(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多塩基酸単量体とポリアミン単量体とを重合してなり、側鎖にフェノール性水酸基を有し、フェノール性水酸基価が1〜80mgKOH/gであるポリアミド(A)と、前記フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)と、有機溶剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、
ポリアミド(A)は、以下の(i)、(iii)、(vi)を満たすポリアミド、および(ii)、(iv)〜(vi)を満たすポリアミド、の少なくとも一方であり、
化合物(B)は以下の(vii)を満足し、
ポリアミド(A)を構成する全単量体100mol%中に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を10〜95mol%含む熱硬化性樹脂組成物。
(i)ポリアミド(A)は、前記フェノール性水酸基および炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)が同一ポリマー内に含まれる、質量平均分子量が3,000〜1,000,000であるポリアミド(A−1)である。
(ii)ポリアミド(A)は、側鎖にフェノール性水酸基を含み、質量平均分子量が3,000〜1,000,000であるポリアミド(a−1)と、炭素数20〜60の炭化水素基を含み、質量平均分子量が3,000〜1,000,000であるポリアミド(a−2)とを混合したポリアミド(A−3)である。
(iii)ポリアミド(A−1)を構成する単量体として、フェノール性水酸基を具備する単量体および炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含む。
(iv)ポリアミド(a−1)を構成する前記多塩基酸単量体または/および前記ポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含み、且つ前記多塩基酸単量体および前記ポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含まない。
(v)ポリアミド(a−2)を構成する前記多塩基酸単量体または/および前記ポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含み、且つ前記多塩基酸単量体および前記ポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含まない。
(vi)炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体の少なくとも一部が、炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物を含む。
(vii)化合物(B)が、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
化合物(B)として、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレートからなる群より選ばれる少なくとも2種を組み合わせて用いることを特徴とする請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物は、側鎖にフェノール性水酸基を含有するポリアミド(A)(以下、「フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)」とも称する)と、前述のフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)(以下、「化合物(B)」とも称する)とを含有するものである。ポリアミド(A)の合成法は限定されないが、単量体として、通常、2価以上の多塩基酸および/または酸無水物および/またはこれらの低級アルキルエステルから選ばれる多塩基酸化合物と、2価以上のポリアミン化合物とを用いて合成される。ポリアミド(A)中のフェノール性水酸基は、3官能以上の化合物(B)と熱硬化させることによって架橋構造を形成できる。
【0012】
<フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)>
本発明のポリアミド(A)は、(i)フェノール性水酸基および炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)が同一ポリマー内に含まれるポリアミド(A−1)、および/または(ii)側鎖にフェノール性水酸基を含むポリアミド(a−1)と、炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)を含むポリアミド(a−2)とを混合したポリアミド(A−3)である。汎用性溶剤への溶解性および生産性の点からは、前者のポリアミド(A−1)が好ましい。なお、以降の説明において、炭素数20〜60の炭化水素基(但し、前記フェノール性水酸基が結合する芳香環は含まない)の括弧書きを省略するが、「炭素数20〜60の炭化水素基」というときは、前記括弧書きの条件を満たすものとする。また、「炭素数20〜60の炭化水素基」を「C20〜60炭化水素基」とも表記する。また、炭素数20〜60の炭化水素基とは、単量体の重合に寄与する官能基以外の残基の全部または一部に含まれる炭素数20〜60の炭化水素基をいい、炭素・水素以外の元素が含まれない連続した構造の炭素数をカウントする。より好ましくは、単量体の重合に寄与する官能基以外の残基の全部が炭素数20〜60の炭化水素基であることが好ましい。即ち、得られるポリアミド(A−1)に対して主鎖および当該主鎖に直結する側鎖を含めた連続する炭化水素基の炭素の総数をいい、脂肪族(脂環式を含む)の他、芳香環もカウント対象とする。但し、フェノール性水酸基が結合している芳香環は含まないものとする。また、このフェノール性水酸基が結合する芳香環を介して結合された炭化水素基は、其々、別の炭化水素基としてカウントするものとする。
【0013】
ポリアミド(A)は、以下の(iii)〜(vi)を満足するものである。即ち、
(iii)ポリアミド(A−1)を構成する単量体として、フェノール性水酸基を具備する単量体および炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含む。なお、同種単量体内に、フェノール性水酸基と炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を用いてもよいことは言うまでもない。
(iv)ポリアミド(a−1)を構成する多塩基酸単量体または/およびポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含み、且つ多塩基酸単量体およびポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含まない。
(v)ポリアミド(a−2)を構成する多塩基酸単量体または/およびポリアミン単量体に、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体を含み、且つ多塩基酸単量体およびポリアミン単量体に、フェノール性水酸基を具備する単量体を含まない。
(vi)炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体が、炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物を含む。なお、「炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物を含む」とは、炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体の少なくとも一部に、炭素数5〜10の環状構造を具備する単量体が含まれるという意味である。
【0014】
炭素数20〜60の炭化水素基を具備する単量体は、溶解性や屈曲性を効果的に引き出す観点から、炭素数24〜56の炭化水素基を具備する単量体がより好ましく、炭素数28〜48の炭化水素基を具備する単量体が更に好ましく、炭素数36〜44の炭化水素基を具備する単量体がさらに好ましい。
【0015】
(i)または/および(ii)のポリアミド(A)を用いることにより、ポリアミド本来の耐熱性や耐薬品性に損なうことなく、耐湿熱性、柔軟性に優れる硬化物を前記熱硬化性樹脂組成物から形成できる。更に、広範な汎用性の有機溶剤に使用できる熱硬化性樹脂組成物を提供できるというメリットもある。
より具体的には、プリント配線板をはじめとする電子材料周辺に用いられる接着剤およびコーティング剤として非常に重要となる物性、例えば、熱プレス時の寸法安定性、銅やポリイミド基材に対する接着性、半田リフロー時の耐熱性、プリント配線板を折りたたむ際の屈曲性、そして狭ピッチ配線回路のリークタッチを防ぐ電気絶縁性、高周波電気信号が伝播するプリント配線板周りの接着剤およびコーティング剤として重要となる誘電率や誘電正接を著しく改善することができる。これらを実現できる理由を以下に説明する。
【0016】
まず、ポリアミド(A)を構成する単量体として、フェノール性水酸基を有する単量体を用い、主鎖骨格の側鎖に架橋点となる官能基(フェノール性水酸基)を導入することにより、熱硬化による架橋密度を高め、且つ熱プレス時の寸法安定性と半田リフロー時の耐熱性を付与できる点が挙げられる。側鎖のフェノール性水酸基は、ポリアミド(A)の原料として、後述するようにフェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物(多塩基酸単量体)または/およびフェノール性水酸基を有するポリアミン化合物(ポリアミン単量体)を用いることが重要である。
第二に、C20〜60炭化水素基の導入により吸水率の高いアミド結合の濃度を相対的に低くできるので、絶縁信頼性や誘電特性を向上できる点が挙げられる。第三に、C20〜60炭化水素基特有の柔軟性により、また、ポリアミド(A)を構成する単量体中にフェノール性水酸基を導入することにより、屈曲性を向上できる点が挙げられる。従って、折り畳性等が要求されるプリント配線板等の用途に好適に用いることができる。
上記特許文献10に記載されたブタジエンを用いると、結晶性が大きく、溶解性が低くなってしまうという課題があった。一方、C20〜60炭化水素基を具備する単量体として炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物を含むことにより、分子の配列を阻害し、結晶性を低くすることができる。その結果、溶解性を向上させることができる。また、炭素数5〜10の環状構造を具備する化合物は、前記環状構造以外の部分に自由度および疎水性の高い鎖状等のアルキル基などの炭化水素基を含む構造を有するので、より効果的に溶解性を高めることができると共に、誘電率および誘電正接を効果的に低下させる効果がある。C20〜60炭化水素基は、後述するようにポリアミド(A)の原料としてC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物または/およびC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物を用いることで導入できる。
【0017】
仮に、ポリアミドとして、側鎖にフェノール性水酸基を導入せずに、C20〜60炭化水素基を有する構造を導入したポリアミドを用いた場合、アミド結合濃度の低下や柔軟屈曲性の付与により、絶縁信頼性や誘電特性、基材密着性の優れたポリアミドが得られる。しかし、架橋点が主鎖末端にしかないため、硬化物における架橋点間距離が長くなる。その結果、熱プレス時の寸法安定性の悪化とともに、高温加湿のような厳しい条件では絶縁信頼性が悪くなり、更には耐熱性においても、高温の半田リフロー試験や加湿状態での半田試験といった、より高度な耐熱性、耐湿熱性が満足できなくなる。
【0018】
また、ポリアミドとして、C20〜60炭化水素基を導入せずに、フェノール性水酸基を有する構造を導入したポリアミドを用いた場合、架橋密度を向上することができるため、より高度な耐熱性や熱プレス時の寸法安定性を付与することができる。しかし、このようなポリアミドは、アミド結合濃度が高くなりすぎてしまい、ポリアミド自体および該ポリアミドを含有する熱硬化性樹脂組成物が汎用性の有機溶剤に溶解しにくくなるとともに吸湿性が高くなる。その結果、加湿状態での半田試験といったより高度な耐湿熱性が損なわれるとともに、高周波電気信号が伝播するプリント配線板周りの接着剤およびコーティング剤として重要となる誘電率や誘電正接を確保することができなくなる。
【0019】
これに対し、本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)は、フェノール性水酸基とC20〜60炭化水素基という2つの構造を有することにより、汎用性有機溶剤へ溶解でき、熱プレス時の寸法安定性の向上、誘電率や誘電正接を低くできると共に、接着性と耐熱性の両立、屈曲性と電気絶縁性の両立という二律背反を解決できるのである。以下、ポリアミド(A−1),(A−3)の好ましい形態について詳述する。
【0020】
≪ポリアミド(A−1)≫
ポリアミド(A−1)は、多塩基酸単量体(m
1)とポリアミン単量体(m
2)とを重合してなり、側鎖にフェノール性水酸基を有し、且つ、同一ポリマー内にフェノール性水酸基およびC20〜60炭化水素基を有するものである。上記条件を満たせばよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の構造を有する多塩基酸単量体、ポリアミン単量体を適宜用いることができる。
即ち、多塩基酸単量体(m
