、局所的に分離膜が厚くなる厚膜部105には、クラック等の欠陥が生じ易くなってしまうこともある。
【0083】
本実施形態の分離膜複合体200においては、厚膜部105を有しないセル102aの個数の割合が、全てのセル102の個数に対して、90%以上であることが好ましく、95%以上であることが更に好ましい。本実施形態の分離膜複合体200においては、全てのセル102が、厚膜部105を有しないセル102aであることが特に好ましい。
【0084】
このような本実施形態の分離膜複合体200は、これまでに説明した本発明の分離膜の製造方法によって製造することができる。即ち、従来の製造方法においては、厚膜部105を有しないセル102aの個数の割合を80%以上にすることは不可能であった。これまでに説明した本発明の分離膜の製造方法によって、モノリス基材に形成されたセルの表面に分離膜を製造することによって、厚膜部を有しないセルの個数の割合が80%以上となる分離膜複合体を良好に製造することができる。
【0085】
本実施形態の分離膜複合体200においては、セル102の表面に配設された分離膜103の平均厚さが、0.1〜3μmであることが好ましく、0.5〜3μmであることが更に好ましく、1〜3μmであることが特に好ましい。分離膜103の平均厚さが、0.1μm未満であると、分離膜自体が薄すぎて、分離膜複合体200の分離性能が低下してしまうことがある。一方、分離膜103の平均厚さが、3μmを超えると、分離膜にクラックや膜剥がれの膜欠陥が生じやすくなり、エタノール漏れ量が大きくなりすぎることがある。
【0086】
分離膜の厚さは、以下の方法によって測定することができる。まず、分離膜が形成されたモノリス基材を、セルの延びる方向に割り裂く。そして、そのセルの断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、分離膜の膜厚を測定する。モノリス基材に形成された全てのセルについて、分離膜の膜厚が最大となる部分の膜厚を、それぞれ測定する。各セルの表面に形成された分離膜の膜厚の最大部分が5μm以上の場合、そのセルを、厚膜部を有するセルとする。一方、各セルの表面に形成された分離膜の膜厚の最大部分が5μm未満の場合、そのセルを、厚膜部を有しないセルとする。このような分離膜の厚さの測定によって、厚膜部を有しないセルの個数の割合を求めることもできる。
【0087】
分離膜の平均厚さは、以下の方法によって測定することができる。まず、分離膜が形成されたモノリス基材を、セルの延びる方向に割り裂く。そして、そのセルの断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、分離膜の膜厚を測定する。このような分離膜の膜厚の測定を、1つのセルにつき、10箇所以上で行う。それぞれの箇所で測定された膜厚の平均値を算出する。この平均値が「分離膜の平均厚さ」となる。
【0088】
モノリス基材の材質としては、強度や化学的安定性の観点から、アルミナ、シリカ、コージェライト、ムライト、チタニア、ジルコニア、炭化珪素等のセラミックス材料等を好適例として挙げることができる。モノリス基材の気孔率は、多孔質基材の強度と透過性の観点から、25〜55%とすることが好ましい。また、多孔質基材の平均細孔径は、0.005〜5μmとすることが好ましい。多孔質基材の気孔率及び平均細孔径は、水銀ポロシメータによって測定した値である。
【0089】
モノリス基材の形状については、例えば、セルの延びる方向に垂直な断面の形状が円形、楕円形、又は多角形の筒形状であることが好ましい。モノリス基材の全体外径は10〜300mmであることが好ましく、20〜250mmであることが更に好ましく、30〜200mmであることが特に好ましい。モノリス基材の全体外径が10mm未満であると、モノリス基材に形成できるセルの数が少なくなることがある。また、モノリス基材の全体外径が300mmを超えると、モノリス基材が大きくなりすぎて、分離膜の製造が困難になることがある。本明細書において、「モノリス基材の全体外径」とは、モノリス基材のセルの延びる方向に垂直な断面の形状が円である場合には、当該断面(即ち、円)の直径のことを意味する。また、「モノリス基材の全体外径」とは、モノリス基材のセルの延びる方向に垂直な断面の形状が円でない場合には、当該断面と断面積が同じ大きさの円の直径のことを意味する。
