(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0010】
カム溝を備え、回転可能なカムと、
前記カム溝と係合するカムフォロアを複数備え、前記カムの回転に伴って回転する回転部材と、を有するカム装置であって、
前記カム溝は、複数の前記カムフォロアのうちの少なくとも一のカムフォロアが前記カム溝の一側面に当たっている第一溝部と、複数の前記カムフォロアのうちの少なくとも一のカムフォロアが前記カム溝の前記一側面とは反対側の他側面に当たっている第二溝部と、前記第一溝部と前記第二溝部とを繋いでいる第三溝部であって、該第三溝部に位置するカムフォロアが前記一側面及び前記他側面のいずれとも当たっていない第三溝部と、を備え、
前記カム溝は、
前記カムの回転角度を横軸、前記回転部材の中心から見たときの前記カムフォロアが位置する角度位置を縦軸としたときのタイミング線図において、前記第一溝部及び前記第二溝部に対応する部分がいずれも直線区間となり、かつ、前記第三溝部に対応する部分が二つの前記直線区間を繋ぐ曲線区間となるような形状を備えることを特徴とするカム装置。
かかる場合には、精度が高いカム装置が実現される。
【0011】
また、前記カムは、ローラーギヤカムであることとしてもよい。
かかる場合には、軸間距離を動かして与圧調整を行う必要がなく回転部材の回転精度の悪化という問題が生じず、かつ、バックラッシの発生も適切に防止される。
【0012】
また、前記カムは、バレルカムであることとしてもよい。
かかる場合には、バックラッシの発生が適切に防止される。
【0013】
また、前記回転部材の外周に設けられた外周溝に対向する対向円周溝が形成された外輪部と、前記外周溝と前記対向円周溝との間に設けられ、該外周溝及び該対向円周溝と接触して転動する複数の転動体と、を有し、前記外輪部は、前記対向円周溝の上側部分が形成されている上側外輪部と前記対向円周溝の下側部分が形成されている下側外輪部の二部材に分割され、前記上側外輪部と前記下側外輪部とを締付けるための締付け部材をさらに備える軸受けであって、
前記外輪部には、前記回転部材の径方向において前記締め付け部材よりも外側に、前記外輪部が前記転動体へ与える与圧を調整するための調整ネジが設けられている軸受けを有することとしてもよい。
かかる場合には、与圧調整作業が簡易なものとなる。
【0014】
===カム装置10の構成例について===
ここでは、カム装置10の構成例について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、カム装置10の上面図及び側面図である。
【0015】
カム装置10は、モーター(不図示)により回転駆動されるカムの一例としてのローラーギヤカム20と、回転部材の一例としての回転テーブル40と、を備えている。
【0016】
ローラーギヤカム20は、カム溝22を備え、一対の転がり軸受30により、ハウジング32に対して回転可能(回転自在)に支持されている。ローラーギヤカム20には、その一端側において、不図示のモーターが締結されており、当該モーターの駆動力によりローラーギヤカム20が回転駆動されるようになっている。なお、ローラーギヤカム20には、入力軸34が一体的に設けられている。
【0017】
回転テーブル40は、例えば、被加工物を保持する役割を有する。この回転テーブル40は、軸受けの一例としての四点接触玉軸受50により、ハウジング32に対して回転可能(回転自在)に支持されている。当該回転テーブル40の下面側には、円筒状のターレット40aが垂下され、ターレット40aの外周面の下部には、周方向に沿って等間隔に配置された複数のカムフォロア42が設けられている(つまり、回転テーブル40は、カムフォロア42を放射状に複数備えている)。このカムフォロア42は、前述したローラーギヤカム20のカム溝22と係合しており(カム溝22に噛み合っており)、前記モーターの回転力が、ローラーギヤカム20及びカムフォロア42を介して、回転テーブル40に伝わるようになっている。すなわち、回転テーブル40はローラーギヤカム20の回転に伴って回転する。
【0018】
===本実施の形態に係るローラーギヤカム20のカム溝22の形状について===
次に、本実施の形態に係るローラーギヤカム20のカム溝22の形状について説明する。
【0019】
なお、以下では、先ず、
図2及び
図3を用いて従来例に係るローラーギヤカム20のカム溝22の形状について説明し、
図4を用いて当該従来例に係るローラーギヤカム20の問題点について説明する。そして、これに引き続いて、本実施の形態に係るローラーギヤカム20のカム溝22の形状について
