(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の粒子集合体は、以下の工程A〜工程Cを有する製造方法によって得られるものであって、コバルトの平均価数が2.1〜3.0であるコバルト化合物により表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子からなる。
工程A:水酸化ニッケル含有粒子を含む原料粒子集合体であって、粒子径D50が10〜15μm、粒子径が5μm以下の粒子の累積頻度%値が12.0%以下である原料粒子集合体を含む懸濁液に、攪拌下、懸濁液のpHを8.0〜11.0、溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に保持しながら、前記原料粒子集合体100重量部あたり2〜10重量部となる量のコバルト(II)塩を含む水溶液を添加することにより、α−水酸化コバルトで表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子を含む懸濁液を得る工程
工程B:工程Aで得られた懸濁液の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に保持しながら、前記懸濁液のpHを11.5〜13.5に調整することにより、水酸化ニッケル含有粒子の表面を被覆するα−水酸化コバルトをβ−水酸化コバルトに変換して、β−水酸化コバルトで表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子を含む懸濁液を得る工程
工程C:工程Bで得られた懸濁液のpHを11.5〜13.5、溶存酸素濃度を1.0〜15.0mg/Lにそれぞれ調整することにより、水酸化ニッケル含有粒子の表面を被覆するβ−水酸化コバルトを酸化して、コバルトの平均価数が2.1〜3.0であるコバルト化合物により表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子を含む懸濁液を得る工程
【0012】
本発明の粒子集合体は、コバルトの平均価数が2.1〜3.0であるコバルト化合物により表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子(以下、「Co/Ni含有粒子」ということがある。)を含むものである。Co/Ni含有粒子は、必ずしも水酸化ニッケルの粒子表面の全てがコバルト化合物で覆われている必要はなく、例えば、SEM画像において、水酸化ニッケルの粒子の表面全体の5割以上の部分が前記コバルト化合物で覆われているものであってもよい。
以下において、Co/Ni含有粒子の、水酸化ニッケルの粒子部分を「核部分」といい、Co/Ni含有粒子の前記コバルト化合物からなる部分を「高次コバルト化合物層」ということがある。
【0013】
工程A〜工程Cにおいては、反応容器内を均一にするために、通常、撹拌翼等によって懸濁液を攪拌する。攪拌翼の大きさやその回転数等は特に制限されず、目的に合わせて適宜決定することができる。
【0014】
〔工程A〕
工程Aは、前記原料粒子集合体を含む懸濁液に、攪拌下、前記懸濁液のpHを8.0〜11.0、溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に保持しながら、前記原料粒子集合体100重量部あたり2〜10重量部となる量のコバルト(II)塩を含む水溶液を添加することにより、α−水酸化コバルトで表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子を含む懸濁液を得る工程である。
【0015】
原料粒子集合体は、水酸化ニッケル含有粒子を主成分とするものである。水酸化ニッケル含有粒子としては、アルカリ蓄電池の正極活物質又はその製造原料として公知の水酸化ニッケル含有粒子を利用することができる。
水酸化ニッケル含有粒子は、ニッケル以外の金属原子を1種又は2種以上含有するものであってもよい。かかる金属原子としては、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛等が挙げられる。なかでも、水酸化ニッケル含有粒子は、少なくともマグネシウムを含有することが好ましく、マグネシウム及びコバルトを含有することがより好ましい。水酸化ニッケルからなる粒子に、少なくともマグネシウムを固溶状態で含ませることにより、高率放電特性及び出力特性が良好なCo/Ni含有粒子を得ることができる。
【0016】
