特許第6074561号(P6074561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6074561真菌の存在量の鑑別方法並びにそれに用いられるプライマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074561
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】真菌の存在量の鑑別方法並びにそれに用いられるプライマー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170130BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 A
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-33326(P2012-33326)
(22)【出願日】2012年2月2日
(65)【公開番号】特開2013-158337(P2013-158337A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】507029007
【氏名又は名称】株式会社ポーラファルマ
(73)【特許権者】
【識別番号】507189460
【氏名又は名称】学校法人金沢医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】望月 隆
(72)【発明者】
【氏名】安澤 数史
(72)【発明者】
【氏名】岩永 知幸
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−067605(JP,A)
【文献】 J. Clin. Microbiol.,2003年,vol.41, no.2,pp.826-830
【文献】 Br. J. Dermatol.,2009年,vol.161, no.5,pp.1038-1044
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
DDBJ/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
REGISTRY/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の真菌の存在量の鑑別方法であって、
前記検体中の核酸を鋳型としてPCR反応を行い、配列番号1に示す塩基配列及び/またはそれと相同的な塩基配列を含む核酸を選択的に増幅する工程、及び
前記工程で産生された核酸量に基づいて、前記検体中に存在する菌量の多少を推定する工程を含み、
前記真菌はトリコフィトン属、エピデルモフィトン属、又はミクロスポルム属に属する真菌であり、
前記PCR反応に用いられるプライマーが、配列番号2に示される塩基配列又はそれと相同的な配列を有するオリゴヌクレオチド、及び配列番号3に示される塩基配列又はそれと相同的な配列を有するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする鑑別方法。
【請求項2】
前記核酸はDNAであることを特徴とする、請求項1に記載の鑑別方法。
【請求項3】
既知の菌量の標準検体中の核酸を鋳型として検体と同条件でPCR反応を行って産生された核酸量を比較対象にして、前記推定する工程を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の鑑別方法。
【請求項4】
真菌の存在量を鑑別すべき検体は、動物より分離された皮膚乃至は爪であることを特徴とする、請求項1〜いずれか1項に記載の鑑別方法。
【請求項5】
前記動物は、真菌症の患者であることを特徴とする、請求項に記載の鑑別方法。
【請求項6】
前記真菌はトリコフィトン・メンタグロファイテス又はトリコフィトン・ルブルムであることを特徴とする、請求項1〜いずれか1項に記載の鑑別方法。
【請求項7】
配列番号2もしくは配列番号3に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、又はそれらと相同的な配列を有するオリゴヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌剤の評価などに有用な真菌の存在量の鑑別方法及び該鑑別方法に用いられるプライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚糸状菌(白癬菌)などによる真菌症においては、組織中において菌が耐久型細胞を作りうるため、治療などによって、完治したようにみえても、再発することが多い。患部における菌の存在は通常は、患部の一部を採取して、これをアルカリ処理した後、形態を観察し、糸状の菌要素の有無で判断するのが一般的な方法であった。当然この様な方法では、菌糸型以外の菌要素はなかなか検出できない。特に、爪白癬においては、アルカリでの組織処理に時間がかかりまた判定も難しいため、PAS染色のような糖鎖を染める組織染色法が採用されたり、爪よりDNAを抽出し、真菌に特異的な部分をPCRで増幅し、これを検出する方法などが検討されている。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)しかしながら、これらにおいてはいずれも感度の問題が存している。DNAを用いた方法については、トリコフィトン・メンタグロフィテスとトリコフィトン・ルブルムでは異なったプライマーを用いなければならず、迅速な検出は難しいと言わざるを得ない。即ち、爪などアルカリでの溶解に難渋する組織においても、迅速に、より感度高く真菌の存在の状況を鑑別出来る手段の開発が望まれていた。