図5乃至
図7を用いて説明し、本実施の形態に係るローラーギヤカム20の有効性について説明する。
【0020】
図2は、従来例に係るローラーギヤカム20がカムフォロア42に係合している様子を示した図である。左図(すなわち、左上図及び左下図)は、設計における係合の様子を表した状態図であり、右図(すなわち、右上図及び右下図)は、与圧調整後(これについては、後に説明する)の係合の様子を表した状態図である。
【0021】
先ず、設計における係合の様子が表された左図に着目する。当該左図においては、5つのカムフォロア42(1〜5の番号が振られている)が、同時に、ローラーギヤカム20のカム溝22に係合している。また、左下図に示すように、カムフォロア42のカムフォロア径dは、カム溝22のカム溝巾Dよりも小さくなっており、5つのカムフォロア42のいずれもカム溝22の側面24に接触していない。すなわち、5つのカムフォロア42のいずれについても、カム溝22の側面24との間に隙間80を有している。
【0022】
図3は、ローラーギヤカム20の回転角度を横軸(x軸)、回転テーブル40の中心40bから見たときのカムフォロア42が位置する角度位置を縦軸(y軸)としたときの、従来例に係る(
図2に対応した)タイミング線図である。
【0023】
図3に示されるように、当該タイミング線図において、カム溝22に対応する部分(具体的には、
図3において、カム溝22の二つの側面24のy軸方向における中央値を結んだ線)は、一つの直線区間となっている。なお、カム溝22の二つの側面24のy軸方向における中央値について一例を挙げて説明すると、x軸の座標がx1であった場合の二つの側面24のy座標をy1、y2としたときに、中央値ycは(y1+y2)/2である(
図3に示した3つの座標参照)。
【0024】
換言すれば、カム溝22の二つの側面24の各々に対応する部分は、一側面24aに対応する部分及び当該一側面24aとは反対側の他側面24bに対応する部分のいずれも、一つの直線区間となっている(カム溝22のカム溝巾Dは、カム溝22のいずれの場所においても同様となるように設計されているため、一側面24aと他側面24bとは平行になっている)。
【0025】
そして、当該
図3からも明らかなように、いずれのカムフォロア42も、カム溝22の一側面24a及び他側面24bのいずれとも接触していない。
【0026】
なお、カム溝22に係る変位(すなわち、x座標の値の変遷に対する中央値ycの変遷を模式的に表したもの)と、その一回微分値(つまり、カム溝22に係る速度)と、その一回微分値(つまり、カム溝22に係る加速度)も、合わせて
図3(の下部)に表している。また、所謂理論変位についても、
図3に表している。理論変位は、各カムフォロア42の中心を結んだ線と一致し、さらに、前記中央線を結んだ線と一致している。
【0027】
図2の左図及び
図3を用いて上記で説明したように、従来は、カムフォロア42がカム溝22の側面24と接触しないようにカム装置10が設計されていた。しかしながら、かかる状態では、所謂バックラッシが発生するため、従来、カム装置10の製造の際には、バックラッシの発生を防止すべく、以下に説明する与圧調整作業が行われていた。
【0028】
すなわち、
図2の左図と右図を比較することにより明らかな通り、ローラーギヤカム20を回転テーブル40側へ(
図2において、上方向へ)押し付けることにより、右下図に示すように、カムフォロア42をカム溝22の側面24に接触させ、カムフォロア42に適度な与圧がかかるようにしていた。すなわちローラーギヤカム20と回転テーブル40の軸間距離を近づけることにより、与圧の調整を行っていた。
【0029】
しかしながら、
図2の左図に示したカム装置10の設計状態から、ローラーギヤカム20を半ば強引に動かしているため、ローラーギヤカム20の回転に伴って回転する回転テーブル40の回転精度に悪影響が出てしまっていた(
図4参照。なお、当該回転精度の悪化は、非常に微小なもので、従来はあまり問題とされていなかった。しかしながら、昨今のカム装置10に対する非常に厳しい精度要求を考慮すると、当該回転精度の悪化が問題とされるようになってきたと言うことができる)。
【0030】
かかる悪影響について、さらに詳しく説明する。
図2の左図に示したカム装置10の設計状態から、ローラーギヤカム20を回転テーブル40側へ(
図2において、上方向へ)押すと、やがてカムフォロア42がカム溝22の側面24に接触するが、
