特許第6074670号(P6074670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6074670ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法
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  • 特許6074670-ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074670
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/44 20060101AFI20170130BHJP
   C07C 41/42 20060101ALI20170130BHJP
   C07C 43/225 20060101ALI20170130BHJP
   C07C 213/10 20060101ALI20170130BHJP
   C07C 217/84 20060101ALI20170130BHJP
   C07C 67/54 20060101ALI20170130BHJP
   C07C 67/60 20060101ALI20170130BHJP
   C07C 69/92 20060101ALI20170130BHJP
   C07B 63/00 20060101ALI20170130BHJP
   C07B 63/02 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C07C41/44
   C07C41/42
   C07C43/225
   C07C213/10
   C07C217/84
   C07C67/54
   C07C67/60
   C07C69/92
   C07B63/00 A
   C07B63/02 Z
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-84825(P2016-84825)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2016-135803(P2016-135803A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2016年8月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304049204
【氏名又は名称】大石 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大石 哲也
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−117727(JP,A)
【文献】 特開昭49−132020(JP,A)
【文献】 特開昭50−121243(JP,A)
【文献】 特開昭63−166849(JP,A)
【文献】 特開昭63−161004(JP,A)
【文献】 特開昭63−225338(JP,A)
【文献】 特開2015−059113(JP,A)
【文献】 特開昭52−105141(JP,A)
【文献】 特開昭60−051146(JP,A)
【文献】 特開昭62−153236(JP,A)
【文献】 特開昭62−158234(JP,A)
【文献】 特開2015−212252(JP,A)
【文献】 特開2007−009163(JP,A)
【文献】 米国特許第04877859(US,A)
【文献】 特開2001−181220(JP,A)
【文献】 特開平06−219998(JP,A)
【文献】 特開平11−292835(JP,A)
【文献】 特開平08−259227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B,C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)(HO)Ar(式中、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表されるフェノール類に対して非プロトン性極性溶媒を溶媒として用いて得られる該フェノール類の溶解液に、三級アミンを1.0〜3.0当量(対該フェノール類のOH基1当量)及び一般式(C(式中、nは2又は3の整数を示す。)で表されるヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを1.0〜1.3モル(対該フェノール類のOH基1当量)を加えて反応温度0℃〜70℃にて反応を行い、一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、nは2又は3の整数、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の反応生成混合物を得る工程と、
(ロ)上記(イ)工程で得られるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の反応生成混合物に、CaCO、Ca(OH)及びCa(HCOの群の中から選ばれる少なくとも1種を0.5〜2.0モル(対該フェノール類のOH基1当量)加えて(イ)工程の反応にて副生するフッ酸と反応を行い、フッ化カルシウム分散反応生成混合物を得る工程と、
(ハ)上記(ロ)工程で得られるフッ化カルシウム分散反応生成混合物よりフッ化カルシウム固形分を分離、三級アミン、非プロトン性極性溶媒及び未反応のヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを留去して、該ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物成分を得る工程と、
を含むことを特徴とする一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、n、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法に関し、より詳細には、高硬度・耐熱性・耐溶剤性・撥水撥油性・低屈折性等に優れた成形材料、積層板材料、塗料用ビヒクル、撥水・撥油性フィルム、潤滑剤、樹脂改質剤、電子材料等の機能性高分子材料、医薬、農薬等の精密化学品の原料として有用な 一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、nは2又は3の整数、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルフルオロアルケニルアリールエーテル類の製造方法として、置換基を有することもあるフェノール性水酸基含有化合物とペルフルオロアルケンのオリゴマーとを反応させて得られる方法が知られている(例えば、英国特許第1130822号公報、英国特許第1143927号公報、特公昭57−56454号公報等)。
【0003】
例えば、英国特許第1143927号公報には、フェノール性水酸基含有化合物のアルカリ金属誘導体とヘキサフルオロプロペン・トリマーを反応させてペルフルオロアルケニルアリールエーテル類を製造する方法が提案されている。
【0004】
