特許第6074766号(P6074766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許60747663,5−ジピリジルフェニル誘導体、それよりなる電子輸送材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074766
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】3,5−ジピリジルフェニル誘導体、それよりなる電子輸送材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/53 20060101AFI20170130BHJP
   C07D 405/14 20060101ALI20170130BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170130BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C07D213/53CSP
   C07D405/14
   H05B33/22 B
   H05B33/14 A
   C09K11/06 690
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-29048(P2013-29048)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-156441(P2014-156441A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構、地域卓越研究者戦略的結集プログラム「先端有機エレクトロニクス国際研究拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
(72)【発明者】
【氏名】笹部 久宏
(72)【発明者】
【氏名】石葉 雅俊
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−173940(JP,A)
【文献】 特開2008−127326(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/157779(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101597255(CN,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0001274(KR,A)
【文献】 特表2011−522800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C09K 11/00
H01L 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記式で表される3,5−ジピリジルフェニル誘導体。
【化1】
【請求項2】
記式で表される3,5−ジピリジルフェニル誘導体。
【化2】
【請求項3】
請求項1又は2に記載の3,5−ジピリジルフェニル誘導体よりなることを特徴とする
電子輸送材料。
【請求項4】
一対の電極間に少なくとも1層の有機層が積層されてなる有機エレクトロルミネッセン
ス素子であって、請求項1又は2に記載の3,5−ジピリジルフェニル誘導体を含む層を
備えていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な3,5−ジピリジルフェニル誘導体、それよりなる電子輸送材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、電流注入型の自己発光素子であり、高視野角、高コントラスト、極薄構造、低電圧駆動及び高速な応答速度等の特長を有することから、次世代のフラットパネルディスプレイとして注目されており、近年、盛んに研究開発が行われている。
有機EL素子は、一部の製品で実用化が始まっているが、大型ディスプレイや照明分野への応用のためには、素子のさらなる高効率化が最重要課題の一つである。特に、高色純度かつ高効率で白色発光を実現するためには、青色有機EL素子の高効率化及び長寿命化が重要な課題となっている。
【0003】
この課題を解決するために、従来の蛍光素子と比較して4倍の高効率化が可能なリン光有機EL素子が注目されている。このため、リン光有機EL素子に用いる電子輸送材料の研究は極めて重要となっている。
【0004】
従来の電子輸送材料は、電子輸送特性を向上させるため、一般に、π共役系を拡大した分子構造を有していた(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、リン光有機EL素子の電子輸送材料には、外部量子効率向上の観点から、高い電子輸送特性はもちろん、さらに、エネルギー閉じ込めの観点から、高い三重項エネルギーを有すること、また、低電圧駆動のために、深いLUMOを持ち、キャリア注入輸送性やホールブロック性等の多くの機能を有することが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C. Adachi,et al., Applied Physics Letters , 2001, Vol.79, No.13, p.2082-2084
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの特性を同時に発現させることは非常に困難である。電子輸送材料の特性の向上は、特に、青色リン光有機EL素子の高効率化を図る上で大きな役割を果たすものであり、このような電子輸送材料の分子設計指針を見出すことが求められる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、電子輸送特性を発現させつつ、高い三重項エネルギーを維持し、電子注入性、ホールブロック性及び熱特性にも優れ、高効率なリン光有機EL素子に有用な新規の3,5−ジピリジルフェニル誘導体、それよりなる電子輸送材料及びそれを用いた有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、下記式で表される。
