(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074454
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】プロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 17/389 20060101AFI20170123BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
C07C17/389
C07C21/18
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-98467(P2015-98467)
(22)【出願日】2015年5月13日
(62)【分割の表示】特願2012-533686(P2012-533686)の分割
【原出願日】2010年10月8日
(65)【公開番号】特開2015-166374(P2015-166374A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2015年6月10日
(31)【優先権主張番号】0918069.6
(32)【優先日】2009年10月15日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】510127697
【氏名又は名称】メキシケム、アマンコ、ホールディング、ソシエダッド、アノニマ、デ、カピタル、バリアブレ
【氏名又は名称原語表記】MEXICHEM AMANCO HOLDING S.A. DE C.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー、ポール、シャラット
(72)【発明者】
【氏名】クレア、エリザベス、マクギネス
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ヘイズ
【審査官】
井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−156539(JP,A)
【文献】
特表平07−508215(JP,A)
【文献】
特開2002−154996(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/123786(WO,A1)
【文献】
特表2013−508265(JP,A)
【文献】
特表2003−533447(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/001844(WO,A1)
【文献】
特開2015−178514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(R‐1234yf)から=CHFまたは=CF2部分を含有する1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物(但し(ヒドロ)クロロフルオロカーボン種を除く)を除去する方法であって、R‐1234yfおよび1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる組成物をアルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物と接触させることを含んでなる方法。
【請求項2】
1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボンが(ヒドロ)フルオロアルケン類から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボンが1,1,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(R‐1225zc)または1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(R‐1225ye)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アルミニウム含有吸着剤が多孔質であり、アルミナまたはアルミノシリケートを含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アルミノシリケートが、3〜12オングストローム範囲の孔径を有する分子篩(ゼオライト)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
活性炭が、金属、金属化合物、塩基およびそれらの混合物から選択される添加剤で含浸されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
添加剤がアルカリ金属塩である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アルカリ金属塩が塩基である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物が、R−1234yfおよび1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる組成物の重量基準で、0.1〜1000ppmの量で存在している、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
