(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両の運転手が運転中に視線をほとんど動かさずに車両情報(速度、走行速度等)を読み取れるようにするため、フロントガラスの前方に情報を虚像表示させるヘッドアップディスプレイ装置が、例えば、特許文献1に提案されている。
【0003】
車両用のヘッドアップディスプレイ装置は、車両用のヘッドアップディスプレイ装置1は、
図8に示すように車両2のダッシュボード内に配置されており、この車両用のヘッドアップディスプレイ装置1が投射する表示光Jはウインドシールド3により反射され、車両運転者4は虚像Xを風景と重畳させて視認させることができる。
【0004】
このような車両用ヘッドアップディスプレイ装置1では、半導体レーザーを光源としたものが提案されており、例えば特許文献2に開示されている。斯かるヘッドアップディスプレイ装置1は、半導体レーザーと走査系とスクリーンとを備え、半導体レーザーが出射したレーザー光を走査系でスクリーンに向け走査して表示画像を生成するものである。
【0005】
ヘッドアップディスプレイ装置1では、運転手が昼間の明るい環境から夜間の暗い環境であっても、明瞭且つ、適切な輝度の表示を見ることができる必要がある。そのため、ヘッドアップディスプレイ装置1の外部の明るさ(外部照度)に合わせて表示画像の表示輝度を大きく変化させる必要がある。
【0006】
昼間の明るい環境下でも表示が見えるためにヘッドアップディスプレイ装置1の表示する表示画像の輝度は、最大輝度で数千〜数万cd/m
2以上が要求され、夜間の暗い環境下では、表示の眩しさが運転の妨げにならないような最小輝度として数cd/m
2が要求される。ヘッドアップディスプレイ装置1には上記のような幅広いダイナミックレンジにおいても高視認性を維持し、運転手に必要な情報を提供する必要がある。
【0007】
一方、走査型レーザーディスプレイは、MEMSスキャナーでレーザービームをラスタースキャンし、映像信号に同期してレーザー光を変調することで描画する装置である。高精細な解像度での表示を実現するため、数10MHz程度の比較的早い周波数でパルス的に半導体レーザーを駆動する必要がある。半導体レーザーは、レーザー発振開始電流値(閾値電流値)以上の駆動電流を印加することによって、誘導放出によるレーザー発振を開始してレーザー光を発するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
(HUD装置の構造)
HUD装置1は、車両2のダッシュボード内に設けられ、生成した表示画像を表す表示光Jをウインドシールド3で反射させることにより、車両運転者4に車両情報を表す表示画像の虚像Xを視認させる装置である。これにより、車両運転者4は、運転中に前方から視線を逸らさずに車両情報を視認できる。
【0021】
HUD装置1は、
図1に示すように、合成レーザー光発生装置10と、MEMSスキャナー20と、カラーセンサ30と、透過スクリーン(スクリーン)40と、反射部50と、ハウジング60と、ライトセンサ70と、HUD装置1の電気的な制御を行う制御部80と、を備える。
【0022】
合成レーザー光発生装置10は、R(赤色),G(緑色),B(青色)の三原色のレーザー光を合波して1本の合成レーザー光Cを出射する装置であり、
図2に示すように、レーザーダイオード(レーザー光源)11と、集光光学系12と、ダイクロイックミラー15と、を備える。
【0023】
レーザーダイオード11は、半導体レーザーであり、赤色のレーザー光Rを発するレーザーダイオード11rと、緑色のレーザー光Gを発する緑色レーザーダイオード11gと、青色のレーザー光Bを発する青色レーザーダイオード11bと、から構成されている。
【0024】
レーザーダイオード11r,11g,11bは、後述するレーザー光制御部82からの駆動データに基づき、集光光学系12の方向へレーザー光R,G,Bを夫々出射する。
【0025】
集光光学系12は、レーザーダイオード11r,11g,11bの各々に対応する集光レンズ12r,12g,12bを備える。
【0026】
