特許第6075166号(P6075166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075166
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】燃焼制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20170130BHJP
   F02B 23/02 20060101ALI20170130BHJP
   F01P 3/08 20060101ALI20170130BHJP
   F01M 1/08 20060101ALI20170130BHJP
   F01P 3/10 20060101ALI20170130BHJP
   F02D 41/38 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   F02D41/04 385L
   F02D41/04 385C
   F02B23/02 Z
   F01P3/08 A
   F01M1/08 B
   F01P3/10 A
   F02D41/38 B
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-79727(P2013-79727)
(22)【出願日】2013年4月5日
(65)【公開番号】特開2014-202142(P2014-202142A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛
(72)【発明者】
【氏名】葛山 裕史
(72)【発明者】
【氏名】河合 謹
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−197674(JP,A)
【文献】 特開2005−009357(JP,A)
【文献】 特開2005−325694(JP,A)
【文献】 特開2000−073770(JP,A)
【文献】 特開2003−184619(JP,A)
【文献】 特開2000−154757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00−45/00
F02B 1/00−23/10
F01P 1/00−11/20
F01M 1/00− 3/04
F01M 5/00− 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルによりピストンを冷却する機能を有し予混合圧縮着火燃焼を行うエンジンの燃焼制御装置において、
前記エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
1回目のメイン燃料噴射及びこの後の2回目のメイン燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御するメイン噴射制御手段と、
前記エンジンの負荷を検出する負荷検出手段と、
前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと、
前記負荷検出手段により検出された前記エンジンの負荷と前記回転数センサにより検出された前記エンジンの回転数とに基づいて、前記1回目のメイン燃料噴射及び前記2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量を決定する手段と、
前記エンジンの水温を検出する水温検出手段と、
前記エンジンの油温を検出する油温検出手段と、
前記水温検出手段により検出された前記エンジンの水温が第1所定温度よりも低いときに、前記メイン燃料噴射による着火時期を進角させるように制御する第1着火時期制御手段と、
前記油温検出手段により検出された前記エンジンの油温が第2所定温度よりも低いときに、前記メイン燃料噴射による前記着火時期を進角させるように制御する第2着火時期制御手段とを備え
前記第1着火時期制御手段は、前記エンジンの水温が前記第1所定温度よりも低いときに、前記1回目のメイン燃料噴射を実施する前にプレ燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御する第1プレ噴射制御手段と、前記プレ燃料噴射の燃料噴射量を決定する手段と、前記負荷検出手段により検出された前記エンジンの負荷が所定値以下であるかどうかを判断する手段と、前記エンジンの負荷が前記所定値よりも高いときは、前記1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量から前記プレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量し、前記エンジンの負荷が前記所定値以下であるときは、前記2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量から前記プレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量する手段とを有し、
