(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数レベルの工学的基盤の加速度応答スペクトルに適合した複数レベルの工学的基盤の地震動を用いた地盤応答解析により複数レベルの地表面の地震動を計算する地表面地震動計算処理と、
前記地表面の地震動の計測震度を計算する計測震度計算処理と、
前記複数レベルの前記地表面の地震動に対する、対象とする建物の地震応答解析により、前記複数レベルの前記建物の階毎の応答値を計算する各階応答値計算処理と、
前記計測震度と前記階毎の応答値との関係を計算する関係計算処理と、
前記階毎の応答値に基づいて前記計測震度の範囲において決定される震度階級に対する前記建物の各階における部位毎の応答値を計算する各部位応答値計算処理と、
を実行する制御部を有することを特徴とする建物の地震による応答値計算システム。
対象とする建物の各階及び各部位の情報に基づいて、地震の被災後における前記建物の損傷状態を調査すべき調査対象部位を各階にて抽出する調査対象部位抽出ステップと、
複数レベルの工学的基盤の加速度応答スペクトルに適合した複数レベルの工学的基盤の地震動を用いた地盤応答解析により複数レベルの地表面の地震動を計算する地表面地震動計算ステップと、
前記地表面の地震動の計測震度を計算する計測震度計算ステップと、
前記複数レベルの前記地表面の地震動に対する前記建物の地震応答解析により、前記複数レベルの前記建物の階毎の応答値を計算する各階応答値計算ステップと、
前記計測震度と前記階毎の応答値との関係を計算する関係計算ステップと、
前記階毎の応答値に基づいて前記計測震度の範囲において決定される震度階級に対する前記建物の各階における前記調査対象部位毎の応答値を計算する各部位応答値計算ステップと、
各々の前記調査対象部位における損傷による限界値を示す損傷度判定データベースに基づいて、前記階毎の応答値に対する前記限界値の割合を示す余裕度を計算する余裕度計算ステップと、
各階における前記調査対象部位に対応付けて、各々の前記調査対象部位の調査結果を記入する結果記入欄が設けられ、計算された前記余裕度が所定の値より低い前記調査対象部位の前記結果記入欄が明示された被害調査表を作成する被害調査表作成ステップと、
を有することを特徴とする建物の地震による被害調査表作成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地震による建物の被害は、建物の構造、階床の高さ等により相違し、個々の建物が固有の脆弱性を有している場合もあるため、上記のようなチェックリストだけでは、建物に則する十分な調査に基づいた建物の応急的使用性を判断することができないという課題がある。
【0005】
本発明はかかる従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、個々の建物の応急的使用性の判断に、より適した、建物の地震による応答値を計算する建物の地震による応答値計算システム及び計算された応答値に基づいて建物の地震による被害をより適切に調査することが可能な建物の地震による被害調査表作成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の建物の地震による応答値計算システムは、複数レベルの工学的基盤の加速度応答スペクトルに適合した複数レベルの工学的基盤の地震動を用いた地盤応答解析により複数レベルの地表面の地震動を計算する地表面地震動計算処理と、前記地表面の地震動の計測震度を計算する計測震度計算処理と、前記複数レベルの前記地表面の地震動に対する、対象とする建物の地震応答解析により、前記複数レベルの前記建物の階毎の応答値を計算する各階応答値計算処理と、前記計測震度と前記階毎の応答値との関係を計算する関係計算処理と、前記階毎の応答値に基づいて前記計測震度の範囲において決定される震度階級に対する前記建物の各階における部位毎の応答値を計算する各部位応答値計算処理と、を実行する制御部を有することを特徴とする建物の地震による応答値計算システムである。
このような建物の地震による応答値計算システムは、複数の震度階級に対応した、建物の各階における応答値が部位毎に計算される。このため、地震の震度階級毎に、建物の各階における各部位の応答値を得ることが可能である。このため、個々の建物の応急的使用性の判断に、より適した、建物の地震による応答値を計算する建物の地震による応答値計算システムを提供することが可能である。
【0007】
かかる建物の地震による応答値計算システムであって、前記各部位応答値計算処理では、前記階毎の応答値に、前記建物の構造部材の応答値に対する各々の前記部位の応答値の増幅率を示す応答倍率を乗じて前記各部位の前記応答値が計算されることが望ましい。
