特許第6075283号(P6075283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075283
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20170130BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   F04C18/02 311Y
   F04C29/02 361A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-267845(P2013-267845)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-124633(P2015-124633A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2014年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勝三
(72)【発明者】
【氏名】城村 周一
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−062294(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0170509(US,A1)
【文献】 特表2001−522969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構(30)を下方から支持し、圧縮機構(30)と駆動軸(23)のクランクピン(25)との連結部分が収納されるクランク室(54)を有するハウジング(50)を備え、該ハウジング(50)に、上記クランク室(54)から該ハウジング(50)の外周面までのびる排油通路(70)が形成されたスクロール圧縮機であって、
上記クランク室(54)は、低速回転よりも高速回転において油量が増加するのに伴って油面が上昇するように構成され、上記排油通路(70)のクランク室(54)側の開口は、低速回転時の位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって形成され、
上記排油通路(70)は、クランク室(54)側の開口の上端の高さが、ハウジング(50)の外周面側の開口の上端の高さよりも大きいことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記排油通路(70)のクランク室(54)側の開口が、横寸法よりも縦寸法が大きい形状の開口であることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記排油通路(70)は、クランク室(54)側からハウジング(50)の外周面側に向かって、通路の高さが徐々に小さくなっていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項2において、
上記排油通路(70)は、クランク室(54)の底部から水平方向にのびる下部水平孔(76)と、上記ハウジング(50)のクランク室(54)側で該下部水平孔(76)の上方に開口するとともに下部水平孔(76)の通路途中に合流する上部傾斜孔(77)とを有することを特徴とするスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関し、特に、圧縮機構を下方から支持するハウジングに形成されているクランク室から油を排出するための排油構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スクロール圧縮機の圧縮機構は、固定スクロールと可動スクロールを有している。固定スクロールは、ケーシングに固定されているハウジングの上面に取り付けられ、可動スクロールは固定スクロールに対して公転するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6において、上記ハウジング(105)は、圧縮機構(110)を下方から支持する部材であり、圧縮機構(110)と駆動軸(120)の偏心部(クランクピン)(121)との連結部分が収納されるクランク室(106)を有している。圧縮機構(110)の動作中は、図示していないが圧縮機(100)のケーシング(101)の底部に設けられている油溜まりから駆動軸内の給油通路を介して、駆動軸(120)の偏心部(121)と軸受部(122)との間の摺動面とに、潤滑油が供給される。
【0004】
この潤滑油は、摺動面を潤滑した後は摺動面から流出して、クランク室(106)に流入する。そこで、クランク室(106)に溜まる油を排出するために、ハウジング(105)には、クランク室(106)側であるハウジング(105)の内周面から該ハウジング(105)の外周面までのびる排油通路(130)が形成されている。この構成の排油通路では、クランク室(106)側が油の入口側であり、ハウジング(105)の外周面側が油の出口側である。
