特許第6075156号(P6075156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075156
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】再剥離性粘着剤および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20170130BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20170130BHJP
   C09J 151/08 20060101ALI20170130BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C09J133/04
   C09J7/02 Z
   C09J151/08
   G02B5/30
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-68303(P2013-68303)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-189716(P2014-189716A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 稔
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−168407(JP,A)
【文献】 特開2004−269564(JP,A)
【文献】 特開平11−343321(JP,A)
【文献】 特開平08−199139(JP,A)
【文献】 特開2009−209321(JP,A)
【文献】 特開平10−306274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示す構造を有するモノマー(A)をモノマー混合物を基準として0.3〜5重量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびその他モノマーを含むモノマー混合物100重量%を共重合してなるアクリル系重合体と、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物、およびアミン系化合物からなる群より選択される硬化剤とを含み、メチル水素シリコーンオイルを含まない、再剥離性粘着剤。
一般式(1)
【化1】

(式中、nは10〜200の整数)
【請求項2】
基材と、請求項1載の再剥離性粘着剤から形成した粘着剤層とを備えた、粘着シート。
【請求項3】
粘着剤層のゲル分率が60〜95%である、請求項記載の粘着シート。
【請求項4】
基材が光学部材である、請求項または記載の粘着シート。
【請求項5】
光学部材が偏光板である、請求項記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板に用いる液晶等のディスプレイの製造に好適に使用できる再剥離性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の表示装置は、電子計算機、電子時計、携帯電話、テレビジョン等の家庭用・業務用電化製品など様々な機器に使用され、特に液晶やプラズマのテレビは大型化が進んでいる。また近年、カーナビゲーションなど車載機器等にも使用されており、高温及び高温高湿などの過酷な環境下にも耐えることが必要とされている。前記表示装置には、様々な光学的機能を有する偏光板や位相差板等が用いられており、これらは粘着剤を介してガラス等の部材に貼付される。
【0003】
前記偏光板は、ポリビニルアルコールフィルムをトリアセチルセルロース系フィルムやシクロオレフィン系フィルムで挟み込んだ構成の積層体である。そして前記各フィルムは、それぞれ各温度での寸法変化率が異なるため、高温環境下に置かれた場合、積層体にそりが生じることが多い。
【0004】
また、液晶ディスプレイ等の製造工程において、偏光板を液晶セルなどの光学部品に貼合せするに際し、貼合せ位置にずれが生じた場合など、貼合せからある時間が経過した後に偏光板を剥離し、高価な液晶セルを再利用する、いわゆる「リワーク性」が求められる場合がある。従って、偏光板に塗布されている粘着剤を介して貼合した後、長時間経過後であっても液晶セルから比較的容易に剥離することができる、貼り直し可能な粘着剤が求められている。
【0005】
このような要求を満足する粘着剤として、様々な粘着剤が提案されている。例えば、ポリエーテル変性シリコーンとシランカップリング剤を併用することで、粘着剤の耐久性と再剥離性の両立を目指した粘着剤が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−159346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の粘着剤は、粘着シートに加工して貼り付けた直後は再剥離性可能であるがポリエーテル変性シリコーンとアクリル系重合体の相溶性が悪いため貼り付け後長期間が経過すると粘着剤層内で相分離を生じ、透明性の低下、および再剥離性が低下する問題があった。
【0008】