1)は、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物およびその他の多塩基酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種から、ポリアミン単量体(m
2)は、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物およびその他のポリアミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種から、ポリマー中にフェノール性水酸基およびC20〜60炭化水素基が含まれるように選定すればよい。
C20〜60炭化水素基を含む化合物およびフェノール性水酸基を有する化合物は、同種単量体内に含むように若しくは別の単量体に含むように、多塩基酸単量体(m
1)および前記ポリアミン単量体(m
2)を選定して重合することによりフェノール性水酸基含有ポリアミド(A−1)を得ることができる。
【0021】
即ち、「同種の単量体内に含むように」とは、多塩基酸単量体(m
1)としてフェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物と、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物とを用いてもよいし、ポリアミン単量体(m
2)としてフェノール性水酸基を有するポリアミン化合物と、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物とを用いてもよい、との意である。
また、「別の単量体に含むように」とは、多塩基酸単量体(m
1)としてフェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物を含み、且つポリアミン単量体(m
2)としてC20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物を含むようにしてもよいし、多塩基酸単量体(m
1)としてC20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物を含み、且つポリアミン単量体(m
2)としてフェノール性水酸基を有するポリアミン化合物を含むようにしてもよい、との意である。
いずれの場合においても、その他の多塩基酸化合物やその他のポリアミン化合物は適宜用いることができる。
【0022】
多塩基酸単量体(m
1)とポリアミン単量体(m
2)との重合により生成される主鎖に対し、側鎖に導入されたフェノール性水酸基は、架橋点としての機能を担う。即ち、ポリアミド(A−1)と、後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを熱硬化することにより密な架橋構造を形成できるようになる。その結果、熱プレス時の架橋途中においても寸法安定性が優れるとともに、熱硬化後の半田時の耐熱性も向上する。
【0023】
また、C20〜60炭化水素基は、吸湿性の高いアミド結合の濃度を低くするとともに、柔軟性・屈曲性の付与・向上機能を担う。これにより、熱硬化した後の硬化物の吸湿性が下がり、耐湿熱性を向上させることや、高周波電気信号が伝播するプリント配線板において重要な因子である低誘電率化や低誘電正接化を付与できる。
【0024】
多塩基酸単量体(m
1)たる多塩基酸化合物およびポリアミン単量体(m
2)たるポリアミン化合物は、2価以上の単量体であればよく、3価以上の単量体も適宜用いられる。2価の単量体と3価以上の単量体を組み合わせて、枝分かれ構造を導入しつつ、適切な分子量を調整してもよい。また、1価の単量体を用いて、分子量を適切に保つことも可能である。3価以上の単量体を一部に含ませることにより、凝集力を大きくできるという効果が得られる。3価以上の単量体は、全単量体中に0.1〜20mol%とすることが好ましく、1〜10mol%以下とすることがより好ましい。
【0025】
二塩基酸単量体とジアミン単量体を用いてポリアミド(A)を得た場合には、下記一般式(1)の構造単位を有する。
【化1】
一般式(1)中、R
1は、構造単位毎に独立の構造を有していてもよい多塩基酸化合物残基である2価の連結基であり、R
2は、構造単位毎に独立の構造を有していてもよいポリアミン化合物残基である2価の連結基であり、R
1およびR
2の少なくとも一方は、フェノール性水酸基を有する連結基を含み、且つR
1およびR
2の少なくとも一方は、C20〜60炭化水素基を有する連結基を含む。
ポリアミド(A−1)は、−CO−R
1−CO−NH−R
2−NH−で示される構造単位が少なくとも2以上繰り返されたものである。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、一般式(1)の構造単位を1つ有し、且つ末端が封止された化合物が熱硬化性樹脂組成物に含まれてもよい。
【0026】
フェノール性水酸基含有単量体およびC20〜60炭化水素基含有単量体は、二塩基酸化合物およびジアミン化合物のいずれかの単量体に少なくとも含まれていればよく、二塩基酸化合物およびジアミン化合物の両者にこれらの基が其々含まれていてもよい。例えば2種の二塩基酸化合物R
1−1、R
1−2および2種のジアミン化合物R
2−1、R
2−2を用いる場合、−CO−R
1−1−CO−NH−R
2−1−NH−、−CO−R
1−1−CO−NH−R
2−2−NH−、−CO−R
1−2−CO−NH−R
2−1−NH−、−CO−R
1−2−CO−NH−R
2−2−NH−の構造単位が含まれ得る。
【0027】
<多塩基酸単量体(m
1)>
[フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物]
本発明で用いられるフェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物は特に限定されないが、2−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシイソフタル酸、
2,5−ジヒドロキシイソフタル酸、2,4−ジヒドロキシイソフタル酸、4,6−ジヒドロキシイソフタル酸等のジヒドロキシイソフタル酸、
2−ヒドロキシテレフタル酸、
2,3−ジヒドロキシテレフタル酸、2,6−ジヒドロキシテレフタル酸等のジヒドロキシテレフタル酸、
4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシフタル酸等のヒドロキシフタル酸、
3,4−ジヒドロキシフタル酸、3,5−ジヒドロキシフタル酸、4,5−ジヒドロキシフタル酸、3,6−ジヒドロキシフタル酸等のジヒドロキシフタル酸などが挙げられる。
更にこれらの酸無水物や例えば多塩基酸メチルエステルのようなエステル誘導体なども挙げられる。遊離多塩基酸や酸無水物の場合は脱水反応、エステル誘導体の場合は対応する脱アルコール反応となるという違いが生じるだけである。
なかでも、共重合性、入手の容易さなどの点から、5−ヒドロキシイソフタル酸が好ましい。
なお、5−ヒドロキシイソフタル酸を用いた場合、一般式(1)におけるR1、即ち多塩基酸化合物残基である2価の連結基とは、前記5−ヒドロキシイソフタル酸から2つのカルボキシル基を除いた部分である。
【0028】
[C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物]
本発明で用いられるC20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物としては、好適な例として、炭素数10〜24の二重結合あるいは三重結合を1個以上有する一塩基性不飽和脂肪酸を反応させて得た、炭素数5〜10の環状構造を有する多塩基酸化合物を挙げることができる。反応の一例としては、ディールス−アルダー反応が挙げられる。例えば、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸等の天然の脂肪酸およびこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等を原料に用いてディールス−アルダー反応させて得た二量体化脂肪酸(ダイマー酸)を含む多塩基酸化合物が好適に用いられる。
環状構造は1つでも2つでもよく、2つの場合、2つの環が独立していてもよいし、連続していてもよい。環状構造としては、飽和の脂環構造、不飽和の脂環構造、芳香環が挙げられる。カルボキシル基は環状構造に直接結合することもできるが、溶解性向上、柔軟性向上の観点から、カルボキシル基は脂肪族鎖を介して環状構造と結合していることが好ましい。カルボキシル基と環状構造との間の炭素数は2〜25であることが好ましい。
また、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物は、溶解性向上、柔軟性向上、誘電率および誘電正接の低下の観点から、環状構造以外の部分として自由度および疎水性の高い鎖状のアルキル基を有することが好ましい。アルキル基は1つの環状構造に対し2つ以上であることが好ましい。アルキル基の炭素数は2〜25であることが好ましい。
【0029】
C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物は、通常ダイマー酸(二量体化脂肪酸)から誘導されるダイマーを残基として含む単量体を主成分とし、他に、原料の脂肪酸や三量体化以上の脂肪酸の組成物として得られるものである。中でも、C20〜60炭化水素基を含む単量体100質量%中に、ダイマー酸(二量体化脂肪酸)から誘導されるダイマーを残基として含む単量体の含有量が70質量%以上、好ましくは95質量%以上とすることが好ましい。また、ダイマーに対して水素添加(水添反応)して不飽和度を下げたものが、耐酸化性(特に高温域における着色)や合成時のゲル化抑制の観点から特に好適に用いられる。C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物としては、炭素数10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導されるダイマーを残基として含む単量体(多塩基酸化合物)を用いることが好ましい。
さらにC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物の一部として、炭素数10〜24の一塩基性不飽和脂肪酸から誘導される、トリカルボン酸であるトリマーを残基として含む単量体を用いることが好ましい。
【0030】
前記C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物は公知の反応によって得ることができるが、市販品を用いることもできる。市販品の例としては例えば、クローダジャパン社製の「プリポール1004」、「プリポール1006」、「プリポール1009」、「プリポール1013」、「プリポール1015」、「プリポール1017」、「プリポール1022」、「プリポール1025」、「プリポール1040」や、BASFジャパン社製の「エンポール1008」、「エンポール1012」、「エンポール1016」、「エンポール1026」、「エンポール1028」、「エンポール1043」、「エンポール1061」、「エンポール1062」などが挙げられる。これらの多塩基酸化合物は単独若しくは併用して用いることができる。なかでも炭素数36の「プリポール1009」は接着性を保持したまま、耐熱性、耐湿熱性、誘電率に優れるポリアミドが得られるという点から好適に用いることができる。また、プリポール1004は炭素数44の構造を持つことから、誘電率、屈曲性に優れるポリアミドが得られるという点から好適に用いることができる。また、三量体であるトリカルボン酸成分を約75質量%含有する「プリポール1040」を用いるとポリアミドの凝集力を向上することができ、熱プレス時の寸法安定性や耐熱性向上の点から好適に用いることができる。
なお、後述の「その他の多塩基酸化合物」の1つとして例示する3官能以上の単量体を3官能の多塩基酸化合物として利用することによっても凝集力を向上できる。しかし、後述の3官能以上の単量体は比較的低分子量であるのに対し、前記の三量体であるトリカルボン酸成分は相対的に大きな分子量なので、アミド結合の濃度を効率的に低下できるので、誘電率、誘電正接を小さくできる点でより好ましい。
【0031】
[その他の多塩基酸化合物]
フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物およびC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物以外の多塩基酸化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において特に限定されないが、二塩基酸化合物や3官能以上の多塩基酸化合物が挙げられる。
二塩基酸化合物としては、
フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族二塩基酸、
シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカンジオン酸、ジグリコール酸などの脂肪族二塩基酸、
1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族二塩基酸などが挙げられる。
3官能以上の多塩基酸化合物としては、トリメリット酸、水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0032】
これらの多塩基酸化合物は、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物やC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物に対し、単独で使用してもよいし、複数を併用して用いてもよい。なかでも、イソフタル酸や1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は屈曲性を保持したまま、より耐熱性に優れる強靭なポリアミドが得られるという点から好適に用いることができる。
