特許第6074804号(P6074804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人海上技術安全研究所の特許一覧

<>
  • 特許6074804-波風中抵抗増加軽減装置及び船舶 図000002
  • 特許6074804-波風中抵抗増加軽減装置及び船舶 図000003
  • 特許6074804-波風中抵抗増加軽減装置及び船舶 図000004
  • 特許6074804-波風中抵抗増加軽減装置及び船舶 図000005
  • 特許6074804-波風中抵抗増加軽減装置及び船舶 図000006
  • 特許6074804-波風中抵抗増加軽減装置及び船舶 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074804
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】波風中抵抗増加軽減装置及び船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/40 20060101AFI20170130BHJP
   B63B 1/32 20060101ALI20170130BHJP
   B63B 1/06 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   B63B1/40 Z
   B63B1/32 Z
   B63B1/06 Z
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-64866(P2013-64866)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189098(P2014-189098A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100111006
【弁理士】
【氏名又は名称】藤江 和典
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】枌原 直人
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−298159(JP,A)
【文献】 実開昭54−095796(JP,U)
【文献】 特開2004−136780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/06
B63B 1/32
B63B 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の周囲に流れる風を前記船体の船首近傍における航行時の水位上昇部に作用させる水位上昇抑制手段を備え、波風中における前記船体の抵抗増加を軽減したことを特徴とする波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項2】
前記水位上昇抑制手段を、風向を変えて前記水位上昇部に作用させるフィン型手段とし、前記フィン型手段を前記船体の船首部に設けたことを特徴とする請求項1に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項3】
前記フィン型手段を、風の流れに対する迎角を可変としたことを特徴とする請求項2に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項4】
風の状態を検出する風計測手段を備え、前記風計測手段による風の状態の計測結果に応じて前記迎角を制御することを特徴とする請求項3に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項5】
前記水位上昇抑制手段を、風向を変えて前記水位上昇部に作用させるフラップ型手段とし、前記フラップ型手段を前記船体の船首部に設けたことを特徴とする請求項1に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項6】
前記フラップ型手段を、フラップ角を可変としたことを特徴とする請求項5に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項7】
風の状態を検出する風計測手段を備え、前記風計測手段による風の状態の計測結果に応じて前記フラップ角を制御することを特徴とする請求項6に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項8】
前記水位上昇抑制手段を、風を取り込み前記水位上昇部に吹き出して作用させるダクト型手段とし、前記ダクト型手段を前記船体の船首部に設けたことを特徴とする請求項1に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項9】
前記ダクト型手段が、風向及び風速の少なくとも一方を可変とした吹出口を有することを特徴とする請求項8に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項10】