本発明は、高温または高温高湿環境下に置かれた後に、浮きや剥がれの発生を抑制しながら、再剥離性を有する粘着シートを作製できる透明性が良好な再剥離性粘着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で示す構造を有するモノマー(A)をモノマー混合物を基準として0.3〜5重量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびその他モノマーを含むモノマー混合物100重量%を共重合してなるアクリル系重合体と、硬化剤とを含む再剥離性粘着剤である。

一般式(1)
【化1】
【0010】
(式中、nは1〜200の整数)
【発明の効果】
【0011】
上記構成の本発明によれば、共重合体側鎖のアルキルエステルのエステル構造は、例えばガラス等の被着体と親和性が高く密着し易いため、被着体に貼り付けた後に高温雰囲気に置かれると、密着がさらに高まり再剥離が難しくなる。しかし、本発明では共重合体側鎖の一般式(1)で示す構造(ポリジメチルシロキサン構造ともいう)は、エステル構造と比較して被着体と「なじみ」が良いため、浮きおよび剥がれが生じ難いにも関わらず、再剥離性が低下しにくい。そのため高温雰囲気に置かれた後に優れた再剥離性という効果が得られた。一方、特許文献1では、前記エステル構造に起因する密着を抑制するために、ポリエーテル変性シリコーンを添加することで貼り付け後、長期間置かれた後に優れた再剥離性を実現している。しかし、共重合体とポリエーテル変性シリコーンは、相溶性が低いため高温雰囲気に置かれると両者が分離し透明性が低下する。ところが本発明では、ポリジメチルシロキサン構造が共重合体の側鎖に存在するため相溶性の問題が生じ無い。そこで高温雰囲気に置かれた後でも透明性が低下し難い効果が得られた。
前段で挙げた高温雰囲気で置かれた後の効果は、高温高湿雰囲気で置かれた後でも同様の効果が得られた。
【0012】
本発明により高温または高温高湿環境下に置かれた後に、浮きや剥がれの発生を抑制しながら、再剥離できる粘着シートを作製できる透明性が良好な再剥離性粘着剤を提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の再剥離性粘着剤は、下記一般式(1)で示す構造を有するモノマー(A)をモノマー混合物を基準として0.3〜5重量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびその他モノマーを含むモノマー混合物100重量%を共重合してなるアクリル系重合体と、硬化剤とを含む。なお本明細書において一般式(1)で示す構造をポリジメチルシロキサン構造という。本発明の再剥離性粘着剤は、粘着テープに加工して使用することが好ましい。なお、本明細書でテープ、フィルム、およびシートは同義語である。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルを含む。
【化2】
一般式(1)
【0014】
(式中、nは1〜200の整数)
【0015】
一般のアクリル系重合体を含む粘着シートを被着体に貼り合わせると、時間の経過に伴い粘着シートの粘着剤層は、被着体に対して濡れが進行する(密着性が高まる)。例えば、ガラス等に被着体に対して重合体側鎖のアルキルエステルのエステル結合は、親和性が高く密着し易いため粘着力が上昇する。特に高温雰囲気に置かれると密着がさらに高まり同時に粘着力が上昇することで被着体からの再剥離が難しくなる。一方、本発明の再剥離性粘着剤は、アクリル系重合体の側鎖にポリジメチルシロキサン構造を含む。このポリジメチルシロキサン構造は、エステル構造と比較してガラス等の被着体との親和性が高いが粘着力は上昇しない性質がある。そのため粘着シートを被着体に貼り付けると、アクリル系重合体のポリジメチルシロキサン構造は、アルキルエステルに優先して被着体と密着するため、高温雰囲気に置かれたときに粘着剤層が被着体から浮きおよび剥がれが生じにくいにも関わらず、容易に再剥離ができる優れた効果を見出した。
【0016】
本発明において一般式(1)で示す構造を有するモノマー(A)は、共重合に使用するモノマー混合物100重量%中、0.3〜5重量%を含むことが好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。0.3重量%以上を含むことで良好な再剥離性が得易くなる。また、5重量%以下を含むことで他のモノマーと共重合がし易くなる。
【0017】
一般式(1)で示す構造を有するモノマー(A)は、例えば、下記一般式(2)で示されるモノマー、
一般式(2)
【化3】
【0018】
(式中、R1:炭素数が1以上のアルキレン基、R2:炭素数が1以上のアルキル基、nは1〜200の整数)
下記一般式(3)で示されるモノマー、
一般式(3)
【化4】
【0019】
(式中、R1:炭素数が1以上のアルキレン基、R2:炭素数が1以上のアルキル基、nは1〜200の整数)、
下記一般式(4)で示されるモノマー、
一般式(4)
【化5】

【0020】
(式中、R1:炭素数が1以上のアルキレン基、R2:炭素数が1以上のアルキレン基、R1とR2は同一構造でも良いし、異なった構造でも良い、nは1〜200の整数)、
下記一般式(5)で示されるモノマー、
一般式(5)
【化6】

【0021】
(式中、R1:炭素数が1以上のアルキレン基、R2:炭素数が1以上のアルキレン基、R1とR2は同一構造でも良いし、異なった構造でも良い、nは1〜200の整数)、