かかる方法において、該アルカリ金属誘導体は、調整及び単離に非常な困難を伴うこと、溶媒に対する溶解性が優れないこと、更には、これを用いて得られる目的物の収率が優れないこと、着色が著しいこと、副生フッ化アルカリ金属塩の処理、利用が難しいこと等の欠陥を有し、工業的規模での製造が難しい。
【0005】
又、特公昭57−56454号公報には、異性化された熱力学的に安定なヘキサフルオロプロペン・オリゴマーとフェノール性OH基を有する芳香族化合物とを三級アミン存在下に反応させてペルフルオロアルケニルアリールエーテル類を製造する方法が提案されている。
【0006】
そして、かかる実施例Eには、p−クレゾールと異性化処理されたヘキサフルオロプロペン3量体とを用い、ベンゼン中、N,N−ジメチルアニリン存在下に脱フッ酸反応を行った後、反応生成物を水にあけ、下層を分取し希塩酸および水で洗浄し、減圧蒸留にてp−ペルフルオロノネニルオキシトリルエーテルを得ることが開示されている。
【0007】
更に、かかる公知技術をもとに、特異な性質を有するペルフルオロアルケニルオキシ基を有する含フッ素化合物、例えば、該基を有する含フッ素カルボン酸類、含フッ素ケトン類、含フッ素エーテル類、含フッ素アミン類、含フッ素アミド類、含フッ素スチレン類等が提案され、産業上期待されている(例えば、特開昭50−121243号公報、特開昭52−105141号公報、特開昭60−51146号公報、特開昭63−166849号公報、特開昭60−228474号公報、特開昭63−233940号公報、特開昭64−74215号公報、特開昭62−178551号公報、特開昭64−83064号公報、特開平2−117648号公報、特開平5−85995号公報、特公平6−51653号公報、特開平3−66639号公報、特開2007−9163号公報、特開昭59−46236号公報、特開2002−348268号公報等)。
【0008】
例えば、特開昭60−228474号公報の「発明の詳細な説明」には、p−ヒドロキシルフェニルアルキルケトンとヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを、三級アミン存在下に反応させて、p−パーフルオロアルケニルオキシフェニルアルキルケトンが容易に得られることが記載されている。
【0009】
そして、かかる実施例1(p−パーフルオロノネニルオキシアセトフェノン:化合物Aの合成)には、p−ヒドロキシアセトフェノンを用い、ジメチルホルムアミド中、トリエチルアミン存在下にヘキサフルオロプロペン3量体を摘下して脱フッ酸反応を行った後、反応混合物を水中にあけ、下層を分取し、希塩酸、水等により洗浄し、減圧蒸留にて該含フッ素ケトンを得ることが開示されている。
【0010】
又、特開平5−85995号公報には、アミノ基が保護されたジアミノヒドロキシベンゼン化合物とパーフルオロアルケンオリゴマーとを有機溶媒中、塩基の存在下にて脱フッ酸反応させることを特徴とするアミノ基が保護されたフッ素含有ジアミノベンゼン化合物の製造方法が提案されている。
【0011】
そして、かかる実施例1には、1,3−ビス(アセチルアミノ)−5−ヒドロキシベンゼンを溶解させたジメチルホルムアミド溶液にヘキサフルオロプロペン3量体を加え、トリエチルアミンを滴下して脱フッ酸反応を行った後、反応溶液を水に注ぎ、生じた沈澱を
ニルオキシ)ベンゼンを得ることが開示されている。
【0012】
更に、特開2007−9163号公報には、ヒドロキシスチレン誘導体とペルフルオロオレフィンを非水溶媒中、塩基性触媒の存在下に脱フッ酸反応させることを特徴とする含フッ素スチレン誘導体の製造方法も提案されている。
【0013】
そして、かかる実施例1には、4−ヒドロキシスチレン及びトリエチルアミンを溶解させたジメチルホルムアミド溶液に、ヘキサフルオロプロペン3量体を加えて脱フッ酸反応を行った後、その反応混合物に水を加えることにより2層とし、塩酸を加え、上部の水層を酸性にした後、ヘキサンを用いて有機層を数回抽出し、抽出した有機層は合わせて、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶液を減圧下で濃縮した後、ヘキサンを展開液とし、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフにより精製することにより、4−ペルフルオロ(2−イソプロピル−1,3−ジメチル−1−ブテニル)オキシスチレンを得ることが開示されている。
【0014】
しかしながら、これら公知技術のいずれにおいても、かかるペルフルオロアルケニルオキシ基を有する含フッ素化合物の製造方法は、相当するフェノール性OH基を含有する化合物とペルフルオロアルケンのオリゴマーとを用い脱フッ酸反応等を行った後、目的生成物を得るのに反応混合物に大量の水を添加して相分離させて分取する精製処理工程により行われている。そして、かかる実用化するうえで重要な製造工程である排出する水溶液の処理、反応助剤の回収等については記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】英国特許第1130822号公報
【特許文献2】英国特許第1143927号公報
【特許文献3】特公昭57−56454号公報
【特許文献4】特開昭50−37736号公報
【特許文献5】特開昭50−121243号公報
【特許文献6】特開昭52−105141号公報
【特許文献7】特開昭60−51146号公報
【特許文献8】特開昭63−166849号公報
【特許文献9】特開昭60−228474号公報
【特許文献10】特開昭63−233940号公報
【特許文献11】特開昭64−74215号公報
【特許文献12】特開昭62−178551号公報
【特許文献13】特開昭64−83064号公報
【特許文献14】特開平2−117648号公報
【特許文献15】特開平5−85995号公報
【特許文献16】特公平6−51653号公報
【特許文献17】特開平3−66639号公報
【特許文献18】特開2007−9163号公報
【特許文献19】特開昭59−46236号公報
【特許文献20】特開2002−348268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
かかるペルフルオロアルケニルオキシ基を有する含フッ素化合物の製造反応においては、有害な腐食性毒物であるフッ酸を副生し、反応系中で塩基性触媒との塩の形で存在するが、かかる塩、溶媒等は不要なので反応生成物の系より分離除去することになる。そこで、従来、かかる分離除去操作として、該反応後の溶液に水を加え、該含フッ素化合物を含む液状物あるいは固形物と該塩基性化合物のフッ酸塩、反応助剤等を含む水溶液とに相分離させて該目的物を回収し、更には、該目的物を水又は酸洗浄処理して該処理水と分離する操作が行われる。かかる製造工程は、精製処理水として大量の水を用いることを要し、且つ、該水溶液中には製造反応により副生するフッ酸を含有するため、該水溶液から塩基性化合物触媒、溶媒等の反応助剤を分離回収することは技術的、経済的に難しい。更に、該水溶液に含まれる副生フッ酸に基因するフッ素イオンを健康に安全で且つ環境を保全維持するレベルにまで処理、回収することは技術的、経済的に著しく困難である。