本発明に用いる水酸化ニッケル含有粒子において、ニッケル原子以外の金属原子の含有量は、金属原子全量に対して、通常、15モル%以下、好ましくは1〜10モル%である。
【0017】
原料粒子集合体の粒子径D50は、10〜15μmであることが好ましく、11〜14μmであることがより好ましい。粒子径D50が上記範囲内にある原料粒子集合体を用いることで、目的の特性を有するCo/Ni含有粒子を含有する粒子集合体を効率よく得ることができる。
【0018】
原料粒子集合体に含まれる、粒子径が5μm以下の粒子の累積頻度%値は、12.0%以下であることが好ましく、1〜11.5%であることがより好ましい。粒子径が5μm以下の粒子の累積頻度%値が上記範囲内であることで、目的のCo/Ni含有粒子を含有する粒子集合体を効率よく得ることができる。
ここで、「粒子径が5μm以下の粒子の累積頻度%値」とは、粒子集合体に含まれる粒子の全体積%のうち、粒子径が5.00μm以下(通常、0.01μm〜5.00μm)である粒子の体積分布頻度%を合計したものである。
粒子径D50や、粒子径が5μm以下の粒子の累積頻度%値は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて、体積基準で粒度分布を測定することで求めることができる。
【0019】
原料粒子集合体のBET比表面積は、好ましくは5〜20m
2/g、より好ましくは、8〜15m
2/gである。
原料粒子集合体のタップ密度は、好ましくは1.5〜2.5g/cm
3、より好ましくは、1.6〜2.4g/cm
3である。
原料粒子集合体のバルク密度は、好ましくは0.8〜1.8g/cm
3、より好ましくは、0.9〜1.7g/cm
3である。
原料粒子集合体のBET比表面積、タップ密度、及びバルク密度が上記範囲内であることで、目的のCo/Ni含有粒子を含有する粒子集合体を効率よく得ることができる。
【0020】
原料粒子集合体は、例えば、特開平10−12237号公報、特開2006−48954号公報等に記載される公知の水酸化ニッケル含有粒子の製造方法により得ることができる。
具体的には、反応槽内の液のpHを適切な範囲に調節しながら、攪拌下に、ニッケル(II)塩水溶液を反応槽に添加することで水酸化ニッケルの沈殿を析出させ、次いで、得られた沈殿物をろ過し、水洗し、さらに必要に応じて、脱水処理や乾燥処理を行うことで、原料粒子集合体を得ることができる。
【0021】
用いるニッケル(II)塩としては、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)等が挙げられ、硫酸ニッケル(II)が好ましい。
【0022】
この場合、ニッケル(II)塩に加えて、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、マンガン、コバルト、鉄、銅、亜鉛等の塩を添加してもよい。なかでも、ニッケル(II)塩に加えて、マグネシウム(II)塩を添加するのが好ましく、マグネシウム(II)塩及びコバルト(II)塩を添加するのがより好ましい。マグネシウム(II)塩及びコバルト(II)塩の添加量は、ニッケル(II)塩1モルに対し、マグネシウム(II)塩(マグネシウム(II)塩とコバルト(II)塩を添加する場合にはその合計)が0〜0.1モル程度である。
【0023】
また、ニッケル(II)塩に加えてマグネシウム塩等の他の金属塩を用いる場合、他の金属塩のアニオンはニッケル(II)塩のアニオンと同じであることが好ましい。例えば、硫酸ニッケル(II)を用いる場合には、マグネシウム(II)塩として硫酸マグネシウム(II)を用いるのが好ましい。
【0024】
上記方法においては、反応槽内の液のpHや攪拌速度を調節することで、原料粒子集合体の物性を制御することができる。通常、反応槽内の液のpHを高くすることで、得られる原料粒子の粒径が小さくなる傾向があり、攪拌速度を速くすることで、粒径分布が狭くなる傾向がある。
【0025】
本発明に用いる懸濁液中の原料粒子集合体の含有量は特に制限されない。水1Lあたりの原料粒子集合体の含有量は、通常50〜200g、好ましくは80〜140gである。
【0026】
原料粒子集合体を含む懸濁液に添加するコバルト(II)塩を含む水溶液は、コバルト(II)塩を水に溶解させることで調製することができる。
用いるコバルト(II)塩としては、硫酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)等が挙げられる。なかでも、硫酸コバルト(II)が好ましい。
【0027】