図2から理解できるように、先ず、5つのカムフォロア42のうち1番と5番のカムフォロア42が当該側面24に接触する(なお、このときには、2番〜4番のカムフォロア42は側面24に接触していない)。すなわち、1番と5番のカムフォロア42に、先ず、与圧が発生する。
【0031】
次に、この状態から、ローラーギヤカム20を回転テーブル40側へさらに押すと、やがて2番と4番のカムフォロア42も側面24に接触し、
図2の右図の状態となる。すなわち、2番と4番のカムフォロア42にも与圧が発生するが、その一方で、1番と5番のカムフォロア42は、さらに強い力で側面24に押し付けられ、これらのカムフォロア42の与圧はさらに大きくなる(1番と5番のカムフォロア42の与圧>2番と4番のカムフォロア42の与圧)
すなわち、従来においては、バックラッシの発生を適切に防止させるために、1番、2番、4番、5番のカムフォロア42のいずれにも与圧を発生させようとすると、1番と5番のカムフォロア42の与圧が過度に大きくなってしまっていた(過度に大きくなることを避けられなかった)。
【0032】
そして、当該過度な与圧が前述した回転精度に係る悪影響を生じさせていた。すなわち、5番のカムフォロア42は、ローラーギヤカム20が回転すると、与圧が過度にかかった(非常に与圧が大きい)状態から、いきなりカム溝22から外れ、与圧フリーな状態となる。また、逆に、1番のカムフォロア42は、与圧フリーな状態から非常に与圧が大きい状態へと瞬間的に変化する。そして、これらの大きな状態変化が、回転テーブル40の回転誤差が生ずる原因となっていた。
【0033】
そこで、当該問題を解決するために、本実施の形態においては、ローラーギヤカム20のカム溝22の形状を以下のようにすることとした。
【0034】
図5は、
図2に対応した図であり、本実施の形態に係るローラーギヤカム20がカムフォロア42に係合している様子を示した図である。本実施の形態においては、軸間距離を動かして与圧調整を行うことはないので、
図2のような左図、右図の別はない。
【0035】
本実施の形態においても、従来例と同様、5つのカムフォロア42(1〜5の番号が振られている)が、同時に、ローラーギヤカム20のカム溝22に係合しており、カムフォロア42のカムフォロア径dは、カム溝22のカム溝巾Dよりも小さくなっている。また、
図2の右図(与圧調整後の従来例)と同様、カムフォロア42がカム溝22に接触している(後述するように、接触の仕方も与圧調整後の従来例と同様である)。
【0036】
具体的には、1番と2番のカムフォロア42は、カム溝22の前記一側面24aと接触する一方で前記他側面24bと接触していない(他側面24bとの間に隙間80を有している)。また、4番と5番のカムフォロア42は、逆に、他側面24bと接触する一方で一側面24aと接触していない(一側面24aとの間に隙間80を有している。なお、隙間80の大きさは、他側面24bとの間の隙間80の大きさと同じとなっている)。したがって、1番と2番のカムフォロア42と、4番と5番のカムフォロア42とは、回転方向が逆になる。一方で、3番のカムフォロア42は、一側面24a及び他側面24bの双方と接触していない。
【0037】
図6は、
図3に対応した図であり、ローラーギヤカム20の回転角度を横軸(x軸)、回転テーブル40の中心40bから見たときのカムフォロア42が位置する角度位置を縦軸(y軸)としたときの、本実施の形態に係る(
図5に対応した)タイミング線図である。
【0038】
図6からも明らかなように、また、前述したとおり、1番と2番のカムフォロア42は、2つの側面24のうちの一側面24aのみに接触し、4番と5番のカムフォロア42は、2つの側面24のうちの他側面24bのみに接触し、3番のカムフォロア42はいずれの側面24も接触していない。
【0039】
換言すれば、本実施の形態に係るカム溝22は、複数のカムフォロア42のうちの少なくとも一のカムフォロア42(本実施の形態においては、2つのカムフォロア42)がカム溝22の一側面24aに当たっている第一溝部22aと、複数のカムフォロア42のうちの少なくとも一のカムフォロア42(本実施の形態においては、2つのカムフォロア42)がカム溝22の他側面24bに当たっている第二溝部22bと、第一溝部22aと第二溝部22bとを繋いでいる第三溝部22cであって、該第三溝部22cに位置するカムフォロア42が一側面24a及び他側面24bのいずれとも当たっていない第三溝部22cと、を備えている。
【0040】
そして、当該カム溝22は、前述した従来例とは異なり、タイミング線図において、第一溝部22a及び第二溝部22bに対応する部分(前述した中央値を結んだ線)がいずれも直線区間となり、かつ、第三溝部22cに対応する部分が二つの前記直線区間を繋ぐ曲線区間となるような形状を備えている。
