【文献】
Am. J. Kidney Dis.,1989年,vol.14, suppl.2,pp.39-44
【文献】
Nat. Immun. Cell Growth Regul.,1987年,vol.6, no.5,pp.219-223
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液中に浮遊させた細胞の表面に生理活性物質を固定化した後であって、かつ細胞に刺激を与えて活性化させる前に、前記細胞を培養容器に播種して、前記細胞を前記生理活性物質を介して前記培養容器内の表面に付着させることにより、前記培養容器において前記細胞に刺激を与えて活性させることを特徴とする細胞活性化方法。
前記生理活性物質の固定化後、前記液中における前記細胞に固定化されなかった生理活性物質を洗浄して除去した後に、前記細胞を培養容器に播種することを特徴とする請求項1記載の細胞活性化方法。
前記生理活性物質が抗体及び/又は細胞接着性糖タンパク質及び/又は糖脂質及び/又はグロースファクターであり、細胞が含まれる液中に抗体及び/又は細胞接着性糖タンパク質及び/又は糖脂質及び/又はグロースファクターを添加して反応させ、前記固定化を行う
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞活性化方法。
前記固定化反応が行われた液に緩衝液を添加して、遠心分離と再懸濁を所定回数繰り返すことで、前記洗浄を行うことを特徴とする請求項3又は4記載の細胞活性化方法。
液中に浮遊させた細胞の表面に生理活性物質を固定化した後であって、かつ細胞に刺激を与えて活性化させる前に、前記細胞を培養容器に播種して、前記細胞を前記生理活性物質を介して前記培養容器内の表面に付着させることにより、前記培養容器において前記細胞に刺激を与えて活性化を完了させるとともに、前記培養容器をそのまま用いて前記細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
前記生理活性物質の固定化後、前記液中における前記細胞に固定化されなかった生理活性物質を洗浄して除去した後に、前記細胞を培養容器に播種することを特徴とする請求項8記載の細胞培養方法。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、培養容器(培養バッグ)に細胞と培養液を充填して、閉鎖系で自動的に細胞を大量培養することが行われている。
【0003】
免疫細胞を大量培養する場合は、細胞の組織分配や機能発現に接着を介した細胞刺激が重要である。すなわち、免疫細胞は組織内において通常浮遊した状態で存在するが、その分裂を促進して機能発現を促すためには、細胞を抗体と接触させて活性化させる必要がある。免疫細胞を活性化させるためには、
図1に示すように、「細胞」、「抗体」、「基材」の三要素が必要である。従来の免疫細胞の培養方法では、一般に容器表面3に抗体2を固定化し、免疫細胞1を抗体2に接触させて刺激を与えることで、活性化させる方法が採られている。なお、
図1において、これらの三要素を明示するために、模式的に細胞に対して抗体を極端に大きく表している。
図2〜
図4においても同様である。
【0004】
一方、免疫細胞と抗体を長時間接触させるなどして、免疫細胞に刺激を与え過ぎると悪影響があり、返って増殖効率が低下する。そこで、免疫細胞を効率的に増殖させるため、従来は
図8に示すように、大量培養に先立って、予め容器の内面に抗体を固定化した活性化容器4で免疫細胞を活性化させてから、活性化した免疫細胞を培養容器5に移して大量培養を行うという方法が採られている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の末梢血液リンパ球細胞増殖刺激法では、抗体が塗布された培養基質による培養を行った後、抗体が塗布されていない培養基質で培養を継続することで、免疫細胞を大量培養する方法が記載されている。
このような従来法では、まず免疫細胞を活性化させ、活性化が十分になった時点(活性化完了時点)を人の目で判断し、活性化された細胞を抗体が塗布されていない新しい容器に移し替える作業が必要であった。
【0006】
【特許文献1】特許第3056230号公報
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の細胞活性化方法及び細胞培養方法の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法の概要について、
図2〜
図4を参照して従来法と比較しつつ説明する。
【0015】
(概要)