前記第2着火時期制御手段は、前記エンジンの油温が前記第2所定温度よりも低いときに、前記1回目のメイン燃料噴射を実施する前に前記プレ燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御する第2プレ噴射制御手段と、前記プレ燃料噴射の燃料噴射量を決定する手段と、前記負荷検出手段により検出された前記エンジンの負荷が前記所定値以下であるかどうかを判断する手段と、前記エンジンの負荷が前記所定値よりも高いときは、前記1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量から前記プレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量し、前記エンジンの負荷が前記所定値以下であるときは、前記2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量から前記プレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量する手段とを有し、
前記メイン噴射制御手段は、前記エンジンの負荷が前記所定値よりも高いときは、前記プレ燃料噴射の燃料噴射量分が減量された燃料噴射量に応じて前記1回目のメイン燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御し、前記エンジンの負荷が前記所定値以下であるときは、前記プレ燃料噴射の燃料噴射量分が減量された燃料噴射量に応じて前記2回目のメイン燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御することを特徴とする燃焼制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの負荷と前記エンジンの回転数とに基づいて、前記1回目のメイン燃料噴射及び前記2回目のメイン燃料噴射の噴射時期を決定するメイン噴射時期決定手段を更に備え、
前記第1着火時期制御手段は、前記プレ燃料噴射の噴射時期を決定する手段と、前記水温検出手段により検出された前記エンジンの水温が前記第1所定温度未満の第3所定温度よりも低いときに、前記プレ燃料噴射及び前記1回目のメイン燃料噴射の噴射時期を進角させる第1噴射時期補正手段とを更に有し、
前記第1プレ噴射制御手段は、前記エンジンの水温が前記第3所定温度よりも低いときは、前記第1噴射時期補正手段により補正された噴射時期に応じて前記プレ燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御し、
前記第2着火時期制御手段は、前記プレ燃料噴射の噴射時期を決定する手段と、前記油温検出手段により検出された前記エンジンの油温が前記第2所定温度未満の第4所定温度よりも低いときに、前記プレ燃料噴射及び前記1回目のメイン燃料噴射の噴射時期を進角させる第2噴射時期補正手段とを更に有し、
前記第2プレ噴射制御手段は、前記エンジンの油温が前記第4所定温度よりも低いときは、前記第2噴射時期補正手段により補正された噴射時期に応じて前記プレ燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御し、
前記メイン噴射制御手段は、前記エンジンの水温が前記第3所定温度よりも低いときは、前記第1噴射時期補正手段により補正された噴射時期に応じて前記1回目のメイン燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御し、前記エンジンの油温が前記第4所定温度よりも低いときは、前記第2噴射時期補正手段により補正された噴射時期に応じて前記1回目のメイン燃料噴射を実施するように前記燃料噴射弁を制御することを特徴とする請求項記載の燃焼制御装置。
【請求項3】
記第1噴射時期補正手段は、前記エンジンの負荷が前記所定値以下であり且つ前記エンジンの水温が前記第3所定温度よりも低いときに、前記プレ燃料噴射及び前記1回目のメイン燃料噴射の噴射時期を進角させ
記第2噴射時期補正手段は、前記エンジンの負荷が前記所定値以下であり且つ前記エンジンの油温が前記第4所定温度よりも低いときに、前記プレ燃料噴射及び前記1回目のメイン燃料噴射の噴射時期を進角させることを特徴とする請求項記載の燃焼制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予混合圧縮着火(PCCI)燃焼を行うエンジンの燃焼制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
予混合圧縮着火燃焼を行うエンジンの燃焼制御装置としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。特許文献1に記載の燃焼制御装置は、低温予混合燃焼を行う場合、冷間時において着火遅れ期間が長期化するときは、燃料の噴射時期を進角側に補正すると共に、噴射圧力を低下させることで燃料の噴射期間を長期化させる方向に補正することにより、燃料が燃焼室内に過度に拡散することを防止し、未燃HCの増加を抑制するというものである。
【0003】