【0041】
すなわち、本実施の形態においては、
図6から明らかなように、カム溝22に対応する部分を、全て直線区間とするのではなく、最初から(カム装置10の設計状態から)、一側面24aにカムフォロア42を当てて与圧を発生させるために用意された直線区間(与圧区間に対応している)と他側面24bにカムフォロア42を当てて与圧を発生させるために用意された直線区間(与圧区間に対応している)と与圧がかかっている当該カムフォロア42を一方の直線区間から他方の直線区間へスムーズに移行させるために用意された与圧がかからない繋ぎの曲線区間(カムフォロアの外輪の回転方向切り換え区間、つまり、緩衝区間に対応している)とした。
【0042】
したがって、従来例のように軸間距離を動かして与圧調整を行う必要がなく回転テーブル40の回転精度の悪化という問題が生じず、かつ、バックラッシの発生も適切に防止される。
【0043】
なお、
図6には、
図3と同様、カム溝22に係る変位と、その一回微分値(つまり、カム溝22に係る速度)と、その一回微分値(つまり、カム溝22に係る加速度)も、合わせて表している。速度を見ると明らかなように、第一溝部22a及び第二溝部22bに対応する部分が直線区間に、第三溝部22cに対応する部分が曲線区間(なお、曲線の形状は、
図6の例に限定されるものではない)となっている。
【0044】
また、前記理論変位についても、
図3と同様、
図6に表している。
図6から明らかなように、本実施の形態においては、曲線区間が存在するのにもかかわらず、理論変位が、各カムフォロア42の中心を結んだ線と一致するようになっている(換言すれば、カムフォロア42の中心位置が理論変位から外れないようにカム溝22を創成している)。
【0045】
すなわち、1番と2番のカムフォロア42に対応する第一の与圧区間においては、カム溝22の中心線を、理論変位の線から、(D−d)/2+aの寸法だけオフセットしている(aは、与圧量を表す)。一方で、4番と5番のカムフォロア42に対応する第二の与圧区間においては、カム溝22の中心線を、理論変位の線から、反対方向に(D−d)/2+aの寸法だけオフセットしている。そして、緩衝区間においては、当該オフセットを考慮して、第一の与圧区間と第二の与圧区間とを、曲線を用いて繋いでいる(結んでいる)。このようにして、カムフォロア42の中心位置が理論変位とすべての区間で一致するように、カム溝22を創成している。
【0046】
そして、このように、カムフォロア42の中心位置が理論変位から外れないようにすることにより、誤差要因を少なくすることができ、高い回転精度を実現することができる。これは、ローラーギヤカム20を回転テーブル40側へ押して与圧調整を行う前述した従来例とは対照的である(この例では、バックラッシの除去はできるが、カムフォロア42の中心位置が理論位置から外れるために、回転伝達の誤差が生じることとなる)。
【0047】
また、上記においては、2つのカムフォロア42が一側面24aに当たっている第一溝部22aと2つのカムフォロア42が他側面24bに当たっている第二溝部22bとを有するカム溝22を例に挙げて説明したが、
図7に示すように、1つのカムフォロア42が一側面24aに当たっている第一溝部22aと1つのカムフォロア42が他側面24bに当たっている第二溝部22bとを有するカム溝22であってもよい。
【0048】
===本実施の形態に係る四点接触玉軸受50について===
次に、本実施の形態に係る四点接触玉軸受50について説明する。
なお、以下では、先ず、
図8を用いて従来例に係る四点接触玉軸受50について説明し、当該従来例に係る四点接触玉軸受50の問題点について説明する。そして、これに引き続いて、本実施の形態に係る四点接触玉軸受50について
図9乃至
図11を用いて説明し、本実施の形態に係る四点接触玉軸受50の有効性について説明する。
【0049】
図8は、従来例に係る一般的な四点接触玉軸受50を示した図である。
この四点接触玉軸受50は、外周溝の一例としての内輪部溝102が外周に形成された環状の内輪部100と、当該内輪部溝102に対向する対向円周溝の一例としての外輪部溝54が形成された環状の外輪部52と、内輪部溝102と外輪部溝54との間に設けられ、当該内輪部溝102及び外輪部溝54と4点(すなわち、二つの内輪接点102a、102bと二つの外輪接点54a、54b)で接触して転動する複数の玉状の転動体56と、当該転動体56を保持するための保持器58と、を有している。そして、外輪部52が上側外輪部52aと下側外輪部52bの二部材に分割されている。