組成物中に存在する望ましくない化合物の少なくとも50%が除去される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
方法が−50℃〜200℃の温度で行われる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
接触工程後に、得られた組成物がR−1234yfと0〜10ppmの望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
R−1234yfおよび1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる組成物が、R−1234yfを生成するプロセスから出る生成物流である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項13に記載のR−1234yfから1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を除去する方法であって、1回以上の追加精製工程と組み合わされる方法。
【請求項15】
R−1234yfおよび1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる組成物が、アルミニウム含有吸着剤と接触される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(ヒドロ)フルオロアルケン類を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この明細書における背景情報またはおそらく既公開の文書の掲載または考察は、該情報または文書が業界水準の一部であるかまたは一般常識であることの承認として必ずしもうけとるべきでない。
【0003】
(ヒドロ)フルオロアルケン類は、冷却、ヒートポンピング、発泡成形、消火剤/防火剤、噴射剤および溶解作用(例えば、プラズマ洗浄およびエッチング)のような用途で、作動流体として次第にみなされつつある。(ヒドロ)フルオロアルケン類を製造するために用いられる方法は、毒性および/またはそれ以外の望ましくない副産物の生成に至ることがある。少量の不純物の存在は(ヒドロ)フルオロアルケン産物のバルク物性にとり有害でないかもしれず、一部の用途ではそれらの除去が不要である。しかしながら、一部の用途では極めて低レベルの不純物であることを要し、これらの多くは認知された手段により(ヒドロ)フルオロアルケン類から除去することが難しい。
【0004】
例えば、不純物は多くの場合に蒸留により(ヒドロ)フルオロアルケン類から除去されるが、不純物の沸点が(ヒドロ)フルオロアルケンの場合に近ければ、または物質間相互作用がそうでなければ異沸点の化合物を互いに近づけさせてしまえば(例えば、共沸混合物)、この除去方法は困難となる。更に、蒸留後でも、少量の望ましくない不純物が残留することはあり得るのである。
【0005】
3,3,3‐トリフルオロプロペン(R‐1243zf)が(ヒドロ)フルオロアルケンの一例である。R‐1243zfは冷却のような用途で使用を見い出せると考えられている。市販R‐1243zfは、高毒性種1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(R‐1225ye)、1,1,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(R‐1225zc)と、環境に害を与えるクロロフルオロカーボン種クロロフルオロメタン(R‐31)、クロロフルオロエテン(R‐1131)、トリクロロフルオロメタン(R‐11)、ジクロロジフルオロメタン(R‐12)、クロロトリフルオロメタン(R‐13)およびジクロロテトラフルオロエタン(R‐114)を含めた、多くの不純物を含有している。蒸留はR‐1243zfを精製する際に使用が限られるが、この技術を用いて不純物をすべて除去することは難しいからである。例えば、R‐1225zc(沸点−25.82℃)は蒸留によりR‐1243zf(沸点−25.19℃)から除去することが非常に難しい。
【0006】
要するに、(ヒドロ)フルオロアルケン類を精製するための改良法について必要性がある。
【発明の開示】
【0007】
アルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物が、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンも含有している組成物から、1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を除去する際に有効であることを、本発明者らは意外にも発見したのである。
【0008】
このように、本発明は、(ヒドロ)フルオロアルケンから1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を除去する方法を提供することにより、上記および他の欠点に取り組んでおり、該方法は(ヒドロ)フルオロアルケンおよび1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる組成物をアルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物と接触させることを含んでなる。