風の状態を検出する風計測手段を備え、前記風計測手段による風の状態の計測結果に応じて前記吹出口からの風向及び風速の少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項9に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項11】
前記ダクト型手段が、前記船体に設けたボルスターの前部に配置した取込口を有することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれかに記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項12】
前記水位上昇抑制手段を、前記船体の左右にそれぞれ複数個備えたことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項13】
前記水位上昇抑制手段を、前記船体の左右にそれぞれ複数個備え、前記水位上昇抑制手段として、風向を変えて前記水位上昇部に作用させるフィン型手段、風向を変えて前記水位上昇部に作用させるフラップ型手段、及び風を取り込み前記水位上昇部に吹き出して作用させるダクト型手段の中から少なくとも異なる2つの前記手段を用いたことを特徴とする請求項1に記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項14】
前記水位上昇抑制手段を前記船体に格納可能としたことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれかに記載の波風中抵抗増加軽減装置。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれかに記載の波風中抵抗増加軽減装置を装備したことを特徴とする船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波の水位上昇部が風によって後方に延伸することで増加する抵抗を軽減する波風中抵抗増加軽減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5を用いて、風による波風中抵抗増加について説明する。
図5は、風による波風中抵抗増加を説明するための船舶の要部側面図である。
図5(a)は、風が無い環境下での波の状態を、図5(b)は、風がある環境下での波の状態を示している。
同図では、水面1は、船舶の停止時を示している。船舶が移動すると、波が無い状態でも静的水位上昇により水面2は上昇する。波がある水面3では、動的水位上昇により水位上昇部4は、船体10に沿って水面3よりも上昇するとともに上下に変動する。
風がある環境下では、水位上昇部4は、図5(b)で水位上昇部4aとして示すように、船体10の後方に延伸する。その結果、船体10における浸水表面積が増加する。
このように、波だけの場合と比較して波と風が併存する場合には、波浪中抵抗増加量が大きくなる。
【0003】
図6は、模型試験により得られた波と風の干渉影響を示すグラフである。
図6では、横軸を風速、縦軸を抵抗増加量として、風速の影響を示している。波の波長をλ、船長をLとしたとき、λ/L=0.3で実験を行ったものである。
同図に示すように、風速の増加に伴って抵抗増加量が比例的に増加していることがわかる。
【0004】
なお、特許文献1では、船首部の側面に船尾方向に延設された整流板を配置した船舶が記載されている。この整流板は、前方側が高くて後方側が低くなるように傾斜させて配置している(図5(b)参照)。
また、特許文献2では、船首部に波浪偏向部材を配置した船舶が記載されている。
また、特許文献3では、風波による船体への影響を防止することを目的とした船舶が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−17089号公報
【特許文献2】特開2012−162116号公報
【特許文献3】実開平5−16582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている整流板は、船体側面に沿って流れる水流を案内し、効果的に水流を後方に受け流すものである。
特許文献2に記載されている波浪偏向部材は、波浪分散部材の分散面から船舶の右側壁および左側壁にかけて設けることで、下方から受ける波の流れを左右後方に変えるものである。
特許文献3では、船体への風の影響に着目している点で共通するが、船腹に横風を受ける場合を課題としており、横風の流路となる風波潮流流通孔を船腹に設けたものである。
以上のように上記の特許文献1〜3は、いずれも風による波風中抵抗増加を軽減する技術に関するものではない。
【0007】