【0050】
そして、当該四点接触玉軸受50においては、外輪部52が二部材に分割されていることを利用して、外輪部52が転動体56へ与える与圧を調整する与圧調整作業が行われていた。例えば、
図8に示されているように、上側外輪部52aと下側外輪部52bの間に環状の間座104(すなわち、スペーサー)を挿入し、挿入する当該間座104の厚みを調整することにより、与圧の調整を行っていた。また、間座104を挿入しない状態で与圧が低すぎる場合には、上側外輪部52aと下側外輪部52bの合わせ面を直接削り、与圧を高める調整を行っていた。
【0051】
しかしながら、かかる場合には、以下の不都合が生じていた。すなわち、間座104を用いた調整を行う場合においても合わせ面を削る調整を行う場合においても、調整の際には、上側外輪部52aや下側外輪部52bを一度四点接触玉軸受50から外し、再度組み立てを行う工程が必要となり、調整作業が煩雑なものとなっていた。また、再組立後の再実現がばらつくため、精度管理上の問題も生じていた。
【0052】
そこで、当該問題を解決するために、本実施の形態においては、四点接触玉軸受50の構成を以下のようにすることとした。
【0053】
図9は、本実施の形態に係る四点接触玉軸受50の側面模式図である。
この四点接触玉軸受50は、従来例に係る四点接触玉軸受50と同様、外周溝44に対向する対向円周溝の一例としての外輪部溝54が形成された環状の外輪部52と、外周溝44と外輪部溝54との間に設けられ、当該外周溝44及び外輪部溝54と4点(すなわち、二つの外周溝接点44a、44bと二つの外輪接点54a、54b)で接触して転動する複数の玉状の転動体56と、当該転動体56を保持するための保持器58と、を有している。しかしながら、従来例に係る四点接触玉軸受50とは異なり、内輪部は設けられておらず、外周溝44は、回転テーブル40の外周に設けられている(当該外周に直接形成されている)。
【0054】
外輪部52は、外輪部溝54の上側部分54cが形成されている上側外輪部52aと、外輪部溝54の下側部分54dが形成されている下側外輪部52bの二部材に分割されている。そして、これらの二部材は、上下方向に沿うように双方の部材に跨って設けられた締付け部材の一例としての締め付けボルト62により締付けられている。
【0055】
また、回転テーブル40の径方向において締め付けボルト62よりも外側には、取り付けボルト64と調整ネジの一例としての与圧調整ネジ60が備えられている。
【0056】
取り付けボルト64は、四点接触玉軸受50をハウジング32に取り付けるためのものである。この取り付けボルト64は、上下方向に沿うように外輪部52とハウジング32とに跨って設けられており、外輪部52をハウジング32に固定している。
【0057】
与圧調整ネジ60は、外輪部52が転動体56へ与える与圧を調整するためのものである。この与圧調整ネジ60は、上下方向に沿うように上側外輪部52aと下側外輪部52bとに跨って設けられている。
【0058】
図10は、与圧調整ネジ60による与圧調整を説明するための説明模式図である。
与圧調整ネジ60が締付けられると、上側外輪部52aは、締め付けボルト62による接合面62aを支点として僅かに変位する(
図10において、変位した後の上側外輪部52aを点線で示す)。すなわち、上側外輪部52aの外側上部52cは浮き上がる一方で、外輪部溝54を形成する溝形成面52dは、転動体56側に傾斜することとなる(すなわち、上側外輪部52aの外周には引張り応力が作用し、上側外輪部52aの形状が変形しながら、溝形成面52dが縮径する)。そして、このような上側外輪部52aの応力変形により、転動体56へ与えられる与圧が大きくなる。一方で、与圧調整ネジ60が緩められると、上側外輪部52aの動きは逆の動きとなり、与圧は小さくなる。なお、これらの変形の挙動は、ダイヤフラムスプリングの変形に伴う応力の挙動に類似している。与圧調整ネジ60の締め付け力に対しての変形は、コイルスプリングのような線形ではなく、いわゆる非線形の変形となる。
【0059】
上述した従来例においては、調整の際には、上側外輪部52aや下側外輪部52bを一度四点接触玉軸受50から外し、再度組み立てを行う工程が必要となり、調整作業が煩雑化していたが、本実施の形態に係る与圧調整ネジ60によれば、上側外輪部52aや下側外輪部52bを取り外すことなく与圧調整作業を行うことができる。そのため、与圧調整作業が簡易なものとなる。
【0060】
図11は、本実施の形態に係る四点接触玉軸受50の上面模式図である。
