【文献】
中山孝志ほか,マイクロバブルによるホタテ養殖に関する研究,土木学会第56回年次学術講演会講演要旨集,2001年,第56回第2部門,384−385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の段階は、前記稚貝を前記第1の篭に移し替える前に、前記稚貝を微細な気泡で活性化させることを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載のホタテの養殖方法。
前記第3の段階は、前記稚貝を前記第2の篭に移し替える前に、前記稚貝を微細な気泡で活性化させることを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載のホタテの養殖方法。
【背景技術】
【0002】
従来、青森県陸奥湾や東北地方の太平洋沿岸、北海道の各沿岸を中心としてホタテの養殖業が営まれている(特許文献1参照)。従来のホタテの養殖方法の一例として、青森県陸奥湾でのホタテの養殖方法の概要を、
図38のフローチャートを参照しながら説明する。まず、初年度の4月中旬〜5月中旬頃の期間t1に、採苗作業が実施される。採苗作業では、採苗器を海中に吊るし、海中を浮遊しているホタテの幼生(ラーバ)を採苗器に付着させる。ラーバは海中の植物性プランクトンを主な餌として摂取して成長し、稚貝となる。
【0003】
5月中旬〜6月中旬頃の期間t2に、間引き作業が実施される。間引き作業では、採苗器を船上に引き揚げ、採苗器に付着している過剰な稚貝を間引きするとともに、稚貝を捕食するヒトデやウミセミを駆除する。そして、間引き後の稚貝を元の採苗器に戻すか、或いは同等の新たな採苗器に移し替えて、稚貝を入れた採苗器を海中に吊るす。なお、水域等によっては、採苗器への稚貝の付着数が少なく、駆除すべきヒトデやウミセミも少ない場合等には間引き作業を実施しないこともある。
【0004】
7月初旬〜8月中旬頃の期間t3に、稚貝の採取作業が実施される。稚貝の採取作業では、採苗器を海中から引き揚げて、採苗器に付着した殻長8mm〜10mm程度に成長した稚貝を採取する。そして、採取した稚貝を、四角錐形状の座布団篭(パールネット)に個体数(収容密度)を調整しながら移し替えて、稚貝を入れた座布団篭を海中に吊るす。7月初旬〜8月中旬頃の夏場は気温及び海水温(24℃〜26℃程度)が高温となるため、稚貝の採取作業は一般的に深夜に船上で行われる。
【0005】
9月中旬〜10月下旬頃の期間t4に、1回目の稚貝の分散作業が実施される。1回目の稚貝の分散作業では、座布団篭を海中から引き揚げて、殻長2cm〜2.5cm程度に成長した稚貝を採取する。そして、採取した稚貝を、個体数を調整しながら、網目のサイズがより大きい座布団篭に移し替えて、稚貝を入れた座布団篭を海中に吊るす。
【0006】
初年度の2月初旬〜2年目の4月下旬頃の期間t5に、2回目の稚貝の分散作業を実施する。2回目の稚貝の分散作業では、座布団篭を海中から引き揚げて、越冬して殻長5cm〜6cm程度に成長した稚貝を採取する。そして、採取した稚貝を、個体数を調整しながら、網目のサイズがより大きい円柱状の丸篭(行燈篭)に移し替え、稚貝を入れた丸篭を海中に吊るす。なお、2回目の稚貝の分散作業では、採取した稚貝の一部又は全部を耳吊りする場合もある。その後、2年目の9月中旬〜11月下旬頃の期間t6に、成貝用半成貝の分散作業を実施する。この際、座布団篭に付着した付着物の除去作業も実施される。
【0007】
2年目の4月初旬〜6月下旬頃の期間t7に、殻長6cm〜7cm程度に成長したホタテを半成貝として出荷する。更に、2年目の7月初旬〜12月下旬頃の期間t8に、殻長8cm〜9cm程度に成長したホタテを新貝として出荷する。更には、3年目の4月初旬〜7月下旬頃の期間t9に、殻長12cm程度に成長したホタテを成貝として出荷する。このように、従来のホタテの養殖作業は、採苗から最終的な出荷まで足掛け3年に亘って実施される。
【0008】
図38に示したフローチャートにおける期間t1の採苗作業及び期間t2の間引き作業で用いる従来の採苗器としては、玉葱袋と呼ばれるポリエチレン製の網状の袋に、合成繊維や中古網(刺し網)を入れた二重構造が一般的に使用されている。しかしながら、採苗器には、ホタテの稚貝の他にも、キヌマトイガイやユウレイボヤ、ハイドロゾア、ネンエキボヤ等の海中生物や、海中を浮遊するゴミが多く付着する。採苗器に付着した海中生物やゴミは採苗器の網目を閉塞し、更には海中生物自体が海水中の酸素や植物性プランクトンを摂取するため、稚貝が必要とする海水中の酸素濃度及び餌料量が不足する。この結果、稚貝の成長が阻害され、更には稚貝のへい死率も増大する。
【0009】
また、採苗器に付着した海中生物やゴミを除去するために、
図38のフローチャートにおける期間t2の間引き作業時、期間t3の稚貝の採取作業時、期間t4,t5の稚貝の分散作業時等に、採苗器や座布団篭を頻繁に交換・洗浄する必要があり、多大な労力と付着廃棄物処理等のコストがかかる。更には、採苗器や座布団篭の洗浄汚水により水質環境を悪化させる懸念がある。特に、青森県陸奥湾においては、40年間の長期間に亘る洗浄汚水等による汚染により水質環境の悪化が著しく、国内88箇所の閉鎖性海湾の調査においても特に底質の水質環境の改善が求められている。水質環境を改善するためには浚渫という手段もあるが、ホタテの養殖をしながらだと事実上困難である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の一例を示す模式的な断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の支持枠の一例を示す模式的な平面図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の付着網に稚貝を付着させた様子を模式的に示す概略図であり、
図4(b)は、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の底網上に稚貝が落下した様子を模式的に示す概略図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法で用いる防汚被膜が形成された編地の採苗器の一例を示す模式的な概略図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法で用いる防汚被膜が形成された編地の丸篭の一例を示す模式的な概略図である。
【
図8】
図8(a)は、本発明の第1の実施例の1連当たりの付着物重量を比較例とともに示すグラフであり、
図8(b)は、本発明の第1の実施例のへい死率を比較例とともに示すグラフである。
【
図9】
図9(a)は、本発明の第1の実施例のホタテの殻長を比較例とともに示すグラフであり、
図9(b)は、本発明の第1の実施例のホタテの全重量を比較例とともに示すグラフであり、
図9(c)は、本発明の第1の実施例のホタテの軟体部重量を比較例とともに示すグラフである。
【
図10】本発明の第4の実施例に係る座布団篭、比較例に係る座布団篭及び使用前の座布団篭の写真である。
【
図11】本発明の第4の実施例に係る座布団篭(シリコン処理座布団篭)の回収後の写真である。
【
図12】本発明の第4の実施例の比較例に係る座布団篭(無処理座布団篭)の回収後の写真である。
【
図13】本発明の第6の実施例の比較例に係る座布団篭(無処理座布団篭)で回収された変形貝の写真である。
【
図14】本発明の第8の実施例に係る座布団篭(シリコン処理座布団篭)の回収後の写真である。
【
図17】本発明の第8の実施例に係る座布団篭の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(30倍)である。
【
図18】本発明の第8の実施例に係る座布団篭の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【
図19】本発明の第8の実施例に係る座布団篭の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(500倍)である。
