特許第6075341号(P6075341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075341
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】木造軸組建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 1/02 20060101AFI20170130BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   E04H1/02
   E04B1/26 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-160678(P2014-160678)
(22)【出願日】2014年8月6日
(65)【公開番号】特開2016-37736(P2016-37736A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 昇平
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 輝
(72)【発明者】
【氏名】木戸 正典
(72)【発明者】
【氏名】土方 和己
(72)【発明者】
【氏名】加納 学
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大
【審査官】 仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−194413(JP,A)
【文献】 特開平09−177304(JP,A)
【文献】 特開平04−176968(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3160702(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/00−1/14
E04B 1/26
E04B 5/00−5/48
E04B 7/00−7/24
E04B 9/00−9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棟木、母屋および軒桁を含む桁行方向の横架材に対して垂木が架け渡され、母屋を受ける小屋束が小屋梁に支持され、軒桁およびこれに類する梁材に囲まれて小屋構面が形成され、この小屋構面上に、天井高が1400mm以下とされた小屋裏収納部を備える木造軸組建物であって、
小屋裏収納部は小屋梁またはこれに類する梁材に支持され、当該梁材には、小屋裏収納部から離隔した一般部に配設される小屋梁よりも梁せいの大きい小屋大梁が含まれ、小屋梁と小屋大梁との梁せいの差は30mmを超える大きさとされており、
小屋裏収納部周りの桁行方向の小屋大梁は、軒桁から梁間方向への後退距離SBが1500mm以下の範囲に配設され、
小屋裏収納部の床を受ける横架材と、軒桁に接続する横架材とが、前記桁行方向の小屋大梁を挟んで、高さを違えて配設されるとともに、小屋裏収納部の床を受ける横架材はこの小屋大梁の下端寄りに接合されて、
小屋裏収納部における桁行方向の内壁は、その高さHが、勾配tanθで傾斜する屋根面に対して、
H≧SB・tanθ
の関係式を満たして形成され、小屋裏収納部の床面が桁行方向の小屋大梁の天端より下方に設けられたことを特徴とする木造軸組建物。
【請求項2】
請求項1に記載の木造軸組建物において、
前記桁行方向の小屋大梁には、小屋裏収納部周りに配設される小屋束が接続され、小屋束の高さは700〜900mmとされたことを特徴とする木造軸組建物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の木造軸組建物において、
梁間方向に配設される小屋大梁には、小屋裏収納部の床を受ける横架材が当該小屋大梁の下端寄りに接合され、この横架材の天端は、梁間方向の小屋大梁の天端から180mm以上、下方に配設されたことを特徴とする木造軸組建物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の木造軸組建物において、