下記一般式(6)で示されるモノマー、
一般式(6)
【化7】
【0022】
(式中、R1:炭素数が1以上のアルキレン基、R2:炭素数が1以上のアルキレン基、R1とR2は同一構造でも良いし、異なった構造でも良い、nは1〜200の整数)、
【0023】
一般式(1)で示す構造を有するモノマー(A)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、一般式(1)中、nの繰り返し単位が10〜100であるモノマーが好ましく、20〜80であるモノマーがより好ましい。
【0024】
アクリル系重合体の合成に使用するモノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびその他モノマーが好ましい。
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル鎖の炭素数が1〜20のモノマーが好ましい。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどが挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸ブチルは、良好な粘着性能を得やすいという点から好ましい。これらは単独または2種以上を併用できる。
【0025】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、共重合に使用するモノマー混合物100重量%中、80〜99.3重量%を含むことが好ましい。
【0026】
前記その他モノマーは、反応性官能基含有モノマー、アルコキシ(ポリ)アルキレンオキサイド含有モノマー、およびその他ビニルモノマーが好ましい。
前記反応性官能基含有モノマーは、例えばカルボキシル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、アミド結合含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー等が好ましい。
【0027】
前記カルボキシル基含有モノマーは、例えば(メタ)アクリル酸、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリル酸エステル、p−カルボキシベンジルアクリル酸エステル、エチレンオキサイド変性(EO付加モル数:2〜18)フタル酸アクリル酸エステル、フタル酸モノヒドロキシプロピルアクリル酸エステル、コハク酸モノヒドロキシエチルアクリル酸エステル、アクリル酸β−カルボキシエチル、アクリル酸2−(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチル、マレイン酸、モノエチルマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びフマル酸などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸が好ましい。これらは単独または2種以上を併用できる。
【0028】
前記カルボキシル基含有モノマーは、共重合に使用するモノマー混合物100重量%中、0.5〜10重量%を含むことが好ましく、1〜5重量%がより好ましい。0.5重量%以上含むことで粘着剤の架橋密度の調整が容易になり高温環境下において粘着剤層の浮きおよび剥がれを抑制し易くなる。また10重量%以下含むことで、粘着剤層と被着体の密着が過剰になり難くなる。
【0029】
前記水酸基基含有モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルや、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリル酸エステルなどのグリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましい。これらは単独または2種以上を併用できる。
【0030】
前記水酸基含有モノマーは、共重合に使用するモノマー混合物100重量%中、0.1〜5重量%を含むことが好ましく、0.2〜3重量%がより好ましい。0.1重量%を含むことで粘着剤の架橋密度の調整が容易になることで高温環境下において粘着剤層の浮きおよび剥がれを抑制し易くなる。また、5重量%以下を含むことで架橋密度が過剰になる恐れが減少し、浮きおよび剥がれがさらに抑制し易くなる。
【0031】
前記アミド結合含有モノマーは、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N、N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、などの(メタ)アクリルアミド系の化合物、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、などの複素環を含有した化合物、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは単独または2種以上を併用できる。
【0032】
前記エポキシ基含有モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチルなどが挙げられる。
