(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
共重合体(A)は、ビニルアルコール単位及びフルオロモノマー単位のモル比(ビニルアルコール単位/フルオロモノマー単位)が25〜75/75〜25である請求項1記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を含む。
【0026】
理由は不明であるが、フッ化ビニリデン系樹脂と共重合体(A)を含む組成物からなる高分子多孔質膜は耐ファウリング性が高い。具体的にはファウリングのモデル物質であるBSA(牛血清アルブミン;タンパク質付着のモデル物質)やフミン酸(フミン質付着のモデル物質)の付着量が少ない。付着量に関しては、水晶振動子マイクロバランス法(Quartz Crystal Microbalance method、QCM法)により計測することができる。また、ファウリングのモデル物質を含む水をフッ化ビニリデン系樹脂と共重合体(A)を含む組成物からなる多孔質膜に透過させたときの透過係数の低下を測定することによっても、付着の影響を評価することができる。
フッ化ビニリデン系樹脂と共重合体(A)を含む組成物からなる高分子多孔質膜は親水性にも優れる。親水性の評価は水中接触角で評価できる。水中接触角は水中での濡れ性の指標である。フッ化ビニリデン系樹脂と共重合体(A)を含む組成物からなる高分子多孔質膜は、水中接触角が大きく、水中で利用する多孔質膜として好適に利用できる。フッ化ビニリデン系樹脂と共重合体(A)を含む組成物からなる高分子多孔質膜の水中接触角は60°以下であることが好ましく、55°以下であることがより好ましく、50°以下であることが更に好ましい。フッ化ビニリデン系樹脂からなる多孔質膜は通常70°前後の水中接触角を示し、疎水性が高く、これが理由でファウリングしやすいと推測される。
【0027】
また、PVP(ポリビニルピロリドン)、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールやPEG(ポリエチレングリコール)等の親水化剤ポリマーは生分解を受けやすいため、水処理膜の親水化剤として用いると、水処理膜の使用中に分解されるといった課題があるが、共重合体(A)は生分解を受けにくいため、そういった課題は解決される。
【0028】
共重合体(A)は、ビニルアルコール単位及びフルオロモノマー単位を有するものである。
共重合体(A)は、化学的耐久性及び低ファウリング性を向上させる観点から、ビニルアルコール単位とフルオロモノマー単位との交互率が20%以上であることが好ましい。より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは50%以上であり、更により好ましくは55%以上であり、特に好ましくは60%以上である。
【0029】
ビニルアルコール単位(−CH
2−CH(OH)−)とフルオロモノマー単位との交互率は、重アセトン等の共重合体(A)が溶解する溶媒を用いて、共重合体(A)の
1H−NMR測定を行い、以下の式より3連鎖の交互率として算出できる。
交互率(%)=C/(A+B+C)×100
A:−V−V−V−のように2つのVと結合したVの個数
B:−V−V−F−のようにVとFとに結合したVの個数
C:−F−V−F−のように2つのFに結合したVの個数
(F:フルオロモノマー単位、V:ビニルアルコール単位)
A、B、CのV単位の数は、
1H−NMR測定のビニルアルコール単位(−CH
2−CH(OH)−)の3級炭素に結合する主鎖のHの強度比より算出する。
【0030】
上記交互率が90%以下であれば共重合体(A)の分子内に適度なビニルアルコールの連鎖を生じ、共重合体(A)の親水性が増して好ましい。
【0031】
他方、交互率が95%以上になると共重合体(A)の耐熱性が向上し好ましい。
なお、交互率の上限は、100%である。
【0032】
ビニルアルコール系重合体の製造方法としては、酢酸ビニルに代表されるビニルエステルモノマーを重合した後、得られた重合体をケン化する方法が一般的である。しかしながら、例えばフルオロモノマーと酢酸ビニルを共重合させると、酢酸ビニルの強いホモ重合性により酢酸ビニル同士が連鎖しやすく、交互率の高い共重合体が得られにくい。
【0033】
本発明者等は、後述するように重合条件を調整することによって、ビニルアルコール単位とフルオロモノマー単位との交互率が高い共重合体を得ることに成功した。そして、交互率が高い共重合体を親水化剤として用いると、フッ化ビニリデン系樹脂からなる高分子多孔質膜に、優れた親水性、透水性、機械的強度、化学的耐久性及び低ファウリング性を付与し、高分子多孔質膜から溶出しにくいことを見出し、本発明は完成したものである。本発明の組成物を使用することにより、製膜条件を制御することで、10nm程度の径の微粒子を分離する高分子多孔質膜から、ミクロンレベルの微粒子を分離する高分子多孔質膜まで、幅広く作製することが出来る。
【0034】
本発明の組成物において、フッ化ビニリデン系樹脂と共重合体(A)との質量比(フッ化ビニリデン系樹脂/共重合体(A))が70/30〜99/1であることが好ましい。共重合体(A)が少なすぎると、親水性が低下したり、透水量が低下したり、耐ファウリング性が悪化するおそれがあり、共重合体(A)が多すぎると、機械的強度が低下するおそれがある。共重合体(A)の質量比のより好ましい下限は95/5であり、更に好ましい下限は90/10である。一方、共重合体(A)の質量比のより好ましい上限は75/25である。
