特許第6074701号(P6074701)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 進盟ルームの特許一覧

<>
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000005
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000006
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000007
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000008
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000009
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000010
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000011
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000012
  • 特許6074701-高地環境用生体治癒能力向上装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074701
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】高地環境用生体治癒能力向上装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 10/02 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
   A61G10/02 C
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-191148(P2012-191148)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-45941(P2014-45941A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021163
【氏名又は名称】株式会社 進盟ルーム
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】川上 進盟
(72)【発明者】
【氏名】川上 陽介
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/065319(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密可能な気密部内の気圧を、予め定められた閾値気圧以上の減圧状態と、1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態との間を休止することなく連続的に繰り返す生体治癒能力向上装置であって、
前記気密部と、この気密部内の気圧を前記減圧状態から前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態へ与圧する与圧手段と、前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態から前記減圧状態へ減圧する減圧手段と、前記与圧手段と減圧手段とを制御し減圧状態と1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態とを連続的に繰り返す減与圧制御手段とを備えた生体治癒能力向上装置において、
前記装置の設置雰囲気が高度400m〜高度1000mの高度に相当する気圧であり、
前記減圧手段として、前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態から前記減圧状態へ減圧する減圧工程で気密部内部と外部とを連通させて設置雰囲気の気圧へ減圧する連通路を備え、
前記与圧手段として、前記減圧状態から前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態へ与圧する与圧工程で気密部内に圧縮空気を供給する給気路を備え、
前記減与圧制御手段が、前記気密部内部の気圧を計測しつつ、前記連通路及び前記給気路の連通状態をコントロールして、前記気密部内の気圧を前記閾値気圧以上の減圧状態と前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態との間を休止することなく連続的に繰り返すものであり、尚且つ、前記減圧状態を前記設置雰囲気の大気圧に完全に戻す前に与圧工程に切り換えるものであり、
