(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る真空遮断器について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
[真空遮断器の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る真空遮断器1の縦断面図である。真空遮断器1は、接地タンク2と、接地タンク2に収納される真空インタラプタ3と、真空インタラプタ3の開閉を行う操作機構4と、を有する。
【0013】
接地タンク2は、例えば、円筒状の金属容器であり、真空インタラプタ3を収納する。接地タンク2内には、SF
6ガスや乾燥空気等の絶縁性ガスが充填される。接地タンク2の一端には支持板5を介して操作箱6が取り付けられ、操作箱6内には操作機構4が設けられる。接地タンク2内の水平方向一端には絶縁支持筒7が支持板5に支持され、接地タンク2内の他端には支持碍子8が支持される。
【0014】
真空インタラプタ3は、真空容器9内に一対の接点(固定電極10及び可動電極11)を接離可能に収納して構成される。真空容器9は、絶縁筒12と絶縁筒12の両開口部を封止する封着金具13,14で構成される。真空容器9内であって、固定電極10及び可動電極11を覆うように中間シールド15が設けられる。固定電極10は、固定リード16の一端に固定される。固定リード16の他端部は真空容器9の端面から延在しており、固定側コンタクトケース17に接続される。可動電極11は、可動リード18の一端に固定される。可動リード18の他端部は真空容器9の端面から延在し、可動側コンタクトケース19に接続される。さらに、可動リード18の他端部には絶縁ロッド20が設けられ、絶縁ロッド20は操作機構4に接続される。なお、真空容器9内であって、可動リード18の挿通部にはベローズ21が設けられており、真空容器9内を真空に保った状態で可動リード18が軸方向に移動可能となっている。
【0015】
操作機構4は、絶縁ロッド20を介して可動リード18に接続され、可動リード18を軸方向に移動させる。また、操作機構4には、圧接ばね22が設けられており、固定電極10と可動電極11とを接触させた際に、圧接ばね22が可動リード18を固定リード16方向に付勢して固定電極10と可動電極11との間に所定の接触圧が加えられる。操作機構4には、操作レバー23が接続されており、操作レバー23の動きに応じて操作機構4が可動リード18を軸方向に移動させる。
【0016】
支持碍子8には、固定側コンタクトケース17が支持される。固定側コンタクトケース17には、導体25が接続される。また、絶縁支持筒7には、絶縁性のサポート24を介して可動側コンタクトケース19が支持される。可動側コンタクトケース19には、導体26が接続される。
【0017】
導体25は、接地タンク2から突出した状態で設けられる。導体25の周囲にはブッシング27が設けられ、ブッシング27は接地タンク2に支持される。このブッシング27の上端部には導体25と導通するブッシング端子27aが設けられる。そして、ブッシング27と接地タンク2の接続部にはブッシング変流器28が設けられる。同様に、導体26は、接地タンク2から突出した状態で設けられる。導体26の周囲にはブッシング29が設けられ、ブッシング29は接地タンク2に支持される。このブッシング29の上端部には導体26と導通するブッシング端子29aが設けられる。そして、ブッシング29と接地タンク2の接続部にはブッシング変流器30が設けられる。
【0018】
[固定電極及び可動電極の製造方法]
本発明の実施形態に係る真空遮断器1は、固定電極10及び可動電極11の少なくとも一方の電極として、耐電圧性能に優れた電極材料からなる電極を用いたことを特徴としている。ここでは、固定電極10及び可動電極11として用いた電極材料の製造方法について詳細に説明する。なお、電極材料の詳細については、特願2015−528797の明細書に記載されている。また、電極材料の説明において、特に断りがない限り、平均粒子径、メディアン径d50及び体積相対粒子量は、レーザー回折式粒度分布測定装置(シーラス社:シーラス1090L)により測定された値を示す。