桁行方向または梁間方向のいずれか一方の小屋大梁の一つに切欠部が形成され、この小屋大梁の切欠部に、小屋裏収納部へつながる階段が接続されたことを特徴とする木造軸組建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小屋裏収納部を有する木造軸組建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からの木造軸組工法では、土台の上に複数の柱が立設され、これらの柱の上に、桁などの複数の横架材が架け渡されるとともに、桁と直交するように、梁などの横架材が架け渡されて、主要構造部が構成されている。そして、この主要構造部の上に、小屋組と呼ばれる屋根架構が設けられている。
【0003】
住宅等の建物においては、物品を収納したり保管したりする場所として、押入れ、ウォークインクローゼット、納戸等が設けられる。また、小屋組の屋内側に形成される小屋裏空間を利用して、小屋裏収納部が設けられることもある。例えば、特許文献1には、木造住宅の小屋裏が平均天井高1400mm以上とされており、この小屋裏を納戸として利用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−194413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
敷地には都市計画に定められた用途地域があり、用途地域の種別に応じて建物の高さ等に制限が設けられている。例えば、隣地斜線制限によって、隣地に面する建物の高さを一定範囲に抑えることが求められ、道路斜線制限によって、道路に面する建物の高さを一定範囲に抑えることが求められる。敷地面積の小さい都市部の住宅地では、法定の容積率や建ぺい率の範囲内で敷地を有効利用しつつ建物を設計しなければならず、さらに道路や隣地等に面する側の屋根勾配や屋根形状にも制約を受けるものとなる。そのような厳しい設計条件の下では、特許文献1に開示されるよう小屋裏収納部を備えた住宅は、実現可能な状況とはならないものである。
【0006】
上記のような事情から、都市部の狭小地で2階建住宅を建築するときは、限られた建築面積および延床面積の中で、実際には十分な大きさの収納部を設けることが難しい。そのため、小屋裏収納部を設けることで必要量の収納スペースを確保することへの要望が高まっている。
【0007】
しかしながら、従来の小屋裏収納部にあっては、小屋裏に形成されたデッドスペースをそのまま利用したものに過ぎず、広さが不十分であったり、屋根勾配に沿って傾斜した天井面によって天井までの高さの低い部分が形成されたりして使い勝手が悪いという課題点があった。理論上、小屋組の高さを高くし、或いは屋根を急勾配とすることで、適当な広さや高さを有する小屋裏収納部を形成することは可能ではある。ところが、このような対応は、建物の高さを高くすることにつながり、建築コストを増加させる要因となるうえ、前述の高さ制限等による制約もあって、十分な収納量を備えて使い勝手のよい小屋裏収納部を形成することは困難なものであった。
【0008】
本発明は、上記のような問題点にかんがみてなされたものであり、建物全体のボリュームの増大と建築コストの増加とを招くことなく、十分な収納量を確保し使い勝手のよい小屋裏収納部を設けることを可能にし、小屋裏を有効に活用することのできる木造軸組建物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、棟木、母屋および軒桁を含む桁行方向の横架材に対して垂木が架け渡され、母屋を受ける小屋束が小屋梁に支持され、軒桁およびこれに類する梁材に囲まれて小屋構面が形成され、この小屋構面上に、天井高が1400mm以下とされた小屋裏収納部を備える木造軸組建物を前提とする。この木造軸組建物に対し、小屋裏収納部を小屋梁またはこれに類する梁材に支持させ、当該梁材として、小屋裏収納部から離隔した一般部に配設する小屋梁よりも梁せいの大きい小屋大梁を含み、小屋梁と小屋大梁との梁せいの差は30mmを超える大きさとされた構成とする。そして、小屋裏収納部周りの桁行方向の小屋大梁を、軒桁から梁間方向への後退距離SBが1500mm以下となる範囲に配設し、小屋裏収納部の床を受ける横架材と、軒桁に接続する横架材とを、前記桁行方向の小屋大梁を挟んで、高さを違えて配設するとともに、小屋裏収納部の床を受ける横架材をこの小屋大梁の下端寄りに接合する。また、小屋裏収納部における桁行方向の内壁を、その高さHが、勾配tanθで傾斜する屋根面に対して、H≧SB・tanθの関係式を満たすように形成し、小屋裏収納部の床面を、桁行方向の小屋大梁の天端より下方に設けた構成としている。