図11に示されているように、与圧調整ネジ60、締め付けボルト62、取り付けボルト64は、それぞれ、外輪部52の周方向に沿って、等ピッチで複数設けられている。そして、前述したとおり、取り付けボルト64及び与圧調整ネジ60は、前記径方向において締め付けボルト62よりも外側に位置しており、また、取り付けボルト64と与圧調整ネジ60は、径方向において、略同じ位置に位置している。
【0061】
また、与圧調整ネジ60は、与圧調整機能だけではなく、回転テーブル40の軸心(中心40b)のずれを補正する機能も備えている。例えば、
図11において、ラインLよりも上側の与圧調整ネジ60の締め付け力を下側の与圧調整ネジ60の締め付け力よりも大きくすることとすれば(締め付けについて意図的に差をもたせれば)、上側と下側の応力変形の程度の相違により、前記軸心が下方向へ僅かに移動する。したがって、前記軸心が設計上の位置よりも少しずれているときに、与圧調整ネジ60を用いて、前記軸心を設計上の位置へ持っていくことができる。
【0062】
===第二実施形態に係るカム装置10について===
上記においては、カム装置10として、ローラーギヤカム20を備えたカム装置10を例に挙げて、特徴的なカム溝22の形状及び特徴的な四点接触玉軸受50について説明した。しかしながら、当該特徴的なカム溝22の形状及び特徴的な四点接触玉軸受50が設けられるのは、ローラーギヤカム20を備えたカム装置10に限定されるものではない。ここでは、第二実施形態に係るカム装置10としてバレルカム21を備えたカム装置10を挙げて説明する。
【0063】
図12は、第二実施形態に係るカム装置10の上面図及び側面図である。
カム装置10は、モーター(不図示)により回転駆動されるカムの一例としてのバレルカム21と、回転部材の一例としての回転テーブル40と、を備えている。
【0064】
バレルカム21は、カム溝22を備え、一対の転がり軸受30により、ハウジング32に対して回転可能(回転自在)に支持されている。バレルカム21には、その一端側において、不図示のモーターが締結されており、当該モーターの駆動力によりバレルカム21が回転駆動されるようになっている。なお、バレルカム21には、入力軸34が一体的に設けられている。
【0065】
回転テーブル40は、例えば、被加工物を保持する役割を有する。この回転テーブル40は、軸受けの一例としての四点接触玉軸受50により、ハウジング32に対して回転可能(回転自在)に支持されている。当該回転テーブル40の下面側には、円筒状のターレット40aが垂下され、ターレット40aの下面には、周方向に沿って等間隔に配置された複数のカムフォロア42が設けられている(つまり、カムフォロア42は、その回転軸方向が回転テーブル40の回転軸方向と平行となるように、周方向に沿って等間隔に配置されている)。このカムフォロア42は、前述したバレルカム21のカム溝22と係合しており(カム溝22に噛み合っており)、前記モーターの回転力が、バレルカム21及びカムフォロア42を介して、回転テーブル40に伝わるようになっている。すなわち、回転テーブル40はバレルカム21の回転に伴って回転する。
【0066】
<<<第二実施形態に係るバレルカム21のカム溝22の形状について>>>
次に、第二実施形態に係るバレルカム21のカム溝22の形状について説明する。
なお、以下では、先ず、
図13及び
図14を用いて従来例に係るバレルカム21のカム溝22の形状について説明し、当該従来例に係るバレルカム21の問題点について説明する。そして、これに引き続いて、本実施の形態に係るバレルカム21のカム溝22の形状について
図15及び
図16を用いて説明し、本実施の形態に係るバレルカム21の有効性について説明する。
【0067】
図13は、従来例に係るバレルカム21がカムフォロア42に係合している様子を示した図であり、
図13の左図は、設計における係合の様子を表した状態図である。当該左図においては、3つのカムフォロア42(1〜3の番号が振られている)が、同時に、バレルカム21のカム溝22に係合している。また、カムフォロア42のカムフォロア径dは、カム溝22のカム溝巾Dよりも小さくなっており、3つのカムフォロア42のいずれもカム溝22の側面24に接触していない。すなわち、3つのカムフォロア42のいずれについても、カム溝22の側面24との間に隙間80を有している。
【0068】
図14は、バレルカム21の回転角度を横軸(x軸)、回転テーブル40の中心40bから見たときのカムフォロア42が位置する角度位置を縦軸(y軸)としたときの、従来例に係る(
図13に対応した)タイミング線図である。
【0069】
図14に示されるように、当該タイミング線図において、カム溝22に対応する部分(具体的には、