建物に入力される地震動に対する応答は、地表面の地震動が直接入力される構造部材と、例えば吊り下げられた設備などとでは相違する。このため、建物の各階における部位毎の応答値を、地表面の地震動による各階の応答値に応答倍率を乗じて計算することによって、より実際の状態に則した応答値を得ることが可能である。
【0008】
かかる建物の地震による応答値計算システムであって、前記各々の部位における損傷による限界値を示す損傷度判定データベースを有し、前記各部位の前記応答値の前記限界値に対する割合を示す余裕度を計算することが望ましい。
このような建物の地震による応答値計算システムによれば、計算された余裕度により、地震動により損傷しやすい部位と損傷しにくい部位とを容易に把握することが可能である。
【0009】
かかる建物の地震による応答値計算システムであって、計算される、前記各階における前記各部位の前記応答値は、最大加速度または最大層間変形角であることが望ましい。
地震による建物の損傷は、最大加速度が主に起因する部位と、最大層間変形角が主に起因する部位とがあるため、各々の部位に適した応答値を求めることにより、建物の損傷をより適切に予測することが可能である。
【0010】
また、対象とする建物の各階及び各部位の情報に基づいて、地震の被災後における前記建物の損傷状態を調査すべき調査対象部位を各階にて抽出する調査対象部位抽出ステップと、複数レベルの工学的基盤の加速度応答スペクトルに適合した複数レベルの工学的基盤の地震動を用いた地盤応答解析により複数レベルの地表面の地震動を計算する地表面地震動計算ステップと、前記地表面の地震動の計測震度を計算する計測震度計算ステップと、前記複数レベルの前記地表面の地震動に対する前記建物の地震応答解析により、前記複数レベルの前記建物の階毎の応答値を計算する各階応答値計算ステップと、前記計測震度と前記階毎の応答値との関係を計算する関係計算ステップと、前記階毎の応答値に基づいて前記計測震度の範囲において決定される震度階級に対する前記建物の各階における前記調査対象部位毎の応答値を計算する各部位応答値計算ステップと、各々の前記調査対象部位における損傷による限界値を示す損傷度判定データベースに基づいて、前記階毎の応答値に対する前記限界値の割合を示す余裕度を計算する余裕度計算ステップと、各階における前記調査対象部位に対応付けて、各々の前記調査対象部位の調査結果を記入する結果記入欄が設けられ、計算された前記余裕度が所定の値より低い前記調査対象部位の前記結果記入欄が明示された被害調査表を作成する被害調査表作成ステップと、を有することを特徴とする建物の地震による被害調査表作成方法である。
【0011】
このような建物の地震による被害調査表作成方法によれば、複数の震度階級に対応した複数のレベルにおいて、建物の各階及び各部位の情報に基づいて抽出した、建物の損傷状態を調査すべき調査対象部位における、地震動に対する応答値が部位毎にて計算される。このため、地震の震度階級毎に、調査対象部位の応答値を得ることが可能である。また、計算された余裕度によって地震動により損傷しやすい部位と損傷しにくい部位とを容易に把握することが可能であり、この余裕度に基づいて、余裕度が所定の値より低い調査対象部位が明示された被害調査表を作成されるので、個々の建物の応急的使用性の判断に、より適した、建物の地震による被害調査表を作成することが可能である。このため、作成された被害調査表を用いて建物の地震による被害調査を行うことにより、専門家でなくとも容易に、迅速且つ適切に建物の応急的使用性の判断をすることが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、個々の建物の応急的使用性の判断に、より適した、建物の地震による応答値を計算する建物の地震による応答値計算システム及び計算された応答値に基づいて建物の地震による被害をより適切に調査することが可能な建物の地震による被害調査表作成方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】専門家による被害予測表の作成フローを示す図である。
【
図2】目標スペクトルと作成された地震動に対する加速度応答スペクトルを示す図である。
【
図3】ケース1の工学的基盤の地震動を示す図である。
【
図4】ケース7の工学的基盤の地震動を示す図である。
【
図7】計測震度と最大加速度との関係を示す図である。
【
図8】計測震度と最大層間変形角との関係を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、震度5弱における柱の応答値に対する限界値の余裕度を示す図であり、
図9(b)は、震度5弱における柱以外の部位の応答値に対する限界値の余裕度を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、震度5強における柱の応答値に対する限界値の余裕度を示す図であり、