前記減圧状態と前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態との連続的な繰り返しの際の減圧工程と与圧工程との単位時間当たりの圧力変化が19hPa/分〜70hPa/分であることを特徴とする高地環境用生体治癒能力向上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気の減圧と常圧状態への与圧とを利用した生体治癒力向上装置の工夫に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者は温度差による刺激を利用した空気浴を行うために最適な調圧装置及び調圧法を提案した(特許文献1参照)。更に、この調圧装置で常圧状態から閾値気圧以上の減圧状態への減圧工程と、減圧状態から常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態への与圧工程とを間断なく連続的に繰り返す刺激によって、異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとするヒトの生体治癒力効果の作用を確認してヒト治癒能力向上装置を提案した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4477690号
【特許文献2】国際公開2011/065319号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の生体治癒能力においては、好ましくは、減圧工程と比較して与圧工程の単位時間当たりの圧力変化を大きくすることにより、生体の自然な治癒力を向上させる刺激を良好に与える態様が開示されている。しかしながら、与圧工程の単位時間当たりの圧力変化を大きくした場合には、減圧状態から急激に常圧状態又はこの減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態になるため、外気と中耳との気圧の差が著しくなり、耳抜きが必要となる場合があった。
【0005】
ところが、風邪等で耳管が塞がり気味の状態であると良好な耳抜きができず、ひどい場合には、耳の痛みや異物感・違和感が発生する。従って、なるべく耳抜きを行わないようにするためには、逆に減圧工程の単位時間当たりの圧力変化を与圧工程と比べて大きくすることが行われてもいた。この場合は、生体の自然な治癒力を向上させる刺激は与圧工程の単位時間当たりの圧力変化を大きくする場合よりも数多くの刺激を受けなければならなくなるが、耳抜きの負担が軽くなる利点がある。
【0006】
耳管は、中耳から空気を抜きやすく、中耳に空気を入れ難い構造になっている。耳抜きが必要となる気圧差としては、個人差にもよるが、数百メートルの高度差を短時間で上下する程度の気圧差でも発生する場合がある。
【0007】
一方、前述の生体治癒能力向上装置においては、減圧ポンプで気密部内部を減圧する減圧工程と、外気と連通させることにより与圧する与圧工程とを交互に繰り返すために、与圧工程が常圧となる高度が0m〜200m程度の平野部での設置を念頭に置いている。また、減圧ポンプは種々の方式のものが使用されるが、何れにしても吸引状態を維持するための弁機構が故障し易くメンテナンス費用も馬鹿にならない課題があった。
【0008】
さて、この生体治癒能力向上装置の設置場所としては、平野部以外にも高地が想定される。例えば標高2200mのメキシコシティ、標高1000mの軽井沢等の高地環境では、生体治癒能力向上装置の気密部を、与圧工程で常圧(1013hPa)や高度200m(989hPa)程度の広範常圧状態とするために減圧ポンプに加えて与圧装置を好ましくは備える。
【0009】
ところで、本発明者らは鋭意努力の結果、減圧工程で変化させる減圧状態を高度100m以上の高度に相当する気圧とし、尚且つ、従来の高度2000mの減圧状態と、(広範)常圧状態との連続的な繰り返しを行った際に効果が得られた減圧工程及び与圧工程の単位時間当たりの圧力変化を維持することにより、生体治癒効果の一環としての体温上昇効果を確認し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、耳抜きを行う程の大きな気圧差を発生させなくても異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとする生体治癒力効果を得ることができ、尚且つ、設置場所が高地環境である場合に簡易な構成で安価な高地環境用生体治癒能力向上装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された発明に係る高地環境用生体治癒能力向上装置は、気密可能な気密部内の気圧を、予め定められた閾値気圧以上の減圧状態と、1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態との間を休止することなく連続的に繰り返す生体治癒能力向上装置であって、
前記気密部と、この気密部内の気圧を前記減圧状態から前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態へ与圧する与圧手段と、前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態から前記減圧状態へ減圧する減圧手段と、前記与圧手段と減圧手段とを制御し減圧状態と1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態とを連続的に繰り返す減与圧制御手段とを備えた生体治癒能力向上装置において、
前記装置の設置雰囲気が高度400m〜高度1000mの高度に相当する気圧であり、
前記減圧手段として、前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態から前記減圧状態へ減圧する減圧工程で気密部内部と外部とを連通させて設置雰囲気の気圧へ減圧する連通路を備え、
前記与圧手段として、前記減圧状態から前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態へ与圧する与圧工程で気密部内に圧縮空気を供給する給気路を備え、