集光レンズ12rは、レーザーダイオード11rが出射するレーザー光Rの光路上に配置され、レーザー光Rを収束光にする。集光レンズ12gと緑色レーザーダイオード11g、集光レンズ12bと青色レーザーダイオード11bの対応関係についても同様である。
【0027】
ダイクロイックミラー15は、誘電体の多層膜等の薄膜が鏡面に形成された鏡で構成され、レーザー光R,G,Bの夫々の光路上に配置されたダイクロイックミラー15r,15g,15bで構成される。レーザーダイオード11r,11g,11bの各々が出射したレーザー光R,G,Bを反射又は透過させ、レーザー光R,G,Bを1本の合成レーザー光Cに合波する。
【0028】
具体的に説明すると、ダイクロイックミラー15rは、集光レンズ12rからのレーザー光Rの進行方向に位置し、光の進行方向に対して所定の角度をもって配設される。これにより、レーザー光Rを反射する。
【0029】
また、ダイクロイックミラー15gは、集光レンズ12gとダイクロイックミラー15rからの光の進行方向に位置し、各々の光の進行方向に対して所定の角度をもって配設される。これにより、レーザー光Rを透過し、レーザー光Gを反射する。即ち、ダイクロイックミラー15gは、レーザー光RとGを合波する。
【0030】
また、ダイクロイックミラー15bは、集光レンズ12bとダイクロイックミラー15gからの光の進行方向に位置し、各々の光の進行方向に対して所定の角度をもって配設される。これにより、合波されたレーザー光R,Gを透過し、レーザー光Bを反射する。即ち、ダイクロイックミラー15bは、レーザー光R,Gとレーザー光Bをさらに合波する。
【0031】
このように、レーザー光R,G,Bは1本の合成レーザー光Cに合波される。なお、レーザーダイオード11r,11g,11bの各々が調整して配設されることにより、合波されたレーザー光R,G,Bの各々の偏光角度は一致しており、ウインドシールド3の反射率の偏光依存性を考慮して決定される。合波された合成レーザー光Cは合成レーザー光発生装置10を出射し、MEMSスキャナー20へ向かう。
【0032】
図3は、透過スクリーン40をMEMSスキャナー20側から見た説明図であり、MEMS(Micro Electro Mechanical System)スキャナー20は、合成レーザー光発生装置10が出射した合成レーザー光Cを走査して、透過スクリーン40に表示画像D1を生成する走査手段である。
【0033】
MEMSスキャナー20でラスタースキャンによって描画される表示画像D1は走査可能範囲En1よりも小さくなる。水平方向では、数10kHz程度の共振周波数で反射面を機械的に振らせるが、走査の往復の切り替わりポイント付近では反射面の動作速度が遅くなる、あるいは完全に停止する。よって、走査の往復の切り替わりポイント付近は、表示エリアEp1として使用しない。
【0034】
また、
図4に示すように、MEMSスキャナー20は、後述する制御部80による制御によって、走査可能範囲En2内において、表示画像D1よりも大きな表示画像D2にて表示させることができる。
この際、水平方向では、前述と同様な共振周波数によって機械的に振らせる。また、上述と同様に、走査の往復の切り替わりポイント付近は、表示エリアEp2として使用しない。なお、この場合、表示画像D1を描画する際に比べて、同じフレーム周波数(画像更新周期)にて、走査距離を長く設定できる(走査する動作を速くできる)ため、単位面積当たりの照射光量
が低くなり、低輝度な表示画像D2を出力できる。
【0035】
カラーセンサ30は、レーザー光R,G,B夫々のレーザー光強度を検出し、レーザー光強度のアナログデータをマイコン(制御手段)81に出力する。カラーセンサ30は、透過スクリーン40の下面の走査可能範囲En1,En2、且つ表示エリアEp1,Ep2外の非表示エリアにカラーセンサ30を配置され、これにより表示画像D1,D2に影響を及ぼすことなく、レーザー光R,G,Bのレーザー光強度が検出可能である。
また、本実施形態では、カラーセンサ30は、透過スクリーン40の下面に設置されているが、表示に影響しないように表示画像D2を通過する光路を避けて、走査可能範囲En2を通過する光路に重なる位置であれば、設置場所は任意である。
【0036】