【
図20】本発明の第8の実施例に係る座布団篭の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(1000倍)である。
【
図21】本発明の第8の実施例に係る座布団篭の他の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(30倍)である。
【
図22】本発明の第8の実施例に係る座布団篭の他の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【
図23】本発明の第8の実施例に係る座布団篭の他の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(500倍)である。
【
図24】本発明の第8の実施例に係る座布団篭の他の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(1000倍)である。
【
図25】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭(無処理座布団篭)の回収後の写真である。
【
図28】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(30倍)である。
【
図29】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【
図30】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(500倍)である。
【
図31】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(1000倍)である。
【
図32】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭の他の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(30倍)である。
【
図33】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭の他の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【
図34】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭の他の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(500倍)である。
【
図35】本発明の第8の実施例の比較例に係る座布団篭の他の一部の繊維構造の電子顕微鏡写真(1000倍)である。
【
図36】本発明のその他の実施形態に係るホタテ用養殖篭の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図37】
図37(a)及び
図37(b)は、本発明のその他の実施形態に係るホタテ用養殖篭の支持枠の一例をそれぞれ示す模式的な平面図である。
【
図38】青森県陸奥湾における従来のホタテの養殖方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、採苗器内の海水中の酸素濃度及び餌料量が、採苗器外の海水中と比較してそれぞれ40%減少したという調査結果を得た。また、採苗器に付着した稚貝は、殻長8mm〜10mm程度に成長すると付着力が弱まり自然に採苗器の網から外れて落下する。このため、採苗器の引き揚げ時期が適切でないと、落下した稚貝が採苗器の底に溜まり、稚貝が窒息して大量にへい死する可能性があるという知見を得た。
【0017】
上記知見を鑑み、図面を参照して、本発明の実施形態を以下において説明する。以下の説明で参照する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。更に、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するためのホタテ用養殖篭やホタテの養殖方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質や、それらの形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
また、本明細書において、「上側」「下側」等の「上」「下」の定義は、図示した断面図上の単なる表現上の問題であって、例えば、ホタテ用養殖篭の方位を90°変えて観察すれば「上」「下」の称呼は、「左」「右」になり、180°変えて観察すれば「上」「下」の称呼の関係は逆になることは勿論である。
【0019】
<ホタテ用養殖篭の構成>
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭は、
図1及び
図2に示すように、ホタテの稚貝を付着させる付着網10a〜10eが収納された空間(第1空間)が構成する付着室11a〜11eと、第1空間の下に第1空間と連続して配置された空間(第2空間)であって、付着網10a〜10eから落下した稚貝を受け止める底網21〜25を有する育成室12a〜12eと、付着室11a〜11eと育成室12a〜12eの側面を連続して覆う側網2a〜2eとを備える育成ユニット1a〜1eを上下に複数個(5つ)連続し、最上段の育成ユニット1aの上側に蓋網20を更に配置して構成される。なお、
図1においては便宜的に、付着室11a〜11eと育成室12a〜12eの側面を連続して覆う側網2a〜2eの輪郭のみを図示し、側網2a〜2eの網目模様を省略している。
【0020】
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eは、例えばポリエチレン等からなる。本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eには、海中生物及びゴミの付着を抑制する撥水性の防汚被膜が形成されている。防汚被膜の厚さは例えば1μm〜200μm程度である。防汚被膜は、例えば蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2e等をジメチルシリコーン等を含むアクリル樹脂塗料(防汚塗料)等に浸漬すること等により形成可能である。
【0021】
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭は、
図1及び
図2に示すように海中に吊るした状態では略円柱状となる。最上段の育成ユニット1aの上端から最下段の育成ユニット1eの下端までの高さH1が2m程度、直径D1が0.5m程度である。付着室11a〜11e及び育成室12a〜12eのそれぞれの高さH2,H3は0.2m程度である。付着室11a〜11e及び育成室12a〜12eは、支持枠30〜40により互いに区画されている。なお、
図2において、支持枠31,33,35,37,39により区画される各育成ユニット1a〜1eの付着室11a〜11e及び育成室12a〜12eの境界部分を破線で示している。
【0022】
支持枠30は、
図3に示すように、環状の支持部30aと、環状の支持部30aに連結した2本の十字状の支持部30b,30cを有する。環状の支持部30a及び十字状の支持部30b,30cとしては、例えばポリ塩化ビニルで被覆した針金が使用可能である。例えば、環状の支持部30aは直径6mm程度であり、十字状の支持部30b,30cは直径4.5mm程度である。なお、
図3では環状の支持部30aが十字状の支持部30b,30cよりも太い場合を例示するが、これに限定されず、例えば環状の支持部30aと十字状の支持部30b,30cとが同じ太さであってもよい。また、支持部30b,30cの本数は限定されず、十字状でなくても構わない。
図1及び
図2に示した支持枠31〜40も、
図3に示した支持枠30と同様の構成を有することにより、付着網10a〜10eの付着室11a〜11eから育成室12a〜12eへの落下を防止できる。