前記コバルト(II)塩として硫酸塩を用いる場合、得られる粒子集合体中の硫酸根の含有量は、通常、1.0重量%以下、好ましくは、0.01〜0.5重量%である。硫酸根の含有量が1.0重量%以下であることで、本発明の粒子集合体を用いて得られる正極を使用したときに、コバルト化合物の結晶中に硫酸根が取り込まれにくいため、コバルト化合物の結晶性の低下によって生じる自己放電を抑制することができる。
【0028】
コバルト(II)塩を含む水溶液の濃度は、通常、0.1〜2.0モル/L、好ましくは0.6〜1.8モル/Lである。
コバルト(II)塩を含む水溶液のpHは、通常、0.5〜6.0、好ましくは1.0〜5.0である。コバルト(II)塩を含む水溶液のpHがこの範囲内にあることで、コバルト含有水溶液中に沈殿が析出することを抑制することができる。
コバルト(II)塩を含む水溶液のpHは、必要に応じて、公知の酸性化合物やアルカリ性化合物を用いて調整することができる。
コバルト(II)塩を含む水溶液を懸濁液に添加する際は、懸濁液のpH調節が容易であることから、一定量を連続的に添加するのが好ましい。
【0029】
コバルト(II)塩を含む水溶液を、原料粒子集合体を含む懸濁液に添加する際は、攪拌下、懸濁液のpHを8.0〜11.0、好ましくは8.5〜10.5に保持する。
懸濁液のpHを8.0〜11.0の範囲内に保持することで、水酸化ニッケル含有粒子の表面をα−水酸化コバルトで効率よく被覆することができる。より均一に、水酸化ニッケル含有粒子の表面をα−水酸化コバルトで被覆することができることから、懸濁液のpHは、上記範囲内で一定の値に保持することが好ましい。なお、「pHが一定の値」とは、pHが、所定の値のプラスマイナス0.1以内であることをいう。
【0030】
懸濁液のpH調節は、コバルト(II)塩を含む水溶液の添加量に合わせて、アルカリ性水溶液を適当量添加することで行うことができる。
アルカリ性水溶液の調製に用いるアルカリ性化合物としては、アルカリ金属の、水酸化物や炭酸塩、アルカリ土類金属の、水酸化物や炭酸塩等が挙げられる。なかでも、アルカリ金属の、水酸化物や炭酸塩が好ましい。
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
アルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等が挙げられる。
アルカリ性水溶液のpHは、通常、9〜13、好ましくは10〜13である。
【0031】
また、コバルト(II)塩を含む水溶液を懸濁液に添加する際には、懸濁液の溶存酸素濃度を、0.5mg/L以下、好ましくは0.01〜0.1mg/Lに保持する必要がある。
懸濁液の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に保持することで、α−水酸化コバルトの酸化が避けられ、細孔がほとんどない高次コバルト化合物が生成するのを防ぐことができる。
【0032】
懸濁液の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に保持する方法としては、溶存酸素濃度が低い水を用いて、懸濁液やコバルト(II)塩を含む水溶液を調製し、不活性ガス雰囲気下で反応を行う方法や、懸濁液に不活性ガスを吹込み(バブリング)ながら、コバルト(II)塩を含む水溶液等を添加する方法が挙げられる。
用いる不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス、ラドンガス等が挙げられる。
懸濁液の溶存酸素濃度は、反応容器内に備えた溶存酸素計によって測定することができる。
【0033】
コバルト(II)塩を含む水溶液の添加量は、前記原料粒子集合体100重量部あたり2〜10重量部、好ましくは3〜9重量部となる量である。
【0034】
工程Aを行う時間は、水酸化ニッケル含有粒子の表面をα−水酸化コバルトで被覆することができる限り、特に制限されない。通常10分〜2時間、好ましくは30分〜1時間である。
工程Aの反応温度は、通常10〜80℃、好ましくは20〜60℃である。
【0035】
工程Aによって、α−水酸化コバルトで表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子を含む懸濁液を得ることができる。
α−水酸化コバルトからなる水酸化コバルト層は、β−水酸化コバルトからなる水酸化コバルト層に比して、水酸化ニッケル含有粒子の表面に対する密着性に優れる。
【0036】
〔工程B〕