【0090】
モノリス基材のセルの延びる方向の長さは、30〜2000mmであることが好ましく、100〜1700mmであることが更に好ましく、150〜1500mmであることが特に好ましい。モノリス基材のセルの延びる方向の長さが30mm未満では、分離膜の膜面積が小さくなることがある。モノリス基材のセルの延びる方向の長さが2000mmを超えると、モノリス基材の製造及び取り扱いが困難になることがある。また、体積当たりの膜面積と強度を考慮して、モノリス基材に形成されるセルの数は、1〜10000個であることが好ましく、10〜5000個であることが好ましく、30〜2500個であることが好ましい。セルの数が10000個を超えると、モノリス基材の製造及び取り扱いが困難になることがある。
【0091】
分離膜は、各種混合物から、少なくとも1種の成分を分離することが可能なものであれば、その材質については特に制限はない。本実施形態の分離膜複合体においては、分離膜が炭素膜であることが好ましい。例えば、分離膜の前駆体溶液として、ポリイミド溶液を用いて作製された炭素膜を好適例として挙げることができる。このような、炭素膜は、上述した本発明の分離膜の製造方法の一の実施形態において説明した、製膜工程、セル吸引工程、乾燥工程、及び炭化工程を行うことによって製造することができる。
【0092】
ポリアミド酸溶液は、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の適当な有機溶媒に溶解させたものである。ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度は、特に制限はないが、溶液を製膜しやすい粘度とする観点から、1〜20質量%とすることが好ましい。ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度は3〜15質量%であることが更に好ましく、5〜10質量%であることが特に好ましい。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
(実施例1)
まず、分離膜を製造するための基材となる、多孔質のモノリス基材を用意した。モノリス基材の材質は、アルミナとした。モノリス基材の形状は、第一の端面及び第二の端面を有する円筒状であり、この第一の端面及び第二の端面の直径が30mmで、セルの延びる方向の長さが1000mmであった。このモノリス基材には、第一の端面から第二の端面に延びるセルが、50個形成されている。セルの開口部の形状は、円形とした。1個のセルの開口部の直径は、2.5mmであった。
【0095】
製膜工程を行う前に、上記モノリス基材の外周面にシールテープを巻いて、モノリス基材のセルの表面以外に前駆体溶液が付着するのを防止した。
【0096】
このようなモノリス基材を、セルの延びる方向が鉛直方向となるように設置し、送液ポンプを使用して、前駆体溶液を各セル内に送入した(製膜工程)。前駆体溶液としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とするポリアミド酸濃度10質量%のポリアミド酸溶液(宇部興産株式会社のU−ワニス−A(商品名))を用いた。前駆体溶液を送入する際には、それぞれのセルの一方の開口部から、200cm/minの速度で前駆体溶液を30秒間送入した。このような製膜工程により、モノリス基材のセル内に、分離膜前駆体としてのポリアミド酸膜を製膜した。使用したポリアミド酸溶液の25℃における粘度は、0.15Pa・sであった。
【0097】
次に、ポリアミド酸膜を製膜したモノリス基材の第一の端面におけるセルの開口部が鉛直方向の下向きに開口し、モノリス基材をセルの延びる方向が鉛直となるように配置した。そして、モノリス基材の第一の端面におけるセルの開口部から、セル内を吸引することにより、ポリアミド酸溶液の一部を除去するセル吸引工程を行った。セル内の吸引は、内径6mmの吸引チューブの一端を吸引ポンプに接続し、この吸引チューブの他端を、モノリス基材の第一の端面に押し当てることによって行った。吸引チューブとしては、シリコンチューブを用いた。吸引チューブの他端をモノリス基材の第一の端面に押し当てる際には、吸引チューブの他端を第一の端面上で満遍なく移動させて、順次、全てのセルから一様にポリアミド酸溶液を吸引して除去するようにした。セル内の吸引は、15分間行った。即ち、吸引チューブの他端を、第一の端面上で15分間満遍なく移動させて、セル内の吸引を行った。このセル内の吸引により、セル内に余剰に塗布されたポリアミド酸溶液を吸引除去し、所定の膜厚の分離膜前駆体を作製した。