【0023】
図1及び
図2に示した蓋網20は、最上段の付着室11aの上側を覆うように最上位の支持枠30に取り付けられている。各育成室12a〜12eの底網21〜25は、最上位の支持枠30から1つおきに、支持枠32,34,36,38,40にそれぞれ取り付けられている。なお、蓋網20及び底網21〜25は、例えば1.5分(菱形の網目の一辺の長さが4.5mm)程度のラッセル網が使用可能である。
【0024】
付着網10a〜10eは、例えば支持枠30,32,34,36,38や蓋網20及び底網21〜24に括り付ける等してそれぞれ付着室11a〜11e内に固定されている。これにより、付着網10a〜10eが付着室11a〜11eから育成室12a〜12eへ落下することを防止できる。付着網10a〜10eとしては、特に限定されないが、例えばポリエチレン製の網や中古網(刺し網)が使用可能であり、従来の採苗器(玉葱袋)に収容する網と同様のものを用いてもよい。なお、付着網10a〜10eには、海中生物及びゴミの付着を抑制する防汚被膜が形成されていないものを使用する。
【0025】
側網2a〜2eは、例えば1.5分(菱形の網目の一辺の長さが4.5mm)程度のラッセル網が使用可能である。側網2a〜2eは、1枚の網から一体的に構成されていてもよい。側網2a〜2eは、支持枠30〜40にそれぞれ括り付けられている。側網2a〜2eには、付着室11a〜11e及び育成室12a〜12eに稚貝を出し入れ可能な開口部4が設けられている。開口部4は、例えば側網2a〜2eの重なり部分を糸で縫って綴じておき、稚貝を出し入れする際に縫い糸を解いて開口する。開口部4の構造は特に限定されず、ファスナやホックで開閉する構造等の種々の構造が採用可能である。
【0026】
図1及び
図2に示すように、支持枠30〜40は、4本の吊下げ用ロープ3で結び付けられて互いに連結されている。4本の吊下げ用ロープ3の上端及び下端は1つに纏められ、上端には吊下げ用のループが形成されている。
図1では4本の吊下げ用ロープ3を示すが、吊下げ用ロープ3の本数は特に限定されない。
【0027】
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭は、例えば
図38に示した従来のホタテの養殖方法にそのまま適用する場合には、5月中旬〜6月中旬頃の期間t2の間引き作業において、間引き後に稚貝を入れる採苗器の代わりに使用可能である。そして、7月初旬〜8月中旬頃の期間t3に稚貝の採取作業をせずに、9月中旬〜10月中旬まで海中に吊るしておくことができる。このため、船上での採取作業による稚貝のへい死リスクを回避でき、深夜の採取作業をなくすことができる(詳細は後述する)。
【0028】
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭に稚貝を入れる際には、
図1に示した開口部4を開口して、
図4(a)に示すように、付着室11a〜11eの付着網10a〜10eに稚貝100を付着させる。なお、付着網10a〜10eを付着室11a〜11eから一旦取り出して、付着網10a〜10eに稚貝100を予め付着させてから、稚貝100を付着させた付着網10a〜10eを付着室11a〜11e内に収納してもよい。その後、開口部4を閉じて、海中に吊るして稚貝を育成する。稚貝は8mm〜10mm程度に成長すると付着力が弱まり、
図4(b)に示すように、付着網10a〜10eから外れて育成室12a〜12eの底網21〜25上に落下し、育成室12a〜12eで育成する。
【0029】
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭によれば、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eに海中生物及びゴミの付着を抑制する撥水性の防汚被膜が形成されているので、海中生物やゴミの付着を抑制でき、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭内の海水中の酸素濃度及び餌料の減少を抑制できる。したがって、ホタテのへい死率を低減できるとともに、短期間で良好に稚貝を育成させることができる。更には、ホタテが早期に成長し、養殖期間を短縮できるので、稚貝のへい死率が比較的高くなる夏期及び冬期を迎える頻度が減少し、へい死率を減少させることができる。
【0030】
更に、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eには防汚被膜が形成されているので、海中生物やゴミが付着し難いことから、従来の採苗器や座布団篭のように頻繁に交換・洗浄しなくてもよく、再利用が可能である。このため、採苗器や座布団篭の交換・洗浄作業に要する労力及び付着廃棄物処理等のコストを大幅に削減できるととに、採苗器や座布団篭の洗浄に伴う損傷も防止できる。特に複数回の再利用を考慮すると、防汚被膜を塗布することによる初期投資の費用は解消され、最終的には現状のホタテ用養殖篭に比して低コストとなる。即ち、養殖篭の交換回数が少なくなり、養殖篭の枚数を約半減させることができる。更に、洗浄により篭が傷まないので、新規に補充する篭の数を減らすこともできる。更に、採苗器や座布団篭の交換によりホタテに与えるストレスも低減でき、良好に育成できる。更には、採苗器や座布団篭の洗浄汚水による水質環境の悪化を抑制可能となる。
【0031】
また、従来の採苗器では、稚貝が採苗器から外れて袋の底部に溜まる。このため、稚貝の採取作業を時化等により適切なタイミングで実施できないと、袋の底部に溜まった稚貝が窒息死してしまい、種苗不足になるリスクがある。これに対して、本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法によれば、付着室11a〜11eから自然に落下した稚貝を育成室12a〜12eで稚貝分散時(9月中旬〜10月下旬)まで育成できるので、稚貝が窒息死するリスクも回避できる。
【0032】
また、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eには防汚被膜が形成されているので、育成室12a〜12eに落下した稚貝が蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eに付着し難く、稚貝を採取するときに従来の採苗器に比して採取し易くなる。更に、付着室11a〜11eから自然に落下した稚貝を育成室12a〜12eで稚貝分散時(9月中旬〜10月下旬)まで育成できるので、採苗器から座布団篭への移し替えが不要となる。したがって、従来のように採苗器から座布団篭への移し替えによるホタテのストレス及びそのストレスに起因するへい死リスクを低減でき、良好に育成できる。
【0033】
また、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭は、折り畳んでコンパクトに収容可能である。このため、例えば9月〜10月頃に海中から引き揚げて稚貝を採取する際に、残暑であったり海水温が高かったりした場合に、船上の水槽にコンパクトに収容して、1段ずつ優良な稚貝を選別して、その他の段は海水に漬けておくことができ、稚貝のへい死のリスクを低減できる。また、従来の採苗器を吊るす水深範囲は大きく、夏場に最適な温度の水深への移動はし難いが、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭は高さが2m程度なので、最適な温度の水深に移動させることが容易である。
【0034】
<ホタテの養殖方法>
次に、
図5のフローチャートを参照しながら、本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法の一例を説明する。なお、ここでは青森県陸奥湾でのホタテの養殖方法を例示するが、養殖を行う水域によって海水温や潮流、餌量等の自然条件が異なり、各作業の期間は前後にずれる(例えば、ホタテの産卵期は、青森陸奥湾では3月上旬〜5月中旬であるが、北海道北部では5月上旬〜6月中旬、北海道南部では4月上旬〜5月中旬、北海道東部の根室付近では6月上旬〜7月中旬である)。このため、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲内で、以下で説明する各作業期間や条件を、養殖を行う水域毎の自然条件等の個別の事情を考慮して調整することが必要なことは、当業者に自明であろう。