【0005】
特許文献1には、図6に示すように、排油通路(130)を、断面が円形の1本の貫通孔で形成することが記載されている。また、特許文献1には、図7に示すように、排油通路(130)を、クランク室(106)の内周面の接線方向にのびる貫通孔(135)で形成することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−097580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図6のように排油通路(130)を断面が円形の1本の貫通孔で形成する構成では、排油通路(130)の断面積が小さいために、圧縮機構(110)の動作中にクランク室(106)の中の油が排油通路(130)に入りにくく、圧縮機構(110)が高速回転をしてクランク室(106)の油面が上昇する場合に排油量が不十分になることがある。
【0008】
また、図7のように排油通路(130)をクランク室(106)の内周面の接線方向に形成すると排油性能は幾分向上すると考えられるものの、やはり排油通路(130)の断面積が小さいために排油量が不十分になる問題が生じるおそれがある。
【0009】
さらに、排油通路(130)はクランク室(106)の底部に設けられているので、圧縮機構(110)が高速回転になって遠心力で油面が外周部ほど高くなると、クランク室(106)の底部に断面が円形の排油通路(130)を形成しただけでは特に排油量が不十分になってしまう。
【0010】
そして、上記のような理由で排油性能が低くなると、クランク室(106)の内圧が上昇して油がクランク室(106)から吐出ガス空間へ流出してしまい、吐出ガスとともに冷媒回路に流出して圧縮機の油不足が生じるおそれがある。そうなると、圧縮機の内部の各摺動部分における潤滑不良や焼き付きなどの問題が発生するおそれがある。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、スクロール圧縮機に設けられるハウジングのクランク室における排油性能を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、圧縮機構(30)を下方から支持し、圧縮機構(30)と駆動軸(23)のクランクピン(25)との連結部分が収納されるクランク室(54)を有するハウジング(50)を備え、該ハウジング(50)に、上記クランク室(54)から該ハウジング(50)の外周面までのびる排油通路(70)が形成されたスクロール圧縮機を前提としている。
【0013】
そして、このスクロール圧縮機は、上記クランク室(54)が、低速回転よりも高速回転において油量が増加するのに伴って油面が上昇するように構成され、上記排油通路(70)のクランク室(54)側の開口が、低速回転時の位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって形成されている。また、「低速回転時の位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって形成されている」構成では、排油通路(70)は、図5(A)に示すように、その範囲の一部が開口していない形状でもよい。
【0014】
この第1の発明では、圧縮機の運転中には、クランクピン(25)と軸受の摺動面に供給された潤滑油は、その摺動面から流れ出してクランク室(54)に溜まっていく。駆動軸(23)が高速回転するとクランク室(54)の油量が増加して油面が上昇するが、この第1の発明では、排油通路(70)のクランク室(54)側の開口が、低速回転時の油面の低い位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって形成されているので、排油性能が高められる。
【0015】
また、第1の発明では、上記排油通路(70)のクランク室(54)側の開口の上端の高さが、ハウジング(50)の外周面側の開口の上端の高さよりも大きい。
【0016】
この第1の発明では、排油通路(70)のクランク室(54)側の開口の高さを、ハウジング(50)の外周面側の開口の高さよりも大きくすることにより、低速回転に比べて上記クランク室(54)内の油量が増加するのに伴って油面が上昇する高速回転時に油面が上昇する前の油とともに油面が上昇した範囲の油を排出可能な開口面積に容易に定めることができ、排油性能を確実に高められる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、上記排油通路(70)のクランク室(54)側の開口が、横寸法よりも縦寸法が大きい形状の開口であることを特徴としている。
【0018】