前記減与圧制御手段が、前記気密部内部の気圧を計測しつつ、前記連通路及び前記給気路の連通状態をコントロールして、前記気密部内の気圧を前記閾値気圧以上の減圧状態と前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態との間を休止することなく連続的に繰り返すものであり、尚且つ、前記減圧状態を前記設置雰囲気の大気圧に完全に戻す前に与圧工程に切り換えるものであり、
前記減圧状態と前記1013hPa〜1000hPaの広範常圧状態との連続的な繰り返しの際の減圧工程と与圧工程との単位時間当たりの圧力変化が19hPa/分〜70hPa/分であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、耳抜きを行う程の大きな気圧差を発生させなくても異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとする生体治癒力効果を得ることができ、尚且つ、設置場所が高地環境である場合に簡易な構成で安価な高地環境用生体治癒能力向上装置を得るという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】生体治癒能力向上装置での気密部内の気圧変化を模式的に示す線図であり、縦軸は気圧(hPa)、横軸は時間(min)を示す。
図2】減圧工程と与圧工程とを連続的に繰り返し制御した場合の呼気中の酸素利用率の変化を示す線図である。
図3】通常圧力及び減圧の血管の状態を説明する説明図である。
図4】生体治癒能力向上装置の効果を検証した線図であり、縦軸は気圧(hPa)及び気温(℃)、横軸は時間(min)を示す。
図5】生体治癒能力向上装置の効果を検証した線図であり、縦軸は気圧(hPa)及び気温(℃)、横軸は時間(min)を示す。
図6】生体治癒能力向上装置の効果を検証した線図であり、縦軸は気圧(hPa)及び気温(℃)、横軸は時間(min)を示す。
図7】本発明の高地環境用生体治癒能力向上装置の一実施例の構成を示す説明図である。
図8図7の高地環境用生体治癒能力向上装置の駆動を示すフローチャートであり、a図は減圧工程を示すフローチャートであり、b図は与圧工程を示すフローチャートである。
図9図7の高地環境用生体治癒能力向上装置での気密部内の気圧変化を模式的に示す線図であり、縦軸は相当高度(m)、横軸は時間(min)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前述の特許文献2等の提案により、高度2000m以上(約780hPa以下)の減圧状態と、常圧状態(1013hPa)又は広範常圧状態(1013hPa〜1000hPa)との間を連続して変化させる場合には、生体治癒効果の一環としての体温上昇効果が確認されている。しかしながら、この気圧差では、健常者においても耳抜きを必要とし、風邪などを引いて耳抜きが困難な病人においては、耳抜きが不十分となり、この気圧差により痛みを感じる場合があった。
【0017】
耳抜きが困難な被験者のために、減圧状態から(広範)常圧状態への単位時間当たりの圧力変化を、(広範)常圧状態から減圧状態への単位時間当たりの圧力変化よりも緩やかとする工夫は本発明者によって行われていたが、やはり高度2000m以上(約780hPa以下)の減圧状態への減圧工程と、この減圧状態から(広範)常圧状態への与圧工程との連続的な繰り返しは耳抜きが困難な被験者にとっては負担であった。
【0018】
従って、本発明においては、気密可能な気密部内の気圧を、予め定められた閾値気圧以上の減圧状態と、常圧か又はこの常圧よりも低く前記減圧状態よりも高い広範常圧状態との間を休止することなく連続的に繰り返す生体治癒能力向上装置であって、気密部と、この気密部内の気圧を前記減圧状態から広範常圧状態へ与圧する与圧手段と、広範常圧状態から減圧状態へ減圧する減圧手段と、与圧手段と減圧手段とを制御し減圧状態と広範常圧状態とを連続的に繰り返す減与圧制御手段とを備え、装置の設置雰囲気が高度400m以上の高度に相当する気圧であり、減圧手段が広範常圧状態から減圧状態へ減圧する減圧工程で気密部内部と外部とを連通させる連通路であり、与圧手段が減圧状態から広範常圧状態へ与圧する与圧工程で気密部内に圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段である。これにより、耳抜きを行う程の大きな気圧差を発生させなくても、異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとする生体治癒力効果を得ることができ、安価に生体治癒能力向上装置を得ることができる。
【0019】
即ち、本発明の生体治癒能力向上装置は、予め定められた閾値気圧以上の減圧状態と、常圧か又はこの常圧よりも低く前記減圧状態よりも高い広範常圧状態との間を休止することなく連続的に繰り返す生体治癒能力向上装置の設置場所が高地環境であることを想定して、減圧状態は設置場所の大気圧とし、広範常圧状態を得るための与圧手段として気密部内に圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段を備えるものである。
【0020】
この場合、気密可能な気密部は高地環境の大気である減圧状態と広範常圧状態との差圧に耐えられるものであれば良い。具体的には、高度400mの大気では、約965hPaであり、高度0mの常圧である1013hPaに対して、約50hPaの差圧に耐えられるものであれば良く、また、標高約1000m避暑地で有名な軽井沢や、標高2200mのメキシコシティでは、各々の大気圧は約900hPa及び約790hPaであるため、常圧との差圧である約100hPa及び約220hPaの差圧に耐えられるものであれば良い。