また、特許文献2には、クランクケースに配設されたオイルジェットからピストンの裏面に対してオイルを噴射して、ピストンの冷却を行うエンジンの燃焼制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−184609号公報
【特許文献2】特開2005−325694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように燃料の噴射期間を長期化させても、早期に噴射された燃料については拡散する時間が長くなる。このため、燃料の過拡散を十分に防ぐことが困難となるため、未燃分のHC及びCOの増加を十分抑制することができない可能性がある。また、上記特許文献2のようにオイルによりピストンを冷却するエンジンでは、オイルの温度(油温)が低下すると、未燃分のHC及びCOが増加してしまう。
【0006】
本発明の目的は、エンジンの水温または油温が低いときでも、未燃分のHC及びCOの増加を十分抑制することができる燃焼制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、オイルによりピストンを冷却する機能を有し予混合圧縮着火燃焼を行うエンジンの燃焼制御装置において、エンジンの燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、メイン燃料噴射を実施するように燃料噴射弁を制御するメイン噴射制御手段と、エンジンの水温を検出する水温検出手段と、エンジンの油温を検出する油温検出手段と、水温検出手段により検出されたエンジンの水温が第1所定温度よりも低いときに、メイン燃料噴射による着火時期を進角させるように制御する第1着火時期制御手段と、油温検出手段により検出されたエンジンの油温が第2所定温度よりも低いときに、メイン燃料噴射による着火時期を進角させるように制御する第2着火時期制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
このように本発明の燃焼制御装置においては、エンジンの水温が第1所定温度よりも低いときは、メイン燃料噴射による着火時期を進角させるように制御することにより、熱発生率波形(燃焼波形)が暖気状態時に近づくようになるため、燃焼が活発化する。これにより、エンジンの水温が低いときでも、未燃分のHC及びCOの増加を十分抑制することができる。また、エンジンの油温が第2所定温度よりも低いときにも、メイン燃料噴射による着火時期を進角させるように制御することにより、上記と同様に、燃焼波形が暖気状態時に近づくようになるため、燃焼が活発化する。これにより、エンジンの水温が低いときだけでなく、エンジンの油温が低いときにも、未燃分のHC及びCOの増加を十分抑制することができる。
【0009】
好ましくは、第1着火時期制御手段は、エンジンの水温が第1所定温度よりも低いときに、メイン燃料噴射を実施する前にプレ燃料噴射を実施するように燃料噴射弁を制御する第1プレ噴射制御手段を有し、第2着火時期制御手段は、エンジンの油温が第2所定温度よりも低いときに、メイン燃料噴射を実施する前にプレ燃料噴射を実施するように燃料噴射弁を制御する第2プレ噴射制御手段を有する。
【0010】
このようにメイン燃料噴射を実施する前にプレ燃料噴射を実施することにより、プレ燃料噴射による予熱によって、メイン燃料噴射による着火時期を確実に進角させることができる。
【0011】
このとき、好ましくは、メイン燃料噴射の噴射時期を決定するメイン噴射時期決定手段を更に備え、第1着火時期制御手段は、プレ燃料噴射の噴射時期を決定する手段と、水温検出手段により検出されたエンジンの水温が第1所定温度未満の第3所定温度よりも低いときに、プレ燃料噴射及びメイン燃料噴射の噴射時期を進角させる第1噴射時期補正手段とを更に有し、第1プレ噴射制御手段は、エンジンの水温が第3所定温度よりも低いときは、第1噴射時期補正手段により補正された噴射時期に応じてプレ燃料噴射を実施するように燃料噴射弁を制御し、第2着火時期制御手段は、プレ燃料噴射の噴射時期を決定する手段と、油温検出手段により検出されたエンジンの油温が第2所定温度未満の第4所定温度よりも低いときに、プレ燃料噴射及びメイン燃料噴射の噴射時期を進角させる第2噴射時期補正手段とを更に有し、第2プレ噴射制御手段は、エンジンの油温が第4所定温度よりも低いときは、第2噴射時期補正手段により補正された噴射時期に応じてプレ燃料噴射を実施するように燃料噴射弁を制御し、メイン噴射制御手段は、エンジンの水温が第3所定温度よりも低いときは、第1噴射時期補正手段により補正された噴射時期に応じてメイン燃料噴射を実施するように燃料噴射弁を制御し、エンジンの油温が第4所定温度よりも低いときは、第2噴射時期補正手段により補正された噴射時期に応じてメイン燃料噴射を実施するように燃料噴射弁を制御する。
【0012】
このようにエンジンの水温または油温が十分低いときに、プレ燃料噴射及びメイン燃料噴射の噴射時期を進角させることにより、メイン燃料噴射による着火時期を更に進角させることができる。
【0013】
