特許第6074860号(P6074860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 岡山大学の特許一覧

<>
  • 特許6074860-細胞培養器 図000002
  • 特許6074860-細胞培養器 図000003
  • 特許6074860-細胞培養器 図000004
  • 特許6074860-細胞培養器 図000005
  • 特許6074860-細胞培養器 図000006
  • 特許6074860-細胞培養器 図000007
  • 特許6074860-細胞培養器 図000008
  • 特許6074860-細胞培養器 図000009
  • 特許6074860-細胞培養器 図000010
  • 特許6074860-細胞培養器 図000011
  • 特許6074860-細胞培養器 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6074860
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】細胞培養器
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20170130BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C12M3/00 Z
   C12M1/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-512445(P2013-512445)
(86)(22)【出願日】2012年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2012061271
(87)【国際公開番号】WO2012147878
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2015年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-99776(P2011-99776)
(32)【優先日】2011年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100082821
【弁理士】
【氏名又は名称】村社 厚夫
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 恵治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢
(72)【発明者】
【氏名】徳山 英二郎
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−197883(JP,A)
【文献】 特開2003−135056(JP,A)
【文献】 特開2008−301758(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/052653(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/123035(WO,A1)
【文献】 特開2007−119033(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/007525(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0191621(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体培地を入れることができる容器と、該容器の内面により支持され、細胞懸濁体を保持するための細胞懸濁体保持部材を有する、細胞培養を行うための細胞培養器であって、
該培養器を液体培地で満たした際に、前記細胞懸濁体保持部材に保持された細胞懸濁体が、その対向する外面を液体培地に対し露出し、
前記培養容器及び前記細胞懸濁体保持部材が、変形可能であり、かつ、前記細胞懸濁体保持部材が細胞懸濁体の対向する外面を挟持することを特徴とする細胞培養器。
【請求項2】
液体培地に対し露出する前記細胞懸濁体の対向する外面が、前記細胞懸濁体の上面と底面であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養器。
【請求項3】
液体培地に対し露出する前記細胞懸濁体の対向する外面が、前記細胞懸濁体の側面であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養器。
【請求項4】
液体培地に対し露出する前記細胞懸濁体の対向する外面が、前記細胞懸濁体の上面、底面及び側面であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養器。
【請求項5】
前記細胞懸濁体が、ゲルであることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル内で細胞を高い生存率で培養することができる細胞培養器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の二次元培養はプラスチック製シャーレなどを用いて行われている。
一方、細胞の三次元培養では足場となる材料(スキャホールド)としてコラーゲン等のゲルを使用し、細胞とゲルを混ぜ合わせた細胞懸濁ゲルを調製し、該細胞懸濁ゲルを液体培地に浸して行われる。その際、該細胞懸濁ゲルを前記プラスチック製シャーレに入れて、その上から液体培地を注いで細胞培養を行うこともあれば、別の方法では、細胞懸濁ゲルを伸展し、内部にある細胞へ機械刺激を加えることを目的とした、三次元培養器(特許文献1参照)に細胞懸濁ゲルを入れ、その上から液体培地を注ぎ、さらに必要に応じて、該三次元培養器を伸展させながら細胞培養を行う方法がある。