【0009】
【化1】
【0010】
上記のような構造からなる3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、高い電子輸送特性、高い三重項エネルギーを有し、かつ、電子注入性、ホールブロック性及び熱特性にも優れている。
【0011】
また、本発明に係る他の態様の3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、下記式で表される。
【0012】
【化3】
【0013】
このような構造からなる3,5−ジピリジルフェニル誘導体も、上記式で表される3,5−ジピリジルフェニル誘導体と同様の優れた特性を有している。
【0014】
また、本発明によれば、前記3,5−ジピリジルフェニル誘導体よりなる電子輸送材料が提供される。
【0015】
また、本発明に係る有機EL素子は、一対の電極間に少なくとも1層の有機層が積層されてなる有機EL素子であって、前記3,5−ジピリジルフェニル誘導体を含む層を備えていることを特徴とする。
このように、本発明に係る3,5−ジピリジルフェニル誘導体を用いることにより、高効率な有機EL素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る新規な3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、高い電子輸送特性、高い三重項エネルギーを有し、かつ、電子注入性、ホールブロック性及び熱特性にも優れており、リン光有機EL素子、特に青色リン光有機EL素子の電子輸送材料として好適である。
したがって、本発明に係る3,5−ジピリジルフェニル誘導体を用いることにより、高効率な有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例に係る有機EL素子の層構造を模式的に示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、前記一般式(1)で表される化合物である。
前記式(1)中、Xは、前記(化2)に示した置換基の群から選ばれた基である。また、R1〜R15及びR16〜R23は、水素、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルコキシキ基、及び、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。
このような3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、新規化合物であり、高い電子輸送特性、高い三重項エネルギーを有し、かつ、電子注入性、ホールブロック性及び熱特性にも優れており、電子輸送材料として好適に用いることができる。
【0019】
前記一般式(1)で表される化合物のうち、具体的には、下記に示すようなものが好ましい。
【0020】
【化4】
【0021】
公知の3,5−ジピリジルフェニル誘導体である下記(化5)に示すB4PyPPBは、LUMOの電子雲が、中心のビフェニル部位に存在しないため、これが電子輸送の妨げとなると考えられる。そこで、中心骨格にも電子輸送可能とするために、中心のビフェニル部位を他の部位により置換することを検討した。
【0022】
【化5】
【0023】
その一案として、ビフェニル部位をピリジン部位に置換することが考えられたが、この化合物は、結晶化しやすく、有機EL材料としては不向きであった。そこで、ピリジンと同等のLUMOを持つ置換基を検討し、密度汎関数理論(DFT)計算から、ジベンゾフラン(LUMO 1.41eV)が深いLUMOを有していることを見出した。このため、ジベンゾフランの2,8位に3,5−ジピリジルフェニルを導入した、上記(化4)に示したようなBPyDBF類は電子輸送材料として好適な化合物であると言える。
このようなBPyDBF類は、ジベンゾフラン部位による電子輸送性の向上及びπ共役系拡大の抑制による高い三重項エネルギーの維持を可能とするものである。
【0024】
また、本発明に係る他の態様の3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、上記一般式(2)で表される化合物である。
前記式(2)中、ピリジン環の結合点は、少なくともいずれか1つは異なる。また、R24〜R31は、水素、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルコキシキ基、及び、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。
このような構造からなる3,5−ジピリジルフェニル誘導体も、上記式(1)で表される3,5−ジピリジルフェニル誘導体と同様の優れた特性を有している。
【0025】
前記一般式(2)で表される化合物のうち、具体的には、下記(化6)に示すBcPyPBが好ましい。
【0026】
【化6】
【0027】
BcPyPBは、3,5−ジピリジルフェニルにおいて3位と4位のピリジンを複合的に置換させることにより、結晶化を抑制することができ、さらに、すべて3位のピリジンで置換した、下記(化7)に示すB3PyPBよりも深いLUMOを有しており、高い三重項エネルギーを有しているのみならず、高い電子注入性を可能とするものである。
【0028】
【化7】
【0029】
上記のような本発明に係る3,5−ジピリジルフェニル誘導体の合成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、下記実施例に示すような方法により合成することするができる。
【0030】
上記のような3,5−ジピリジルフェニル誘導体を含む層を備えた本発明に係る有機EL素子は、一対の電極間に少なくとも1層の有機層が積層された構造からなる。具体的な層構造としては、陽極/発光層/陰極、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、陽極/ホール注入輸送層/ホール輸送層/発光層/ホール阻止層/電子輸送層/陰極等の構造が挙げられる。
