特許第6074530号(P6074530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6074530
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20170123BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20170123BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20170123BHJP
   C02F 1/66 20060101ALI20170123BHJP
   E04G 23/08 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C02F1/58 J
   C02F1/44 E
   C02F1/42 E
   C02F1/66 510S
   C02F1/66 521X
   C02F1/66 530L
   C02F1/66 540C
   C02F1/66 540D
   C02F1/66 540Z
   E04G23/08 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-69075(P2016-69075)
(22)【出願日】2016年3月30日
【審査請求日】2016年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】391061646
【氏名又は名称】株式会社流機エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
(72)【発明者】
【氏名】澤目 俊男
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−033549(JP,A)
【文献】 特開昭59−230692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58−1/64
C02F 1/42
C02F 1/66
C04B 2/00−32/02,40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート排水から粒子を取り除いて清浄水を得、
この清浄水中のカルシウムイオンを水素イオンにイオン交換して炭酸水を得、
この炭酸水を前記イオン交換する前の排水で中和して中和水を得、
この中和水中の炭酸カルシウムを取り除く、
ことを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
高圧水を使用する工法において発生したコンクリート排水から粒子を取り除いて清浄水を得、
この清浄水中のカルシウムイオンを水素イオンにイオン交換して炭酸水を得、
この炭酸水の一部又は全部を前記高圧水として利用し、
他方、前記炭酸水の残部を前記イオン交換する前の排水で中和して中和水を得、
この中和水中の炭酸カルシウムを取り除く、
ことを特徴とする排水処理方法。
【請求項3】
前記イオン交換に、イオン交換樹脂を使用する、
請求項1又は請求項2に記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートを製造、運搬、打設、解体等する際に発生するコンクリート排水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート排水としては、例えば、次のようなものがある。
例えば、生コン製造用混錬ミキサー内部の洗浄排水、コンクリートポンプや打設配管等の洗浄排水、コンクリート打設後のブリージング排水、コンクリート硬化後の表面スライム洗浄排水、セメントミルクを使用した地盤改良時に発生する排水、地中連続壁打設時に発生する排水、トンネル覆工時に発生する排水、ウォータージェット(WJ)工法においてコンクリートの斫り、切断、穴明、目荒し等を行った際に発生する排水、等である。
【0003】
これらのコンクリート排水は、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)や炭酸水素カルシウム(Ca(HCO32)を多く含むため、強いアルカリ性を示す。また、コンクリート排水は、礫、砂等の粒子を含むため、濁度が高い。したがって、コンクリート排水は、そのままでは河川や下水道等へ放流することができない。また、コンクリート排水は、そのままでは再利用することもできない。そこで、排水処理が必要になる。
【0004】
この排水処理は、例えば、WJ工法において発生するコンクリート排水の場合は、次のように行われている。