また、3官能以上のものを使用することにより、ポリアミドに分岐構造を導入し、高分子量化でき、得られるポリアミドの凝集力を大きくできる。その結果、接着性、屈曲性、電気絶縁性に悪影響を与えずに、特に寸法安定性や耐熱性を向上させることができる。
【0033】
さらに、本発明では、一官能のものも使うことができる。一官能のものを使用することにより、ポリアミドの末端官能基となりうるカルボキシル基やアミノ基を減らすことができ、得られるポリアミドの分子量を制御できる。その結果、特にポリアミド樹脂の経時安定性を向上させることができる。
一塩基酸化合物としては、安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2-エチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0034】
<ポリアミン単量体(m
2)>
フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物は特に限定されないが、下記一般式(2)で表されるポリアミンが挙げられる。
【0036】
式中R
3は、直接結合、または炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、またはハロゲンからなる基を示し、例えば、炭素数1〜30の2価の炭化水素基またはハロゲン原子によって水素の一部若しくは全部が置換されている炭素数1〜30の2価の炭化水素基、−(C=O)−、―SO
2−、−O−、−S−、―NH−(C=O)−、―(C=O)−O−、下記一般式(3)で表される基および下記一般式(4)で表される基が挙げられる。式中、rおよびsはそれぞれ独立に1〜20の整数を示し、R
4は水素原子またはメチル基を示す。
【0040】
なお、一般式(2)の化合物を用いた場合、一般式(1)におけるR
2、即ちポリアミン化合物残基である2価の連結基とは、一般式(2)の化合物から2つのアミノ基を除いた部分である。
【0041】
[C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物]
C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物としては、前述のC20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物のカルボシキル基をアミノ基に転化した化合物が挙げられ、市販品の例としては例えば、クローダジャパン社製の「プリアミン1071」、「プリアミン1073」、「プリアミン1074」、「プリアミン1075」や、BASFジャパン社製の「バーサミン551」などが挙げられる。これらのポリアミン化合物は単独または併用して用いることができる。なかでも三量体であるトリアミン成分を約20〜25質量%含有する「プリアミン1071」を用いるとポリアミドの凝集力を向上することができ、熱プレス時の寸法安定性や耐熱性向上の点から好適に用いることができる。また、誘電率、誘電正接を低下する効果の点でも三量体であるトリアミンの利用が好ましい。
なお、ポリアミドの生産安定性の点から、ポリアミドの形成に供する全単量体100質量%中、三量体であるトリアミンおよび前述の三量体であるトリカルボン酸は合計で0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
【0042】
[その他のポリアミン化合物]
次に、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物およびC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物以外のポリアミン化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で特に限定されないが、ジアミン化合物やトリアミン化合物等が挙げられる。
ジアミン化合物としては、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,3−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、3,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノー1,2−ジフェニルエタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ジアミン、
エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、
イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’―ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジンなどの脂環族ジアミン、などが挙げられる。
3官能以上のポリアミン化合物としては、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、などが挙げられる。
なお、芳香環を有していてもアミノ基が直結していない場合は脂肪族等に分類する。
【0043】
これらのポリアミン化合物は、フェノール性水酸基を有するポリアミンやC20〜60炭化水素基を有するポリアミンに対し、単独で使用してもよいし、複数を併用して用いてもよい。なかでも、イソホロンジアミンやノルボルナンジアミンは屈曲性を保持したまま、より耐熱性に優れる強靭なポリアミドが得られるという点から好適に用いることができる。
【0044】
また、3官能以上のものを使用することにより、ポリアミドに分岐構造を導入し、高分子量化でき、得られるポリアミドの凝集力を大きくできる。その結果、接着性、屈曲性、電気絶縁性に悪影響を与えずに、特に寸法安定性や耐熱性を向上させることができる。
【0045】
さらに、本発明では、一官能のものも使うことができる。一官能のものを使用することにより、ポリアミドの末端官能基となりうるカルボキシル基やアミノ基を減らすことができ、得られるポリアミドの分子量を制御できる。その結果、特にポリアミド樹脂の経時安定性を向上させることができる。一方で、末端官能基となりうるカルボキシル基やアミノ基を1官能の化合物で減らさない場合、樹脂中にフェノール基とカルボキシル基および/またはアミノ基が混在することになり、フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)を併用した際に、それぞれの反応性の違いを利用して、加工性や接着性を向上できるため望ましい。一官能のアミン化合物としては、アニリン、4−アミノフェノール、2−エチルヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0046】
本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A−1)は、寸法安定性、接着性、耐熱性、屈曲性、電気絶縁性等、特に向上させたい性能に応じて、前記の多塩基性単量体(m
1)、ポリアミン単量体(m
2)を適宜選択して得ることができる。
【0047】
なお、重合によって得られるポリアミド(A−1)は、フェノール性水酸基を有する成分とC20〜60炭化水素基を有する成分とをランダムに重合してなるものであってもよいし、ブロック重合体であってもよい。
即ち、複数種の多塩基酸単量体化合物の混合物と1種のポリアミン化合物を重合してもよいし、複数種の多塩基酸化合物の混合物と複数種のポリアミン化合物の混合物と重合してもよいし、1種の多塩基酸化合物と複数種のポリアミン化合物の混合物とを重合してもよいし、1種の多塩基酸化合物と1種のポリアミン化合物とを重合した後、末端に残る官能基に応じ、さらに他の多塩基酸化合物や他のポリアミン化合物を重合してもよい。
【0048】
本発明のポリアミド(A−1)は、形成に用いられる全単量体、即ち、多塩基酸単量体(m
1)、ポリアミン単量体(m
2)、および必要に応じて用いられる一塩基酸や一官能のアミン化合物の合計100mol中に、C20〜60炭化水素基を含む化合物を10〜95mol%含むことが好ましく、14〜92mol%含むことがより好ましく、18〜88mol%含むことがさらに好ましい。
【0049】
C20〜60炭化水素基を含む単量体のモル数の計算方法について説明する。まず、C20〜60炭化水素基を含む単量体の分子量(M)を下記式により求める。
M=(56.11×F×1000)/E
F:C20〜60炭化水素基を含む単量体の官能基数
E:C20〜60炭化水素基を含む単量体の酸価(mgKOH/g)
次いで、重合に供したC20〜60炭化水素基を含む化合物の質量を、前記分子量(M)で除することによって、重合に供したC20〜60炭化水素基を含む化合物のモル数を求める。
同様にして重合に供した各単量体のモル数を求め、それらを合計し重合に供した全単量体のモル数を求める。そして、C20〜60炭化水素基を含む化合物のモル数を全単量体のモル数で除することによって、C20〜60炭化水素基を含む化合物の占める割合(mol%)を求めることができる。
【0050】
≪ポリアミドエステル(A−2)≫
本発明ではフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の一種として、前記ポリアミド(A−1)のうち末端にカルボン酸を有するものに、さらにポリオール化合物を反応させてなる、側鎖フェノール性水酸基と、C20〜60炭化水素基と、エステル結合とを有するポリアミドエステル(A−2)も用いることができる。
【0051】
[ポリオール化合物]
エステル結合を導入する際に必要な化合物であるポリオール化合物について説明する。
本発明で用いるポリオール化合物としては、2個以上の水酸基を有した化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、水素添加ビスフェノールA、スピログリコール等の脂肪族あるいは脂環族ジオール類、
1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェノール、o−,m−,およびp−ジヒドロキシベンゼン、1,2−インダンジオール、1,3−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、1,7−ナフタレンジオール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9’−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等の芳香族ジオール類等を挙げることができる。
その他、リン原子含有ジオール、硫黄原子含有ジオール、臭素原子含有ジオールなどが挙げられる。
【0052】
また、その構造中に重合度2以上の繰り返し単位を有するものも使用することができ、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、およびポリシロキサンポリオール類などが挙げられる。
【0053】
これらポリオール化合物をポリアミド(A−1)に反応させ、エステル結合を導入することにより、エステル結合を有しない場合よりも汎用溶剤への溶解性を向上することができる。前記ポリアミドエステル(A−2)中のアミド結合とエステル結合の比率は、アミド結合/エステル結合=0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、1以上であることがさらに好ましい。
アミド結合/エステル結合を0.5以上とすることにより、アミド結合の優れた耐熱性、成型加工性および絶縁信頼性を活かしつつ、汎用性溶剤への溶解性を向上することができる。汎用性溶剤への溶解性よりも、耐熱性、成型加工性および絶縁信頼性が重用しされる場合は、アミド結合を多くすることが好ましい。
ポリアミド(A−2)における理論上のアミド結合/エステル結合は以下のようにして求めることができる。
ポリアミド重合に供した多塩基酸化合物中のカルボキシル基のモル数とポリアミン化合物中のアミノ基のモル数の内、少ない方の官能基(即ち、アミノ基)のモル数をアミド結合のモル数とする。一方、ポリエステル重合に供したポリアミド中のカルボキシル基のモル数とポリオール化合物中のアルコール性水酸基のモル数の内、少ない方の官能基をエステル結合のモル数とする。そして、アミド結合のモル数をエステル結合のモル数を除することで、アミド結合/エステル結合のモル比が計算できる。
なお、カルボキシル基、アミノ基、アルコール性水酸基の各官能基のモル数は、それぞれが含まれる各単量体のモル数にそれぞれ単量体中に含まれる官能基数を掛けることで得られる。また、各単量体のモル数は、重合に供した単量体の質量と、その単量体の分子量とから求めることができる。
【0054】
≪ポリアミド(A−3)≫
ポリアミド(A−3)は、ポリアミド(a−1)と(a−2)を混合してなるポリアミドである。ポリアミド(a−1)は、多塩基酸単量体(m
3)とポリアミン単量体(m
4)とを重合してなり、側鎖にフェノール性水酸基を有し、且つ、C20〜60炭化水素基は有さないものである。上記条件を満たせばよく、その他の多塩基酸単量体、ポリアミン単量体を適宜用いることができる。
即ち、多塩基酸単量体(m
3)は、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物およびその他の多塩基酸化合物(但し、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物は除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種から、ポリアミン単量体(m