【0033】
前記アミノ基含有モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピルなどの(メタ)アクリル酸モノアルキルアミノエステルなどが挙げられる。
【0034】
前記アミド結合含有モノマー、前記エポキシ基含有モノマーおよび前記アミノ基含有モノマーは、共重合に使用するモノマー混合物100重量%中、それぞれ0.01〜10重量部含むことが好ましい。
【0035】
前記アルコキシ(ポリ)アルキレンオキサイド含有モノマーは、例えば、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−フェノキシエチル、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0036】
前記アルコキシ(ポリ)アルキレンオキサイド含有モノマーは、共重合に使用するモノマー混合物100重量%中、1〜50重量部含むことが好ましく、1〜30重量部がより好ましい。
【0037】
前記その他ビニルモノマーは、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が好ましいが、他のモノマーと共重合可能なモノマーを適宜選択することが可能であり限定されない。
【0038】
前記その他モノマーは、共重合に使用するモノマー混合物100重量%中、1〜50重量部含むことが好ましく、1〜30重量部がより好ましい。
【0039】
本発明においてアクリル系重合体は、溶液重合、塊状重合、乳化重合等の公知の重合法により得ることができるが、重量平均分子量の制御や反応制御の観点から溶液重合が好ましい。溶液重合の場合、重合溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、キシレン、ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、およびイソプロパノール等が好ましく所望の用途に応じて1種また2種類以上を適宜選択できる。
【0040】
前記溶液重合は、モノマー混合物の合計100重量部に対し重合開始剤を0.001〜1重量部加えて重合反応を行うことができる。通常、重合反応は、窒素気流下で、50℃〜90℃程度の還流条件で6時間〜20時間行うことができる。また、重合反応に連鎖移動剤を使用してアクリル系重合体の重量平均分子量を適宜調整することができる。
【0041】
前記連鎖移動剤は、例えば、n−ドデシルメルカプタン、メルカプトイソブチルアルコール、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグルコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、グリシジルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、四塩化炭素、クロロホルム、ハイドロキノン等が挙げられる。。
【0042】
本発明においてアクリル系重合体の重量平均分子量は、70万〜200万が好ましく、80万〜150万がより好ましく、85万〜130万がさらに好ましい。重量平均分子量を70万〜200万の範囲にすることで、高温雰囲気に置いたときの浮きおよび剥がれを抑制しやすくなり。再剥離性粘着剤の取り扱いもより容易になる。
【0043】
なお、本発明において重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の値である。
【0044】
前記重合開始剤は、アゾ系化合物、有機過酸化物が一般的である。重合開始剤は単独または2種以上を併用できる。
【0045】
前記アゾ系化合物は、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)等が挙げられる。
【0046】
前記有機過酸化物は、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0047】
本発明の再剥離性粘着剤が含む硬化剤は、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、エチレンイミン系化合物、金属キレート系化合物、アミン系化合物などが好ましい
【0048】
前記イソシアネート系化合物は、例えばトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどのイソシアネートモノマーとトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、ビュレット体またはイソシアヌレート体、およびこれらイソシアネートモノマーと公知のポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等とのアダクト体などの分子内に3個以上のイソシアネート基を有する化合物、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等のイソシアネートモノマー、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体(コロネート2770:日本ポリウレタン工業社製)などの分子内に2個のイソシアネート基を有する化合物などが挙げられる。中でも、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体が、粘着物性を容易に調整できるため好ましい。なお、イソシアネート基の個数は平均個数である。