まず、コンクリート排水をバキュームカー等で回収し、排水処理設備まで運搬する。次に、スクリーン等を使用して礫、砂等の粒子を取り除く。そして、硫酸、塩酸等の中和剤を添加し、適宜攪拌する等して中和する。さらに、PACや高分子凝集剤等の凝集剤を添加して汚濁粒子を凝集する。凝集した粒子の塊(フロック)は、重力沈降させる。これにより、排水の上澄みが放流可能になる。一方、凝集剤が混入するフロックは、加圧脱水し、産業廃棄物として廃棄処分する(現在は、このように「運用」している。)。
【0005】
このようなコンクリート排水の処理方法は、処理性能の点で大きな問題はない(もちろん、高性能化は望まれている)。しかしながら、処理コスト等の点で大きな問題がある。まず、中和や凝集のための薬剤が高価であり、200〜300円/m2程度のランニングコストがかかる。しかも、コンクリート排水の回収や運搬に高額な費用(主に人件費)がかかる。施工現場まで水を運搬する費用(WJ工法に使用する水の運搬費用)も含めると、施工費用は、例えば、処理量が40m3/日の場合、約100万円/日にもなる。さらに、排水処理設備の設置スペースを確保する必要がり、同設備を維持・管理する必要があることから、この点でもコストがかかる。
【0006】
なお、コンクリート排水が水酸化カルシウムを含むのは、コンクリート中のセメントが水と反応するためである。また、コンクリート排水が炭酸水素カルシウムを含むのは、コンクリートが大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して炭酸カルシウム(CaCO3)となり、これが水中において炭酸水素カルシウムになるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする主たる課題は、処理性能が優れていながら、処理コストを抑えることができるコンクリート排水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1記載の態様)
コンクリート排水から粒子を取り除いて清浄水を得、
この清浄水中のカルシウムイオンを水素イオンにイオン交換して炭酸水を得、
この炭酸水を前記イオン交換する前の排水で中和して中和水を得、
この中和水中の炭酸カルシウムを取り除く、
ことを特徴とする排水処理方法。
【0009】
(請求項2記載の態様)
高圧水を使用する工法において発生したコンクリート排水から粒子を取り除いて清浄水を得、
この清浄水中のカルシウムイオンを水素イオンにイオン交換して炭酸水を得、
この炭酸水の一部又は全部を前記高圧水として利用し、
他方、前記炭酸水の残部を前記イオン交換する前の排水で中和して中和水を得、
この中和水中の炭酸カルシウムを取り除く、
ことを特徴とする排水処理方法。
【0010】
(請求項3記載の態様)
前記イオン交換に、イオン交換樹脂を使用する、
請求項1又は請求項2に記載の排水処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、処理性能が優れていながら、処理コストを抑えることができるコンクリート排水の処理方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】処理後の排水を放流する場合の処理フローである。
図2】WJ工法のコンクリート排水を処理する場合の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本形態は、本発明の1つの例である。本発明は、本形態に限定されない。
本形態の排水処理方法は、コンクリート排水を対象にする。このコンクリート排水は、前述したように砂や礫等の粒子や、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム等を多く含む。したがって、濁度が高く、高いアルカリ性を示す。しかしながら、本形態の排水処理方法によると、コンクリート排水の濁度、pH、イオン化物等が適切に処理される。したがって、処理後の排水は、河川や下水道等に放流することができる。もちろん、必要があれば、適宜の処理に再利用することができる。また、コンクリート排水がWJ工法等の高圧水を使用する工法において発生する排水の場合は、当該工法の処理水(高圧水)として、水道水等よりも好ましいもの(水)として、利用することができる。
【0014】
以下では、本形態の排水処理方法について、まず、河川や下水道等に放流する場合を例に説明し、続いて、WJ工法の処理水として利用する場合を例に説明する。
【0015】
(放流する場合)
図1に示すように、本形態の排水処理方法においては、まず、必要により、スクリーンを使用する等して、コンクリート排水C1から砂や礫等の大きな粒子S1を取り除く(沈降分離10)。この工程で取り除く粒子S1の大きさは、例えば、0.6〜50mmである。
【0016】
次に、フィルタを使用してセメント粒子や粘土粒子等の小さな粒子S2を取り除く(フィルタ分離20)。この工程で使用するフィルタとしては、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜、砂ろ過等を例示することができる。フィルタのろ過精度(孔径)は、通常5.0μm以下、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.1μm以下である。