図10(b)は、震度5強における柱以外の部位の応答値に対する限界値の余裕度を示す図である。
【
図11】
図11(a)は、震度6弱における柱の応答値に対する限界値の余裕度を示す図であり、
図11(b)は、震度6弱における柱以外の部位の応答値に対する限界値の余裕度を示す図である。
【
図12】
図12(a)は、震度6強における柱の応答値に対する限界値の余裕度を示す図であり、
図12(b)は、震度6強における柱以外の部位の応答値に対する限界値の余裕度を示す図である。
【
図13】建物の応急的使用性判定フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
以下の実施形態では、本発明の建物の地震による応答値計算システムにより計算された建物の応答値に基づき建物の地震による被害調査表を作成する建物の地震による被害調査表作成方法、及び、作成された地震による被害調査表を用いた調査についても説明する。
【0016】
本発明の建物の地震による被害調査表作成方法により作成される地震による被害調査表は、地震直後に、専門家ではない例えば施設管理者による建物の応急的使用性の判定をし易くするものであり、地震による被害調査表を作成するための基となる、地震動の計測震度、建物の応答値及び応答値に対する限界値の余裕度を求める処理は、専門家によりコンピュータ処理により実行される。すなわち、建物の地震による応答値計算システムにおける制御部はコンピュータであり、以下に説明する演算処理はコンピュータにより実行される。
【0017】
本実施形態においては、対象とする建物を、RC造8階建ての建物として説明する。
【0018】
まず、専門家は、建物に地震動が入力されたときの、地震による建物の被害を予測し、震度階級毎の被害予測表を作成する。
図1は、専門家による被害予測表の作成フローを示す図である。
【0019】
まず、専門家は、個別の建物特性(構造種別や仕上表など)を考慮して、調査対象部位(構造部材、外装材、内装材、建築設備、防災設備など)を抽出する(調査対象部位抽出ステップ、S101)。このとき、抽出した調査対象部位を表にまとめた調査項目表(表1)を作成してもよい。
【0020】
上記調査項目表に基づき、各階の各部位(調査対象部位)を調査対象とし、各階における各部位に対応した結果記入欄を有する被害調査表(表2)を作成する(S102)。
【0021】
次に、地震動の目標スペクトルに設定する。ここでは、平成12年建設省告示1461号第四号に示された工学的基盤の地震動加速度応答スペクトルを目標スペクトルに設定する。そして、設定した目標スペクトルの形状に適合するように正弦波合成法により工学的基盤の地震動を作成する(S105)。このとき、震度階級毎に地震被害予測を行う必要があるため、複数レベル(ケース1〜8)の加速度応答スペクトルを設定して工学的基盤の地震動を作成し、各震度階級に対応する加速度応答スペクトルを計算する。各ケースにおける工学的基盤の最大加速度を表3に示す。
【0022】
ここでは、一例として、ケース7における目標スペクトルと、目標スペクトルの形状に適合するように作成された地震動に対する加速度応答スペクトルを
図2に示す。
図2は、目標スペクトルと作成された地震動に対する加速度応答スペクトルを示す図である。また、一例としてケース1とケース7の工学的基盤の地震動を
図3、
図4に示す。
図3は、ケース1の工学的基盤の地震動を示す図である。
図4は、ケース7の工学的基盤の地震動を示す図である。
【0023】
次に、計算した工学的基盤の地震動に対する地盤応答解析(S106)を行い、ケース1〜ケース8の地表面の地震動を計算する(地表面地震動計算処理、地表面地震動計算ステップ、S107)。計算された各ケースにおける地表面の最大加速度を表4に示す。また一例として、ケース1とケース7の地表面の地震動を
図5、
図6に示す。
図5は、ケース1の地表面の地震動を示す図である。
図6は、ケース7の地表面の地震動を示す図である。
【0024】
次に、計算したケース1〜ケース8の地表面の地震動と「気象庁震度階級表」の気象庁告示(気象庁震度階級の解説、平成21年3月、気象庁)に示された手法とに基づき、ケース1〜ケース8の地表面の地震動の計測震度を計算する(計測震度計算処理、計測震度計算ステップ、S108)。計算された各ケースにおける地表面の計測震度を表5に示す。
【0025】
次に、ケース1〜ケース8の地表面の地震動に対して建物各階の地震応答解析を行い(各階応答値計算処理、各階応答値計算ステップ、S109)、計測震度と建物各階の応答値(最大加速度と最大層間変形角)の関係を計算する(関係計算処理、関係計算ステップ、S110)。建物の応答値は、各階及び各部位(各調査対象部位)によって相違するので、ここでは、まず各階に対応した応答値を計算する。本実施形態では、対象とする建物を8階建としたので、各階に対応させて1層〜8層の応答値を計算する。