圧縮機構(30)が高速回転しているときに、遠心力の作用が大きくなると、図4に示すように、クランク室(54)に入った潤滑油(65)の油面がクランク室(54)の外周側ほど高くなるが、この第2の発明では、クランク室(54)の内壁面側の排油通路(70)の開口の縦寸法が横寸法よりも大きいため、高いところの油も、上記開口が縦長になった排油通路(70)を通って排出される。
【0019】
第3の発明は、第2の発明において、上記排油通路(70)は、クランク室(54)側からハウジング(50)の外周面側に向かって、通路の高さが徐々に小さくなっていることを特徴としている。
【0020】
第4の発明は、第2の発明において、上記排油通路(70)が、クランク室(54)の底部から水平方向にのびる下部水平孔(76)と、上記ハウジング(50)のクランク室(54)側で該下部水平孔(76)の上方に開口するとともに下部水平孔(76)の通路途中に合流する上部傾斜孔(77)とを有することを特徴としている。
【0021】
上記第3,第4の発明では、図4に示すようにクランク室(54)の外周側ほど油面が高くなる場合に、クランク室(54)の高い位置から排油通路(70)へ入った油が排油通路(70)を徐々に下向きに流れてクランク室(54)から排出されやすくなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、上記排油通路(70)のクランク室(54)を、低速回転よりも高速回転において油量が増加するのに伴って油面が上昇するように構成し、上記排油通路(70)のクランク室(54)側の開口を、低速回転時の油面の低い位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって形成したことにより、排油性能を高めることができる。そして、このように排油性能が高くなる結果、油上がりが生じにくくなり、ケーシング内の油量を確保できるから、圧縮機の内部の各摺動部分における潤滑不良や焼き付きなどの問題が発生するのを防止することも可能になる。
【0023】
また、本発明によれば、排油通路(70)のクランク室(54)側の開口の上端の高さを、ハウジング(50)の外周面側の開口の上端の高さよりも大きくすることにより、低速回転に比べて上記クランク室(54)内の油量が増加するのに伴って油面が上昇する高速回転時に油面が上昇する前の油とともに油面が上昇した範囲の油も排出可能な開口面積に容易に定めることができるようにしているので、排油性能を確実に高められる。
【0024】
上記第2の発明によれば、排油通路(70)のクランク室(54)側の開口の縦寸法を横寸法よりも大きくすることにより、高いところの油も排油通路(70)を通って排出されるようにしているので、図4に示すようにクランク室(54)に入った潤滑油(65)の油面がクランク室(54)の外周側ほど高くなる場合の排油性能を効果的に高めることができる。
【0025】
上記第3,第4の発明によれば、クランク室(54)の高い位置から排油通路(70)へ入った油が排油通路(70)を徐々に下向きに流れることにより、クランク室(54)から排出されやすくなるので、排油性能をさらに高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施形態に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
図2図2は、図1の要部拡大断面図である。
図3図3(A)は排油通路の開口形状を示す図であり、図3(B)は開口形状の変形例を示す図である。
図4図4は、圧縮機構の動作中におけるクランク室の油の状態を示す断面図である。
図5図5(A)は、変形例に係る排油通路の断面図、図5(B)は排油通路の開口形状を示す図である。
図6図6は、従来のスクロール圧縮機の排油通路形状の一例を示す断面図である。
図7図7は、従来のスクロール圧縮機の排油通路形状の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。スクロール圧縮機(10)は、例えば、空気調和装置で蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続されるものである。スクロール圧縮機(10)は、ケーシング(11)と、回転式の圧縮機構(30)と、圧縮機構(30)を回転駆動する駆動機構(20)とを備えている。
【0029】
ケーシング(11)は、両端が閉塞された縦長円筒状の密閉容器で構成されており、円筒状の胴部(12)と、胴部(12)の上端側に固定された上部鏡板(13)と、胴部(12)の下端側に固定された下部鏡板(14)とを備えている。
【0030】
ケーシング(11)の内部は、ケーシング(11)の内周面に接合されたハウジング(50)によって上下に区画されている。ハウジング(50)よりも上側の空間が上部空間部(15)を構成し、ハウジング(50)よりも下側の空間が下部空間部(16)を構成する。このハウジング(50)の構成については、詳しく後述する。
【0031】
ケーシング(11)における下部空間部(16)の底部には、スクロール圧縮機(10)の摺動部分を潤滑する油が貯留される油溜まり部(17)が設けられている。