【0019】
まず、本発明に先立って、発明者らは再点弧発生と、耐熱元素(Mo,Cr等)やCuの分布と、の相関性について検討を行った。その結果、再点弧を発生した電極表面を観察することで、耐熱元素よりも融点が低いCu領域において微小な突起部(例えば、数十μm〜数百μmの微小な突起)が多いことを見出した。この突起部の先端には高電界が生じるため、遮断性能や耐電圧性能を低下させる要因となり得る。突起部の形成は、投入電流により電極が溶融・溶着し、その後の電流遮断時に溶融部が引き剥がされることによって形成されるためと推定される。この推定に基づいて電極材料の遮断性能及び耐電圧性能の検討を行った結果、電極中の耐熱元素の粒径を小さくし、微細分散させること、及び、電極表面中のCu領域を微細に均一分散させることで、Cu領域における微小な突起部の発生が抑制され、且つ再点弧の発生確率が低減されるという知見を得た。また、電極接点は、接点の開閉の繰り返しによって、電極表面の耐熱元素の粒子が砕かれ、微細な粒子となって電極表面から離脱し、絶縁破壊が起こることが考えられる。この考察に基づいて、耐電圧性能に優れる電極材料の検討を行った結果、電極材料中の耐熱元素の粒径を小さくし、微細分散させること、さらに、Cu領域を微細分散させることで、耐熱元素の粒子が砕かれるのを抑制する効果が得られるとの知見を得た。これらの知見に基づいて、発明者らは、耐熱元素の粒径、Cuの分散性、真空インタラプタの電極の耐電圧性等について鋭意検討した結果、本発明の完成に至ったものである。
【0020】
本発明の実施形態に係る真空遮断器の電極材料は、Crを含有する粒子を微細化して均一に分散させ、高導電体成分であるCu組織も微細均一分散させた電極材料である。
【0021】
耐熱元素は、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)等の元素から選択される元素を単独若しくは組み合わせて用いることができる。特に、Cr粒子を微細化する効果が顕著であるMo、W、Ta、Nb、V、Zrを用いることが好ましい。耐熱元素を粉末として用いる場合、耐熱元素粉末の平均粒子径を、例えば、2〜20μm、より好ましくは2〜10μmにすることで、Crを含有する粒子(耐熱元素とCrの固溶体を含む)を微細化して均一に分散させた組成を有する電極材料を得ることができる。耐熱元素は、電極材料に対して6〜76重量%、より好ましくは32〜68重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。
【0022】
Crは、電極材料に対して1.5〜64重量%、より好ましくは4〜15重量%含有させることで、機械強度や加工性を損なうことなく、電極の耐電圧性能及び電流遮断性能を向上させることができる。Cr粉末を用いる場合、Cr粉末の粒径を、例えば、−48メッシュ(粒径300μm未満)、より好ましくは−100メッシュ(粒径150μm未満)、さらに好ましくは−325メッシュ(粒径45μm未満)とすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができる。Cr粉末の粒径を−100メッシュとすることで、電極に溶浸されたCuの粒子径を大きくする要因となる残存Crの量を低減することができる。また、電極中に微細化したCrを含有する粒子を分散させる点では、粒径が小さいCr粉末を用いることが好ましいが、Cr粒子を細かくするほど電極に含有される酸素含有量が増加して電流遮断性能が低下する。Cr粒子の粒径を小さくすることによる電極材料の酸素含有量の増加は、Crを微細に粉砕する際にCrが酸化することにより生じるものと考えられる。そこで、Crが酸化しない条件、例えば、不活性ガス中でCrを微細な粉末とすることができるのであれば、粒径が−325メッシュ未満のCr粉末を用いてもよく、電極中に微細化したCrを含有する粒子を分散させる点では、粒径が小さいCr粉末を用いることが好ましい。
【0023】