本発明は、波の水位上昇部が風によって後方に延伸することで増加する抵抗を軽減する波風中抵抗増加軽減装置及び船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の本発明に対応した波風中抵抗増加軽減装置においては、船体の周囲に流れる風を船体の船首近傍における航行時の水位上昇部に作用させる水位上昇抑制手段を備え、波風中における船体の抵抗増加を軽減したことを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、船体の周囲に流れる風を水位上昇部に作用させることで、波風中における水位の上昇を抑え、船体における浸水表面積を少なくできるため、船体の抵抗増加を軽減できる。
【0009】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、水位上昇抑制手段を、風向を変えて水位上昇部に作用させるフィン型手段とし、フィン型手段を船体の船首部に設けたことを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、フィン型手段によって抵抗無く風向を変えて水位の上昇を抑えることができるとともに、甲板への海水打ち込みの軽減も図ることができる。
【0010】
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、フィン型手段を、風の流れに対する迎角を可変としたことを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、風の強さに応じて迎角を変えることで、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0011】
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、風の状態を検出する風計測手段を備え、風計測手段による風の状態の計測結果に応じて迎角を制御することを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、計測された風の状態に応じて迎角を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。
【0012】
請求項5記載の本発明は、請求項1に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、水位上昇抑制手段を、風向を変えて水位上昇部に作用させるフラップ型手段とし、フラップ型手段を船体の船首部に設けたことを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、フラップ型手段によって強制的に風向を変えることで、波風中における水位の上昇を抑えることができるとともに、甲板への海水打ち込みの軽減も図ることができる。
【0013】
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、フラップ型手段を、フラップ角を可変としたことを特徴とする。請求項6に記載の本発明によれば、風の強さに応じてフラップ角を変えることで、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0014】
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、風の状態を検出する風計測手段を備え、風計測手段による風の状態の計測結果に応じてフラップ角を制御することを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、計測された風の状態に応じてフラップ角を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。
【0015】
請求項8記載の本発明は、請求項1に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、水位上昇抑制手段を、風を取り込み水位上昇部に吹き出して作用させるダクト型手段とし、ダクト型手段を船体の船首部に設けたことを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、ダクト型手段によって風を取り込み、水位上昇部に風を吹き出すことで波風中における水位の上昇を抑えることができる。
【0016】
請求項9記載の本発明は、請求項8に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、ダクト型手段が、風向及び風速の少なくとも一方を可変とした吹出口を有することを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、風の強さに応じて変動する水位上昇部に対して風を吹き出すことができるため、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0017】
請求項10記載の本発明は、請求項9に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、風の状態を検出する風計測手段を備え、風計測手段による風の状態の計測結果に応じて吹出口からの風向及び風速の少なくとも一方を制御することを特徴とする。請求項10に記載の本発明によれば、計測された風の状態に応じて風向や風速を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。