【0032】
ケーシング(11)には、吸入管(18)及び吐出管(19)が取り付けられている。この吸入管(18)の一端部は、吸入管継手(47)に接続されている。吐出管(19)は、胴部(12)を貫通している。この吐出管(19)の端部は、ケーシング(11)の下部空間部(16)に開口している。
【0033】
駆動機構(20)は、モータ(21)と、駆動軸(23)とを備えている。モータ(21)は、ケーシング(11)の下部空間部(16)に収容されている。モータ(21)は、円筒状に形成されたステータ(21a)及びロータ(21b)を備えている。ステータ(21a)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定されている。ステータ(21a)の中空部には、ロータ(21b)が配置されている。ロータ(21b)の中空部には、ロータ(21b)を貫通するように駆動軸(23)が固定されており、ロータ(21b)と駆動軸(23)が一体で回転するようになっている。
【0034】
また、駆動軸(23)の下端部には、油を吸い上げるための吸入部材としての吸入ノズル(61)が設けられている。吸入ノズル(61)は容積式のポンプを構成している。なお、この実施形態はポンプ形式を限定するものではなく、遠心式ポンプや差圧ポンプなどであってもよい。吸入ノズル(61)の吸入口(61a)は、ケーシング(11)の油溜まり部(17)に開口している。吸入ノズル(61)の吐出口は、駆動軸(23)の給油路(27)に連通するように接続されている。吸入ノズル(61)によって油溜まり部(17)から吸い上げられた油は、給油路(27)を流通してスクロール圧縮機(10)の摺動部分へ供給される。
【0035】
圧縮機構(30)は、可動スクロール(35)と、固定スクロール(40)と、ハウジング(50)とを備えた、いわゆるスクロール型の圧縮機構である。ハウジング(50)及び固定スクロール(40)は、互いにボルトで締結されており、その間に可動スクロール(35)が収容されている。
【0036】
可動スクロール(35)は、略円板状の可動側鏡板部(36)を有している。この可動側鏡板部(36)の上面に可動側ラップ(37)が立設している。この可動側ラップ(37)は、可動側鏡板部(36)の中心付近から径方向外方へ渦巻き状に延びる壁体である。また、可動側鏡板部(36)の下面にボス部(軸受部)(38)が突設されている。
【0037】
固定スクロール(40)は、略円板状の固定側鏡板部(41)を有している。この固定側鏡板部(41)の下面に固定側ラップ(42)が立設している。この固定側ラップ(42)は、固定側鏡板部(41)の中心付近から径方向外方へ渦巻き状に延び、且つ可動スクロール(35)の可動側ラップ(37)と噛み合うように形成された壁体である。この固定側ラップ(42)と可動側ラップ(37)との間に圧縮室(31)が形成されている。
【0038】
固定スクロール(40)は、固定側ラップ(42)の最外周壁から径方向外方へ連続する外縁部(43)を有している。この外縁部(43)の下端面がハウジング(50)の上端面に固定される。また、この外縁部(43)には、上方へ開口する開口部(44)が形成されている。そして、この開口部(44)の内部と圧縮室(31)の最外周端とを連通する吸入ポート(34)が外縁部(43)に形成されている。この吸入ポート(34)は、圧縮室(31)の吸入位置に開口している。なお、この外縁部(43)の開口部(44)には、上述した吸入管継手(47)が接続されている。
【0039】
また、固定スクロール(40)の固定側鏡板部(41)には、固定側ラップ(42)の中心付近に位置して上下方向へ貫通する吐出ポート(32)が形成されている。この吐出ポート(32)の下端は、圧縮室(31)の吐出位置に開口している。吐出ポート(32)の上端は、固定スクロール(40)の上部に区画された吐出室(46)に開口している。また、図示しないが、この吐出室(46)は、ケーシング(11)の下部空間部(16)に連通している。
【0040】
ハウジング(50)は、略円筒状に形成されている。ハウジング(50)の外周面は、その下側部分に対して上側部分が大径になるように形成されている。そして、この外周面の上側部分がケーシング(11)の内周面に固定されている。
【0041】
ハウジング(50)の中空部には、駆動軸(23)が挿入されている。また、この中空部は、中空部の下側部分に対して上側部分(クランク室(54))が大径になるように形成されている。中空部の下側部分に軸受部(53)が形成されている。この軸受部(53)が駆動軸(23)における主軸部(24)の上端部分を回転支持する。また、中空部の上側部分はシール部材(55)に仕切られて背圧空間を構成する。背圧空間は可動スクロール(35)の背面に面している。ハウジング(50)の上面と可動スクロール(35)の背面との間には、上記シール部材(55)が嵌合されている。また、この背圧空間には、可動スクロール(35)のボス部(38)が位置している。このボス部(38)には、軸受部(53)の上端から突出した駆動軸(23)の偏心部(クランクピン)(25)が係合していて、圧縮機構(20)が駆動軸(23)で回転駆動される。