このとき、好ましくは、エンジンの負荷を検出する負荷検出手段を更に備え、第1着火時期制御手段は、負荷検出手段により検出されたエンジンの負荷が所定値以下であるかどうかを判断する手段を更に有し、第1噴射時期補正手段は、エンジンの負荷が所定値以下であり且つエンジンの水温が第3所定温度よりも低いときに、プレ燃料噴射及びメイン燃料噴射の噴射時期を進角させ、第2着火時期制御手段は、負荷検出手段により検出されたエンジンの負荷が所定値以下であるかどうかを判断する手段を更に有し、第2噴射時期補正手段は、エンジンの負荷が所定値以下であり且つエンジンの油温が第4所定温度よりも低いときに、プレ燃料噴射及びメイン燃料噴射の噴射時期を進角させる。
【0014】
エンジンの負荷が極めて低いときは、エンジンの水温または油温が低くなるほど、燃焼波形が暖気状態時のものと大きく異なるようになる。従って、エンジンの負荷が所定値以下であり且つエンジンの水温が第1所定温度未満の第3所定温度よりも低いとき、またはエンジンの負荷が所定値以下であり且つエンジンの油温が第2所定温度未満の第4所定温度よりも低いときに、プレ燃料噴射及びメイン燃料噴射の噴射時期を進角させるのが効果的である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エンジンの水温または油温が低いときでも、未燃分のHC及びCOの増加を十分抑制することができる。これにより、優れた予混合圧縮着火燃焼を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る燃焼制御装置の一実施形態を備えたディーゼルエンジンを示す概略構成図である。
図2図1に示したシリンダを含む部分を示す断面図である。
図3図1に示した燃焼制御装置の構成を示すブロック図である。
図4図3に示したECUにより実行される制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
図5】エンジン水温とエンジン油温との関係の一例を示すグラフである。
図6】エンジン油温とHC排出量、CO排出量及び燃焼音との関係の一例を示すグラフである。
図7】エンジン油温が異なる場合の熱発生率波形を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る燃焼制御装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る燃焼制御装置の一実施形態を備えたディーゼルエンジンを示す概略構成図である。同図において、本実施形態に係るディーゼルエンジン1は、コモンレール式の4気筒直列ディーゼルエンジンである。ディーゼルエンジン1はエンジン本体2を備え、このエンジン本体2には4つのシリンダ3が設けられている。
【0019】
各シリンダ3には、燃焼室4内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)5がそれぞれ配設されている。各インジェクタ5はコモンレール6に接続されており、コモンレール6に貯留された高圧燃料が各インジェクタ5に常時供給されている。
【0020】
エンジン本体2には、燃焼室4内に空気を吸入するための吸気通路7がインテークマニホールド8を介して接続されている。また、エンジン本体2には、燃焼後の排気ガスを排出するための排気通路9がエキゾーストマニホールド10を介して接続されている。燃焼室4とインテークマニホールド8との間は、吸気バルブ11によって開閉される(図2参照)。燃焼室4とエキゾーストマニホールド10との間は、排気バルブ12によって開閉される(図2参照)。
【0021】
吸気通路7には、上流側から下流側に向けてエアクリーナー13、ターボ過給機14のコンプレッサ15、インタークーラー16及びスロットルバルブ17が設けられている。排気通路9には、上流側から下流側に向けてターボ過給機14のタービン18及びDPF付き触媒19が設けられている。
【0022】
また、ディーゼルエンジン1は、燃焼後の排気ガスの一部を排気再循環ガス(EGRガス)として燃焼室4内に還流する排気再循環(EGR)ユニット20を備えている。EGRユニット20は、吸気通路7とエキゾーストマニホールド10とを繋ぐように設けられ、EGRガスを還流するためのEGR通路21と、エキゾーストマニホールド10から吸気通路7へのEGRガスの還流量を調整するEGRバルブ22と、EGR通路21を通るEGRガスを冷却するEGRクーラ23と、このEGRクーラ23をバイパスするようにEGR通路21に接続されたバイパス通路24と、EGRガスの流路をEGRクーラ23側またはバイパス通路24側に切り替える切替弁25とを有している。
【0023】
図2に示すように、シリンダ3の内部には、ピストン26が往復運動可能に収容されている。ピストン26は、クランクシャフト27にコンロッド28を介して連結されている。
【0024】
シリンダ3のシリンダブロック3aには、ピストン26の裏面に対してエンジンオイル(以下、単にオイルという)を噴射するオイルジェット29が取り付けられている。また、シリンダブロック3aには、オイルジェット29にオイルを供給するためのオイル流路30が形成されている。
【0025】