【0018】
請求項11記載の本発明は、請求項8から請求項10のいずれかに記載の波風中抵抗増加軽減装置において、ダクト型手段が、船体に設けたボルスターの前部に配置した取込口を有することを特徴とする。請求項11に記載の本発明によれば、ボルスターに流入する風を軽減することによる抵抗低減を図れる。
【0019】
請求項12記載の本発明は、請求項1から請求項11のいずれかに記載の波風中抵抗増加軽減装置において、水位上昇抑制手段を、船体の左右にそれぞれ複数個備えたことを特徴とする。請求項12に記載の本発明によれば、特に強い風に対して有効に水位の上昇を抑えることができる。
【0020】
請求項13記載の本発明は、請求項1に記載の波風中抵抗増加軽減装置において、水位上昇抑制手段を、船体の左右にそれぞれ複数個備え、水位上昇抑制手段として、風向を変えて水位上昇部に作用させるフィン型手段、風向を変えて水位上昇部に作用させるフラップ型手段、及び風を取り込み水位上昇部に吹き出して作用させるダクト型手段の中から少なくとも異なる2つの手段を用いたことを特徴とする。請求項13に記載の本発明によれば、船種や用途また船体構造に応じて適した組み合わせの水位上昇抑制手段を選ぶことができ、更に有効に波風中における水位の上昇を抑えることができる。
【0021】
請求項14記載の本発明は、請求項1から請求項13のいずれかに記載の波風中抵抗増加軽減装置において、水位上昇抑制手段を船体に格納可能としたことを特徴とする。請求項14に記載の本発明によれば、波が水位上昇抑制手段に届くほど大きい場合に、水位上昇抑制手段を格納することで、水位上昇抑制手段の損傷を防止することができる。
【0022】
請求項15記載の本発明に対応した船舶においては、請求項1から請求項14のいずれかに記載の波風中抵抗増加軽減装置を装備したことを特徴とする。請求項15に記載の本発明によれば、船体の周囲に流れる風による船体の抵抗増加を軽減できる船舶を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、船体の周囲に流れる風を水位上昇部に作用させることで、波風中における水位の上昇を抑え、船体における浸水表面積を少なくできるため、船体の抵抗増加を軽減できる。
【0024】
また、水位上昇抑制手段を、風向を変えて水位上昇部に作用させるフィン型手段とし、フィン型手段を船体の船首部に設けた場合には、フィン型手段によって抵抗無く風向を変えて水位の上昇を抑えることができるとともに、甲板への海水打ち込みの軽減も図ることができる。
【0025】
また、フィン型手段を、風の流れに対する迎角を可変とした場合には、風の強さに応じて迎角を変えることで、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0026】
また、風の状態を検出する風計測手段を備え、風計測手段による風の状態の計測結果に応じて迎角を制御する場合には、計測された風の状態に応じて迎角を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。
【0027】
また、水位上昇抑制手段を、風向を変えて水位上昇部に作用させるフラップ型手段とし、フラップ型手段を船体の船首部に設けた場合には、フラップ型手段によって強制的に風向を変えることで、波風中における水位の上昇を抑えることができるとともに、甲板への海水打ち込みの軽減も図ることができる。
【0028】
また、フラップ型手段を、フラップ角を可変とした場合には、風の強さに応じてフラップ角を変えることで、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0029】
また、風の状態を検出する風計測手段を備え、風計測手段による風の状態の計測結果に応じてフラップ角を制御する場合には、計測された風の状態に応じてフラップ角を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。
【0030】
また、水位上昇抑制手段を、風を取り込み水位上昇部に吹き出して作用させるダクト型手段とし、ダクト型手段を船体の船首部に設けた場合には、ダクト型手段によって風を取り込み、水位上昇部に風を吹き出すことで波風中における水位の上昇を抑えることができる。
【0031】
また、ダクト型手段が、風向及び風速の少なくとも一方を可変とした吹出口を有する場合には、風の強さに応じて変動する水位上昇部に対して風を吹き出すことができるため、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0032】
また、風の状態を検出する風計測手段を備え、風計測手段による風の状態の計測結果に応じて吹出口からの風向及び風速の少なくとも一方を制御する場合には、計測された風の状態に応じて風向や風速を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。