【0021】
本発明の気密部としては、内部の気圧を、予め定められた閾値気圧以上の減圧状態と、常圧か又はこの常圧よりも低く減圧状態よりも高い広範常圧状態との間を休止することなく連続的に繰り返すことに耐えられる気密部を備えるものであればよい。気密部を構成する素材としては、気密性を保ち、前記減圧状態と広範常圧状態との圧力変化に耐えられるものであればよく、金属、樹脂、木等の単独或いは複数を組み合わせて作成される。特に、気密部内の気圧が設置される高地環境の外気圧よりも低くなることがないため、内側からの膨張圧力に対抗する構造で良い。
【0022】
このため、例えば、金属製タンクを始めとして、互いの接合部分の気密性を確保できれば、矩形状のパネルを組み合わせて6面体状の筐体に構成してもよく、更には、機密性がある繊維強化プラスチック(FRP)、ガスバリア性の布・布帛・ラバーシート等を用いたカプセル状とすることも可能である。
【0023】
また、既に市販されているカプセル内の気圧を高めることで、血液中に溶解する酸素量を増加させて疲労回復を図るとされる高気圧エアーカプセルや、山酔い症状や高山病の症状を緩和する携帯型加圧装置(Portable Altitude Chamber) でも、減圧状態と広範常圧状態とを短時間で連続的に繰り返す減与圧制御手段等を付与することにより応用することができる。このため、安価に生体治癒能力向上装置を得ることができる。
【0024】
更に、設置場所が高地環境である場合には、減圧手段としての駆動系は必要とせず、与圧手段としては気密部内に圧縮空気を供給することによって簡易に供給することが可能となり、メンテナンスも容易となり、維持費も安価な生体治癒能力向上装置を得ることができる。
【0025】
本発明においては、減圧工程で変化させる減圧状態を高度400m以上の高度に相当する気圧とし、尚且つ、従来の高度2000mの減圧状態と、(広範)常圧状態との連続的な繰り返しを行った際に効果が得られた減圧工程及び与圧工程の単位時間当たりの圧力変化を維持することにより、生体治癒効果の一環としての体温上昇効果が確認されて本発明に至った。これを詳しく説明する。
【0026】
図1は生体治癒能力向上装置の気密部内の気圧変化を模式的に示す線図であり、縦軸は気圧(hPa)、横軸は時間(min)を示す。図に示した通り、破線で示された常圧状態(1000hPa)と、富士山の標高と同程度の高度3300mの減圧状態(約670hPa)とを50分で連続的に2回繰り返す気圧変化と、一点鎖線で示された常圧状態(1000hPa)と、高度1500mの減圧状態(約845hPa)とを50分で連続的に4回繰り返す気圧変化と、実線で示された常圧状態(1000hPa)と、高度900mの減圧状態(約910hPa)とを50分で連続的に8回繰り返す気圧変化と、二重線で示された常圧状態(1000hPa)と、高度400mの減圧状態(約965hPa)とを50分で連続的に16回繰り返す気圧変化との4種類の気圧変化が記載されている。
【0027】
これら4種類の気圧変化であるが、減圧工程及び与圧工程の単位時間当たりの圧力変化はこれら4種類で同じであるため、折れ線の距離は等しいものとなる。本発明においては、従来からの体温上昇効果が確認された減圧工程と与圧工程との単位時間当たりの圧力変化で、減圧工程及び与圧工程の時間を短縮して、これらを繰り返すことにより、同程度以上の体温上昇効果が確認された。これにより、大きな減圧工程・与圧工程を行わずとも、小さな減圧工程・与圧工程を細かく繰り返すことにより、同程度の効果を奏することが出来るだけでなく、耳抜きを行う程の大きな気圧差に被験者を晒さなくても済み、異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとする生体治癒力効果を得ることができる。
【0028】
本発明における「単位時間当たりの圧力変化」とは、例えば、縦軸に圧力、横軸に時間を表した図において傾きで示される。従って、例えば9分間で高度0m(1013hPa)から2000m(795hPa)まで上昇する減圧行程では24.22hPa/分(≒(1013-795)/9)となる。同じく9分間で高度2000m(795hPa)から0m(1013hPa)まで下降する与圧工程では−24.22hPa/分(≒(795-1013)/9)となる。
【0029】
本発明において、好ましい減圧工程と与圧工程との単位時間当たりの圧力変化としては、±19hPa/分以上とする。これは、減圧工程及び与圧工程において、効果が確認されている単位時間当たりの圧力変化だからである。この単位時間当たりの圧力変化が、±19hPa/分以上である場合に、今回、生体治癒効果の一環としての体温上昇効果が確認されている。尚、±19hPa/分以上の単位時間当たりの圧力変化とは、1分間に約158mの高低差を移動する減圧・与圧工程に相当する。
【0030】
本発明における減圧工程の最低気圧、即ち、生体治癒能力向上装置の設置雰囲気の高度としては、高度100mの高度に相当する気圧において、今回、生体治癒効果の一環としての体温上昇効果が確認されているが、個人差や個体差、気象条件の変化、減圧・与圧のレスポンス等から、好ましくは高度400m(約965hPa)以上、更に好ましくは高度600m(943.2hPa)以上とする。この高度600m(943.2hPa)程度の減圧状態と常圧状態(1013hPa)又は広範常圧状態(1013hPa〜1000hPa)との間を連続して変化させても、耳抜きが困難な被験者でも同程度の効果が得られる。