工程Bは、工程Aで得られた懸濁液の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に保持しながら、前記懸濁液のpHを11.5〜13.5に調整することにより、水酸化ニッケル含有粒子の表面を被覆するα−水酸化コバルトをβ−水酸化コバルトに変換して、β−水酸化コバルトで表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子を含む懸濁液を得る工程である。
【0037】
工程Bにおいて、懸濁液のpHを11.5〜13.5の範囲内に調整することで、α−水酸化コバルトを、β−水酸化コバルトに効率よく変換することができる。
より均一にβ−水酸化コバルトに変換することができることから、懸濁液のpH値は、上記範囲内で一定の値に保持することが好ましい。
懸濁液のpHは、懸濁液にアルカリ性水溶液を添加することで調整することができる。用いるアルカリ性水溶液としては、先に工程Aの中で説明したものが挙げられる。
【0038】
工程Bにおいて、懸濁液の溶存酸素濃度を、0.5mg/L以下、好ましくは0.01〜0.1mg/Lに保持することで、α−水酸化コバルトが酸化されるのが抑制され、均一に、β−水酸化コバルトに効率よく変換することができる。
溶存酸素濃度を0.5mg/L以下にする方法としては、先に工程Aにおいて説明した方法を用いることができる。
【0039】
工程Bを行う時間は、α−水酸化コバルトをβ−水酸化コバルトに変換することができる限り、特に制限されない。通常、10分〜2時間、好ましくは30分〜1時間である。
工程Bの反応温度は、通常10〜80℃、好ましくは20〜60℃である。
【0040】
工程Bによって、水酸化ニッケル含有粒子の表面を被覆するα−水酸化コバルトが酸化されることなくβ−水酸化コバルトに変換される。β−水酸化コバルトは、高次コバルト化合物層を形成する際の前駆体として適する化合物である。
【0041】
〔工程C〕
工程Cは、工程Bで得られた懸濁液のpHを11.5〜13.5、溶存酸素濃度を1.0〜15.0mg/Lに調整することにより、水酸化ニッケル含有粒子の表面を被覆するβ−水酸化コバルトを酸化して、コバルト原子の平均価数が2.1〜3.0のコバルト化合物に変換することで、コバルトの平均価数が2.1〜3.0であるコバルト化合物により表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子を含む懸濁液を得る工程である。
【0042】
工程Cにおいては、懸濁液のpHを、11.5〜13.5、好ましくは12.0〜13.0に調整する。懸濁液のpHを11.5〜13.5の範囲内に調整することで、β−水酸化コバルトの酸化を促進させることができる。
より均一に酸化させることができることから、pH値は、上記範囲内で一定の値に保持することが好ましい。ここで、「pHが一定の値」とは、pHが、所定の値のプラスマイナス0.1以内であることをいう。
【0043】
工程Cにおいては、懸濁液の溶存酸素濃度を、1.0〜15.0mg/L、好ましくは2.0〜14.0mg/Lに調整する。
懸濁液の溶存酸素濃度を上記範囲内に調整することで、水酸化ニッケル含有粒子の表面を被覆するβ−水酸化コバルトを酸化して、コバルト原子の平均価数が2.1〜3.0のコバルト化合物に効率よく変換することができる。
溶存酸素濃度を上記範囲にする方法としては、空気や酸素ガス、酸素ガスを不活性ガスで希釈した混合ガスを懸濁液に吹き込む方法が挙げられる。
【0044】
工程Cを行う時間は、β−水酸化コバルトを酸化して、コバルト原子の平均価数が2.1〜3.0のコバルト化合物が得られる限り、特に制限されない。通常10分から2時間、好ましくは30分から1時間である。
工程Cの反応温度は、通常10〜80℃、好ましくは20〜60℃である。
【0045】
工程Cの後、得られた沈殿物に対して、ろ過、水洗、乾燥等の公知の処理を適宜行うことにより、目的とするコバルト化合物被覆水酸化ニッケルを含む粒子集合体を単離することができる。
【0046】
〔粒子集合体〕
本発明の粒子集合体は、上記工程A〜工程Cを有する製造方法によって得られるものであり、表面から高次コバルト化合物層が剥離しにくいCo/Ni含有粒子を含有するものである。本発明の粒子集合体中のCo/Ni含有粒子の含有量は、通常90重量%以上、好ましくは、95〜99重量%である。
【0047】
Co/Ni含有粒子の高次コバルト化合物層は、コバルト原子の平均価数が2.1〜3.0のコバルト化合物からなる。コバルト原子の平均価数が2.1〜3.0のコバルト化合物は、β−水酸化コバルト(II)の高次酸化物であり、典型的にはオキシ水酸化コバルトである。
