特許第6074689号(P6074689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許60746893−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンを調製するための方法
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  • 特許6074689-3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンを調製するための方法 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074689
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/52 20060101AFI20170130BHJP
   C07C 211/36 20060101ALI20170130BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
   C07C209/52
   C07C211/36
   !C07B61/00 300
【請求項の数】37
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-545627(P2015-545627)
(86)(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公表番号】特表2015-537046(P2015-537046A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】CN2012086169
(87)【国際公開番号】WO2014086039
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】515153473
【氏名又は名称】万華化学集団股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】WANHUA CHEMICAL GROUP CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】陳長生
(72)【発明者】
【氏名】姜進科
(72)【発明者】
【氏名】陳忠英
(72)【発明者】
【氏名】崔嬌英
(72)【発明者】
【氏名】王静
(72)【発明者】
【氏名】李付国
(72)【発明者】
【氏名】呂成戈
(72)【発明者】
【氏名】趙文娟
(72)【発明者】
【氏名】黎源
(72)【発明者】
【氏名】華衛▲き▼
【審査官】 伊藤 佑一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−068541(JP,A)
【文献】 特開平09−059226(JP,A)
【文献】 特開平04−264057(JP,A)
【文献】 特開平03−047156(JP,A)
【文献】 特開平08−253444(JP,A)
【文献】 特表2005−535725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(IPDA)を調製するための方法:
a)3−シアノ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノン(IPN)を過剰の第一級アミンと反応させるとともに、生成される水を取り除くことによって、IPNをイミン化合物に変化させる;
b)アンモニア分解触媒の存在下で、ステップa)の生成物を液体アンモニアと混合することで、上記イミン化合物のアンモニア分解反応を行い、3−シアノ−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイミン(IPNI)及び上記第一級アミンを生成する;及び
c)水素及び水素化触媒の存在下で、ステップb)において得られるIPNIを水素化することで、IPDAを得る。
【請求項2】
ステップa)における上記第一級アミンが、C1―30のアルキルアミン、C3―30のシクロアルキルアミン、C6―30のアリールアミン、及びC7―30のアリールアルキルアミンから成る群から選ばれるモノアミン又はジアミンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記第一級アミンが110℃〜235℃の沸点を有している第一級アミンであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)における上記第一級アミンがIPDAであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)におけるIPNに対する上記第一級アミンの全アミノ基(−NH)のモル比が1〜20の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)において吸着、抽出、又は蒸留の方法を用いることによって水を取り除くことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