本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法では、まずリンパ球などの細胞をリン酸緩衝生理食塩水などに懸濁した細胞懸濁液に、抗CD3抗体を含有する抗体溶液を添加して、所定の時間放置する。これにより、細胞表面のCD3抗原に抗体を抗原抗体反応により結合させることができる。この所定の時間としては、例えば5分〜15分程度とすることができる。
次に、表面に抗体を結合させた細胞を、培養容器に封入する。これにより、細胞は、培養容器内の表面に抗体を介して付着し、
図2の(新法)に示すように、「細胞」「抗体」「基材」の三要素が結合した構成が形成され、細胞が活性化される。
そして、活性化に使用した培養容器から新しい別の培養容器に移し替えることなく、細胞培養を行うことで、細胞を効率的に培養することが可能となっている。
【0016】
一方、従来の細胞活性化方法及び細胞培養方法では、容器内の表面上に、予め抗CD3抗体をコーティング(塗布)して固定化させた活性化容器を準備し、これに細胞懸濁液を封入することで、細胞表面のCD3抗原が容器表面上の抗体に抗原抗体反応により結合して、
図2の(従来法)に示すように、「細胞」「抗体」「基材」の三要素が結合した構成が形成され、細胞の活性化が行われる。
そして、細胞の活性化が完了した後、これらの細胞を活性化容器から培養容器に移し替えて、細胞培養が行われる。
【0017】
このように本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法では、細胞に固定化された抗体が培養容器の表面に付着することで細胞の活性化を行うため、
図3の(新法)に示すように、容器表面に付着する抗体を最小限にすることが可能となっている。
一方、従来法では、活性化容器内の表面に抗体をコーティングし、これに細胞を付着させて活性化を行うため、
図3の(従来法)に示すように、容器表面内において固相化面(抗体が付着した面)が多く残ってしまう。このため、この容器をそのまま細胞培養に使用すると、細胞が過活性されて増殖に悪影響があるため、活性化が完了したら、別の培養容器に細胞を移し替えることが必要となっていた。
また、活性化が完了したか否かの判断は難しく、この判断にもとづく細胞の移し替えタイミングが増殖効率に影響を与えるため、増殖効率がばらついてしまうという問題があった。
【0018】
また、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法では、使用する抗体の量を従来法に比較して大きく減らすことが可能である。すなわち、この方法では、
図4の(新法)に示すように、細胞表面に抗体を結合させ、これを培養容器表面に付着させるものであるため、抗体は活性化に必要な最小限の量で済む。なお、細胞膜は流動しているため、同図において細胞の上方に固定化された抗体も、下方に移動したときに、培養容器内の表面に付着すると考えられる。
一方、従来法では、
図4の(従来法)に示すように、同量の抗体を活性化容器内の表面に塗布した場合、抗体が固定化していない表面に付着した細胞は活性化されない。
このように、従来法では使用する抗体を減らすことが難しいのに対し、本実施形態の細胞活性化方法では、使用する抗体量を例えば1/10程度に減らしても同様の効果を得ることが可能となっている。
【0019】
(免疫細胞)
本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法において、活性化させる対象の免疫細胞としては、T細胞やB細胞、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)などのリンパ球や、マクロファージ、樹状細胞などの単球、好中球、好酸球、好塩基球などの顆粒球等の白血球を挙げることができる。
この中でもリンパ球、特にT細胞やNK細胞を培養するにあたり、これらを好適に活性化させることが可能である。なお、免疫細胞以外の細胞であっても、培養にあたり生理活性物質による活性化が必要な細胞があれば、これを本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法により培養しても良い。
また、本実施形態において、活性化させる対象の細胞は、人間のものに限定されず、その他の哺乳動物を含む脊椎動物などにおける各種細胞を対象とすることができる。また、活性化の必要があれば、その他の動物や植物、微生物等の細胞を対象とすることもできる。
【0020】
(生理活性物質)