4)は、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物およびその他のポリアミン化合物(但し、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物は除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種から、ポリマー中にフェノール性水酸基が含まれるように選定すればよい。
多塩基酸単量体(m
3)またはポリアミン単量体(m
4)の少なくとも一方がフェノール性水酸基を有する。2価の単量体と3価以上の単量体を組み合わせて、枝分かれ構造を導入しつつ、適切な分子量を調整してもよい。また、1価の単量体を用いて、分子量を適切に保つことも可能である。
即ち、ポリアミド(a−1)は、側鎖にフェノール性水酸基を有するが、C20〜60炭化水素基は有しないポリアミドである。
【0055】
一方、多塩基酸単量体(m
5)は、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物およびその他の多塩基酸化合物(但し、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物は除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、ポリアミン単量体(m
6)は、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物およびその他のポリアミン化合物(但し、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物は除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
多塩基酸単量体(m
5)または前記ポリアミン単量体(m
6)の少なくも一方が、C20〜60炭化水素基を含む。
即ち、ポリアミド(a−2)は、C20〜60炭化水素基を有するが、側鎖にフェノール性水酸基は有しないポリアミドである。
【0056】
つまり、ポリアミド(A−3)は、側鎖にフェノール性水酸基を有するが、C20〜60炭化水素基は有しないポリアミド(a−1)と、C20〜60炭化水素基を有するが、側鎖にフェノール性水酸基は有しないポリアミド(a−2)との混合物である。
後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)は、フェノール性水酸基と反応し得る他、カルボキシル基ないしアミノ基の少なくともいずれか一方とも反応し得る場合が多い。
混合物(A−3)とフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物を熱硬化する際、フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)としてカルボキシル基ないしアミノ基の少なくともいずれか一方とも反応し得るものを用いると、混合物(A−3)中のフェノール性水酸基含有ポリアミド(a−1)およびC20〜60炭化水素基を有するポリアミド(a−2)の有する、末端のカルボキシル基や末端のアミノ基も熱硬化反応に活用することができる。
【0057】
フェノール性水酸基含有ポリアミド(a−1)と、C20〜60炭化水素基を有するポリアミド(a−2)との混合比は、(a−1)のフェノール性水酸基価や分子量にもよって適宜調整することが可能であるが、フェノール性水酸基含有ポリアミド:C20〜60炭化水素基を有するポリアミド=5:95〜80:20(質量比)であることが好ましく、10:90〜50:50であることが好ましい。
【0058】
なお、ポリアミド(A−3)についていう「混合物」、「混合」とは、以下の場合を含む意である。即ち、前記ポリアミド(a−1)と前記ポリアミド(a−2)から予め混合物を得た後、後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)を配合する場合や、前記ポリアミド(a−1)と前記ポリアミド(a−2)と後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを配合する場合や、前記ポリアミド(a−1)と後述するフェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを配合した後、前記ポリアミド(a−2)を配合する場合や、その逆を含む意である。
【0059】
多塩基酸単量体(m
3)としては、多塩基酸単量体(m
4)のうち、C20〜60炭化水素基を含む多塩基酸化合物以外のものを挙げることができる。また、一塩基性化合物も併用できる。
ポリアミン単量体(m
4)としては、ポリアミン単量体(m
2)のうち、C20〜60炭化水素基を含むポリアミン化合物以外のものを挙げることができる。また、一官能のアミン化合物も併用できる。
【0060】
多塩基酸単量体(m
5)としては、多塩基酸単量体(m
1)のうち、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物以外のものを挙げることができる。また、一塩基性化合物も併用できる。
ポリアミン単量体(m
6)としては、ポリアミン単量体(m
2)のうち、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物以外のものを挙げることができる。また、一官能のアミン化合物も併用できる。
【0061】
本発明のポリアミド(A−3)は、形成に用いられる全単量体、即ち、多塩基酸単量体(m
3)、ポリアミン単量体(m
4)、多塩基酸単量体(m
5)、ポリアミン単量体(m
6)および必要に応じて用いられる一塩基酸や一官能のアミン化合物の合計100mol中に、C20〜60炭化水素基を含む化合物を10〜95mol%含むことが好ましく、14〜92mol%含むことがより好ましく、18〜88mol%含むことがさらに好ましい。
【0062】
<フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のスペック>
続いて、本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のスペック(フェノール性水酸基価、質量平均分子量、ガラス転移温度)について説明する。
【0063】
本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)は、ポリアミドの側鎖にフェノール性水酸基を含んでいれば、末端がカルボキシル基であってもアミノ基であってもよいし、末端に官能基を有さなくてもよい。ポリアミドの側鎖に含まれるフェノール性水酸基の量は、フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)の種類および量によって適宜調整することができる。
【0064】
[フェノール性水酸基価]
具体的には、本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価は、1〜80mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは5〜60mgKOH/g、更に好ましくは5〜30mgKOH/gである。フェノール性水酸基価が1mgKOH/g以上のポリアミドを用いることによって、密な架橋構造を形成でき、硬化後の塗膜の耐性を向上することができる。また、フェノール性水酸基価が80mgKOH/g以下のポリアミドを用いることによって、硬度、接着性、屈曲性の良好な硬化塗膜を得ることができる。また、フェノール性水酸基価が1〜80mgKOH/gの範囲内において、1mgKOH/gに近い範囲のポリアミドを用いる場合、得られる塗膜の接着性や屈曲性が向上し、一方、80mgKOH/gに近い範囲のポリアミドを用いる場合、架橋点が多くなることから、最終的に得られる塗膜の耐熱性が向上する。このように、本発明においてフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価は、1〜80mgKOH/gの範囲内で目的に応じて調整することが可能である。
【0065】
上記フェノール性水酸基価は、(i)の場合には、単量体のうちのフェノール性水酸基を有する単量体の仕込み比(重合組成)によって調整可能である。また、(ii)の場合には、ポリアミド(a−1)、(a−2)のうちの全単量体のうちのフェノール性水酸基を有する単量体の比率によって調整可能である。例えば、多塩基酸化合物としてフェノール性水酸基を有する5−ヒドロキシイソフタル酸のみを用い、ポリアミン化合物としてフェノール性水酸基を有しないダイマージアミンのみを用いて反応させれば、最終的に得られるフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価を80mgKOH/gに近くすることができ、硬化塗膜の耐熱性をより一層向上することができる。
【0066】
なお、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のうち、混合物(A−3)の場合は、混合物のフェノール性水酸基価をフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のフェノール性水酸基価とする。
【0067】
[質量平均分子量]
フェノール性水酸基有ポリアミド(A)のうち、ポリアミド(A−1)の質量平均分子量は、取扱い性および熱硬化性樹脂組成物にした際の接着性、耐熱性の点から3,000〜1,000,000であることが好ましく、5,000〜550,000であることがより好ましく、10,000〜300,000であることがさらに好ましい。
フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のうち、ポリアミド(a−1)の質量平均分子量は、後述する汎用性溶剤への溶解性の点から500〜30,000であることが好ましく、1000〜20,000であることがより好ましく、1,000〜10,000であることがさらに好ましい。
また、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のうち、ポリアミド(a−2)の質量平均分子量は、ポリアミド(A−1)の場合と同様の範囲であることが好ましい。
【0068】
[フェノール性水酸基有ポリアミド(A)のガラス転移温温度]
本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のガラス転移温度は、−40℃〜120℃であることが好ましく、より好ましくは、−30℃〜80℃である。フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のガラス転移温度を−40℃〜120℃の範囲に調整することで、熱プレス時のはみ出しを抑制することができ、さらには基材に対する良好な埋め込み性が可能となり、接着性をより一層向上することができる。
【0069】
ガラス転移温度の調整は、C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物またはC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物の比率を適宜設定することによって可能となる。例えば、C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物またはC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物の配合比率を高くすることにより、吸水率の高いアミド結合の濃度を低くすることや二量化脂肪酸特有の柔軟屈曲性を付与することができるため、ガラス転移温度は−40℃に近い範囲で調整することができる。
【0070】
なお、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のうち、混合物(A−3)の場合は、混合物のガラス転移温度をフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のガラス転移温度とする。
【0071】
[フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の有機溶剤可溶性]
本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)は、汎用性の有機溶剤に広範囲に可溶である。可溶であるとは、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤およびエステル系溶剤等の汎用の溶剤の混合溶剤95質量部に対して、25℃において、5質量部以上溶解することをいう。特にトルエン/イソプロパノール=50/50(質量比)の混合溶剤95質量部に25℃で5質量部以上溶解することが好ましい。
炭化水素系溶剤としてはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン等が挙げられる。アルコール系溶剤としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等が挙げられる。ケトン系溶剤としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶剤としては酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0072】
<フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の合成>
続いて、本発明のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の合成方法について説明する。