【0010】
この特定事項により、小屋裏収納部を形づくるための軸組構成を積極的に構築し得て、小屋裏収納部の床面を従来よりも下方に形成することが可能となる。このため、小屋組の高さを変えることなく、すなわち建物の高さを高くすることなく、小屋裏収納部の高さを最大限に確保することができ、さらに、小屋裏収納部の床面積を拡げることができる。その結果、建築コストを大きく増加させることなく、十分な収納量を確保した使い勝手のよい小屋裏収納部を備えた木造軸組建物とすることができる。
【0011】
前記木造軸組建物における、より具体的な構成として次のものが挙げられる。すなわち、桁行方向の小屋大梁には、小屋裏収納部周りに配設する小屋束を接続し、その小屋束の高さを700〜900mmの範囲とすることが好ましい。
【0012】
これにより、小屋構面上に設ける小屋裏収納部として、実質的に天井高を1400mm以下に抑えつつも、小屋束に沿って形成される小屋裏収納部の内壁の高さHを前記関係式の範囲に確保することができる。したがって、小屋裏収納部に人が進入して物品の出し入れ等を行うための作業スペースを、小屋裏収納部の内壁の近傍においても十分に形成することができ、使い勝手がより一層高められる。
【0013】
また、前記木造軸組建物において、梁間方向に配設する小屋大梁には、小屋裏収納部の床を受ける横架材を当該小屋大梁の下端寄りに接合し、その横架材の天端を、梁間方向の小屋大梁の天端から180mm以上、下方に配設することが好ましい。
【0014】
これにより、小屋裏収納部の床を受ける床梁および根太等の横架材は、小屋大梁の天端よりも下方に配設され、小屋大梁の天端よりも下方に下げた床面を小屋裏収納部内に形成することができる。したがって、小屋組の高さを変えることなく、すなわち建物の高さを高くすることなく、小屋裏収納部の高さを最大限に確保することができるとともに、小屋裏収納部の床面積を拡げることが可能となる。
【0015】
また、前記木造軸組建物においては、小屋裏収納部の周囲に配設される小屋大梁のうち、桁行方向または梁間方向のいずれか一方の小屋大梁の一つに切欠部を設け、この小屋大梁の切欠部に、小屋裏収納部へつながる階段を接続する構成とすることが好ましい。
【0016】
これにより、小屋裏収納部とその下層階の居室とに連通する階段が設けられて、小屋裏収納部の使い勝手が向上する。また、小屋裏収納部の床面が下方に形成される分、設ける階段の段数を低減させることが可能となる。さらに、段数の少ない階段によって、小屋裏収納部と下層階の居室との間に空間的なつながりや一体感を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、小屋裏収納部の周囲に、一般部に配設する小屋梁よりも梁せいの大きい小屋大梁を配設し、桁行方向の小屋大梁を挟んで、小屋裏収納部の床を受ける横架材と、軒桁に接続する横架材とを、高さを違えて配設するとともに、小屋裏収納部の床を受ける横架材をこの小屋大梁の下端寄りに接合して、小屋裏収納部の床面を桁行方向の小屋大梁の天端より下方に設けるように構成している。このため、建物全体のボリュームを増大させることなく、広さおよび高さを十分に確保して使い勝手のよい小屋裏収納部を形成することが可能となり、狭小地にあっても建築コストを抑えつつ小屋裏を有効に活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る建物としての住宅を示す概略断面図である。
図2】前記住宅の小屋伏図である。
図3図2のX−X断面における軸組図である。
図4】前記住宅の小屋組を示す斜視図である。
図5】前記住宅の小屋裏収納部を示す説明図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る建物としての住宅の軸組図である。