【0033】
また、ダクト型手段が、船体に設けたボルスターの前部に配置した取込口を有する場合には、ボルスターに流入する風を軽減することによる抵抗低減を図れる。
【0034】
また、水位上昇抑制手段を、船体の左右にそれぞれ複数個備えた場合には、特に強い風に対して有効に水位の上昇を抑えることができる。
【0035】
また、水位上昇抑制手段を、船体の左右にそれぞれ複数個備え、水位上昇抑制手段として、風向を変えて水位上昇部に作用させるフィン型手段、風向を変えて水位上昇部に作用させるフラップ型手段、及び風を取り込み水位上昇部に吹き出して作用させるダクト型手段の中から少なくとも異なる2つの手段を用いた場合には、船種や用途また船体構造に応じて適した組み合わせの水位上昇抑制手段を選ぶことができ、更に有効に波風中における水位の上昇を抑えることができる。
【0036】
また、水位上昇抑制手段を船体に格納可能とした場合には、波が水位上昇抑制手段に届くほど大きい場合に、水位上昇抑制手段を格納することで、水位上昇抑制手段の損傷を防止することができる。
【0037】
本発明によれば、船体の周囲に流れる風による船体の抵抗増加を軽減できる船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施形態1による波風中抵抗増加軽減装置を示す要部概略構成図
図2】本発明の実施形態2による波風中抵抗増加軽減装置において、フラップ型手段の張出時を示す要部概略構成図
図3】同実施形態による波風中抵抗増加軽減装置において、フラップ型手段の格納時を示す要部概略構成図
図4】本発明の実施形態3による波風中抵抗増加軽減装置を示す要部概略構成図
図5】風による波風中抵抗増加を説明するための船舶の要部側面図
図6】波と風の干渉影響を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の実施形態による波風中抵抗増加軽減装置について説明する。
図1は本発明の実施形態1による波風中抵抗増加軽減装置を示す要部概略構成図である。
実施形態1による波風中抵抗増加軽減装置は、風向を変えて水位上昇部4に作用させる水位上昇抑制手段20を、フィン型手段21としたものである。
【0040】
フィン型手段21は、船体10の船首部11に設けている。フィン型手段21は、船首Fp(船首水切り部)から範囲Hに配置する。範囲Hは、通常船では船長Lppの5%以内であり、特殊形状船を含めても船長Lppの10%以内である。
フィン型手段21は、水位上昇する水面より上方、航行時に予測される水位上昇部4よりも上方に取り付ける。船体10の前方側のフィン型手段21Fは、後方側のフィン型手段21Rよりも上方に配置する。なお、前方側のフィン型手段21Fと後方側のフィン型手段21Rの配置位置は、航行時に予測される水位上昇部4に極力近い方が効果は期待できるが、波が大きい場合を想定し、若干余裕を持たせて配置することが好ましい。また、配置の上限はボルスターやフレア以下であることが、水位の上昇抑制の効果が損なわれることが無く好ましい。
【0041】
フィン型手段21は、船体10の周囲に流れる風を船体10の船首Fp近傍における航行時の水位上昇部4に作用させることで、波風中における船体10の抵抗増加を軽減する。船体10の周囲に流れる風には、船舶の航行に伴う風の他に自然風がある。
フィン型手段21は、断面が翼形状のフィン21aと、フィン21aの迎角を可変とする回動軸21bと、フィン21aの位置を規制する上方ストッパー21c及び下方ストッパー21dとで構成される。
フィン型手段21は、回動軸21bによってフィン21aの迎角を変更することができる。また、フィン型手段21は、上方ストッパー21c及び下方ストッパー21dによって規制される範囲でフィン21aの迎角を変更することができる。
【0042】
なお、図示はしないが、フィン型手段21は、船体10に格納可能な構成としていることが好ましい。また、上方ストッパー21c及び下方ストッパー21dは、露出させずに船体10内に設け回動軸21bの動きを制限する部材や機構であってもよい。
また、フィン型手段21は、船体10の左右に備えるが、左右それぞれに3つ以上のフィン型手段21を設けてもよく、また1つのみのフィン型手段21を設けたものでもよい。
【0043】
実施形態1による波風中抵抗増加軽減装置は、風の状態を検出する風計測手段30を備え、風計測手段30による風の状態の計測結果に応じてフィン21aの迎角を制御することが好ましい。すなわち、風速が小さい時には水平とし、風速が大きい時にはフィン21aの後部が下方となるように傾ける。また、風速の大きさに応じて、水位上昇部4に風が流れるように迎角を変更する。また、風計測手段30は、風速の他に風向を計測するものであってもよい。また、風速の変化や風向の変化を計測するものであってもよい。
風計測手段30によって風向を計測し、風向と船首Fpの方向とが一致しない場合には、風速に応じて、船体10の左右に備えたフィン21aの迎角を別々に制御してもよい。
【0044】