本発明に用いるフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の重合条件は特に限定されるものではなく、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、およびこれらの方法を組み合わせた公知の条件を利用することができる。一般に工業的には、触媒存在下あるいは非存在下において150〜300℃で1〜24時間程度の反応を行う。脱水あるいは脱アルコール反応を促進し、高温による着色、分解反応を避けるために、180〜270℃で大気圧以下の減圧下で反応を行うのが好ましい。
【0073】
フェノール性水酸基含有のポリアミド(A−1)を合成する場合には、例えば、窒素充填したフラスコに、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物または/およびフェノール性水酸基を有するポリアミン化合物、C20〜60炭化水素基を有する多塩基酸化合物または/およびC20〜60炭化水素基を有するポリアミン化合物、イオン交換水を所定量仕込み、20〜100℃で加熱・撹拌することで均一溶解ないし分散する。その後、前記イオン交換水および反応により生ずる水を除去しながら230℃まで徐々に昇温し、230℃に達したら15mmHg程度まで減圧し、1時間程度保持することでフェノール性水酸基含有のポリアミド(A−1)を得ることができる。
なお、多塩基酸化合物とポリアミン化合物とを混合すると、塩を形成し固まり易くなる。イオン交換水の存在下に両者を混合すると形成された塩が、イオン交換水に溶解ないし分散するので、安全性等の点からイオン交換水を利用することが好ましい。
【0074】
エステル結合を有するフェノール性水酸基含有のポリアミドエステル(A−2)を合成する場合には、例えば、多塩基酸化合物の総モル比をポリアミン化合物の総モル数より多い割合で反応させて得られる末端カルボン酸のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A−1)を合成した後、ポリオール化合物およびエステル化触媒を添加し、再び230℃まで徐々に昇温し、その後、1〜2mmHgまで減圧し3時間保持することでフェノール性水酸基含有ポリアミドエステル(A−2)を得ることができる。
【0075】
フェノール性水酸基含有のポリアミド(A−1)およびエステル結合を有するフェノール性水酸基含有のポリアミドエステル(A−2)を得るにあたり、使用されうる触媒の具体例としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物や、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニルなどの亜リン酸エステル、テトラブチルオルソチタネート、テトライソプロピルオルソチタネートなどのチタン系触媒、ジブチルスズオキシド、ジブチルスズラウレート、モノブチルヒドロキシスズオキシドなどのスズ系触媒、テトラブトキシジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウムなどのジルコニウム系触媒などが挙げられる。
【0076】
これらは2種類以上を混合して用いることもできる。また、これらの触媒がフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)中に含有されていても本発明を実施する上で差し支えない。
【0077】
また、副生物は使用した触媒の分解物、分解物の酸化物又はそれらの変性物や、オリゴマー等のアミド化合物等の副生物等の無機塩類の触媒であるが、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)に含有されていても差し支えない。
【0078】
<フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)と、フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)とを含むものである。フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)について説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上述したフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の硬化剤として、化合物(B)を使用する。なお、3官能以上の化合物(B)に加えて、フェノール性水酸基と反応し得る2官能の化合物(C)[以下、「化合物(C)」とも称する]も本発明の趣旨を逸脱しない範囲で加えることができる。化合物(C)を加える場合には、化合物(B)100質量部に対して、架橋密度を効果的に高める観点から100質量部以下とすることが好ましく、60質量部以下とすることがより好ましい。
【0079】
[エポキシ基含有化合物]
本発明において化合物(B)として用い得る3官能以上のエポキシ基含有化合物としては、エポキシ基を分子内に有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、グリジシルエーテル型エポキシ樹脂、グリジシルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、又は環状脂肪族(脂環型)エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂を用いることができる。
【0080】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、又はテトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン等が挙げられる。
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン等が挙げられる。
エポキシ基含有化合物としては、高接着性および耐熱性の点から、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、又はテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを用いることが好ましい。
【0081】
化合物(C)として用い得るエポキシ基含有化合物としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、又はジグリシジルテトラヒドロフタレート等が挙げられる。
環状脂肪族(脂環型)エポキシ樹脂としては、例えば、3’,4’―エポキシシクロへキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどが挙げられる。
エポキシ基含有化合物としては、化合物(B)を単独もしくは二種以上を併用して、或いは化合物(B)に化合物(C)を組み合わせて用いることができる。
【0082】
[イソシアネート化合物]
化合物(B)として用い得るイソシアネート基含有化合物としては、イソシアネート基を分子内に3個以上有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。イソシアネート基はブロック化剤でブロックされているもの、されていないもの、いずれも用いることができるが、ブロック化剤でブロックされているものが好ましい。
【0083】
フェノール性水酸基と反応し得る2官能の化合物(C)として用い得るイソシアネート基含有化合物としては特に限定されないが、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルレンジイソシアネート、2,6−トルレンジイソシアネートの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0084】
フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)として用い得る、イソシアネート基含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、前記で説明したジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体が挙げられる。
【0085】
ブロック化イソシアネート化合物しては、前記イソシアネート基含有化合物中のイソシアネート基がε−カプロラクタムやMEKオキシム等で保護されたブロック化イソシアネート基含有化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、前記イソシアネート基含有化合物のイソシアネート基を、ε−カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。特に、イソシアヌレート環を有し、MEKオキシムやピラゾールでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート三量体は、本発明に使用した場合、保存安定性は勿論のこと、ポリイミドや銅等の接合材に対する接着強度や半田耐熱性に優れるため、非常に好ましい。
【0086】
[カルボジイミド基含有化合物]
フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)として用い得る、カルボジイミド基含有化合物としては、日清紡績社製のカルボジライトシリーズが挙げられる。その中でもカルボジライトV−01、03、05、07、09は有機溶剤との相溶性に優れており好ましい。
【0087】
[金属キレート化合物]
フェノール性水酸基と反応し得る3官能以上の化合物(B)として用い得る、金属キレート化合物としては、アルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、ジルコニウムキレート化合物が挙げられるが、中心金属が鉄やコバルト、インジウム、など種々の金属でもキレート結合を形成しうるため、特に限定されるものではない。なお、ここでの金属キレート、および後述する金属アルコキシドと金属アシレートの官能基数は中心金属の価数として計算され、3官能以上、即ち、中心金属の価数が3以上のものが化合物(B)として用い得る。
【0088】
ここで本発明に用いられるアルミニウムキレート化合物としては、代表的なものとして、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0089】
また、チタンキレート化合物としては、代表的なものとして、チタンアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ポリチタンアセチルアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0090】
また、ジルコニウムキレート化合物としては、代表的なものとして、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセチルアセトネート、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、等が挙げられる。
【0091】
[金属アルコキシド]
金属アルコキシド化合物としては、アルミニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物が挙げられるが、中心金属が鉄やコバルト、インジウム、など種々の金属でもアルコキシド結合を形成しうるため、特に限定されるものではない。
【0092】
また、アルミニウムアルコキシド化合物としては、代表的なものとして、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムブチレート、アルミニウムエチレート等が挙げられる。
【0093】
また、チタンアルコキシド化合物としては、代表的なものとして、イソプロピルチタネート、ノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、ターシャリーアミルチタネート、ターシャリーブチルチタネート、テトラステアリルチタネート等が挙げられる。
【0094】
また、ジルコニウムアルコキシド化合物としては、代表的なものとして、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート等が挙げられる。
【0095】
[金属アシレート]
金属アシレート化合物としては、アルミニウムアシレート化合物、チタンアシレート化合物、ジルコニウムアシレート化合物が挙げられるが、中心金属が鉄やコバルト、インジウム、など種々の金属でもアルコキシド結合を形成しうるため、特に限定されるものではない。
【0096】
3官能以上の化合物(B)は、一分子中に同種の官能基が3官能以上含まれている他、官能基が合計で3官能以上含まれている官能基も含む。例えば、キレート、アルコキシドおよびアシレートが1つの分子中に混在したものも好適に用いることができる。
【0097】
本発明において、化合物(B)は一種のみを単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。複数を併用した場合、フェノール基とカルボキシル基および/またはアミノ基が混在したポリアミド(A)を用いた際、それぞれの反応性の違いを利用した、加工性や接着性が向上するといった相乗効果が発揮されるため、望ましい。中でも、「金属キレート、金属アルコキシド、金属アシレートからなる群より選ばれる少なくとも一つ」と「3官能以上のエポキシ基含有化合物」は反応性が大きく違うこと、また、向上できる物性の特徴が違うことから、大きな相乗効果が期待できるため、好ましい。化合物(B)の使用量は、本発明の硬化性樹脂組成物の用途等を考慮して決定すればよく、特に限定されるものではないが、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)100質量部に対して、0.5〜100質量部の割合で加えることが好ましく、1〜80質量部の割合で加えることがより好ましい。化合物(B)を使用することにより、本発明の硬化性樹脂組成物の架橋密度を適度な値に調節することができるので、硬化後の塗膜の各種物性をより一層向上させることができる。化合物(B)の使用量が0.5質量部に近いと、加熱硬化後の塗膜の架橋密度が高くなりすぎることを抑えることができ、所望の屈曲性や接着性を発揮することができる。さらに、極性官能基の増加を抑えることで所望の誘電率や誘電正接、耐湿熱性を発揮することができる。また、該使用量が100質量部に近いと、加熱硬化後の架橋密度を一層高くすることができ、その結果、塗膜の電気絶縁性などの塗膜耐性を向上することができる。