【0042】
駆動軸(23)の偏心部(25)は、可動スクロール(35)のボス部(38)に、軸受(29a)を介して回転自在に支持されている。また、駆動軸(23)の主軸部(24)は、ハウジング(50)が有する軸受部(53)に、軸受(29b)を介して回転自在に支持されている。さらに、駆動軸(23)の主軸部の下側部分である下部主軸部(26)は、ケーシング(11)における胴部(12)の下端付近に固定された下部軸受部(28)に、軸受(29c)を介して回転自在に支持されている。
【0043】
上述したように、上記ハウジング(50)の中空部の上側部分は、圧縮機構(30)と駆動軸(23)の偏心部(25)との連結部分が収納されるクランク室(54)になっている。ハウジング(50)には、クランク室(54)からハウジング(50)の外周面までのびる排油通路(70)が形成されている。この排油通路(70)のクランク室(54)側の開口は、駆動軸(23)が低速回転をするときに比べて、高速回転ではポンプ作用が高まることで上記クランク室(54)内の油量が増加するのに伴って油面が上昇することになり、そのときに低速回転時の油面の低い位置から高速回転時の油面上昇位置にわたるように形成されている。上記排油通路(70)は、クランク室(54)側の開口の高さが、ハウジング(50)の外周面側の開口の高さよりも大きい。
【0044】
排油通路(70)は、具体的には、クランク室(54)の底部から水平方向にのびる水平孔(71)と、クランク室(54)の内壁面からハウジング(50)の外壁面の方向へ向かって斜め下方へ傾斜した傾斜孔(72)とから構成されていて、排油通路(70)のクランク室(54)側の開口が、横寸法よりも縦寸法の大きな開口になっている。クランク室(54)の内壁面側の排油通路(70)の開口は、例えば、図3(A)に示すように2つの円の一部がオーバーラップするような形状(だるま形状)や、図3(B)に示すような長円形状にすることができる。
【0045】
排油通路(70)は、クランク室(54)側からハウジング(50)の外周面側に向かって、通路の高さが徐々に小さくなっている。また、ハウジング(50)の外周面の下端部には、排油通路(70)と連通し、ハウジング(50)の下方に開口する縦長の排油溝(73)が形成されている。ハウジング(50)の排油溝(73)の下方には、油を油溜まりへ導くための油戻しガイド(75)が設けられている。
【0046】
−運転動作−
次に、上述したスクロール圧縮機(10)の運転動作について説明する。スクロール圧縮機(10)のモータ(21)へ通電されると、ロータ(21b)とともに駆動軸(23)が回転し、可動スクロール(35)が公転運動する。この可動スクロール(35)の公転運動に伴って、圧縮室(31)の容積が周期的に増減を繰り返す。
【0047】
具体的に、駆動軸(23)が回転すると、吸入ポート(34)から圧縮室(31)へ冷媒が吸入される。そして、駆動軸(23)の回転に伴い、圧縮室(31)が閉じ切られる。さらに、駆動軸(23)の回転が進むことで、圧縮室(31)の容積が縮小し始め、圧縮室(31)における冷媒の圧縮が開始される。
【0048】
その後、圧縮室(31)の容積がさらに縮小し、この圧縮室(31)の容積が所定容積まで縮小したときに、吐出ポート(32)が開く。この吐出ポート(32)を通じて、圧縮室(31)で圧縮された冷媒が固定スクロール(40)の吐出室(46)へ吐出される。この吐出室(46)の冷媒は、ケーシング(11)の下部空間部(16)を介して吐出管(19)から吐出される。なお、上述したように、下部空間部(16)は背圧空間と連通しており、この背圧空間の冷媒圧力で、可動スクロール(35)が固定スクロール(40)へ押し付けられる。
【0049】
圧縮機(10)の運転中には、油溜まり部(17)の油が吸入ノズル(61)でくみ上げられて給油路(27)を上昇し、各摺動部分に供給される。偏心部(25)と軸受(29a)の摺動面に供給された潤滑油は、その摺動面から流れ出してクランク室(54)に溜まっていく。図4に示すように、クランク室(54)に入った潤滑油(65)は、圧縮機構(30)が高速回転しているときなどには、ポンプである吸入ノズル(61)の回転が速くなるので給油量が増えるとともに遠心力の作用も大きくなるので、クランク室(54)の外周側ほど油面が高くなるが、本実施形態では、排油通路(70)の入口開口の縦寸法が大きくなっているので、高いところの油も排油通路(70)に入りやすくなる。また、高いところから排油通路(70)に入った油は、傾斜孔(72)に沿って斜め下方へ流れていく。以上のことから、本実施形態では排油性能が高められる。
【0050】