Cuは、電極材料に対して20〜70重量%、より好ましくは25〜60重量%含有させることで、耐電圧性能や電流遮断性能を損なうことなく、電極の接触抵抗を低減することができる。なお、電極材料に含有されるCuの含有量は、後に詳細に説明するCu溶浸工程により定められることとなるので、電極材料に対して添加される耐熱元素、Cr及びCuの合計は、100重量%を超えることはない。
【0024】
図2のフローチャートを参照して、本発明の実施形態に係る電極材料の製造方法について詳細に説明する。なお、実施形態の説明では、Moを例示して説明するが、他の耐熱元素の粉末を用いた場合も同様である。
【0025】
混合工程S1では、耐熱元素粉末(例えば、Mo粉末)とCr粉末を混合する。Mo粉末及びCr粉末の平均粒子径は、特に限定するものではないが、Mo粉末の平均粒子径は2〜20μm、Cr粉末の粒子径は、−100メッシュとすることで、Cu相にMoCr固溶体が均一に分散した組成を有する電極材料を形成することができる。また、Mo粉末とCr粉末は、重量比率でMo1に対してCrが4以下、より好ましくはMo1に対してCrが1/3以下となるように混合することで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を製造することができる。
【0026】
仮焼結工程S2では、混合工程S1で得られたMo粉末とCr粉末の混合粉末(以下、混合粉末と称する)を、Mo及びCrと反応しない容器(例えば、アルミナ容器)に充填して、非酸化性雰囲気(水素雰囲気や真空雰囲気等)にて所定の温度(例えば、1250℃〜1500℃)で仮焼結を行う。仮焼結を行うことで、MoとCrが相互に固溶拡散したMoCr固溶体が得られる。仮焼結工程S2では、必ずしもすべてのMoとCrがMoCr固溶体を形成するまで仮焼結を行う必要はない。ただし、X線回折(XRD)測定によって観察されるMo元素に対応するピーク及びCr元素に対応するピークのいずれか若しくは両方が完全に消失した仮焼結体(すなわち、MoとCrのどちらかがもう一方に完全に固溶した仮焼結体)を用いることで、より耐電圧性能の高い電極材料を得ることができる。よって、例えば、Mo粉末の混合量が多い場合には、MoCrの固溶体のX線回折測定で、少なくともCr元素に対応するピークが消失するように、仮焼結工程S2の焼結温度と時間が選択され、Cr粉末の混合量が多い場合には、MoCrの固溶体のX線回折測定で、少なくともMo元素に対応するピークが消失するように、仮焼結工程S2の焼結温度と時間が選択される。
【0027】
また、仮焼結工程S2では、仮焼結を行う前に混合粉末を加圧成形(プレス処理)しても良い。加圧成形することで、MoとCrとの相互拡散が促進され仮焼結時間を短くしたり、仮焼結温度を低減したりすることができる。加圧成形時の圧力は、特に限定するものではないが、0.1t/cm
2以下とすることが好ましい。混合粉体の加圧成形時の圧力が非常に大きい場合、仮焼結体が硬くなり、後の粉砕工程S3での粉砕作業が困難となるおそれがある。
【0028】
粉砕工程S3では、粉砕機(例えば、遊星ボールミル)を用いてMoCr固溶体の粉砕を行い、MoCr固溶体の粉末(以下、MoCr粉末と称する)を得る。粉砕工程S3の粉砕雰囲気は、非酸化性雰囲気が望ましいが、大気中において粉砕してもかまわない。粉砕条件は、MoCr固溶体粒子が相互に結合している粒子(2次粒子)を粉砕する程度の粉砕条件でよい。なお、MoCr固溶体の粉砕は、粉砕時間を長くすればするほど、MoCr固溶体粒子の平均粒子径が小さくなる。したがって、例えば、MoCr粉末において、粒径30μm以下の粒子(より好ましくは、粒径20μm以下の粒子)の体積相対粒子量が50%以上となるような粉砕条件を設定することで、MoCr粒子(MoとCrが相互に固溶拡散した粒子)及びCu組織が均一に分散した電極材料を得ることができる。
【0029】
成形工程S4では、MoCr粉末の成形を行う。MoCr粉末の成形は、例えば、2t/cm
2の圧力で加圧成形することにより行う。
【0030】