【0098】
本発明では、フェノール性水酸基と反応するかやや不明確ではあるが、カルボキシル基と反応し得る化合物や、アミノ基と反応し得る化合物を、前記化合物(B)と併用することができる。
カルボキシル基と反応し得る化合物としては、アジリジン化合物、β―ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物、ジシアンジアミドが挙げられる。アミノ基と反応し得る化合物としては、マレイミド化合物が挙げられる。
【0099】
特に、2,2’−ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]は、本発明に使用した場合、熱プレス時のはみ出しを抑制でき、且つ硬化塗膜の柔軟性を保持したまま耐熱性を向上できるため、本発明において好ましく用いられる。
【0100】
本発明では、硬化促進剤として硬化反応に直接寄与する化合物を含有することができる。硬化促進剤としては、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、イミダゾール化合物、3級アミン化合物等が挙げられる。
【0101】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)、化合物(B)を必須とし、適宜有機溶剤を含有することができる。
例えば、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて、シート状の接着剤(接着性シート、接着フィルム等とも言う)を得る場合、溶液状態の熱硬化性樹脂組成物から溶剤をすばやく乾燥させる必要があるため、低沸点の溶剤を用いることが好ましい。一方、溶剤が低沸点過ぎると塗工時の安定性を損なうおそれがある。
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて、液状レジストインキを得る場合、保存工程、塗工工程など、基材への塗工が完了するまでの間は、溶剤の揮発を極力抑制するために高沸点の溶剤を用いることが好ましい。
低沸点の溶剤としては、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、イソプロパノール、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が挙げられる。
高沸点の溶剤としては、カルビトールアセテート、メトキシプロピルアセテート、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
本発明ではこれら有機溶剤を適宜単独で、または複数用いることができる。
フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)を生成する際に溶剤を用いる場合には、前記溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物とすることもできるし、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A)生成時の溶剤を留去した後、新たに別の溶剤を添加し、液状の熱硬化性樹脂組成物を得ることもできる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物の固形分は、5〜80質量%、好ましくは取り扱い性の観点から10〜50質量%である。
【0102】
<その他の添加剤>
この他、本発明の熱硬化性樹脂組成物には目的を損なわない範囲で任意成分として更に、染料、顔料、難燃剤、酸化防止剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、イオン捕集剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、電磁波シールド剤、フィラー等を添加することができる。
特に電子材料用途で回路に直接接するような絶縁部材(例えば回路保護膜、カバーレイ層、層間絶縁材料など)や、回路周辺の高熱となりうる部材(プリント配線板接着剤、支持基板など)に使用する場合は、難燃剤を併用するのが好ましい。また、導電性粒子を配合することにより導電性接着剤や電磁波シールドシートを得ることもできる。
【0103】
<シート状の熱硬化性樹脂組成物>
溶液状態の熱硬化性樹脂組成物を、剥離性基材の少なくとも片面に、塗布後、通常40〜150℃で乾燥することにより、いわゆるBステージ状態のシート状の熱硬化性樹脂組成物を製造することができる。シート状の熱硬化性樹脂組成物の他方の面は剥離性基材で覆うことができる。シート状の熱硬化性樹脂組成物は、後述するように接着剤シートとして使うことができる。シート状の熱硬化性樹脂組成物の乾燥膜厚は、充分な接着性、ハンダ耐熱性を発揮させる為、また取り扱い易さの点から、5〜500μmであることが好ましく、更に好ましくは10〜100μmである。
塗布方法としては、例えば、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、グラビア印刷、フレキソ印刷、ディップコート、スプレーコート、スピンコート等が挙げられる。
【0104】
<硬化物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物のうち、液状の熱硬化性樹脂組成物を基材に塗工し、加熱し、乾燥・硬化することにより、前記基材上に硬化物を形成できる。
あるいは、液状の熱硬化性樹脂組成物を基材に塗工し、加熱し、乾燥した状態の熱硬化性樹脂組成物に、他の基材(被着体、接着対象ともいう)を重ねた状態で加熱し、熱硬化性樹脂組成物を硬化し、両基材を接着することもできる。
あるいは、上述のように液状の熱硬化性樹脂組成物からシート状の熱硬化性樹脂組成物(接着性シート)を得、このシートを2つ以上の基材間に挟み、加熱し熱硬化性樹脂組成物を硬化し、2つ以上の基材を接着することもできる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、60〜230℃で、5分〜2時間加熱することで硬化することができる。
【0105】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を加熱により硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度は−40〜150℃であることが好ましく、より好ましくは、−20℃〜150℃である。前述のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)のガラス転移温度を−40℃〜120℃の範囲に調整することで、硬化後の屈曲性、電気絶縁性をバランスよく発揮することができる。
【0106】
<プリント配線板>
次に熱硬化性樹脂組成物は、プリント配線板の保護層として好適に利用できる。例えば、ポリエステルやポリイミド等の可とう性、絶縁性のあるプラスチックフィルム上に、導体パターンをプリント技術によって形成したフレキシブルプリント配線板の導体パターンを覆うように、シート状の熱硬化性樹脂組成物を重ね、加熱・加圧することによって、熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、保護層を設けたフレキシブルプリント配線板を得ることができる。シート状の熱硬化性樹脂組成物の代わりに、液状の熱硬化性樹脂組成物を塗工し、乾燥・硬化し、保護層を設けることもできる。
【0107】
また、複数のフレキシブルプリント配線板の間に、表面を覆っていた剥離性基材を剥がし、シート状の熱硬化性樹脂組成物(接着性シート)を挟み、加熱・加圧することによって、熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、多層フレキシブルプリント配線板を得ることもできる。本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて、銅箔と耐熱性絶縁性フレキシブル基材とを積層することもできる。
シート状の熱硬化性樹脂組成物の代わりに、液状の熱硬化性樹脂組成物を1つのフレキシブルプリント配線板に塗工し、乾燥し、前記乾燥物上に他のフレキシブルプリント配線板や耐熱性絶縁性フレキシブル基材を重ね、加熱・加圧することによっても、同様の積層体を得ることができる。
【0108】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて、補強板付きフレキシブルプリント配線板を得ることもできる。補強板付きフレキシブルプリント配線板とは、フレキシブルプリント配線板の一部に、ガラスエポキシ、金属、ポリイミド等の補強板を付けたものである。表面を覆っていた剥離性基材を剥がし、シート状の熱硬化性樹脂組成物(接着性シート)をフレキシブルプリント配線板と補強板との間に挟み、加熱・加圧することによって、熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、フレキシブルプリント配線板に補強板を付けることができる。
シート状の熱硬化性樹脂組成物の代わりに、液状の熱硬化性樹脂組成物を用いることができることは前記と同様である。
【0109】
なお、導電性回路を有するフレキシブルプリント配線板を得る方法としては、例えば、接着剤層を介して又は介さずにベースフィルム上に銅箔を設けてなるフレキシブル銅張板の銅箔上に感光性エッチングレジスト層を形成し、回路パターンを持つマスクフィルムを通して露光させて、露光部のみを硬化させ、次いで未露光部の銅箔をエッチングにより除去した後、残っているレジスト層を剥離するなどして、銅箔から導電性回路を形成することができる。あるいは、ベースフィルム上にスパッタリングやメッキ等の手段で必要な回路のみを設けたものであってもよい。
【実施例】
【0110】
以下に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における、「部」および「%」は、「質量部」および「質量%」をそれぞれ表し、Mwは質量平均分子量、Tgはガラス転移温度を意味する。
【0111】
<フェノール性水酸基価の測定方法>
フェノール性水酸基価は、フェノール性水酸基含有ポリアミド1g中に含まれるフェノール性水酸基の量を、フェノール性水酸基をアセチル化させたときにフェノール性水酸基と結合した酢酸を中和するために必要な水酸化カリウムの量(mg)で表したものである。フェノール性水酸基価は、JIS K0070に準じて測定した。本発明において、末端カルボン酸のフェノール性水酸基含有ポリアミドのフェノール性水酸基価を算出する場合には、下記式に示す通り、酸価を考慮して計算する。
<フェノール性水酸基価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解する。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mLとした溶液)を正確に5mL加え、約1時間攪拌した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。
水酸基価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
水酸基価(mgKOH/g)
=[{(b−a)×F×28.05}/S]+D
但し、
S:試料の採取量(g)
a:0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
b:空実験の0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
F:0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
【0112】
<酸価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。酸価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
但し、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0113】
<アミン価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解する。これに、別途0.20gのMethyl Orangeを蒸溜水50mLに溶解した液と、0.28gのXylene Cyanol FFをメタノール50mLに溶解した液とを混合して調製した指示薬を2、3滴加え、30秒間保持する。その後、溶液が青灰色を呈するまで0.1Nアルコール性塩酸溶液で滴定する。アミン価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
但し、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性塩酸溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性塩酸溶液の力価
【0114】