【0003】
前記三次元培養器は、細胞の足場となるゲルにおいて、細胞へ均一に応力をかけることが求められる。そのため、変形可能な材料で矩形箱状に形成され、底膜及び該底膜の全周縁から立設する側壁を備え、側壁の内面が多孔質に形成された細胞培養器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表WO2007/123035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術の細胞培養器である、プラスチック製シャーレや既存の三次元培養器(特許文献1)は細胞を包含するゲルの上面のみが、細胞に栄養を供給する液体培地と接触し、液体培地へ露出したゲルの一面のみから栄養が供給され、ゲルの中心部、下方部等にある細胞には栄養が十分に供給されないことから培養された細胞の細胞生存率が低いという問題があった。
【0006】
(発明の目的)
本発明は、従来の細胞培養器における上述した問題に鑑みなされたものであって、従来技術に比較して、ゲルの中心部、下方部等にある細胞にも栄養を十分に供給して、培養された細胞の細胞生存率を高く維持できる細胞培養器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
液体培地を入れることができる容器と、該容器の内面により支持され、細胞懸濁体を保持するための細胞懸濁体保持部材とを有する、細胞培養を行うための培養器であって、
該培養器を液体培地で満たした際に、前記細胞懸濁体保持部材に保持された細胞懸濁体が、液体培地に対し対向する外面を露出することを特徴とする培養器である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の細胞培養器によれば、従来技術に比較して培養された細胞の細胞生存率が高く維持し、かつゲル内の細胞に容易にかつ効率的に伸展させて機械刺激を与えることができる。
【0009】
(発明の実施態様)
前記課題を解決するための手段において、前記培養容器及び前記細胞懸濁体保持部材が、変型可能であることを特徴とする。
【0010】
前記課題を解決するための手段において、前記細胞懸濁体の対向する位置の外面が、前記細胞懸濁体の上面と底面であることを特徴とする。
【0011】
前記課題を解決するための手段において、前記細胞懸濁体の対向する位置の外面が、前記細胞懸濁体の側面であることを特徴とする。
【0012】
前記細胞懸濁体の対向する位置の外面が、前記細胞懸濁体の上面、底面及び側面であることを特徴とする。
【0013】
前記課題を解決するための手段において、前記細胞懸濁体が、ゲルであることを特徴とする。
【0014】
このように構成することによって、細胞培養器の外部から培養細胞の伸展を行い、培養細胞により容易にかつより効率的に機械刺激を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態の細胞培養器の斜視図である。
図2図1の線II−IIに沿った断面図である。
図3】本発明の第2実施形態の細胞培養器の斜視図である。
図4図3の線IV−IVに沿った断面図である。
図5】本発明の第3実施形態の細胞培養器の平面図である。
図6】本発明の第4実施形態の細胞培養器の斜視図である。
図7図6の線VII−VIIに沿った断面図である。
図8図6の線VIII−VIIIに沿った断面図である。
図9】比較試験のための従来技術の細胞培養器の断面図である。
図10】比較試験の本発明の第1実施形態の細胞培養器のゲルの写真である。
図11】比較試験の従来技術の細胞培養器のゲルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
第1実施形態の細胞培養器は、図1及び図2に示すように、培養容器2、細胞懸濁体であるゲルを保持するゲル保持部材4、及び細胞懸濁体であるゲル6を有する。
培養容器2は、シリコンエラストマー、PDMS(Polydimethylsiloxane)等の材料で作成される。培養容器2は、ストレックス株式会社製造の培養器STB−CH−04を使用することも可能である。ストレックス株式会社製造の培養器STB−CH−04は、縦25mm、横40mm、高さ12mmの略直方体であり、中央部に液体培地空間10を形成する縦20mm、横20mm、深さ10mmの凹部が形成されている。培養容器2の四隅には、培養容器2を応力装置(図示せず)にねじ固定するためのねじ止め孔12が形成されている。前記応力装置(図示せず)は、培養容器2に応力を与えて、培養容器2及び後述するゲル保持部材4を変形させるためのものである。
【0017】
ゲル保持部材4は、アズワン株式会社製の発泡シリコンシート(SSP-2.0S、SSP-4.0S)を切断して作成した。ゲル保持部材4は、幅約1.5mm、高さ約2.0mm、長さは液体培地空間10の縦と等しく20mmである。ゲル保持部材4の長さ方向に延びる中央部には、幅約1.0mmの上下貫通のゲル保持孔20が設けられている。
【0018】
ゲル保持部材4は、液体培地空間10を形成する培養容器2の内側側壁へ接着される。接着剤は、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製のシリコン樹脂(TSE3032(A)及びTSE3032(B))を使用し、TSE3032(A)とTSE3032(B)を10:1で混合した後に該混合液を接着部に塗布し、60℃で1時間加温する。