上記蒸留の方法が減圧下での蒸留の方法であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)を、100kPa以下で行うことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップa)を、20〜150℃で行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップa)において得られる上記生成物の上記水の含有量が300ppm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップa)において原材料として使用されるIPNに対する上記液体アンモニアのモル比が5〜200であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップc)において固定床反応器を用い、IPNIに対する水素のモル比が10〜100であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップc)において得られるIPDAの少なくとも一部をステップa)に戻し、IPNとイミド化反応するための上記第一級アミンとすることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項14】
第一級アミンがIPDAでなく、ステップd):上記第一級アミンをステップc)において得られる生成物中のIPDAから精留によって分離し、当該第一級アミンをステップa)に戻して再利用すること、をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ステップb)を、20〜200℃の温度、及び10〜30MPaの圧力下で行うことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ステップb)において使用される上記アンモニア分解触媒がγ−アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、及びゼオライトから成る群から選ばれる酸性金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ステップc)を、100〜200℃の温度、及び10〜30MPaの圧力下で行うことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ステップc)において使用される上記水素化触媒がラネー(登録商標)金属触媒から選ばれることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ステップa)における上記第一級アミンが、C1―10のアルキルアミン、C3―10のシクロアルキルアミン、C6―10のアリールアミン、及びC7―10のアリールアルキルアミンから成る群から選ばれるモノアミン又はジアミンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ステップa)における上記第一級アミンが、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びアニリンから成る群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ステップa)におけるIPNに対する上記第一級アミンの全アミノ基(−NH)のモル比が1〜10の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
ステップa)におけるIPNに対する上記第一級アミンの全アミノ基(−NH)のモル比が2〜8の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
ステップa)を、50kPa以下の圧力下で行うことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項24】
ステップa)を、20kPa以下の圧力下で行うことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項25】
ステップa)を、40〜120℃で行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
ステップa)を、50〜80℃で行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
ステップa)において得られる上記生成物の上記水の含有量が200ppm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
ステップa)において得られる上記生成物の上記水の含有量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
ステップa)において原材料として使用されるIPNに対する上記液体アンモニアのモル比が10〜100であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
ステップa)において原材料として使用されるIPNに対する上記液体アンモニアのモル比が15〜30であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
ステップc)において固定床反応器を用い、IPNIに対する水素のモル比が20〜80であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
ステップc)において固定床反応器を用い、IPNIに対する水素のモル比が30〜50であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