実施形態1による波風中抵抗増加軽減装置によれば、フィン型手段21によって抵抗無く風向を変えて水位の上昇を抑えることができるとともに、特に船首部11で波の荒い時に多くなる甲板への海水打ち込みをフィン型手段21で軽減も図ることができる。
【0045】
また、実施形態1による波風中抵抗増加軽減装置によれば、フィン型手段21を、風の流れに対する迎角を可変として、風の強さに応じて迎角を変えることで、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0046】
また、実施形態1による波風中抵抗増加軽減装置によれば、風の状態を検出する風計測手段30を備え、風計測手段30による風の状態の計測結果に応じて迎角を制御して、計測された風の状態に応じて迎角を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。風の変化を計測して制御することにより、風の変化に応じて仰角を制御してより的確に水位の上昇を抑えることができる。
また、波がフィン型手段21を破壊するほど大きい場合には、格納可能な構成の場合は、フィン型手段21を船体10に格納して損傷を回避することも可能である。
【0047】
図2及び図3は本発明の実施形態2による波風中抵抗増加軽減装置を示す要部概略構成図である。
図2(a)はフラップ型手段の張出時を示す要部側面図、図2(b)は同要部上面図、図2(c)は同要部正面図、図3(a)はフラップ型手段の格納時を示す要部側面図、図3(b)は同要部正面図である。
実施形態2による波風中抵抗増加軽減装置は、風向を変えて水位上昇部4に作用させる水位上昇抑制手段20を、フラップ型手段22としたものである。
【0048】
フラップ型手段22は、船体10の船首部11に設けている。フラップ型手段22は、船首Fp(船首水切り部)から範囲Hに配置する。範囲Hは、通常船では船長Lppの5%以内であり、特殊形状船を含めても船長Lppの10%以内である。
フラップ型手段22は、水位上昇する水面より上方、航行時に予測される水位上昇部4よりも上方に取り付ける。船体10の前方側のフラップ型手段22Fは、後方側のフラップ型手段22Rよりも上方に配置する。なお、上下方向の配置位置は、フィン型手段21と同様な考え方で配置することが好ましい。
【0049】
フラップ型手段22は、船体10の周囲に流れる風を船体10の船首Fp近傍における航行時の水位上昇部4に作用させることで、波風中における船体10の抵抗増加を軽減する。船体10の周囲に流れる風には、船舶の航行に伴う風の他に自然風がある。
フラップ型手段22は、平板状のフラップ22aと、フラップ22aを船体10に取り付けるヒンジ部22bとで構成される。
【0050】
図3に示すように、フラップ型手段22は、船体10に格納可能な構成としている。
なお、図示はしないが、フラップ型手段22は、フラップ22aのフラップ角を変更することが好ましい。
また、フラップ型手段22は、船体10の左右に備えるが、左右それぞれに3つ以上のフラップ型手段22を設けてもよく、また1つのみのフラップ型手段22を設けたものでもよい。
【0051】
実施形態2による波風中抵抗増加軽減装置は、風の状態を検出する風計測手段30を備え、風計測手段30による風の状態の計測結果に応じてフラップ22aのフラップ角(船側からの開き角)を制御することが好ましい。すなわち、風速が小さい時には水平としてフラップ角を大きくし、風速が大きい時にはフラップ22aの先端が下方となるように傾けフラップ角を小さくする。また、風速の大きさに応じて、水位上昇部4に風が流れるようにフラップ角を変更する。また、風計測手段30は、風速の他に風向を計測するものであってもよい。風計測手段30によって風向を計測し、風向と船首Fpの方向とが一致しない場合には、風速に応じて、船体10の左右に備えたフラップ22aのフラップ角を別々に制御してもよい。
【0052】
実施形態2による波風中抵抗増加軽減装置によれば、フラップ型手段22によって強制的に風向を変えて水位の上昇を抑えることができるとともに、特に船首部11で波の荒い時に多くなる甲板への海水打ち込みをフラップ型手段22で軽減も図ることができる。
【0053】
また、実施形態2による波風中抵抗増加軽減装置によれば、フラップ型手段22を、フラップ角を可変として、風の強さに応じてフラップ角を変えることで、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0054】
また、実施形態2による波風中抵抗増加軽減装置によれば、風の状態を検出する風計測手段30を備え、風計測手段30による風の状態の計測結果に応じてフラップ角を制御して、計測された風の状態に応じてフラップ角を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。波がフラップ型手段22を破壊するほど大きい場合には、フラップ型手段22を格納することで、フラップ型手段22の損傷を防止することができる。
【0055】
図4は本発明の実施形態3による波風中抵抗増加軽減装置を示す要部概略構成図である。