【0035】
図5のフローチャートにおいて、3月上旬〜6月中旬頃の期間T1に、採苗作業(第1の段階)を実施する。ここで、青森陸奥湾では例年3月上旬頃にラーバの出現情報が出るが、ラーバの出現情報が出て直ちに採苗作業を開始する。採苗作業では、海中生物及びゴミの付着を抑制する撥水性の防汚被膜が形成された編地の採苗器を海中に吊るすことにより、稚貝を付着させる。例えば、海中に幹綱を3本〜4本水平に渡し、幹綱1本当たり100本のロープを鉛直方向に下ろし、採苗器を1本のロープ当たり15袋程度吊るす。
【0036】
採苗作業で用いる採苗器は、
図6に示すように、ラーバを付着させる合成繊維や中古網(刺し網)からなる付着網42と、付着網42を収容する玉葱袋と呼ばれるポリエチレン製の網状の袋(玉葱袋)41とを備える。網状の袋41は、例えば幅40cm、高さ75cm程度である。網状の袋41には、ジメチルシリコーンを含むアクリル樹脂等からなる防汚塗料を塗布することにより、海中生物及びゴミの付着を抑制する厚さ1μm〜200μm程度の撥水性の防汚被膜が形成されている。このため、網状の袋41に海中生物やゴミが付着し難くすることができる。
【0037】
図5のフローチャートにおいて、6月中旬〜7月中旬頃の期間T2に、間引き作業(第2の段階)を実施する。間引き作業では、
図6に示した採苗器を陸揚げして、稚貝の付着数が過剰な場合には間引きするとともに、稚貝を捕食するヒトデやウミセミ等を駆除する。更に、間引き後の稚貝を陸上の蓄養水槽内の海水に浸し、気泡発生装置を用いて直径が数nm〜数十μm程度の微細な気泡(ナノ・マイクロバブル)を発生させて2時間〜1日程度、稚貝を活性化させることが好ましい。その後、稚貝を
図1に示した本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭(第1の篭)に移し替える。
【0038】
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の編地には、海中生物及びゴミの付着を抑制するジメチルシリコーンを含むアクリル樹脂等からなる撥水性の防汚被膜が形成されている。ここで、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の編地のうち、少なくとも側網2a〜2eに防汚被膜が形成されていればよく、蓋網20及び底網21〜25にも防汚被膜が形成されていることが好ましい。本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭の網目のサイズは1.0分〜2.0分(網目の1辺の長さが3.0mm〜6mm)程度である。
【0039】
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭に稚貝を入れる際には、
図4(a)に示すように、付着室11a〜11eに収納された付着網10a〜10eに稚貝を付着させる。そして、稚貝を入れた本発明の実施形態に係るホタテ用養殖を海中に投下し、稚貝を育成する。このとき、夏場を迎えたときの海水温の上昇を考慮して深場に吊るすことが好ましい。なお、上述したように採苗器として防汚被膜が形成された編地のものを用いることにより、従来よりも稚貝が大型化し易い。このため、稚貝の大型化に伴い餌料が不足しないように、期間T2における間引き作業を複数回に分けて実施してもよい。
【0040】
その後、7月中旬〜9月中旬の夏期は作業を中止し、気温及び海水温が低下してくる9月中旬まで吊るしたままにしておく(即ち、従来のような中間篭替作業は実施しない)。稚貝は殻長8mm〜10mm程度に成長すると付着力が弱まり付着網10a〜10eから外れて
図4(b)に示すように育成室12a〜12eに落下し、育成室12a〜12eにて育成する。
【0041】
図5のフローチャートにおいて、9月中旬〜10月中旬頃の期間T3,T4,T5に、複数回(3回)に分けて稚貝の採取作業(第3の段階)を順次実施する。稚貝の採取作業のそれぞれでは、
図1に示した本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭を引き揚げて、
図4(b)に示すように育成室12a〜12eから殻長20mm程度に成長した稚貝を採取する。そして、稚貝を陸上の蓄養水槽内の海水に浸し、気泡発生装置を用いて、微細な気泡(ナノ・マイクロバブル)を発生させて2時間〜1日程度、稚貝を活性化させることが好ましい。その後、
図1に示した本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭よりも網目のサイズが大きく、海中生物及びゴミの付着を抑制する撥水性の防汚被膜が形成された編地の丸篭(第2の篭)に移し替える。そして、稚貝を入れた丸篭を海中に吊るして稚貝を育成する。なお、
図5のフローチャートでは3回に分けて稚貝の採取作業を実施しているが、稚貝の採取作業は1回だけ実施してもよく、2回又は4回以上に分けて実施してもよい。
【0042】
期間T3,T4,T5の稚貝の採取作業で移し替える丸篭(第2の篭)は、
図7に示すように、例えば1連10段の育成室51a〜51jで構成されている。各育成室51a〜51jは、稚貝を育成する空間で構成されている。各育成室51a〜51jは、稚貝を乗せておく底網52b〜52kと、底網52b〜52kの側面を連続して覆う側網54a〜54jとをそれぞれ有する。最上段の育成室51aの上側には蓋網52aが配置されている。蓋網52aは支持枠53aに取り付けられている。底網52b〜52kは、支持枠53b〜53kに取り付けられている。支持枠53a〜53kは、
図1及び
図2に示した支持枠30〜40と同様の構成を有する。支持枠53a〜53kは、4本の吊下げ用ロープ55で連結されている。
【0043】
蓋網52a、底網52b〜52k及び側網54a〜54jは、例えば3.0分〜4.0分(菱形の網目の一辺の長さが9mm〜12mm)程度のラッセル網が使用可能である。蓋網52a、底網52b〜52k及び側網54a〜54jには、ジメチルシリコーンを含むアクリル樹脂塗料等からなる防汚塗料を塗布することにより海中生物及びゴミの付着を抑制する撥水性の防汚被膜が形成されている。このため、蓋網52a、底網52b〜52k及び側網54a〜54jへの海中生物やゴミの付着を抑制できる。なお、期間T3,T4,T5の稚貝の採取作業で移し替える第2の篭としては、丸篭の代わりに1連10段程度の座布団篭を用いてもよい。座布団篭の編地には、海中生物及びゴミの付着を抑制する撥水性の防汚被膜が形成されている。
【0044】
図5のフローチャートにおいて、初年度の12月上旬頃から出荷作業(第4の段階)を開始する。まず、初年度の産卵期(3月上旬〜5月中旬頃)の12月上旬〜12月下旬頃の期間T6に、
図7に示した丸篭の一部を水揚げし、産卵前のホタテ(以下、「ヴァージン貝」と称する)を出荷する。即ち、ヴァージン貝は、最初に採苗作業を開始してから、初年度の採苗作業の開始前に既に出荷が開始される。なお、ヴァージン貝は、12月下旬頃の抱卵前に出荷することが味や食感がより良好であり好ましい。更に、2年目の4月上旬〜7月頃の期間T7に、丸篭の一部を水揚げし、半成貝・新貝で出荷する。更に、2年目の7月初旬〜12月頃下旬の期間T8に、残りの丸篭を水揚げし、新貝・成貝で出荷する。即ち、新貝・成貝を2年目の産卵期前、より好ましくは抱卵前に出荷することで、味や食感がより良好となる。2年目の抱卵前の出荷は、ナノ・マイクロバブルで活性化させること等により可能となる。
【0045】
