特許第6075254号(P6075254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075254
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】スポット溶接用チップの整形方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
   B23K11/30 350
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-193235(P2013-193235)
(22)【出願日】2013年9月18日
(65)【公開番号】特開2015-58446(P2015-58446A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2015年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 裕
(72)【発明者】
【氏名】竹内 敏人
(72)【発明者】
【氏名】都築 英雄
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−148480(JP,A)
【文献】 特開2003−170275(JP,A)
【文献】 特開2008−087010(JP,A)
【文献】 特開2009−136882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接用チップを構成する素材部分を曲面状側面から先端側へ流動させるよう整形する整形工程と、
上記先端側へ流動された箔状の素材部分を軟化又は溶融させて上記チップと一体化させる一体化工程とを含むことを特徴とするスポット溶接用チップの整形方法。
【請求項2】
上記一体化工程においては、スポット溶接ガンの一対の電極部に装着された一対の上記チップによって、該チップの融点よりも融点が高い金属板を挟持し、該金属板を介して上記一対のチップ間に通電して、上記箔状の素材部分を上記チップと一体化させることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接用チップの整形方法。
【請求項3】
上記金属板を介して上記一対のチップ間に行う通電は、該一対のチップ及び該一対のチップによって挟持された、上記金属板の挟持部の温度が、上記チップが軟化する温度よりも高くかつ上記金属板の融点よりも低い温度になる条件で行うことを特徴とする請求項2に記載のスポット溶接用チップの整形方法。
【請求項4】
上記一体化工程においては、上記チップの融点よりも融点が高い加熱板であって、上記チップが軟化する温度よりも高くかつ上記加熱板の融点よりも低い温度に加熱されたものを、スポット溶接ガンの一対の電極部に装着された一対の上記チップによって挟持して、上記箔状の素材部分を上記チップと一体化させることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接用チップの整形方法。
【請求項5】
上記一対のチップによって挟持される上記金属板の挟持部は、上記一対のチップの先端面の曲面形状に沿って形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のスポット溶接用チップの整形方法。
【請求項6】
上記一対のチップによって挟持される上記加熱板の挟持部は、上記一対のチップの先端面の曲面形状に沿って形成されていることを特徴とする請求項4に記載のスポット溶接用チップの整形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用後のスポット溶接用チップを正規形状に整形する整形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接を行うスポット溶接ガンの一対のシャンク部に取り付けられたチップは、溶接を行うごとに磨耗するとともに先端部が拡径するような変形が生じる。このため、チップ整形機と呼ばれるチップ形状を整形する装置を用い、回転する刃具によってチップの先端部を整形して、十数〜百数十打点の溶接に使用したチップを再び正規形状に整形している。これにより、チップの寿命を延ばしている。
【0003】
このような、チップを整形する装置としては、例えば、特許文献1に開示された電極チップ整形装置がある。この電極チップ整形装置においては、電極チップを整形するための整形治具に、半径方向内側から半径方向外側に向かうにつれて、回転方向前側に向かって変位する押出面を形成している。これにより、一つの電極チップで、より多くの打点が溶接可能となるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−136882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来のチップ整形機によってスポット溶接用チップの整形を繰り返しても、想定する程のチップの延命効果が得られないことがわかった。その理由を確認するため、整形を行ったチップの断面を拡大して見ると、チップに箔状の素材部分が形成されていることがわかった。この箔状の素材部分は、整形後のチップを用いてスポット溶接を行う際に、焼失しているか、溶接が行われるワークに付着してしまっていると考えられる。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、チップの消耗を抑止して、チップの寿命をさらに延ばすことができるスポット溶接用チップの整形方法を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、スポット溶接用チップを構成する素材部分を曲面状側面から先端側へ流動させるよう整形する整形工程と、