【0031】
尚、本発明で付言した「生体治癒能力」とは、正常でない状態を生体自身が本来持っている回復機能によって健康な状態に戻そうとする力を指す。即ち、血液等の体液成分、血圧を始めとして、体組織の損傷の修復、病原微生物やウイルスといった異物(非自己)の排除等の異常な環境を、安定な状態に戻し、治癒するものである。
【0032】
より詳しくは、身体の諸機能の障害や健康でない異常状態等の疾病を正常な状態に治癒しようとする働きを指す。従って、「生体治癒力の向上」とは、自然な治癒力自体を向上させることを指し、正常でない状態であることを素早く認識する反応の速さ、そして、正常な状態に戻そうとする応答の速さ等をより向上させることも含む。
【0033】
例えば、後述する実施例に示された健常細胞ではない腫瘍細胞の縮小及び消滅、リウマチ等の免疫系の過敏症の改善、健常な骨組織ではない骨粗鬆症の改善、糖代謝の異常の改善等が含まれ、更には、後述する実施例には具体的なデータはないが、異常血圧の改善、血栓の溶解、血栓の溶解による狭心症・脳血栓・脳内出血の予防、脳血流の改善による認知症の改善等も含まれるものと思われる。
【0034】
本発明の気圧サイクルの変化は、気密部内の被験者を刺激して被験者の自然な治癒力(生体恒常性維持機構)を向上させる。より具体的には、身体の諸機能の障害や健康でない異常状態等の疾病を正常な状態に戻そうとする働きの応答性を向上させるものと思われる。
【0035】
本発明における減与圧制御手段は、装置の設置雰囲気における減圧状態と、与圧手段による広範常圧状態との間を変化する気圧サイクルを連続して繰り返し制御するものであればよい。減圧状態とは、装置の気密部内部と設置雰囲気である外部とを連通路で連通させることにより、設置雰囲気における大気圧と同等又はこの大気圧に近い気圧状態を指す。
【0036】
一方、広範常圧状態は与圧手段によって気密部内部が常圧(1013hPa)か又はこの常圧よりも低く前記減圧状態よりも高い圧力となることを指す。例えば、装置の設置雰囲気としては、高度400m以上、より好ましくは高度600m以上の装置が設置された大気圧の減圧状態と、常圧(1013hPa)との圧力変化を連続的に繰り返す。より好ましくは、装置の設置雰囲気を高度1000m以下の気圧とし、広範常圧状態を高度50mの気圧とし、この減圧状態と広範常圧状態又は常圧状態との気圧変化を繰り返す。
【0037】
尚、連続的に繰り返す減圧状態又は広範常圧状態は、各々、同一の気圧で無くてもよい。例えば、装置の設置場所が高度1000mである場合、1回目の広範常圧状態を高度0m相当の1013hPa、それに引き続く減圧状態を設置雰囲気の大気圧に完全に戻す前に高度600m相当の965hPaとなった時点で与圧手段を駆動して与圧工程に移っても良い。同様に、繰り返す広範常圧状態についても、常圧(1013hPa)か、高度100m相当の1001.2hPaのように相違する気圧状態としてもよい。
【0038】
尚、本発明における気密部は常圧(大気圧)以上に積極的に加圧する場合は想定しないが、常圧を若干超える程度の加圧は誤差範囲として当然あり得る。例えば、与圧工程において、常圧(1013hPa)を超えて気圧を上げた場合に、生体治癒能力が向上するか具体的な検証はされてはいない。海抜−100m毎に約10hPa増加することが知られており、実際に死海沿岸地域では海抜−400mであり、約1050hPaであることを考えれば、高度0mの常圧を超えて例えば1050hPaを常圧と見なして、減圧状態と常圧状態とを繰り返したとしても生体治癒能力が著しく低下することはないものと考える。
【0039】
気密部内の減圧状態から広範常圧状態、又は、広範常圧状態から減圧状態への単位当たりの圧力変化、即ち、圧力変化のスピードは、被験者の自然な治癒力効果を向上させる刺激を与えるものであれば良い。19hPa/分〜70hPa/分であって、減圧工程の最低気圧が、高度100m相当以上の高度に相当する気圧で、生体治癒効果の一環としての体温上昇効果が確認された。
【0040】
この減圧状態と(広範)常圧状態との間の連続的な気圧変化の刺激が、被験者の自然な治癒力効果を向上させることは、後述する実施例でも検証済みであり、後述する仮説1,2に示した作用機構が考えられる。
【0041】
尚、気密部の大きさ及び与圧手段である圧縮空気供給手段については、急激な減圧変化をもたらすことができ、この減圧状態と広範常圧状態との圧力変化が速やかに行えるものであればよい。具体的には給気ポンプや、給気ポンプに調圧タンクを備えたもの、更には圧縮空気を内部に詰め込んだボンベ等が挙げられる。また、その能力は、容量の大きな気密部では、能力の大きな給気ポンプを1基以上備えればよいが、気密部の容量が小さいものであれば装置自体が大きくならずに済む。大きな気密部としては、数人が同時に収容可能である。また、小さな気密部としては、一人の人間が横たわる程度の容量の気密部が上げられる。
【0042】
何れにしても、被験者に減圧状態と広範常圧状態との間の連続的な気圧変化の刺激を与えるには、少なくとも身体全体を内部に保持するものが好ましい。従って、本発明の気密部としては、人体の全部を内部に保持するものである。具体的には、気密部が人体の全部を内部に保持し、気密部を人体が全て入る部屋として構成し、その気密部屋に被験者が入り、減圧状態と広範常圧状態との気圧変化を繰り返す。この場合には、気密部内の酸素の欠乏を防止する酸欠防止手段を更に備える。本発明の酸欠防止手段としては、停電等で圧縮空気の供給が行われない場合に、自動的に開放して気密部内の酸欠を防止するドア又は換気口等が挙げられる。