【0003】
また、配列番号2のオリゴヌクレオチドと類似したオリゴヌクレオチドとしては、CCCGGAATGTGGTTTATGGTATTなる配列のものが開示されている(例えば、特許文献4)が、真菌との関係は全く開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−278886号公報
【特許文献2】特開2008−67605号公報
【特許文献3】特開2007−236338号公報
【特許文献4】WO01/18542
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、爪白癬の診断などに有用な、より迅速に、より感度高く真菌の存在の状況を鑑別出来る手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な実情に鑑みて、本発明者らは、より迅速に、より感度高く真菌の存在の状況を鑑別出来る手段を求めて、鋭意研究を重ねた結果、D1/D2領域の約100塩基の配列部分をPCR法にて増幅し、これを検出することにより、この様な鑑別がなし得ることを見出し、発明を完成させた。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
<1>真菌の存在量の鑑別方法であって、トリコフィトン属の真菌のDNAの内、配列番号1に示す塩基配列及び/またはそれと相同的な塩基配列を選択的にPCR反応によって増幅し、産生された核酸量を比較して、存在する菌量の多少を推定することを特徴とする、真菌の存在量の鑑別方法。
<2>前記核酸はDNAであることを特徴とする、<1>に記載の真菌の存在量の鑑別方法。
<3><1>又は<2>に記載の鑑別方法において、PCR反応による増幅に用いられるプライマーが、配列番号2及び/又は配列番号3に示されるオリゴヌクレオチド乃至はそれらと相同的な配列のものであることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の鑑別方法。
<4>既知の菌量のサンプルを、同じPCR条件で処理し、産生されたDNA量を比較対象にして、産生量を推定することを特徴とする、<1>〜<3>いずれか1項に記載の鑑別方法。
<5>存在量を鑑別すべきサンプルは、動物より分離された皮膚乃至は爪であることを特徴とする、<1>〜<4>いずれか1項に記載の鑑別方法。
<6>動物は、真菌症の患者であることを特徴とする、<5>に記載の鑑別方法。
<7>真菌はトリコフィトン・メンタグロファイテス又はトリコフィトン・ルブルムであることを特徴とする、<1>〜<6>いずれか1項に記載の鑑別方法。
<8>配列番号2又は配列番号3に表される塩基配列を有する、オリゴヌクレオチド及び/又はそれらと相同性を有するオリゴヌクレオチド。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来に比して、より迅速に、より感度高く真菌の存在の状況を鑑別出来る手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】 実施例1の感度の差を示す図である。
図2】 実施例2の電気泳動を示す図である。
図3】 実施3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の鑑別方法は、生体組織中の真菌の存在量の鑑別方法であって、トリコフィトン属の真菌のDNAの内、配列番号1に示す塩基配列及び/またはそれと相同的な塩基配列を選択的にPCR反応によって増幅し、産生されたDNA量を比較して、存在する菌量の多少を推定することを特徴とする。配列番号1に示される塩基配列は、リボソームRNAのラージサブユニットである28s rRNAのD1/D2領域に含まれ、この領域の塩基配列は既に公知のものとなっている。この領域は菌種間、また属間で塩基配列の相同性が低い部分として知られているが、近縁種であるトリコフィトン属、エピデルモフィトン属、ミクロスポルム属の諸菌種においては、塩基配列の相同性が高い部分である。従って、この領域の共通配列の中からプライマーを設計し、PCRによりDNAを増幅し、定量し、標準検体と比較することにより、菌量を定量することが出来る。定量法は増幅した後、プローブを用いて、サザンブロットで検出することも出来るし、増幅をリアルタイム−PCRで行えば、増幅産物を蛍光強度で定量化できる。
【0010】
この様なPCRを行う為のプライマーとしては、配列番号2及び配列番号3に示すオリゴヌクレオチドを用いることが出来る。この様なオリゴヌクレオチドは、DNAシンセサイザーを用いて、作成することが出来るし、この様な製造を受託する会社も存し、その入手に障害は存しない。
【0011】