ピストン26には、オイルジェット29から噴射されたオイルが導入されるクーリングチャンネル32が形成されている。クーリングチャンネル32にオイルが導入されることで、ピストン26が効率的に冷却される。なお、クーリングチャンネル32に導入されたオイルは、オイル排出口31からピストン26の外部に排出される。
【0026】
ディーゼルエンジン1は、図3にも示すように、電子制御ユニット(ECU)33と、このECU33に接続されたアクセル開度センサ34、回転数センサ35、水温センサ36及び油温センサ37とを備えている。
【0027】
アクセル開度センサ34は、エンジン本体2の負荷(エンジン負荷)の代替値として、アクセルペダルの踏込み角(アクセル開度)を検出するセンサ(負荷検出手段)である。なお、本実施形態のようなコモンレール式燃料噴射装置を備えたディーゼルエンジン1では、燃料噴射量を電子制御しており、エンジン負荷の代替値として燃料噴射量を用いることも可能である。
【0028】
回転数センサ35は、エンジン本体2の回転数(エンジン回転数)を検出するセンサである。回転数センサ35は、例えばクランクシャフト27の回転角度(クランク角)を検出することで、エンジン回転数を検出する。
【0029】
水温センサ36は、エンジン本体2内を流れる冷却水の温度(エンジン水温)を検出するセンサ(水温検出手段)である。油温センサ37は、エンジン本体2内を流れるオイルの温度(油温)を検出するセンサ(油温検出手段)である。
【0030】
ECU33は、アクセル開度センサ34、回転数センサ35、水温センサ36及び油温センサ37の検出値を入力し、所定の処理を行い、各インジェクタ5を制御することで、各燃焼室4内への燃料の噴射を制御する。
【0031】
ここで、各インジェクタ5、ECU33、アクセル開度センサ34、回転数センサ35、水温センサ36及び油温センサ37は、本実施形態の燃焼制御装置38を構成している。このような燃焼制御装置38は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程という1サイクルにおいて、各インジェクタ5から燃料を複数回に分けて噴射する分割噴射の予混合圧縮着火燃焼を行うように制御する。
【0032】
図4は、ECU33により実行される制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。同図において、まずアクセル開度センサ34により検出されたアクセル開度(エンジン負荷)と回転数センサ35により検出されたエンジン回転数とに基づいて、1回目のメイン燃料噴射及びこの後に実施される2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定する(手順S101)。このとき、2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量は、1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量よりも少なくする。また、2回目のメイン燃料噴射は、1回目のメイン燃料噴射によって生じる低温酸化反応による熱発生率のピーク以降で且つ1回目のメイン燃料噴射によって生じる高温酸化反応による熱発生率のピーク以前の期間に行われる。
【0033】
続いて、水温センサ36により検出されたエンジン水温が水温用上側基準温度(例えば完全暖気状態よりも低い温度)よりも低いかどうかを判断する(手順S102)。なお、完全暖気状態とは、エンジン本体2の暖機が完了し、エンジン水温の上昇が止まる定常状態を指し、エンジン水温が例えば80℃以上の状態をいう。エンジン水温が水温用上側基準温度よりも低いと判断されたときは、エンジン負荷、エンジン回転数及びエンジン水温に基づいて、1回目のメイン燃料噴射の前に実施されるプレ燃料噴射の燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定する(手順S103)。
【0034】
このとき、プレ燃料噴射の燃料噴射量は、1回目及び2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量よりも少なくする。また、エンジン水温が低くなるほど、プレ燃料噴射の燃料噴射量を多くし、エンジン負荷及びエンジン回転数が高くなるほど、プレ燃料噴射の燃料噴射量を少なくする。
【0035】
続いて、油温センサ37により検出されたエンジン油温が油温用上側基準温度(例えば上記の完全暖気状態よりも低い温度)以上であるかどうかを判断する(手順S104)。エンジン油温が油温用上側基準温度以上であると判断されたときは、引き続いてエンジン負荷が所定値よりも高いかどうかを判断する(手順S105)。
【0036】
エンジン負荷が所定値より高いと判断されたときは、1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量からプレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量する(手順S106)。従って、手順S101で設定された1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量が補正されることとなる。そして、手順S103で設定された燃料噴射量及び燃料噴射時期に従ってプレ燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S107)。