図7】比較例としての住宅の軸組図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、以下の説明にあたって、同一構成要素については、共通の符号を付して示し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0020】
図1図5は、本発明の第1実施形態に係る木造軸組建物としての住宅1を示し、図6は、本発明の第2実施形態に係る木造軸組建物としての住宅1を示している。また、図7は、本発明との比較例としての従来構造による住宅1を示している。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は住宅1の概略構成を示す断面図、図2は住宅1の小屋組の一部を示す小屋伏図、図3図2のX−X断面における軸組図、図4は住宅1の小屋組を示す斜視図、図5は住宅1の小屋裏収納部10を示す説明図である。
【0022】
図1に示すように、一例としての住宅1は、基礎11の上に建物本体12が設けられ、上部が屋根13で覆われた2階建住宅である。建物本体12は、木造軸組工法により形成され、1階部分と2階部分に、居室、廊下、および水回り室などの種々の生活空間が設けられている。
【0023】
図2および図3に示すように、屋根13を支える小屋組は、棟木21、母屋22および軒桁23を含む桁行方向Aの横架材(水平材)に対して、斜め方向に傾斜して垂木25が架け渡されて構成されている。また、母屋22等を受ける複数の小屋束26は、小屋梁3に接続され支持されている。小屋梁3は、軒桁23または妻梁(外周梁)24に接続されている。
【0024】
軒桁23、妻梁24およびこれに類する梁材が住宅1の外周部に矩形に組まれ、小屋構面が形成されている。軒桁23および妻梁24は、柱(通し柱)6に支持されている。図2に示す形態では、小屋構面の妻側に、妻梁24とこれに連続させて小屋梁3が設けられている。小屋構面の隅部には、方杖状に火打梁27が備えられ、構面を固めている。
【0025】
小屋構面上の一部には、小屋裏収納部10が設けられている。小屋裏収納部10は、天井高が内法寸法で最大1400mmの空間とされ、物品の保管や収納の用途に供される。
【0026】
図2においては、破線により囲み示す区画に、小屋裏収納部10が設けられる。この小屋裏収納部10は、住宅1の妻側に面して配置されている。また、小屋裏収納部10は、梁間方向Bには、棟木21の下方を含む配置とされている。さらに、梁間方向Bの略中央部に位置するように小屋裏収納部10は配置されている。
【0027】
小屋構面の内側には、小屋梁3またはこれに類する梁材が架設されている。小屋梁3は、梁せいの異なる複数種類の小屋梁(小屋梁31、および小屋大梁32a、32b)を含んで構成されている。
【0028】
住宅1において、小屋裏収納部10は、矩形状に組まれた、妻梁24、桁行方向Aの小屋大梁32a、および梁間方向Bの小屋大梁32bにより、その周囲部が支持されている。妻梁24および小屋大梁32a、32bは、小屋裏収納部10から離隔した位置に配設されている一般部の小屋梁31よりも梁せいが大きく形成されている。
【0029】
例えば、一般部の小屋梁31は270mm以下の梁せいとされているのに対して、小屋裏収納部10の周囲に配設される小屋大梁32a、32bは、300mmを超える梁せいを有している。例示する小屋大梁32a、32bは、いずれも梁せいが390mmとされている。また、妻梁24は梁せいが450mmとされている。軒桁23は、せいが210〜270mmとされている。
【0030】
図3に示すように、桁行方向Aの小屋大梁32aには、母屋22等の横架材を受ける小屋束26が接続されている。小屋束26は、小屋大梁32a上に立てられて、屋根13を支える。屋根13は、切妻屋根、寄棟屋根など各種の屋根形式により形成されている。
【0031】
妻梁24、桁行方向Aの小屋大梁32a、および梁間方向Bの小屋大梁32bの内側には、小屋裏収納部10の床を受ける横架材として、床梁51と、複数の根太52とが配設されている。
【0032】
図2および図4に示すように、床梁51は、妻梁24と小屋大梁32bとの間に架け渡されている。床梁51は、際根太53を介して妻梁24および小屋大梁32bに接合されることが好ましい。