高次コバルト化合物層を構成するコバルト化合物のコバルト原子の平均価数は、例えば、ヨードメトリー法等の分析方法により調べることができる。具体的には、ICP発光分析によりCo/Ni含有粒子中に含まれるコバルト量を測定し、次いで、Co/Ni含有粒子とヨウ化カリウムとを塩酸に溶解させて調製した溶液を、チオ硫酸ナトリウム溶液を用いて適定することにより、コバルト原子の平均価数を算出することができる。
【0048】
コバルト原子の平均価数を、2.1以上、好ましくは2.6以上とすることで、充電により、電池内で電気化学的に酸化して形成される、導電性が高いオキシ水酸化コバルトの割合が大きくなるのを抑制することができる。これにより、自己放電特性の低下を抑制することができる。また、コバルトの平均価数を3.0以下とすることにより、コバルト化合物の結晶中における電荷のバランスを保ち、コバルト化合物を安定させることができる。従って、電池内のアルカリ電解液との反応を抑制し、結晶中にナトリウムイオンやカリウムイオンなどのカチオンを取り込むのを抑制することができる。これにより、コバルト化合物の電子導電性の上昇を抑制することができ、ひいては、自己放電特性を良好にすることができる。
【0049】
高次コバルト化合物層の平均厚みは特に制限されないが、通常、0.01〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.5μmである。高次コバルト化合物層の平均厚みを上記範囲内にすることで、Co/Ni含有粒子の核部分との密着性がさらに向上する。
【0050】
本発明の粒子集合体の粒子径D50は、10〜15μmであることが好ましく、11〜14μmであることがより好ましい。粒子径D50が10μm未満のときは、かさ高い粒子を多く含有する傾向があるため、粒子集合体を正極活物質として用いたときに容量密度が低下し易くなる。一方、粒子径D50が15μmを超えると、粒子集合体を正極活物質として用いたときに充填度を高くすることが困難になる場合がある。
【0051】
本発明の粒子集合体に含まれる粒子径が5μm以下の粒子の累積頻度%値は、12.0%以下であることが好ましく、11.5%以下であることがより好ましい。粒子径が5μm以下の累積頻度%値が12.0%以下であることで、ペーストを調製したときに高粘度のペーストになりにくく、正極を作製する際の作業性が向上する。
【0052】
本発明の粒子集合体のBET比表面積は、好ましくは5〜20m
2/g、より好ましくは、8〜15m
2/gである。BET比表面積が5m
2/g未満の粒子集合体は、正極活物質として用いたときに充放電の際のイオン伝導が低くなるおそれがある。一方、BET比表面積が20m
2/gを超える粒子集合体は、大気中の水分が粒子表面に吸着し易いため、正極活物質として用いたときにアルカリ蓄電池が劣化するおそれがある。
【0053】
本発明の粒子集合体のタップ密度は、好ましくは1.5〜2.5g/cm
3、より好ましくは、1.6〜2.4g/cm
3である。タップ密度が1.5g/cm
3未満の粒子集合体は、正極活物質として用いたときに充填度を高くすることが困難になるおそれがある。また、タップ密度は高いほど好ましいが、通常、2.5g/cm
3を超えるものは得られにくい。
【0054】
本発明の粒子集合体のバルク密度は、好ましくは0.8〜1.8g/cm
3、より好ましくは、0.9〜1.7g/cm
3である。バルク密度が0.8g/cm
3未満の粒子集合体は、正極活物質として用いたときに充填度を高くすることが困難になるおそれがある。また、タップ密度は高いほど好ましいが、通常、1.8g/cm
3を超えるものは得られにくい。
【0055】
本発明の粒子集合体の、BET比表面積、タップ密度、及びバルク密度は、実施例に記載した公知の測定法により求めることができる。
【0056】
本発明の粒子集合体は、CuKα線を使用するX線回折測定において、2θ=37〜40°付近に第1のピーク(ピーク1)と、2θ=64〜67°付近に第2のピーク(ピーク2)が観測され、かつ、前記ピーク1の半価幅が0.7〜1.2°であり、ピーク2の半価幅が1.5°以下であるものが好ましい。
【0057】