【0009】
用語“(ヒドロ)フルオロアルケン類”とは、我々は、炭素原子に加えてフッ素および場合により水素原子を含有している、直鎖または分岐不飽和化合物に関する。このように、該用語は、炭素に加えてフッ素および水素原子を双方とも含有するヒドロフルオロアルケン類のみならず、ペルフルオロアルケン類も含む。ヒドロフルオロアルケン類が(ヒドロ)フルオロアルケン類の好ましい群である。(ヒドロ)フルオロアルケン類の好ましい例としては、C
2‐10(ヒドロ)フルオロアルケン類、特にC
3‐7(ヒドロ)フルオロアルケン類がある。一態様において、(ヒドロ)フルオロアルケンは、水素およびフッ素置換基を含有するC
3‐7ヒドロフルオロアルケンである。
【0010】
好ましい態様において、(ヒドロ)フルオロアルケンは(ヒドロ)フルオロプロペンである。本発明の方法により精製されうる(ヒドロ)フルオロプロペン類の例としては、0、1、2、3、4または5の水素置換基と1、2、3、4、5または6のフッ素置換基を含有したものがある。好ましい(ヒドロ)フルオロプロペン類は、3〜5のフッ素原子(および1〜3の水素原子)を有するヒドロフルオロプロペン類である。言い換えれば、好ましいヒドロフルオロプロペン類はトリフルオロプロペン類、テトラフルオロプロペン類およびペンタフルオロプロペン類、特にトリフルオロプロペン類およびテトラフルオロプロペン類である。
【0011】
適切なトリフルオロプロペン類の例としては、3,3,3‐トリフルオロプロペン(CF
3CH=CH
2、R‐1243zfとしても知られる)、2,3,3‐トリフルオロプロペン(CF
2HCF=CH
2)、1,2,3‐トリフルオロプロペン(CFH
2CF=CHF)および1,3,3‐トリフルオロプロペン(CF
2HCH=CHF)があるが、それらに限定されない。本発明の方法により精製されうる好ましいトリフルオロプロペンはR‐1243zfである。
【0012】
適切なテトラフルオロプロペン類の例としては、2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(CF
3CF=CH
2、R‐1234yfとしても知られる)、1,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(E/Z‐HFC=CHCF
3、R‐1234zeとしても知られる)、1,2,3,3‐テトラフルオロプロペン(HFC=CFCF
2H)、1,1,3,3‐テトラフルオロプロペン(F
2C=CHCF
2H)および1,1,2,3‐テトラフルオロプロペン(F
2C=CFCH
2F)がある。R‐1234zeおよびR‐1234yf、特にR‐1234zeが、本発明の方法により精製されうる、好ましいテトラフルオロプロペン類である。
【0013】
適切なペンタフルオロプロペン類の例としては、1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(E/Z‐HFC=CFCF
3、R‐1225yeとしても知られる)、1,1,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(F
2C=CHCF
3、R‐1225zcとしても知られる)および1,1,2,3,3‐ペンタフルオロプロペン(F
2C=CFCF
2H)がある。これらの中では、R‐1225yeが、本発明の方法により精製されうる、好ましいペンタフルオロプロペンである。
【0014】
一態様において、本発明の方法により精製されうる(ヒドロ)フルオロアルケンは、R‐1243zf、R‐1234yf、R‐1234ze、R‐1225yeおよびそれらの混合物から選択されるヒドロフルオロプロペンである。好ましくは、(ヒドロ)フルオロアルケンはR‐1243zf、R‐1234yf、R‐1234zeおよびそれらの混合物から選択され、例えばR‐1243zfおよび/またはR‐1234yfから選択されるか、またはR‐1243zfおよび/またはR‐1234zeから選択される。
【0015】
用語“望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物”とは、我々は、精製されることになる(ヒドロ)フルオロアルケンから除去することが望ましい、炭素原子に加えてハロゲンおよび場合により水素原子を含有している、飽和または不飽和直鎖または分岐化合物を意味する。このように、該用語は、炭素原子に加えて水素およびハロゲン原子を双方とも含有するヒドロハロカーボン類のみならず、ペルハロカーボン類も含む。典型的には、これには(ヒドロ)フルオロアルカン類、(ヒドロ)フルオロアルケン類、(ヒドロ)フルオロアルキン類および(ヒドロ)クロロフルオロカーボン(CFC)種、例えば(ヒドロ)クロロフルオロアルカン類、(ヒドロ)クロロフルオロアルケン類および(ヒドロ)クロロフルオロアルキン類がある。
【0016】
上記された望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物には(ヒドロ)フルオロアルケン類を含むことがある。当業者であれば、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンを含有する組成物中にある望ましくない(ヒドロ)フルオロアルケン類が存在しうることをわかるであろう。このような望ましくない(ヒドロ)フルオロアルケン類の例としては、=CHFまたは=CF