図14において、カム溝22の二つの側面24のy軸方向における中央値を結んだ線)は、一つの直線区間となっている。
【0070】
換言すれば、カム溝22の二つの側面24の各々に対応する部分は、一側面24aに対応する部分及び当該一側面24aとは反対側の他側面24bに対応する部分のいずれも、一つの直線区間となっている(カム溝22のカム溝巾Dは、カム溝22のいずれの場所においても同様となるように設計されているため、一側面24aと他側面24bとは平行になっている)。
【0071】
そして、当該
図14からも明らかなように、いずれのカムフォロア42も、カム溝22の一側面24a及び他側面24bのいずれとも接触していない。
【0072】
ここで、ローラーギヤカム20が備えられたカム装置10の前述した実施形態(第一実施形態とも呼ぶ)においては、バックラッシの発生を防止するために、ローラーギヤカム20を回転テーブル40側へ押し付ける与圧調整作業が行われていたことについて説明したが、バレルカム21が備えられた当該カム装置10においては、バレルカム21を回転テーブル40側へ押し付けたとしても、バックラッシの発生を防止することはできない(この点で、第一実施形態とは異なっている)。すなわち、
図13の右図に示すように、仮に、バレルカム21を回転テーブル40側へ押し付けてカムフォロア42がカム溝22の側面24に接触したとしても、3つのカムフォロア42のいずれもが同じ側の側面24に接触するので、第一実施形態のように、バックラッシの発生を防止することはできない。したがって、第二実施形態(バレルカム21が備えられたカム装置10)における従来例の問題は、当該バックラッシが発生することである。
【0073】
そして、当該問題を解決するために、第二実施形態においては、バレルカム21のカム溝22の形状を、第一実施形態と同様の形状としている。
【0074】
図15は、
図13に対応した図であり、第二実施形態に係るバレルカム21がカムフォロア42に係合している様子を示した図である。
【0075】
第二実施形態においても、従来例と同様、3つのカムフォロア42(1〜3の番号が振られている)が、同時に、バレルカム21のカム溝22に係合しており、カムフォロア42のカムフォロア径dは、カム溝22のカム溝巾Dよりも小さくなっている。
【0076】
また、カムフォロア42は、カム溝22に接触している。具体的には、1番のカムフォロア42は、カム溝22の前記一側面24aと接触する一方で前記他側面24bと接触していない(他側面24bとの間に隙間80を有している)。また、3番のカムフォロア42は、逆に、他側面24bと接触する一方で一側面24aと接触していない(一側面24aとの間に隙間80を有している)。したがって、1番のカムフォロア42と、3番のカムフォロア42とは、回転方向が逆になる。一方で、2番のカムフォロア42は、一側面24a及び他側面24bの双方と接触していない。
【0077】
図16は、
図14に対応した図であり、バレルカム21の回転角度を横軸(x軸)、回転テーブル40の中心40bから見たときのカムフォロア42が位置する角度位置を縦軸(y軸)としたときの、第二実施形態に係る(
図15に対応した)タイミング線図である。
【0078】
図16からも明らかなように、また、前述したとおり、1番のカムフォロア42は、2つの側面24のうちの一側面24aのみに接触し、3番のカムフォロア42は、2つの側面24のうちの他側面24bのみに接触し、2番のカムフォロア42はいずれの側面24も接触していない。
【0079】
換言すれば、本実施の形態に係るカム溝22は、複数のカムフォロア42のうちの少なくとも一のカムフォロア42(本実施の形態においては、1つのカムフォロア42)がカム溝22の一側面24aに当たっている第一溝部22aと、複数のカムフォロア42のうちの少なくとも一のカムフォロア42(本実施の形態においては、1つのカムフォロア42)がカム溝22の他側面24bに当たっている第二溝部22bと、第一溝部22aと第二溝部22bとを繋いでいる第三溝部22cであって、該第三溝部22cに位置するカムフォロア42が一側面24a及び他側面24bのいずれとも当たっていない第三溝部22cと、を備えている。
【0080】
そして、当該カム溝22は、前述した従来例とは異なり、タイミング線図において、第一溝部22a及び第二溝部22bに対応する部分(前述した中央値を結んだ線)がいずれも直線区間となり、かつ、第三溝部22cに対応する部分が二つの前記直線区間を繋ぐ曲線区間となるような形状を備えている。
【0081】
すなわち、本実施の形態においては、