【0033】
根太52は、桁行方向Aの小屋大梁32aと床梁51の間に架け渡され、根太52同士は均等ピッチで配設されている。根太52は、根太掛け54等の横材を介して小屋大梁32aに接合されることが好ましい。
【0034】
図5に示すように、小屋裏収納部10周りでは、桁行方向Aの小屋大梁32aを挟んで、小屋裏収納部10の床を受ける根太52等の横架材と、軒桁23に接続する小屋梁31等の横架材とが、高さを違えて配設されている。また、小屋裏収納部10の床を受ける根太52は、小屋大梁32aの下端寄りに接合されている。
【0035】
具体的に、小屋梁31は、その天端が軒桁23の天端よりも上方に配設されて、桁行方向Aの小屋大梁32aに接続されている。一方で、根太52は軒桁23に対しては、その天端が軒桁23の天端よりも下方に配設されており、かつ、桁行方向Aの小屋大梁32aの下端寄りに接合されている。
【0036】
梁間方向Bに配設される小屋大梁32bには、図4に示すように、小屋裏収納部10の床を受ける床梁51が、小屋大梁32bの下端寄りに接合されている。また、妻梁24に対しても、床梁51が下端寄りに接合されている。これにより、根太52および床梁51に支持される小屋裏収納部10の床は、小屋裏収納部10の周囲を区画する小屋大梁32a、32b、および妻梁24の天端よりも下方に形成される。小屋裏収納部10はこれらの床梁51および根太52の上に床下地、床板材等が張られて、床面が形成される。
【0037】
ここで、比較例として図7に示す従来構造では、軒桁91およびこれに類する梁材に囲まれて小屋構面が形成され、小屋構面内の桁行方向の小屋梁92a、および梁間方向の小屋梁92bは、いずれも同じ梁せいを有している。また、桁行方向の小屋梁92aに対して、軒桁91に接続する梁間方向の小屋梁92bと、小屋裏収納部95の床を受ける床梁等の横架材93とは、ほぼ等しい高さ位置に配設されている。これにより、これらの小屋梁92a、92b、および横架材93の天端は、ほぼ面一に揃えられている。
【0038】
小屋裏収納部95の床面は、必然的に小屋梁92a、92bの天端よりも上方に設けられることとなる。小屋裏収納部95は、小屋束94の内側に沿う内壁96により区画され、一定の容積を有して形成される。しかしながら、この従来構造による小屋裏収納部95は、内壁96の高さが小屋束94の高さよりも低くなり、十分な広さを備えず、隅部で人が物品の出し入れ等の作業を行うには窮屈なものとなっている。
【0039】
なお、図3図5および後述する図6において、小屋裏収納部10の内側に2点鎖線で示すラインは、この従来構造による小屋裏収納部95のアウトラインを示している。
【0040】
本実施形態に係る住宅1では、小屋裏収納部10の床は、小屋裏収納部10の周囲を区画する小屋大梁32a、32b、および妻梁24の天端よりも下方に下げて設けられている。図5に示すように、小屋裏収納部10では、例えば内壁101に沿って収納棚102を設置し、物品を収納したり保管したりするなどの使用形態が想定される。また、住宅1の屋根勾配から、小屋裏収納部10内で床面と天井面との距離が小さくなるのが、内壁101に沿う隅部となる。したがって、内壁101に沿って形成される隅部が、人が物品の出し入れを行うのに窮屈な状態であると、使い勝手が極めて悪いものとなってしまう。
【0041】
そこで、住宅1における小屋裏収納部10では、内壁101に沿って形成される隅部の空間寸法を、人の動作寸法を考慮して構成している。すなわち、小屋裏収納部10の隅部では、少なくとも、座り姿勢、またはかがみ姿勢によって、物品の収納作業等を行うことができる動作寸法を確保し、そのような収納作業等を行いやすい高さ(例えば1000mm)を確保するように構成されている。
【0042】
具体的には、小屋組における小屋裏収納部10を支持するための桁行方向Aの小屋大梁32aは、軒桁23から梁間方向Bへの後退距離SBが1500mm以下の範囲である位置に配設されている。この桁行方向Aの小屋大梁32aには、屋根荷重を受ける小屋束26が接続されている。
【0043】