【0037】
一方、手順S105でエンジン負荷が所定値より高くないと判断されたときは、2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量からプレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量する(手順S108)。従って、手順S101で設定された2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量が補正されることとなる。
【0038】
続いて、エンジン水温が上記の水温用上側基準温度未満の水温用下側基準温度よりも低いかどうかを判断する(手順S109)。エンジン水温が水温用下側基準温度よりも低くないと判断されたときは、手順S103で設定された燃料噴射量及び燃料噴射時期に従ってプレ燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S107)。
【0039】
一方、エンジン水温が水温用下側基準温度よりも低いと判断されたときは、手順S103で設定されたプレ燃料噴射の燃料噴射時期及び手順S101で設定された1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射時期をそれぞれ同じ量だけ進角させる(手順S110)。従って、手順S101で設定された1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射時期と手順S103で設定されたプレ燃料噴射の燃料噴射時期とが補正されることとなる。このとき、エンジン水温が低いことにより、燃焼室4内の温度が下がることによる着火遅れ分だけ各燃料噴射の燃料噴射時期を進角させるのが好ましい。
【0040】
続いて、手順S103で設定された燃料噴射量及び手順S110で補正された燃料噴射時期に従ってプレ燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S107)。
【0041】
手順S102でエンジン水温が水温用上側基準温度よりも低くないと判断されたときは、引き続いてエンジン油温が油温用上側基準温度(前述)よりも低いかどうかを判断する(手順S111)。
【0042】
エンジン油温が油温用上側基準温度よりも低いと判断されたときは、エンジン負荷、エンジン回転数及びエンジン油温に基づいて、プレ燃料噴射の燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定する(手順S112)。
【0043】
手順S104でエンジン油温が油温用上側基準温度以上でないと判断されたとき、または手順S112を実施した後、エンジン負荷が所定値よりも高いかどうかを判断する(手順S113)。
【0044】
エンジン負荷が所定値よりも高いと判断されたときは、手順S106と同様に、1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量からプレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量する(手順S114)。そして、手順S112で設定された燃料噴射量及び燃料噴射時期に従ってプレ燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S107)。
【0045】
一方、手順S113でエンジン負荷が所定値より高くないと判断されたときは、手順S108と同様に、2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量からプレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量する(手順S115)。
【0046】
続いて、エンジン油温が上記の油温用上側基準温度未満の油温用下側基準温度よりも低いかどうかを判断する(手順S116)。エンジン油温が油温用下側基準温度よりも低くないと判断されたときは、手順S112で設定された燃料噴射量及び燃料噴射時期に従ってプレ燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S107)。
【0047】
一方、エンジン油温が油温用下側基準温度よりも低いと判断されたときは、手順S112で設定されたプレ燃料噴射の燃料噴射時期及び手順S101で設定された1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射時期をそれぞれ同じ量だけ進角させる(手順S117)。従って、手順S101で設定された1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射時期と手順S112で設定されたプレ燃料噴射の燃料噴射時期とが補正されることとなる。この時の燃料噴射時期の進角量は、手順S110と同様である。
【0048】