【0035】
共重合体(A)は、ビニルアルコール単位/フルオロモノマー単位がモル比で25〜75/75〜25であることが好ましい。ビニルアルコール単位とフルオロモノマー単位とのモル比が上記範囲外であると、交互率の高いビニルアルコール/フルオロモノマー共重合体が得られないおそれがある。ビニルアルコール単位が多すぎると、作製される多孔質膜を熱水と接触させた場合に溶出現象が生じることがあり、また充分な機械的強度が得られないおそれがある。ビニルアルコール単位が少なすぎると、親水性が低下し、充分な透水性と耐ファウリング性が得られないおそれがある。共重合体(A)は、ビニルアルコール単位/フルオロモノマー単位がモル比で33〜60/67〜40であることがより好ましく、38〜60/62〜40であることが更に好ましい。
【0036】
上記交互率を高くする観点からは、共重合体(A)は、実質的にビニルアルコール単位及びフルオロモノマー単位のみからなるビニルアルコール/フルオロモノマー共重合体であることが好ましい。
【0037】
フルオロモノマーとしては、テトラフルオロエチレン[TFE]、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]、クロロトリフルオロエチレン[CTFE]、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル、フルオロアルキルエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン及び一般式:CH
2=CFRf(式中、Rfは炭素数1〜12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表されるフルオロモノマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、TFE、CTFE、HFPからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、TFEであることが更に好ましい。
【0038】
共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、ビニルアルコール単位及びフルオロモノマー単位以外の他の単量体単位を有していてもよい。他の単量体単位としては、ビニルエステルモノマー単位、ビニルエーテルモノマー単位、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルモノマー単位、ポリエチレングリコールを側鎖に有するビニルモノマー単位、長鎖炭化水素基を有する(メタ)アクリルモノマー単位、長鎖炭化水素基を有するビニルモノマー単位等が挙げられる。他の単量体単位の合計は、0〜50モル%であることが好ましく、0〜40モル%であることがより好ましく、0〜30モル%であることが更に好ましい。
【0039】
共重合体(A)は、ビニルエステルモノマー単位を有していてもよい。共重合体(A)が酢酸ビニルのような特定のビニルエステルモノマー単位を有すると、ガラス転移温度が低下し、高分子多孔質膜としての靱性の向上が期待される。ビニルエステルモノマー単位を有する共重合体(A)は、ビニルエステルモノマー単位とフルオロモノマー単位とを有する共重合体をケン化して本発明の高分子多孔質膜を得る場合のケン化度を調整することにより製造できる。ケン化については後述する。
【0040】
共重合体(A)の重量平均分子量は、本発明の高分子多孔質膜の用途によって異なるが、機械的強度及び成膜性の観点からは、10000以上であることが好ましい。より好ましくは、30000〜2000000であり、更に好ましくは、50000〜1000000である。上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0041】
以下に共重合体(A)の製造方法について説明する。通常、共重合体(A)は、酢酸ビニル等のビニルエステルモノマーとフルオロモノマーとを共重合して、その後、得られた共重合体をケン化することにより得られる。共重合体(A)の交互率を20%以上とする観点からは、ビニルエステルモノマーとフルオロモノマーの組成比を、ほぼ一定に保つ条件下で重合を行うことが好ましい。すなわち、共重合体(A)は、ビニルエステルモノマーとフルオロモノマーの組成比を、ほぼ一定に保つ条件下で重合して、ビニルエステルモノマー単位とフルオロモノマー単位とを有する共重合体を得る工程、及び、得られた共重合体をケン化して、ビニルアルコール単位及びフルオロモノマー単位を有する共重合体を得る工程、からなる製造方法により得られたものであることが好ましい。
【0042】
ビニルエステルモノマーとフルオロモノマーとの重合は、一般的に、ビニルエステルモノマーの強いホモ重合性によりビニルエステルモノマー同士が連鎖しやすく、ビニルエステルモノマーとフルオロモノマーとの交互率が高くなりにくい。
【0043】
ビニルエステルモノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、バレリン酸ビニル、イソバレリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、へプチル酸ビニル、カプリル酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ペラルゴン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、ペンタデシル酸ビニル、パルチミン酸ビニル、マルガリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、ベオバ−9(昭和シェル石油(株)製)、ベオバ−10(昭和シェル石油(株)製)、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、中でも入手が容易で安価である点から、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ステアリン酸ビニルが好ましく用いられる。また、これらを混合して用いてもよい。
【0044】
ビニルエステルモノマーとフルオロモノマーとを共重合させる方法としては、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の重合方法を挙げることができ、工業的に実施が容易であることから乳化重合、溶液重合又は懸濁重合により製造することが好ましいが、この限りではない。
【0045】
乳化重合、溶液重合又は懸濁重合においては、重合開始剤、溶媒、連鎖移動剤、界面活性剤等を使用することができ、それぞれ従来公知のものを使用することができる。
【0046】
溶液重合において使用する溶媒は、フルオロモノマーとビニルエステルモノマー、及び、共重合体(A)を溶解するものが好ましく、例えば、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、tert−ブタノール、イソプロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;HCFC−225等の含フッ素溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、又はこれらの混合物等が挙げられる。
乳化重合において使用する溶媒としては、例えば、水、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0047】
上記重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート(NPP)等のパーオキシカーボネート類や、t−ブチルパーオキシピバレートなどに代表される油溶性ラジカル重合開始剤や、例えば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等の水溶性ラジカル重合開始剤等を使用できる。特に乳化重合においては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが好ましい。
【0048】
上記界面活性剤としては、公知の界面活性剤が使用でき、例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が使用できる。また、含フッ素系界面活性剤でもよい。
【0049】
上記連鎖移動剤としては、例えば、エタン、イソペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族類;アセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノール、エタノール等のアルコール類;メチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素等があげられる。添加量は用いる化合物の連鎖移動定数の大きさにより変わりうるが、通常重合溶媒に対して0.001〜10質量%の範囲で使用される。
【0050】
重合温度としては、ビニルエステルモノマーとフルオロモノマーの反応中の組成比がほぼ一定になる範囲であればよく、0〜100℃であってよい。
【0051】
重合圧力としては、ビニルエステルモノマーとフルオロモノマーの反応中の組成比がほぼ一定になる範囲であればよく、0〜10MPaGであってよい。
【0052】
酢酸ビニルに由来するアセテート基のケン化は従来よく知られており、アルコリシスや加水分解等の従来公知の方法によって行うことができる。このケン化によって、アセテート基(−OCOCH
3)は、水酸基(−OH)に変換される。他のビニルエステルモノマーにおいても同様に、従来公知の方法によってケン化され、水酸基を得ることができる。
【0053】
ビニルエステルモノマー単位とフルオロモノマー単位とを有する共重合体をケン化する場合のケン化度は、優れた透水性能及び耐アルカリ性を有する高分子多孔質膜が得られることから、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。
【0054】
ケン化度は共重合体(A)のIR測定又は
1H−NMR測定より、以下の式より算出される。
ケン化度(%)=D/(D+E)×100
D:共重合体(A)中のビニルアルコール単位数
E:共重合体(A)中のビニルエステルモノマー単位数
【0055】
本発明における共重合体(A)は、また、フルオロモノマーと、脱保護反応によりビニルアルコールに変換されうる保護基(R)を有するビニルエーテルモノマー(CH
2=CH−OR)(以下、単にビニルエーテルモノマーと記述する)とを共重合させてフルオロモノマー/ビニルエーテルモノマー共重合体を得る工程、上記フルオロモノマー/ビニルエーテルモノマー共重合体を脱保護することによりフルオロモノマー/ビニルアルコール共重合体を得る工程により、得ることができる。
【0056】