図16から明らかなように、カム溝22に対応する部分を、全て直線区間とするのではなく、一側面24aにカムフォロア42を当てて与圧を発生させるために用意された直線区間(与圧区間に対応している)と他側面24bにカムフォロア42を当てて与圧を発生させるために用意された直線区間(与圧区間に対応している)と与圧がかかっている当該カムフォロア42を一方の直線区間から他方の直線区間へスムーズに移行させるために用意された与圧がかからない繋ぎの曲線区間(カムフォロアの外輪の回転方向切り換え区間、つまり、緩衝区間に対応している)とした。
【0082】
したがって、従来例において問題となっていたバックラッシの発生が適切に防止されることとなる。
【0083】
<<<第二実施形態に係るカム装置10における四点接触玉軸受50について>>>
図12の下図に示されているように、第二実施形態に係るバレルカム21を備えたカム装置10にも、第一実施形態(
図1)と同様の四点接触玉軸受50を設けることができる。そのため、第二実施形態に係るバレルカム21を備えたカム装置10においても、与圧調整ネジ60を設けることによる前述したメリットを享受することが可能となる。
【0084】
===上記実施形態(第一、第二実施形態)に係るカム装置10の有効性について===
上記実施形態に係るカム装置10は、カム溝22を備え、回転可能なカムと、カム溝22と係合するカムフォロア42を複数備え、カムの回転に伴って回転する回転テーブル40と、を有している。そして、カム溝22は、複数のカムフォロア42のうちの少なくとも一のカムフォロア42がカム溝22の一側面24aに当たっている第一溝部22aと、複数のカムフォロア42のうちの少なくとも一のカムフォロア42がカム溝22の一側面24aとは反対側の他側面24bに当たっている第二溝部22bと、第一溝部22aと第二溝部22bとを繋いでいる第三溝部22cであって、該第三溝部22cに位置するカムフォロア42が一側面24a及び他側面24bのいずれとも当たっていない第三溝部22cと、を備え、カム溝22は、カムの回転角度を横軸、回転テーブル40の中心から見たときのカムフォロア42が位置する角度位置を縦軸としたときのタイミング線図において、第一溝部22a及び第二溝部22bに対応する部分がいずれも直線区間となり、かつ、第三溝部22cに対応する部分が二つの前記直線区間を繋ぐ曲線区間となるような形状を備えている。
【0085】
そのため、前述したとおり、軸間距離を動かして与圧調整を行う必要がなく回転テーブル40の回転精度の悪化という問題が生じない(第一実施形態)。また、バックラッシの発生も適切に防止される(第一実施形態及び第二実施形態)。すなわち、カム装置10の精度が向上することとなる。
【0086】
===その他の実施の形態===
以上、上記実施の形態に基づき本発明に係るカム装置を説明したが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【0087】
上記実施の形態においては、
図11に示したように、取り付けボルト64と与圧調整ネジ60は、径方向において、略同じ位置に位置していることとしたが、これに限定されるものではない。例えば、
図17に示すように、取り付けボルト64が、前記径方向において与圧調整ネジ60よりも外側に位置していることとしてもよい。
【0088】
また、
図17の例では、取り付けボルト64が、下側外輪部52bの方をハウジング32に固定しているが、これに限定されるものではなく、
図18に示すように、上側外輪部52aの方をハウジング32に固定するようにしてもよい。そして、
図18の例では、図に点線で示したように、与圧調整ネジ60による与圧調整により、
図17の例とは異なり、下側外輪部52bの方が変位することになる。そして、このような下側外輪部52bを変位させることによっても、転動体56へ与えられる与圧の大きさを変化させることができる。
【0089】
また、上記実施の形態においては、軸受けとして四点接触玉軸受50を例に挙げて説明したがこれに限定されるものではなく、転がり軸受け等他のあらゆる軸受けに適用できる。例えば、
図19乃至
図22に示すように、クロスローラー軸受51であってもよい。なお、
図19は、
図9に対応した図であり、クロスローラー軸受51の側面図である。
図20は、
図10に対応した図であり、与圧調整ネジ60による与圧調整を説明するための説明図である。
図21は、
図17に対応した図であり、与圧調整ネジ60による与圧調整を説明するための説明図である。
図22は、
図18に対応した図であり、与圧調整ネジ60による与圧調整を説明するための説明図である。