特許第6074807号(P6074807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6074807蛍光体、その製造方法、発光装置、画像表示装置、顔料、および、紫外線吸収剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074807
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】蛍光体、その製造方法、発光装置、画像表示装置、顔料、および、紫外線吸収剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20170130BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20170130BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20170130BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170130BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20170130BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C09K11/64CQD
   C09K11/08 B
   C09K11/08 C
   C09K3/00 104Z
   H05B33/14 A
   H05B33/12 E
   H05B33/10
【請求項の数】32
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-127382(P2013-127382)
(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公開番号】特開2015-965(P2015-965A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 司朗
(72)【発明者】
【氏名】成松 栄一郎
【審査官】 岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−048105(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/093298(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
C09K 3/00
H01L 51/50
H05B 33/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA元素とD元素とE元素とX元素(ただし、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素であり、かつ、MgまたはSrを含み、Dは、Siであり、Eは、Alであり、Xは、OおよびNの組み合わせである)とを含む、MgSiAlで示される結晶、MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、または、これらの固溶体結晶に、M元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)が固溶した無機化合物を含み、
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、MgSi1−xAl3+x3+x3−x、SrSi1−xAl3+x3+x3−x、(Ba,Mg)Si1−xAl3+x3+x3−x、または、(Mg,Al,Li)Si1−xAl3+x3+x3−x(ただし、−2 < x < 1)の組成式で示される、蛍光体。
【請求項2】
前記M元素はEuである、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、三方晶系の結晶である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、三方晶系の結晶であり、空間群R−3mの対称性を持ち、
格子定数a、b、cが、
a = 0.3013±0.05 nm
b = 0.3013±0.05 nm
c = 4.16158±0.05 nm
の範囲の値である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記無機化合物は、組成式M(ただし、式中d+e+f+g+h = 1であり、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素であり、かつ、MgまたはSrを含み、Dは、Siであり、Eは、Alであり、Xは、OおよびNの組み合わせである)で示され、パラメータd、e、f、g、hが、
0.00001 ≦ d ≦ 0.02
0.07 ≦ e ≦ 0.1
0.08 ≦ f < 0.272727
0.090909 < g ≦ 0.3
0.45 ≦ h ≦ 0.65
の条件を全て満たす、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記パラメータd、e、f、g、hが、
d+e = (1/11)±0.05
f+g = (4/11)±0.05
h = (6/11)±0.05
の条件を全て満たす、請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記パラメータf、gが、
1/4 ≦ f/(f+g) ≦ 3/4
の条件を満たす、請求項5に記載の蛍光体。
【請求項8】
前記無機化合物は、組成式Mh1h2(ただし、式中d+e+f+g+h1+h2 = 1、および、h1+h2 = hである)で示され、
1/6 ≦ h1/(h1+h2) ≦ 3/6
の条件を満たす、請求項5に記載の蛍光体。
【請求項9】
前記M元素は少なくともEuを含む、請求項5に記載の蛍光体。
【請求項10】
前記A元素は少なくともMgを含む、請求項5に記載の蛍光体。
【請求項11】
前記無機化合物の組成式は、パラメータxおよびyを用いて
EuMg1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、EuSr1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、Eu(Ba,Mg)1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、または、Eu(Mg,Al,Li)1−ySi1−xAl3+x3+x3−x
ただし、
−2 < x < 1
0.0001 ≦ y ≦ 0.3
で示される、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項12】
励起源を照射することにより380nmから600nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発光する、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項13】
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶にEuが固溶し、250nmから500nmの光を照射すると450nm以上530nm以下の青色から緑色の蛍光を発する、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項14】
励起源が照射されたときに発光する色がCIE1931色度座標上の(x,y)の値で、
0 ≦ x ≦ 0.4
0 ≦ y ≦ 0.9
の条件を満たす、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項15】
焼成することにより請求項1に記載の無機化合物を構成しうる金属化合物の混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成する、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項16】
少なくとも発光体または発光光源と蛍光体とを備えた発光装置において、前記蛍光体は、少なくとも請求項1に記載の蛍光体を含む、発光装置。
【請求項17】
前記発光体または発光光源は、330〜500nmの波長の光を発する発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、半導体レーザ、または、有機EL発光体(OLED)である、請求項16に記載の発光装置。
【請求項18】
前記発光装置は、白色発光ダイオード、複数の前記白色発光ダイオードを含む照明器具、または、液晶パネル用バックライトである、請求項16に記載の発光装置。
【請求項19】
前記発光体または発光光源は、ピーク波長300〜500nmの紫外または可視光を発し、
請求項1に記載の蛍光体が発する青色から黄色光と他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光とを混合することにより白色光または白色光以外の光を発する、請求項16に記載の発光装置。
【請求項20】
前記蛍光体は、前記発光体または発光光源によりピーク波長420nm〜500nm以下の光を発する青色蛍光体をさらに含む、請求項16に記載の発光装置。
【請求項21】
前記青色蛍光体は、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ceから選ばれる、請求項20に記載の発光装置。
【請求項22】
前記蛍光体は、前記発光体または発光光源によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体をさらに含む、請求項16に記載の発光装置。
【請求項23】
前記緑色蛍光体は、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Euから選ばれる、請求項22に記載の発光装置。
【請求項24】
前記蛍光体は、前記発光体または発光光源によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体をさらに含む、請求項16に記載の発光装置。
【請求項25】
前記黄色蛍光体は、YAG:Ce、α−サイアロン:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ceから選ばれる、請求項24に記載の発光装置。
【請求項26】
前記蛍光体は、前記発光体または発光光源によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体をさらに含む、請求項16に記載の発光装置。
【請求項27】
前記赤色蛍光体は、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、SrSi:Euから選ばれる、請求項26に記載の発光装置。
【請求項28】