2基を含有するものがある。アルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物が、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンを含有している組成物から、=CHFまたは=CF
2部分(特に=CF
2)を含有した(ヒドロ)フルオロアルケン類を除去する際に有効であることを、本発明者らは意外にも発見したのである。
【0017】
例として、当業者が具体的なトリフルオロプロペン(例えば、R‐1243zf)を精製しようとすれば、そのトリフルオロプロペンは他の(ヒドロ)フルオロアルケン類、例えばテトラフルオロプロペン類またはペンタフルオロプロペン類により混入されることがある。上記のように、R‐1225yeおよびR‐1225zcが市販R‐1243zfで典型的な不純物である。アルミニウム含有吸着剤および/または活性炭の使用により、このような望ましくない(ヒドロ)フルオロアルケン類は、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンを含有する組成物から本発明の方法により除去される。したがって、一態様において、本発明の方法により精製される望まれる(ヒドロ)フルオロアルケン(例えば、(ヒドロ)フルオロプロペン)は、(i)ペンタフルオロプロペン、例えばR‐1225ye、R‐1225zcまたはF
2C=CFCF
2H(例えば、R‐1225zc);または(ii)=CF
2部分を含有する(ヒドロ)フルオロアルケンではない。
【0018】
一面において、本発明の方法は、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンR‐1243zfを含んでなる組成物から、望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン(類)R‐1225zc、R‐31および/またはR133aを除去する際に有効である。
【0019】
一方でまたは加えて、本発明の方法は、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンR‐1234zeを含んでなる組成物から、望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン トリフルオロメチルアセチレン(TFMA)を除去する際に有効である。
【0020】
アルミニウム含有吸着剤または活性炭は多孔質でもまたは非多孔質でもよいが、好ましくは多孔質である。
【0021】
本発明による方法で使用上好ましいアルミニウム含有吸着剤はアルミナまたはアルミナ含有基材である。有利には、該基材は多孔質である。アルミナの様々な結晶形に関する更なる情報はActa.Cryst.,1991,B47,617でみられ、その内容は参照によりここに組み込まれる。
【0022】
本発明による使用上で好ましいアルミニウム含有吸着剤(例えば、アルミナ)は、該吸着剤が除去すべき化合物とのそれらの結合を促す官能基を有している。このような官能性の例としては、吸着剤が除去すべき化合物との結合を促す、性質上ルイス型またはブレンステッド型である、酸性または塩基性がある。酸性または塩基性は、硫酸ナトリウムのような改質剤を用いることにより、当業者に周知の手法で変えられる。酸性または塩基性官能基をもつアルミニウム含有吸着剤の例としては、酸性であるEta‐アルミナ、および塩基性であるアルミナAL0104がある。
【0023】
アルミノシリケート分子篩(ゼオライト)が、本発明で用いられるアルミニウム含有吸着剤の別な好ましい群である。典型的には、ゼオライトは、望まれるおよび望ましくない化合物をゼオライトの内部へ侵入させ、それにより望ましくない化合物が留められるほど十分に大きな開口部をもつ、小孔を有している。したがって、それらの最大寸法で3Å〜12Å範囲の大きさを有する開口部をもつ小孔を有したゼオライトが好ましい。
【0024】
好ましいゼオライトは、望ましくない化合物をゼオライトの内部へ侵入させ、それにより望ましくない化合物が留められ、一方で望まれる化合物をゼオライトの内部へ入れさせないほど十分に大きな小孔開口部を有している。このようなゼオライトは、典型的には、それらの最大寸法で3Å〜12Å、好ましくは3Å〜10Åまたは4Å〜12Å範囲の大きさをもつ開口部を有している。特に好ましいものは、最大寸法で4Å〜10Å、例えば4Å〜8Å(例えば、4Å〜5Å)範囲の大きさを有する開口部をもつ小孔を有した分子篩であり、それにはゼオライトY、超安定Y(脱アルミニウム化Y)、ゼオライトβ、ゼオライトX、ゼオライトAおよびゼオライトZSM‐5、AW‐500がある。
【0025】
この関係において開口部とは、我々は、望ましくない化合物が小孔の本体へ入り、そこでそれが留められる、小孔の出入口のことを言う。小孔への開口部は楕円形、本質的に円形または一様に不規則な形でもよいが、通常は楕円形または本質的に円形である。小孔開口部が本質的に円形である場合、それらは小さな方の寸法で約3Å範囲の直径を有しているべきである。開口部の大きさがその最大寸法で約3Å〜約12Åの範囲であれば、それらは化合物を吸着する際になお有効となりうる。小さな方の寸法で3Å以下である楕円形開口部をもつ小孔を吸着剤が有している場合、開口部の大きさがその最大寸法で約3Å〜約12Åの範囲であれば、それらは化合物を吸着する際になお有効となりうる。