図4(a)はダクト型手段を示す要部側面図、図4(b)は同要部上面図、図4(c)は同要部正面図である。
実施形態3による波風中抵抗増加軽減装置は、風を取り込み水位上昇部4に吹き出して作用させる水位上昇抑制手段20を、ダクト型手段23としたものである。
【0056】
ダクト型手段23は、船体10に設けたボルスター12の前部に配置した取込口23aと、風向及び風速の少なくとも一方を可変とした吹出口23bと、取込口23aと吹出口23bとをつなぐダクト23cとで構成される。取込口23aから流入した空気は、ダクト23cを通って吹出口23bから吹き出される。
【0057】
取込口23aは、ボルスター12の前部に配置する他、ボルスター12と一体に構成してもよい。このように、取込口23aを、ボルスター12の前部に配置するか、ボルスター12と一体に構成することで、ボルスター12に流入する風を軽減することによる抵抗低減が図れる。
なお、取込口23aは、船体10の外板に穴を開けるだけの構成でもよい。
また、取込口23aは、吹出口23bよりも開口断面積を大きくすることで、吹出口23bからの吹き出し風速を確保することができる。
ダクト23cは、船体10内に配置する。
【0058】
ダクト型手段23は、吹出口23bを船体10の船首部11に設けている。吹出口23bは、船首Fp(船首水切り部)から範囲Hに配置する。範囲Hは、通常船では船長Lppの5%以内であり、特殊形状船を含めても船長Lppの10%以内である。
吹出口23bは、水位上昇する水面より上方、航行時に予測される水位上昇部4よりも上方に取り付ける。なお、吹出口23bの上下方向の配置位置は、フィン型手段21と同様な考え方で配置することが好ましい。
【0059】
ダクト型手段23は、船体10の周囲に流れる風を船体10の船首Fp近傍における航行時の水位上昇部4に作用させることで、波風中における船体10の抵抗増加を軽減する。船体10の周囲に流れる風には、船舶の航行に伴う風の他に自然風がある。
【0060】
なお、図示はしないが、取込口23a及び吹出口23bは、船体10に格納可能な構成としていることが好ましいが、吹出口23bのみの格納可能な構成でもよい。波がダクト型手段23を破壊するほど大きい場合には、格納可能な構成の場合は、ダクト型手段23を船体10に格納して損傷を回避することも可能である。
また、ダクト型手段23は、船体10の左右に備えるが、左右それぞれに複数のダクト型手段23を設けてもよい。
【0061】
実施形態3による波風中抵抗増加軽減装置は、風の状態を検出する風計測手段30を備え、風計測手段30による風の状態の計測結果に応じて吹出口23bからの風向及び風速の少なくとも一方を制御する。すなわち、計測される風速が小さい時には風向を前方にし、計測される風速が大きい時には風向を後方となるように傾ける。また、計測される風速が小さい時には吹き出し風速を小さくし、計測される風速が大きい時には吹き出し風速が大きくなるように吹出口23bを絞る。
また、風速の大きさに応じて、水位上昇部4に風が流れるように風向を変更する。また、風計測手段30は、風速の他に風向を計測するものであってもよい。風計測手段30によって風向を計測し、風向と船首Fpの方向とが一致しない場合には、風速に応じて、船体10の左右に備えた吹出口23bの風向や吹き出し風速を別々に制御してもよい。
【0062】
実施形態3による波風中抵抗増加軽減装置によれば、ダクト型手段23によって風を取り込み、水位上昇部4に風を吹き出すことで水位の上昇を抑えることができる。
また、特に船首部11で波の荒い時に多くなる甲板への海水打ち込みをダクト型手段23で軽減も図ることができる。
【0063】
また、実施形態3による波風中抵抗増加軽減装置によれば、ダクト型手段23が、風向及び風速の少なくとも一方を可変とした吹出口23bを有することで、風の強さに応じて変動する水位上昇部4に対して風を吹き出すことができるため、状況に応じて水位の上昇を抑えることができる。
【0064】
また、実施形態3による波風中抵抗増加軽減装置によれば、風の状態を検出する風計測手段30を備え、風計測手段30による風の状態の計測結果に応じて吹出口23bからの風向及び風速の少なくとも一方を制御して、計測された風の状態に応じて風向や風速を変えることで、状況変化に追随して水位の上昇を抑えることができる。
【0065】
また、実施形態3による波風中抵抗増加軽減装置によれば、ダクト型手段23が、船体10に設けたボルスター12の前部に配置した取込口23aを有することで、ボルスター12に流入する風を軽減することによる抵抗低減を図れる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、船舶の波の水位上昇部が風によって後方に延伸することで増加する抵抗を軽減することができる。
【符号の説明】
【0067】
4 水位上昇部
10 船体
11 船首部
12 ボルスター
20 水位上昇抑制手段
21 フィン型手段
22 フラップ型手段
23 ダクト型手段
30 風計測手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6