【0098】
モノリス基材の第一の端面の1cmあたりの吸引時間は2.12分であった。上記「1cmあたりの吸引時間」は、モノリス基材の断面積が7.07cm、セルの開口率が34.7%、セルの開口部の面積が2.45cmであるのに対して、吸引チューブの内径が6mmとして算出した値である。また、吸引ポンプとしては、吸引能力が12L/minのものを使用した。
【0099】
セル吸引工程の前に、セル内に付着していたポリアミド酸溶液の質量に対する、吸引により除去したポリアミド酸溶液の質量の割合を、下記式(1)により求めた。下記式(1)においては、「セル内に付着していたポリアミド酸溶液の質量」を「付着量」とし、「吸引により除去したポリアミド酸溶液の質量」を「吸引で除去した量」とする。また、下記式(1)に示す吸引により除去したポリアミド酸溶液の質量の割合を、以下、「吸引量(%)」ともいう。
【0100】
吸引量(%)=吸引で除去した量/付着量×100 ・・・ (1)
【0101】
表1に、モノリス基材の端面の直径(mm)、セルの延びる方向の長さ(mm)、セル数(個)、及びセル径(mm)を示す。なお、モノリス基材の端面の直径(mm)とは、モノリス基材の第一の端面及び第二の端面の直径のことである、セル数(個)とは、モノリス基材に形成されたセルの個数のことであり、セル径とは、セルの開口部の直径のことである。表1に、セル内を吸引した吸引時間(min)、及び吸引量(%)を示す。なお、吸引量(%)は、1回目の製膜工程が終了した後に行われた、セル吸引工程における吸引量(%)である。また、表1における「セル吸引工程」の欄に、分離膜の製造に際し、上述したセル吸引工程を行った否かの結果を示す。即ち、「セル吸引工程」の欄における「あり」とは、セル内の吸引するセル吸引工程を行ったことを示す。また、「セル吸引工程」の欄における「なし」とは、セル内の吸引を行わなかったことを示す。
【0102】
また、セル内の吸引において、吸引チューブの他端を第一の端面上で移動させて吸引した場合を、表1における「吸引方法」の欄において「部分的」と記す。セル内の吸引において、吸引ポンプに接続する吸引チューブの他端を、モノリス基材の第一の端面の大きさまで拡張させて、モノリス基材の第一の端面全域から全てのセルを一度に吸引した場合を、表1における「吸引方法」の欄において「全体的」と記す。
【0103】
セル吸引工程を行った後、ポリアミド酸膜からなる分離膜前駆体の乾燥とイミド化を行うための乾燥工程を行った。まず、150℃の熱風をセルの第一の端面の開口部から第二の端面の開口部に向かって70分間に渡って通過させて、分離膜前駆体を乾燥させた。熱風の風速は、10m/sとした。熱風を通過させる際には、セル吸引工程と同様に、モノリス基材の第一の端面におけるセルの開口部が鉛直方向の下向きに開口し、モノリス基材をセルの延びる方向が鉛直となるように配置した状態で行った。その後、更に熱風の温度を250℃に上昇させて、その熱風を、セルの内部を15分間通過させた。以上のようにして、ポリアミド酸膜からなる分離膜前駆体の乾燥とイミド化を行った。
【0104】
上述した製膜工程、セル吸引工程、及び乾燥工程を一組の工程として、その一組の工程を3回繰り返した後、モノリス基材を真空のボックス炉にて、800℃で熱処理した。この熱処理により、イミド化により得られたポリイミド膜が炭化して、膜厚が約1μmの分離膜(炭素膜)が得られた。
【0105】
また、得られた分離膜の厚さを、以下の方法で測定して、その測定結果より、「厚膜部の発生率(%)」を求めた。まず、分離膜が形成されたモノリス基材の第一の端面から50mmの範囲を、セルの延びる方向に割り裂いた。そして、そのセルの断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、分離膜の膜厚を測定した。なお、モノリス基材の第一の端面は、1回目の製膜工程、セル吸引工程、及び乾燥工程において、鉛直方向の下側になる端面である。モノリス基材に形成された全てのセルについて、観察した範囲において、分離膜の膜厚が最大となる部分の膜厚を、それぞれ測定した。分離膜の膜厚の最大部分が5μm以上のセルの個数を、全セル数で除した値の百分率を、「厚膜部の発生率(%)」とした。実施例1にて得られた分離膜の厚膜部の発生率(%)を表1に示す。