ピーク1は、Co/Ni含有粒子の核部分に含まれる水酸化ニッケルに由来するピークと考えられる。したがって、ピーク1の半価幅は水酸化ニッケルの結晶性を表す。ピーク1の半価幅が0.7°以上のときは水酸化ニッケルの結晶性が高すぎない状態である。したがって、この粒子集合体を正極活物質として用いることで、十分なプロトン拡散が行われ、良好な放電特性を有する正極を得ることができる。一方、ピーク1の半価幅が1.2°以下のときは水酸化ニッケルの結晶性が低すぎない状態であり、Co/Ni含有粒子の核部分が高い密度を有することを意味する。したがって、この粒子集合体を正極活物質として用いることで、容量密度が高い正極を得ることができる。
【0058】
ピーク2は、Co/Ni含有粒子の高次コバルト化合物層に含まれるオキシ水酸化コバルトに由来するピークと考えられる。したがって、ピーク2の半価幅はオキシ水酸化コバルトの結晶性を表す。ピーク2の半価幅が1.5°以下のときはオキシ水酸化コバルトの結晶性が低すぎない状態であり、オキシ水酸化コバルトの導電性が高くなりすぎることはない。したがって、この粒子集合体を正極活物質として用いることで、自己放電しにくい正極を得ることができる。ピーク2の半価幅の下限値は特にないが、通常、0.5°以上である。ピーク2の半価幅が0.5°以上であることで、オキシ水酸化コバルトが適度な導電性を有するものとなり、活物質の利用率を高めることができる。
【0059】
上記のように、本発明の粒子集合体は、工程A〜工程Cを有する製造方法によって得られるものである。本発明の粒子集合体は、微細な粒子の含有量が少ないため、本発明の粒子集合体を用いることで、適度な粘度を有するペーストを得ることができ、正極を作製する際の作業性に優れる。また、本発明の粒子集合体を構成する、高次コバルト化合物により表面が被覆された水酸化ニッケル含有粒子は、高次コバルト化合物が剥離しにくいため、導電性が低下しにくい。これらの特性を有するため、本発明の粒子集合体は、アルカリ蓄電池の正極活物質として有用である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。ただし本発明は以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0061】
得られた粒子集合体の分析は次のとおりに行った。
(a)組成
ICP発光分析装置(リガク社製、CIROS−120 EOP)を用いて、粒子の組成を分析した。
(b)コバルトの平均価数
ICP発光分析を行い、コバルト量を測定した。次いで、試料とヨウ化カリウムとを塩酸に溶かして試料溶液を調製し、この試料溶液をチオ硫酸ナトリウム溶液で適定した。これらの測定結果に基づき、コバルトの平均価数を算出した。
(c)粒子径
レーザ回折粒度分布計(堀場製作所社製、LA−950)にて、分散媒に純水を用いて、粒子径が5μm以下の粒子の量、及び粒子径D50を測定した。
(d)BET比表面積
比表面積測定装置(マウンテック社製、Macsorb)を用い、1点BET法によって測定を行った。
【0062】
(e)タップ密度
タップデンサー(セイシン社製、KYT−4000)を用いて、JIS R1628に記載の手法の内、定容積測定法によって測定を行った。
(f)バルク密度
試料を自然落下させて容器に充填し、容器の容積と試料の質量からバルク密度を求めた。
(g)X線回折
X線回折装置(リガク社製、RINT2200)を用い、下記条件にて測定を行った。
X線:CuKα/40kV/40mA
スリット:DS/SS=1°,RS=0.3mm
走査モード:FT測定
Sampling Time:0.4秒
Step Width:0.01°
(h)電子顕微鏡観察
電子顕微鏡(日立製作所社製、S−3400)を使用して粒子表面の観察を行った。倍率20000倍で観察したときの電子顕微鏡写真を
図1〜
図3に示す。
【0063】
懸濁液の分析は次のとおりに行った。
(a)酸素濃度測定
溶存酸素計(HORIBA社製、OM−051−L1)を用いて、懸濁液の溶存酸素濃度を測定した。
(b)pH測定
pH計(HORIBA社製、D−51S)を用いて、懸濁液のpHを測定した。
【0064】
〔製造例1〕水酸化ニッケル含有粒子の製造
容積40Lの攪拌機付き反応槽に、金属イオン含有水溶液(硫酸ニッケル(II)、硫酸コバルト(II)及び硫酸マグネシウム(II)を、ニッケルイオン:コバルトイオン:マグネシウムイオンのモル比が95:2:3の割合で含有し、金属イオン濃度が2.4モル/Lの水溶液)、5.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液、6.0モル/Lのアンモニア水溶液を、それぞれ、15.0mL/分の流量で連続的に供給するとともに、反応槽内を攪拌し、温度を50℃に維持した。