本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法によれば、防汚被膜が形成された編地の採苗器、丸篭、座布団篭を用いることや、陸上の蓄養水槽でナノ・マイクロバブルにより稚貝の活性化を行うことにより、稚貝を良好に早期に育成させることができる。このため、最終的な出荷を2年目で完了し、養殖期間を従来よりも6ヶ月〜7ヶ月程度短縮できるので、コストを大幅に削減できる。更に、採苗開始から1年経過する前に、産卵期前のホタテをヴァージン貝として出荷することも可能となり、味も食感も格別良好となる。
【0046】
また、青森県陸奥湾では例年3月上旬頃に稚貝(ラーバ)の出現情報が出るが、4月中及び5月中旬以降はキヌマトイガイの付着が多いこと等から、従来は4月以前から採苗作業を開始しても、ラーバが採苗器に適正な数だけ付着する前に海中生物が付着して採苗器が閉塞してしまい、ラーバ出現最大時に確実に必要なラーバを採苗できない。このため、
図38に示すようにラーバの出現情報が出てから間を空けて、4月中旬以降に採苗作業を開始している。これに対して、本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法によれば、防汚被膜が形成された編地の採苗器を用いることにより、キヌマトイガイ等の海中生物やゴミの付着を低減できる。このため、
図5に示すようにラーバ出現情報が出る3月上旬頃に直ちに採苗作業を実施しても、ラーバを適正な数だけ採苗できる。
【0047】
また、従来は
図38に示すように7月中旬〜8月中旬頃の期間t3に稚貝の採取作業を実施しているが、夏場であり気温及び海水温が高いため、深夜に船上で作業しているのが現状であり、作業者にとって過酷であり、一方で稚貝にも負荷を与えてしまいへい死のリスクも高まる。更には、本来は稚貝の採取作業を何度かに分けて優良稚貝を採取したいが、海の時化や好天続きで作業可能な時間が限られ、優良稚貝を確保することが困難である。
【0048】
これに対して、本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法によれば、
図5に示すように7月中旬には間引き作業を終えるので、7月中旬〜8月中旬頃の夏場の作業を回避できる。したがって、作業者にとって過酷な作業を回避できるとともに、稚貝のへい死率も低減できる。また、本発明の実施形態に係るホタテの養殖方法によれば、日中の作業も比較的容易であるので、複数回に分けて稚貝を採取可能であり、優良稚貝を容易に確保できる。更に、夏場には真鯛が採苗器の玉葱袋を破りホタテを捕食する場合があるが、丸篭であれば真鯛の捕食を誘発することを防止できる。
【0049】
なお、6月中旬〜7月中旬頃の期間T2に、
図1に示した本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭を用いる代わりに、海中生物及びゴミの付着を抑制する撥水性の防汚被膜が形成された編地の円錐形状の座布団篭(パールネット)や丸篭(行燈篭)を用いてもよい。また、9月中旬〜10月中旬頃の期間T3,T4,T5の3回に分けて稚貝を採取する場合を例示するが、少なくとも1回以上採取すればよい。即ち、稚貝を2回に分けて採取してもよく、4回以上に分けて採取してもよい。
【0050】
<第1の実施例>
本発明の実施形態に係るホタテ用養殖方法に用いる養殖篭(座布団篭)の第1の実施例を比較例とともに説明する。第1の実施例は、海中生物及びゴミの付着を防止する撥水性の防汚被膜が形成された1分(網目の一辺の長さが3mm)の座布団篭であり、1連10段で構成されている。第1の実施例の防汚被膜は、株式会社西海養殖技研製のシリコン使用の物理的海棲生物付着防止剤(商品名:セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプ)に編地を浸漬し、溶剤揮発臭がなくなるまで乾燥させることにより形成した。比較例は、防汚被膜が形成されていない1.5分(網目の一辺の長さが4.5mm)の座布団篭であり、1連10段で構成されている。平成26年9月29日に、第1の実施例及び比較例に1段当たり30枚の稚貝を収容して青森県陸奥湾久栗坂沖の海中に垂下し、平成27年5月19日に回収した。
【0051】
図8(a)に、第1の実施例及び比較例の1連10段当たりの付着物重量を示す。
図8(a)から、第1の実施例では2.92kg、比較例では9.47kgであり、第1の実施例では比較例よりも付着物重量が著しく低減し、海中生物やゴミの付着が低減できたことが分かる。
【0052】
図8(b)に、第1の実施例及び比較例のホタテのへい死率を示す。
図8(b)から、第1の実施例では、生貝が337枚、死貝が12枚であり、へい死率は3.4%であった。一方、比較例では、生貝が306枚、死貝が21枚であり、へい死率は6.4%であった。よって、第1の実施例では比較例よりもへい死率を低減できたことが分かる。
【0053】
図9(a)〜
図9(c)に、第1の実施例及び比較例のホタテの殻長、全重量、軟体部重量をそれぞれ示す。
図9(a)から、第1の実施例では殻長は70.2mmであり、比較例では殻長は64.8mmであり、第1の実施例では比較例よりも殻長が8%程度長く、良好に育成したことが分かる。
図9(b)から、第1の実施例ではホタテの全重量は41.9gであり、比較例ではホタテの全重量は31.2gであり、第1の実施例では比較例よりも全重量が34%程度増量し、良好に育成したことが分かる。
図9(c)から、第1の実施例では軟体部重量は16.8g、比較例では軟体部重量は12.1gであり、第1の実施例では比較例よりも軟体部重量が39%程度増量し、良好に育成したことが分かる。
【0054】
<第2の実施例>
また、第2の実施例として、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭(座布団篭)を用いて稚貝を試験的に養殖した。防汚被膜は、第1の実施例と同様に、株式会社西海養殖技研製のシリコン使用の物理的海棲生物付着防止剤(商品名:セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプ)に編地を浸漬し、溶剤揮発臭がなくなるまで乾燥させることにより形成した。平成26年7月下旬に本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭に稚貝を入れて青森県陸奥湾奥内沖の海中に吊るした。そして、平成26年10月〜平成26年12月に稚貝の分散作業を実施し、平成27年6月初旬に回収した。本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭(丸篭)は通算306日間海中に吊るされていた。回収後の30枚のホタテを評価したところ、全て生貝であり、平均殻長が70.72mm、全重量が37.95g、軟体部重量が15.38gであり、良好に育成できていた。
【0055】
<第3の実施例>
第3の実施例として、
図1及び
図2に示した本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭である防汚被膜が形成された丸篭10段を用いて、青森県奥内沖のホタテ養殖海域で試験的に養殖を行った。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。平成27年6月に、付着網10a〜10eを1回間引きし、5段の付着室11a〜11eに付着網10a〜10eを1枚ずつ吊り下げることにより、5段の付着室11a〜11e及び5段の育成室12a〜12eが交互に設けられ、付着室11a〜11eに付着網10a〜10eが収容された構造とした。平成27年12月に水揚げし、採苗状態を調べた結果を表1及び表2に示す。
【0058】
表1は、各付着室11a〜11eの付着網10a〜10eに付着した稚貝数を殻長で分けて示す。表2は、各育成室12a〜12eに落下した稚貝数を殻長で分けて示す。表1及び表2から、10mm以上の稚貝が、へい死も殆ど無く夏越しして順調に成長していることが分かる。平成27年の夏期は海水温が高めに推移したことから、12月まで延長して養殖したが、6ヶ月間という長期の飼育にも関わらず、へい死が殆ど無かった。この結果から、水温が20℃前後になったら、大きな稚貝を順次採苗することにより、優良種苗を早期に採苗することが考えられる。