上記フルオロモノマーとビニルエーテルモノマーとを共重合させる方法、及び、上記フルオロモノマー/ビニルエーテルモノマー共重合体を脱保護する方法は、従来からよく知られており、従来公知の方法を本発明でも採用することができる。フルオロモノマー/ビニルエーテルモノマー共重合体を脱保護反応させることによって、例えば、保護基Rを含むアルコキシ基が水酸基に変換され、フルオロモノマー/ビニルアルコール共重合体が得られる。
【0057】
上記フルオロモノマーとビニルエーテルモノマーとを共重合させて得られるフルオロモノマー/ビニルエーテルモノマー共重合体は、フルオロモノマー単位とビニルエーテルモノマー単位とのモル比である(フルオロモノマー単位/ビニルエーテルモノマー単位)が(40〜60)/(60〜40)であることが好ましく、(45〜55)/(55〜45)であることがより好ましい。モル比が上記範囲内にあって、かつ、脱保護度が後述の範囲内にあることにより、各重合単位のモル比が上述した範囲にある共重合体(A)を製造することができる。
【0058】
上記フルオロモノマー/ビニルエーテルモノマー共重合体の脱保護は、脱保護度が1〜100%になるように行うことが好ましく、30〜100%になるように行うことがより好ましい。
【0059】
上記脱保護度は、
1H−NMRにより、脱保護前後での保護基(例えば(CH
3)3O−)由来のプロトンの積分値と、0.8〜1.8ppmの主鎖メチレン基(−CH
2−CH−)由来のプロトンの積分値を定量することにより測定できる。
【0060】
上記ビニルエーテルモノマーは、フッ素原子を含まないことが好ましい。当該ビニルエーテルモノマーとしては、脱保護されるものであれば特に制限はないが、入手の容易さから、ターシャルブチルビニルエーテルが好ましい。
【0061】
上記フルオロモノマーとビニルエーテルモノマーとを共重合させる方法としては、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の重合方法を挙げることができ、工業的に実施が容易であることから乳化重合、溶液重合又は懸濁重合により製造することが好ましいが、この限りではない。
【0062】
上記乳化重合、溶液重合又は懸濁重合においては、重合開始剤、溶媒、連鎖移動剤、界面活性剤等を使用することができ、それぞれ通常用いられるものを使用することができる。
【0063】
上記溶液重合において使用する溶媒は、含フッ素オレフィンとビニルエーテル単量体、及び、合成される含フッ素共重合体を溶解することができるものが好ましく、例えば、酢酸n−ブチル、酢酸t−ブチル、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、tert−ブタノール、イソプロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;HCFC−225等の含フッ素溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、又はこれらの混合物等が挙げられる。
乳化重合において使用する溶媒としては、例えば、水、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0064】
上記重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート(NPP)等のパーオキシカーボネート類に代表される油溶性ラジカル重合開始剤や、例えば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等の水溶性ラジカル重合開始剤等を使用できる。特に乳化重合においては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが好ましい。
【0065】
上記界面活性剤としては、通常用いられる界面活性剤が使用でき、例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が使用できる。また、含フッ素系界面活性剤を用いてもよい。
【0066】
上記連鎖移動剤としては、例えば、エタン、イソペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族類;アセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノール、エタノール等のアルコール類;メチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
上記連鎖移動剤の添加量は用いる化合物の連鎖移動定数の大きさにより変わりうるが、通常重合溶媒に対して0.001〜10質量%の範囲で使用される。
【0067】
重合温度としては、フルオロモノマーとビニルエーテルモノマーの反応中の組成比がほぼ一定になる範囲であればよく、0〜100℃であってよい。
【0068】
重合圧力としては、フルオロモノマーとビニルエーテルモノマーの反応中の組成比がほぼ一定になる範囲であればよく、0〜10MPaGであってよい。
【0069】
上記ビニルエーテルモノマーの脱保護は、酸、熱、光等の従来公知の方法によって行うことができる。この脱保護によって、脱離基(例えば、−C(CH
3)
3)は、水素に置換され、水酸基を得ることができる。
【0070】
上記フルオロモノマー単位とビニルエーテルモノマー単位とを有する共重合体を脱保護して本発明における共重合体(A)を得る場合の脱保護度は、本発明における共重合体(A)の各モノマー単位の含有率が上述した範囲となるような範囲であればよく、具体的には50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。