【0026】
具体的には、対象とする建物をせん断質点系にモデル化し、複数レベルの地表面の地震動に対してせん断質点系モデルの地震応答解析を行い、まず、複数レベルの建物各階の応答値(最大加速度と最大層間変形角)を計算する。
【0027】
求められた各階の応答値(最大加速度と最大層間変形角)との関係を
図7、
図8に示す。
図7は、計測震度と最大加速度との関係を示す図であり、
図8は、計測震度と最大層間変形角との関係を示す図である。
また、計測震度Iと建物各階の応答値Sとの関係は、(式1)で回帰する。
ここに、a,b:回帰係数
【0028】
このとき、震度階級ごと(例えば、震度5弱,震度5強,震度6弱,震度6強)の建物各階の応答値(最大加速度と最大層間変形角)を計算するとき、震度階級に対応した計測震度が必要となる。震度階級には計測震度のレンジ幅(範囲)があるため、震度階級ごとに設定した計測震度の値を(式1)式に入力して、震度階級ごと(震度5弱,震度5強,震度6弱,震度6強)の建物各階の応答値(最大加速度と最大層間変形角)を計算する。
ここで、震度階級に対応した計測震度の値は、各震度階級における計測震度のレンジ幅の中央値と設定した。例えば、震度5弱のレンジ幅は、計測震度4.5〜5.0であるため、その中央値4.75を震度5弱の計測震度の値に設定した。各震度階級と設定した計測震度の値を表6に示す。
【0029】
次に、各部位の応答値は、建物各階の応答値(最大加速度と最大層間変形角)に表7に示す応答倍率を乗じて計算する(各部位応答値計算処理、各部位応答値計算ステップ、S111)。応答倍率は、実験等により予め設定した値である。
【0030】
表7に示すように、応答値とする応答指標が相違する部位がある。例えば柱の応答指標は最大層間変形角であり、天井は最大加速度である。これは、予め実験等に基づいて地震による建物の損傷に対して着目すべき指標が設定されている。
【0031】
各階及び各部位の応答値は、震度階級ごと(震度5弱,震度5強,震度6弱,震度6強)にそれぞれ計算される。表8〜表11は、震度階級毎に計算された各部位の応答値を示している。
【0035】
次に、計算した各部位の応答値に対する限界値の余裕度を計算する(余裕度計算ステップ、S104)。ここで限界値とは、耐震診断等の結果に基づいて地震による被害の度合いや被害の有無を分ける応答値が閾値として設定された値であり、予めデータベース(損傷度判定データベース)等に記憶されている。ここで、各部位に設定された限界値を表12に示す。ここで、表12は紙面の都合上表12−1と表12−2に分けて示している。また、表12中の記号「G」は980cm/S
2を示している。
【0037】
そして、震度階級ごと(震度5弱,震度5強,震度6弱,震度6強)に各部位の応答値に対する限界値の余裕度Dは、(式2)にて計算される。
D=(限界値)/(応答値) (式2)
【0038】
各部位の計算結果において、余裕度Dが1以上のときは限界値が応答値よりも大きいので被害無し、余裕度Dが1未満のときは限界値が応答値よりも小さいので被害有りと判定する。
【0039】
図9(a)は、震度5弱における柱の応答値に対する限界値の余裕度を示す図であり、
図9(b)は、震度5弱における柱以外の部位の応答値に対する限界値の余裕度を示す図である。
図10(a)は、震度5強における柱の応答値に対する限界値の余裕度を示す図であり、
図10(b)は、震度5強における柱以外の部位の応答値に対する限界値の余裕度を示す図である。
図11(a)は、震度6弱における柱の応答値に対する限界値の余裕度を示す図であり、
図11(b)は、震度6弱における柱以外の部位の応答値に対する限界値の余裕度を示す図である。
図12(a)は、震度6強における柱の応答値に対する限界値の余裕度を示す図であり、
図12(b)は、震度6強における柱以外の部位の応答値に対する限界値の余裕度を示す図である。
【0040】
次に、計算された余裕度に基づいて被害の度合または被害の有無を判定し、予め作成した仮被害調査表(表2)に対応付けて、震度階級ごと(震度5弱,震度5強,震度6弱,震度6強)の被害予測表を作成する(S112)。被害予測表では、構造部材以外の被害は、被害無し(余裕度Dが1以上)を“○”で、被害有り(余裕度Dが1未満)を“×”で表示している。表13〜表16に、震度階級ごと(震度5弱,震度5強,震度6弱,震度6強)の被害予測表を示す。
【0045】
表13〜表16には、各震度階級における構造部材の被害の有無及び度合と、構造部材以外の部位の被害の有無が示されている。すなわち、地震発生時に、地震の震度階級に対応して被害予測された重点調査部位が示されている。このため、予め作成された仮被害調査表(表2)において被害が予測される部位、すなわち重点調査部位とされた欄に、重点調査部位である旨を示す表示、例えば、該当する欄の文字や欄自体を着色するなどして明示することにより被害調査表が完成する。