本実施形態における免疫細胞の表面に固定化する生理活性物質としては、免疫細胞に増殖刺激を与えて活性化できるものであれば限定されないが、例えばヒト、その他のほ乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類における各種抗体(免疫グロブリン)、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンなどの細胞接着性糖タンパク、α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)、リポ多糖(LPS)などの糖脂質、及び上皮増殖因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)などのグロースファクター(増殖因子)等を挙げることができる。なお、免疫細胞以外の細胞であっても、培養にあたりこれらの生理活性物質による活性化が必要な場合には、これらを用いて本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法により培養しても良い。
【0021】
(培養容器)
本実施形態において使用する培養容器としては、軟包材を材料として、袋状(バック型)に形成した閉鎖系の容器を用いることができるが、これに限定されるものではなく、ディッシュなどの開放系の容器を用いて、免疫細胞を活性化させることもできる。なお、軟包材を用いる場合は、例えば、特開2009−247225号公報(培養容器)や、特開2006−262876号公報(培養バッグ、培地保存方法および細胞培養方法)に記載されているものなどを好適に用いることができる。
また、閉鎖系の培養容器を用いる場合は、細胞培養に必要なガス透過性を有し、内容物を確認できるように、一部又は全部が透明性を有するものを用いることが好ましい。このような条件を満たす培養容器の材料としては、例えばポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム等を挙げることができる。
【0022】
(細胞活性化方法及び細胞培養方法)
本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法は、細胞懸濁液に生理活性物質を添加して細胞の表面に抗体を固定化させる固定化工程と、この細胞を培養容器に封入して、培養容器内の表面に細胞を生理活性物質を介して付着させる播種工程を有していれば良く、その他の工程を含むものであっても良い。例えば
図5に示すように、(1)細胞取得工程、(2)細胞分離工程、(3)第一洗浄工程、(4)固定化工程、(5)第二洗浄工程、(6)播種工程を有するものとすることができる。なお、以下の説明では、活性化対象の細胞をリンパ球、生理活性物質を抗CD3抗体として説明する。
【0023】
(1)細胞取得工程
まず、活性化の対象となる免疫細胞を取得する。例えば、ドナー(患者など)から20ml程度の採血を行うことで、活性化の対象となるリンパ球を含む血液を取得する。
(2)細胞分離工程
次に、得られた血液などから細胞を分離する。例えば、得られた血液に対して密度勾配遠心分離を行い、血液をリンパ球と赤血球、血漿等に分離する。
【0024】
(3)第一洗浄工程
分離して得られたリンパ球を洗浄する。例えば、分離されたリンパ球をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、細胞懸濁液を得る。なお、洗浄工程は、遠心分離と再懸濁を繰り返し行うことで、十分に行うことが好ましい。例えば、後述する第二洗浄工程と併せて、3〜4回以上繰り返すことが好ましい。
(4)固定化工程
得られた細胞懸濁液に対して、生理活性物質を含有する溶液を添加し、所定時間放置する。これによって、細胞表面に生理活性物質を固定化させる。例えば、生理活性物質として抗CD3抗体を用いることで、リンパ球表面におけるCD3抗原に抗CD3抗体を反応させ、固定化させることができる。また、生理活性物質として各種抗体、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンなどの細胞接着性糖タンパク、α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)、リポ多糖(LPS)などの糖脂質や各種グロースファクター(増殖因子)を用いて、これらのいずれかを細胞表面に固定化させるようにすることもできる。また、これらを複数用いることもできる。
【0025】
(5)第二洗浄工程
次に、細胞懸濁液をリン酸緩衝生理食塩水などにより洗浄して、細胞表面に固定化されずに遊離している生理活性物質を取り除く。
(6)播種工程
最後に、内面に抗体などの生理活性物質がコーティングされていない培養容器に、洗浄した細胞懸濁液を封入することにより、細胞を培養容器内に播種し、細胞培養を行う。
【0026】
一方、従来法では、上記(1)〜(3)の工程は、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法と同様に行われるが、これに並行して、活性化容器の内面に抗体をコーティングする固定化処理(固相化)が行われる。そして、この活性化容器に細胞懸濁液を封入して一定期間細胞に刺激を与え活性化させた後、活性化された細胞が培養容器へ播種される。