ステップb)を、50〜150℃の温度、及び10〜20MPaの圧力下で行うことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
ステップb)を、80〜120℃の温度、及び10〜15MPaの圧力下で行うことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
ステップc)を、100〜150℃の温度、及び10〜20MPaの圧力下で行うことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
ステップc)を、120〜150℃の温度、及び10〜15MPaの圧力下で行うことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
ステップc)において使用される上記水素化触媒がラネー(登録商標)コバルト又はラネー(登録商標)ニッケルであることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、脂肪族アミンを調製するための方法に関し、特に、3−シアノ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノンから3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンを調製するための方法に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(イソホロンジアミン(IPDA)としても知られている)は、3−イソシアネートメチレン−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート(IPDI)としても知られている)、ポリアミドなどを調製するための原材料であり、エポキシ樹脂のための硬化剤としても使用され得る。
【0003】
工業規模では、IPDAは、下記の通り、3−シアノ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノン(イソホロンニトリル、IPNとしても知られている)をアンモニアと反応させることによって、3−シアノ−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイミン(イソホロンイミン、IPNIとしても知られている)を形成し、触媒の様態でのアンモニアの存在下でIPNIと水素とで還元的アミノ化反応をすることで得られる。その反応工程は下記の通りである。
【0004】
【化1】
【0005】
米国特許第3,352,913号は、第VIII族の金属の担持触媒の働きのもとでIPNをアンモニア及び水素と反応させて、IPDAを調製する方法を開示している。この方法では、IPNに対するアンモニアのモル比(以下、シアナミド比という)は、10〜30である。反応温度は70℃〜130℃であり、水素の圧力は150atmである。IPNIを生じるアンモニアとIPNの反応は可逆反応であり、IPNを完全にはIPNIに変化させることができず、未反応のIPNの一部は水素化され、IPDAからほとんど分離されない3−アミノ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノール(IPAA)も形成する。この方法の収率は、たったの80%である。
【0006】
中国特許第101568516A号は、IPNのイミド化の後に、IPNIを含む供給流を、水素触媒の存在下で、水素及びアンモニアと反応させて、IPDAを調製する方法を開示している。この方法は、IPNIの一部が反応した後、反応混合物をアンモニア及び/又は塩基性触媒以外の塩基性化合物と接触させることで、反応の間に反応混合物のアルカリ度を増加させることを特徴としている。この方法は、反応の間にIPNIの供給流をアルカリ性に調整することによって、未反応のIPNの直接の水素化の発生を制御する。しかしながら、塩基のさらなる付加は、IPN中のシアノ基の分離、CN及び3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキサノンの生成をもたらす。CNは、水素化触媒の働きに影響を及ぼし、その寿命を縮め得る。3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキサノンの水素化は、IPDAの所望でない収率とともに、3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールの副生成物を生じる。
【0007】
現在、IPDAを調製するための全ての工業的方法に欠陥がある。
【0008】
1)IPNIを生成する過剰なアンモニアとIPNの反応は可逆反応であるため、IPNを完全にIPNIに変化させることはできず、一部のIPNは、水素化の反応系に入り、直接的に水素化されIPAAになる。
【0009】
【化2】
【0010】
2)塩基性の条件下では、IPNのシアノ基は非常に不安定であり、非常に容易に分離し、3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキサノンを形成するが、3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキサノンの水素化の生成物である3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキサノールは、所望の生成物ではない。さらに、脱シアノ化反応の過程で遊離型のCNを生じ得るので、水素化触媒の活性の低下につながり得る。