つまり、駆動軸(23)が高速回転するとクランク室(54)の油量が増加して油面が上昇するが、この実施形態では、排油通路(70)のクランク室(54)側の開口が、低速回転時の油面の低い位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって形成されているので、排油性能が高められる。
【0051】
排油通路(70)の排油性能が低い場合には、クランク室(54)の下方から主軸部(24)と軸受(29b)の間を通って油が下部空間部(16)へ流出し、油が高圧ガスに混じって吐出管(19)から吐出されることがあり、ケーシング(11)内の油量が少なくなるおそれがあるが、本実施形態では油が主軸部(24)と軸受(29b)の間から下部空間部(16)へ流出しにくくなるので、高圧ガスとともに吐出管(19)から流出する油の量が少なくなる。
【0052】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、上記排油通路(70)のクランク室(54)側の開口を、駆動軸(23)が低速回転をするときに比べて、高速運転ではポンプ作用が高まることで上記クランク室(54)内の油量が増加するのに伴って油面が上昇することになり、そのときに低速回転時の油面の低い位置から高速回転時の油面上昇位置にわたるように形成したことにより、排油性能を高めることができる。そして、このように排油性能が高くなる結果、油上がりが生じにくくなり、ケーシング内の油量を確保できるから、圧縮機の内部の各摺動部分における潤滑不良や焼き付きなどの問題が発生するのも防止することが可能になる。
【0053】
また、本実施形態によれば、排油通路(70)のクランク室(54)側の開口の高さを、ハウジング(50)の外周面側の開口の高さよりも大きくすることにより、低速回転に比べて上記クランク室(54)内の油量が増加するのに伴って油面が上昇する高速回転時に低速回転時の油面の低い位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって容易に形成できるようにしているので、排油性能を確実に高められる。
【0054】
また、本実施形態の排油通路(70)では、ハウジング(50)の内周面側である入口側の開口面積を大きくしており、入口側の開口面積を大きくすること以外は従来の排油通路(70)と構成を変えなくてもよいため、ハウジング(50)の構造が複雑になることもない。さらには、構成が簡単で製造が容易であるから、生産性の低下やコスト上昇といった問題を抑える効果を得ることもできる。
【0055】
また、本実施形態では、排油通路(70)の入口側の開口面積を大きくするだけの簡単な構成を採用しているから、全体の開口断面積が大きな排油通路(70)を形成する場合に比べてハウジング(50)の強度低下を抑えることも可能になる。
【0056】
−実施形態の変形例−
上記実施形態において、排油通路(70)は、図5に示すように、クランク室の底部から水平方向にのびる下部水平孔(76)と、クランク室(54)の内壁面で該下部水平孔(76)の上方に開口して下部水平孔(76)の通路途中に合流する上部傾斜孔(77)とを有する構成にしてもよい。つまり、下部水平孔(76)の開口と上部傾斜孔(77)の開口とが上下に離れた位置関係になる構成である。
【0057】
このように構成しても、排油通路(70)の開口は全体としては低速回転時の低い位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって形成されていることになり、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0058】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0059】
上記実施形態では、クランク室(54)の内壁面側の排油通路(70)の開口が、横寸法よりも縦寸法の大きな開口となるように構成しているが、上記開口は、低速回転に比べて上記クランク室(54)内の油量が増加するのに伴って油面が上昇することになる高速回転時に、低速回転時の位置から高速回転時の油面上昇位置にわたって形成されている限りは、縦寸法よりも横寸法が大きな開口であってもよい。その場合でも、排油通路(70)の開口の断面積が一定である場合より排油性能を高めることは可能である。
【0060】
また、上記実施形態のように横寸法よりも縦寸法が大きな開口となるように構成する場合、上側の傾斜孔(72,77)を必ずしも斜めの孔にしなくてもよい。
【0061】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明は、スクロール圧縮機の圧縮機構を下方から支持するハウジングのクランク室から油を排出するための排油構造について有用である。
【符号の説明】
【0063】
10 スクロール圧縮機
23 駆動軸
25 偏心部(クランクピン)
30 圧縮機構
50 ハウジング
54 クランク室
70 排油通路
76 下部水平孔
77 上部傾斜孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7