【0059】
<第4の実施例>
第4の実施例として、防汚被膜が形成された1.0分、10段の座布団篭を用いて稚貝を試験的に養殖した。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。第4の実施例に1段約30枚ずつ、10段で合計308枚の30mmの稚貝を入れて、青森県むつ市近川の海中で、平成27年9月〜平成28年5月19日の期間で養殖した。また、第4の実施例に対する比較例として、防汚被膜が形成されていない1.5分、10段の座布団篭を用いて、第4の実施例と同様の稚貝数(1段約30枚ずつ、10段で合計312枚)、場所、期間で養殖した。
【0060】
図10に、水揚げされた第4の実施例に係る座布団篭、水揚げされた比較例に係る座布団篭及び使用前の座布団篭の写真を示し、更に
図11に第4の実施例に係る座布団篭の写真、
図12に比較例に係る座布団篭の写真を示す(「シリコン処理」が第4の実施例に相当し、「無処理」が比較例に相当する)。
図10〜
図12から、比較例に係る座布団篭に対して、第4の実施例に係る座布団篭では付着物が大幅に少ないことが分かる。第4の実施例及び比較例の付着物量(湿重量)、枚数、へい死数、ホタテの総重量、1枚当たりのホタテの重量の測定結果を表3に示す。
【0062】
表3に示すように、付着物量(湿重量)は、第4の実施例では8.0kg、比較例では9.2kgとなり、比較例が1.2kg(15%)重かった。へい死数は、第4の実施例及び比較例のいずれも0枚であった。ホタテの総重量は、第4の実施例では15.1kg、比較例では12.1kgとなり、第4の実施例が3kg(26.38%)重かった。1枚当たりのホタテの重量は、第4の実施例では38.8g、比較例では49gとなり、第4の実施例が10.2g(26.28%)重かった。第4の実施例で回収されたホタテ貝の内訳を表4に示し、比較例で回収されたホタテ貝の内訳を表5に示す。
【0065】
表4及び表5において、1枚当たりの軟体部の重量及び割合は、各サイズで無作為に選んだ10枚を計量してその平均値を算出した。軟体部の全重量は、各サイズの1枚当たりの軟体部の重量に枚数を掛けることにより算出した。軟体部の総重量は、第4の実施例では7.56kg、比較例では5.01kgとなり、第4の実施例が2.55kg(50.8%)重かった。また、比較例では55mm以下のホタテ貝が有ったが、第4の実施例では55mm以下のホタテ貝は無かった。また、第4の実施例が、殻長の大きいホタテ貝の割合が高かった。
【0066】
<第5の実施例>
第5の実施例A,Bとして、防汚被膜が形成された1.0分、10段の座布団篭を2連用いて稚貝を試験的に養殖した。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。第5の実施例A,Bに1段30枚ずつ、30mmの稚貝を入れて、青森県横浜町の海中で、平成27年9月〜平成28年5月19日の期間で養殖した。また、第5の実施例A,Bに対する比較例A,Bとして、防汚被膜が形成されていない1.5分、10段の座布団篭を2連用いて、第5の実施例A,Bと同様の稚貝数、期間、場所で養殖した。第5の実施例A,B及び比較例A,Bの篭重量(湿重量)、枚数、へい死数、ホタテの総重量の測定結果を表6に示す。
【0068】
表6に示すように、篭重量(湿重量)は、第5の実施例Aでは6.7kg、第5の実施例Bでは6.3kg、比較例Aでは12.95kg、比較例Bでは13.8kgとなり、第5の実施例A,Bに対して、比較例A,Bの付着物量が平均で6.88kg重かった。なお、比較例A,Bでは、33mm程度の赤ざら稚貝が大量に付着していた。へい死数は、第5の実施例Aでは2枚(殻長58mm)、比較例Aでは2枚(殻長58mm)であった。ホタテの総重量は、第5の実施例Aでは15.15kg、第5の実施例Bでは16.2kg、比較例Aでは14.8kg、比較例Bでは15.95kgとなり、比較例A,Bに対して第5の実施例A,Bが平均で0.305kg重かった。第5の実施例Aで回収されたホタテ貝の内訳を表7に示し、比較例Aで回収されたホタテ貝の内訳を表8に示す。
【0071】
表7及び表8において、1枚当たりのホタテの重量及び軟体部の重量は、各サイズで無作為に選ばれた10枚のホタテの重量及び軟体部の重量を計量して、10枚の平均値をそれぞれ算出した。また、各サイズのホタテの全重量及び軟体部の全重量は、1枚当たりのホタテの重量及び軟体部の重量に各サイズの枚数を掛けることでそれぞれ算出した。1枚当たりのホタテの重量は、第5の実施例Aでは40g、比較例Aでは35.16gとなり、第5の実施例Aが13.7%重かった。1枚当たりの軟体部の重量は、第5の実施例Aでは15.55g、比較例Aでは14.59gとなり、第5の実施例Aが0.96g(6.6%)重かった。軟体部の総重量は、第5の実施例Aでは5.24kg、比較例Aでは4.32kgとなり、比較例Aに対して第5の実施例Aが0.92kg(21%)重かった。
【0072】
<第6の実施例>
第6の実施例A,Bとして、防汚被膜が形成された1.0分、10段の座布団篭を2連用いて稚貝を試験的に養殖した。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。第6の実施例に1段30枚ずつ、30mmの稚貝を入れて、青森県野辺地町馬門地区の海中で、平成27年9月〜平成28年5月19日の期間で養殖した。また、第6の実施例A,Bに対する比較例A,Bとして、防汚被膜が形成されていない1.5分、10段の座布団篭を2連用いて、第6の実施例と同様の稚貝数、場所、期間で養殖した。第6の実施例A,B及び比較例A,Bの篭重量(湿重量)、ホタテの総重量の測定結果を表9に示す。
【0074】
表9に示すように、篭重量(湿重量)は、第6の実施例Aでは6.0kg、第6の実施例Bでは6.6kg、比較例Aでは12.5kg、比較例Bでは13.6kgとなり、第6の実施例A,Bに対して比較例A,Bの付着物量が平均で6.75kg重かった。ホタテの総重量は、第6の実施例Aでは15.3kg、第6の実施例Bでは16.0kg、比較例Aでは17.5kg、比較例Bでは17.2kgとなり、比較例A,Bが多いかと思われたが、ホタテの総重量は、篭から出したホタテ及び付着物を纏めて計量した値であり、比較例A,Bではホタテ以外の貝や付着物が大量に含まれていた。比較例A,Bでは、ムラサキ貝(カラス貝)が大量に入っており、ホタテがムラサキ貝にくっつき、
図13に示すように変形貝となっていた。変形貝は56枚であり、60mm以下、特に50mm前後のサイズで多かった。変形貝の計量値を表10に示す。
【0076】
表10に基づき、比較例A,Bでのホタテの総重量の減産量は840gであり、実際のホタテの総重量は第6の実施例A,Bの方が重かった。第6の実施例Bで回収されたホタテ貝の内訳を表11に示し、比較例Aで回収されたホタテ貝の内訳を表12に示し、第6の実施例Bで回収された変形貝の内訳を表13に示す。
【0080】
へい死数は、第6の実施例Bでは1枚、比較例Aでは2枚であった。1枚当たりの重量は、第6の実施例Bでは45.6g、比較例Aでは45.6gとなり両者が一致した。1枚当たりの軟体部の重量は、第6の実施例Bでは19.68g、比較例Aでは16.20gとなり、第6の実施例Bが21.5%重かった。軟体部の全重量は、第6の実施例Bでは6.162kg、比較例Aでは4.859kgとなり、第6の実施例Bが1.303kg(27%)重かった。
【0081】
<第7の実施例>
第7の実施例として、防汚被膜が形成された3.0分、6段の座布団篭を1連用いて稚貝を試験的に養殖した。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。第7の実施例に30mmの稚貝を1篭6枚ずつ入れて、青森県清水川の海中で、平成27年11月15日〜平成28年5月19日の期間で養殖した。平成28年5月19日に水揚げ後、第7の実施例で回収されたホタテ貝の内訳を表14に示す。