【0106】
また、実施例1にて得られた分離膜の分離性能の評価として、以下の方法で、浸透気化試験を行った。
【0107】
〔浸透気化試験〕
浸透気化試験は、図9に示すような浸透気化装置を使用して行った。図9は、実施例において、水/エタノール分離性能の評価に使用した浸透気化装置の概略図である。図9に示すように、分離膜が形成されたモノリス基材100を筒状の容器55内に収納し、モノリス基材100の両端外周部において、容器55内周面との隙間をシール材56によりシールした。恒温槽57に収容されたビーカー58内で所定温度に温められた供給液59を、循環ポンプ60により循環ライン71〜73に循環させ、循環ライン71〜73の途中に配された容器55内のモノリス基材100のセル内を通過させた。
【0108】
このようにして、モノリス基材100のセルの表面に形成された分離膜に供給液59を接触させながら、透過側であるモノリス基材100の外側を、真空ポンプ64により、浸透気化ライン75、76を通じて、真空引きした。真空制御機70により二次側圧力を減圧調整し、分離膜を透過した透過蒸気を、浸透気化ライン75、76上の液体窒素77に浸された冷却トラップ78により透過液として捕捉した。
【0109】
なお、図9中、符号90は供給液59を撹拌するための撹拌子、符号91はビーカー58上部に取り付けた冷却管である。供給液59には、水/エタノール比(質量比)が10/90である水/エタノール混合液を用い、当該供給液の温度を70℃として、分離膜の水/エタノール分離性能を評価した。この分離性能の評価には、エタノール透過流速(kg/mh)及び水透過流速(kg/mh)を用いた。エタノール透過流速(kg/mh)及び水透過流速(kg/mh)の値を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
(実施例2及び3)
セル吸引工程における吸引時間を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。得られた分離膜について、厚膜部の発生率(%)を求めた。また、得られた分離膜について、浸透気化試験を行った。各結果を表1に示す。
【0112】
(実施例4)
セル吸引工程における吸引方法を、表1に示すように「全体的」に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。得られた分離膜について、厚膜部の発生率(%)を求めた。また、得られた分離膜について、浸透気化試験を行った。各結果を表1に示す。
【0113】
(実施例5〜7)
モノリス基材として、表1に示すような「端面の直径」、「セルの延びる方向の長さ」、「セル数」、及び「セル径」のものを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、分離膜を製造した。得られた分離膜について、厚膜部の発生率(%)を求めた。また、得られた分離膜について、浸透気化試験を行った。各結果を表1に示す。
【0114】
(比較例1)
比較例1においては、製膜工程の後、セル吸引工程を行わず、乾燥工程を行って分離膜を製造した。製膜工程、及び乾燥工程については、実施例1と同様の方法とした。得られた分離膜について、厚膜部の発生率(%)を求めた。また、得られた分離膜について、浸透気化試験を行った。各結果を表1に示す。
【0115】
また、各実施例及び比較例における各結果から、図10図12に示すグラフを作成した。図10は、各実施例及び比較例における、吸引量(%)とエタノール透過流速(kg/mh)との関係を示すグラフである。図11は、各実施例及び比較例における、水透過流速(kg/mh)とエタノール透過流速(kg/mh)との関係を示すグラフである。図12は、厚膜部の発生率(%)とエタノール透過流速(kg/mh)との関係を示すグラフである。図10図12においては、縦軸がエタノール透過流速(kg/mh)を示す。図11においては、水透過流速(kg/mh)とエタノール透過流速(kg/mh)との関係において、分離膜の分離性能の目標領域を示している。即ち、図11における目標領域を示す破線より下の領域に、水透過流速(kg/mh)とエタノール透過流速(kg/mh)との値が存在する場合が、良好な分離性能を示す分離膜といえる。
