【実施例】
【0051】
このように、水流処理を行ったガラス繊維シート5は第1のコート材7の裏抜け防止に効果的である。しかし、水流処理を行ったガラス繊維シート5であっても、目付の値が低すぎると通気度が高くなり、やはり第1のコート材7の裏抜けを起こす可能性がある。又、目付の値が高すぎると
図5で示した温度センサ18による制御に不具合が生じたり、熱効率が低下して電磁調理器13bによる加熱機能そのものを損う虞もある。
【0052】
そこで、ガラス繊維シート5の通気度による汚れ防止マット1の品質への影響の度合いを検討するために実験を行った。
【0053】
まず、実験に際して、従来技術である平織りの一般ガラス繊維シートと、平織りの水流処理ガラス繊維シートとを、各々の目付(g/m
2)が30、50、100、150、200、250、300、500、1000、1500、2000、2500、3000のもの毎に準備し、各ガラス繊維の通気度をJISL1096に基づいて測定した。尚、各ガラス繊維シートに対して塗布する第1のコート材及び第2のコート材は粘度が25万cPのものとし、塗布量は、いずれもガラス繊維シートの一方面と他方面との各々に対し70g/m
2とした。
【0054】
次に、このようにして得られた試料毎に、汚れ防止マットの裏抜けの有無の判定及び使用状態における電磁調理器への影響の測定を行った。
1.裏抜けに対する実験
(1)測定条件
試料毎に、第1のコート材の裏抜けの有無を目視にて判定する。
(2)測定基準
第1のコート材の裏抜けがなかったものを合格とし、第1のコート材の裏抜けがあったものを不合格とする。
2.温度センサの作動に対する実験
(1)測定条件
以下の機器等において、各試料を鍋とトッププレートとの間にセットし、鍋にサラダ油200ccを入れて、油温22℃の状態から「揚げ物機能」で加熱し、温度センサの作動の有無及び油温を測定する。
電磁調理器:クッキングヒーター(三菱電機製:CS−G3205BDS)
鍋:専用天ぷら鍋:鍋径22cm(ウルシヤマ金属工業製:CS−100667)
油:日清サラダ油(日清オイリオグループ)
油温測定器:赤外線放射温度計(佐藤計量器製:SK−8700II)
(2)測定基準
作動の適否は、本来の使用状態における温度センサの作動状況、及び、「揚げ物機能」の機能を基準に判断する。
【0055】
ここで、使用した電磁調理器にあっては、安全に使用できる油量が500cc以上とされている。したがって、今回の油量200ccは適切な使用量ではないことになる。この油量において、汚れ防止マットを使用しない状態、即ち電磁調理器の本来の使用状態と言える状態で加熱を行うと、2分経過後に強制的に加熱が停止する。これは、加熱後所定時間内における温度センサの検知温度の上昇度合いから、鍋に保有されている油の量が安全上少なく空焚きの虞があると判断されるためである。
【0056】
又、「揚げ物機能」とは、加熱された鍋の熱を、トッププレートを介して温度センサが検知し、この検知温度に基づいて加熱量を調整して油温をほぼ200℃に保つ機能を意味する。
【0057】
よって、本実験においては、加熱開始から2分経過後に強制的に加熱が停止するか否かと、油温が200℃を大幅に超えることがないか否かとを、作動の適否の基準とする。
3.熱効率に対する実験
(1)測定条件
以下の機器等において、各試料を鍋とトッププレートとの間にセットし、鍋に水1リットルを入れて、水温22℃の状態から3kWの火力で加熱し、水温が90℃に到達するまでの時間を測定する。
電磁調理器:クッキングヒーター(三菱電機製:CS−G3205BDS)
鍋:IHミッション フライパン:鍋径21cm(ティファール製:C65102)
水温測定器:赤外線放射温度計(佐藤計量器製:SK−8700II)
(2)測定基準
熱効率が所定の範囲に保たれているか否かは、本来の使用状態において水温が90℃に到達するまでの時間を基準に判断する。
【0058】
ここで、この水量において、汚れ防止マットを使用しない状態、即ち電磁調理器の本来の使用状態と言える状態で加熱を行うと、約120秒で水温が90℃に到達する。
【0059】
よって、本実験においては、水温が90℃に到達するまでの時間が120秒を大幅に超えることがないか否かを、熱効率が所定の範囲に保たれているか否かの基準とする。
【0060】
上記各実験による測定結果を以下の表に示す。
【0061】
【表1】
4.裏抜けに対する実験の測定結果
上記の表の「裏抜け」の列を参照して、コート材の裏抜けがなかったものには○印を、コート材の裏抜けがあったものには×印を付けている。
【0062】
測定結果から以下の内容が判明した。
【0063】
一般ガラス繊維シートを備えた汚れ防止マットでは、ガラス繊維シートの目付が300g/m
2以下になると裏抜けが生じる。一方、水流処理ガラス繊維シートを備えた汚れ防止マットでは、目付が300g/m
2以下であってもガラス繊維シートの目付が50g/m
2以上の場合では裏抜けは生じない。
【0064】
これは、ガラス繊維シートの目付の低下に伴って、ガラス繊維シートの通気度が上昇することに起因しているものと思われる。尚、水流処理した場合であってもガラス繊維シートの目付が30g/m
2になると裏抜けが生じるが、これは、ガラス繊維が細くなりすぎたために水流処理を施してもガラス繊維シートの通気度が十分に低下しなかったことに起因しているものと思われる。