【0043】
本発明において、閾値気圧以上の減圧状態と常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態との間を、連続して繰り返し制御することによる生体治癒能力向上効果の詳細な作用機構(作用機序)はこれからの検証及びデータの蓄積等によって解明されるものと思われるが、幾つかの作用機構の仮説を考慮した。
【0044】
仮説1.低酸素による防御機構
生体の「防御機構」は低地から高地に向かう場合(即ち、酸素濃度の低いほうに向かう場合)は、その低地から高地への移動中において絶えず理論値(平地での酸素利用量と同じ酸素量)よりも多い酸素量を得るように作用すると考えられる。このことは、常圧状態から減圧状態への移動速度を変えても体温の上昇は認められることから「ATP」の産生が増加していることがわかる。
【0045】
逆に、高地から低地に向かう場合(即ち、酸素濃度の低い方から通常に向かう場合)は、酸素濃度の高い方、即ち、細胞にとってもATPを作りやすい方向であるため防御機構はゆっくりと作用する。従って、理論値と移動速度がほぼ一致する条件がある。ATPの増産を狙うためにはこれより速い移動速度にする必要がある。言いかえれば、速ければ速いほどATPは産生しやすい結果となる。
【0046】
図2は減圧工程と与圧工程とを連続的に繰り返し制御した場合の呼気中の酸素利用率の変化を示す線図である。本仮説では、安静時の肺呼吸による、呼気中の酸素の利用率に着目する。エネルギー代謝から考慮すると「ATP」産生のためにはヘモグロビンの運ぶ酸素量は常に一定でなければならない。
【0047】
即ち、平地において呼気中の25.0%に当たる酸素を利用していると仮定すると、例えば1000mの高度では酸素濃度が10%低下するので、呼気中の27.8%の酸素を利用すると考えられる。同様に2000mの高度では31.3%を利用すると考えられる。これはすべて生体の「防御機構」の働きで決定する。3000mの高度ぐらいまでは呼気中の酸素量に余裕があるので変換可能だが、それ以上に薄くなるとヘモグロビンに対する酸素の吸着量に個人差が生じ所謂「高山病」と呼ばれる低酸素障害がおこる場合がある。
【0048】
そこで、「防御機構」は危険(低酸素)に向かう時には早めに且つ安全に作用し、安全サイド(高酸素)に向かうときはゆっくり作用するとの低酸素による防御機構の仮説を検証する。つまり、図2に示す通り、高度の変化中はヘモグロビンの酸素運搬能力がより安全サイドにずれ、絶えず理論値よりも多い量が運ばれると考える。これによって得られる過剰な酸素がミトコンドリアに送られる。結果としてATPの産生は高まり体温の上昇がみられることになる。産生が高まったATPにより、自然な治癒力向上効果が得られたものと考えられる。
【0049】
本発明では、1分間に約158mの高低差を移動する減圧・与圧工程に相当する気圧変化でも生体治癒効果の一環としての体温上昇効果が確認されたことから、この「防御機構」は生体に非常に敏感に作用するものと考えられる。
【0050】
仮説2.一酸化窒素(NO)等の分泌によるシグナル伝達
血管内皮細胞では、血流によるズリ応力等の刺激によりガス状の一酸化窒素(以下、「NO」と記す)が分泌される。このNOは、血管の内皮由来弛緩因子(EDRF:Endothelium-Derived Relaxing Factor)と呼ばれていた。この内皮由来弛緩因子がNOそのものであることを示し、シグナル伝達物質としてのNOの発見により、R.F.ファーチゴット氏、L.J.イグナロ氏、F.ムラド氏の3名が1998年のノーベル医学生理学賞を受賞している。
【0051】
シグナル伝達物質としてのNOは、動脈や静脈が梗塞する原因になるプラークが血管につかないようにするだけではなく、動脈の弛緩によって正常な血圧を維持して血流を調整し、心臓発作を防止するために体内で生成されていることが判っており、NOは体内で作られる心血系の健康維持のための驚異の化学物質とされている。このNOによるシグナル伝達が本発明の自然な治癒力向上効果の主要な作用機構そのものであるとするのが仮説2である。
【0052】
即ち、本発明において、閾値気圧以上の減圧状態と常圧又は減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態との間を、例えば、40〜60分間の時間内で4〜5回繰り返すことにより、血管自体が拡張と復帰とを繰り返すことになる。
【0053】
即ち、生体においてはほぼ一定の血圧によって血液が移送される。この時、生体を取り巻く外気の圧力が減圧されると、血管は内圧に比べて外圧が下がるために拡張する。図3は通常圧力及び減圧の血管の状態を説明する説明図である。図3のa図に示す通り、通常圧力においては、体躯1aの表面に近い位置に配された血管2aでは、血管2a内部の血液の圧力に対抗可能な圧力で血管2a外部から押されている。
【0054】
これに対して、図3のb図に示す通り、減圧状態においては、体躯1bの表面を押す圧力自体が低下するため、体躯1bの表面に近い位置に配された血管2bでは、血管2bの管壁自体の対抗力と血管2b外部からの圧力との合力が血管2b内部の血液の圧力と釣り合うように、血管2b内部の血液の圧力によって血管2b自体が膨張する。
【0055】
外気の圧力が復圧すると血管は拡張状態から従来の状態に復帰する。このあたかも血管をマッサージする如く、拡張と復帰とを繰り返すことにより、自然な治癒力を向上させる物質が分泌されるのである。