PCRを行うに際しては、まずは検体よりDNAを抽出する。抽出は、常法に従って行えば良く、検体を粉砕又は細切し、フェノール抽出し、エタノール沈殿させること等が例示できるが、「キアゲン」社等から販売されている抽出キットを用いることも出来る。PCRは、プライマーとなる1組のオリゴヌクレオチドと、耐熱性DNAポリメラーゼの存在下、旧来のPCR法に従って増幅し、プローブなどで検出することも出来るが、リアルタイムPCRによって、増幅と同時に増幅量を蛍光強度として検出することも可能であり、リアルタイムPCR法に従って増幅、検出することが好ましい。
【0012】
かかる操作において、検体として爪を取り扱う場合には、破砕に大きな応力と、処理回数が必要になるため、局部発熱により核酸が変性されることがままあることから、予め液体窒素、液体ヘリウム、アセトン・ドライアイス混合物などの極冷媒体中で検体を凍結させ、組織結合力を弱めた上で、マルチビーズショッカーなどの媒体ミルを用いて破砕することが好ましい。この様な処理により、容易に、細かく、変性なく検体を破砕することが出来る。勿論、皮膚などの軟組織にこの様な破砕処理を行うことも可能である。
【0013】
鑑別に用いる核酸をRNAとする場合には、前記と同様の抽出を行った後にDNAseI等のDNAseでDNAを水壊し、トランスクリプターゼでcDNAとし、これを増幅検出すればよい。この様なRNA抽出、cDNA化についても、キアゲンなどがから販売されている抽出キットを用いて行うことが出来る。
【0014】
前記PCR反応は95℃付近の温度で10〜20分変性後、95℃付近の温度で10秒、50〜60℃30秒、72℃付近で10秒のサイクルを10〜70サイクルで増幅させることが好ましい。迅速に且つより確実に検出を行うには、30〜60サイクルで行うことが再現性に優れ好ましい。
【0015】
かかる、PCRに用いるプライマーとしては、配列番号2のもの乃至は配列番号2と相同性を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号3のもの乃至は配列番号3と相同性を有するオリゴヌクレオチドを、フォワード用のプライマーとリバース用のプライマーとして使用することが好ましい。ここで相同性を有するとは、塩基鎖長で10%程度の違いを、塩基配列における相違点が5%以内程度のものを意味する。この様なプライマーによって増幅されるべき、塩基鎖の位置は、トリコフィトン属のDNAの28s rRNAのD1/D2領域となる。
【0016】
以下に、実施例を示し、本発明について更に詳細に説明を加える。
【実施例1】
【0017】
予め培養して増やした2種のトリコフィトン・メンタグロフィテスを用いて、検出試験を行った。
RNA、DNAの抽出にはAllPrep DNA/RNA Mini Kit (Qiagen)を用いた。
乾熱滅菌処理した3gメタルコーンを各1つ入れた3mLチューブに、約2週間PDA平板培地、30℃で培養したT.mentagrophytes(var.interdigitale)のコロニーを約10mg精秤して入れた。これを液体窒素で凍結後、マルチビーズショッカーR(安井器械)を用いて破砕した。破砕後、2−メルカプトエタノールを1/100量添加したRLT Plus bufferを600μlずつ加えた。再度1500rpmで破砕した後、6500rpmで遠沈した。上澄み約500μlを1.5mLチューブに移し、15000rpmで遠沈した。この上澄み470ulをまずAllPrep DNAspin columnに移し、12500rpmで遠沈してDNAをカラムに吸着させた。ここで得られたRNAを含んだ濾液は等量(470μl)の2−プロパノールを加え、懸濁した後RNeasy MinElutespin columnに移し、12500rpmで遠沈してRNAをカラムに吸着させた。AllPrep DNAspin columnはAW1、AW2で洗浄後、DNAを100μlのEB bufferで溶出し、DNA抽出液とした。 得られたDNA液100μlはそのうち2μlを鋳型としてqPCRに用いた。qPCRはSYBR Green PCR Kit(Qiagen)を用いた。機器は7900HT(Applied Biosystems)反応は95度15分で変性後、95℃10秒→55℃で30秒→72℃で10秒→のサイクルで55サイクル増幅させた。増幅産物が検出されたサイクル数を表1及び図1に示す。比較としては、特許文献2に記載のプライマーセットを用いた。PCRは前記の条件で行った。この図より、本発明のプライマーを使用することにより、1回のPCRで菌を検出でき、しかもその感度も高いことが判る。
【0018】
【表1】
【実施例2】
【0019】
各種の菌を用いて、本発明のプライマーである配列番号2及び配列番号3のヌクレオチドを用いてリアルタイムPCRを行って、配列番号1の部分を増幅し、電気泳動して、配列の特異性とノイズの増幅の有無を調べた。結果を図2に示す。本発明のプライマーは皮膚糸状菌とエピデルムフィトンのみを増幅し、しかもノイズのバンドもないことが判る。これより、本発明のプライマーは実際の白癬病巣からのサンプルに対して汎用できることも判る。
【実施例3】
【0020】
実施例1と同様に、トリコフィトン・ルブルムについても、検出感度を検討した。
結果を表2及び図3に示す。ルブルムに対しても高感度に検出できることが判る。
【0021】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ヒト・動物の真菌症の診断や治癒判定など、医療・獣医領域での応用が可能である。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]