【0026】
“活性炭”とは、我々は、約50〜約3000m
2または約100〜約2000m
2(例えば、約200〜約1500m
2または約300〜約1000m
2)のように、比較的高い表面積のカーボンを含めている。活性炭は炭(例えば、木炭)、堅果殻(例えば、ココナツ)および木のような炭質物から得られる。粉末、粒状、押出および小球状の活性炭のように、いかなる形の活性炭でも用いられる。
【0027】
活性炭の官能性を変え、除去することが望まれる化合物との結合を促す、添加剤により改質(例えば、含浸)された活性炭が好ましい。適切な添加剤の例としては、金属または金属化合物、および塩基がある。
【0028】
典型的な金属としては、遷移、アルカリまたはアルカリ土類金属、またはそれらの塩がある。適切な金属の例としては、Na、K、Cr、Mn、Au、Fe、Cu、Zn、Sn、Ta、Ti、Sb、Al、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pdおよび/またはPtおよび/またはこれら金属の1種以上の化合物(例えば、ハロゲン化物、水酸化物、炭酸塩)がある。アルカリ金属(例えば、NaまたはK)塩、例えばアルカリ金属塩のハロゲン化物、水酸化物または炭酸塩が、現在のところ活性炭向け添加剤の好ましい群である。アルカリ金属塩の水酸化物または炭酸塩は塩基である。アミド類(例えば、ナトリウムアミド)を含めて、いかなる他の適切な塩基も用いうる。
【0029】
含浸された活性炭は、当業界で知られている手段により、例えば望まれる塩または塩類の溶液にカーボンを浸漬して、溶媒を蒸発させることにより製造される。
【0030】
適切な市販活性炭の例としては、Chemviron Carbon市販のもの、例えばCarbon 207C、Carbon ST1X、Carbon 209MおよびCarbon 207EAがある。Carbon ST1Xが現在好ましい。しかしながら、ここで記載されているように処理および使用されるならば、いかなる活性炭も本発明で用いられる。
【0031】
有利には、特に望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンも含有している組成物から特定の望ましくない化合物を除去する際に各々が個別に有効である場合、アルミニウム含有吸着剤および活性炭の組合せが本発明の方法で用いられる。アルミニウム含有吸着剤および活性炭の好ましい組合せの例としては、ゼオライトおよび活性炭とアルミニウム含有吸着剤および含浸活性炭がある。
【0032】
本発明は、1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を除去することが望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンを含有している組成物に適用される。例えば、該組成物は(ヒドロ)フルオロアルケンを生成する方法から出る生成物流である。したがって、本発明の方法は(ヒドロ)フルオロアルケンを生成する方法における精製工程である。
【0033】
本発明の方法は、フルオロアルケンを生成する方法における、幾つかの精製工程の1つである。例えば、本発明の方法は1回以上の蒸留、凝縮または相分離工程、および/または水または水性ベースでのスクラビングと組み合わされる。
【0034】
本発明の方法は、組成物(例えば、生成物流)が液または蒸気相にあることを要する。
液相接触が好ましい。
【0035】
吸着剤の固定床での処理が、典型的には連続プロセスに適用される。組成物(例えば、生成物流)は、アルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物を含んでなる固定床の上または中に通される。
【0036】
アルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物は、通常、使用前に乾燥空気または乾燥窒素のような乾燥気流中で加熱することにより予備処理される。このプロセスは、アルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物を活性化する効果を有している。予備処理用に典型的な温度は、約100〜約400℃(例えば、約100〜約300℃)の範囲である。
【0037】
本発明の方法は、バッチまたは連続式で操作されるが、連続式が好ましい。いずれの場合も、プロセスの作業中に、アルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物の吸着能力は徐々に下がり、小孔が1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物で塞がれるからである。最終的に、望ましくない化合物を吸着するアルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物の能力は実質的に損なわれ、その段階でそれは再生されるべきである。再生は、典型的には、約100〜約400℃、例えば約100〜約300℃(例えば、約100〜約200℃)範囲の温度および約1〜約30バール(例えば、約5〜約15バール)範囲の圧力で、乾燥空気または乾燥窒素のような乾燥気流中で使用済みのアルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物を加熱することにより行われる。