【0027】
このように従来法には、細胞取得工程、細胞分離工程、洗浄工程、固定化工程、及び播種工程が含まれるが、固定化工程では本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法とは異なり、抗体が活性化容器の内面に塗布され、この活性化容器内に細胞を入れることで、活性化を行った後に、培養容器に移し替え、細胞培養を行うようになっている。
このため、細胞培養を行うにあたって活性化容器と培養容器が必要となるため、培養システムが複雑化・大型化するという問題がある。また、活性化に必要な期間がドナーによって異なるため、活性化が完了したか否かの観察と判断が必要となるが、その観察は煩雑であるのみならず、活性化が完了したか否かの判断は難しく、過活性になったり、あるいは活性が不十分になる場合があり、培養効率がばらつく要因になるという問題があった。
【0028】
これに対して、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法では、活性化する対象の細胞表面に生理活性物質を固定化してから、細胞を培養容器に播種するようにしている。このため、使用する生理活性物質の量を少なくしても、細胞を確実に活性化させることができる。また、培養容器の内面に必要以上の生理活性物質が固定化しないため、細胞の過活性を防止することができ、活性化が完了したか否かの判断を行うことなく培養容器で活性化と培養を行うことで、高い培養効率を得ることができるようになっている。
【0029】
また、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法は、第二洗浄工程を有しているが、固定化工程において細胞懸濁液に添加する生理活性物質が多い場合には、細胞表面に固定化しなかった生理活性物質を十分に除去することが重要である。細胞表面に固定化しなかった生理活性物質を十分に除去しなければ、増殖効率が低下する。これは、播種工程において、細胞表面に固定化されずに遊離している生理活性物質が培養容器内に存在すると、培養容器の内面に生理活性物質を介して付着した細胞に対して、さらに抗体が固定化し、過活性の原因になるためと考えられる。
【0030】
ここで、抗CD3抗体は、リンパ球であるT細胞の活性化と増殖を抑える、最も効果の高い免疫抑制剤のひとつとして知られている。また、臨床においてもステロイドやポリクローナル抗体に耐性の急性拒絶症状を抑えるために使用され、移植において予防的に用いられることもある。また、抗CD3抗体を培養液に入れて免疫細胞を培養しても十分な増殖は得られなかった。このため、このような免疫抑制剤である抗CD3抗体は、遊離(溶解)状態では細胞を十分活性化させることは不可能であると考えられていた。さらに、培養容器の基材表面に抗体を固定化する際は、細胞を播種する前にあらかじめ基材に対して固定化を行っておくことが常識と考えられており、逆に播種する前の細胞表面に抗体を反応させ、抗体が細胞に付着した後に培養容器に作用し細胞に刺激を与えることは、従来当然に無理であると考えられ、試みられることが無かった。また、このように免疫細胞に付着した抗体が、培養容器内の表面にうまく付着するかどうかはわからず、これによって細胞が従来法と同様に活性化するかはわからなかった。
【0031】
これに対し、本発明者らは、抗体における細胞に結合する部位の反対側(以下、これをC末端と称する。)が疎水性であることに着目し、これが同様に疎水性であるディッシュ表面に付着し得るという仮説を立てた。また、もしこのようにC末端が培養容器表面に付着するとすれば、使用する抗体の量を減らした場合でも、判子に印肉を付けて捺印するように、細胞に抗体を付けて培養容器内の表面に付着させることで、確実に活性化を行うことができ、培養効率を向上できるのではないかという考えに想到した。従来法では抗体が付着していない表面に接着した細胞を活性化することはできなかった。このため、もしこのようにC末端が培養容器内の表面に付着するとすれば、従来法に比較してより少ない抗体で細胞を十分に活性化できると推測した。そして、以下の実施例に示すように、この仮説が正しいことが実証され、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法によれば、上述した工程によって、細胞を活性化させ、効率的に培養できることが明らかとなった。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法によれば、免疫細胞の活性化が完了したか否かの判断を必要とすることなく、一つの培養容器で免疫細胞の活性化と培養を行うことが可能となる。また、抗体残留や過活性等の細胞への悪影響を防止することができる。このため、培養システムを煩雑化させることなく、高効率で安定した細胞培養を行うことが可能となっている。