前記発光体または発光光源は、280〜500nmの波長の光を発するLEDである、請求項16に記載の発光装置。
【請求項29】
少なくとも励起源および蛍光体を備えた画像表示装置において、前記蛍光体は、少なくとも請求項1に記載の蛍光体を含む、画像表示装置。
【請求項30】
前記画像表示装置が、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、または、液晶ディスプレイ(LCD)のいずれかである、請求項29に記載の画像表示装置。
【請求項31】
請求項1に記載の無機化合物からなる顔料。
【請求項32】
求項1に記載の無機化合物からなる紫外線吸収剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A(D,E)(ただし、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)で示される結晶、MgSiAlで示される結晶、MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、あるいは、これらの結晶の固溶体結晶に、M元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)が固溶した無機化合物を主成分とする蛍光体、その製造方法、および、その用途に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum−Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display))、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode−Ray Tube))、液晶ディスプレイバックライト(Liquid−Crystal Display Backlight)、白色発光ダイオード(LED(Light−Emitting Diode))などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は、真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、青色光、緑色光、黄色光、橙色光、赤色光等の可視光線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し易く、輝度低下のない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、高エネルギーの励起においても輝度低下の少ない蛍光体として、サイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体、窒化物蛍光体などの、結晶構造に窒素を含有する無機結晶を母体とする蛍光体が提案されている。
【0003】
このサイアロン蛍光体の一例は、概略以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユーロピウム(Eu)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEu2+イオンを付活したαサイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。また、αサイアロンの結晶構造を保ったまま、SiとAlとの割合あるいは酸素と窒素との割合を変えることにより、発光波長が変化することが知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【0004】
サイアロン蛍光体の別の例として、β型サイアロンにEu2+を付活した緑色の蛍光体が知られている(特許文献4参照)。この蛍光体では、結晶構造を保ったまま酸素含有量を変化させることにより発光波長が短波長に変化することが知られている(例えば、特許文献5参照)。また、β型サイアロンにCe3+を付活すると青色の蛍光体となることが知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0005】
酸窒化物蛍光体の一例は、JEM相(LaAl(Si6−zAl)N10−z)を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献7参照)が知られている。この蛍光体では、結晶構造を保ったままLaの一部をCaで置換することにより、励起波長が長波長化するとともに発光波長が長波長化することが知られている。
【0006】
酸窒化物蛍光体の別の例として、La−N結晶LaSi11を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献8参照)が知られている。
【0007】
窒化物蛍光体の一例は、CaAlSiNを母体結晶としてEu2+を付活させた赤色蛍光体(特許文献9参照)が知られている。この蛍光体を用いることにより、白色LEDの演色性を向上させる効果がある。光学活性元素としてCeを添加した蛍光体は橙色の蛍光体と報告されている。
【0008】
このように、蛍光体は、母体となる結晶と、それに固溶させる金属イオン(付活イオン)との組み合わせで、発光色が決まる。さらに、母体結晶と付活イオンとの組み合わせによって、発光スペクトル、励起スペクトルなどの発光特性、化学的安定性、あるいは、熱的安定性が決まるため、母体結晶が異なる場合、あるいは、付活イオンが異なる場合は、異なる蛍光体とみなされる。また、化学組成が同じであっても結晶構造が異なる材料は、母体結晶が異なることにより発光特性や安定性が異なるため、異なる蛍光体とみなされる。
【0009】
さらに、多くの蛍光体においては、母体結晶の結晶構造を保ったまま、構成する元素の種類を置換することが可能であり、これにより発光色を変化させることが行われている。例えば、YAG結晶にCeを添加した蛍光体は緑色発光をするが、YAG結晶中のYの一部をGdで、Alの一部をGaで置換した蛍光体は、黄色発光を呈する。さらに、CaAlSiNにEuを添加した蛍光体においては、Caの一部をSrで置換することにより結晶構造を保ったまま組成が変化し、発光波長が短波長化することが知られている。このように、結晶構造を保ったまま元素置換を行った蛍光体は、同じグループの材料と見なされる。
【0010】
これらのことから、新規蛍光体の開発においては、新規の結晶構造を持つ母体結晶を見つけることが重要であり、このような母体結晶に発光を担う金属イオンを付活して蛍光特性を発現させることにより、新規の蛍光体を提案することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3668770号明細書
【特許文献2】特許第3837551号明細書
【特許文献3】特許第4524368号明細書
【特許文献4】特許第3921545号明細書
【特許文献5】国際公開第2007/066733号
【特許文献6】国際公開第2006/101096号
【特許文献7】国際公開第2005/019376号
【特許文献8】特開2005−112922号公報
【特許文献9】特許第3837588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような要望に応えようとするものであり、目的のひとつは、従来の蛍光体とは異なる発光特性(発光色や励起特性、発光スペクトル)を有し、かつ、470nm以下のLEDと組み合わせた場合でも発光強度が高く、化学的および熱的に安定な無機蛍光体を提供することにある。本発明のもうひとつの目的として、係る蛍光体を用いた耐久性に優れた発光装置および耐久性に優れる画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らにおいては、かかる状況の下で、窒素を含む新しい結晶およびこの結晶構造中の金属元素やNを他の元素で置換した結晶を母体とする蛍光体について詳細な研究を行い、MgSiAlで示される結晶、MgSiAlと同一の結晶構造を持つ結晶、または、これらの固溶体結晶を母体とする無機蛍光体が、高輝度の蛍光を発することを見いだした。また、特定の組成では、青色から緑色の発光を示すことを見いだした。
【0014】
さらに、この蛍光体を用いることにより、高い発光効率を有し、温度による変動が小さい白色発光ダイオード(発光装置)、それを用いた照明器具、あるいは、鮮やかな発色の画像表示装置が得られることを見いだした。
【0015】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、以下に記載する構成を講ずることによって特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体を提供することに成功した。また、以下の方法を用いて優れた発光特性を持つ蛍光体を製造することに成功した。さらに、この蛍光体を使用し、以下に記載する構成を講ずることによって優れた特性を有する発光装置、照明器具、画像表示装置、顔料、紫外線吸収材を提供することにも成功したもので、その構成は、以下に記載のとおりである。
【0016】
本発明による蛍光体は、少なくともA元素とD元素とE元素とX元素(ただし、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)とを含む、MgSiAlで示される結晶、MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、または、これらの固溶体結晶に、M元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)が固溶した無機化合物を含み、これにより上記課題を解決する。
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、A(D,E)で示される結晶であり、前記A元素は、Li、Mg、Ba、SrおよびAlからなる群から少なくとも1つ選択される元素を含み、前記D元素は、Siを含み、必要に応じて前記E元素は、Alを含み、前記X元素は、Nを含み、必要に応じて前記X元素は、Oを含んでもよい。
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、MgSiAl、SrSiAl、(Ba,Mg)SiAl、または、(Mg,Al,Li)SiAlであってもよい。
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、MgSi1−xAl3+x3+x3−x、SrSi1−xAl3+x3+x3−x、(Ba,Mg)Si1−xAl3+x3+x3−x、または、(Mg,Al,Li)Si1−xAl3+x3+x3−x(ただし、−2 ≦ x < 1)の組成式で示されてもよい。
前記M元素はEuであってもよい。
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、三方晶系の結晶であってもよい。
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶は、三方晶系の結晶であり、空間群R−3mの対称性を持ち、格子定数a、b、cが、