【0038】
本発明の方法は、典型的には、約−50℃〜約200℃、好ましくは約0℃〜約100℃、例えば約10〜約50℃範囲の温度で行われる。この温度範囲は精製容器の内側の温度に該当する。
【0039】
(ヒドロ)フルオロアルケン類は、特に反応官能基(例えば、酸、塩基、金属など)を含有するアルミニウム含有吸着剤および/または活性炭と接触したときに、反応を受けやすい二重結合を含有している。例えば、ある(ヒドロ)フルオロアルケン類はモノマーであることが知られ、このような吸着剤の存在下でそれらが重合するかもしれないと予想する人もいる。
【0040】
(ヒドロ)フルオロアルケン類がアルミニウム含有吸着剤および/または活性炭の存在下で意外にも安定であることを、本発明者らは発見した。これは、一部は、本発明の方法が実施されるマイルドな条件(例えば、温度)のためかもしれない。
【0041】
本発明の方法に典型的な作業圧力は約1〜約30バール、例えば約1〜約20バール、好ましくは約5〜約15バールである。
【0042】
本発明の(バッチ)プロセスにおいて、アルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物は、典型的には、(ヒドロ)フルオロアルケンと1種以上の望ましくない化合物を含んでなる組成物の重量基準で、約0.1〜約100重量%、例えば約1または5〜約50重量%、好ましくは約10〜約50重量%の量で用いられる。
【0043】
本発明の連続プロセスにおいて、アルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物への、(ヒドロ)フルオロアルケンと1種以上の望ましくない化合物を含んでなる組成物(例えば、生成物流)の典型的供給速度は、液相における吸着結合物と吸着剤との接触時間が約0.1〜24時間、好ましくは約1〜8時間となるようなものである。好ましい作業様式において、望ましくない成分のレベルが十分に低下するまで、吸着結合物は吸着剤床へ連続的に再循環される。蒸気相接触が利用される場合、吸着結合物と吸着剤との接触時間は約0.001〜4時間、好ましくは約0.01〜0.5時間である。好ましい作業様式において、望ましくない成分のレベルが十分に低下するまで、吸着結合物は吸着剤床へ連続的に再循環される。
【0044】
本発明は、精製されるべき(ヒドロ)フルオロアルケンを含有している組成物(例えば、生成物流)から比較的低レベルの望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を除去するために、特に適している。典型的レベルは、約0.1〜約1000ppm、例えば約0.1〜約500ppm、好ましくは約1〜約100ppmである。
【0045】
本発明の方法は、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンを含んでなる組成物中に存在する望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物(類)の少なくとも一部を除去する。好ましくは、本発明は、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンを含んでなる組成物中に存在する望ましくない化合物(類)の少なくとも50%、60%、70%または80%を除去する。更に好ましくは、該組成物は、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンを含んでなる組成物中に存在する望ましくない化合物(類)の少なくとも90%、95%または更には99%を除去する。
【0046】
本発明の方法による精製後、望まれる(ヒドロ)フルオロアルケンを含んでなる組成物中における望ましくない化合物(類)のレベルは、典型的には、検出不能(現在利用可能な技術、例えばキャピラリーガスクロマトグラフィーによる)から約10ppm、例えば約0.01ppm〜約5ppm、好ましくは検出不能から約1ppmまでである。
【実施例】
【0047】
本発明は以下の非制限例で実証されている。
【0048】
例1
R‐1243zfから標的化合物R‐1225zcおよびトリフルオロメチルアセチレン(TFMA)を除去する効力について、ある範囲の吸着剤を検査した。400ppm wt/wt TFMAおよび765ppm wt/wt R‐1225zcでドープされたR‐1243zfのサンプルを調製した。50gのこのR‐1243zfを次いで周囲温度で密封圧力管中5gの吸着剤で処理した。R‐1243zfと吸着剤との接触から20分間後および一部の場合では16時間後に、サンプルをキャピラリーGCによる分析に付した。以下の吸着剤を検査した:
Eta-アルミナ BASF製‐酸性形の活性アルミナ
Chemviron活性炭207EA
Chemviron活性炭207EA中10%水酸化カリウム
Chemviron活性炭207EA中10%炭酸カリウム
Chemviron活性炭207EA中10%ヨウ化カリウム