続いて、手順S112で設定された燃料噴射量及び手順S117で補正された燃料噴射時期に従ってプレ燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S107)。
【0049】
手順S107が実施された後、手順S101で設定された燃料噴射量または手順S106,S114の何れかで補正された燃料噴射量及び手順S101で設定された燃料噴射時期または手順S110,S117の何れかで補正された燃料噴射時期に従って、1回目のメイン燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S118)。続いて、手順S101で設定された燃料噴射量または手順S108,S115の何れかで補正された燃料噴射量及び手順S101で設定された燃料噴射時期に従って、2回目のメイン燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S119)。
【0050】
手順S111でエンジン油温が油温用上側基準温度よりも低くないと判断されたときは、手順S107においてプレ燃料噴射を実施すること無く、手順S101で設定された燃料噴射量及び燃料噴射時期に従って1回目のメイン燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S118)。続いて、手順S101で設定された燃料噴射量及び燃料噴射時期に従って2回目のメイン燃料噴射を実施するように、インジェクタ5を制御する(手順S119)。
【0051】
なお、水温用上側基準温度は、油温用上側基準温度と同じでも良いし異なっていても良い。また、水温用下側基準温度は、油温用下側基準温度と同じでも良いし異なっていても良い。
【0052】
以上において、ECU33は、メイン燃料噴射を実施するように燃料噴射弁5を制御するメイン噴射制御手段と、水温検出手段36により検出されたエンジン1の水温が第1所定温度よりも低いときに、メイン燃料噴射による着火時期を進角させるように制御する第1着火時期制御手段と、油温検出手段37により検出されたエンジン1の油温が第2所定温度よりも低いときに、メイン燃料噴射による着火時期を進角させるように制御する第2着火時期制御手段と、メイン燃料噴射の噴射時期を決定するメイン噴射時期決定手段とを構成する。
【0053】
このとき、上記の手順S101は、メイン噴射時期決定手段として機能し、上記の手順S102,S103,S105〜S110は、第1着火時期制御手段として機能し、上記の手順S111〜S117は、第2着火時期制御手段として機能し、上記の手順S118,S119は、メイン噴射制御手段として機能する。
【0054】
具体的には、上記の手順S102,S107は、エンジン1の水温が第1所定温度よりも低いときに、メイン燃料噴射を実施する前にプレ燃料噴射を実施するように燃料噴射弁5を制御する第1プレ噴射制御手段として機能する。上記の手順S104,S111,S107は、エンジン1の油温が第2所定温度よりも低いときに、メイン燃料噴射を実施する前にプレ燃料噴射を実施するように燃料噴射弁5を制御する第2プレ噴射制御手段として機能する。
【0055】
また、上記の手順S103は、プレ燃料噴射の噴射時期を決定する手段として機能し、上記の手順S109,S110は、水温検出手段36により検出されたエンジン1の水温が第1所定温度未満の第3所定温度よりも低いときに、プレ燃料噴射及びメイン燃料噴射の噴射時期を進角させる第1噴射時期補正手段として機能する。上記の手順S112は、プレ燃料噴射の噴射時期を決定する手段として機能し、上記の手順S116,S117は、油温検出手段37により検出されたエンジン1の油温が第2所定温度未満の第4所定温度よりも低いときに、プレ燃料噴射及びメイン燃料噴射の噴射時期を進角させる第2噴射時期補正手段として機能する。
【0056】
さらに、上記の手順S105は、負荷検出手段34により検出されたエンジン1の負荷が所定値以下であるかどうかを判断する手段として機能する。上記の手順S113は、負荷検出手段34により検出されたエンジン1の負荷が所定値以下であるかどうかを判断する手段として機能する。
【0057】
ここで、エンジン水温とエンジン油温との関係の一例を図5に示す。図5から分かるように、完全暖気状態に至る過程では、エンジン油温の上昇速度がエンジン水温の上昇速度よりも遅いため、エンジン油温がエンジン水温よりも低くなる傾向にある。
【0058】
本実施形態では、エンジン水温が水温用上側基準温度よりも低く、且つエンジン油温が油温用上側基準温度よりも低い状況(図5中の領域X参照)では、プレ燃料噴射を実施してから1回目及び2回目のメイン燃料噴射を順次実施する。また、エンジン水温が水温用上側基準温度よりも高いが、エンジン油温が油温用上側基準温度よりも低い状況(図5中の領域Y参照)でも、プレ燃料噴射を実施してから1回目及び2回目のメイン燃料噴射を順次実施する。一方、エンジン水温が水温用上側基準温度よりも高く、且つエンジン油温が油温用上側基準温度よりも高い状況では、プレ燃料噴射を実施せずに1回目及び2回目のメイン燃料噴射を順次実施する。
【0059】