a = 0.3013±0.05 nm
b = 0.3013±0.05 nm
c = 4.16158±0.05 nm
の範囲の値であってもよい。
前記無機化合物は、組成式M(ただし、式中d+e+f+g+h = 1であり、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)で示され、パラメータd、e、f、g、hが、
0.00001 ≦ d ≦ 0.02
0.07 ≦ e ≦ 0.1
0.08 ≦ f ≦ 0.3
0.05 ≦ g ≦ 0.3
0.45 ≦ h ≦ 0.65
の条件を全て満たしてもよい。
前記パラメータd、e、f、g、hが、
d+e = (1/11)±0.05
f+g = (4/11)±0.05
h = (6/11)±0.05
の条件を全て満たしてもよい。
前記パラメータf、gが、
1/4 ≦ f/(f+g) ≦ 3/4
の条件を満たしてもよい。
前記X元素がOとNとを含み、前記無機化合物は、組成式Mh1h2(ただし、式中d+e+f+g+h1+h2 = 1、および、h1+h2 = hである)で示され、
1/6 ≦ h1/(h1+h2) ≦ 3/6
の条件を満たしてもよい。
前記M元素は少なくともEuを含んでもよい。
前記A元素は少なくともMgを含み、前記D元素は少なくともSiを含み、前記E元素は少なくともAlを含み、前記X元素は少なくともOとNとを含んでもよい。
前記無機化合物の組成式は、パラメータxおよびyを用いて
EuMg1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、EuSr1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、Eu(Ba,Mg)1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、または、Eu(Mg,Al,Li)1−ySi1−xAl3+x3+x3−x
ただし、
−2 ≦ x < 1
0.0001 ≦ y ≦ 0.3
で示されてもよい。
前記無機化合物は、平均粒径0.1μm以上20μm以下の単結晶粒子あるいは単結晶の集合体であってもよい。
前記無機化合物に含まれるFe、CoおよびNiの不純物元素の合計は、500ppm以下であってもよい。
前記無機化合物に加えて、前記無機化合物とは異なる他の結晶相あるいはアモルファス相をさらに含み、前記無機化合物の含有量が20質量%以上であってもよい。
前記他の結晶相あるいはアモルファス相は、導電性を持つ無機物質であってもよい。
前記導電性を持つ無機物質は、Zn、Al、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、窒化物、あるいは、これらの混合物であってもよい。
前記他の結晶相あるいはアモルファス相は、前記無機化合物とは異なる無機蛍光体であってもよい。
励起源を照射することにより380nmから600nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発光してもよい。
前記励起源は、100nm以上500nm以下の波長を持つ真空紫外線、紫外線、可視光、または、電子線あるいはX線であってもよい。
前記MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶にEuが固溶し、250nmから500nmの光を照射すると450nm以上530nm以下の青色から緑色の蛍光を発してもよい。
励起源が照射されたときに発光する色がCIE1931色度座標上の(x,y)の値で、
0 ≦ x ≦ 0.4
0 ≦ y ≦ 0.9
の条件を満たしてもよい。
本発明の蛍光体の製造方法は、焼成することにより上述の無機化合物を構成しうる金属化合物の混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成し、これにより上記課題を解決する。
前記金属化合物の混合物は、Mを含有する化合物と、Aを含有する化合物と、Dを含有する化合物と、Eを含有する化合物と、Xを含有する化合物(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)とからなってもよい。
前記Mを含有する化合物が、Mを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、前記Aを含有する化合物が、Aを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、前記Dを含有する化合物が、Dを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Eを含有する化合物が、Eを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であってもよい。
前記金属化合物の混合物が、少なくとも、ユーロピウムの窒化物または酸化物と、マグネシウムの窒化物または酸化物と、アルミニウムの窒化物または酸化物と、酸化ケイ素または窒化ケイ素とを含有してもよい。
前記窒素を含有する不活性雰囲気の圧力範囲は、0.1MPa以上100MPa以下であり、前記窒素を含有する不活性雰囲気は窒素ガス雰囲気であってもよい。
焼成炉の発熱体、断熱体、または、試料容器に黒鉛を使用してもよい。
前記金属化合物の混合物の形状は、粉体または凝集体であり、嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成してもよい。
前記金属化合物の混合物を窒化ホウ素製の容器に保持してもよい。
前記金属化合物の混合物の形状は、粉体または凝集体であり、前記紛体または凝集体の平均粒径は、500μm以下であってもよい。
粒子または凝集体の粒径を500μm以下にする方法として、スプレイドライヤ、ふるい分け、または、風力分級を用いてもよい。
前記焼成は、常圧焼結法またはガス圧焼結法であってもよい。
粉砕、分級、酸処理から選ばれる1種ないし複数の手法により、焼成により合成した蛍光体粉末の平均粒径を50nm以上20μm以下に粒度調整してもよい。
焼成後の蛍光体粉末、粉砕処理後の蛍光体粉末、または、粒度調整後の蛍光体粉末を、1000℃以上で焼成温度以下の温度で熱処理してもよい。
前記金属化合物の混合物に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加して焼成してもよい。
前記焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物は、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいは、リン酸塩の1種または2種以上の混合物であってもよい。
焼成後に溶剤で洗浄することにより、前記焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物の含有量を低減させてもよい。
本発明の発光装置は、少なくとも発光体または発光光源と蛍光体とを備え、前記蛍光体は、少なくとも上述の蛍光体を含み、これにより上記課題を解決する。
前記発光体または発光光源は、330〜500nmの波長の光を発する発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、半導体レーザ、または、有機EL発光体(OLED)であってもよい。
前記発光装置は、白色発光ダイオード、複数の前記白色発光ダイオードを含む照明器具、または、液晶パネル用バックライトであってもよい。
前記発光体または発光光源は、ピーク波長300〜500nmの紫外または可視光を発し、上記蛍光体が発する青色から黄色光と他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光とを混合することにより白色光または白色光以外の光を発してもよい。
前記蛍光体は、前記発光体または発光光源によりピーク波長420nm〜500nm以下の光を発する青色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記青色蛍光体は、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ceから選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体または発光光源によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記緑色蛍光体は、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Euから選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体または発光光源によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記黄色蛍光体は、YAG:Ce、α−サイアロン:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ceから選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体または発光光源によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記赤色蛍光体は、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、SrSi:Euから選ばれてもよい。
前記発光体または発光光源は、280〜500nmの波長の光を発するLEDであってもよい。
本発明の画像表示装置は、少なくとも励起源および蛍光体を備え、前記蛍光体は、少なくとも上述の蛍光体を含み、これにより上記課題を解決する。
前記画像表示装置が、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、または、液晶ディスプレイ(LCD)のいずれかであってもよい。
本発明の顔料は、上述の無機化合物からなる。
本発明の紫外線吸収剤は、上述の無機化合物からなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光体は、2価元素と3価元素と4価元素とを含む多元窒化物、または、多元酸窒化物であり、MgSiAlで示される結晶、それと同一の結晶構造を有する無機結晶、または、これらの固溶体結晶に付活イオンが固溶した無機化合物を主成分として含有する。これにより、高輝度の発光を示し、特定の組成では青色から緑色の蛍光体として優れている。本発明の蛍光体は、励起源に曝された場合でも、輝度が低下しないため、白色発光ダイオード等の発光装置、照明器具、液晶用バックライト光源、VFD、FED、PDP、CRTなどに好適に使用される。また、本発明の蛍光体は、紫外線を吸収することから顔料および紫外線吸収剤に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】MgSiAl結晶の結晶構造を示す図。