【0083】
なお、第7の実施例では、平成28年4月頃までは付着物は無かったが、平成28年5月頃にキヌマトイガイ(コメガキ)が付着した。
【0084】
<第8の実施例>
第8の実施例として、防汚被膜が形成された4段の座布団篭を平成27年9月5日〜平成28年5月19日の期間でむつ市近川沖の海中に吊るした。比較例として、防汚被膜が形成されていない4段の座布団篭を、第8の実施例と同様の場所、期間で吊るした。その後、平成28年5月19日に水揚げし、付着物の種類を観察した。
【0085】
第8の実施例に係る座布団篭では、付着物の湿重量は1050gであり、1ネット当たり260gである。
図14及び
図15に示すように、第8の実施例に係る座布団篭では、付着物が比較的少ない。
図16に示すように、第8の実施例に係る座布団篭では、キヌマトイガイ(コメガキ)とワレカラが優先して付着しており、両者がネットに密集することによって塊を形成して繊維表面に乗っており、振動を与えると比較的容易に落下する。このため、第8の実施例に係る座布団篭は容易に洗浄して再利用可能となる。
【0086】
第8の実施例に係る座布団篭の繊維構造の電子顕微鏡による観察結果を
図17〜
図24に示す。
図17、
図18、
図21、
図22に示すように、第8の実施例に係る座布団篭の繊維表面は滑らかである。
図19、
図20、
図23、
図24に示すように、第8の実施例に係る座布団篭の繊維表面には付着珪藻は殆ど付いていないことが分かる。
【0087】
一方、比較例に係る座布団篭では、付着物の湿重量は1550gであり、1ネット当たり520gと、第8の実施例よりも重かった。
図25に示すように、比較例に係る座布団篭には多くの付着物が付着していた。
図26及び
図27に示すように、キヌマトイガイや多毛類、ヒドロ虫、ワレカラ、ネンエキボヤ等の多種類の海中生物が多量に付着しており、特にカンザシゴカイ等の多毛類が多量に付着していた。白い管は多毛類の棲管であり、付着力が強く、高圧洗浄等の強力な洗浄でも外すのが難しい。
【0088】
比較例に係る座布団篭の繊維構造の電子顕微鏡による観察結果を
図28〜
図35に示す。
図28、
図29、
図32、
図33に示すように、比較例に係る座布団篭の繊維表面は滑らかでなく、ざらついている。
図30、
図31、
図34、
図35に示すように、比較例に係る座布団篭の繊維表面には付着珪藻が多量に付いているのが観察された。
【0089】
<第9の実施例>
第9の実施例A,Bとして、防汚被膜が形成された1.0分、10段の座布団篭を用いて稚貝を試験的に養殖した。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。第9の実施例A,Bのそれぞれに1段30枚ずつ、30mmの稚貝を入れて、青森県脇野沢蛸田地区の海中で、平成27年10月〜平成28年6月21日の期間で養殖した。また、比較例として、防汚被膜が形成されていない1.5分、8段の重り無しの座布団篭を用いて、第9の実施例A,Bと同様の稚貝数、場所、期間で養殖した。第9の実施例A,B及び比較例の付着物量(湿重量)、へい死数、ホタテの総重量の測定結果を表15に示す。
【0091】
付着物量(湿重量)は、第9の実施例Aでは5.27kg、第9の実施例Bでは5.11kg、比較例では4.18kgとなり、第9の実施例A,Bに対して比較例の付着物量が平均6.75kg多かった。へい死数は、第9の実施例Aでは1枚、第9の実施例Bでは0枚、比較例では20枚であった。ホタテの総重量は、第9の実施例Aでは13.92kg、第9の実施例Bでは14.92kg、比較例では9.89kgとなり、第9の実施例A,Bが重かった。第9の実施例Bのホタテ貝の内訳を表16に示し、比較例のホタテ貝の内訳を表17に示す。
【0094】
1枚当たりの重量は、第9の実施例では56.45g、比較例では30.7kgとなり、第9の実施例が25.75g(83%)重かった。1枚当たりの軟体部の重量は、第9の実施例Bでは23.6gとなり、比較例では10.9gとなり、第9の実施例Bが12.7g(116%)重かった。
【0095】
<第10の実施例>
第10の実施例A,Bとして、防汚被膜が形成された1.0分、10段の座布団篭を2連用いて稚貝を試験的に養殖した。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。第10の実施例A,Bに係るホタテ用養殖篭に1段30枚ずつ、30mmの稚貝を入れて、青森県脇野沢桂沢地区の海中において、平成27年10月〜平成28年6月21日の期間で養殖した。また、比較例A,Bとして、防汚被膜が形成されていない1.5分、8段の座布団篭を用いて、第10の実施例A,Bと同様の稚貝数、場所、期間で養殖した。第10の実施例A,B及び比較例A,Bの付着物量(湿重量)、へい死数、ホタテの総重量の測定結果を表18に示す。
【0097】
表18に示すように、付着物量は、第10の実施例Aでは6.29kg、第10の実施例Bでは5.69kg、比較例Aでは4.79kg、比較例Bでは4.3kgとなり、第10の実施例A,Bに対して比較例A,Bの付着物量が平均6.75kg多かった。へい死数は、第10の実施例Aでは29枚、第10の実施例Bでは13枚、比較例Aでは31枚であった。ホタテの総重量は、第10の実施例Aでは12.39kg、第10の実施例Bでは12.65kg、比較例Aでは8.46kg、比較例Bでは10.0kgであった。第10の実施例Aのホタテ貝の内訳を表19に示し、比較例のホタテ貝の内訳を表20に示す。
【0100】
1枚当たりの重量は、第10の実施例Aでは44.69g、比較例では32.1kgとなり、第10の実施例Aが39%程度増加した。1枚当たりの軟体部の重量は、第10の実施例Aでは20.79g、比較例では13.0gとなり、第10の実施例Aが7.79g(59%)重かった。軟体部の全重量は、篭の目合い、段数、収容枚数、篭重りの有無等の条件が異なるため、参考値としてであるが、第10の実施例Aでは4.49kg、比較例では2.53kgとなり、第10の実施例Aが1.96kg(100%)重かった。
【0101】
<第11の実施例>
第11の実施例として、防汚被膜が形成された1.0分、13段の座布団篭を用いて稚貝を試験的に養殖した。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。第11の実施例に1段当たり17〜18枚、30mmの稚貝を入れて、青森県外ヶ浜町蟹田塩城地区の海中において、平成27年11月〜平成28年6月30日の期間で養殖した。また、比較例として、防汚被膜が形成されていない4.0分、13段の座布団篭を用いて1段当たり19.3枚、30mmの稚貝を入れて、第11の実施例と同様の稚貝数、場所、期間で養殖した。第11の実施例及び比較例の付着物量(湿重量)、へい死数、ホタテの水揚げ時の総重量、ホタテの計量時の総重量の測定結果を表21に示す。
【0103】
第11の実施例及び比較例は網目及び収容数が異なるが、付着物量(湿重量)は、第11の実施例では4.6kg、比較例では5.54kgとなり、比較例に係る座布団篭の付着物量が多かった。へい死数は、第11の実施例では15枚、比較例では14枚となり、第11の実施例が収容数が多いにも関わらず、へい死数が2.1%少なかった。ホタテの水揚げ時の総重量は、第11の実施例では21.6kg、比較例では16.98kgとなった。ホタテの計量時の総重量は、第11の実施例では18.92kg、比較例では16.3kgとなり、第11の実施例が2.62kg(16%)重かった。第11の実施例のホタテ貝の内訳を表22に示し、比較例のホタテ貝の内訳を表23に示す。
【0106】
1枚当たりの重量は、第11の実施例では55.03g、比較例では51.03gとなり、第11の実施例が46g(7.8%)重かった。1枚当たりの軟体部の重量は、第11の実施例では24.0g、比較例では26.2gとなり、比較例が2.2g(8.4%)重かった。青森県外ヶ浜町は、潮流が早く、付着物が最も多い海域であり、従来は1.0分篭は付着物で閉塞するとともに成長も見込めないため、4.0分篭でなければいけないというのが漁業者の一般常識であった。これに対して、第11の実施例によれば、あえて1.0分篭を用いたところ、良好な結果が得られた。