【0049】
前記エポキシ系化合物は、例えばビスフェノールA−エピクロロヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1、3−ビス(N、N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N',N'−テトラグリシジルアミノフェニルメタン等が挙げられる。
【0050】
前記エチレンイミン系化合物は、例えばN,N’−ジフェニルメタン−4,4'−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N’−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、2,2’−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1、3、5−トリアジン等が挙げられる。
【0051】
前記金属キレート系化合物は、例えばアルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロムおよびジルコニウムなどの多価金属と、アセチルアセトンまたはアセト酢酸エチルとの配位化合物などが挙げられる。
【0052】
前記アミン系化合物は、例えばヘキサメチレンジアミン、トリエチルジアミン、ポリエチレンイミン、ヘキサメチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、トリエチルテトラミン、イソホロンジアミン、アミノ樹脂およびメチレン樹脂などが挙げられる。
【0053】
前記硬化剤は、単独または2種以上を併用できる。
前記硬化剤は、アクリル系重合体100重量部に対して、0.01〜30重量部を含まれることが好ましく、0.02〜20重量部がより好ましい。0.01〜30重量部を含むと粘着剤層の凝集力と粘着力のバランスを取ることが容易になる。
【0054】
本発明の再剥離性粘着剤は、シランカップリング剤を含むことも好ましい。シランカップリング剤を含むことで粘着剤層と被着体との密着がさらに良好となることで高温雰囲気での耐久性をより向上できる。
【0055】
前記シランカップリング剤は、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン化合物;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニル基を有するアルコキシシラン化合物;
3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するアルコキシシラン化合物;
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどのメルカプト基を有するアルコキシシラン化合物;
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物;
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン化合物;
3−クロロプロピルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン、1,3,5−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、分子内にアルコキシシリル基を有するシリコーンレジン(X−41−1056:信越化学工業社製、X−41−1810:信越化学工業社製)などが挙げられる。
【0056】
前記シランカップリング剤は、単独または2種以上を併用できる。
前記シランカップリング剤は、アクリル系重合体100重量部に対して、0.01〜2重量部を含むことが好ましく、0.05〜1重量部がより好ましい。
【0057】
本発明の再剥離性粘着剤は、粘着付与樹脂を含むこともできる。前記粘着付与樹脂を含むと粘着力がより向上する。
【0058】
前記粘着付与樹脂は、例えば、ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(油性フェノール樹脂)などが挙げられる。これらは、単独または2種以上を併用できる。
【0059】
前記粘着付与樹脂は、アクリル系重合体100重量部に対して、0.1〜30重量部が好ましく、1〜20重量部がより好ましい。
【0060】
本発明の再剥離性粘着剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意成分として各種樹脂、硬化触媒、オイル、軟化剤、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤及び帯電防止剤等を配合しても良い。
【0061】