本焼結工程S5では、成形されたMoCr粉末の本焼結を行い、MoCr焼結体(MoCrスケルトン)を得る。本焼結は、例えば、MoCr粉末の成形体を、1150℃−2時間、真空雰囲気中で焼結することにより行う。本焼結工程S5は、MoCr粉末の変形と接合によってより緻密なMoCr焼結体を得る工程である。MoCr粉末の焼結は、次のCu溶浸工程S6の温度条件、例えば1150℃以上の温度で実施することが望ましい。溶浸温度よりも低い温度で焼結を行うと、Cu溶浸時にMoCr焼結体に含有されているガスが新たに発生してCu溶浸体に残留し、耐電圧性能や電流遮断性能を損なう要因となるからである。本発明の焼結温度は、Cu溶浸時の温度よりも高く、且つCrの融点以下の温度、好ましくは1150〜1500℃の範囲で行うことで、MoCr粒子の緻密化が進み、且つMoCr粒子の脱ガスが十分に進行する。
【0031】
なお、本焼結工程S5では、本焼結を行った後に、得られたMoCr焼結体にHIP(熱間等方圧加圧法)処理を行ってもよい。HIP処理は、例えば、MoCr焼結体をステンレス製の円筒容器(円筒内高さ11mm、内径φ62mm、肉厚5mm)内に入れ、真空密封した後、HIP処理装置内で、1050℃−70MPa(0.714ton/cm
2)−2時間のHIP処理を行う。
【0032】
Cu溶浸工程S6では、MoCr焼結体にCuを溶浸させる。Cuの溶浸は、例えば、MoCr焼結体上にCu板材を乗せ、非酸化性雰囲気にて、Cuの融点以上の温度で所定時間(例えば、1150℃−2時間)保持することにより行う。
【0033】
[実施例1]
図2に示すフローチャートにしたがって、実施例1の電極材料を作製した。実施例1では、Mo粉末は、粒度2.8〜3.7μmのものを用いた。このMo粉末をレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定したところメディアン径d50は5.1μm(d10=3.1μm、d90=8.8μm)であった。また、Cr粉末は、−325メッシュ(ふるい目開き45μm)を用いた。
【0034】
まず、Mo粉末とCr粉末を重量比率でMo:Cr=7:1の割合で混合し、V型混合器を用いて均一となるように十分に混合した。
【0035】
混合終了後、Mo粉末とCr粉末の混合粉末をアルミナ容器内に移し、真空加熱炉にて1250℃で3時間混合粉末の仮焼結を行った。1250℃で3時間焼結後の真空加熱炉の真空度は、3.5×10
-3Paであった。なお、仮焼結温度で所定時間維持した後の真空度が5×10
-3Pa以下であれば、得られた仮焼結体を用いて作製した電極材料の酸素含有量が少なくなり、電極材料の電流遮断性能を損なうことがない。
【0036】
冷却後、真空加熱炉からMoCr仮焼結体を取り出し、遊星ボールミルを用いて10分間粉砕を行い、MoCr粉末を得た。粉砕後、MoCr粉末のX線回折測定を行い、仮焼結を行うことによりMo元素とCr元素が相互に固相拡散し、MoとCrが固溶化していることを確認した。具体的には、MoCr粉末のX線回折(XRD)測定を行い、MoCr粉末の結晶定数を求めた。MoCr粉末(Mo:Cr=7:1)の格子定数aは、0.3107nmであった。MoCr粉末(Mo:Cr=7:1)のX線回折(XRD)の測定結果において、Mo粉末の格子定数aである0.3151nmのピークと、Cr粉末の格子定数aである0.2890nmのピークは消失していた。このことより、仮焼結を行うことによりMo元素とCr元素が相互に固相拡散し、MoとCrが固溶化したことを確認した。
【0037】
図3(a)は、Mo粉末とCr粉末の混合粉末の電子顕微鏡写真である。左下及び中央上に見られる比較的大きな粒子径が45μm程度の粒子は、Cr粉末であり、凝集している細かい粒子はMo粉末である。
【0038】
図3(b)は、MoCr粉末の電子顕微鏡写真である。粒子径が45μm程度の比較的大きな粉末は確認できず、Crは原料そのままの状態(サイズ)では存在していないことが確認された。また、MoCr粉末の平均粒度径(メディアン径d50)は15.1μmであった。
【0039】
X線回折測定の結果と電子顕微鏡写真より、Mo粉末とCr粉末を混合した後、1250℃−3時間焼成することでCrが微細化され、MoとCrが相互に拡散してMoとCrの固溶体が形成されたと考えられる。
【0040】