透過スクリーン40は、拡散板,ホログラフィックディフューザ,マイクロレンズアレイ等から構成され、MEMSスキャナー20で走査されたレーザー光R,G,Bを下面で受光して上面に表示画像D1,D2を表示する。
【0037】
反射部50は、透過スクリーン40の上面に表示された表示画像D1,D2が、所望の位置に、所望の大きさで、虚像Xとして結ばれるように、透過スクリーン40とウインドシールド3の光路間に設けられる光学系部材である。
【0038】
平面ミラー51は、平面状の全反射ミラー等であり、透過スクリーン40を透過した表示光Jを受ける位置に配置され、表示光Jを拡大ミラー52に向かって反射させる。
拡大ミラー52は、凹面鏡等であり、平面ミラー51で反射された表示光Jを凹面で反射させることで、表示光Jをウインドシールド3に向かって出射する。これにより、結ばれる虚像Xの大きさは、表示画像Dが拡大された大きさのものになる。なお、本実施形態では、反射部50は、平面ミラー51と拡大ミラー52の2枚の鏡から構成されるが、その構成は任意である。
【0039】
ハウジング60は、硬質樹脂等から箱状に形成され、上方に所定の大きさの窓部61を備え、上記の各部10〜50を所定の位置に収納する。
窓部61は、アクリル等の透光性樹脂から湾曲形状に形成されており、ハウジング60の開口部に溶着等により取り付けられる。また、窓部61は、拡大ミラー52で反射された光を透過させる。また窓部61は、その下面に、後述するライトセンサ70を備える。
【0040】
本実施形態では、ライトセンサ70は、窓部61の下面に設置されているが、設置場所は、外部照度測定値が所定値以上検出可能な範囲であれば任意である。
【0041】
(HUD装置の制御系統)
図5は、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置のブロック図である。
本発明におけるHUD装置1の制御系統は、合成レーザー光発生装置10と、MEMSスキャナー20と、カラーセンサ30と、ライトセンサ70と、制御部80と、から構成されている。
【0042】
カラーセンサ30は、レーザー光R,G,B夫々のレーザー光強度を検出し、レーザー光強度のアナログデータである光強度測定値を制御部80に出力する。ライトセンサ70は、HUD装置1の外部照度を検出し、照度のアナログデータである外部照度測定値を制御部80に出力する。
【0043】
制御部80は、マイコン(制御手段)81と、レーザー光制御部82と、バイアス制御部83と、MEMSドライバ90と、を備える。
【0044】
マイコン(マイクロコンピュータ)81は、車両ECU5から表示画像D1,D2を表示するための画像データをLVDS(Low Voltage Differential Signal)通信等によって供給され、この画像データに従い、レーザー光制御部82を介してレーザーダイオード11を制御し、さらにMEMSドライバ90を介してMEMSスキャナー20を制御することにより、所望の表示画像D1,D2を透過スクリーン40に投影させる。
【0045】
また、マイコン81は、MEMSスキャナー20の同期信号から合成レーザー光Cの走査位置を特定し、あらかじめ設置されているカラーセンサ30の位置情報をメモリしておき、カラーセンサ30の位置と走査位置が重なったタイミングでレーザー光制御部82を介してレーザーダイオード11r,11g,11bを駆動する。
【0046】
また、マイコン81は、表示画像D1,D2の表示輝度を調整する表示輝度調整手段81aと、表示画像D1,D2のホワイトバランスを調整する画質補正手段81bと、昼夜に応じて表示画像D1と表示画像D2とを切り替えるための切替手段81cとを備える。
【0047】
表示輝度調整手段81aは、ライトセンサ70から出力された外部照度測定値から適した表示画像の輝度である輝度目標値を算出し、その算出結果に基づき、レーザー光制御部82を介しレーザーダイオード11のレーザー光強度を制御する。
【0048】
画質補正手段81bは、カラーセンサ30から出力されたレーザー光R,G,Bの夫々の光強度測定値をもとに所望のホワイトバランスになるように、レーザーダイオード11r,11g,11b夫々のレーザー光強度を調整する。
レーザー光制御部82は、マイコン81からのレーザー光源制御データに基づき、レーザーダイオード11を駆動する。