本発明の再剥離性粘着剤は、光学部材用粘着剤として好適であるほか、一般ラベル・シール、塗料、弾性壁材、塗膜防水材、床材、粘着性付与剤、粘着剤、積層構造体用粘着剤、シーリング剤、成形材料、表面改質用コーティング剤、バインダー(磁気記録媒体、インキバインダー、鋳物バインダー、焼成レンガバインダー、グラフト材、マイクロカプセル、グラスファイバーサイジング等)、ウレタンフォーム(硬質、半硬質、軟質)、ウレタンRIM、UV・EB硬化樹脂、ハイソリッド塗料、熱硬化型エラストマー、マイクロセルラー、繊維加工剤、可塑剤、吸音材料、制振材料、界面活性剤、ゲルコート剤、人工大理石用樹脂、人工大理石用耐衝撃性付与剤、インキ用樹脂、フィルム(ラミネート粘着剤、保護フィルム等)、合わせガラス用樹脂、反応性希釈剤、各種成形材料、弾性繊維、人工皮革、合成皮革等の原料として、又、各種樹脂添加剤およびその原料等としても非常に有用に使用できる。
【0062】
本発明の粘着シートは、基材と、本発明の再剥離性粘着剤から形成した粘着剤層を備えている。
前記粘着剤層は、再剥離性粘着剤を基材上に塗工し、乾燥することでの形成できる。または、再剥離性粘着剤を剥離性シート上に塗工し、乾燥した後、粘着剤層と基材を貼り合わせることで形成できる。なお粘着剤層の基材と接しない面に剥離性シートを貼り合わせることは言うまでもない。
【0063】
前記再剥離性粘着剤を塗工する際に、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、メトキシトルエン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、その他の炭化水素系溶剤等の有機溶剤を添加して、粘度を調整することもできる。
【0064】
前記基材は、例えばセロハン、プラスチック、光学部材、ゴム、発泡体、布帛、ゴムびき布、樹脂含浸布、ガラス、および木材等が好ましい。基材の形状は、板状およびフィルム状が選択できるが、取り扱いが容易であるフィルムが好ましい。基材は、単独または2種以上の積層体を使用できる。
【0065】
前記プラスチックは、例えばポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリシクロオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリノルボルネン、ポリアリレート、ポリアクリル、ポリフェニレンサルファイドム、ポリスチレン、、ポリアミド、ポリイミドのフィルム、エポキシなどが挙げられる。
【0066】
再剥離性粘着剤の塗工方法は、特に制限は無く、マイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコ−ター、スピンコーター等が挙げられる。乾燥方法には特に制限はなく、熱風乾燥、赤外線や減圧法を利用したものが挙げられる。乾燥条件としては硬化剤種、粘着剤層の厚さ、または溶剤種により、通常60〜160℃程度の熱風加熱ができる。
【0067】
粘着剤層の厚さは、0.1〜300μmが好ましく、1〜100μmがより好ましい。0.1〜300μmの範囲にあることで粘着物性を適切な範囲に調整できる。
【0068】
本発明の粘着シートは、無アルカリガラスに貼合わせ、オートクレーブ処理後、23℃で1時間経過後の粘着力が2〜15N/25mmであることが好ましく、2〜10N/25mmがより好ましい。粘着力が2N/25mm以上になることで浮きおよび剥がれが生じにくくなる。また粘着力が15N/25mm以下になることで再剥離がより容易になる。
【0069】
本発明において粘着シートの粘着剤層は、そのゲル分率が60〜95重量%であることが好ましく、65〜90重量%がより好ましい。ゲル分率が60〜95重量%であることで、凝集力、浮きおよび剥がれをより高いレベルで両立できる。なお、本発明でゲル分率は、所定の大きさの粘着シートをSUS200メッシュ(目開き:0.077mm、線径:0.05mm)に貼り付けた後、酢酸エチルに浸漬し、50℃で24時間抽出した後、100℃で30分乾燥後、下記数式(1)で算出した数値である。
数式(1) ゲル分率(重量%)=(G2/G1)×100
G1:酢酸エチルで抽出する前の粘着剤層の重量
G2:酢酸エチルで抽出・乾燥した後の粘着剤層の重量
【0070】
本発明の粘着シートは、例えばガラス、プラスチック、ダンボール、および金属等の被着体に対して使用できる。再剥離性粘着剤を使用しているため、被着体に貼り付けている間は、浮きおよび剥がれが生じにくく、剥離するときには容易に剥離することができる。
本発明の粘着シートの好ましい態様として、基材に光学部材を使用して、ディスプレイや太陽電池の表面保護部材等に使用することが好ましい。
前記光学部材は、例えば偏光板、位相差フィルム、楕円偏光フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、透明導電フィルム等を挙げることができる。
【0071】
また、本発明の粘着シートは、基材に光学部材を使用した積層体として使用することが好ましい。例えば、液晶セル用積層体としては、偏光板/粘着剤層/液晶セル用ガラス部材という構成を挙げることができる。積層体を高温環境下に置くと、偏光板にそりが生じる場合があるが、粘着剤層とガラスとの界面に気泡(発泡)が生じたり、偏光板がガラスから浮き上がり、剥がれるという問題が発生していた。また、前記そりに起因して積層体の応力分布が不均一となり、応力が積層体の四隅へ集中したり、周辺端部へ集中した結果、積層体の四隅や周辺端部から光が漏れる、いわゆる「光漏れ現象」という問題が生じた。しかし、本発明の再剥離性粘着剤を使用すると高温環境下及び高温高湿環境下において浮きおよび剥がれが生じにくいのみならず、光漏れ現象も生じにくいという効果が得られた。