次に、粉砕工程で得られたMoCr粉末をプレス機を用いてプレス圧2t/cm
2で加圧成形して成形体を形成し、この成形体を1150℃−2時間真空雰囲気中で本焼結して、MoCr焼結体を作製した。
【0041】
その後、MoCr焼結体上にCu板材を乗せ、真空加熱炉において1150℃−2時間保持して、MoCr焼結体にCuを溶浸させ、実施例1の電極材料を得た。
【0042】
[電極材料の断面観察]
実施例1の電極材料の断面を電子顕微鏡により観察した。電極材料の断面顕微鏡写真を
図4(a)及び
図4(b)に示す。
【0043】
図4(a),(b)において、比較的白く見える領域(白色部分)がMoとCrが固溶体化した合金組織であり、比較的黒く見える部分(灰色部分)がCu組織である。実施例1の電極材料では、1〜10μmの微細な合金組織(白色部分)が均一に微細化して分散していた。また、Cu組織も偏在せずに均一に分散していた。
【0044】
[電極材料におけるMoCr粒子の平均粒径]
実施例1の電極材料の断面組織をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した。電極材料のSEM像を
図5(a)及び
図5(b)に示す。
【0045】
図5(a),(b)のSEM像から、MoとCrが固溶体化した合金組織(白色部分)の平均粒径を算出した。電極材料中のMoCr粒子の平均粒径dmは、国際公開番号WO2012/153858に記載されているフルマンの式により求めた。
dm=(4/π)×(N
L/N
S) …(1)
N
L=n
L/L …(2)
N
S=n
S/S …(3)
dm:平均粒径、π:円周率、
N
L:断面組織上の任意の直線によってヒットされる単位長さ当たりの粒子数、
N
S:任意の測定領域内でヒットされる単位面積当たりに含まれる粒子の数、
n
L:断面組織上の任意の直線によってヒットされる粒子の数、
L:断面組織上の任意の直線の長さ、
n
S:任意の測定領域内に含まれる粒子の数、
S:任意の測定領域の面積
具体的に説明すると、
図5(a)のSEM像を用いて、その写真全体を測定領域(面積S)として得られたSEM像に含まれるMoCr粒子数n
Sを数えた。次に、SEM像を等分に分割する任意の直線(長さL)を引き、その直線にヒットされる粒子の数n
Lを数えた。
【0046】
これらの数値n
L及びn
Sを、それぞれL及びSで除して、N
L及びN
Sを求めた。さらに、N
L及びN
Sを(1)式に代入することにより、平均粒径dmを求めた。
【0047】
その結果、実施例1の電極材料のMoCr粒子の平均粒径dmは、3.8μmであった。1250℃−3時間混合粉末を仮焼結し、遊星ボールミルを用いて粉砕したMoCr粉末の平均粒子径は15.7μmであったことは前述した。Cu溶浸後の断面観察をし、フルマンの式から求めたMoCr粒子の平均粒子径は3.8μmであったことから、Cu溶浸工程S6においてMoCr粒の微細化がさらに進行したと考えられる。つまり、粉砕工程S3で得られたMoCr粉末において、d50=30μm以下となるような粉砕条件を設定することで、Cu溶浸後の断面観察において、フルマンの式から求めたMoCr粒子の平均粒子径は15μm以下となった。
【0048】
[電極材料におけるMoCr粒子の分散状態]
電極材料中にMoCr粒子がどれだけ存在するか、またMoCr粒子の粒径がどの程度のサイズであるかだけでなく、MoCr粒子がどの程度均一に分散されているかにより電極材料の特性が左右される。
【0049】
そこで、
図5(a),(b)のSEM像から、実施例1の電極材料におけるMoCr粒子の分散状態指数を算出し、電極組織のミクロ分散状態の評価を行った。分散状態指数は、特開平4−74924号公報に記載されている手法にしたがって算出した。
【0050】
具体的には、
図5(b)のSEM像を用いて、MoCr粒子の重心間距離を100個測定し、測定したすべての重心間距離Xの平均値ave.Xと標準偏差σを求め、求められたave.Xとσとを(4)式に代入して分散状態指数CVを求めた。
CV=σ/ave.X …(4)