【0065】
全試料における裏抜けが生じた場合のガラス繊維シートの通気度の最低値は、ガラス繊維シートの目付300g/m
2における一般ガラス繊維シートの通気度8.6cc/(cm
2・s)である。一方、裏抜けが生じなかった場合のガラス繊維シートの通気度の最高値は、ガラス繊維シートの目付50g/m
2における水流処理ガラス繊維シートの通気度8.5cc/(cm
2・s)である。
【0066】
したがって、ガラス繊維シートの通気度が8.5cc/(cm
2・s)以下であれば、コート材の裏抜けは生じないと言える。
【0067】
又、水流処理ガラス繊維シートを備えた汚れ防止マットでは、ガラス繊維シートの目付が50g/m
2以上であれば、コート材の裏抜けは生じないと言える。
5.温度センサの作動に対する実験の測定結果
上記の表の「センサ」の列を参照して、温度センサが適切に作動したものには○印を、温度センサが適切に作動しなかったものには×印を付けている。
【0068】
測定結果から以下の内容が判明した。
【0069】
一般ガラス繊維シートを備えた汚れ防止マットと水流処理ガラス繊維シートを備えた汚れ防止マットとのどちらにおいても、ガラス繊維シートの目付が300g/m
2以下の場合は、2分経過後に強制的に加熱が停止し、油温度が200℃を超えることもなかった。よって、本来の使用状態における使用状況と実質的な差異がなく、温度センサが適切に作動していると言える。
【0070】
一方、ガラス繊維シートの目付が500g/m
2以上の場合は、2分経過しても強制的に加熱が停止せず、そのまま加熱を継続すると、5分経過後には油温度が300℃前後にまで上昇した。これは、ガラス繊維シートの目付の増加に伴い厚みが増加した汚れ防止マットの断熱作用の影響を受け、温度センサの検知温度がトッププレートの実際の温度に比べて低くなっていることに起因しているものと思われる。よって、このような状態をもたらす目付の汚れ防止マットは、汚れ防止効果は奏するものの、使用に適したものではないと言える。
【0071】
したがって、温度センサの適切な作動という観点からは、ガラス繊維シートの目付が300g/m
2以下の汚れ防止マットが使用に適したものであると言える。
6.熱効率に対する実験の測定結果
上記の表の「熱効率」の列を参照して、熱効率が所定の範囲に保たれているものには○印を、熱効率が下がったものには×印を付けている。
【0072】
測定結果から以下の内容が判明した。
【0073】
一般ガラス繊維シートを備えた汚れ防止マットと水流処理ガラス繊維シートを備えた汚れ防止マットとのどちらにおいても、ガラス繊維シートの目付が2500g/m
2以下の場合は、120秒前後で水温が90℃に到達した。よって、本来の使用状態における使用状況と実質的な差異がなく、熱効率が所定の範囲に保たれていると言える。一方、ガラス繊維シートの目付が3000g/m
2の場合は、水温が90℃に到達するまでに152秒かかった。これは、目付の増加に伴い汚れ防止マットの厚みが増加したため、電磁調理器の磁力線が鍋の底に届きにくくなり、うず電流の発生効率が下がったことに起因しているものと思われる。よって、このような状態をもたらす目付の汚れ防止マットは、汚れ防止効果は奏するものの、使用に適したものではないと言える。
【0074】
したがって、熱効率の観点からは、ガラス繊維シートの目付が2500g/m
2以下の汚れ防止マットが使用に適したものであると言える。
7.総括
図3は、ガラス繊維シートの目付に対する通気度の相関関係を示したグラフである。
【0075】
図を参照して、グラフのX軸はガラス繊維シートの目付(g/m
2)を対数表示にて、グラフのY軸は通気度(cc/(cm
2・s))を対数表示にて、それぞれ示している。図の正方形のドットは水流処理ガラス繊維シートの、菱形のドットは一般ガラス繊維シートの、目付に対する通気度をそれぞれ示している。
【0076】
図の太線はそれぞれ、上記の実験において判明した、汚れ防止マットの品質に問題が無いと判断できる値の限界を示す境界線である。尚、表1の薄墨部分において示されている、上述の3つの実験を全てクリアした試料はいずれも、この境界線で囲まれている範囲に収まる。
【0077】
よって、品質上問題の無い汚れ防止マットは、この境界線で囲まれている範囲、即ち、ガラス繊維シートの目付が50〜300g/m
2であって、通気度が8.5cc/(cm
2・s)以下に収まる汚れ防止マットと言える。
【0078】
以上のことから、汚れ防止マットのガラス繊維シートの目付及び通気度は、電磁調理器の作動状態に大きな影響を与える要素と言え、その適切な選択があってその存在が意味あるものとなる。
【0079】
尚、上記の実験では、ガラス繊維シートは水流処理によって通気度を低下させたものを用いたが、プレス等のその他の方法により通気度を低下させたものを用いても同様の結果が得られた。
【0080】
又、上記の実験では、ガラス繊維シートは複数本のガラス繊維を平織りにしたガラス繊維織物を用いたが、他の織り方からなるものを用いても、あるいは不織布を用いても目付及び通気度が同一のものでは同様の結果が得られた。
【0081】
更に、上記の実験では、第1のコート材は粘度が25万cPのものを用いていたが、25万cP未満でも1万cP以上のものであれば同様の結果が得られた。