【0072】
本発明の粘着シートの他の好ましい使用態様は、例えばタッチパネル用途が挙げられる。透明導電性フィルムを基材に使用した積層体は、透明導電フィルム/粘着剤層/ディスプレイ用ガラス部材という構成を挙げることができる。積層体に本発明の再剥離性粘着剤を使用すると高温環境下及び高温高湿環境下において浮きおよび剥がれが生じにくいのみならず、製造工程における透明導電フィルムの貼り直しも容易であり耐久性と再剥離性の両立できる効果が得られた。
【実施例】
【0073】
次に本発明の実施例を示して更に詳細を説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、「部」とは「重量部」、「%」とは「重量%」をそれぞれ意味するものとする。なお、本願明細書において、実施例5は参考例である。
【0074】
合成例で使用した一般式(1)で示す構造を有するモノマーを以下に示す。
X−22−174DX : メタクリル基含有シリコーン(信越化学社製、一般式(3)で示されるモノマーでnの繰り返し単位=56)
X−22−2426 : メタクリル基含有シリコーン(信越化学社製、一般式(3)で示されるモノマーでnの繰り返し単位=151)
X−22−2475 : メタクリル基含有シリコーン(信越化学社製、一般式(3)で示されるモノマーでの繰り返し単位=3)
【0075】
(合成例1)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器(以下、単に「反応容器」と記述する。)にアクリル酸ブチル96.5部、アクリル酸3部、X-22−174DX 0.5部、酢酸エチル90部、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(以下「AIBN」と記述する。)0.02部を仕込み、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した。その後、窒素雰囲気下で撹拌しながら、この反応溶液を還流温度で2時間反応させ、更に、AIBN 0.02部を添加し、5時間反応させた。反応終了後、反応容器を冷却し酢酸エチル110部を加え、重量平均分子量が105万のアクリル系重合体溶液を得た。
【0076】
(合成例1−2〜1−10)
表1の重量比率に従って各種原料を仕込み、合成例1と同様の方法で重合体を合成した。
【0077】
合成例1−1〜1−9により得られたアクリル系重合体溶液について、溶液の外観、重量平均分子量を以下の方法に従って求めた。その結果を表1に示す。なお、合成例10は重合体を合成できなった。
【0078】
<溶液外観>
各アクリル系重合体溶液の外観を目視にて評価した。
【0079】
<重量平均分子量の測定>
重量平均分子量の測定は島津製作所製GPC「LC−GPCシステム」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーであり、重量平均分子量の決定はポリスチレン換算で行った。
装置名 : 島津製作所製、LC−GPCシステム「Prominence」
カラム : 東ソー(株)製GMHXL 4本、東ソー(株)製HXL-H 1本を直列に連結した。
移動相溶媒 : テトラヒドロフラン
流量 : 1.0ml/min
カラム温度 : 40℃
【0080】
【表1】
【0081】
表1の略号を以下に記載する。
BA : アクリル酸ブチル
AA : アクリル酸
HBA : アクリル酸4−ヒドロキシブチル
KBE−503 : 3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製)
【0082】
(実施例1)
合成例1で得られたアクリル系重合体溶液中の重合体100部に対して、硬化剤としてコロネートL(キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、日本ポリウレタン社製)10部(不揮発分換算)、シランカップリング剤としてKBM−403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)0.2部(不揮発分換算)を配合し、更に溶剤として酢酸エチルを加えて不揮発分を25%に調整して粘着剤を得た。
【0083】
前記粘着剤を、剥離処理がされた厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製剥離性シートの剥離層上に、乾燥後の厚さが25μmになるように塗布したのち、100℃で2分間乾燥処理して粘着剤層を形成した。次いで、この粘着剤層に、ポリビニルアルコール(PVA)系偏光子の両面をトリアセチルセルロース系保護フィルム(以下、「TACフィルム」という)で挟んだ多層構造の偏光板の片面を貼り合せ、「剥離性シート/粘着剤層/TACフィルム/PVA/TACフィルム」という構成の粘着シートを得た。次いで、得られた粘着フィルムを温度35℃相対湿度55%の条件で1週間熟成させて、粘着剤層が剥離性シートで被覆された粘着シートを得た。
【0084】
(実施例2〜8、比較例1〜5)
表2の重量比率に従って、実施例1と同様にして粘着剤を得た。更に実施例1と同様にして粘着剤層が剥離性シートで被覆された粘着シートを得た。