その結果、重心間距離Xの平均値ave.Xは5.25μm、標準偏差σは、3.0μmとなり、分散状態指数CVは、0.57となった。
【0051】
[実施例2−8]
実施例2−7に係る電極材料として、Mo粉末とCr粉末の混合比率を変えて電極材料を作成した。実施例2−7では、混合工程S1において重量比率で、Mo:Cr=9:1、5:1、3:1、1:1、1:3、1:4の割合で混合したこと以外は実施例1と同じ方法で作製した電極材料である。また、実施例8の電極材料は、実施例7の電極材料の製造過程において、粒度の異なるMo粉末を用いたものである。いずれの電極材料も、1〜10μmの微細なMoCr合金組織が均一に微細化し、また、Cu組織も偏在せず均一に分散した組織を有する電極材料であった。詳細については、特願2015−528797の明細書に記載されている。
【0052】
表1に、実施例1−8の製造条件及び耐電圧性能を示す。耐電圧性能は、比較例Bの電極材料の耐電圧性能を1とした相対値で示している。なお、参考例1,2の電極材料は、実施例1の電極材料の製造過程において、仮焼結工程S2における焼成条件が異なる条件で製造した電極材料である。また、比較例A,Bに係る電極材料は、従来技術に係る電極材料であり、Mo粉末とCr粉末の混合粉末を、2t/cm
2で加圧成形し、得られた成形体を1200℃で2時間焼結し、得られた焼結体にCuを溶浸(1150℃−2時間)させたものである。比較例Aの電極材料は、
図6に示すように、1〜10μmの微細なMoCr固溶体粒子(白色部分)の中に、粒径20〜60μmのCu(黒色部分)が分散した組織となっていた。これは、Cr粒子がMo粒子によって微細化され、拡散機構によりMo粒子にCrが拡散してCrとMoが固溶体組織を形成する工程で生ずる空隙部分にCuが溶浸した結果であると推定される。
【0054】
表1に示した実施例1−8から明らかなように、実施例1−8の電極材料は、比較例A,Bと比較して耐電圧性能に優れた電極材料である。また、電極材料に含有される耐熱元素の割合が増加するにしたがって、電極材料の耐電圧性能が向上していることがわかる。すなわち、実施例1−8の電極材料は、耐熱元素粉末とCr粉末とを混合する混合工程と、耐熱元素粉末とCr粉末の混合物を仮焼結する仮焼結工程と、仮焼結体を粉砕する粉砕工程と、仮焼結体を粉砕した粉末を焼結する本焼結工程と、本焼結工程で得られる焼結体(スケルトン)にCuを溶浸させるCu溶浸工程とを行うことで、耐熱元素とCrが相互に固溶拡散した粒子を微細化して均一に分散させ、高導電体成分であるCu部分も微細均一分散した組成となるように合金組成を制御することができる。
【0055】
[絶縁回復性能の評価]
実施例1の電極材料を電極接点材(固定電極及び可動電極)として真空インタラプタ(以後、実施例1の真空インタラプタと称する)を構成し、真空インタラプタの絶縁回復性能の評価を行った。表2に電極接点材の条件及び操作器の条件を示す。また、
図7に、実施例1の真空インタラプタ及び比較例1,2の真空インタラプタの絶縁回復特性の特性図を示す。
【0056】
なお、比較例1の真空インタラプタは、従来の真空インタラプタであり、CuCr電極材料を固定電極及び可動電極に備え、遮断速度が3.0m/s、遮断時ギャップ長が60mmの真空インタラプタである。CuCr電極材料は、実施例1の電極材料と同じ材料(Cr粉末)を用いて作製された電極材料であり、Crを焼結した後、Cuを溶浸して作製した電極材料である。また、比較例2の真空インタラプタは、比較例1の真空インタラプタと同じCuCr電極材料を備えた真空インタラプタであって、遮断速度及び遮断時ギャップ長を、実施例1の真空インタラプタと同じ条件にした真空インタラプタである。
【0058】
図7に示すように、実施例1の真空インタラプタは、比較例1の真空インタラプタと同程度の絶縁回復特性を有している。つまり、表2に示すように、実施例1の真空インタラプタは、比較例1の真空インタラプタと比較して遮断速度を50%低減し、遮断時のギャップ長を33%低減した場合において、従来技術に係る真空インタラプタと同じ程度の絶縁回復特性を有する真空インタラプタである。一方で、比較例1の真空インタラプタと比較例2の真空インタラプタとの比較から明らかなように、CuCr電極材料を電極接点として用い、遮断速度を遅くし、遮断時ギャップ長を短くすると、真空インタラプタの絶縁回復特性が低下する。なお、実施例2−8の電極材料も実施例1の電極材料と同様に、遮断速度を低減し、遮断時のギャップ長を低減した場合において、従来技術に係る真空インタラプタと同じ程度の絶縁回復性能を有する真空インタラプタを構成することができた。