【0017】
以上の分離工程10,20を経ることで、コンクリート排水C1は、濁度が低下した清浄水C2になる。
【0018】
ただし、以上の分離工程10,20は、単に濁度を低下させるのが目的である。したがって、濁度を低下することができるのであれば、沈降分離10及びフィルタ分離20以外の方法も、これらの方法に代えて、又はこれらの方法と共に採用することができる。
【0019】
なお、分離工程10,20を経ることで得られる清浄水C2とは、単にコンクリート排水C1から各種粒子S1,S2が取り除かれた水を意味する。つまり、それ以上の性質(物性)の限定を意味するものではない。
【0020】
次に、清浄水C2に含まれるカルシウムイオン(Ca+)と水素イオン(H-)とをイオン交換する(イオン交換30)。このイオン交換30は、例えば、イオン交換樹脂、逆浸透膜等を使用して行うことができる。ただし、イオン交換樹脂を使用して行うのが好ましい。イオン交換樹脂を使用すると、処理コストを低く抑えることができる。
【0021】
イオン交換樹脂を使用してイオン交換30を行うと、下記の式(1)のとおり、カルシウムイオンが取り除かれて(イオン交換樹脂に吸着されて)、清浄水C2が炭酸水C3になる。
【0022】
(1) R−H + Ca(HCO32
→ R−Ca + H2CO3
→ R−Ca + H2O+CO2
なお、上記式中のRは、イオン交換樹脂を意味する。
【0023】
また、イオン交換30を経ることで得られる炭酸水C3とは、単に炭酸を含む水を意味する。つまり、それ以上の性質(物性)の限定を意味するものではない。
【0024】
次に、炭酸水C3を中和する(中和処理40)。なお、炭酸水C3のpHがどの程度になっているかは一概には言えない。ただし、本発明者らが行った試験では、炭酸水C3がpH3程度の強酸になった。これは、コンクリートには塩化物イオンの混入が濃度200ppmまで許容されていることによると考えられる。
【0025】
中和処理は、前述したように、従来、硫酸、塩酸等の中和剤を使用して行っていた。しかしながら、本形態においては、アルカリ性であるイオン交換する前の排水を使用して行う。この方法によると、中和のための薬剤が不要になるため、ランニングコストを抑えることができる。しかも、硫酸や塩酸等の強酸を運搬すること、あるいは使用することによる危険を回避することができる。また、イオン交換する前の排水は施工現場に存在するものであるため、運搬費用等が必要にならないとの利点もある。
【0026】
イオン交換する前の排水としては、例えば、コンクリート排水C1、沈降分離10を経た段階の排水、フィルタ分離20を経た段階の排水(清浄水C2)等が存在する。ただし、清浄水C2を利用するのが好ましい。本形態では、清浄水C2を利用する。
【0027】
清浄水C2は、中和のための薬剤の一部として、つまり、硫酸や塩酸等の薬剤と併用して利用することも考えられる。しかるに、清浄水C2を利用する上記理由からすると、清浄水C2のみで炭酸水C3を中和するのが好ましい。
【0028】
清浄水C2を利用して中和処理40を行うと、下記の式(2)のとおり、炭酸水C3が中和されて、懸濁物質(炭酸カルシウム)S3を含む中和水C4になる。
(2) Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2
炭酸水C3に対してどの程度の清浄水C2を混入するかは、単に炭酸水C3のpH及び清浄水C2のpHで決まる。したがって、必要により、pH検知器等を設けておき、このpH検知器による数値に基づいて清浄水C2の混入割合が調整されるようにするとよい。
【0029】
本発明者らが行った上記試験では、炭酸水C3のpHが3程度になり、この炭酸水C3に清浄水C2を10容量%程度混入することで、中和水C3のpHは5程度になった。
【0030】
なお、中和処理40を経ることで得られる中和水C4とは、単に炭酸水C3を中和することで得られる水を意味する。つまり、それ以上の性質(物性)の限定を、例えば、白色である、透明度が低い等の限定を意味するものではない。ちなみに、中和水C4は白濁することもあると考えられるが、本発明者らが行った上記試験では、中和水C4が白濁しなかった。これは、中和水C4が塩素(Cl)を19ppm程度含んだためであると考えられる。
【0031】
次に、フィルタを使用して中和水C4から懸濁物質S3を取り除く(フィルタ分離50)。この工程で使用するフィルタとしては、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜、砂ろ過等を例示することができる。フィルタのろ過精度(孔径)は、通常5μm以下、好ましくは0.1μm以下である。
【0032】