【0085】
実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた粘着シートを以下の方法で評価した。その結果を表2に示す。
【0086】
(1)粘着力
得られた粘着シートを幅25mm、縦150mmの大きさに準備した。前記粘着シートから剥離性シートを剥がして無アルカリガラス(#1737、コーニング社製)にラミネータを用いて貼り付けた。続いて、50℃、5気圧の条件のオートクレーブ内に20分保持させてガラス板に密着させ、粘着シートとガラス板との積層体を得た。この積層体を23℃、相対湿度50%の環境下で1時間保持した。その後、引張試験機を用いて180度方向に300mm/分の速度で引き剥がす180°ピール試験を行い粘着力を測定した。
【0087】
(2)再剥離性
「(1)粘着力」と同様の条件で積層体を作成し、下記3条件にて処理した後、23℃、相対湿度50%雰囲気で1時間放置した後に引張試験機を用いて180度方向に300mm/分の速度で引き剥がす180°ピール試験における粘着力の測定及び剥離後のガラス表面の粘着剤の糊残り、曇りを目視で観察し、下記の4段階の評価基準に基づいて評価を行った。
a)評価条件
初期再剥離性:23℃、相対湿度50%の環境下で1時間放置する。
加熱後再剥離性:85℃の環境下で3時間放置する。
経時再剥離性:23℃、相対湿度50%の環境下で30日間放置する。
b)評価基準
◎:「粘着力が10N/25mm以下であり、糊残り、曇りが認められず、良好である」
○:「粘着力が15N/25mm以下であり、糊残り、曇りが認められず、実用上問題がない」
△:「糊残り、曇りは認められないが、粘着力が15N/25mm以上で、実用不可である」
×:「粘着力が15N/25mm以上で、糊残り、曇りが認められ、実用不可である」
【0088】
(3)浮き・剥がれ評価
得られた粘着シートを幅160mm、縦120mmの大きさに準備し、剥離性シートを剥がして無アルカリガラス(#1737、コーニング社製)に、ラミネータを用いて貼着した。続いて、この粘着シートが貼り付けられたガラス板を50℃、5気圧の条件のオートクレーブ内に20分保持させてガラス板に密着させ、粘着シートとガラス板との積層体を得た。高温雰囲気での評価として、上記積層体を85℃で500時間放置した後の発泡(気泡の発生)、浮きおよび剥がれを目視で観察した。また高温高湿雰囲気での評価として、前記積層体を60℃、相対湿度95%で500時間放置した後の発泡、浮きおよび剥がれを目視で観察した。高温雰囲気および高温高湿雰囲気での評価は、下記の3段階の評価基準に基づいて行った。
◎:「発泡、浮き、剥がれが全く認められず、良好である」
○:「0.5mm以下の発泡、浮き、剥がれのいずれかが認められるが、実用上問題がない」
×:「全面的に発泡、浮き、剥がれがあり、実用不可である」
【0089】
(4)光漏れ性
得られた粘着シートを幅160mm、縦120mmの大きさに準備し、剥離性シートを剥がして無アルカリガラス(#1737、コーニング社製)の両面に2枚の粘着シートの偏光板の吸収軸が直交するようにラミネータを用いて貼着した。続いて、この粘着フィルムが貼り付けられたガラス板を50℃、5気圧の条件のオートクレーブ内に20分保持させてガラス板に密着させ、粘着シートとガラス板との積層体を得た。この積層体を85℃で500時間放置した後、偏光板に光を透過させたときの光漏れを目視で観察した。光漏れ性について、下記の3段階の評価基準に基づいて評価を行った。
◎:「白ぬけが認められず、良好である」
○:「わずかに白ぬけが認められるが、実用上問題がない」
×:「全面的に白ぬけがあり、実用不可である」
【0090】
(5)透明性
得られた粘着シートの粘着剤層外観を目視にて評価した。粘着剤層の外観に関しては、下記の3段階の評価基準に基づいて評価を行った。
○:「塗膜は透明で良好である」
×:「塗膜は白化しており、実用不可である」
【0091】
【表2】
【0092】
表3の略号を以下に記載する。
コロネートL : トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(日本ポリウレタン社製)
TETRAD X : N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)
KBM−403 : 3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製)
X−22−174DX : メタクリル基含有シリコーン(信越化学社製)
【0093】
表2の実施例1〜8に示すように本発明の粘着剤は、再剥離性、耐熱性、耐湿熱性、光漏れ性、透明性に優れていることがわかる。これに対し、比較例1〜5では、いずれかの項目が不良となっており、実用上問題があったり、実用不可であることがわかる。
【0094】
本発明の粘着剤は、光学部材用粘着剤に要求される再剥離性、耐熱性、耐湿熱性、光漏れ性、透明性に優れた特性を有している。特に偏光板の貼り合せ用途では、液晶ディスプレイ生産時の歩留まりを高めるために必要なリワーク性が重要視され、ディスプレイの大型化や高機能化に伴い要求性能はますます厳しくなってきている。そこで、本発明の粘着剤は、上述のように耐熱性、耐湿熱性、光漏れ性、透明性に加えて、優れたリワーク性を有しているために特に有用である。