図2】MgSiAl結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図。
図3】実施例1で合成した合成物の粉末X線回折結果を示す図。
図4】実施例1で合成した合成物の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図。
図5】実施例1で合成した合成物の物体色を示す図。
図6】本発明による照明器具(砲弾型LED照明器具)を示す概略図。
図7】本発明による照明器具(基板実装型LED照明器具)を示す概略図。
図8】本発明による画像表示装置(プラズマディスプレイパネル)を示す概略図。
図9】本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイパネル)を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の蛍光体を、図面を参照して詳しく説明する。
【0020】
本発明の蛍光体は、少なくともA元素と、D元素と、E元素と、X元素(ただし、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)と含む母体結晶に、M元素(ただしMは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)が固溶した無機化合物を主成分として含む。具体的には、本発明の蛍光体は、上記A元素とD元素とE元素とX元素とを含む母体結晶が、MgSiAlで示される結晶、MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、あるいは、これらの結晶の固溶体結晶であり、これにM元素が固溶した無機化合物を主成分として含むことにより、高輝度な蛍光体として機能する。
【0021】
なお、本明細書では、MgSiAlで示される結晶、MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶、あるいは、これらの結晶の固溶体結晶を総称して、簡単のため、MgSiAl系結晶と呼ぶことがある。
【0022】
MgSiAlで示される結晶は、本発明者が新たに合成し、結晶構造解析により新規結晶であると確認した、本発明より以前において報告されていない結晶である。
【0023】
図1は、MgSiAl結晶の結晶構造を示す図である。
【0024】
本発明者が合成したMgSiAl結晶は、MgSiAlで示される結晶のひとつであり、MgSiAl結晶について行った単結晶構造解析によれば、MgSiAl結晶は三方晶系に属し、R−3m空間群(International Tables for Crystallographyの166番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占める。
【0025】
表1において、格子定数a、b、cは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は単位格子中の各原子の位置を、単位格子を単位とした0から1の間の値で示す。この結晶中には、Mg、Si、Al、O、Nの各原子が存在し、Mgは1種類の同じ席(Mg(1))に存在する解析結果を得た。また、SiとAlとは3種類の同じ席(Si,Al(1)、Si,Al(2A)からSi、Al(2B))に存在する解析結果を得た。さらに、OとNとは3種類の同じ席(O,N(1)からO,N(3))に存在する解析結果を得た。
【0026】
【表1】
【0027】
表1のデータを使った解析の結果、MgSiAl結晶の構造は図1に示す構造であり、SiまたはAlと、OまたはNとの結合で構成される4面体が連なった骨格と、Mgと、OまたはNとの結合で構成される8面体が連なった骨格とが含有された構造を持つことが分かった。この結晶中にはEu等の付活イオンとなるM元素は、Mg元素の一部を置換する形で結晶中に取り込まれる。
【0028】
合成および構造解析したMgSiAl結晶と同一の結晶構造をとる結晶として、A(D,E)結晶とASi結晶とA(Si,Al)(O,N)結晶とがある。代表的なA元素はMgである。
【0029】
(D,E)結晶においては、MgSiAl結晶において、Mgが入る席にAが、SiとAlとが入る席にはDとEとが入り、OとNとが入る席にはXが入ることができる。これにより、結晶構造を保ったまま、A元素が1に対して、DとEとが合計で4、Xが合計で6の原子数の比とすることができる。ただし、A、D、EのカチオンとXのアニオンとの比は結晶中の電気的中性が保たれる条件を満たすことが望ましい。
【0030】
(Si,Al)(O,N)結晶においては、MgSiAl結晶において、SiとAlとが入る席にはSiとAlとが入り、OとNとが入る席にはOとNとが入ることができる。これにより、結晶構造を保ったまま、A元素が1に対して、SiとAlとが合計で4、OとNとが合計で6の原子数の比とすることができる。ただし、Si/Al比とO/N比とは結晶中の電気的中性が保たれる条件を満たすことが望ましい。
【0031】
本発明のMgSiAl系結晶は、X線回折または中性子線回折により同定することができる。本発明で示すMgSiAl系結晶のX線回折結果と同一の回折を示す物質として、例えば、A(D,E)で示される結晶がある。さらに、MgSiAl結晶において、構成元素が他の元素と置き換わることにより格子定数または原子位置が変化した結晶がある。ここで、構成元素が他の元素で置き換わるものとは、例えば、MgSiAl結晶中のMgの一部または全てが、Mg以外のA元素(ただし、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素)あるいはM元素(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素)で置換したものがある。さらに、結晶中のSiの一部または全てが、Si以外のD元素(ただし、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素)で置換したものがある。さらに、結晶中のAlの一部または全てが、Al以外のE元素(ただし、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素)で置換したものがある。さらに、結晶中のOおよびNの一部または全てがO、Nまたはフッ素で置換したものがある。これらの置換は結晶中の全体の電荷が中性となるように置換される。これらの元素置換の結果、結晶構造が変わらないものは、MgSiAl系結晶である。元素の置換により、蛍光体の発光特性、化学的安定性、熱的安定性が変化するので、結晶構造が保たれる範囲内で、用途に応じて適時選択すると良い。
【0032】
MgSiAl系結晶は、その構成成分が他の元素で置き換わったり、Euなどの付活元素が固溶したりすることによって格子定数は変化するが、結晶構造、原子が占めるサイト、および、その座標によって与えられる原子位置は、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。本発明では、X線回折または中性子線回折の結果をR−3mの空間群でリートベルト解析して求めた格子定数および原子座標から計算されたAl−NおよびSi−Nの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表1に示すMgSiAl結晶の格子定数と原子座標とから計算された化学結合の長さと比べて±5%以内の場合は、同一の結晶構造であると定義してMgSiAl系結晶かどうかの判定を行う。MgSiAl系結晶において、化学結合の長さが±5%を超えて変化すると、化学結合が切れて別の結晶となることが実験上確認されたため、このような判定基準とした。
【0033】
さらに、固溶量が小さい場合は、MgSiAl系結晶の簡便な判定方法として次の方法がある。新たな物質について測定したX線回折結果から計算した格子定数と、表1の結晶構造データを用いて計算した回折のピーク位置(2θ)とが、主要ピークについて一致したときに当該結晶構造が同じものと特定することができる。
【0034】
図2は、MgSiAl結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図である。
【0035】
実際の合成では粉末形態の合成品が得られるため、得られた合成品と図2のスペクトルとを比較することによりMgSiAl系結晶の合成物が得られたかどうかの判定を行うことができる。
【0036】
図2と比較対象となる物質とを比べることにより、MgSiAl系結晶かどうかの簡易的な判定ができる。MgSiAl系結晶の主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度で判定すると良い。表1は、その意味でMgSiAl系結晶を特定する上において基準となるもので重要である。また、MgSiAl系結晶の結晶構造を三方晶の他の晶系を用いても近似的な構造を定義することができる。その場合異なった空間群、格子定数および面指数を用いた表現となるが、X線回折結果(例えば図2)および結晶構造(例えば図1)に変わりはなく、それを用いた同定方法や同定結果も同一の物となる。このため、本発明では、三方晶系としてX線回折の解析を行うものとする。この表1に基づく物質の同定方法については、後述実施例において具体的に述べることとし、ここでは概略的な説明に留める。
【0037】
MgSiAl系結晶に、M元素として、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素を付活すると蛍光体が得られる。MgSiAl系結晶の組成、付活元素の種類および量により、励起波長、発光波長、発光強度等の発光特性が変化するので、用途に応じて選択するとよい。
【0038】
MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶がA(D,E)で示される結晶であり、少なくとも、A元素はLi、Mg、Ba、SrおよびAlからなる群から少なくとも1つ選択される元素を含み、D元素はSiを含み、必要に応じてE元素はAlを含み、X元素はNを含み、必要に応じてX元素はOを含む組成は発光強度が高い。なかでも特に輝度が高いのは、AがMgとAlとLiとの組み合わせであり、DがSi、EがAl、XがNとOとの組み合わせである(Mg,Al,Li)(Si,Al)(O,N)結晶を母体とする蛍光体である。
【0039】
MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、MgSiAl、SrSiAl、(Ba,Mg)SiAl、または、(Mg,Al,Li)SiAlである蛍光体は、結晶が安定であり、発光強度が高い。
【0040】
MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、