【0116】
(結果)
表1及び図12に示すように、実施例1〜7にて得られた分離膜は、厚膜部の発生率が低く、膜厚が均一なものであった。また、表1、図11及び図12に示すように、実施例1〜7にて得られた分離膜は、分離性能の目標領域に水透過流速とエタノール透過流速とが収まっており、良好な分離性能を示す分離膜であった。
【0117】
一方、比較例1にて得られた分離膜は、分離性能の目標領域から大きく外れており、分離性能が悪いものであった。その原因としては、製膜工程において、余剰のポリアミド酸溶液がセル内に残留し、この余剰のポリアミド酸溶液が残留したまま、乾燥工程が行われたため、得られた分離膜において、部分的に膜厚が厚くなる箇所が非常に多数存在したことが考えられる。即ち、比較例1にて得られた分離膜は、厚膜部の発生率が、実施例1〜7と比較して極端に大きくなっており、厚膜部から分離膜が離れてしまったり、クラックが発生する等の欠陥が生じたものと想定される。
【0118】
実施例1〜7の結果から、モノリス基材の第一の端面及び第二の端面の大きさが同じであれば、セルの延びる方向の長さが変化した場合や、セルの個数が変化した場合でも、吸引量(%)や厚膜部の発生率(%)に大きな差異は見られなかった。また、吸引方法に関しては、部分的な吸引による吸引方法は、全体的な吸引による吸引方法に比較して、厚膜部の発生率(%)を低下させることができた。即ち、部分的な吸引による吸引方法の実施例1と、全体的な吸引による吸引方法の実施例4とでは、実施例4の方が吸引量(%)が大きい一方で、厚膜部の発生率(%)も高くなっていた。このことから、全体的な吸引による吸引方法において、吸引抵抗が小さいセルから、余剰の前駆体溶液がより優先的に吸引されていたことが考えられる。勿論、全体的な吸引による吸引方法においても、分離膜の分離性能は十分に良好なものであった。
【0119】
また、吸引時間が2分の実施例2では、セル吸引工程における吸引量が、その他の実施例と比較して少なくなっていた。そして、この吸引量に比例して、厚膜部の発生率が高くなっていた。また、従来の分離膜の製造方法では、モノリス基材の第一の端面及び第二の端面の直径が大きくなると、それに伴い厚膜部の発生率が高くなる傾向であるが、実施例7のように、セル吸引工程を行うことにより、厚膜部の発生率を抑制することができた。また、実施例1〜7の結果から、本発明の分離膜の製造方法においては、上述した吸引時間及び吸引量と、厚膜部の発生率(%)との相関性が認められるため、吸引時間や吸引量によって、セル吸引工程の終了時期を判断することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、バイオマス分野における水とエタノールとの分離のような各種混合物の分離に用いられる分離膜の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0121】
1:モノリス基材、2:セル、3:分離膜前駆体、11:第一の端面、12:第二の端面、14:ドライヤー、15:熱風、20:吸引ポンプ、21:管状部材、31:前駆体溶液、32:製膜容器、33:シール材、55:容器、56:シール材、57:恒温槽、58:ビーカー、59:供給液、60:循環ポンプ、64:真空ポンプ、70:真空制御機、71,72,73:循環ライン、75,76:浸透気化ライン、77:液体窒素、78:冷却トラップ、90:撹拌子、91:冷却管、100:モノリス基材(分離膜が形成されたモノリス基材)、101:モノリス基材、102:セル、102a:セル(厚膜部を有しないセル)、102b:セル(厚膜部を有するセル)、103:分離膜、105:厚膜部、111:第一の端面、112:第二の端面、200:分離膜複合体。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12