ここで、住宅1の屋根13の傾斜角をθ(度)とすると、屋根勾配はtanθで表せる。小屋裏収納部10の桁行方向Aの内壁101は、tanθで傾斜する屋根面に対して、その高さH(mm)が、
H≧SB・tanθ
の関係式を満たすように設けられている。
【0044】
すなわち、5寸勾配の屋根では、tanθ=0.5となり、θ=tan-10.5≒26.565である。住宅1の屋根13が5寸勾配であるとすれば、桁行方向Aの小屋大梁32aの、軒桁23から梁間方向Bへの後退距離SBが1500mmであるとき、小屋裏収納部10の内壁101は、高さHが、SB・tanθ=1500×0.5=750(mm)以上を有する構成とされている。
【0045】
これにより、屋根勾配を大きく変えることなしに、小屋裏収納部10の床面を、小屋大梁32aの天端よりも下方に形成するとともに、小屋裏収納部10の内壁101を、従来よりも余裕を持たせた高さとすることができる。
【0046】
小屋裏収納部10の内壁101は、小屋裏収納部10周りに立設された小屋束26に沿って形成される。小屋組における小屋裏収納部10を構成する区画の少なくとも四隅には、高さが700〜900mmとされた小屋束26が配設されている。
【0047】
また、図4に示すように、床梁51の天端は、梁間方向Bの小屋大梁32bの天端より下方に配設されている。この場合、床梁51の天端は、小屋大梁32bの天端から180mm以上、下方に配設されている。また同様に、根太52の天端は、桁行方向Aの小屋大梁32aの天端から180mm以上、下方に配設されている。
【0048】
このような構成とすることによって、座り姿勢、またはかがみ姿勢の人の高さhを、小屋裏収納部10の隅部に確保することができる。つまり、小屋裏収納部10の隅部では、少なくとも、座り姿勢、またはかがみ姿勢によって物品の収納作業等をスムーズに行うことができる動作寸法が確保され、そのような収納作業等を行いやすい高さが確保されている。
【0049】
また、小屋裏収納部10の床面は、従来構造の小屋裏収納部95の床面よりも下方に設けられる構成とすることができ、その分、天井高を1400mmまでの範囲で最大限に高く確保することができる。そのうえ、このように天井高を確保することができるので、小屋裏収納部10を梁間方向Bに拡張することが可能となる。その結果、住宅1における小屋裏の限られた空間内で、最大限の容積を確保し、従来よりも床面積を拡げることが可能となる。小屋裏収納部10は、全体として広さと高さとを十分に確保して形成されるので、使い勝手よく利用することが可能となる。
【0050】
さらに、住宅1においては、小屋裏収納部10の周囲の小屋大梁32a、32bのうち、桁行方向Aまたは梁間方向Bのいずれか一方の小屋大梁32a、32bの一つに、切欠部が形成される。図2に示す例では、小屋大梁32bに切欠部が設けられ、階段受梁28が配設されている。階段受梁28は、小屋大梁32bよりも梁せいが小さく、小屋大梁32bの梁せいが390mmであるのに対し、210mmの梁せいとされている。この階段受梁28には、2階居室から小屋裏収納部10へつながる固定階段が接続される。
【0051】
小屋裏収納部10への出入りには、従来一般の収納式はしご等を利用することも可能であるが、このように固定階段を設置することによって、小屋裏収納部10の使い勝手をより一層高めることができる。
【0052】
この場合、固定階段は、小屋裏収納部10の床面が下方に形成される分、階段の段数を低減させることが可能となる。また、段数の少ない固定階段であることによって、小屋裏収納部10と下層階の居室との間に空間的なつながりや一体感を形成することができる。
【0053】
以上のように、住宅1においては、小屋組の高さを変えることなく、すなわち住宅1の建築高さを高くすることなく、小屋裏収納部10の高さを最大限に確保し、その床面積を拡げることができる。このような小屋裏収納部10を備える住宅1は、敷地面積を大きく確保することが難しい都市部の住宅に好適であり、限られた建築面積および床面積のもと、建築コストを増大させることなく、十分な収納スペースを確保することが可能となる。
【0054】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る建物としての住宅を示す軸組図である。なお、この軸組図は、図3に示したのと同様に、図2のX−X断面における軸組図として示している。