【0059】
以上のような、本発明の実施形態に係る真空遮断器によれば、電極材料の耐電圧性能を向上させることで、遮断時の絶縁回復性能が向上し、真空遮断器の遮断速度を低減し、遮断時ギャップ長を低減することができる。その結果、真空遮断器の操作力を低減できるとともに、ストロークに関連した機構の小型化、機器の縮小化、部品点数が低減され、真空遮断器の信頼性が向上する。
【0060】
また、固定電極(または可動電極)と主シールドとの間のギャップを狭めることができるため、真空インタラプタの構造を小さくすることが可能となる。その結果、真空インタラプタ及び真空遮断器を小型化することができ、真空遮断器の製造コストが低減する。
【0061】
つまり、本発明の実施形態に係る真空遮断器は、電極材料の耐電圧性能を向上させることにより、真空遮断器の遮断速度または遮断時のギャップ長を低減するものである。
【0062】
本発明の実施形態に係る真空遮断器に設けられる電極材料は、耐熱元素とCrが相互に固溶拡散した微細粒子(耐熱元素とCrの固溶体粒子)が均一に分散した組織を有する電極材料である。この微細粒子の平均粒子径は、原料であるMo粉末の平均粒子径やCr粉末の平均粒子径に応じて変化することとなるが、電極材料に分散される微細粒子の平均粒子径を、フルマンの式を用いて求めた平均粒子径が20μm以下、より好ましくは15μm以下の大きさとなるように制御することで、電極材料の電流遮断性能及び耐電圧性能が向上する。
【0063】
また、MoCr粉末を仮焼結・粉砕後に測定したMoCr粉末の粒径と、フルマンの式によりCu溶浸工程後の電極材料にて測定されたMoCr粉末の平均粒子径とを比較すると、Cu溶浸工程において、MoCr粒子の微細化がさらに進行していることが確認できる。具体的には、粉砕後のMoCr粉末は、d50=30μmであったのに対して、フルマンの式によりCu溶浸工程後の電極材料におけるMoCr粉末の平均粒子径は、10μm以下である。このことより、MoCr粉末を、30μm以下の粒子が体積相対粒子量で50%以上とすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができる。このように、Cu溶浸工程において、耐熱元素とCrの固溶体粒子をさらに微細化することができるので、実施例6〜8の電極材料のように、耐熱元素とCrの固溶体粉末のXRD測定においてCr元素のピークがわずかに残っている場合でも、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を得ることができる。
【0064】
また、耐熱元素とCrが相互に固溶拡散した微細粒子(耐熱元素とCrの固溶体粒子)の重心間距離の平均値と標準偏差から求めた分散状態指数CVを、2.0以下、望ましくは、1.0以下となるように制御することで、電極材料の電流遮断性能及び耐電圧性能が向上する。
【0065】
また、電極材料に対する耐熱元素の含有量を多くすることで、電極材料の耐電圧性能及び電流遮断性能が向上する。ただし、電極材料に耐熱元素のみ含有させた場合(電極材料にCrを含有させない場合)には、Cuの溶浸が困難となるおそれがある。よって、固溶体粉末における耐熱元素とCr元素の割合は、重量比率で耐熱元素1に対してCrが4以下、より好ましくは耐熱元素1に対してCrが1/3以下とすることで、電極材料の耐電圧性能が向上する。
【0066】
また、MoCr焼結体に対してHIP処理を行った後に、MoCr焼結体にCuを溶浸させることで、電極材料に含有される耐熱元素の含有量がさらに多くなり、電極材料の耐電圧性能が向上する。
【0067】