MgSi1−xAl3+x3+x3−x、SrSi1−xAl3+x3+x3−x、(Ba,Mg)Si1−xAl3+x3+x3−x、または、(Mg,Al,Li)Si1−xAl3+x3+x3−x(ただし、−2 ≦ x < 1)の組成式で示される結晶をホスト結晶(母体結晶)とする蛍光体は、発光強度が高く、組成を変えることにより色調の変化が制御できる蛍光体である。
【0041】
付活元素MがEuである蛍光体は、特に発光強度が高い。
【0042】
MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が三方晶系である結晶は、特に安定であり、これらをホスト結晶とする蛍光体は発光強度が高い。
【0043】
さらに、MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶が、三方晶系の結晶であり、空間群R−3mの対称性を持ち、格子定数a、b、cが、
a = 0.3013±0.05 nm
b = 0.3013±0.05 nm
c = 4.16158±0.05 nm
の範囲のものは結晶が特に安定であり、これらをホスト結晶とする蛍光体は発光強度が高い。この範囲を外れると結晶が不安定となり発光強度が低下することがある。
【0044】
上述の無機化合物が、組成式M(ただし、式中d+e+f+g+h = 1であり、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)で示され、パラメータd、e、f、g、hが、
0.00001 ≦ d ≦ 0.02
0.07 ≦ e ≦ 0.1
0.08 ≦ f ≦ 0.3
0.05 ≦ g ≦ 0.3
0.45 ≦ h ≦ 0.65
の条件を全て満たす蛍光体は特に発光強度が高い。
【0045】
パラメータdは、付活元素の添加量であり、0.00001より少ないと発光イオンの量が不十分で輝度が低下する。0.02より多いと発光イオン間の相互作用による濃度消光のため発光強度が低下する恐れがある。パラメータeは、Mg等のA元素の組成を表すパラメータであり、0.07より少ないか0.1より高いと結晶構造が不安定になり発光強度が低下する。パラメータfは、Si等のD元素の組成を表すパラメータであり、0.08より少ないか0.3より高いと結晶構造が不安定になり発光強度が低下する。パラメータgは、Al等のE元素の組成を表すパラメータであり、0.05より少ないか0.3より高いと結晶構造が不安定になり発光強度が低下する。パラメータhは、O、N、F等のX元素の組成を表すパラメータであり、0.45より少ないか0.65より高いと結晶構造が不安定になり発光強度が低下する。X元素はアニオンであり、A、M、D、E元素のカチオンと中性の電荷が保たれるようにO、N、F比の組成が決まる。
【0046】
さらに、パラメータd、e、f、g、hが、
d+e = (1/11)±0.05
f+g = (4/11)±0.05
h = (6/11)±0.05
の条件を全て満たす無機化合物は、結晶構造が安定であり特に発光強度が高い。なかでも、
d+e = 1/11
f+g = 4/11
h = 6/11
の条件を全て満たす無機化合物、すなわち、(M,A)(D,E)の組成を持つ結晶は、結晶構造が特に安定であり特に発光強度が高い。
【0047】
さらに、パラメータf、gが、
1/4 ≦ f/(f+g) ≦ 3/4
の条件を満たす無機化合物は、結晶構造が安定であり発光強度が高い。
【0048】
上述の組成式において、X元素がNとOとを含み、組成式Mh1h2(ただし、式中d+e+f+g+h1+h2 = 1、および、h1+h2 = hである)で示され、
1/6 ≦ h1/(h1+h2) ≦ 3/6
の条件を満たす無機化合物は、結晶構造が安定であり発光強度が高い。
【0049】
上述の組成式において、付活元素であるM元素が少なくともEuを含む蛍光体は、本発明の中でも発光強度が高い蛍光体であり、特定の組成では青色から緑色の蛍光体が得られる。
【0050】
上述の組成式において、A元素は少なくともMgを含み、D元素は少なくともSiを含み、E元素は少なくともAlを含み、X元素は少なくともOとNとを含む無機化合物は、結晶構造が安定であり、発光強度が高い。
【0051】
パラメータxおよびyを用いて
EuMg1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、EuSr1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、Eu(Ba,Mg)1−ySi1−xAl3+x3+x3−x、または、Eu(Mg,Al,Li)1−ySi1−xAl3+x3+x3−x
ただし、
−2 ≦ x < 1
0.0001 ≦ y ≦ 0.3
で示される無機化合物は、安定な結晶構造を保ったままxおよびyのパラメータを変えることによる組成範囲内で、Eu/Mg比、Eu/Sr比、Eu/(Ba+Mg)比、Eu/(Mg+Al+Li)比、Si/Al比、N/O比を変化させることができる。これにより、励起波長または発光波長を連続的に変化させることができるため、材料設計がやりやすい蛍光体である。
【0052】
平均粒径0.1μm以上20μm以下の単結晶粒子あるいは単結晶の集合体である無機化合物を含む蛍光体は、発光効率が高く、LEDに実装する場合の操作性がよいため、この範囲の粒径に制御するのがよい。
【0053】
無機化合物に含まれるFe、CoおよびNiの不純物元素は、発光強度低下の恐れがある。蛍光体中のこれらの元素の合計が500ppm以下とすることにより、発光強度低下の影響が少なくなる。
【0054】
本発明の実施形態の1つとして、本発明の蛍光体は、上述のMgSiAl系結晶を母体結晶とし、これに付活イオンMが固溶した無機化合物と、これと異なる他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物であり、無機化合物の含有量が20質量%以上である蛍光体がある。MgSiAl系結晶の蛍光体単体では目的の特性が得られない場合、あるいは、導電性等の機能を付加する場合に本実施形態を用いると良い。MgSiAl系結晶の含有量は目的とする特性により調整するとよいが、20質量%以下では発光強度が低くなる恐れがある。このような観点から、本発明の蛍光体において、20質量%以上を上述の無機化合物の主成分とすることが好ましい。
【0055】
電子線励起の用途など蛍光体に導電性が必要とされる場合は、他の結晶相あるいはアモルファス相として導電性を持つ無機物質を添加すると良い。
【0056】
導電性を持つ無機物質には、Zn、Al、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、窒化物、あるいは、これらの混合物がある。具体的には、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化インジウム、酸化スズなどがある。
【0057】
MgSiAl系結晶の蛍光体単体では目的とする発光スペクトルが得られない場合は、第2の他の蛍光体を添加するとよい。他の蛍光体には、BAM蛍光体、β−サイアロン蛍光体、α−サイアロン蛍光体、(Sr,Ba)Si蛍光体、CaAlSiN蛍光体、(Ca,Sr)AlSiN蛍光体等がある。なお、他の結晶相またはアモルファス相として、上述のような本発明の無機化合物と異なる無機蛍光体を用いてもよい。
【0058】
本発明の実施形態の1つとして、励起源を照射することにより380nmから600nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光体がある。例えば、Euを付活したMgSiAl系結晶の蛍光体は、組成の調整によりこの範囲に発光ピークを持つ。
【0059】
本発明の実施形態の1つとして、励起源が100nm以上500nm以下の波長を持つ真空紫外線、紫外線、可視光、または、電子線あるいはX線で発光する蛍光体がある。これらの励起源を用いることにより効率よく発光させることができる。
【0060】
本発明の実施形態の1つとして、MgSiAlで示される結晶と同一の結晶構造を有する無機結晶にEuが固溶した蛍光体がある。組成を調整することにより、250nmから500nmの光を照射すると、450nm以上530nm以下の青色から緑色の蛍光を発するので、白色LED等の青色から緑色発光の用途に用いると良い。
【0061】
本発明の実施形態の1つとして、励起源が照射されたときに発光する色がCIE1931色度座標上の(x,y)の値で、
0 ≦ x ≦ 0.4
0 ≦ y ≦ 0.9
範囲の蛍光体がある。例えば、
EuMg1−ySi1−xAl3+x3+x3−x
ただし、
−2 ≦ x < 1
0.0001 ≦ y ≦ 0.3
で示される組成に調整することにより、この範囲の色度座標の色を発色する蛍光体が得られる。白色LED等の青色から緑色発光の用途に用いるとよい。
【0062】
このように本発明の蛍光体は、電子線、X線、および、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を持つこと、青色から黄色の発光をすること、特に特定の組成では450nm以上530nm以下の青色から緑色を呈し、かつ、発光波長や発光ピーク幅が調節可能であることが特徴である。このような発光特性により、本発明の蛍光体は、照明器具、画像表示装置、顔料、紫外線吸収剤に好適である。本発明の蛍光体は、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れているという利点をも有し、耐久性に優れた製品を提供し得る。
【0063】
このような本発明の蛍光体の製造方法は特に規定されないが、例えば、焼成することにより、MgSiAl系結晶を母体結晶としこれに付活イオンMが固溶した無機化合物を構成しうる金属化合物の混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において、1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することにより得ることができる。本発明の主結晶は三方晶系で空間群R−3mに属するが、焼成温度等の合成条件により、これと異なる結晶系または空間群を持つ結晶が混入する場合があり得るが、この場合においても、発光特性の変化は僅かであるため高輝度蛍光体として使用することができる。
【0064】
出発原料としては、例えば、金属化合物の混合物が、Mを含有する化合物と、Aを含有する化合物と、Dを含有する化合物と、Eを含有する化合物と、Xを含有する化合物(ただし、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybから選ばれる1種または2種以上の元素、Aは、Li、Mg、Sr、Ba、Alから選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、B、Al、Ga、In、Sc、Y、Laから選ばれる1種または2種以上の元素、Xは、O、N、Fから選ばれる1種または2種以上の元素)とを用いると良い。
【0065】