上記先端側へ流動された箔状の素材部分を軟化又は溶融させて上記チップと一体化させる一体化工程とを含むことを特徴とするスポット溶接用チップの整形方法にある。
【発明の効果】
【0008】
上記スポット溶接用チップの整形方法においては、整形工程の後に一体化工程を行っておくことにより、チップの寿命をさらに延ばすことができる。
具体的には、整形工程において曲面状側面から先端側へ流動された箔状の素材部分を、一体化工程において軟化又は溶融させて、チップと一体化させる。これにより、整形後のチップを用いてスポット溶接を行う際に、箔状の素材部分が、焼失(燃焼)するか、溶接が行われるワークに付着してしまうことを防止できる。そして、先端側へ流動させた素材部分を、チップに再定着させて有効に機能させることができる。
それ故、上記スポット溶接用チップの整形方法によれば、チップの消耗を抑制して、チップの寿命をさらに延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例にかかる、整形工程において用いるチップ整形機を示す斜視説明図。
図2】実施例にかかる、チップ整形機によって一対のチップに整形を行う状態を示す断面説明図。
図3】実施例にかかる、チップに形成された箔状の素材部分を示す断面説明図。
図4】実施例にかかる、一体化工程において用いる通電装置及び金属板を示す説明図。
図5】実施例にかかる、金属板を介して一対のチップに通電を行う状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述したスポット溶接用チップの整形方法における好ましい実施の形態につき説明する。
上記スポット溶接用チップの整形方法において、上記一体化工程においては、スポット溶接ガンの一対の電極部に装着された上記チップによって、該チップの融点よりも融点が高い金属板を挟持し、該金属板を介して上記一対のチップ間に通電して、上記箔状の素材部分を溶融させてもよい。
この場合には、スポット溶接ガンの一対の電極部にチップを装着したままの状態で、整形工程及び一体化工程を行うことができる。そのため、チップの整形にかかる時間を短縮することができる。また、金属板を挟持することにより、軟化又は溶融した箔状の素材部分をチップに一体化させることが容易になる。
【0011】
また、上記金属板を介して上記一対のチップ間に行う通電は、該一対のチップ及び該一対のチップによって挟持された、上記金属板の挟持部の温度が、上記チップが軟化する温度よりも高く、かつ上記金属板の融点よりも低い温度になる条件で行ってもよい。
この場合には、一対のチップによって金属板を挟持する際に、金属板の溶融及び変形を防止して、チップにおける箔状の素材部分をチップに一体化させることができる。
なお、チップが軟化する温度とは、チップの溶融温度よりも低い温度で、チップの固体状の素材部分が、力を加えた時に流動することができる温度のことをいう。
【0012】
また、上記一体化工程においては、上記チップの融点よりも融点が高い加熱板であって、上記チップが軟化する温度よりも高くかつ上記加熱板の融点よりも低い温度に加熱されたものを、スポット溶接ガンの一対の電極部に装着された一対の上記チップによって挟持して、上記箔状の素材部分を上記チップと一体化させてもよい。
この場合には、適切な温度に加熱された加熱板を一対のチップによって挟持することにより、一対のチップ間に通電を行うことなく、箔状の素材部分をチップと一体化させることができる。
【0013】
また、上記一対のチップによって挟持される上記金属板(又は上記加熱板)の挟持部は、上記一対のチップの先端面の曲面形状に沿って形成されていてもよい。
この場合には、箔状の素材部分を軟化又は溶融させてチップに一体化させる際に、チップの先端面の形状を整えることができ、チップの整形を精度よく行うことができる。
【実施例】
【0014】
以下に、スポット溶接用チップの整形方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のスポット溶接用チップ6(以下、単にチップ6という。)の整形方法は、図1図2に示すごとく、チップ整形機1を用いて、チップ6を構成する素材部分601を曲面状側面62からチップ6の先端側へ流動させるよう整形する整形工程と、図4図5に示すごとく、先端側へ流動された箔状の素材部分602を軟化又は溶融させてチップ6と一体化させる一体化工程とを行う。
【0015】
以下に、本例のチップ6の整形方法につき、図1図5を参照して詳説する。
図1図2に示すごとく、本例の整形工程において用いるチップ整形機1は、チップ6を構成する素材部分601を曲面状側面62から先端側へ流動させる刃具20が設けられた整形治具11と、整形治具11をチップ6の周方向Cに回転させる回転機構12とを有している。回転機構12は、図1において矢印で示し、詳細は省略する。
整形治具11は、筒形状のホルダ2の底部22に、チップ6の先端面61を整形する先端整形刃221を有し、ホルダ2の内周に、チップ6の曲面状側面62を整形する側面整形刃241を有している。チップ整形機1は、整形治具11が回転する際に、先端整形刃221と側面整形刃241とによって、チップ6の曲面状側面62における素材部分601を螺旋状に先端側へ押し出す力を生じさせるよう構成されている。側面整形刃241は、ホルダ2の内周に形成された溝部23に嵌め込まれた平板状の刃具プレート24の内周側に形成されている。