かかる大量の水を用いて水溶液を排出する製造工程は技術的、経済的にも不利であり、環境に対する負荷も大きくなり好ましくなく、工業的規模での実施に際しては大きな欠陥を有する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記の問題点を解決するもので、健康や環境により配慮した製法で、生産性向上、低コスト化を実現すべく、ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造する際に副生するフッ酸をフッ化カルシウムに変換し、反応助剤等とともに簡便且つ効果的に回収、再利用する方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、nは2又は3の整数、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造にあたり、溶媒として非プロトン性極性溶媒、塩基性触媒として三級アミンを用いることにより、フェノール性OH基を少なくとも1個有するアレーン化合物とヘキサフルオロプロペンのオリゴマーとの脱フッ酸反応を高収率で進め、該反応生成溶液にCaCO類を加えて副生フッ酸と反応させ、系中にてフッ化カルシウム固形分として安全な物質に変換して簡易に分離回収し、該
作に対するフッ酸の影響をなくすることができ、蒸留等の操作により三級アミン、非プロトン性極性溶媒、未反応オリゴマーを簡易、安全に且つ目的生成物のロスも少なく分離回収できることを見出した。又、これらの回収した化学物質を再利用してペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物を製造できるとともに、回収したフッ化カルシウムを有効利用できることも見出して、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、
(イ)(HO)Ar(式中、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表されるフェノール類に対して非プロトン性極性溶媒を溶媒として用いて得られる該フェノール類の溶解液に、三級アミンを1.0〜3.0当量(対該フェノール類のOH基1当量)及び一般式(C(式中、nは2又は3の整数を示す。)で表されるヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを1.0〜1.3モル(対該フェノール類のOH基1当量)を加えて反応温度0℃〜70℃にて反応を行い、一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、nは2又は3の整数、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の反応生成混合物を得る工程と、
(ロ)上記(イ)工程で得られるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の反応生成混合物に、CaCO、Ca(OH)及びCa(HCOの群の中から選ばれる少なくとも1種を0.5〜2.0モル(対該フェノール類のOH基1当量)加えて(イ)工程の反応にて副生するフッ酸と反応を行い、フッ化カルシウム分散反応生成混合物を得る工程と、
(ハ)上記(ロ)工程で得られるフッ化カルシウム分散反応生成混合物よりフッ化カルシウム固形分を分離、三級アミン、非プロトン性極性溶媒及び未反応のヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを留去して、該ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物成分を得る工程と、
を含むことを特徴とする一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、n、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法である。
【0020】
本発明の(イ)工程に係わるフェノール類は、一般式(HO)Ar(式中、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表される化合物である。
【0021】
該式中において、(HO)基は、Arで表される置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の芳香族環に結合するフェノール性OH基を示す。kは1以上の整数であるが、反応を良好に進め優れた収率を得るには、1〜3の整数であることが好ましい。Arは、置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であるが、該芳香族単環及び多環式炭化水素基は、該芳香族単環及び多環式炭化水素の芳香族核上に遊離基があるものであり、該芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン等が挙げられるが、好ましくはベンゼン及びナフタレンである。
【0022】
該置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基等のアルケニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、モノアシルアミノ基、ジアシルアミノ基等のモノ、ジ置換アミノ基、N,N−ジアルキルアミド基等のジ置換アミド基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の(イ)工程に係る(HO)Ar(式中、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表されるフェノール類(以下、フェノール類という。)の溶解液の溶媒として用いる非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド類、スルホラン類が挙げられるが、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミドである。
【0024】
該N,N−ジメチルホルムアミドは、原料フェノール類に対する相溶性に優れていること、更に、引き続いて行うヘキサフルオロプロペンのオリゴマーからなる脱フッ酸反応の合成溶媒として、合成反応性、生成物との相溶性に優れること、比較的沸点が低く、水と共沸しないため回収が簡易であること等から極めて優れている。
【0025】
尚、かかる非プロトン性極性溶媒として、ヘキサメチルホスホルアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド類、スルホラン類の溶媒は、原料フェノール類に対する相溶性が十分でないこと、回収における取扱いが難しい等のため工業用として利点に乏しい。
【0026】
本発明の(イ)工程に係る三級アミンとしては、脂肪族三級アミンおよび芳香族三級アミンが有用であり、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、N,N−メチルピペリジン、1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル等が挙げられるが、好ましくは脂肪族三級アミンであり、特に好ましくはトリエチルアミンである。
【0027】