また、耐熱元素(Mo等)の平均粒子径の大きさは、耐熱元素とCrの固溶体粉末の粒子径を決定する一つの要因となり得る。すなわち、Cr粒子が耐熱元素粒子によって微細化され、拡散機構によって耐熱元素粒子にCrが拡散して耐熱元素とCrとが固溶体組織を形成することから、耐熱元素の粒径は、仮焼結によって大きくなる。また、仮焼結によって大きくなる度合いは、Crの混合割合にも依存する。そのため、耐熱元素粉末の平均粒子径を、例えば、2〜20μm、より好ましくは、2〜10μmとすることで、耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を形成するための耐熱元素とCrの固溶体粉末を得ることができる。
【0068】
また、溶浸法で製造された電極材料は、充填率が95%以上となり、電流遮断時や電流開閉時のアークによる接点表面の表面荒れが少ない。すなわち、空孔の存在による電極材料表面の微細な凹凸がなく、電極材料の耐電圧性能が向上する。また、多孔質体の空隙部にCuを充填することで、電極材料の機械的強度が向上し、焼結法により製造される電極材料よりも高硬度となり、電極材料の耐電圧性能が向上する。
【0069】
また、耐熱元素とCrが相互に固溶拡散した粒子を微細化して均一に分散し、高導電体成分であるCu部分も微細均一分散した組成を有するように電極材料の組成を制御することで、電極材料の耐電圧性能が向上する。
【0070】
なお、本発明の実施形態の説明は、特定の望ましい実施例を例として説明したが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲で、適宜設計変更が可能であり、設計変更された形態も本発明の技術範囲に属する。
【0071】
例えば、本発明の実施形態の説明において、仮焼結温度は、1250℃−3時間の条件であるが、本発明の仮焼結温度は、1250℃以上且つCrの融点以下、より好ましくは1250℃〜1500℃の範囲で行うことで、MoとCrの相互拡散が充分に進行し、且つその後の粉砕機を用いたMoCr固溶体の粉砕が比較的容易に行え、さらには耐電圧性能及び電流遮断性能に優れた電極材料を製造することができる。また、仮焼結時間は、仮焼結温度によって異なるものであり、例えば、1250℃では、3時間の仮焼結を行っているが、1500℃では、0.5時間の仮焼結で十分である。
【0072】
また、MoCr固溶体粉末は、実施形態に記載されている製造方法により製造されたものに限定されず、公知の製造方法(例えば、ジェットミル法、アトマイズ法)で製造されたMoCr固溶体粉末を用いてもよい。
【0073】
また、本発明の真空遮断器に設けられる電極材料は、耐熱元素とCrが相互に固溶拡散した微細粒子(耐熱元素とCrの固溶体粒子)を、均一に分散させたものであれば、フルマンの式を用いて求めた平均粒子径20μm以下(より好ましくは15μm以下)であって、微細粒子の重心間距離の平均値と標準偏差から求めた分散状態指数CVが2.0以下(より好ましくは、CVが1.0以下)であれば、実施形態の製造方法に限定されるものではなく、例えば、CuとCr等を所定の組成比で溶解する溶解法で製造したものであってもよい。
【0074】
また、実施形態では、接地タンクに真空インタラプタを収納した真空遮断器を例示したが、真空インタラプタは、箱形や管路型のGIS(ガス絶縁開閉装置)に搭載することもできる。また、真空インタラプタに設けられる電極(接点)は、調相設備開閉能力及び遮断電流開閉能力を有する真空遮断器(VCB)の他、調相設備開閉能力のみを有する真空開閉器(VS)、さらには、調相用以外にも適用することができる。
【解決手段】絶縁性ガスが封入された接地タンク2に真空インタラプタ3を収納した真空遮断器1である。真空インタラプタ3の固定電極10及び可動電極11の少なくとも一方の電極材料として、Cr及び耐熱元素を含有する固溶体粒子を微細化して均一に分散させ、且つ高導電体成分であるCu部分も微細均一分散させた電極材料を用いる。電極材料は、電極材料に対して重量比で、Cuを20〜70%、Crを1.5〜64%、耐熱元素を6〜76%、含有し、電極材料に含まれる固溶体粒子は、平均粒子径が20μm以下であり、分散状態指数が2.0以下でCu相に均一に分散している。