【0016】
チップ整形機1は、工場内においてスポット溶接を行って製品を組み付ける工程において用いられる。チップ整形機1によって整形を行うチップ6は、スポット溶接ガンにおける一対の電極部(シャンク部)にそれぞれ取り付けられている。そして、チップ整形機1は、スポット溶接を繰り返し行って変形した、一対のチップ6の先端部の整形を行う。スポット溶接ガンの図示は省略する。
一対のチップ6の先端部は、スポット溶接に使用される際に、押し潰されるとともに拡径して変形する。チップ整形機1は、拡径するように変形した一対のチップ6の先端部を、正規形状(初期形状)に扱き加工するようにして整形する。
【0017】
図4に示すごとく、チップ6の曲面状側面62の正規形状は、先端に行くに連れて縮径する傾斜面部621と、傾斜面部621の先端側に形成された曲面状の曲面部622とを有する形状である。チップ6の先端部は、傾斜面部621、曲面部622、及び曲面部622の先端に位置する先端面61によって形成されている。なお、チップ6の先端面61は、曲面部622と連続する曲面状に形成されていてもよく、チップ6の軸線方向に垂直な平坦状に形成されていてもよい。また、チップ6の基部側には、スポット溶接ガンの電極部に取り付けられる円筒形状の基端部63が形成されている。
【0018】
図1図2に示すごとく、先端整形刃221は、チップ6の中心位置が配置される中心から径方向の両側に延び、平面視したときにS形状にねじられる状態で形成されている。側面整形刃241が形成された刃具プレート24は、ホルダ2の内周において、チップ6の周方向Cに位相が180°ずれた2箇所に設けられている。先端整形刃221と側面整形刃241とは、チップ6の周方向Cに位相が90°ずれて形成されている。
整形治具11は、その両側から一対のチップ6が押し当てられるように、側面整形刃241及び先端整形刃221をホルダ2の両側に配置して形成されている。
【0019】
整形工程においては、スポット溶接ガンの一対の電極部に装着された一対のチップ6によって、整形治具11を挟持する。このとき、各チップ6は、先端整形刃221と側面整形刃241との内側に位置する空間内に配置される。そして、整形治具11を回転機構12によって回転させる。このとき、チップ6の曲面状側面62に位置する素材部分601は、側面整形刃241及び先端整形刃221によって扱かれ、チップ6の先端側へ螺旋状に押し出される。そして、図3に示すごとく、特に側面整形刃241によって扱かれる素材部分602は、チップ6の曲面状側面62又は先端面61に位置する素材部分601の外側に、薄い箔状部分として重なるように流動して、チップ6の正規形状(初期形状)に整形される。
【0020】
図4図5に示すごとく、一体化工程においては、スポット溶接ガンの一対の電極部に装着されたチップ6によって、チップ6の融点よりも融点が高い金属板4を挟持し、通電装置3によって金属板4を介して一対のチップ6間に通電する。一対のチップ6によって挟持される金属板4の挟持部41の表裏両面には、一対のチップ6の先端面61の曲面形状に沿った窪み部42がそれぞれ形成されている。そして、一対のチップ6によって金属板4の挟持部41を加圧することにより、各窪み部42の形状を各チップ6の先端面61に転写するようにして、チップ6の曲面状側面62から先端側へ流動された箔状の素材部分602をチップ6に一体化させる。金属板4の挟持部41に窪み部42を形成したことにより、箔状の素材部分602をチップ6に一体化させる際にチップ6の先端面61及び曲面状側面62の形状を整えることができる。
【0021】
また、金属板4を介して一対のチップ6間に行う通電は、一対のチップ6及び一対のチップ6によって挟持された、金属板4の挟持部41の温度が、チップ6が軟化する温度よりも高くかつ金属板4の融点よりも低い温度になる条件で行う。これにより、金属板4が溶融又は変形することを防止して、箔状の素材部分602をチップ6に一体化させることができる。一体化工程を行う際の通電装置3の通電条件は、スポット溶接を行う際の通電装置3の通電条件に比べて、通電する電流値を低くして設定される。チップ6は銅材料から構成されている。金属板4は、銅材料よりも融点が高い種々の金属材料から構成することができる。
【0022】
本例のチップ6の整形方法においては、整形工程の後に一体化工程を行っておくことにより、チップ6の寿命をさらに延ばすことができる。
具体的には、整形工程においては、チップ6を構成する素材部分601の一部が、曲面状側面62から先端側へ流動され、チップ6の曲面状側面62又は先端面61に位置する素材部分601の外側に重なって、箔状の素材部分602となる。そして、一体化工程においては、この箔状の素材部分602を軟化又は溶融させて、チップ6と一体化させる。これにより、整形後のチップ6を用いてスポット溶接を行う際に、箔状の素材部分602が焼失(燃焼)するか、溶接が行われるワークに付着してしまうことを防止できる。そして、先端側へ流動させた素材部分602を、チップ6に再定着させて有効に機能させることができる。
【0023】
それ故、本例のチップ6の整形方法によれば、チップ6の消耗を抑制して、チップ6の寿命をさらに延ばすことができる。
【符号の説明】
【0024】
1 チップ整形機
3 通電装置
4 金属板
41 挟持部
6 スポット溶接用チップ
602 箔状の素材部分
61 先端面
62 曲面状側面
図1
図2
図3
図4
図5