ところで、エンジン水温が低い場合には、プレ燃料噴射を実施しないと、暖気状態時に比べて、メイン燃料噴射による燃料と空気との予混合気の着火時期が遅れるため、熱発生率波形で示される燃焼状態が理想的な形状より外れる。このような燃焼状態では、燃料の未燃分が増加し、HC及びCOの排出が増加する。
【0060】
また、エンジン水温が一定(例えば80℃)である状態で、エンジン油温が低下した場合には、プレ燃料噴射を実施しないと、エンジン水温が低い場合と同様に、未燃分のHC及びCOの排出量が増加する(図6(a),(b)参照)と共に、燃焼音が低下する(図6(c)参照)。また、熱発生率波形としては、図7に示すように、エンジン油温が低くなると、リタード燃焼となる。なお、図7は、油温の影響が分かり易いように、1回の燃料噴射の予混合で比較したグラフであり、実線Pは、エンジン油温が83℃の時の熱発生率波形を示し、実線Qは、エンジン油温が75℃の時の熱発生率波形を示している。
【0061】
これに対し本実施形態においては、エンジン水温が水温用上側基準温度よりも低いとき、またはエンジン油温が油温用上側基準温度よりも低いときは、1回目のメイン燃料噴射を実施する前にプレ燃料噴射を実施するようにしたので、プレ燃料噴射による予熱によって、メイン燃料噴射による燃料と空気との予混合気の着火時期が進角する。このため、燃焼波形が暖気状態時に近づくようになるため、燃焼が活発化する。これにより、エンジン水温が低いときにも、エンジン油温が低いときにも、未燃分のHC及びCOを低減すると共に、燃焼音の変化を抑制することができる。
【0062】
このとき、プレ燃料噴射を実施する際に、エンジン負荷が所定値以下であるときは、2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量からプレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量するので、1回目のメイン燃料噴射による燃焼が十分活発化される。これにより、未燃分のHC及びCOを一層低減することができる。また、予混合度合いが低い2回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量が減少すると共に、予混合度合いが高いプレ燃料噴射及び1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量の合計が増加するため、NOxやスモークを低減することができる。
【0063】
一方、プレ燃料噴射を実施する際に、エンジン負荷が所定値よりも高いときは、1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射量からプレ燃料噴射の燃料噴射量分を減量するので、1回目のメイン燃料噴射による熱発生率の波形が理想的な形状より急峻となることが抑えられる。従って、燃焼音の増大を抑制することができる。
【0064】
また、エンジン負荷が所定値以下である場合に、エンジン水温が水温用下側基準温度よりも低いとき、またはエンジン油温が油温用下側基準温度よりも低いときは、プレ燃料噴射の燃料噴射時期及び1回目のメイン燃料噴射の燃料噴射時期を進角させるようにしたので、メイン燃料噴射による燃料と空気との予混合気の着火時期が完全暖気状態時とほぼ一致するようになる。従って、エンジン負荷が十分低いときに、エンジン水温またはエンジン油温が低くても、燃焼波形が暖気状態時に近づくようになるため、未燃分のHC及びCOを低減することができる。
【0065】
以上のように本実施形態によれば、低水温時だけでなく、低油温時においても、暖気状態時と同様な予混合圧縮着火燃焼を実現し、未燃HCや未燃CO、燃焼騒音の増大を十分抑制することが可能となる。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、エンジン水温が水温用上側基準温度よりも低いとき、またはエンジン油温が油温用上側基準温度よりも低いときに、プレ燃料噴射を行うことで、着火時期を進角させるようにしたが、特にその手法には限られず、エンジン水温またはエンジン油温の変化に応じて空燃比(A/F)を調整したり、或いはエンジン水温またはエンジン油温の変化に応じてEGRガスの流路をEGRクーラ23側またはバイパス通路24側に切り換えることで、着火時期を進角させるようにしても良い。
【0067】
また、上記実施形態では、メイン燃料噴射を2回に分けて行うようにしたが、メイン燃料噴射の噴射回数としては、特に2回には限られず、1回のみであっても良いし、3回以上であっても良い。
【符号の説明】
【0068】
1…ディーゼルエンジン、4…燃焼室、5…インジェクタ(燃料噴射弁)、26…ピストン、29…オイルジェット、33…ECU(メイン噴射制御手段、第1着火時期制御手段、第2着火時期制御手段、メイン噴射時期決定手段、第1プレ噴射制御手段、第2プレ噴射制御手段、第1噴射時期補正手段、第2噴射時期補正手段)、34…アクセル開度センサ(負荷検出手段)、36…水温センサ(水温検出手段)、37…油温センサ(油温検出手段)、38…燃焼制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7