【0049】
切替手段81cは、車両ECUからの情報のうち昼夜を判定するために必要な情報に基づいて、昼夜判定処理を行い、昼間であれば表示
画像D1を表示させ、夜間であれば表示画像D1よりも表示サイズが大きな表示
画像D2を表示させるようにレーザー光制御部82やMEMSドライバ90を制御する。
【0050】
この場合、切替手段81cは、前照灯の点灯/消灯状態に基づいて昼夜判定処理を行い、前照灯が消灯状態である場合には、昼間と判定し、例えば、
図6に示すように車両の走行速度等の車両情報を示す表示画像D1を出力させる。この場合、表示画像D1として、走行速度101、区間走行距離102、ギアポジション103、路面制限速度104を文字(数字)表示して、背景部分については、車両前方の風景を透過するような画像を出力する。表示画像D1は、昼間、車外が明るい場合であっても、高輝度
に表示出力でき、車外の視認性を損なわないように夜間よりも小さな範囲ながら、出力した文字の認識性を確保できる。
【0051】
また、前照灯が点灯状態である場合には、夜間と判定し、例えば、
図7に示すように、前記走行速度に加えて、車両前方側の撮影画像を表示画像D2として出力させる。この場合、表示画像D2として、車両の前方の撮影画像201を表示するとともに、路面形状の補助線202、人体認識結果を示す枠線203、
図6と同様の走行速度204を重ねた画像を出力する。表示画像D2は、夜間、車外が暗い場合であっても、表示による眩しさを低減できる。また、大きな画像にて、車両前方の撮像画像を表示することで、広範囲の車外情報を表示でき、認識性を高めることで運転支援のための表示出力として有利である。
【0052】
バイアス制御部83は、マイコン81からのバイアス電流制御データに基づき、レーザーダイオード11に流すバイアス電流値と所定のタイミングで、レーザー光制御部82を介してレーザーダイオード11に電流を供給する。
【0053】
かかる車両用表示装置は、レーザー光を発するレーザー光源Cと、レーザー光Cを透過スクリーン40に走査するMEMSスキャナー(走査手段)20と、所定条件に基づいて、レーザー光Cの走査範囲を可変するように促すマイコン(制御手段)81と、を備える。
【0054】
従って、レーザー光を走査して表示する車両用表示装置に関し、走査範囲を拡大することによって、表示輝度を所望の値まで低減したり、逆に縮小することで輝度を高めるなど、表示輝度の調整範囲を広く確保できるため、視認性の良い表示装置となる。
また、表示輝度を低輝度まで広く調整するために、新たな表示器や、輝度を低減するためのフィルタなど専用の光学部材などを必要としないため有利である。
【0055】
また、マイコン81は、前記所定条件として昼夜判定処理の判定結果を適用し、前記昼夜判定処理によって、夜間であると判定した場合には、昼間よりも走査範囲を大きくしてなることによって、夜間の暗い環境であっても、最適な表示輝度にて情報出力できるだけでなく、拡大表示によって視認性を高めることができる。
【0056】
また、マイコン81は、前記車両の前照灯の点灯/消灯状態に基づいて判定することによって、車両利用者の操作に基づいて、表示切り替えすることができるため、車両利用者に違和感を与えにくい。また、新たな操作を増やすことなく表示切り替えできるため、車両利用者にとって利便性がよい。
【0057】
また、マイコン81は、前記昼夜判定処理によって、夜間であると判定した場合に、MEMSスキャナー20は、前記車両外の撮影画像を透過スクリーン40に表示することによって、車両外が暗い環境であっても、大きな表示にて車両外の状態を確認できるため、視認性を高めることができる。また、表示輝度についても眩しすぎない最適な輝度を実現できる。
【0058】
なお、本発明の車両用表示装置を上述した実施の形態の構成にて例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良、並びに設計の変更が可能なことは勿論である。例えば、表示輝度調整手段81aと、切替手段81cとがそれぞれ制御することで、最適な輝度にて表示出力するものを示したが、MEMSスキャナー20による表示更新周期を可変することによって、更なる輝度調整を行うこともできる。