【実施例】
【0033】
以下、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法と従来法を評価するために行った実施例及び比較例について、図面を参照して説明する。
<実験1:Dishを用いた培養実験>
(実施例1)
健康な成人男性の血液から、血球分離溶液(製品名Lymphoprep,AXIS-SHIELD社製)によりリンパ球と赤血球、血漿に分離し、リンパ球を10
7個取得した。これをリン酸緩衝生理食塩水で懸濁して4本の試験管に分け、それぞれ2.5×10
6個の細胞を有する4つのサンプルを得た。本実施例では、このうちの一つを使用した。このサンプルに、抗CD3抗体(製品名OKT−3、ヤンセンファーマ社製)10μgを添加して攪拌し、10分間静置して抗CD3抗体をリンパ球表面のCD3抗原に固定させた。次いで、この溶液に対して遠心分離とリン酸緩衝生理食塩水による洗浄を3回繰り返し、リンパ球に固定化されずに遊離している抗CD3抗体を除去した。そして、得られた細胞懸濁液を培養液(製品名ALyS505N-7、細胞科学研究所社製)4mlと共にポリスチレン製60mmDishに入れて、215時間継代培養を行った。なお、このDishは、抗CD3抗体が塗布されていない培養容器である。その結果を
図6に示す。
【0034】
(実施例2)
ポリスチレン製60mmDishを2枚準備し、2枚とも抗CD3抗体を塗布することなく、一方を活性化容器とし、もう一方を培養容器とした。
次に、実施例1で作成したサンプルのうちの一つに、抗CD3抗体(製品名OKT−3、ヤンセンファーマ社製)10μgを添加して攪拌し、10分間静置して抗CD3抗体をリンパ球表面のCD3抗原に結合させた。次いで、この溶液に対して遠心分離とリン酸緩衝生理食塩水による洗浄を3回繰り返して、リンパ球に固定化されずに遊離している抗CD3抗体を除去した。そして、得られた細胞懸濁液を培養液(製品名ALyS505N-7、細胞科学研究所社製)4mlと共に活性化容器に入れて65時間静置し、細胞を活性化させた。
次に、得られた活性化細胞を含む培養液を培養容器に移して、150時間継代培養した。その結果を
図6に示す。
【0035】
(比較例1)
ポリスチレン製60mmDishを1枚準備し、抗CD3抗体(製品名OKT−3、ヤンセンファーマ社製)10μgを塗布して容器表面に固定化させ、活性化容器とした。また、本比較例では、これをそのまま培養容器として使用した。
実施例1で作成したサンプルのうちの一つに対して、遠心分離とリン酸緩衝生理食塩水による洗浄を3回繰り返し、得られた細胞懸濁液を培養液(製品名ALyS505N-7、細胞科学研究所社製)4mlと共に上記Dishに入れて215時間継代培養した。その結果を
図6に示す。
【0036】
(比較例2)
ポリスチレン製60mmDishを2枚準備し、その一方は抗CD3抗体(製品名OKT−3、ヤンセンファーマ社製)10μgを塗布して容器表面に固定化させ、活性化容器とした。また、もう一方は抗CD3抗体を塗布することなく、培養容器とした。
実施例1で作成したサンプルのうちの一つに対して、遠心分離とリン酸緩衝生理食塩水による洗浄を3回繰り返し、得られた細胞懸濁液を培養液(製品名ALyS505N-7、細胞科学研究所社製)4mlと共に活性化容器に入れて65時間静置し、細胞を活性化させた。
次に、得られた活性化細胞を含む培養液を培養容器に移して、150時間継代培養した。その結果を
図6に示す。
【0037】
実施例1の増殖倍率は、活性化後に新しい培養容器に細胞を移し替えた実施例2の増殖倍率とほぼ同じになっている。この結果から、本実施形態の細胞活性化方法及び細胞培養方法によれば、細胞の活性化に使用した容器をそのまま用いて培養を継続しても、容器における固相化面が最小に押さえられているため、リンパ球が過剰に活性化されることがなく、培養効率が低下していないことがわかる。
【0038】
一方、比較例1の結果から、従来法において、細胞の活性化に使用した容器をそのまま用いて培養を継続すると、容器には固相化面が残されているため、リンパ球が過剰に活性化され、培養効率が低下してしまうことがわかる。このため、比較例2に示すように、活性化が完了したときに、活性化された細胞を直ちに抗CD3抗体が塗布されていない培養容器に移してから培養を行うことが必要であった。
【0039】