Chemviron活性炭207EA中10%水酸化カリウムおよび10%ヨウ化カリウム
Chemviron ST1x‐塩基を含む、様々な種で含浸された207EAを含んでなる活性炭
【0049】
207EAのドープサンプルを水含浸により調製した。ドーパント(1g)を100g水に溶解し、10gの207EAを加えた。混合後、遊離固体物を残留させるために水を真空下で除去した。
【0050】
使用前、すべての吸着剤を窒素パージオーブン中250〜300℃で最短16時間かけて予備活性化した。
【0051】
結果が下記表に掲載されている:
【0052】
【表1】
【0053】
検査された吸着剤のすべてが、R‐1243zfからR‐1225zcおよびTFMAの一方または双方の除去に際して有用性を示した。しかしながら、最も有効な吸着剤は、ST1xカーボンを含む、塩基、水酸化または炭酸カリウムのいずれかでドープされたものであった。
【0054】
例2
市販R‐1243zfのサンプル(例えば、これはApollo Scientificから得られる)を入手し、キャピラリーGC‐MSにより分析した。このR‐1243zfは、とりわけ、以下の不純物を含有していることがわかった:
【0055】
【表2】
【0056】
R‐1225zc、R‐31およびR‐133aは毒性化合物であり、例えば冷媒として、使用前にR‐1243zfからそれらを除去することが望ましいと考えられていた。
沸点差が蒸留によるR‐1243zfからのこれら成分の一部の分離を実現可能にしている場合であっても、このような方法が非常にエネルギー集約的かつ非効率的になることを低レベルは意味している。したがって、R‐1243zfからこれらの不純物、特にR‐1225zc、R‐31およびR‐133aを除去する別な手段が求められていた。その目的のために一連の実験が行われ、R‐1243zfから3種の標的化合物R‐1225zc、R‐31およびR‐133aの除去に関してある範囲の吸着剤物質の効力が試験された。
【0057】
検査された吸着剤の範囲は以下である:
Eta-アルミナ BASF製‐酸性形の活性アルミナ
Chemviron活性炭207c‐ヤシ殻由来
Chemviron活性炭209M
Chemviron活性炭207EA
Chemviron ST1x‐塩基を含む、様々な種で含浸された207EAを含んでなる活性炭Chemviron活性炭209m
13X分子篩アルミノシリケートまたはゼオライト
AW500‐酸安定性アルミノシリケートまたはゼオライト
アルミナAL0104‐BASF製‐塩基形のアルミナ
【0058】
カーボンベース吸着剤を使用前に窒素流中200℃で16時間かけて予備活性化し、無機吸着剤を窒素流中300℃で再び16時間にわたり活性化した。次いで再循環システム中において約100gのR‐1243zfを2〜4gの各吸着剤で処理することにより吸着剤の各々の効力について評価し、その際にR‐1243zfを周囲温度で16時間にわたり吸着剤床へ連続的に導入した。処理期間後、R‐1243zfの少量サンプルをキャピラリーGC‐MSによる分析に付した。処理されたR‐1243zfの分析結果が、下記表において未処理R‐1243zf(不純物の量に関しては前表参照)と比較されている。
【0059】
【表3】
【0060】
試験された吸着剤のすべてが、少なくとも1種の混入物のレベルを低下させる上で有効であった。しかしながら、3種の標的化合物R‐1225zc、R‐31およびR‐133aについて、塩基含浸活性炭ST1xおよび分子篩AW500が特に有効であった。
【0061】
例3
R‐1243zfは以前にモノマーとして使用を見い出され、オレフィンとして、特に本発明の方法で用いられる吸着剤の多くに存在する反応性表面と接触したときに、重合または他の反応を受けやすいのではと合理的に予想されていた。これは、本発明の商業性をかなり制限することになる。したがって、ST1xカーボンおよびAW500のような吸着剤と接触することにより、何らかの反応プロセスがR‐1243zfの吸着精製に伴うのかについて、我々は調べようとした。
【0062】
ST1xカーボンおよびAW500のサンプルを使用前に窒素流下200〜300℃で16時間かけて予備処理した。20gサンプルを次いで取り出し、正確に秤量し、清潔な乾燥300mL Hastelloyオートクレーブへ個別にまたは一緒に加えた。オートクレーブを密封し、窒素でパージし、圧力を調べた。オートクレーブを次いでR‐1243zfで充填した。オートクレーブとその内容物を次いで80または120℃へ24時間にわたり加熱した。各実験の最後に、R‐1243zfを分析用に回収した。吸着剤も回収し、105℃で乾燥後に再秤量した。結果が下記表に掲載されている。
【0063】
各実験の最後に、回収されたR‐1243zfは外見上変化していなかった。各試験後にR‐1243zfの蒸発で残される残渣はなかった。詳細な分析によると、吸着剤ST1xおよびAW500は、単独でまたは特に組合せで、これら試験の条件下においてなお有効であることを明らかにした。更に、重合または分解を含めた望ましくない副反応に関する証拠はなかった。したがって、これらの吸着剤は、単独でおよび組合せで、例えばR‐1243zfの精製に商業規模で適することが示された。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
例4