【0056】
NOは血流によるズリ応力の刺激によっても分泌され、血管の平滑筋細胞を弛緩させることは、先の通り周知である。特に、本発明のように減圧状態と広範常圧状態とを連続して繰り返す雰囲気に身体を曝すことにより、物理的に血管の弛緩状態と復帰状態とが連続して繰り返すことになる。これより容易にNOの分泌が促されるとしても何ら不思議ではなく、本発明の自然な治癒力向上効果を裏付けるものである。
【0057】
前述の通り、NOは内皮由来弛緩因子(EDRF)と呼ばれていたことから、血管の平滑筋細胞を弛緩させて血管の筋肉自体を柔軟にして広げ、血流をスムーズにすることにより、
(1) 血圧を低下させる効果
を始め、次のような種々の効果を生じさせる。現在確認されている他の効果としては、
【0058】
(2) NOが抗酸化物質であることによる活性酸素のようなフリーラジカルを除去し、血小板凝集を抑制し、コレステロールの酸化や血栓の生成を防ぎ、動脈硬化や心臓病、脳卒中を防止する。また、NOによって血流と血圧が整えられリラックスすることで、冷え性や肩こり、慢性的な疲労の改善効果も見られる。
【0059】
(3) プロスタグランジンI(PGI)の合成酵素を活性化し、PGIの産生を高める。PGIは、血管内皮細胞に直接働いて、細胞内cAMP濃度を上昇させ、NO産生を高める。NOは、プロスタグランジンI(PGI)の産生を相乗的に高める(ポジティブフィードバック)。
【0060】
(4) 気圧の変化による血管のマッサージはNO以外の他のシグナル伝達物質も分泌する。
例えば、(4-1) プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)の産生向上により、線溶系が活発化され、血栓を溶解する。これにより、血管自体が若返り、異常血圧の低下、狭心症、脳血栓、脳内出血の予防効果を奏する。
【0061】
また、(4-2) サイトカイン誘導産生(IL−6:液性免疫の制御因子)により、B細胞や形質細胞(プラズマ細胞)を増殖する。また、IgG、IgM、IgAの産生が増強され、T細胞の分化や活性化に関与され、肝細胞に作用し、CRP、ハプトグロビンなどの急性期蛋白を誘導する。
【実施例】
【0062】
実施例1:生体治癒能力向上効果の検証
過減圧となる閾値気圧以上の減圧状態とする減圧工程と、常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態とする与圧工程とを一定な圧力の状態がなく連続して繰り返し行われる刺激によって、種々の被験者により異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとする自然な治癒力効果が確認されている。
【0063】
個々の被験者によると、減圧状態とする減圧工程と、常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態とする与圧工程とを一定な圧力の状態がなく連続して繰り返すことにより、被験者の手足における血流が上昇するため、手足がぽかぽかと暖かくなることが証言された。また、減圧工程と与圧工程とを連続して繰り返すことにより自然な治癒力向上効果が現れることも確認された。よって、本発明の生体治癒能力向上装置の効果の検証として、掌(手のひら)の体温を計測した。尚、掌の温度は皮膚赤外線体温計(商品名:サーモフォーカス プロ )で行った。
【0064】
図4図6は生体治癒能力向上装置の効果を検証した線図であり、縦軸は気圧(hPa)及び気温(℃)、横軸は時間(min)を示す。被験者は図4図6において、同一人物であり、約1時間から6時間の休憩を挟んだ後、3回又は4回行った。
【0065】
図4は常圧状態(1013hPa)と高度2200mの減圧状態(775.5hPa)とを減圧工程及び与圧工程共に4分間で変化させるサイクルを48分で連続的に6回繰り返す気圧変化とその際の被験者の掌の体温の計測結果を示す。また、被験者の体温変化を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
図5は常圧状態(1013hPa)と高度1000mの減圧状態(898.8hPa)とを減圧工程を1分50秒、与圧工程を3分10秒で変化させるサイクルを50分で連続的に10回繰り返す気圧変化とその際の被験者の掌の体温の計測結果を示す。また、被験者の体温変化を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
図6は常圧状態(1013hPa)と高度600mの減圧状態(943.2hPa)とを減圧工程を1分、与圧工程を2分で変化させるサイクルを51分で連続的に16回繰り返す気圧変化とその際の被験者の掌の体温の計測結果を示す。また、被験者の体温変化を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
図4図6及び表1〜表3に示す通り、高度2000m以上(約780hPa以下)の減圧状態と常圧状態(1013hPa)との間を連続して変化させる場合と同様に高度1000m以下の減圧状態と常圧状態(1013hPa)との間を連続して変化させる場合も同様に生体治癒効果の一環としての体温上昇効果が確認された。特に、高度600mで連続的に16回繰り返す気圧変化を行った場合には、1回目から50分後の掌温度が34℃を超えることが確認され、同程度以上の効果が確認された。
【0072】
実施例2:高地環境用生体治癒能力向上装置の構成