【0107】
<第12の実施例>
第12の実施例として、ナノ・マイクロバブルによる稚貝の活性化試験を行った。平成27年6月に、85mm、65gの半成貝を水槽に入れてナノ・マイクロバブルによる活性化を2時間行った後、防汚被膜が形成された3分、10段の丸篭を用いて、1篭に10枚〜12枚ずつ入れて、合計120枚を青森県奥内地区の海中で養殖した。防汚被膜は、セイフティプロシリーズ網篭浸漬タイプに編地を浸漬することにより形成した。その後、平成28年5月13日に水揚げした。第12の実施例で回収されたホタテ貝の内訳を表24に示す。
【0109】
生存貝は107枚であり、合計重量は23.6kg、1枚当たりの平均重量は220gであった。へい死数は13枚であり、その内訳は殻長9cmが3枚、殻長11cmが3枚、殻長12cmが7枚であった。殻長は平均11.56cmで、殻長12cm以上が61枚(51%)であった。殻長12cmの重量は通常190gとされているが、第12の実施例によれば殻長12cmの重量が250gと32%重かった。
【0110】
以上、第1の実施例〜第12の実施例について説明したが、青森県陸奥湾は、全国88海湾の中でも閉鎖性が高く、年換水率20%〜30%で3ヶ月に1回海水が入れ替わり、夏期の高温時は高水温が続く。このため、従来は、2夏期時にそれぞれ30〜35%のホタテがへい死しており、2夏期を経て70%ものホタテがへい死していた。よって、青森県陸奥湾は成貝養殖に不向きと考えられ、半成貝養殖が主流で、単価が安く、離職者が増える原因となっていた。
【0111】
これに対して、第1の実施例〜第12の実施例によれば、平成27年6月〜平成28年5月に半成貝を試験的に養殖した結果、へい死数は10.8%に留まり、殆どの成貝が夏越しできていた。そして、成貝サイズが12cm以上に成長し、2年で成貝をヴァージン貝として出荷可能となった。また、陸奥湾内の各所で平成27年9月〜平成28年5月に半成貝を養殖した結果、へい死数は略0であり、しかも比較例に対して平均30%の増量が見られた。したがって、陸奥湾においても、2年間の養殖期間での成貝養殖を良好に行うことが可能となり、年間を通じて販売商品に応じたサイズのホタテを一定量安定して出荷できるため、養殖業者は安定した収入を確保できる。例えば、一般に成貝が市場に出回らない時期にも出荷可能となり、出荷時期やサイズを選べるため収入増が見込める。更に、第1の実施例〜第12の実施例によれば、各比較例に対して付着物量が大幅に抑制できており、篭替作業や篭洗浄作業等の重労働が軽減されるとともに、経費も削減できる。このように、本発明は青森県陸奥湾のホタテ養殖事業において顕著な効果を奏するとともに、シリコン処理された採苗器やホタテ用養殖篭の使用により陸奥湾の底質改善にも寄与するものである。
【0112】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0113】
例えば、本発明の実施形態においては、
図1及び
図2に示すように、育成ユニット1a〜1eを構成する付着室11a〜11e及び育成室12a〜12eが、支持枠30〜40により互いに区画されている1連10段の構造を例示したが、
図36に示すように、育成ユニット1a〜1e間を仕切る支持枠32,34,36,38,40のみが配置され、
図1及び
図2に示した支持枠31,33,35,37,39が無い構成であってもよい。
【0114】
また、本発明の実施形態においては、
図3に示すように支持枠30が環状の支持部30a及び十字状の支持部30b,30cからなる構造を例示したが、これに特に限定されない。例えば、
図37(a)に示すように、支持枠30が環状の支持部のみから構成されていてもよく、他の支持枠31〜40も同様である。
【0115】
また、
図1及び
図2に示した付着網10a〜10eは必ずしも蓋網20及び底網21〜24に括り付けられる必要はなく、付着網10a〜10eが付着室11a〜11eから育成室12a〜12eへ落下しない構造であればよい。例えば、付着室11a〜11eと育成室12a〜12eとを仕切る支持枠31,33,35,37,39の十字状の支持部で落下を防止してもよい。また、
図37(b)に示すように、付着室11aと育成室12aとを仕切る支持枠31に、付着室11aに収納された付着網10aは育成室12aに落下させず、稚貝は落下可能な程度の開口部を有するドーナツ状の網31xが取り付けられていてもよい。
【0116】
また、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭において、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eがラッセル網で構成された場合を例示したが、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eの編地は特に限定されず、蛙又網等の種々の編地が使用可能である。また、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eの網目のサイズが1.5分(菱形の網目の1辺の長さが4.5mm)である場合を例示したが、網目のサイズは用途に応じて適宜選択可能である。
【0117】
また、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eの素材、編地及び網目のサイズ等は互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。更に、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eに形成される防汚被膜の種類は互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0118】
また、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭としては、5つの育成ユニット1a〜1eを有する構造を例示したが、これに限定されず、少なくとも1つの育成ユニットを有していればよい。例えば、10個の育成ユニット1a〜1eを上下に連ねた構造であってもよい。
【0119】
また、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭は、少なくとも蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eに防汚被膜が形成されていることが好ましい。本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭は、少なくとも側網2a〜2eに防汚被膜が形成されていれば、各育成ユニット1a〜1eの側面に海中生物及びゴミが付着し難くなるので、各育成ユニット1a〜1e内の海水中の酸素濃度及び餌料量の減少を抑制可能である。更に、本発明の実施形態に係るホタテ用養殖篭を覆うように被せ網を被せてもよく、この被せ網の編地にも防汚被膜が形成されていてもよい。
【課題】成長に必要な十分な酸素濃度及び餌料量が実現でき、ホタテを従来よりへい死も少なく大きな貝に育成できるとともに、採苗器・養殖篭等の交換・洗浄に要する労力とコストを削減でき、採苗器・養殖篭等の洗浄汚水による水質環境の悪化を抑制可能とするホタテ用養殖篭を提供する。
【解決手段】ホタテの稚貝を付着させる付着網10a〜10eが収納された第1空間が構成する付着室11a〜11eと、第1空間の下に連続して配置された第2空間であって、付着網10a〜10eから落下した稚貝を受け止める底網21〜25を有する育成室12a〜12eと、付着室11a〜11eと育成室12a〜12eの側面を連続して覆う側網2a〜2eとを備える育成ユニット1a〜1eを上下に複数個連続し、最上段の育成ユニット1aの上側に蓋網20を配置し、蓋網20、底網21〜25及び側網2a〜2eに海中生物及びゴミの付着を抑制する防汚被膜が形成されている。