【0011】
従来の調製方法において、IPNと過剰のアンモニアとの反応は、IPNI及び水を生成するが、生成される水は、反応系がアルカリ性を示すようにする残存するアンモニアに結合するため、IPNの脱シアノ化反応は避けられない。
【0012】
【化3】
【0013】
中国特許第101568516A号に開示されている方法は、IPNIの反応液のアルカリ度の増加によってIPAAの収率を低くするが、余分な塩基の付加は、IPNの脱シアノ化反応を増幅させる。
【0014】
〔発明の詳細な説明〕
本発明の目的は、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(IPDA)を調製するための新しい方法を提供することである。上記方法は、上述の2つの副生成物、すなわち、3,5,5−トリメチルシクロヘキサノール及びIPAAの生成を効果的に避けることができ、その結果、IPDAの収率を高める。
【0015】
本発明の3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(IPDA)を調製する方法は、以下のステップを含む。
【0016】
a)IPNを過剰の第一級アミンと反応させるとともに、生成される水を取り除くことによって、IPNを実質的にイミン化合物に変化させる;b)アンモニア分解触媒の存在下で、液体アンモニアとステップa)の生成物を混合することで、上記イミン化合物のアンモニア分解反応を行い、IPNI及び上記第一級アミンを生成する;及びc)水素及び水素化触媒の存在下で、ステップb)において得られるIPNIを水素化することでIPDAを得る。
【0017】
本発明の反応経路は、以下のように示される。
【0018】
【化4】
【0019】
本発明の実施形態によれば、ステップa)における第一級アミンは、任意のタイプの第一級アミンであり得、例えば、脂肪族アミン、又は他の芳香族アミンであり得る。一つの実施形態によれば、ヒドロカルボニル第一級アミンをIPDAから分離することができ、反応物又は生成物と副反応をしない限りは、それを、本発明において使用することができる。それは、例えば、アルキルアミン、シクロアルキルアミン、アリールアミン、アリールアルキルアミンなどから選ばれ得る。第一級アミンはモノアミン、又は、その他のジアミンなどのマルチアミンであり得る。具体的には、第一級アミンは、C1―30のアルキルアミン、C3―30のシクロアルキルアミン、C6―30のアリールアミン、及びC7―30のアリールアルキルアミンから選ばれ得、好ましくは、C1―10のアルキルアミン、C3―10のシクロアルキルアミン、C6―10のアリールアミン、及びC7―10のアリールアルキルアミンから選ばれ得る。より具体的には、第一級アミンは、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロプロパンアミン、シクロペンタンアミン、シクロヘキサンアミン、アニリン及びベンジルアミンであり得るが、これらに限定されない。最も好ましい第一級アミンは、IPDAから容易に分離され、低い沸点を有しているものであり、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリンなどであるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明のより好ましい実施形態によれば、その沸点が110℃〜235℃である第一級アミンが好ましい。最も好ましい実施形態でもある本発明の他の実施形態では、分離を必要としないIPDAが使用される。すなわち、目的の生成物そのものが第一級アミンとして働く。
【0021】
本発明の一つの実施形態によれば、ステップa)における第一級アミンとIPNとのイミド化反応を、20℃〜150℃、好ましくは40℃〜120℃、より好ましくは50℃〜80℃で行う。
【0022】
本発明の一つの実施形態によれば、ステップa)における第一級アミンとIPNのイミド化反応を、大気圧下、又は減圧下で行うことができる。好ましくは、当該反応を、減圧下で行う。当該反応の圧力は、100kPa以下、好ましくは50kPa以下、より好ましくは20kPa以下であり得る。
【0023】
本発明の実施形態によれば、IPNが可能な限り完全に反応するように、ステップa)における第一級アミンを過剰にする。具体的には、IPNに対する第一級アミンの全アミノ基(−NH)のモル比は、1〜20の範囲、好ましくは1〜10の範囲、より好ましくは2〜8の範囲である。過剰な第一級のアミンは、反応については有利であるが、第一級アミンの割合が非常に高いと、第一級のアミンの回収のコストが増加する。
【0024】
本発明の一つの実施形態によれば、ステップa)において用いられる、反応混合物から水を分離するための方法は、任意の既知の適切な方法、例えば、吸着、抽出、蒸留などであり得る。好ましくは、蒸留、特に、減圧下での蒸留の方法が、水分を取り除くために用いられる。減圧蒸留の方法が用いられるとき、水の沸点(標準大気圧下で100℃)よりも高い沸点を有している第一級アミンが選ばれるべきであり、110℃以上の沸点を有している第一級アミンが好ましいということを当業者は理解すべきである。一つの好ましい実施形態によれば、IPDAから容易に分離されるように、第一級アミンの沸点は235℃以下である。
【0025】