180kgバッチのR‐1243zfから微量不純物を除去するために、本発明の方法を商業規模で行った。85リットル吸着床を19.5kg ST1xカーボンおよび19.5kg AW500分子篩で充填した。リグを密封し、空気を除去するために排気した。供給容器(全容積270リットル)を約180kgの市販R‐1243zfで充填した。この物質は例2で特定されたものと類似したレベルで類似不純物を含有していた。
【0067】
粗R‐1243zfを次いで供給容器から吸着床へ導入し、周囲温度で供給容器へ戻した。充填されたR‐1243zfをこうして吸着床へ5時間にわたり再循環させた。その期間後にR‐1243zfを受容器へ導入したが、そこでは貯蔵および分析用に回収することができた。分析後に各180kg充填物を60kgバッチに分けた。吸着剤充填物は少なくとも360kgのR‐1243zfを処理しうることがわかった。こうして処理された3つの60kgバッチのR‐1243zfの分析結果が下記表に掲載されている:
【0068】
【表6】
【0069】
本発明は以下の態様を包含するものである。
[項1]
(ヒドロ)フルオロアルケンから1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を除去する方法であって、(ヒドロ)フルオロアルケンおよび1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる組成物をアルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物と接触させることを含んでなる方法。
[項2]
(ヒドロ)フルオロアルケンがC
3‐7(ヒドロ)フルオロアルケンである、項1に記載の方法。
[項3]
C
3‐7(ヒドロ)フルオロアルケンがヒドロフルオロプロペンである、項2に記載の方法。
[項4]
ヒドロフルオロプロペンがトリフルオロプロペンまたはテトラフルオロプロペンである、項3に記載の方法。
[項5]
トリフルオロプロペンが3,3,3‐トリフルオロプロペン(R‐1243zf)である、項4に記載の方法。
[項6]
テトラフルオロプロペンがE/Z‐1,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(R‐1234ze)または2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(R‐1234yf)である、項4に記載の方法。
[項7]
(ヒドロ)ハロカーボンが(ヒドロ)フルオロアルカン類、(ヒドロ)フルオロアルケン類、(ヒドロ)フルオロアルキン類および(ヒドロ)クロロフルオロカーボン(CFC)種、例えば(ヒドロ)クロロフルオロアルカン類、(ヒドロ)クロロフルオロアルケン類および(ヒドロ)クロロフルオロアルキン類から選択される、項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
[項8]
アルミニウム含有吸着剤が多孔質であり、アルミナまたはアルミノシリケートを含んでなる、項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
[項9]
アルミナが酸性官能基を含んでなる、項8に記載の方法。
[項10]
アルミノシリケートが、3〜12オングストローム範囲の孔径を有する分子篩(ゼオライト)である、項8に記載の方法。
[項11]
活性炭が、金属、金属化合物、塩基およびそれらの混合物から選択される添加剤で含浸されている、項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
[項12]
添加剤がアルカリ金属塩である、項11に記載の方法。
[項13]
アルカリ金属塩が塩基である、項12に記載の方法。
[項14]
望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物が、(ヒドロ)フルオロアルケンおよび1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる組成物の重量基準で、約0.1〜約1000ppmの量で存在している、項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
[項15]
接触工程後に、得られた組成物が(ヒドロ)フルオロアルケンと約0〜約10ppmの望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる、項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
[項16]
(ヒドロ)フルオロアルケンおよび1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含んでなる組成物が、(ヒドロ)フルオロアルケンを生成するプロセスから出る生成物流である、項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
[項17]
項16に記載の(ヒドロ)フルオロアルケンから1種以上の望ましくない(ヒドロ)ハロカーボン化合物を除去する方法であって、1回以上の追加精製工程と組み合わされる方法。
[項18]
所望により実施例を参照しつつ、ここに一般的に記載されているような、あらゆる新規の方法。