該トリエチルアミンは、一般式(C(式中、nは2又は3の整数を示す。)で表されるヘキサフルオロプロペンのオリゴマー中の反応性に優れる異性体への異性化を容易に進めること、本発明に係る製造の脱フッ酸反応の触媒として優れて反応が速やかに進むこと、本発明に係る製造法の(ロ)工程において生成する水を共沸混合物として容易に留去できること、製造プロセスにおいて該化合物の回収が簡易であり該製造に再利用できること、該化合物を排出しないため健康や環境により配慮されること等から本発明に係るペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造を実用化する上で工業的に特に優れている。
【0028】
又、該ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の合成反応における三級アミンの使用量としては、該フェノール類のOH基1当量に対して該アミノ基1.0〜3.0当量の量比であるが、1.02〜2.1当量の量比で使用することがより好ましい。該量比が、1.0当量より少ない場合には、反応生成物中に不純物として該フェノール類及びその重合物が混在し精製等の工程が煩雑になり工業的に不利になること、又、3.0当量より多い場合には、合成反応において副生反応物が生成しやすいこと等から好ましくない。
【0029】
本発明の(イ)工程に係る一般式(C(式中、nは2又は3の整数を示す。)で表されるヘキサフルオロプロペンのオリゴマーとしては、例えば、ヘキサフルオロプロペン2量体(C12)、ヘキサフルオロプロペン3量体(C18)及びこれらの異性体が挙げられるが、これらの混合物を用いることもできる。
【0030】
又、該ヘキサフルオロプロペン3量体には、ペルフルオロ(3−イソプロピル−4−メチル−2−ペンテン)とペルフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)の2幾何異性体が存在するが、異性体ペルフルオロ(3−イソプロピル−4−メチル−2−ペンテン)は、本発明に係わる反応条件下において、該異性体の2位結合F原子と原料フェノール性OH基との脱フッ酸反応が極めて容易に進むため特に好ましい。他方、異性体ペルフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)は、通常、それ自体と原料フェノール性OH基との反応は極めて進み難いが、該異性体は、本発明に係わる非プロトン性極性溶媒、三級アミン存在下においては、異性体ペルフルオロ(3−イソプロピル−4−メチル−2−ベンテン)に容易に異性化して、原料フェノール性OH基との反応が良好に進むため、同様に有用であり、これらの異性体混合物を用いることもできる。
【0031】
尚、ヘキサフルオロプロペンをフッ素イオンの存在下スルホラン類を溶媒として2量化または3量化したもの、ヘキサフルオロプロペンの2量体または3量体をフッ素イオンの存在下スルホラン類を溶媒として異性化して得られる化合物は反応性が良好であることから好ましい。
【0032】
かかるヘキサフルオロプロペンのオリゴマーの使用量は、該合成反応が化学量論的には該オリゴマー1モルと該フェノール類のOH基1当量の量比で反応が進むので、反応に用いる該フェノール類のOH基1当量に対して1モルの量比で使用すればよいが、該反応を十分に完結させるには、通常該フェノール類のOH基1当量に対し1.0〜1.3モルの量比で使用するのが好ましい。
【0033】
本発明の(イ)工程に係る合成の反応温度は、0℃〜70℃の範囲である。反応温度が高くなるに従って反応速度が速くなるが、室温で十分速やかに反応させることができ、原料及び生成物の熱重合反応等の副反応を防止する上から5℃〜65℃の範囲で行うことが好ましく、より好ましくは10℃〜60℃の範囲である。
【0034】
該反応は、大気圧下あるいは加圧下で行うことができるが、反応作業、装置の簡便さから大気圧下で行うことが好ましい。
【0035】
更に、反応系は、空気雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、反応生成物の着色を少なくする上から不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。かかる不活性ガスとしては、具体的には窒素、ヘリウム、アルゴン、キセノン等が挙げられるが、特に、経済性の面から窒素が好ましい。
【0036】
次いで、本発明に係る(ロ)工程は、上記の(イ)工程で得られる反応生成混合物に含まれる製造反応にて副生するフッ酸と、CaCO、Ca(OH)及びCa(HCOの群(以下、CaCO類という。)の中から選ばれる少なくとも1種とを反応させ、フッ化カルシウムを固形分として生成せしめるが、かかる反応は反応温度0℃〜70℃で行われ、通常、室温にて速やかに反応が進む。又、かかる反応は定量的に進み、副生フッ酸はフッ化カルシウムに全量変換される。
【0037】
該反応生成混合物中の副生フッ酸とCaCO類との反応は、フッ化カルシウム固形分を生成する以外に、水、場合によりCOガスを生ずるが、これらは、(ハ)工程においてトリエチルアミン等の三級アミンと水とを共沸蒸留にて留去する方法、ガスとして排気する方法等により簡易に系外に除去することができる。そのため、反応生成混合物中の三級アミン、非プロトン性極性溶媒及び未反応オリゴマーを蒸留等にて分留、除去することが容易になるため、工業的規模での実施に際しては極めて優れている。
【0038】
かかるCaCO類としては、CaCO、Ca(OH)及びCa(HCOの群の中から選ばれる少なくとも1種であるが、価格的に安価で且つ取扱い易いCaCO、Ca(OH)が好ましく、更にはCaCOがより好ましい。尚、CaCO類の代わりに、カルシウムの有機酸塩、塩酸、リン酸等の鉱酸塩を用いた場合には、かかる反応後に有機酸、鉱酸が反応生成混合物に残存し、これらを除去するには煩雑な操作を要するばかりでなく、廃棄物として排出され環境に影響を及ぼすこと、反応生成混合物に残存する有用な三級アミン、非プロトン性極性溶媒及び未反応オリゴマーを分離回収することが難しいこと等のため、工業的に利用することは難しい。
【0039】
尚、かかるCaCO類の使用形態は、通称「タンカル」の普通品、重質品、沈降炭酸カルシウム(薬局方)、軽質炭酸カルシウム、コロイド領域の粒度の炭酸カルシウム、消石灰等の固形分、これらの顆粒状、ペレット、ブリケット、ハニカム状等の造粒品及びこれらの水、溶媒による分散液あるいは溶液、重炭酸ソーダ水溶液等として用いることができるが、これらの形態に限定されるものではない。
【0040】
かかるCaCO類の使用量は、フッ酸が該フェノール類のOH基と等当量の量比で副生し、且つ該フッ酸1当量はCaCO類0.5モル(1当量)と反応が進むため、化学量論的には該フェノール類のOH基1当量に対して0.5モルの量比で使用すればよいが、好ましくは0.5〜2.0モルの量比であり、より好ましくは 0.51〜1.01モルの量比である。
【0041】
本発明の(ロ)工程を行うことにより、腐食性毒物である副生フッ酸をフッ化カルシウム固形分に変換して安定で健康及び環境により優れたものとし、反応目的物及び反応助剤等の分離精製等の操作を簡易に且つ安全に行うことができ、工業的規模での実施に際して著しく優れたものである。
【0042】