本発明の好ましい一つの実施形態によれば、ステップa)において得られる生成物の水の含有量は、可能な限り低くあるべきであり、結果として、イミド化反応の平衡がイミン生成物の方に継続的に進むように促進する。しかし、反応の効率及びコストを考慮すると、得られる生成物の水の含有量は、300ppm以下、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下である。
【0026】
本発明のより好ましい一つの実施形態によれば、ステップa)において用いられる反応及び分離の装置は、あらゆる好適な従来の装置であり得、当該装置は、実用的な要件に基づいて選択され、組み立てられ得る。例えば、それらは、吸水性物質を用いた反応器及び固定床、又は、蒸留/精留装置を有している反応器及び固定床から選ばれ得るが、それらに限定されない。蒸留/精留装置を有している反応器の装置が好ましい。これらの装置は、当業者にとっては周知であるため、ここではさらなる詳細な説明をしない。
【0027】
本発明の一つの実施形態によれば、ステップb)において使用されるアンモニア分解触媒は、例えば、γ−アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、ゼオライトなどから選ばれる酸性金属酸化物であり得るが、それらに限定されない。γ−アルミナが好ましい。
【0028】
ステップb)においてより多くの液体アンモニアを使用することは、より有利である。本発明の一つの実施形態によれば、ステップa)において原材料として使用されるIPNに対する上記液体アンモニアのモル比は、5〜200、好ましくは10〜100、より好ましくは15〜30である。
【0029】
本発明の一つの実施形態によれば、ステップb)を、20〜200℃の温度、及び10〜30MPaの圧力下、好ましくは50〜150℃の温度、及び10〜20MPaの圧力下、より好ましくは80〜120℃の温度、及び10〜15MPaの圧力下で行う。
【0030】
本発明の方法によれば、ステップb)を、タンク型反応器、又は他の固定床反応器中で、好ましくは固定床反応器中で行うことができる。これらの反応器は、当業者にとっては周知であるため、ここではさらなる詳細な説明をしない。
【0031】
本発明の一つの実施形態によれば、ステップc)における水素化触媒は、任意の従来の水素化触媒、例えば、Co/Al、ラネーコバルト又はラネーニッケルなどのラネー金属触媒などの担持触媒であり得る。ラネーニッケル及びラネーコバルトが好ましい。ラネーニッケルがより好ましい。
【0032】
本発明の一つの実施形態によれば、ステップc)の反応条件は、還元的アミノ化反応するための従来の条件であり得る。具体的には、それを100〜200℃の温度、及び10〜30MPaの圧力下、好ましくは100〜150℃の温度、及び10〜20MPaの圧力下、より好ましくは120〜150℃の温度、及び10〜15MPaの圧力下で行うことができる。
【0033】
本発明の実施形態によれば、ステップc)を、任意の従来の反応器、例えば、タンク型反応器、固定床反応器、流動床反応器中で行うことができる。好ましくはタンク型反応器及び固定床反応器中で行うことであり、より好ましくは固定床反応器中である。ここではさらなる詳細な説明をしない。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、反応器として固定床が使用されるとき、IPNIに対する水素のモル比は、10〜100、好ましくは20〜80、より好ましくは30〜50である。
【0035】
ステップa)において使用される第一級アミンがIPDAであるとき、最終的に得られるIPDAの少なくとも一部を、ステップa)に戻し、IPNとイミド化反応するための第一級アミンとする。
【0036】
ステップa)において使用される第一級アミンがIPDAでないとき、本発明に係る方法は、ステップd):第一級アミンをステップc)において得られる生成物中のIPDAから精留によって分離し、当該第一級アミンをステップa)に戻して再利用すること、をさらに含む。
【0037】
本発明の方法では、IPNを、IPDAを調製するための原材料として使用し、第一級アミンを、イミド化反応するために使用することで、単に脱水することによって、イミド化反応の平衡をイミン生成物の方へ継続的に進むように促進するため、IPNを、実質的に、イミン化合物に変化させる。一方で、本発明に係る方法は、未反応のIPNのシアノ基が塩基条件下で分離することを避けることで、3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールへとさらに水素化する3,5,5−トリメチル−2−シクロヘキセノンの形成を避け、未反応のIPNが直接水素化してIPAAになることを避けることによって、収率を著しく増加させる。一方、上記方法は、IPDAからアルコールタイプの副生成物を分離することの問題も回避する。さらに、反応後に第一級アミンをIPDAから容易に分離することができ、実質的に回収及び再利用することができる。特に、IPDAが第一級アミンとして使用される最良の実施形態に関しては、操業はより容易である。
【0038】
〔図面の説明〕
図1は、本発明の一つの実施形態に係る方法において使用される反応系の概略図である。
【0039】
〔詳細な実施形態〕
本発明は、例えば、図面を参照する例によってさらに説明されるが、それらに限定されない。
【0040】