出発原料として、Mを含有する化合物が、Mを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Aを含有する化合物が、Aを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Dを含有する化合物が、Dを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であり、Eを含有する化合物が、Eを含有する金属、ケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であるものは、原料が入手しやすく安定性に優れるため好ましい。Xを含有する化合物が、酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であるものは、原料が入手しやすく安定性に優れるため好ましい。
【0066】
Euを付活したMgSiAl結晶系の蛍光体を製造する場合は、少なくともユーロピウムの窒化物または酸化物と、マグネシウムの窒化物または酸化物と、アルミニウムの窒化物または酸化物と、酸化ケイ素または窒化ケイ素とを含有する出発原料を用いるのが、焼成時に反応が進行しやすいため好ましい。
【0067】
焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり、焼成雰囲気が窒素を含有する不活性雰囲気であることから、金属抵抗加熱方式又は黒鉛抵抗加熱方式で、炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好適である。
【0068】
窒素を含有する不活性雰囲気の圧力範囲は、出発原料および生成物である窒化物あるいは酸窒化物の熱分解が抑えられるため、好ましくは、0.1MPa以上100MPa以下の範囲である。窒素を含有する不活性雰囲気は、好ましくは、窒素ガス雰囲気である。焼成雰囲気中の酸素分圧は、出発原料および生成物である窒化物あるいは酸窒化物の酸化反応を抑制するため、好ましくは、0.0001%以下である。
【0069】
なお、焼成時間は焼成温度によっても異なるが、通常1〜10時間程度である。
【0070】
蛍光体を粉体または凝集体形状で製造するには、紛体または凝集体の形状である金属化合物の混合物を嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成する方法をとるとよい。嵩密度を40%以下の充填率にすることにより、粒子同士の強固な接着をさけることができる。ここで、相対嵩密度とは、容器に充填された粉体の質量を容器の容積で割った値(嵩密度)と粉体の物質の真密度との比である。特に断りのない限り、本発明では、相対嵩密度を単に嵩密度と称する。
【0071】
金属化合物の混合物の焼成において、混合物を保持する容器に種々の耐熱性材料が使用されうるが、本発明に使用する金属窒化物に対する材質劣化の悪影響が低いことから、学術雑誌Journal of the American Ceramic Society 2002年85巻5号1229ページないし1234ページに記載の、α−サイアロンの合成に使用された窒化ホウ素をコートしたグラファイトるつぼに示されるように、窒化ホウ素をコートした容器、あるいは、窒化ホウ素焼結体等の窒化ホウ素製の容器が適している。このような条件で焼成を行うと、容器から製品にホウ素あるいは窒化ホウ素成分が混入するが、少量であれば発光特性は低下しないので影響は少ない。さらに少量の窒化ホウ素の添加により、製品の耐久性が向上することがあるので、場合によっては好ましい。
【0072】
蛍光体を粉体または凝集体形状で製造するには、金属化合物の混合物の形状は、粉体または凝集体であり、これらの平均粒径は500μm以下とすると、反応性と操作性に優れるので好ましい。
【0073】
粒子または凝集体の粒径を500μm以下にする方法として、スプレイドライヤ、ふるい分け、または、風力分級を用いると作業効率と操作性にすぐれるので好ましい。
【0074】
蛍光体を粉体または凝集体形状で製造するには、ホットプレスによることなく、常圧焼結法またはガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼成手法が、好ましい。
【0075】
蛍光体粉末の平均粒径は、体積基準のメディアン径(d50)で50nm以上200μm以下のものが、発光強度が高いので好ましい。体積基準の平均粒径の測定は、例えば、マイクロトラックやレーザ散乱法によって測定できる。粉砕、分級、酸処理から選ばれる1種ないし複数の手法を用いることにより、焼成により合成した蛍光体粉末の平均粒径を50nm以上200μm以下に粒度調整するとよい。
【0076】
焼成後の蛍光体粉末、粉砕処理後の蛍光体粉末、または、粒度調整後の蛍光体粉末を、1000℃以上で焼成温度以下の温度で熱処理することにより、粉末に含まれる欠陥および粉砕による損傷が回復することがある。欠陥および損傷は発光強度の低下の要因となることがあり、熱処理により発光強度が回復する。
【0077】
蛍光体の合成のための焼成時に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加して焼成してもよい。このような液相を生成する無機化合物は、フラックスとして働き、反応および粒成長が促進されて安定な結晶が得られることがあり、これによって発光強度が向上することがある。
【0078】
焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物には、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種または2種以上の元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいは、リン酸塩の1種または2種以上の混合物がある。これらの無機化合物はそれぞれ融点が異なるため、合成温度によって使い分けると良い。
【0079】
さらに、焼成後に溶剤で洗浄することにより、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物の含有量が低減する。これにより、蛍光体の発光強度が高くなることがある。
【0080】
本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。また、本発明の蛍光体を含有する蛍光体混合物として用いることもできる。本発明の蛍光体を液体媒体中に分散させたものを、蛍光体含有組成物と呼ぶものとする。
【0081】
本発明の蛍光体含有組成物に使用可能な液体媒体としては、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の蛍光体を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じないものであれば、任意のものを目的等に応じて選択することが可能である。液体媒体の例としては、硬化前の付加反応型シリコーン樹脂、縮合反応型シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの液体媒体は一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0082】
液体媒体の使用量は、用途等に応じて適宜調整すればよいが、一般的には、本発明の蛍光体に対する液体媒体の重量比で、通常3重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、通常30重量%以下、好ましくは15重量%以下の範囲である。
【0083】
また、本発明の蛍光体含有組成物は、本発明の蛍光体および液体媒体に加え、その用途等に応じて、その他の任意の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、拡散剤、増粘剤、増量剤、干渉剤等が挙げられる。具体的には、アエロジル等のシリカ系微粉、アルミナ等が挙げられる。
【0084】
本発明の発光装置は、少なくとも発光体または発光光源と蛍光体とを備え、蛍光体は、少なくとも、上述してきた本発明の蛍光体を含む。
【0085】
発光体または発光光源としては、LED発光器具、レーザダイオード発光器具、半導体レーザ、有機EL発光器具、蛍光ランプなどがある。LED発光装置では、本発明の蛍光体を用いて、特開平5−152609、特開平7−99345、特許公報第2927279号などに記載されているような公知の方法により製造することができる。この場合、発光体または発光光源は、330〜500nmの波長の光を発するものが望ましく、中でも330〜420nmの紫外(または紫)LED発光素子または420〜500nmの青色LED発光素子が好ましい。これらのLED発光素子としては、GaNやInGaNなどの窒化物半導体からなるものがあり、組成を調整することにより、所定の波長の光を発する発光光源となり得る。
【0086】
本発明の発光装置としては、本発明の蛍光体を含む、白色発光ダイオード、複数の白色発光ダイオードを含む照明器具、または、液晶パネル用バックライト等がある。
【0087】
このような発光装置において、本発明の蛍光体に加えて、Euを付活したβ−サイアロン緑色蛍光体、Euを付活したα−サイアロン黄色蛍光体、Euを付活したSrSi橙色蛍光体、Euを付活した(Ca,Sr)AlSiN橙色蛍光体、および、Euを付活したCaAlSiN赤色蛍光体から選ばれる1種または2種以上の蛍光体をさらに含んでもよい。上記以外の黄色蛍光体としては、例えば、YAG:Ce、(Ca,Sr,Ba)Si:Euなどを用いてもよい。
【0088】
本発明の発光装置の一形態として、発光体または発光光源がピーク波長300〜500nmの紫外または可視光を発し、本発明の蛍光体が発する青色から黄色光と、本発明の他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光を混合することにより白色光または白色光以外の光を発する発光装置がある。
【0089】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長420nm〜500nm以下の光を発する青色蛍光体を含むことができる。このような、青色蛍光体としては、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl1017:Eu、SrSiAl19ON31:Eu、LaSiAl1932:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ceなどがある。
【0090】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体を含むことができる。このような、緑色蛍光体としては、例えば、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Euなどがある。
【0091】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体を含むことができる。このような黄色蛍光体としては、YAG:Ce、α−サイアロン:Eu、CaAlSiN:Ce、LaSi11:Ceなどがある。