さらに、ホール注入層、ホール輸送発光層、電子輸送発光層等をも含む公知の積層構造であってもよい。
また、本発明に係る有機EL素子は、1つの発光層を含む発光ユニットが電荷発生層を介して直列式に複数段積層されてなるマルチフォトンエミッション構造の素子であってもよい。
【0031】
前記有機EL素子において、本発明に係る3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、有機EL材料として前記有機層のいずれに用いられてもよいが、特に、電子輸送材料として好適に用いることができ、リン光有機EL素子の発光効率の向上を図ることができる。
【0032】
なお、前記有機EL素子においては、本発明に係る3,5−ジピリジルフェニル誘導体以外の各層の構成材料は、特に限定されるものではなく、公知のものから適宜選択して用いることができ、低分子系又は高分子系のいずれであってもよい。
前記各層の膜厚は、各層同士の適応性や求められる全体の層厚さ等を考慮して、適宜状況に応じて定められるが、通常、5nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
上記各層の形成方法は、蒸着法、スパッタリング法等などのドライブプロセスでも、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等のウェットプロセスであってもよい。
【0034】
また、電極も、公知の材料及び構成でよく、特に限定されるものではない。例えば、ガラスやポリマーからなる透明基板上に透明導電性薄膜が形成されたものが用いられ、ガラス基板に陽極として酸化インジウム錫(ITO)電極が形成された、いわゆるITO基板が一般的である。一方、陰極は、Al等の仕事関数の小さい(4eV以下)金属や合金、導電性化合物により構成される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
下記合成例1〜4に示す各工程により、本発明に係る3,5−ジピリジルフェニル誘導体の代表例としてB3PyDBF、B4PyDBF、B2PyDBF及びBcPyPBを合成した。なお、各工程における目的物の同定は、1H−NMR、マススペクトル、元素分析にて行った。また、合成した各3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、昇華精製装置にて昇華精製した。
【0036】
(合成例1)B3PyDBFの合成
以下のような工程により前駆体を合成後、対応するピリジンボロン酸エステルとの反応により、B3PyDBFを合成した。
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
(合成例2)B4PyDBFの合成
上記合成例1と同様に前駆体3,5−BDCPDBFを合成後、対応するピリジンボロン酸エステルとの反応により、B4PyDBFを合成した。
【0040】
【化10】
【0041】
(合成例3)B2PyDBFの合成
上記合成例1と同様に前駆体3,5−BDCPDBFを合成後、テトラホウ素体とした後、2−ブロモピリジンとの反応により、B2PyDBFを合成した。
【0042】
【化11】
【0043】
(合成例4)BcPyPBの合成
3−ブロモ−5−クロロヨードベンゼンと3−ピリジンホウ素酸エステルをカップリングさせた後、ベンゼンの1,3位に二量化させ、4−ピリジンホウ素酸エステルとの鈴木カップリングを利用して、BcPyPBを合成した。
【0044】
【化12】
【0045】
(熱特性評価)
上記において合成した各3,5−ジピリジルフェニル誘導体について、TGA及びDSCにより、融点Tm及び熱分解温度Tdを測定した。
その結果、上記において合成した各3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、いずれも融点が300℃以上、熱分解温度が450℃以上であり、B3PyPB(Tm:264℃、Td:439℃)と比較して、より優れた耐熱性を有することが認められた。
【0046】
(リン光スペクトル測定)
上記において合成した各3,5−ジピリジルフェニル誘導体について、3,5−ジピリジルフェニル誘導体:10wt%Ir(ppz)3の共蒸着膜のリン光スペクトル測定を行い、スペクトルの立ち上がりから三重項エネルギーを見積もった。
その結果、いずれの誘導体も2.7eV以上の三重項エネルギーを示し、青色リン光発光材料での十分な三重項励起子閉じ込めが可能であることが認められた。
なお、Ir(ppz)3の構造を下記に示す。
【0047】
【化13】
【0048】
(素子評価)
上記において合成した各3,5−ジピリジルフェニル誘導体を電子輸送材料として電子輸送層を構成し、青色リン光材料であるFIrpicをドープした発光層を有する有機EL素子を作製した。素子構成は、その概要を図1に示すように、基板1/陽極2/ホール輸送層3/発光層4/電子輸送層5/電子注入層6/陰極7とした。具体的には、ITO/TAPC(20nm)/mCP:11wt%FIrpic(10nm)/3,5−ジピリジルフェニル誘導体(50nm)/LiF(0.5nm)/Alとした。
なお、TAPC、mCP及びFIrpicの各化合物の構造を下記に示す。
【0049】
【化14】
【0050】
作製した各素子は、いずれも、良好な青色リン光発光が認められた。
【0051】
上記評価結果から、本実施例において合成した3,5−ジピリジルフェニル誘導体は、耐熱性に優れ、高い三重項エネルギーを持つため、電子輸送材料として用いることにより、青色リン光材料を効率よく発光させることができ、高効率な有機EL素子を提供可能であることが期待される。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 陽極
3 ホール輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 電子注入層
7 陰極
図1