前述の実施例1で、高度2000m以上の減圧状態と常圧状態との間を連続して変化させる場合と同様に、高度1000m以下、高度600mで減圧状態と常圧状態との間を連続して変化させる場合も同程度以上の効果が確認された。このため、装置自体を高地環境に設置することにより、気密部と、この気密部内の気圧を減圧状態から広範常圧状態へ与圧する与圧手段として圧縮空気供給手段と、広範常圧状態から減圧状態へ減圧する減圧手段として気密部内部と外部とを連通させる連通路と、減圧状態と広範常圧状態とを連続的に繰り返す減与圧制御手段とを備えた高地環境用生体治癒能力向上装置を作成した。
【0073】
図7は本発明の高地環境用生体治癒能力向上装置の一実施例の構成を示す説明図である。図に示す通り、本実施例の高地環境用生体治癒能力向上装置10は一人用である。気密部11は繊維強化プラスチック(FRP)製のカプセル状であり、被験者を横たえる寝台12の上半身に対向する気密部11には被験者が出入りするための透明なプラスチック製の扉13が開閉可能に取付けられている。
【0074】
気密部11の被験者の上半身側の一端部には減与圧制御手段としての圧力コントローラ14が装備されている。この圧力コントローラ14には、気密部11内部と外部とを連通させる連通路15と、調圧タンク17を介して給気ポンプ18に連通した給気路16とが配されており、気密部11内部の気圧を計測しつつ、連通路15及び給気路16の連通状態をコントロールして、気密部11内の気圧を、予め定められた閾値気圧以上の減圧状態と、常圧か又はこの常圧よりも低く減圧状態よりも高い広範常圧状態との間を休止することなく連続的に繰り返す。
【0075】
尚、図示はしていないが、本装置には被験者の気密部11内への閉じ込めを防止する安全装置が備わっている。例えば、被験者にはロックスイッチを握ってもらい、このスイッチを握っている間は扉13のロックがかかり、スイッチを外した場合には一定時間後に扉13のロックが解除となり、気密部の機密性が開放される安全装置や、同じく気密部11内の圧力が常圧を超えて更に高まった場合に扉13のロックを外す安全装置等である。
【0076】
図8図7の高地環境用生体治癒能力向上装置の駆動を示すフローチャートであり、a図は減圧工程を示すフローチャートであり、b図は与圧工程を示すフローチャートである。先ず、b図に示す与圧工程を示す。
【0077】
与圧工程では、圧力コントローラ14によって連通路15の排気弁を最小に絞り、給気路16の吸気弁の開度を大きくすることにより、気密部11内の気圧を上昇させる。気密部11の圧力コントローラ14に付随する圧力センサによって内部の気圧を数秒ごとにチェックし、予め設定しておいた目標与圧値となっているのかを判断し、目標与圧値(広範常圧状態)となった場合には給気路16の吸気弁を最小に搾り、減圧工程に切り替わる。
【0078】
減圧工程は、a図に示す通り、圧力コントローラ14によって、連通路15の排気弁の開度を大きくする。与圧工程と同様に、気密部11の圧力コントローラ14に付随する圧力センサによって内部の気圧を数秒ごとにチェックし、予め設定しておいた目標減圧値となっているのかを判断し、目標減圧値(減圧状態)となった場合には連通路15の排気弁を最小に搾り、与圧工程に切り替わる。
【0079】
このような圧力コントローラ14の制御によって、装置自体を高地環境に設置することにより、気密部と、この気密部内の気圧を減圧状態から広範常圧状態へ与圧する与圧手段として圧縮空気供給手段と、広範常圧状態から減圧状態へ減圧する減圧手段として気密部内部と外部とを連通させる連通路と、減圧状態と広範常圧状態とを連続的に繰り返す減与圧制御手段とを備えた高地環境用生体治癒能力向上装置を得た。
【0080】
図9図7の高地環境用生体治癒能力向上装置での気密部内の気圧変化を模式的に示す線図であり、縦軸は相当高度(m)、横軸は時間(min)を示す。図に示す通り、破線で示された装置の設置雰囲気が高度2000mである場合と、一点鎖線で示された装置の設置雰囲気が高度1000mである場合と、実線で示された装置の設置雰囲気が500mである場合との3つを示している。
【0081】
高度2000mにおいては、16分間に2回高度0mの常圧に与圧され、高度1000mにおいては、同じく16分間に4回高度0mの常圧に与圧され、高度500mにおいては、同じく16分間に8回高度0mの常圧に与圧される気圧変化が記載されている。これら3種類の気圧変化において、減圧工程及び与圧工程の単位時間当たりの圧力変化はこれら3種類で同じであるため、各折れ線の距離は等しいものとなる。
【0082】
本実施例においては、従来からの体温上昇効果が確認された減圧工程と与圧工程との単位時間当たりの圧力変化で、減圧工程及び与圧工程の時間を短縮して、これらを繰り返すことにより、同程度以上の体温上昇効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、設置する場所を高地とすることにより、生体の自然な治癒力を向上させる刺激をより良好に与えることができる生体治癒能力向上装置が安価に得られ、異常な身体組織、身体器官等を、健康な身体組織、身体器官に戻そうとする生体治癒能力効果が得られる。
【符号の説明】
【0084】
10…高地環境用生体治癒能力向上装置、
11…気密部、
12…寝台、
13…扉、
14…圧力コントローラ(減与圧制御手段)、
15…連通路、
16…給気路、
17…調圧タンク、
18…給気ポンプ、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9