このように、従来法では一つの容器で細胞の活性化と培養を行うことはできなかった。また、抗CD3抗体を容器表面にコーティングする方法であるため、抗CD3抗体を節約できないという問題があった。さらに、細胞の活性化状態を観察して、活性化が完了したら直ちに新しい容器に細胞を移し替える必要があったが、これは煩雑で難しい作業であった。そして、活性化完了の判断が遅れると、以下の実験2に示すように、培養効率が低下してしまうという問題があった。
【0040】
<実験2:過活性が起こる期間での培養実験>
(実施例3)
健康な成人男性の血液から、実施例1と同様にして、リンパ球を4×10
6個取得した。これをリン酸緩衝生理食塩水で洗浄して3本の試験管に分け、それぞれ同じ成分を有する3つのサンプルを得た。本実施例では、このうちの一つを使用した。このサンプルに、抗CD3抗体(製品名OKT−3、ヤンセンファーマ社製)5μgを添加して攪拌し、10分間静置して抗CD3抗体をリンパ球表面のCD3抗原に結合させた。次いで、この溶液に対して遠心分離とリン酸緩衝生理食塩水による洗浄を3回繰り返して、リンパ球に固定化されずに遊離している抗CD3抗体を除去した。そして、得られた細胞懸濁液を培養液(製品名ALyS505N-7、細胞科学研究所社製)7mlと共にLLDPEバッグに入れて144時間静置し、細胞を活性化させた。このLLDPEバッグは、抗CD3抗体が塗布されていない培養容器である。
次に、得られた活性化細胞を含む培養液を、抗CD3抗体が塗布されていないポリスチレン製60mmDishに移し、このDishを培養容器として、93時間継代培養した。その結果を
図7に示す。
【0041】
(実施例4)
実施例3で作成したサンプルのうちの一つに対して、遠心分離とリン酸緩衝生理食塩水による洗浄を3回繰り返し、得られた細胞懸濁液を培養液(製品名ALyS505N-7、細胞科学研究所社製)7ml、抗CD3抗体(製品名OKT−3、ヤンセンファーマ社製)10μgと共にLLDPEバッグに入れ、144時間静置し、細胞を活性化させた。このLLDPEバッグは、抗CD3抗体が塗布されていない培養容器である。本実施例では、実施例3と異なり、リンパ球に固定化されずに遊離している抗CD3抗体を除去するための洗浄を行わなかった。
次に、得られた活性化細胞を含む培養液を、抗CD3抗体が塗布されていないポリスチレン製60mmDishに移し、このDishを培養容器として、93時間継代培養した。その結果を
図7に示す。
【0042】
(比較例3)
LLDPEバッグに抗CD3抗体(製品名OKT−3、ヤンセンファーマ社製)5μgを塗布して容器内の表面に固定化させ、活性化容器とした。また、ポリスチレン製60mmDishには抗CD3抗体を塗布することなく、これを培養容器とした。
実施例3で作成したサンプルのうちの一つに対して、遠心分離とリン酸緩衝生理食塩水による洗浄を3回繰り返し、得られた細胞懸濁液を培養液(製品名ALyS505N-7、細胞科学研究所社製)7mlと共に活性化容器に入れ、活性化完了に必要な時間を上回る144時間静置し、細胞を過活性化させた。
次に、得られた活性化細胞を含む培養液を培養容器に移し、93時間継代培養した。その結果を
図7に示す。
【0043】
図7において、培養開始から237時間時点の実施例3、実施例4,及び比較例3の増殖倍率は、それぞれ299.7倍、164.1倍、及び70.8倍となっている。
比較例3の結果から、従来法では細胞の活性化完了の判断が遅れると、培養効率が低下してしまうことがわかる。
これに対して、実施例3,4に示されるように、本発明の細胞活性化方法及び細胞培養方法によれば、容器に抗CD3抗体をコーティングすることなく細胞の活性化を行うものであるため、活性化が完了したか否かを意識する必要がなく、活性化に使用した容器をそのまま用いて培養を継続することで、高い培養効率が得られることがわかる。
【0044】
また、実施例4の結果から、抗体を加えた後、洗浄をしないで培養を行うと、実施例3よりも増殖効率が低くなっていることがわかる。これは培養液に添加した抗体の一部が細胞表面に固定化されずに遊離し続け、増殖に悪影響を与えているためと考えられる。しかしながら、この実施例4に例示される本発明の細胞活性化方法及び細胞培養方法によれば、比較例3に示される従来法よりも過活性を抑制することができ、比較例3よりも増殖効率が高くなっていることがわかる。
【0045】
さらに、実施例3に例示される本発明の細胞活性化方法及び細胞培養方法によれば、細胞表面に抗体を付着させた後、洗浄工程を行うことで遊離抗体を除去しているため、過活性を防止することができ、細胞の増殖に対する悪影響がないようなっている。
【0046】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、実施形態及び実施例では免疫細胞を抗体により活性化する場合について説明したが、その他の細胞を抗体以外の生理活性物質で活性化させる場合に適用するなど適宜変更することが可能である。