【0046】
次に、被害調査表を用いて建物(部位)の応急的使用性判定を行う方法について説明する。
建物(部位)の応急的使用性判定は、地震発生直後に、例えば施設管理者により行われる。
施設管理者は、地震発生直後、気象庁から発表される震度階級を参照し、上述の方法にて既に作成しておいた震度階級ごとの被害予測表の中から震度階級に応じた被害予測表を選定する。本実施形態では例えば、気象庁から発表された震度階級が震度6弱として説明する。この場合には、震度階級が震度6弱のときの、震度階級に応じた被害予測表として、表15を選択する。
【0047】
次に、施設管理者は、震度階級に応じて選択した被害予測表をもとに、被害発生が予測される重点調査部位を被害調査表に記入し、震度階級に応じた被害調査表を作成する(被害調査表作成ステップ)。ここでは、気象庁から発表された震度階級が震度6弱としているので、震度階級に応じた被害調査表は表17となる。表17に示す被害調査表では、被害予測された重点調査部位を着色して示している。
【0049】
次に、施設管理者は、震度階級に応じた被害調査表を用いて建物の目視調査を実施し、調査結果を震度階級に応じた被害調査表の結果記入欄に記入する。また、仕上材などで隠れて調査が不可能な部位の被害は、震度階級に応じた被害予測表を参照してその被害予測結果を記入する。このとき施設管理者は、構造部材の被害については、無被害、小破、中破、大破のいずれかを被害調査表の該当欄に記載し、構造部材以外の被害については、被害無しとして“○”、または、被害有りとして“×”のいずれかを記載する。以上により、建物の各階かつ各部位を対象に、部位の応急的使用性判定表が作成される。ここで、作成された部位の応急的使用性判定表の一例を表18に示す。
【0051】
次に、施設管理者は、部位の応急的使用性判定表を用いて、構造部材の被害(無被害、小破、中破、大破)と構造部材以外の被害(被害無し、被害有り)をもとに、
図13に示す建物の応急的使用性判定フローに基づいて建物の応急的使用性の判定(建物の使用不可、被害場所以外の応急的立入、建物の応急的立入、被害場所以外の応急的使用、建物の応急的使用)を行う。
図13は、建物の応急的使用性判定フローを示す図である。
【0052】
建物の応急的使用性の判定は、
図13に示すように、まず建物の構造部材の被害状況が判断される(S201)。このとき、構造部材の被害状況として、無被害、小破、中破、大破のいずれかが判定され、「大破」と判定された場合には、構造部材以外の被害に拘わらず、建物の使用を不可と判定する(S202)。「中破」と判定された場合には、構造部材以外の被害を判定し(S203)、被害があった場合には、被害場所以外の応急的立入が可能と判定しS204)、被害が無かった場合には、建物の応急的立入が可能と判定する(S205)。「小破」と判定された場合には、構造部材以外の被害を判定しS206)、被害があった場合には、被害場所以外の応急的使用が可能と判定し(S207)、被害が無かった場合には、建物の応急的使用が可能と判定する(S208)。「無被害」と判定された場合には、建物の応急的使用が可能と判定する。
【0053】
建物の応急的使用性判定フローに基づいて建物の応急的使用性の判定した結果、例えば、気象庁から発表された震度階級が震度6弱のときの、建物の応急的使用性の判定の結果は表19となる。尚、表19の「建物の応急的使用性」の欄には、使用可能な用途が記載されている。
【0055】
本実施形態の建物の地震による応答値計算システム及び建物の地震による被害調査表作成方法によれば、個々の建物の応急的使用性の判断に、より適した、建物の地震による応答値を計算する建物の地震による応答値計算システム及び計算された応答値に基づいて建物の地震による被害をより適切に調査することが可能な建物の地震による被害調査表作成方法を提供することが可能である。
【0056】
また、本実施形態のように、建物の地震による応答値計算システムを用いて作成した被害調査表に基づいて、施設管理者等は、地震直後の建物を調査した結果から各部位の応急的使用性判定表を作成し、この部位の応急的使用性判定表に基づいて建物の応急的使用性について判定することにより、専門家ではない施設管理者などが、地震直後に建物の応急的使用性を容易に判定できるようになり、企業などは建物の安全を確認した上で従業員を建物内に滞在させることが可能になる。また、企業などでは、災害対策本部の現地立ち上げの可否や代替施設への移転の判断材料を地震直後に得ることができ、人命の安全確保に加えて事業継続にも貢献できる。さらに、地震発生の数日後に、専門家が建物の応急危険度判定や被災度区分判定を実施するとき、建物の応急的使用性の判定結果を専門家が参照することで、詳細調査の必要な建物の優先順位の決定や詳細調査の迅速化が期待できる。