本発明は、IPNからIPDAを調製するための新しい方法を提供する。IPNIを形成するためにアンモニア及びIPNを反応させる先行技術における方法と比較して、本発明の方法は、反応させて対応するイミン化合物を形成するために、第一級アミン及びIPNを用いる。第一級アミンを使用するため、反応において生成される水を、反応混合物から容易に取り除くことができ、それによって、イミド化反応の平衡がイミン生成物の方へ継続的に進むように促進し、最終的にIPNを実質的にイミン化合物に変化させる。その後、結果として得られるイミン生成物を、液体アミンを使用することによってIPNIに変え、IPDAを還元的アミノ化によって得る。
【0041】
本発明の方法を、図1を参照して下記の通りさらに説明する。
【0042】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る方法において使用される反応系の概略図である。まず、ステップ(a)において、IPN及び過剰のアンモニア(1)は反応精留塔(2)に入って反応し、その間、水及び反応混合物が上記精留塔中で分離される。水(4)を塔の最上部から抜き取り、脱水された生成物(3)を塔の最下部から外に排出する。
【0043】
脱水された生成物(3)は、主に、上記イミン化合物、未反応の第一級アミン及び微量の水を含む。IPNを完全に反応させるために、脱水した生成物(3)における水の含有量は、可能な限り低くあるべきであり、例えば、300ppm以下、好ましくは、200ppm以下であり、より好ましくは100ppm以下である。
【0044】
次に、ステップ(b)において、脱水された生成物(3)及び液体アンモニア(5)が、IPNIを調製するためのアンモニア分解触媒と共に、アンモニア分解反応器(6)内に入る。反応器は、タンク型の反応器であり得るが、好ましくは、固定床反応器である。IPNI及びステップ(a)において原材料として使用される第一級アミンを含む混合物(7)を、反応を介して得る。
【0045】
最終的に、ステップ(c)では、ステップ(b)において得られる混合物(7)及び水素(8)が水素化反応器(9)中に共に入り、取得するIPDAの母液(10)と水素化反応を行う。このステップではIPNIの従来の水素化反応と同一の反応条件が用いられる。水素化触媒は好ましくはラネーニッケル又はラネーコバルトから選ばれ、ラネーニッケルがより好ましい。好ましくは、固定床反応器は反応器として用いられ、その一方で、IPNIに対する水素のモル比は、10〜100、好ましくは20〜80、より好ましくは30〜50である。
【0046】
得られるIPDAの母液(10)については、IPDAを得るために、任意の従来の分離/精製で処理することができる。IPDA以外の第一級アミンが使用されるとき、IPDA及び第一級アミンを精留装置などによって分離することができる(図1に示していない)。
【0047】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明し、当業者は、本発明はこれらの例に限定されないということを理解すべきである。
【0048】
以下の実施例では、IPNI(7)及びIPDNの母液(10)の定量分析を、Aglient−7980のガスクロマトグラフィーで行う。ガスクロマトグラフィーの分析条件は、以下の通りである。
クロマトグラフィーのカラム:Aglient HP−5(サイズ:30m×0.32mm×0.25mm)
入口温度:280℃
分割比:30:1
カラム流量:1.5ml/min
カラム温度:最初:100℃
加熱速度:15℃/min、260℃まで増加し、260℃で8分間維持
検出温度:280℃
の流量:35ml/min
空気の流量:350ml/min。
【0049】
〔実施例1〕
本実施例は、図1に示されるように、反応器の装置を用いて行われている。
【0050】
反応精留塔(2)は、40mmの内径、1000mmの長さを有し、2mmのθリングパッキンが内側に取り付けられ、導入口は反応精留塔の真ん中に設置されている。反応器(6)は、200mmの長さ、25mmの内径を有し、直径1mmのγ−アルミナビーズが反応器中に搭載されている。反応器(9)は、400mmの長さ、25mmの内径を有し、直径1mmのG62RS水素化触媒(ドイツのズードケミー(Sud-Chemie)から)が反応器中に搭載されている。
【0051】
ステップ1:真空ポンプで50kPaに制御された反応精留塔(2)の真ん中から、IPNを165g/h、IPDAを510g/hで反応精留塔に入れる。ここで、反応器の温度は約200℃であり、塔の最上部の温度は約81℃である。
【0052】
ステップ2:精留塔の最下部からの生成物及び液体アンモニアを、アンモニア分解反応をするために高圧ポンプによって反応器(6)に入れる。ここで、液体アンモニアの供給速度は425g/hであり、反応温度を100℃に制御し、圧力を15MPaに制御する。
【0053】
ステップ3:アンモニア分解の生成物を水素と混合し、次に、水素化反応のための反応器(9)に入れる。ここで、反応器(6)の温度を100℃に制御し、反応器(9)の温度を140℃に制御し、圧力を15MPaに制御し、水素の供給速度は100NL/hである。
【0054】
反応精留塔(2)の最下部から取られた試料(3)の分析は、その水の含有量が約150ppmであるということを示している。
【0055】
水素反応器(9)の排出口から取られた試料(10)の分析は、生成物の組成が以下の表1であるということを示している。
【0056】
【表1】
【0057】
従来の方法における主な副生成物に属するIPAA及び3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールは検出されていない。