本発明に係る(ハ)工程において、(ロ)工程で得られるフッ化カルシウム分散反応生成混合物よりフッ化カルシウム固形分の分離、反応助剤等の留去の操作を行い、該ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物成分を得る。かかる分離、留去操作は、フ
反応ヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを蒸留にて分留しながら留去し、一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、n、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物成分を得ることができる。尚、該
(ロ)工程を同様に行うこともできる。
【0043】
更に、
(1)(ロ)工程で得られるフッ化カルシウム分散反応生成混合物より三級アミン及び未反応オリゴマーの反応助剤、生成水を共沸蒸留等により予め分留回収した後、フッ化カル
【0044】
(2)(イ)工程で得られる反応生成混合物中に反応生成固形分が存在する場合には、本発明の(ロ)工程を行なった後、フッ化カルシウム固形分と反応生成固形分を分離して、
カルシウム固形分と反応生成固形分は、メタノール、ベンゼン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロベンゼン、1,1,2−トリフルオロ−1,2,2−トリクロロエタン等の溶媒を用いて、不溶のフッ化カルシウム固形分及び未反応カルシウム塩を分離回収した後、再結晶等の操作により目的生成物を得ることもでき、かかる方法も有用である。尚、該(ハ)工程における該分離操作等の手順は、場合により適宜選定することができ、これらの方法に限定されるものではない。
【0045】
尚、これらの分離、留去等の操作、方法は、反応生成混合物系中の副生フッ酸をフッ化カルシウム固形分に変換することにより、該フッ酸による障害を除去し、操作が簡易で健康及び環境により好ましく行うことが可能になったものであり、更に、反応助剤等を簡易に、効率よく回収でき、実用上、工業的規模において優れたものである。
【0046】
尚、上記の(ハ)工程において、上記の(ロ)工程で得られるフッ化カルシウム分散反応生成混合物よりフッ化カルシウム固形分等を固液分離する操作は、遠心分離器、濾過器等により簡易に行うことができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0047】
上記の如く分離、回収して得られるフッ化カルシウム固形分は、CaCO類以外の固形分、例えば、天然蛍石に不純物として含まれるマグネシウム、ヒ素金属類、人工蛍石に不純物として含まれる二酸化珪素等を含有しない良質なフッ化カルシウム物質として得られ、産業上有用である。更に、高純度のフッ化カルシウムは、該回収固形分を水に分散させた液にCOガスを吹き込むことにより、不純物のCaCO類を水に可溶な重炭酸カルシウムに変換し水に溶解させて除去する方法、該回収固形分にフッ酸を流通させて未反応CaCO類を反応させフッ化カルシウムに変換して純度を向上させる方法等により得ることができ、光学レンズ等の高機能材料として利用することができる。
【0048】
上記の(ハ)工程にて回収される三級アミン分留液は、通常、高純度であり本発明の製造法において再利用することができ、場合により水を含有することもあるが、かかる場合は、簡易に脱水精製して再利用することができる。
【0049】
例えば、水を含むトリエチルアミン分留液より水を含まない高純度のトリエチルアミンを得るには、(1)該分留液を加温して、好ましくは40〜70℃にて、トリエチルアミン層と水層とに2層分離させて得る方法、(2)該分留液に第三成分として例えばn−ヘキサンを共存させ、蒸留によりn−ヘキサンとの共沸で水を除去した後、引き続き蒸留によって残存するn−ヘキサンを留去して得る方法等により得ることができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0050】
又、上記の(ハ)工程にて回収される未反応のヘキサフルオロプロペンのオリゴマー分留液及び非プロトン性極性溶媒分留液は、各々水等を含むことなく極めて純度が高く、本発明に係わるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法において再利用することができる。
【0051】
本発明に係る一般式(1)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物は、(C3n6n−1O)Ar(式中、nは2又は3の整数、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表される化合物であり、式中、n、k、Arは前記と同じ意味を示す。 尚、式(C3n6n−1O)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基としては、例えば、ペルフルオロ(ヘキセニル)オキシ基、ペルフルオロ(ノネニル)オキシ基及びこれらの異性遊離基が挙げられるが、これらの混合したものでもよい。又、ペルフルオロ(ノネニル)オキシ基としては、本発明に係わるヘキサフルオロプロペン3量体と原料フェノール性OH基との脱フッ酸反応が、主として該幾何異性体のペルフルオロ(3−イソプロピル−4−メチル−2−ペンテン)の2位結合F原子が脱離して反応が進むため、ペルフルオロ(2−イソプロピル−1,3−ジメチル−1−ブテニル)オキシ基結合が生成し、該基が特に有用であるが、これに限定されるものではない。
【0052】
尚、上記の(ハ)工程にて得られるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物成分は、不純物が少なく良質な物質として得られ、産業上有用である。更に、高純度のペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物は、(ハ)工程にて得られる該化合物成分を減圧蒸留して精製する方法、(ハ)工程にて得られる該化合物成分をn−ヘキサン等を展開液としてシリカゲル等を充填したカラムクロマトグラフにて精製する方法、或いは(ハ)工程にて得られる該化合物成分をメタノール、ベンゼン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサフロロベンゼン、1,1,2−トリフルオロ−1,2,2−トリクロロエタン等の溶媒を用いて再結晶する方法等により得ることできるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0053】
尚、本発明においては、上記の具体的実施形態に示すものに限らず、目的、用途に応じて本発明の範囲以内で種々変更した実施形態とすることもできる。
【発明の効果】
【0054】
以上の如く、本発明のペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法は、反応工程にて副生する有害な腐食性毒物フッ酸を安全な有用固形物質フッ化カルシウムとして分離回収し、更に三級アミン、非プロトン性極性溶媒、未反応オリゴマーを簡易に回収し、これらを廃棄物として排出しない健康や環境により配慮した製法で、実用化の途を開き、更に原材料の選定、該回収成分の再利用等により実用化する上で重要な生産性向上、低コスト化等をも実現できるなど優れた効果を発揮する。又、分離回収されるフッ化カルシウムは、フッ素原料、製鉄等の融剤、さらには光学レンズとして色収差が非常に小さく広い波長域にわたって安定した光学性能が得られる高性能化のための特殊材料等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】 実施例1で得られた4−ペルフルオロノネニルオキシフェニルメチルエーテルの質量スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明は、