反応系が定常状態(金属イオン濃度と、生成した粒子の濃度との割合が一定で、懸濁液のpHが12.5で一定の状態)に達した後、反応槽内の懸濁液をオーバーフロー管を通して取り出し、これを一時貯留し、次いで水洗、脱水処理を行うことで、水酸化ニッケル含有粒子を含むケークを得た。
ケークの一部を乾燥して水酸化ニッケル含有粒子の物性を測定した。測定結果を参考例として第1表に示す。
また、得られた水酸化ニッケル含有粒子のX線回折測定を行ったところ、得られたパターンは、JCPDS無機物質ファイルの番号:14−117に記載されているXRDパターンと一致し、β−Ni(OH)
2型の単層であり、コバルト、マグネシウムが水酸化ニッケルに固溶していることが確認された。
【0065】
〔実施例1〕
容積40Lの攪拌機付き反応槽に、製造例1で得られた水酸化ニッケル含有粒子を含有するケーク(水酸化ニッケル含有粒子量、5600g)と、50℃の温水とを加えて攪拌し、懸濁液を得た。懸濁液の温度を50℃に維持した。また、5.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えることで懸濁液のpHを9.0に調節し、懸濁液に窒素ガスを吹き込むことで懸濁液の溶存酸素濃度を0.2mg/Lに調節した。
懸濁液の温度、pH、溶存酸素濃度をそれぞれ上記の値に維持しながら、懸濁液に、1.5モル/Lの硫酸コバルト(II)水溶液2.08Lを連続的に加えるとともに、pH調節用に5.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を断続的に加えて、120分間攪拌を継続した。
次に、懸濁液の温度及び溶存酸素濃度をそれぞれ維持しながら、懸濁液に、5.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えて懸濁液のpHを12.0に上げ、そのまま60分間攪拌を継続した。次いで、懸濁液の温度及びpHをそれぞれ維持しながら、懸濁液に空気を吹き込むことで懸濁液の溶存酸素濃度を3.0mg/Lに上げ、そのまま120分間攪拌を継続した。その後、沈殿物をろ過、脱水、乾燥処理を行い、目的の粒子集合体を得た。
得られた粒子集合体の特性を第1表に示す。
【0066】
また、X線回折測定により高次コバルト化合物層について調べたところ、JCPDS無機物質ファイルの番号:7−169に記載されている六方−菱面晶の層状構造で、結晶性の高いオキシ水酸化コバルトであることが確認できた。
【0067】
〔比較例1〕
容積40Lの攪拌機付き反応槽に、製造例1で得られた水酸化ニッケル含有粒子を含有するケーク(水酸化ニッケル含有粒子量、5600g)に50℃の温水を加えて攪拌し、懸濁液を得た。懸濁液の温度を50℃に維持しながら、5.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えることで懸濁液のpHを12.5に調節し、懸濁液に空気を吹き込むことで、懸濁液の溶存酸素濃度を3.0mg/Lに調節した。
懸濁液の温度、pH、溶存酸素濃度をそれぞれ上記の値に維持しながら、懸濁液に、1.5モル/Lの硫酸コバルト(II)水溶液2.08Lを連続的に加えるとともに、PH調節用に5.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を断続的に加えて、120分間攪拌を継続した。
次いで、その後、沈殿物をろ過、脱水、乾燥処理を行い、粒子集合体を得た。
得られた粒子集合体の物性を第1表に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例1の製造方法では、水酸化ニッケル含有粒子の表面に水酸化コバルトを析出させるときの懸濁液のpHが比較例1のものよりも低い。実施例1で得られた粒子集合体は、粒子径が5μm以下の粒子の含有量が少ないものであり、その量は、参考例の原料粒子集合体のものよりも減少していた。
一方、水酸化ニッケル含有粒子の表面に水酸化コバルトを析出させるときの懸濁液のpHが実施例1のものよりも高い、比較例1で得られた粒子集合体は、粒子径が5μm以下の粒子の含有量が多いものであり、その量は、参考例の原料粒子集合体のものよりも増加していた。
【0070】
図1に示す実施例1の粒子のSEM画像と、
図2に示す比較例1の粒子のSEM画像とを比較すると、粒子表面の状態が大きく異なっていることがわかる。コバルト化合物の結晶成長が十分に進行している割合が多くなっていることにより、実施例1のCo/Ni含有粒子においては、表面のコバルト化合物が剥離しにくくなっていると考えられる。