【0092】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体を含むことができる。このような赤色蛍光体としては、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Eu、CaSi:Eu、SrSi:Euなどがある。
【0093】
なお、上述の発光装置の形態は例示であって、本発明の蛍光体に加えて、青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体あるいは赤色蛍光体を適宜組み合わせ、所望の色味を有した白色光を達成することができることは言うまでもない。
【0094】
本発明の発光装置の一形態として、発光体または発光光源が280〜500nmの波長の光を発するLEDを用いると発光効率が高いため、高効率の発光装置を構成することができる。
【0095】
本発明の画像表示装置は、少なくも励起源および蛍光体を備え、蛍光体は、少なくとも、上述してきた本発明の蛍光体を含む。
【0096】
画像表示装置としては、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)などがある。本発明の蛍光体は、100〜190nmの真空紫外線、190〜380nmの紫外線、電子線などの励起で発光することが確認されており、これらの励起源と本発明の蛍光体との組み合わせで、上記のような画像表示装置を構成することができる。
【0097】
特定の化学組成を有する無機化合物を主成分とする本発明の蛍光体は、白色の物体色を持つことから顔料又は蛍光顔料として使用することができる。すなわち、本発明の蛍光体に太陽光、蛍光灯などの照明を照射すると白色の物体色が観察されるが、その発色がよいこと、そして長期間に渡り劣化しないことから、本発明の蛍光体は無機顔料に好適である。このため、塗料、インキ、絵の具、釉薬、プラスチック製品に添加する着色剤などに用いると長期間に亘って良好な発色を高く維持することができる。
【0098】
本発明の蛍光体は、紫外線を吸収するため紫外線吸収剤としても好適である。このため、塗料として用いたり、プラスチック製品の表面に塗布したり内部に練り込んだりすると、紫外線の遮断効果が高く、製品を紫外線劣化から効果的に保護することができる。
【実施例】
【0099】
本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
[合成に使用した原料]
合成に使用した原料粉末は、比表面積11.2m/gの粒度の、酸素含有量1.29重量%、α型含有量95%の窒化ケイ素(宇部興産(株)製のSN−E10グレード)と、比表面積3.3m/gの粒度の、酸素含有量0.82重量%の窒化アルミニウム((株)トクヤマ製のEグレード)と、比表面積13.2m/gの粒度の酸化アルミニウム(大明化学工業製タイミクロン)と、炭酸リチウム(高純度化学製)と、酸化マグネシウム(神島化学製)と、窒化マグネシウム(高純度化学製)と、酸化ストロンチウム(高純度化学製)と、酸化バリウム(BaO;高純度化学製)と、酸化ユーロピウム(Eu;純度99.9%信越化学工業(株)製)と、酸化セリウム(CeO;純度99.9%、信越化学工業(株)製)とであった。
【0101】
[結晶MgSiAlの合成と構造解析]
窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、および、酸化マグネシウム(MgO)をカチオン比がMg:Si:Al = 1:1:3となるような割合で混合組成を設計した。これらの原料粉末を、上記混合組成となるように秤量し、窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢を用いて5分間混合を行なった。次いで、得られた混合粉末を、窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。混合粉末(粉体)の嵩密度は約33%であった。
【0102】
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。混合粉末の焼成手順は次の通りであった。まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10−1Pa以下圧力の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を1MPaとし、毎時500℃で1700℃でまで昇温し、その温度で2時間保持した。
【0103】
合成物を光学顕微鏡で観察し、合成物中から42μm×51μm×4μmの大きさの結晶粒子を採取した。この粒子をエネルギー分散型元素分析器(EDS;ブルカー・エイエックスエス社製QUANTAX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社製のSU1510)を用いて、結晶粒子に含まれる元素の分析を行った。その結果、Mg、Si、Al、O、N元素の存在が確認され、Mg、Si、Alの含有原子数の比は、1:1:3であることが測定された。
【0104】
次に、この結晶粒子をガラスファイバーの先端に有機系接着剤で固定した。これをMoKα線の回転対陰極付きの単結晶X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製のSMART APEXII Ultra)を用いて、X線源の出力が50kV50mAの条件でX線回折測定を行った。その結果、この結晶粒子が単結晶であることを確認した。
【0105】
X線回折測定結果から単結晶構造解析ソフトウエア(ブルカー・エイエックスエス社製のAPEX2)を用いて結晶構造を求めた。得られた結晶構造データを表1に、結晶構造を図1に示す。表1には、結晶系、空間群、格子定数、原子の種類、および、原子位置が記述してあり、このデータを用いて、単位格子の形、大きさ、その中の原子の並びを決めることができる。なお、SiとAlとは同じ原子位置にある割合で入り、酸素と窒素とは同じ原子位置にある割合で入り、全体として平均化したときにその結晶の組成割合となる。
【0106】
この結晶は、三方晶系(Rhombohedral)に属し、空間群R−3m、(International Tables for Crystallographyの166番の空間群)に属し、格子定数a、b、cおよび角度角度α、β、γは、それぞれ
a = 0.3013nm、b = 0.3013nm、c = 4.16158nm、α = 90°、β = 90°、γ = 120°
であった。原子位置は表1に示す通りであった。
【0107】
なお、表中、SiとAlとは同じ原子位置に組成によって決まるある割合で存在し、OとNとは同じ原子位置に組成によって決まるある割合で存在する。また、Xが入る席には酸素と窒素とが入ることができるが、Mgは+2価、Siは+4価、Alは+3価であるので、原子位置およびMgとSiとAlとの比がわかれば、(O,N)位置を占めるOとNとの比は、結晶の電気的中性の条件から求められる。EDSの測定値のMg:Si:Al比と結晶構造データとから求めたこの結晶の組成は、MgSiAlであった。なお、出発原料組成と結晶組成とが異なるのは、少量の第二相としてMgSiAl以外の組成物が生成したことによるが、本測定は単結晶を用いているので解析結果は、純粋なMgSiAl構造を示している。
【0108】
類似組成の検討を行ったところ、MgSiAl結晶は、結晶構造を保ったままMgの一部または全てをLi、Sr、BaまたはAlで置換できることがわかった。すなわち、ASi(AはLi、Mg、Sr、BaまたはAlから選ばれる1種または2種または混合)の結晶は、MgSiAl結晶と同一の結晶構造を持つ。さらにSiの一部をAlで置換、Alの一部をSiで置換、Nの一部を酸素で置換することができ、この結晶はMgSiAlと同一の結晶構造を持つ無機結晶の1つの組成であることが確認された。また、電気的中性の条件から、これらの無機結晶を
MgSi1−xAl3+x3+x3−x、SrSi1−xAl3+x3+x3−x、(Ba,Mg)Si1−xAl3+x3+x3−x、または、(Mg,Al,Li)Si1−xAl3+x3+x3−x(ただし、−2 ≦ x < 1)で示される組成としても記述できる。
【0109】
結晶構造データからこの結晶は今まで報告されていない新規の物質であることが確認された。結晶構造データから粉末X線回折パターンを計算した。結果を図2に示す。
【0110】
図2は、MgSiAl結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図である。
【0111】
今後は、合成物の粉末X回折測定を行い、測定された粉末X線回折パターンが図2と同じであれば図1のMgSiAl結晶が生成していると判定できる。なお、MgSiAl系結晶として結晶構造を保ったまま格子定数等が変化したものは、粉末X線回折測定により得られた格子定数の値と表1の結晶構造データとから粉末X線回折パターンを計算できる。したがって、計算した粉末X線回折パターンと測定された粉末X線回折パターンとを比較することによりMgSiAl系結晶が生成していると判定できる。
【0112】
[蛍光体実施例および比較例;実施例1から例8ならびに比較例1]
表2および表3に示す設計組成にしたがって、原料粉末を表4の混合組成(質量比)となるように秤量した。使用する原料粉末の種類によっては表2および表3の設計組成と表4の混合組成とで組成が異なる場合が生じ得るが、この場合は金属イオンの量が合致するように混合組成を決定した。秤量した原料粉末を窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢とを用いて5分間混合を行なった。その後、混合粉末を窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。混合粉末の嵩密度は約20%から30%であった。
【0113】
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。混合粉末の焼成手順は次の通りであった。まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10−1Pa以下圧力の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を1MPaとし、毎時500℃で表5に示す設定温度まで昇温し、その温度で2時間保持した。
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
次に、合成物をメノウの乳鉢を用いて粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定を行った。結果を図3に示し、主な生成相を表6に示す。さらに、EDS測定により、合成物が、希土類元素、アルカリ土類金属、Si、Al、O、Nを含むことを確認した。実施例8の合成物については、マススペクトルを用いて、Liの分析を行った。具体的には、New Wave Research社製のNd:YAGレーザによるビーム径30μmで波長213nmのレーザ光を合成物に照射して、合成物から揮散してきたLi元素を、レーザアブレーション付属のICPマススペクトルメータにより分析した。