(イ)(HO)Ar(式中、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表されるフェノール類に対して非プロトン性極性溶媒を溶媒として用いて得られる該フェノール類の溶解液に、三級アミンを1.0〜3.0当量(対該フェノール類のOH基1当量)及び一般式(C(式中、nは2又は3の整数を示す。)で表されるヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを1.0〜1.3モル(対該フェノール類のOH基1当量)を加えて反応温度0℃〜70℃にて反応を行い、一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、nは2又は3の整数、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の反応生成混合物を得る工程と、
(ロ)上記(イ)工程で得られるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の反応生成混合物に、CaCO、Ca(OH)及びCa(HCOの群の中から選ばれる少なくとも1種を0.5〜2.0モル(対該フェノール類のOH基1当量)加えて(イ)工程の反応にて副生するフッ酸と反応を行い、フッ化カルシウム分散反応生成混合物を得る工程と、
(ハ)上記(ロ)工程で得られるフッ化カルシウム分散反応生成混合物よりフッ化カルシウム固形分を分離、三級アミン、非プロトン性極性溶媒及び未反応のヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを留去して、該ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物成分を得る工程と、
を含むことを特徴とする一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、n、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法である。
【0057】
更に、本発明に係る製造法を実施するためのより好ましい形態としては、
(い)(HO)Ar(式中、kは1以上の整数、Arは置換基を有することもある芳香族単環及び多環式炭化水素基の中から選ばれる種であることを示す。)で表されるフェノール類に対してN,N−ジメチルホルムアミドを溶媒として用いて得られる該フェノール類の溶解液に、トリエチルアミンを1.0〜3.0当量(対該フェノール類のOH基1当量)及び一般式(C(式中、nは2又は3の整数を示す。)で表されるヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを1.0〜1.3モル(対該フェノール類のOH基1当量)を加えて反応温度0℃〜70℃にて反応を行い、一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、nは2又は3の整数、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の反応生成混合物を得る工程と、
(ろ)上記(い)工程で得られるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の反応生成混合物に、CaCO、Ca(OH)及びCa(HCOの群の中から選ばれる少なくとも1種を0.5〜2.0モル(対該フェノール類のOH基1当量)加えて(い)工程の反応にて副生するフッ酸と反応を行い、フッ化カルシウム分散反応生成混合物を得る工程と、
(は)上記(ろ)工程で得られるフッ化カルシウム分散反応生成混合物よりフッ化カルシウム固形分を分離、トリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミド及び未反応のヘキサフルオロプロペンのオリゴマーを留去して、該ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物成分を得る工程と、
を含むことを特徴とする一般式(C3n6n−1O)Ar(式中、n、k及びArは前記と同じ意味を示す。)で表されるペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法である。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、これらの実施例の記載は、本発明の範囲をこれらのみに限定するものではない。
【実施例1】
【0059】
4−ペルフルオロノネニルオキシフェニルメチルエーテルの製造:
【0060】
(イ)工程における4−ペルフルオロノネニルオキシフェニルメチルエーテルの反応生成混合物の製造:
【0061】
撹拌機、温度計、スタック・ディーン型還流冷却器、滴下ロートを装着した500ml反応器にて、p−メトキシフェノール19.9g(0.160当量)をN,N−ジメチルホルムアミド200.0gに溶解させた液に、トリエチルアミン19.5g(0.193当量)を加えた。その液温を30℃に保持し撹拌しながら、滴下ロートよりヘキサフルオロプロペン3量体73.6g(0.164モル)を加えた。滴下終了後、4時間反応を行い完了して反応生成混合物を得た。該反応生成混合物をガスクロマトグラフにて検定した結果、原料p−メトキシフェノールのピークは消滅していた。
【0062】
(ロ)工程におけるフッ化カルシウム分散反応生成混合物の製造:
【0063】
引き続いて、(イ)工程で得られた反応生成混合物に反応温度40℃で沈降炭酸カルシウム(薬局方)11.2g(0.112モル)を5分割添加して2時間撹拌しながら反応を行い、白濁のフッ化カルシウム分散反応生成混合物を得た。
【0064】
(ハ)工程における4−ペルフルオロノネニルオキシフェニルメチルエーテル成分の製造:
【0065】
次に、(ロ)工程で得られたフッ化カルシウム分散反応生成混合物より、蒸留を行い、初留としてトリエチルアミン・水共沸留分13.7g(49.7〜50.4℃/260mmHg)、次いで順次にトリエチルアミン留分7.0g(56.4〜57.0℃/260mmHg)、オリゴマー留分1.4g(69.1〜73.3℃/198mmHg)を分留して留去した。
【0066】
82.2gを得た。この固形状物をN,N−ジメチルホルムアミドで共洗後、減圧乾燥してフッ化カルシウム固形分9.2g(純度66.2重量%:元素分析)を得た。尚、該固形分についてX線分析をした結果、マグネシウム、ヒ素及び珪素金属は検出されなかった。
【0067】
行い、N,N−ジメチルホルムアミド留分192.5g(90.2〜91.7℃/88mmHg)を留去して、粘稠な半固形状の4−ペルフルオロノネニルオキシフェニルメチルエーテル成分86.2g(純度99.7重量%:液体クロマトグラフ検定)を得た。