【0019】
ゲル6は、その中に細胞を三次元的に懸濁させるものであり、自己組織化ペプチドゲル、コラーゲンゲル等である。ゲル6は、ゲル保持部材4のゲル保持孔20内に配置される。
【0020】
(第2実施形態)
第2実施形態の細胞培養器は、図3及び図4を使用して説明するが、第1実施形態と同一の構成については、図3及び図4に第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
ゲル保持部材24は、中心に上下貫通したゲル保持丸孔26が形成されている。ゲル保持丸孔26の中には、上端面27がゲル保持部材24の上面と一致し、下端面28が液体培地空間10の底面に到達した支持ポール部材30が配置される。ゲル保持丸孔26と支持ポール部材30の間には間隙32があり、間隙32にゲル6が配置される。
【0021】
(第3実施形態)
第3実施形態の細胞培養器は、図5を使用して説明するが、第1実施形態と同一の構成については、図5に第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
ゲル保持部材44は、第1実施形態のゲル保持部材14と同じく液体培地空間10の底部との間に間隔があるように支持されている。ゲル保持部材44は、第1実施形態のゲル保持部材14より幅広であり、両側に三角形の切り込み46がある。ゲル保持部材44の中央部には、W形ゲル保持隙間48が形成されている。
【0022】
(第4実施形態)
第4実施形態の細胞培養器は、図6ないし図8を使用して説明するが、第1実施形態と同一の構成については、図6ないし図8に第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0023】
ゲル保持部材104は、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製のシリコン樹脂(TSE3032(A)及びTSE3032(B))を使用した。TSE3032(A)とTSE3032(B)を10:1で混合し、該混合液をモールド型に入れた後に、60℃で2時間加温して得られたシリコン樹脂を用いた。ゲル保持部材104は、幅約3.0mm、高さ約2.0mm、長さは液体培地空間10の縦と等しく20mmである。ゲル保持部材104の長さ方向に延びる中央部には、幅約1.0mmの上下貫通のゲル保持孔120が設けられている。ゲル保持部材104にはさらに、水平方向に延びて貫通し、ゲル保持孔120と交差する複数の1.0mmの水平貫通孔130が設けられている。水平貫通孔130は、ゲル保持孔120に挿入されたゲル6の側面に懸濁された細胞を、部分的に液体培地に露出させるように作用する。
【0024】
ゲル保持部材104は、液体培地空間10を形成する培養容器2の内側側壁へ接着される。接着剤は、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアル・ジャパン合同会社製のシリコン樹脂(TSE3032(A)及びTSE3032(B))を使用し、TSE3032(A)とTSE3032(B)を10:1で混合した後に該混合液を接着部に塗布し、60℃で1時間加温する。
【0025】
(比較試験)
本発明の細胞培養器によって、ゲルの中心部及び下方部にある細胞にも栄養を十分に供給されて培養された細胞の細胞生存率を高いこと確認するために、以下の比較試験を行った。
第1細胞培養器は、本発明に係る前記第1実施形態の細胞培養器である。第2細胞培養器は、図9に示すように、ゲル保持部材4’及びゲル6’が、液体培地空間10’の底面に接触して、ゲル6’に懸濁された細胞に液体培地から十分な栄養が供給されないことが推定される。
【0026】
第1細胞培養器及び第2細胞培養器において、マウス筋芽細胞(C2C12)を、2x106 cells/mLで自己集合性ペプチドゲル(メニコン、PanaceaGel SPG178、最終濃度0.27%)に混合した。混合されたゲル60uLを、発泡シリコンシートの隙間にピペットを用いて加えた。その後、液体培地(DMEM+10%FCS)を約3mL加えて、混合ゲルを液体培地に浸し、37℃のインキュベーター(CO2濃度 5%)にいれて、3日間培養した。
【0027】
3日後、液体培地を取り除き、代わりに生細胞染色色素(同仁化学、Calcein-AM)を 8.3 ug/mL (1mg/mLの濃度の液50uLを6mLのDMEMに溶解)の濃度で溶解させたDMEMを、約3mL加え、37℃のインキュベーター(CO2濃度 5%)で30分間加温した。
【0028】
その後、ゲルを発泡シリコンシートの間隙から取り出し、メスで輪切りにした後、底面部分の生細胞の分布を、オリンパス製の共焦点レーザー顕微鏡FLUOVIEW FV1000で観察した。図10は、本発明に係る前記第1実施形態の第1細胞培養器によるゲルの断面像である。図11は、従来技術の第2細胞培養器によるゲルの断面像である。これらの染色像において、白い部分は、生細胞を示し、点線は、ゲル底面の境界を示す。これらの染色像において、本発明に係る前記第1実施形態の第1細胞培養器による細胞生存率が、従来技術の第2細胞培養器による細胞生存率より遙かに高いことが読み取れる。
【符号の説明】
【0029】
2 培養容器
4 ゲル保持部材
6 ゲル
10 液体培地空間
12 ねじ止め孔
20 ゲル保持孔
24 ゲル保持部材
26 ゲル保持丸孔
27 上端面
28 下端面
30 支持ポール部材
32 間隙
44 ゲル保持部材
48 W形ゲル保持隙間
104 ゲル保持部材
120 ゲル保持孔
130 水平貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11