【実施例】
【0033】
[実施例1]
高ニトリルNBRをベースポリマーとした外径199.5mmの未使用のリングパッキンから切り出した39mm×19mm×厚さ6.5mmの平板試験片について、パルス法NMRを用いてT
2S及びT
2L(JMN−MU25、Solid Echo法、90°pulse2.0μsec、繰り返し時間4sec、積算回数8回)を測定した。また、この平板試験片について、膨潤量(トルエン、37℃)、アセトン可溶分(ソックスレー抽出、8時間)を測定した。
【0034】
[実施例2]
実施例1と同一の平板試験片に、圧縮率が10%となるようなスペーサーを用いて定圧縮変位を与え、これを加速温度(60,80,100℃)に設定した空気恒温槽に各試験時間(約1000〜12800時間)が経過するまで静置した。
【0035】
この加速温度処理後の試験片について圧縮永久ひずみを測定すると共に、実施例1と同一の測定を行った。
【0036】
[結果・考察]
図1に加速温度処理に供した試験片の圧縮永久ひずみの経時変化を示す。60,80,100℃のいずれの加速温度の場合も、経時に伴い圧縮永久ひずみが増大していることが認められる。
【0037】
同試験片について、パルス法NMRを用いて20℃において測定したT
2緩和曲線を波形分離にて2成分に近似した。
【0038】
図2(a)にT
2Sと圧縮永久ひずみとの関係を示し、
図2(b)にT
2Lと圧縮永久ひずみとの関係を示す。
図2(a),(b)の通り、圧縮永久ひずみの増大とともにT
2S、T
2Lが小さくなる良い相関が見られる。
【0039】
図3(a),(b)にアセトン可溶分とT
2S、T
2Lとの関係を示す。
図3(a),(b)の通り、アセトン可溶分の減少とともにT
2S、T
2Lが小さくなる相関が見られる。
【0040】
図4(a),(b)に実施例2において加速温度処理に供した試験片の20℃測定におけるT
2S、T
2Lと、同一条件で加速温度処理した試験片について測定したトルエン膨潤量の関係を示す。20℃測定におけるT
2S、T
2Lとトルエン膨潤量との間には相関は見られない。
【0041】
T
2S、T
2Lと膨潤量に相関が見られないのに対し、T
2S、T
2Lとアセトン可溶分については一定の相関が認められる理由については、膨潤量は架橋密度に関連することから、本試験片においては架橋密度の経時変化が小さかったためにT
2S、T
2Lと膨潤量に相関が見られなかったものと考えられる。これに対し、アセトン可溶分の変化は可塑剤残存量の変化に関連することから、本試験片においては、主として可塑剤の揮発により分子鎖の運動性、すなわちT
2S、T
2Lが減少したものと推察される。
【0042】
図5に、実施例1において未加速の試験片について、アセトン抽出およびトルエンによる膨潤を行っていない状態の試料を測定した結果のパルス法NMRの測定温度とT
2S及びT
2Lの成分比の関係を示す。温度上昇に伴ってT
2Sの成分比が減少し70℃でほぼ消滅することが確認できる。
【0043】
また、
図5に、同試験片についてアセトン可溶分の抽出およびトルエンによる膨潤を行った後に20℃において測定したT
2SとT
2Lの成分比を合わせて示した。
図5の通り、トルエン膨潤後にT
2Sはほぼ消滅している。
【0044】
以上より、T
2Sは分子鎖における絡み合い点や架橋点近傍の分子運動性が低い部分の緩和時間、T
2Lは絡み合い等の影響が小さい部分の緩和時間を捉えたものと推定でき、実施例1,2の試験片において、20℃のT
2Sは、絡み合い点近傍における分子鎖の運動性を主に捉えているものと考えられる。
【0045】
[実施例3,4]
前記リングパッキンから切り出した平板試験片の代わりに、高ニトリルNBRゴムをベースポリマーとしたOリング付きダイヤフラムを装着した圧力調整器の該Oリングについて、該圧力調整器に装着したままの状態で実施例1,2と同様の測定を行い、結果を
図6〜8に示した。
図6〜8の(a)図はT
2Sと圧縮永久ひずみ、アセトン可溶分及び膨潤量の関係を示し、
図6〜8の(b)図はT
2Lと圧縮永久ひずみ、アセトン可溶分及び膨潤量の関係を示す。
【0046】
図6〜8の通り、T
2Sは圧縮永久ひずみ、アセトン可溶分及び膨潤量と良好な相関を示す。本試験片については、架橋密度と可塑剤残存量共に経時変化があったため、双方とも一定の相関が認められたものと推察される。これに対し、このサンプルの場合、T
2Lと圧縮永久ひずみ、アセトン可溶分及び膨潤量との相関は低い。
【0047】
これらの結果より、熱劣化が支配的である環境下に置かれるゴムシール材のT
2Sの経時変化は材料の形状、配合や、劣化メカニズムによらず、圧縮永久ひずみと良好な相関を示し、寿命評価指標として信頼性が高いことが認められた。また、本試験で対象としたシール材において、20℃にて測定されたT
2Sと圧縮永久ひずみの相関が確認された。
【0048】
[実施例5]
実施例1で用いたものと同一の未使用の複数個の平板ゴム試験片について実施例2と同じくスペーサーを用いて圧縮率10%の定圧縮変位を与え、これを加速温度60℃、80℃、又は100℃に設定した空気恒温槽内に静置した。そして、1000hr、1500hr、3000hr、5000hr、7000hr(100℃のみ)、又は12800hr(60、80℃)経過毎に各試験片について実施例2と同様にしてT
2緩和時間を測定し、T
2Sを求めると共に、圧縮永久ひずみを測定した。この結果に基づいて、加速温度毎の処理時間とT
2Sとの関係を
図9に示した。また、圧縮永久ひずみとT
2Sとの検量関係を求めた。この検量関係は、前述の
図2(a)の通りである。
【0049】
この検量関係に基づいて,予め定められた圧縮永久ひずみの上限値(この実施例では80%)に対応するT
2Sを求めたところ、81μsecであった。そこで、この81μsecをT
2Sの限界値とすることとした。
【0050】
各加速温度に保持された試験片がこのT
2S限界値(81μsec)に達するまでの経過時間を
図9より読み取ったところ、
100℃の場合2820hr
80℃の場合8329hr
60℃の場合28431hr
であった。この処理温度と経過時間をアレニウスプロットし、
図10に示すアレニウス線図を得た。
図10の縦軸は経過時間hの逆数の自然対数値1n(1/h)である。横軸は処理温度(絶対温度)Kの逆数の1000倍値1000/Kである。
【0051】
図10において、得られた直線に対し使用環境温度20℃(その絶対温度の逆数1000/Kは、1000/(273+20)=3.41)保持下での限界値に達するまでの経過時間を求めたところ、次の通り537663hr(約61年)であった。
【0052】
すなわち、
図10において3.41の横軸値に対応する縦軸値は−13.195である。
e
−13.195=1/h
より、h=1/e
−13.195
=1/1.8599×10
−6
=537663hr
従って、このOリングの20℃保持下での寿命は約61年であると評価された。