【0068】
尚、各留分の留出終了時点では留出液はテイリングすることなく一旦液の留出が止まり、各留分を得ることができた。
【0069】
得られた留分を液体クロマトグラフで検定した結果、トリエチルアミン・水共沸留分は、トリエチルアミン純度89.6重量%(水分10.4重量%)であった。
又、トリエチルアミン留分、オリゴマー留分及びN,N−ジメチルホルムアミド留分は、いずれも純度99.9重量%であった。かかるトリエチルアミン留分、オリゴマー留分及びN,N−ジメチルホルムアミド留分は、いずれも高純度であり、本発明の製造法における原材料として用いることができる。
【0070】
更に、該4−ペルフルオロノネニルオキシフェニルメチルエーテル成分をメタノールから再結晶することにより該化合物の白色結晶79.1g(mp41.0〜42.0℃)を得た。該結晶の元素分析、H核磁気共鳴吸収スペクトル分析、質量スペクトル分析結果を下記に示す。又、該結晶の質量スペクトル分析結果を[図1]に示す。
【0071】
元素分析
測定値: C: 34.8%、H: 1.2%、F: 58.1%
計算値: C: 34.7%、H: 1.3%、F: 58.3%
【0072】
H核磁気共鳴吸収スペクトル分析
(内部標準物質:TMS、溶媒:dDMSO)
フェニル基のプロトンに基づく吸収 δ値(ppm): 7.021(4H)
メチル基のプロトンに基づく吸収 δ値(ppm): 3.760(3H)
【0073】
質量スペクトル分析
測定値: [M] :554
計算値: [M] :554
【実施例2】
【0074】
(ハ)工程におけるトリエチルアミン・水共沸留分からの高純度品の製造:
【0075】
実施例1における(ハ)工程で得られたトリエチルアミン・水共沸留分13.7g(純度89.6重量%)を、ラシヒリングを充填した精留塔及び該精留塔の頂部にスタック・ディーン分離器を装着した蒸留装置に仕込み、更にn−ヘキサン8.0gを添加して、常圧で蒸留を行った。全還流させて該分離器で水とn−ヘキサンを分離し、水を系外に除去した。このようにして水を除外した後に、n−ヘキサン、更に、初留(75.3〜75.9℃)を留去すると一旦液の留出が止まり、その後、88.4〜89.1℃の留分としてトリエチルアミン11.1g(純度99.9重量%、水分0.1重量%)を得た。
該トリエチルアミンは、高純度であり、本発明の製造法における原材料として用いることができる。
【実施例3】
【0076】
(ハ)工程におけるフッ化カルシウム固形分からの高純度品の製造:
【0077】
実施例1における(ハ)工程で得られたフッ化カルシウム固形分9.2g(純度66.2重量%)に水180.0gを加えて分散液とし、COガスの液中吹込口及び撹拌機を装着した密閉容器に該分散液を入れて、COガスを0.5m/分の速度で分散液に吹込み、該ガスを循環させて30℃で2時間反応を行った。次に、得られた反応分散液より遠心分離器にて固液分離して固形状物を得た。再度、この固形状物に水180.0gを加えて分散液とし、上記と同条件で反応を行い、この分散液より固液分離して固形状物を得た。この固形状物を減圧乾燥して、白色粉末状結晶フッ化カルシウム5.9g(純度99.7重量%:元素分析)を得た。該粉末状結晶についてX線分析をした結果、マグネシウム、ヒ素及び珪素金属は検出されなかった。
尚、該粉末状結晶は、高純度で、且つマグネシウム、ヒ素及び珪素金属を不純物として含有しないため、高機能性光学材料として用いることができる。
【実施例4】
【0078】
3−ペルフルオロノネニルオキシ−N,N−ジメチルアニリンの製造:
【0079】
(イ)工程における3−ペルフルオロノネニルオキシ−N,N−ジメチルアニリンの反応生成混合物の製造:
【0080】
撹拌機、温度計、スタック・ディーン型還流冷却器、滴下ロートを装着した500ml反応器にて、3−N,N−ジメチルアミノフェノール21.9g(0.160当量)をN,N−ジメチルホルムアミド200.0gに溶解させた液に、ヘキサフルオロプロペン3量体73.3g(0.163モル)を加えた。その液温を30℃に保持し撹拌しながら、滴下ロートよりトリエチルアミン16.5g(0.163当量)を加えた。滴下終了後、3時間反応を行い完了して反応生成混合物を得た。該反応生成混合物をガスクロマトグラフにて検定した結果、原料3−N,N−ジメチルアミノフェノールのピークは消滅していた。
【0081】
(ロ)工程におけるフッ化カルシウム分散反応生成混合物の製造:
【0082】
引き続いて、(イ)工程で得られた反応生成混合物に反応温度40℃で沈降炭酸カルシウム(薬局方)9.6g(0.096モル)を5分割添加して2時間撹拌しながら反応を行い、白濁のフッ化カルシウム分散反応生成混合物を得た。
【0083】
(ハ)工程における3−ペルフルオロノネニルオキシ−N,N−ジメチルアニリン成分の製造:
【0084】
次に、(ロ)工程で得られたフッ化カルシウム分散反応生成混合物より、遠心分離器を
チルホルムアミドで共洗後、減圧乾燥してフッ化カルシウム固形分7.6g(純度79.2重量%:元素分析)を得た。尚、該固形分についてX線分析をした結果、マグネシウム、ヒ素及び珪素金属は検出されなかった。
【0085】
い、初留としてトリエチルアミン・水共沸留分13.5g(50.6〜51.4℃/270mmHg)、次いで順次にトリエチルアミン留分3.8g(57.3〜58.6℃/270mmHg)、オリゴマー留分1.4g(66.9〜71.2℃/180mmHg)及びN,N−ジメチルホルムアミド留分192.8g(80.6〜81.9℃/59mmHg)を分留して留去し、粘稠な油状の3−ペルフルオロノネニルオキシ−N,N−ジメチルアニリン成分88.9g(純度99.6重量%:ガスクロマトグラフ検定)を得た。
【0086】
尚、各留分の留出終了時点では留出液はテイリングすることなく一旦液の留出が止まり、各留分を得ることができた。
【0087】
得られた留分を液体クロマトグラフで検定した結果、トリエチルアミン・水共沸留分は、トリエチルアミン純度89.7重量%(水分10.3重量%)であった。
又、トリエチルアミン留分、オリゴマー留分及びN,N−ジメチルホルムアミド留分は、いずれも純度99.9重量%であった。かかるトリエチルアミン留分、オリゴマー留分及びN,N−ジメチルホルムアミド留分は、いずれも高純度であり、本発明の製造法における原材料として用いることができる。
【実施例5】
【0088】
p−ペルフルオロノネニルオキシ安息香酸メチルの製造:
【0089】
(イ)工程におけるp−ペルフルオロノネニルオキシ安息香酸メチルの反応生成混合物の製造:
【0090】
撹拌機、温度計、スタック・ディーン型還流冷却器、滴下ロートを装着した500ml反応器にて、p−ヒドロキシ安息香酸メチル21.3g(0.140当量)をN,N−ジメチルホルムアミド200.0gに溶解させた液に、ヘキサフルオロプロペン3量体69.3g(0.154モル)を加えた。その液温を20℃に保持し撹拌しながら、滴下ロートよりトリエチルアミン14.5g(0.143当量)を加えた。滴下終了後、4時間反応を行い完了して反応生成混合物を得た。該反応生成混合物をガスクロマトグラフにて検定した結果、原料p−ヒドロキシ安息香酸メチルのピークは消滅していた。
【0091】
(ロ)工程におけるフッ化カルシウム分散反応生成混合物の製造:
【0092】