【0058】
出発材料中のIPDAを差し引いた後の、反応の収率は約98.8%である。
【0059】
bi−IPDAの構造は、以下のように示される。
【0060】
【化5】
【0061】
〔実施例2〜4〕
実施例2〜4は、第1のステップにおいて第一級のアミンとして使用されているIPDAを、各々エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びアニリンに変える以外は、実施例1の方法と同じ方法に基づいて行われる。
【0062】
水素化反応の生成物の組成も分析した。結果を以下の表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
従来の方法における主な副生成物に属するIPAA及び3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールは検出されていない。
【0065】
〔実施例5〜7〕
実施例5〜7は、第2のステップにおいてアンモニア分解触媒として使用されているγ−アルミナを、市販で入手可能な1mmのチタニアビーズ、シリカビーズ、及びイオン交換樹脂(南開大学 (Nankai University)、D72)に変える以外は、実施例1の方法と同じ方法で行わる。
【0066】
水素化反応の生成物の組成も分析した。結果を以下の表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
従来の方法における主な副生成物に属するIPAA及び3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールは検出されていない。
【0069】
〔実施例8〜10〕
実施例8〜10は、第3のステップにおいて水素化触媒として使用されているズードケミー G62RS(ドイツ)を、各々、キャタロイ(Catalloy)社から提供されるラネーニッケル(cat−1600)とラネーコバルト(GRACE−2800)とズードケミー G67RS(ドイツ)に変える以外は、実施例1の方法と同じ方法で行われる。
【0070】
水素化反応の生成物の組成も分析した。結果を以下の表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
従来の方法における主な副生成物に属するIPAA及び3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールは検出されていない。
【0073】
〔実施例11〜13〕
実施例11〜13は、第2及び第3のステップにおける反応の圧力を10MPa、12MPa、13MPaに調整する以外は実施例1と同様の方法で行い、他の全ての条件は実施例1におけるそれらと同じである。
【0074】
水素化反応の生成物の組成は同様に分析されている。結果を以下の表5に示す。
【0075】
【表5】
【0076】
従来の方法における主な副生成物に属するIPAA及び3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールは検出されていない。
【0077】
〔実施例14〜16〕
実施例14〜16は、第一のステップにおいて第一級アミンとして使用されているIPDAを、エチレンジアミンに変え、各々90g/h、150g/h及び240g/hの供給速度とした以外は、実施例1の方法と同じ方法で行われる。
【0078】
水素化反応の生成物の組成も分析した。結果を以下の表6に示す。
【0079】
【表6】
【0080】
従来の方法における主な副生成物に属するIPAA及び3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールは検出されていない。
【0081】
〔実施例17〜19〕
実施例17〜19は、第一のステップにおいて第一級アミンとして使用されているIPDAを、エチレンジアミンに変え、液体アンモニアの供給速度を各々255g/h、340g/h及び510g/hとした以外は、実施例1の方法と同じ方法で行われる。
【0082】
水素化反応の生成物の組成も分析した。結果を以下の表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
従来の方法における主な副生成物に属するIPAA及び3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールは検出されていない。
【0085】
上述の実施例から、IPDAを調製するための本発明の方法を用いることによって、生成物の収率を著しく増加させることができ、実質的に98%に達することができるということがわかる。さらに、この方法は、副生成物のIPAA及び3,3,5−トリメチルシクロヘキサノールの生成を避け、生成物を精製する間に分離することが非常に難しい、これらのアルコールタイプの副生成物及びIPDAを分離することの問題を取り除く。
【0086】
本発明は、上述のような特定の実施形態によって記載されているが、任意の変形、追加又は交換を、これらの実施形態と共に、本発明の趣旨から逸脱せずに行うことができ、本発明の保護範囲は、請求項によって規定され、ここに記載されている特定の実施形態に限定されないということを、当業者は理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る方法において使用される反応系の概略図である。
図1