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「GPC-101」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「KF−805L」(昭和電工社製:GPCカラム:8mmID×300mmサイズ)を直列に2本接続して用い、試料濃度1wt%、流量1.0ml/min、圧力3.8MPa、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。データ解析はメーカー内蔵ソフトを使用して検量線および分子量、ピーク面積を算出し、保持時間17.9〜30.0分の範囲を分析対象として質量平均分子量を求めた。
【0115】
<ポリアミドのガラス転移温度の測定方法>
溶剤を乾燥除去したポリアミド(A)について、メトラー・トレド社製「DSC−1」を使用し、サンプル量約5mgをアルミニウム製標準容器に秤量し、温度変調振幅±1℃、温度変調周期60秒、昇温速度2℃/分の条件にて、−80〜200℃まで測定し、可逆成分の示差熱曲線からガラス転移温度を求めた。
【0116】
<ポリアミドの合成>
[合成例1] 撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、炭素数36の多塩基酸化合物としてプリポール1009を202.9g(二塩基酸換算で0.35mol)、フェノール性水酸基を有する多塩基酸化合物として5−ヒドロキシイソフタル酸を25.7g(0.14mol)、その他の多塩基酸化合物としてテレフタル酸35.1g(0.21mol)、炭素数36のポリアミン化合物としてプリアミン1074(ジアミン換算で0.59mol)を313.9g、イオン交換水を100g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持し、温度を低下させた。最後に、酸化防止剤を添加し、重量平均分子量9800、酸価22.8mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、フェノール性水酸基価13.7mgKOH/g、ガラス転移温度4℃のフェノール性水酸基含有ポリアミド(A−1)を得た。なお、反応に供した全単量体100mol%中、C20〜60炭化水素基を有する単量体は、72.7mol%である。
【0117】
[合成例2〜19] 合成例1と同様の方法で、表1および表2の組成および仕込み質量部に従って合成を行い、C20〜60炭化水素基を有する、フェノール性水酸基含有ポリアミド(A−1)を得た。その特性値を表1および表2に示す。
【0118】
<ポリアミドエステルの合成>
[合成例20] 撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、炭素数36の多塩基酸化合物としてプリポール1009を136.7g(二塩基酸換算で0.24mol)、フェノール性水酸基を有する多塩基酸として5−ヒドロキシイソフタル酸を10.9g(0.06mol)、その他のポリアミン化合物としてワンダミンHMを200.2g(0.25mol)、イオン交換水を100g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、1時間保持し、温度を低下させた。
次いで、内温が150℃まで低下したところに、さらに炭素数36のポリオール化合物としてプリポール2033を3.5g(ジオール換算で0.038mol)、テトラブチルオルソチタネートを0.20g添加し、再度230℃まで昇温し、約2kPaの真空下で、1時間保持し、さらに約1kPaの真空下で2〜3時間反応させ、最後に、酸化防止剤を添加し、質量平均分子量38400、酸価5.9mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、フェノール性水酸基価15.2mgKOH/g、ガラス転移温度25℃のフェノール性水酸基含有ポリアミドエステルを得た。
なお、アミド/エステルの比6.5であり、反応に供した全単量体100mol%中、C20〜60炭化水素基を有する化合物は、47.3mol%である。
【0119】
[合成例21〜23] 合成例20と同様の方法で、表3の組成および仕込み質量部に従って合成を行い、C20〜60炭化水素基を有する、フェノール性水酸基含有ポリアミドエステルを得た。その特性値を表3に示す。
【0120】
[合成例24] 撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、その他の多塩基酸化合物としてドデカン二酸を48.6g(0.21mol)、フェノール性水酸基を有するポリアミン化合物として4,4’−ジアミノー3,3’―ジヒドロキシビフェニルを6.9g(0.03mol)、その他のアミン化合物としてワンダミンHMを87.6g(0.42mol)、イオン交換水を100g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持し、温度を低下させた。最後に、酸化防止剤を添加し、質量平均分子量2800、酸価0.5mgKOH/g、アミン価185.8mgKOH/g、フェノール性水酸基価25.1mgKOH/g、ガラス転移温度140℃のフェノール性水酸基含有ポリアミド(a−1)を得た。
【0121】
また、これとは別に、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、炭素数36の多塩基酸化合物としてプリポール1009を284.0g(二塩基酸換算で0.49mol)、炭素数36のポリアミン化合物としてプリアミン1074を102.7g(ジアミン換算で0.19mol)、イオン交換水を100g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持し、温度を低下させた。最後に、酸化防止剤を添加し、質量平均分子量8800、酸価87.4mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、ガラス転移温度-30℃のC20〜60炭化水素基を有するポリアミド(a−2)を得た。反応に供した全単量体100mol%中、C20〜60炭化水素基を有する化合物は、51mol%である。
【0122】
[合成例25] 撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、合成例24で得られたフェノール性水酸基含有ポリアミド(a−1)121.3g、およびC20〜60炭化水素基を有するポリアミド(a−2)380gを入れ、110℃まで昇温し、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、1時間保持し、温度を低下させた。最後に、酸化防止剤を添加し、質量平均分子量16600、酸価13.6mgKOH/g、アミン価0.4mgKOH/g、フェノール性水酸基価6.9mgKOH/g、ガラス転移温度18℃のフェノール性水酸基含有ポリアミドエステルを得た。
【0123】
[比較合成例1〜2] 合成例1と同様の方法で、表3の組成および仕込み質量部に従って合成を行った。比較合成例1はフェノール性水酸基を有さないポリアミドであり、比較合成例2は、C20〜60炭化水素基を有さない、フェノール性水酸基含有ポリアミドである。その特性値を表3に示す。
【0124】
[比較合成例3] <ポリウレタンの合成>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、エチレングリコール15.8部、1.6−ヘキサンジオール5.3部、トルエンジイソシアネート49.8部、トルエン84.4部を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いて、これに触媒としてジブチル錫ジラウレート0.006部を投入し、110℃で3時間反応させた。その後、温度を低下し、無水トリメリット酸5.5部、トルエン238部を添加し、110℃で3時間反応させ、質量平均分子量14900、酸価42.0mgKOH/g、ガラス転移温度5.0℃のポリウレタンを得た。
【0125】
[比較合成例4] <フェノール性水酸基含有ポリエステルの合成>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、フェノール性水酸基を有する多塩基酸として5−ヒドロキシイソフタル酸25.7部、その他の多塩基酸としてアジピン酸を82.4部、炭素数36のポリオールとしてプリポール2033を332.3部、トルエン139.3部を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いて、これに触媒としてテトラブチルオルソチタネートを0.77部投入し、110℃で3時間反応させた。その後、230℃まで昇温し、約2kPaの真空下で、1時間保持し、さらに約1kPaの真空下で2〜3時間反応させ、最後に、酸化防止剤を添加し、質量平均分子量9600、酸価23.4mgKOH/g、フェノール性水酸基価18.0mgKOH/g、ガラス転移温度34℃のフェノール性水酸基含有ポリエステルを得た。
【0126】
[比較合成例5] <フェノール性水酸基含有ポリアミドエステルの合成>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、その他の多塩基酸化合物としてイソフタル酸を24.9g、フェノール性水酸基を有する多塩基酸として5−ヒドロキシイソフタル酸を10.9g、その他のポリオール化合物として1.6−ヘキサンジオールを78.5g、その他のポリアミン化合物としてメタキシレンジアミンを5.2g、テトラブチルオルソチタネートを0.08g、イオン交換水を100g仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、2〜3時間反応させ、最後に、酸化防止剤を添加し、質量平均分子量14600、酸価15.5mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、フェノール性水酸基価30.6mgKOH/g、ガラス転移温度112℃、アミド/エステルの比0.15のフェノール性水酸基含有ポリアミドエステルを得た。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
以下、表1〜3において共通。
プリポール1009:クローダジャパン社製、C36ダイマー酸、C6の環状構造を1つ有する化合物を含む(酸価:195mgKOH/g)
プリポール1004:クローダジャパン社製、C44ダイマー酸、C6の環状構造を1つ有する化合物を含む(酸価:164mgKOH/g)
1,4-CHDA:1,4-シクロヘキサンジカルボン酸
5−HIPA:5−ヒドロキシイソフタル酸
MXDA:メタキシレンジアミン
NBDA:ノルボルナンジアミン
ビスアニリンM:三井化学ファイン社製、芳香族ジアミン
ワンダミンHM:新日本理化社製、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン
プリアミン1074:クローダジャパン社製、C36ダイマージアミン、C6の環状構造を1つ有する化合物を含む(アミン価:210mgKOH/g)
プリアミン1071:クローダジャパン社製、C36ダイマージアミン(C6の環状構造を1つ有す)とC54トリマートリアミン(C6の環状構造を1つ有す)との80:20(質量比)の混合物を含む(アミン価:198mgKOH/g)
IPDA:イソホロンジアミン
DPS:4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン
HAB:4,4’−ジアミノー3,3’―ジヒドロキシビフェニル
プリポール2033:クローダジャパン社製、C36ダイマージオール、C6の環状構造を1つ有する化合物を含む(OH価:207mgKOH/g)
C590:クラレ社製、ポリカーボネートポリオール
【0131】
[実施例1] 合成例1で得られたフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)をトルエン/IPA=50/50(質量比)の混合溶剤で固形分30%になるように溶解した。前記ポリアミド(A)100部を含む溶液に、化合物(B)としてテトラキスフェノール型エポキシ化合物「1031s」(三菱化学社製)20部を配合し、固形分濃度が25%になるようにトルエン/IPA=50/50の混合溶剤を加え、熱硬化性樹脂組成物を得た。
この熱硬化性樹脂組成物を剥離処理されたポリエステルフィルム上に、乾燥後の膜厚が30μmとなるように均一に塗工して乾燥させ、接着剤層を設けた。次に、剥離処理された別のポリエステルフィルムを接着剤層側にラミネートし、両面保護フィルム付きの接着性シートを得た。得られた熱硬化性樹脂組成物または接着性シートについて後述する方法にて、物性や性能を評価した。
【0132】
[実施例2〜25] 合成例1で得られたフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の代わりに、合成例2〜25で得られたフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物、および両面保護フィルム付きの接着性シートを得た。
【0133】
[実施例26〜47] 合成例8で得られたフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)に対し、テトラキスフェノール型エポキシ化合物「1031s」の代わりに表7〜9に示す化合物(B)および量をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物、および両面保護フィルム付きの接着性シートを得た。
【0134】