【0055】
図6に示す住宅1の小屋裏収納部10は、第1実施形態における小屋裏収納部10と同様、妻梁24、桁行方向Aの小屋大梁32a、および梁間方向Bの小屋大梁32b等の横架材が矩形状に組まれ、その小屋構面上に支持されて形成されている。小屋裏収納部10周りでは、桁行方向Aの小屋大梁32aを挟んで、小屋裏収納部10の床を受ける根太52と、軒桁29に接続する小屋梁31とは、高さを違えて配設されている。小屋裏収納部10の床を受ける根太52は、小屋大梁32aの下端寄りに接合されている。
【0056】
ここで、軒桁29は、せいが、第1実施形態に示した軒桁23よりも大きいものとされている。例えば、図3に示される軒桁23は、そのせいが270mmであるのに対し、図6に示される軒桁29は、せいが400mmとされている。
【0057】
住宅1の屋根13を支える小屋組は、軒桁29によって、第1実施形態で示した例よりも、垂木25がより上方に支持される。このため、小屋裏収納部10の天井高を1400mmまでの範囲で、より一層高く形成することができ、床面積をさらに拡張することが可能となる。図6において、小屋裏収納部10は、2点鎖線により示す従来構造の小屋裏収納部95よりも、格段に大きく形成されている。このように、住宅1の小屋裏収納部10においては、限られた建築面積および床面積のもとで、十分な大きさを確保することが可能となり、従来よりも使い勝手を向上させて、物品の保管や収納の用途に好適に利用することができる。
【0058】
(他の実施形態)
本発明に係る木造軸組建物としての住宅1は、前記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。例えば、小屋裏収納部10は、軒桁23、妻梁24およびこれに類する梁材が矩形に組まれて構成される小屋構面上の、いずれの箇所に配置されてもよい。したがって、小屋裏収納部10は、妻梁24、桁行方向Aの小屋大梁32a、および梁間方向Bの小屋大梁32bにより囲まれて支持されるに限らず、小屋構面に設けられて小屋梁3またはこれに類する梁材に支持された構成であれば、どのように形成されてもよい。また、小屋裏収納部10の平面形状も、前記のように矩形状であるに限らず、入隅部を有する略L字状の平面形状であっても、雁行形の平面形状であってもよい。このような小屋裏収納部10の平面形状に合わせて、小屋裏収納部10内に小屋束26が設けられてもよく、小屋構面を構成する床梁51に小屋束26を立設することができる。小屋裏収納部10へつながる固定階段は、前記のように小屋大梁32bに接続して設けられるに限らず、小屋裏収納部10のいずれの箇所に設けられてもよい。
【0059】
また、小屋組を構成する各部材の配設形態や寸法等も、前記の実施形態に限定されるものではない。桁行方向Aの小屋大梁32aを挟んで高さを違えて配設される、小屋裏収納部10の床を受ける横架材と、軒桁23、29に接続する横架材とは、前記の実施形態のものに限らず、小屋組の架構形態により他の種類の横架材とされることも可能である。そのため、前記の実施形態は例示であり、限定的なものではない。
【0060】
また、住宅1における屋根形式は、切妻屋根に限られず、寄棟屋根、片流れ屋根など多様な屋根形式を採用することができる。屋根勾配は、5寸勾配、6寸勾配等に限定されず、どのような勾配の屋根に対しても本発明を好適に実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、小屋裏部に収納空間を有する木造軸組建物として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 住宅
11 基礎
12 建物本体
13 屋根
21 棟木
22 母屋
23、29 軒桁
24 妻梁(外周梁)
25 垂木
26 小屋束
27 火打梁
28 階段受梁
3 小屋梁
31 小屋梁(一般部)
32a、32b 小屋大梁
51 床梁
52 根太
53 際根太
54 根太掛け
6 柱
10 小屋裏収納部
101 内壁
102 収納棚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7