以上のようにして、懸濁物質S3を取り除いた処理後の排水C5は、濁度、pH、イオン化物等が適切に処理されている。したがって、排水C5は、河川や下水道等に放流することができる。もちろん、必要があれば、適宜の処理に再利用することができる。
【0033】
例えば、建設工事排水基準値は懸濁物質120mg/L以下、pH5.8〜8.6、河川環境基準値は懸濁物質25mg/L以下、pH6.5〜8.5(海の場合は7.8〜8.4)、水産用水基準値は懸濁物質25mg/L以下(人為的に加えられる懸濁物質は5mg/L以下)、pH6.7〜7.5、水道水基準値は懸濁物質2mg/L以下、pH5.8〜8.6である。しかるに、本形態の処理方法によると、処理後の排水C5を、懸濁物質0.1mg/L以下、pH7程度にすることができる。
【0034】
なお、WJ(ウォータージェット)斫り工法に使用する水の水質基準は、懸濁物質1mg/L以下、硬度20度以下(結晶化するイオン化合物20mg/L以下)である。したがって、この処理後の排水C5を、当該工法に使用することもできる。
【0035】
一方、取り除いた懸濁物質(炭酸カルシウム)S3は、前述した従来の方法におけるのと異なり、凝集剤を含有していない。したがって、懸濁物質S3は、小さな粒子S2と共に脱水(例えば、フィルタ脱水)60して、再利用に供することができる。
【0036】
(WJ工法に利用する場合)
次に、コンクリート排水がウォータージェット(WJ)工法において発生した排水であり、処理後の排水をWJ工法に利用する場合を説明する。
【0037】
図2に示すように、WJ工法は、当初は水道水等に由来する高圧水Wを使用して実施する。そして、WJ工法100において発生したコンクリート排水C1に対して、まずは処理後の排水C5を放流する場合(前述した放流する形態)と同様の処理を行う。
【0038】
すなわち、まず、コンクリート排水C1から各種粒子S1,S2を取り除く(沈降分離10、フィルタ分離20)。また、分離工程10,20を経て得られた清浄水C2を、イオン交換する(イオン交換30)。このイオン交換によって、清浄水C2が炭酸水C3になる。
【0039】
放流形態の場合は、次に、この炭酸水C3を中和する(中和処理40)ことになる。しかるに、本形態においては、この炭酸水C3の一部を、好ましくは全部を、中和することなくWJ工法の高圧水Wとして利用する。この形態によると、WJ工法においてコンクリート排水C1の飛沫対策が不要になる。これは、炭酸水C3が酸性であるため、飛散するコンクリート排水C1が弱アルカリ性になるためである。
【0040】
つまり、本形態においては、炭酸水C3を中和し(中和処理40)、懸濁物質S3を取り除く(フィルタ分離50)等して得た排水C5を利用するのではなく、炭酸水C3を高圧水Wの一部又は全部として利用する。これにより、上記利点が得られる。
【0041】
この点、炭酸水C3はイオン交換によってカルシウムイオンが取り除かれているため、カルシウムイオンが結晶化してWJ工法の高圧ポンプや配管等に付着するおそれはない。
【0042】
本発明者等が試算したところによると、WJ工法のために、従来は給水車が4〜5台必要であったのが、本形態の方法による場合は1台で足りる。また、コンクリート排水C1を排水処理設備に運搬するバキュームカーが、従来は4〜5台必要であったのが、本形態の方法による場合は必要なく、バキューム装置を設置するのみで足りる。このようなことから、施工費用は、前述したように従来は約100万円/日であったのが、30万/程度にまで削減することができる。
【0043】
なお、WJ工法に利用しない炭酸水C3(炭酸水C3の残部)は、中和処理40、フィルタ分離50等して河川に放流することや、他方の処理に再利用することができる。また、WJ工法以外であっても、高圧水を使用する工法であり、コンクリート排水が発生するようであれば、同様の排水処理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、コンクリートを製造、運搬、打設、解体等する際に発生するコンクリート排水の処理方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 沈降分離
20 フィルタ分離
30 イオン交換
40 中和処理
50 フィルタ分離
60 脱水
100 WJ工法
C1 コンクリート排水
C2 清浄水
C3 炭酸水
C4 中和水
C5 処理後の排水
S1 大きな粒子
S2 小さな粒子
S3 懸濁物質
【要約】
【課題】処理性能が優れていながら、処理コストを抑えることができるコンクリート排水の処理方法にする。
【解決手段】コンクリート排水C1から粒子S1,S2を取り除いて清浄水C2を得、この清浄水C2中のカルシウムイオンを水素イオンにイオン交換して炭酸水C3を得、この炭酸水C3を清浄水C2で中和して中和水C4を得、この中和水C4中の炭酸カルシウムを取り除いて河川等に放流することができる処理後の排水C5を得る。
【選択図】図1
図1
図2