[実施例48〜63] 合成例8または合成例3で得られたフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)に対し、エポキシ化合物として多官能グリシジルアミン化合物である、jER604(三菱化学社製)、Tiキレート化合物としてTC401(松本ファインケミカル社製)を表10、11に示す種々の量、用いた以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物、および両面保護フィルム付きの接着性シートを得た。
【0135】
[実施例64〜108] 実施例1と同様にして表12〜16に示した組成で熱硬化性樹脂組成物を得、実施例1と同様にして両面保護フィルム付きの接着性シートを作製した。
【0136】
[比較例1〜5] 合成例1で得られたフェノール性水酸基含有ポリアミド(A)の代わりに、比較合成例1〜5で得られた樹脂をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物、および両面保護フィルム付きの接着性シートを得た。
【0137】
[比較例6〜15] 比較合成例1〜5で得られた樹脂をそれぞれ用い、表18に示す組成にて、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物、および両面保護フィルム付きの接着性シートを得た。
なお、比較合成例2、5で得られた樹脂を、トルエン/IPA=50/50(質量比)の混合溶剤で固形分30%になるように溶解しようとしたが、溶解性が乏しく、透明な溶液にはならず、樹脂の一部が沈殿した。
【0138】
[比較例16〜24] 比較例16〜21は、合成例2,4で得られた樹脂をそれぞれ用い、フェノール性水酸基と反応し得る化合物として、化合物(B)の代わりにエポキシ5を用いた以外は実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。比較例22〜24は、化合物(B)の代わりにエポキシ5および下記フェノール樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして両面保護フィルム付きの接着性シートを得た。
【0139】
以下、表4〜17に示した記号を示す。
エポキシ1:jER1031S、三菱化学社製、4官能テトラキスフェノール型エポキシ化合物
エポキシ2:jER604、三菱化学社製、4官能多官能グリシジルアミン化合物
エポキシ3:TETRAD−C、三菱ガス化学社製、4官能多官能グリシジルアミン化合物
エポキシ4:TETRAD−X、三菱ガス化学社製、4官能多官能グリシジルアミン化合物
エポキシ5:jER828、三菱化学社製、2官能BisA型エポキシ化合物
キレート1:アルミキレートA、川研ファインケミカル社製、3官能Alキレート化合物
キレート2:ALCH、川研ファインケミカル社製、3官能Alキレート化合物
キレート3:TC401、マツモトファインケミカル社製、4官能Tiキレート化合物
キレート4:ZC700、マツモトファインケミカル社製、4官能Zrキレート化合物
アルコキシド1:ASBD、川研ファインケミカル社製、3官能lアルコキシド化合物
アルコキシド2:TA-30、マツモトファインケミカル社製、4官能Tiアルコキシド化合物
アルコキシド3:ZA-65、マツモトファインケミカル社製、4官能Zrアルコキシド化合物
アシレート:TC800、マツモトファインケミカル社製、4官能Tiアシレート化合物
イソシアネート:BL3175、住化バイエルウレタン社製、3官能イソシアヌレート型ブロックイソシアネート
カルボジイミド1:V-07、日清紡社製、多官能ポリカルボジイミド化合物
カルボジイミド2:V-03、日清紡社製、多官能ポリカルボジイミド化合物
フェノール樹脂:TD2625、DIC社製、多官能フェノールノボラック樹脂
アジリジン:ケミタイトPZ33、日本触媒社製、3官能アジリジン化合物
DICY:ジシアンジアミド
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール
TPP-K:北興化学工業社製、ホスホニウムボレート化合物
【0140】
実施例および比較例で得られた接着性シートについて、加工性、接着性、耐熱性、耐湿熱性、電気絶縁性、屈曲性、誘電率、誘電正接を以下の方法で評価した。
【0141】
<評価>
(1)<硬化膜のガラス転移温度の測定方法>
熱硬化性樹脂組成物を剥離フィルム上に塗工し、100℃で2分乾燥させ、厚みが約30μmになるように試験サンプルを作製する。この試験サンプルを幅5mm、長さ20mmの短冊状に切り出し、粘弾性試験機(アイティー計測制御社製、DVA225)を用いて周波数10Hzの引張り歪を与えながら、温度領域−50℃〜300℃、10℃/分の昇温速度で引張りモードにより粘弾性を測定し、損失正接tanδ(損失弾性率E''/貯蔵弾性率E')のピークトップ温度をガラス転移温度とした。
【0142】
(2) 寸法安定性
両面保護フィルム付きの接着性シートから両面を覆っていた保護フィルムを除去した、65mm×65mmの大きさの接着性シートを、厚さが75μmのポリイミドフィルム[東レ・デュポン社製「カプトン300H」]の間に挟み、80℃でラミネートし、続いて160℃、1.0MPaの条件で30分圧着処理を行った。さらに、この試験片を160℃で2時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この試験片について、圧着処理前と熱硬化後との接着剤層の面積の差を測定し、これをはみ出し面積として加工性を評価した。この加工性は、圧着処理時に接着層が熱によって軟化し、回路基板の位置ズレや配線間の接触を引き起こす度合いを評価するものであり、結果を次の基準で判断した。
aaa: はみ出し面積≦50mm
2
aa: 50mm
2<はみ出し面積≦100mm
2
a: 100mm
2<はみ出し面積≦250mm
2
b: 250mm
2<はみ出し面積≦500mm
2
c: 500mm
2<はみ出し面積
【0143】
(3) 接着性
寸法安定性の評価で作製した試験片を幅10mm、長さ65mmに切り出し、23℃相対湿度50%の雰囲気下で、引っ張り速度300mm/minでTピール剥離試験を行い、接着強度(N/cm)を測定した。この試験は、常温使用時における接着層の接着強度を評価するものであり、結果を次の基準で判断した。
aa: 12(N/cm)<接着強度
a: 8(N/cm)<接着強度≦12(N/cm)
b: 5(N/cm)<接着強度≦8(N/cm)
c: 接着強度≦5(N/cm)
【0144】
(4) 耐熱性
上記(3)と同様に、幅10mm、長さ65mmに切り出した試験片を、250℃または270℃の溶融半田に、ポリイミドフィルム面を接触させて1分間浮かべた。その後、試験片の外観を目視で観察し、接着剤層の発泡、浮き、剥がれ等の接着異常の有無を評価した。この試験は、半田接触時における接着層の熱安定性を外観で評価するものであり、耐熱性の良好なものは、半田処理の前後で外観が変化しないのに対して、耐熱性の悪いものは、半田処理後に発泡や剥がれが発生する。これらの評価結果を次の基準で判断した。
aa: 外観変化無し。
a: 小さな発泡がわずかに観察される。
b: 発泡が観察される。
c: 激しい発泡や剥がれが観察される。
【0145】
(5) 耐湿熱性
上記(3)と同様に、幅10mm、長さ65mmに切り出した試験片を、40℃、相対湿度90%の雰囲気で72時間放置して加湿させ、23℃相対湿度50%の雰囲気下に取り出した後、1分以内に、250℃の溶融半田に、ポリイミドフィルム面を接触させて1分間浮かべた。その後、試験片の外観を目視で観察し、接着剤層の発泡、浮き、剥がれ等の接着異常の有無を評価した。この試験は、加湿させた状態での半田接触時における接着層の熱安定性を、外観で評価するものであり、耐湿熱性の良好なものは、外観が変化しないのに対して、耐湿熱性の悪いものは、半田処理後に発泡や剥がれが発生する。これらの評価結果を次の基準で判断した。
aa: 外観変化全く無し。
a: 外観変化ほとんど無し。
b: 発泡が観察される。
c: 激しい発泡や剥がれが観察される。
【0146】
(6)電気絶縁性
両面保護フィルム付きの接着性シートから両面の保護フィルムを除去した、65mm×65mmの大きさの接着性シートを、厚さが25μmのポリイミドフィルム[東レ・デュポン社製「カプトン100H」]とポリイミド上に銅回路が形成された櫛型パターン(導体パターン幅/スペース幅=50μm/50μm)印刷回路基板との間に挟み、80℃でラミネートし、続いて160℃、1.0MPaの条件で30分圧着処理を行った。さらに、この試験片を160℃で2時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この試験片の導体回路に、温度130℃、相対湿度85%の雰囲気下で直流電圧50Vを連続的に100時間加え、100時間後の導体間の絶縁抵抗値を、23℃相対湿度50%の雰囲気下で測定した。評価基準は以下の通りである。
aa: 絶縁抵抗値10
8Ω以上
a: 絶縁抵抗値10
7以上10
8Ω未満
b: 絶縁抵抗値10
6以上10
7Ω未満
c: 絶縁抵抗値10
6Ω未満
【0147】
(7)屈曲性
熱硬化性樹脂組成物を、厚さが75μmのポリイミドフィルム[東レ・デュポン社製「カプトン300H」]上に、乾燥後の膜厚が30μmになるように均一に塗工して乾燥させ、さらに、この試験片を160℃で2時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。評価用試験片を、硬化塗膜面を外側にして180度折り曲げ、その時の塗膜の状態を、次の基準で評価した。
a: 膜面にクラック(ひび割れ)が見られない。
b: 膜面にわずかにクラックが見られる。
c: 膜が割れ、膜面にはっきりとクラックが見られる。
【0148】
(8)誘電率
実施例および比較例で作製した両面保護フィルム付き接着性シートの片面の保護フィルムを除去した接着性シートの間に、両面の保護フィルムを除去した接着性シートを多数挟んだ状態で、真空ラミネートし、厚さ1mmの接着性シートを作製した後、160℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この試験片について、エー・イー・ティー社製の誘電率測定装置を用い、同軸共振器法により、測定温度23℃、測定周波数1GHzにおける誘電率および誘電正接を求めた。
aa: 誘電率が2.8以下である。
a: 誘電率が2.8より大きく3.0以下である。
b: 誘電率が3.0より大きく3.2以下である。
c: 誘電率が3.2より大きい。
【0149】
(9)誘電正接
aa: 誘電正接が0.02以下である。
a: 誘電正接が0.02より大きく0.03以下である。
b: 誘電正接が0.03より大きく0.05以下である。
c: 誘電正接が0.05より大きい。
【0150】
【表4】
【0151】
【表5】
【0152】
【表6】
【0153】
【表7】
【0154】
【表8】
【0155】
【表9】
【0156】
【表10】
【0157】
【表11】
【0158】
【表12】
【0159】
【表13】
【0160】
【表14】
【0161】
【表15】
【0162】
【表16】
【0163】
【表17】
【0164】
【表18】
【0165】
【表19】
【0166】
ポリアミド中にフェノール性水酸基を有していない比較合成例1のポリアミドを用いた比較例1、6、11は、接着性シートの寸法安定性、耐熱性、耐湿熱性、電気絶縁性が著しく劣る(表17、18参照)。
また、C20〜60炭化水素基を含む単量体を有していない比較合成例2、5のポリアミドは溶解性が乏しく、これらのポリアミドを用いた比較例2、5、7、10、12、15では、均一な接着性シートが形成できなくなるとともに、接着性シートの耐湿熱性、誘電率、誘電正接が著しく悪い。
アミド結合の代わりにポリエステル結合を多数含む比較合成例4で得た樹脂を用いた比較例4、9、14の接着性シートは絶縁信頼性が著しく悪い。
また、フェノール性水酸基、炭素数20〜60の炭化水素基で表される構造、アミド結合のいずれも有さない比較合成例3のポリウレタン樹脂を用いた比較例3、8、13は、寸法安定性、耐熱性、耐湿熱性、電気絶縁性、誘電率、誘電正接が著しく悪い。
加えて、フェノール性水酸基、炭素数20〜60の炭化水素基で表される構造、アミド結合のいずれをも持ったポリアミド樹脂であっても、2官能のエポキシを用いた比較例16〜21では、塗膜の架橋密度が上がりにくいために、寸法安定性、耐熱性、耐湿熱性、電気絶縁性が著しく悪い。また、2官能のエポキシと多官能のフェノール樹脂の2種類の硬化剤を組み合わせて用いた比較例22〜24では、多官能のフェノール樹脂を用いることで、寸法安定性、耐熱性、耐湿熱性は良好な結果が得られるものの、Tg上昇効果の高い芳香環を多数含有し高架橋密度となるために、屈曲性が著しく低下する上、高密度でフェノール由来の高極性官能基を有するため、誘電率、誘電正接が著しく悪化する(低誘電率性、低誘電正接性を示さない)。
【0167】
一方、実施例に用いたポリアミドは、フェノール性水酸基とC20〜60炭化水素基を含む単量体を用いて重合したものであり、更にフェノール性水酸基と反応し得る化合物として3官能以上の化合物(B)を必須としているために、全ての物性においてバランスよく良好な結果が得られ、特に比較例で二律背反の関係にあった寸法安定性と低誘電率性、耐熱性と低誘電正接性を両立することができた。これは、本発明の特徴である、ポリアミドの側鎖に架橋点となるフェノール性水酸基を導入し、且つ3官能以上の化合物(B)を必須として用いることで、熱硬化した後の架橋密度が上がり、熱プレス時の寸法安定性と半田リフロー時の耐熱性を付与できるからと考えられる。また、C20〜60炭化水素基を有する部分をポリアミド(A)に導入したことで、吸水率の高いアミド結合の濃度を低くすることができ、結果的に耐湿熱性を付与し、低誘電率性および低誘電正接性が優れたものが得られると考えられる。
【0168】
また、分岐構造を有する実施例(表11参照)は、分岐構造を有しない実施例(例えば、表10参照)に比して寸法安定性、耐熱性をより効果的に改善できる。