引き続いて、(イ)工程で得られた反応生成混合物に反応温度30℃で沈降炭酸カルシウム(薬局方)9.8g(0.098モル)を5分割添加して4時間撹拌しながら反応を行い、白濁のフッ化カルシウム分散反応生成混合物を得た。
【0093】
(ハ)工程におけるp−ペルフルオロノネニルオキシ安息香酸メチル成分の製造:
【0094】
次に、(ロ)工程で得られたフッ化カルシウム分散反応生成混合物より、蒸留を行い、初留としてトリエチルアミン・水共沸留分11.9g(49.8〜50.6℃/260mmHg)、次いで順次にトリエチルアミン留分3.6g(56.5〜57.2℃/260mmHg)、オリゴマー留分6.2g(68.2〜72.5℃/192mmHg)を分留して留去した。
【0095】
75.0gを得た。この固形状物をN,N−ジメチルホルムアミドで共洗後、減圧乾燥してフッ化カルシウム固形分8.0g(純度66.0重量%:元素分析)を得た。尚、該固形分についてX線分析をした結果、マグネシウム、ヒ素及び珪素金属は検出されなかった。
【0096】
行い、N,N−ジメチルホルムアミド留分192.6g(87.3〜88.9℃/79mmHg)を留去して、粘稠な油状のp−ペルフルオロノネニルオキシ安息香酸メチル成分80.0g(純度99.5重量%:液体クロマトグラフ検定)を得た。
【0097】
尚、各留分の留出終了時点では留出液はテイリングすることなく一旦液の留出が止まり、各留分を得ることができた。
【0098】
得られた留分を液体クロマトグラフで検定した結果、トリエチルアミン・水共沸留分は、トリエチルアミン純度89.6重量%(水分10.4重量%)であった。
又、トリエチルアミン留分、オリゴマー留分及びN,N−ジメチルホルムアミド留分は、いずれも純度99.9重量%であった。かかるトリエチルアミン留分、オリゴマー留分及びN,N−ジメチルホルムアミド留分は、いずれも高純度であり、本発明の製造法における原材料として用いることができる。
【実施例6】
【0099】
〈N,N−ジメチルホルムアミドを溶媒として用いて得られるp−イソプロペニルフェノールの溶解液の製造例〉:
【0100】
p−イソプロペニルフェノールのオリゴマー(p−イソプロペニルフェノールダイマー96重量%、同トリマー4重量%)を230℃、50mmHgの条件下に加熱してp−イソプロペニルフェノールを蒸気にて160g/hrの速度で留出させ、充填塔式の吸収塔の塔頂の直ぐ下部に蒸気状で導入した。一方、N,N−ジメチルホルムアミドを688g/hrで吸収塔の塔頂に送入して流下させ、p−イソプロペニルフェノールと55℃で接触させて捕集した。その結果、p−イソプロペニルフェノールを含む固形分18.8重量%の溶解液1200gを得た。該溶解液をガスクロマトグラフにて検定した結果、溶媒を除くp−イソプロペニルフェノールの純度は99.9重量%であった。
該溶解液は、簡易に且つ高純度で得られ、本発明に係る目的化合物の製造における収率、生産性の向上に著しく寄与するものである。
【0101】
p−(ペルフルオロノネニルオキシ)イソプロペニルベンゼンの製造:
【0102】
(イ)工程におけるp−(ペルフルオロノネニルオキシ)イソプロペニルベンゼンの反応生成混合物の製造:
【0103】
撹拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートを装着した500ml反応器に、上記の製造例で得られたp−イソプロペニルフェノールの溶解液200.0g[p−イソプロペニルフェノール37.56g(0.280当量)を含む。]及びトリエチルアミン31.2g(0.308当量)を送入した。その液温を40℃に保持し撹拌しながら、滴下ロートよりフッ素イオン存在下でメチルスルホランを溶剤として異性化せしめたヘキサフルオロプロペン3量体132.3g(0.294モル)を添加した。滴下終了後、3時間反応を行い完了して反応生成混合物を得た。該反応生成混合物をガスクロマトグラフにて検定した結果、原料p−イソプロペニルフェノールのピークは消滅していた。
【0104】
(ロ)工程におけるフッ化カルシウム分散反応生成混合物の製造:
【0105】
引き続いて、(イ)工程で得られた反応生成混合物に反応温度40℃で沈降炭酸カルシウム(薬局方)19.6g(0.196モル)を5分割添加して2時間撹拌しながら反応を行い、白濁のフッ化カルシウム分散反応生成混合物を得た。
【0106】
(ハ)工程におけるp−(ペルフルオロノネニルオキシ)イソプロペニルベンゼン成分の製造:
【0107】
次に、(ロ)工程で得られたフッ化カルシウム分散反応生成混合物より、遠心分離器を
チルホルムアミドで共洗、次いでアセトンで洗浄後、減圧乾燥してフッ化カルシウム固形分16.0g(純度66.2重量%:元素分析)を得た。尚、該固形分についてX線分析をした結果、マグネシウム、ヒ素及び珪素金属は検出されなかった。
【0108】
い、初留としてトリエチルアミン・水共沸留分23.6g(51.1〜52.4℃/280mmHg)、次いで順次にトリエチルアミン留分9.1g(58.2〜60.1℃/280mmHg)、オリゴマー留分6.0g(62.3〜66.1℃/150mmHg)及びN,N−ジメチルホルムアミド留分157.5g(67.9〜68.3℃/42mmHg)を分留して留去し、粘稠な油状のp−(ペルフルオロノネニルオキシ)イソプロペニルベンゼン成分153.4g(純度99.6重量%、収率96.7%:ガスクロマトグラフ検定)を得た。
【0109】
尚、各留分の留出終了時点では留出液はテイリングすることなく一旦液の留出が止まり、各留分を得ることができた。
【0110】
得られた留分を液体クロマトグラフで検定した結果、トリエチルアミン・水共沸留分は、トリエチルアミン純度89.6重量%(水分10.4重量%)であった。
又、トリエチルアミン留分、オリゴマー留分及びN,N−ジメチルホルムアミド留分は、いずれも純度99.9重量%であった。かかるトリエチルアミン留分、オリゴマー留分及びN,N−ジメチルホルムアミド留分は、いずれも高純度であり、本発明の製造法における原材料として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明によれば、健康や環境により配慮した製法で、生産性向上、低コスト化を実現するペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造法を提供することができる。更に、該製造法によれば、かかる目的を達成するのみならず、産業上大きな利用分野を有するフッ化カルシウムをも提供することができる。
【0112】
該ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物は、特殊高機能性材料としてのみならず、新規な熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、繊維用原材料等としても有望であることから、該製造法による工業的大規模生産が期待され、更に、該製造法は、ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物の製造に限られるものでなく、主要製品に準ずる量のフッ化カルシウムを生産するものであることから、ペルフルオロアルケニルオキシ基含有アレーン化合物とフッ化カルシウムを併産する生産効率に優れる製造法として、産業上において大きな利用可能性を有するものである。
図1