【0119】
図3は、実施例1で合成した合成物の粉末X線回折結果を示す図である。
【0120】
図3のX線回折パターンは、図2に示す構造解析によるMgSiAl結晶のX線回折パターンに良好に一致し、MgSiAl結晶と同一の結晶構造を持つ結晶が主成分であることが確認された。実施例1では、EDSの測定より、合成物はEu、Mg、Si、Al、O、Nを含むことが確認された。また、Eu:Mg:Si:Alの比は、0.1:0.9:1:3であることが確認された。なお、実施例8の合成物はLiを含有することを確認した。以上から、実施例1の合成物は、MgSiAl系結晶にEuが固溶した無機化合物であることが確認された。図示しないが、他の実施例も同様のX線回折パターンを得た。
【0121】
【表6】
【0122】
表6に示すように、本発明の実施例の合成物は、MgSiAl結晶と同じ結晶構造を持つ相が、主な生成相として、20質量%以上含有されることを確認した。混合原料組成と合成物の化学組成との差異は、合成物中に不純物第二相が微量混在していることを示唆している。
【0123】
以上より、本発明の実施例の合成物は、MgSiAl系結晶にEuやCe等の発光イオンMが固溶した無機化合物であることが確認された。
【0124】
焼成後、この得られた合成物(焼成体)を粗粉砕の後、窒化ケイ素焼結体製のるつぼと乳鉢とを用いて手で粉砕し、30μmの目のふるいを通した。粒度分布を測定したところ、平均粒径は3〜8μmであった。
【0125】
これらの粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、青色から黄色に発光することを確認した。これらの粉末の発光スペクトルおよび励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。励起スペクトルのピーク波長と発光スペクトルのピーク波長とを表7に示す。
【0126】
図4は、実施例1で合成した合成物の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
【0127】
【表7】
【0128】
図4によれば、実施例1の合成物は、284nmで最も効率よく励起できることがわかり、284nmで励起したときの発光スペクトルは、456nmにピークを持つ青色発光することがわかった。また、実施例1の蛍光体の発光色は、CIE1931色度座標において、0 ≦ x ≦ 0.4および0 ≦ y ≦ 0.9の範囲内であることを確認した。
【0129】
表7によれば、本発明の合成物は、200nm〜380nmの紫外線、380nm〜500nmの紫色または青色光で励起することが可能であり、青色から黄色発光する蛍光体であることが確認された。
【0130】
以上より、本発明の実施例の合成物は、MgSiAl系結晶にEuやCe等の発光イオンMが固溶した無機化合物であり、この無機化合物は蛍光体であることが分かった。表3および表7によれば、特定の組成に制御することにより、青色から緑色発光する蛍光体を得ることができることが分かる。
【0131】
図5は、実施例1で合成した合成物の物体色を示す図である。
【0132】
図5に示すように、実施例1で得られた合成物が白色の物体色を持ち、発色に優れていることを確認した。図示しないが、他の実施例の合成物も同様の物体色を示した。本発明の合成物である無機化合物は、太陽光または蛍光灯などの照明の照射によって、白色の物体色を示すので、顔料または蛍光顔料として利用できることが分かった。
【0133】
[発光装置および画像表示装置の実施例;実施例9から12]
次に、本発明の蛍光体を用いた発光装置について説明する。
【0134】
[実施例9]
図6は、本発明による照明器具(砲弾型LED照明器具)を示す概略図である。
【0135】
図6に示すいわゆる砲弾型白色発光ダイオードランプ(1)を製作した。2本のリードワイヤ(2、3)があり、そのうち1本(2)には、凹部があり、365nmに発光ピークを持つ紫外発光ダイオード素子(4)が載置されている。紫外発光ダイオード素子(4)の下部電極と凹部の底面とが導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(3)とが金細線(5)によって電気的に接続されている。蛍光体(7)が樹脂に分散され、発光ダイオード素子(4)近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂(6)は、透明であり、紫外発光ダイオード素子(4)の全体を被覆している。凹部を含むリードワイヤの先端部、紫外発光ダイオード素子、蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明な第二の樹脂(8)によって封止されている。透明な第二の樹脂(8)は全体が略円柱形状であり、その先端部がレンズ形状の曲面となっていて、砲弾型と通称されている。
【0136】
本実施例では、α−サイアロン:Eu黄色蛍光体と実施例1で作製した青色蛍光体とを質量比で7:3に混合した蛍光体粉末を37重量%の濃度でエポキシ樹脂に混ぜ、これをディスペンサを用いて適量滴下して、蛍光体を混合したもの(7)を分散した第一の樹脂(6)を形成した。得られた発光装置の発色は、x = 0.33、y = 0.33であり、白色であった。
【0137】
[実施例10]
図7は、本発明による照明器具(基板実装型LED照明器具)を示す概略図である。
【0138】
図7に示す基板実装用チップ型白色発光ダイオードランプ(11)を製作した。可視光線反射率の高い白色のアルミナセラミックス基板(19)に2本のリードワイヤ(12、13)が固定されており、それらワイヤの片端は基板のほぼ中央部に位置し、他端はそれぞれ外部に出ていて電気基板への実装時ははんだづけされる電極となっている。リードワイヤのうち1本(12)は、その片端に、基板中央部となるように発光ピーク波長450nmの青発光ダイオード素子(14)が載置され固定されている。青色発光ダイオード素子(14)の下部電極と下方のリードワイヤとは導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(13)とが金細線(15)によって電気的に接続されている。
【0139】
第一の樹脂(16)と実施例8で作製した緑色蛍光体とCaAlSiN:Eu赤色蛍光体とを混合した蛍光体(17)を混合したものが、発光ダイオード素子近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明であり、青色発光ダイオード素子(14)の全体を被覆している。また、セラミック基板上には中央部に穴の開いた形状である壁面部材(20)が固定されている。壁面部材(20)は、その中央部が青色発光ダイオード素子(14)および蛍光体(17)を分散させた樹脂(16)がおさまるための穴となっていて、中央に面した部分は斜面となっている。この斜面は光を前方に取り出すための反射面であって、その斜面の曲面形は光の反射方向を考慮して決定される。また、少なくとも反射面を構成する面は白色または金属光沢を持った可視光線反射率の高い面となっている。本実施例では、該壁面部材(20)を白色のシリコーン樹脂によって構成した。壁面部材の中央部の穴は、チップ型発光ダイオードランプの最終形状としては凹部を形成するが、ここには青色発光ダイオード素子(14)および蛍光体(17)を分散させた第一の樹脂(16)のすべてを封止するようにして透明な第二の樹脂(18)を充填している。本実施例では、第一の樹脂(16)と第二の樹脂(18)とには同一のエポキシ樹脂を用いた。本発明の照明器具は、青色発光ダイオード素子(14)による青色と、緑色蛍光体による緑色と、赤色蛍光体による赤色との混合により白色発光した。
【0140】
次に、本発明の蛍光体を用いた画像表示装置の設計例について説明する。
【0141】
[実施例11]
図8は、本発明による画像表示装置(プラズマディスプレイパネル)を示す概略図である。
【0142】
赤色蛍光体(CaAlSiN:Eu)(31)、本発明の実施例8の緑色蛍光体(32)および青色蛍光体(BAM:Eu2+)(33)が、ガラス基板(44)上に電極(37、38、39)および誘電体層(41)を介して配置されたそれぞれのセル(34、35、36)の内面に塗布されている。電極(37、38、39、40)に通電するとセル中でXe放電により真空紫外線が発生し、これにより蛍光体が励起されて、赤、緑、青の可視光を発し、この光が保護層(43)、誘電体層(42)、ガラス基板(45)を介して外側から観察され、画像表示装置として機能する。
【0143】
[実施例12]
図9は、本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイパネル)を示す概略図である。
【0144】
本発明の実施例1の青色蛍光体(56)が陽極(53)の内面に塗布されている。陰極(52)とゲート(54)との間に電圧をかけることにより、エミッタ(55)から電子(57)が放出される。電子は陽極(53)と陰極の電圧により加速されて、青色蛍光体(56)に衝突して蛍光体が発光する。全体はガラス(51)で保護されている。図は、1つのエミッタと1つの蛍光体からなる1つの発光セルを示したが、実際には青色の他に、赤色、緑色のセルが多数配置されて多彩な色を発色するディスプレイが構成される。緑色や赤色のセルに用いられる蛍光体に関しては特に指定しないが、低速の電子線で高い輝度を発するものを用いると良い。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の窒化物蛍光体は、従来の蛍光体とは異なる発光特性(発光色や励起特性、発光スペクトル)を有し、かつ、470nm以下のLEDと組み合わせた場合でも発光強度が高く、化学的および熱的に安定であり、さらに励起源に曝された場合の蛍光体の輝度の低下が少ないので、VFD、FED、PDP、CRT、白色LEDなどに好適に使用される窒化物蛍光体である。今後、各種表示装置における材料設計において、大いに活用され、産業の発展に寄与することが期待できる。
【符号の説明】
【0146】
1.砲弾型発光ダイオードランプ。
2、3.リードワイヤ。
4.発光ダイオード素子。
5.ボンディングワイヤ。
6、8.樹脂。
7.蛍光体。
11.基板実装用チップ型白色発光ダイオードランプ。
12、13.リードワイヤ。
14.発光ダイオード素子。
15.ボンディングワイヤ。
16、18.樹脂。
17.蛍光体。
19.アルミナセラミックス基板。
20.側面部材。
31.赤色蛍光体。
32.緑色蛍光体。
33.青色蛍光体。
34、35、36.紫外線発光セル。
37、38、39、40.電極。
41、42.誘電体層。
43.保護層。
44、45.ガラス基板。
51.ガラス。
52.陰極。
53.陽極。
54.ゲート。
55.エミッタ。
56.蛍光体。
57.電子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9