【0071】
上記脱保護度は、含フッ素共重合体のIR測定又は前述の
1H−NMR測定により、以下の式から算出される。
脱保護度(%)=D/(D+E)×100
D:共重合体(A)中のビニルアルコール単位数
E:共重合体(A)中のビニルエーテルモノマー単位数
【0072】
フッ化ビニリデン系樹脂は、ポリフッ化ビニリデン、又は、フッ化ビニリデン単位を有する共重合体からなる樹脂である。
【0073】
ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量は、高分子多孔質膜の機械的強度及び加工性の観点から、30000〜2000000であることが好ましく、50000〜1000000であることがより好ましい。
【0074】
フッ化ビニリデン単位を有する共重合体としては、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。機械的強度及び耐アルカリ性の観点から、フッ化ビニリデン単位を有する共重合体は、特にフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体であることが好ましい。
【0075】
成膜性及び耐アルカリ性の観点から、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体は、フッ化ビニリデン単位及びテトラフルオロエチレン単位のモル比(フッ化ビニリデン単位/テトラフルオロエチレン単位)が50〜99/50〜1であることが好ましい。このようなポリマーとしては、例えば、ダイキン工業(株)製のネオフロンVT50、VP50、VT100、VP100、VP101、VP100X等が挙げられる。フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体は、フッ化ビニリデン単位/テトラフルオロエチレン単位がモル比で50〜95/50〜5であることがより好ましく、50〜90/50〜10であることが更に好ましい。また、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体は、フッ化ビニリデン単位及びテトラフルオロエチレン単位のみからなるフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体の他に、フッ化ビニリデン単位及びテトラフルオロエチレン単位に加えて、特性を損なわない範囲でヘキサフルオロプロピレン単位、クロロトリフルオロエチレン単位、パーフルオロビニルエーテル単位等を有する三元以上の共重合体でもよい。
【0076】
フッ化ビニリデン単位を有する共重合体の重量平均分子量は、高分子多孔質膜の用途によって異なるが、機械的強度及び成膜性の観点からは、10000以上であることが好ましい。より好ましくは、30000〜2000000であり、更に好ましくは、50000〜1000000であり、特に好ましくは、100000〜800000である。上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0077】
本発明の組成物は、ポリマーとしてフッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)のみを含むものであってもよいし、ポリマーとしてフッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)とこれら以外の樹脂とを含むものであってもよい。
【0078】
フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)以外の樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、及びこれらの混合物や共重合体が挙げられる。これらと混和可能な他の樹脂を混和してもよい。
【0079】
フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)以外の樹脂としては、なかでも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、及び、アクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0080】
ポリエチレン系樹脂は、エチレンホモポリマー又はエチレン共重合体からなる樹脂である。ポリエチレン系樹脂は、複数の種類のエチレン共重合体からなるものでもよい。エチレン共重合体としては、プロピレン、ブテン、ペンテン等の直鎖状不飽和炭化水素から選ばれた1種以上とエチレンとの共重合体が挙げられる。
【0081】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンホモポリマー又はプロピレン共重合体からなる樹脂である。ポリプロピレン系樹脂は、複数の種類のプロピレン共重合体からなるものでもよい。プロピレン共重合体としては、エチレン、ブテン、ペンテン等の直鎖状不飽和炭化水素から選ばれた1種類以上とプロピレンとの共重合体が挙げられる。
【0082】
アクリル樹脂は、主としてアクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体、たとえばアクリルアミド、アクリロニトリル等の重合体を包含する高分子化合物である。特にアクリル酸エステル樹脂やメタクリル酸エステル樹脂が好ましい。
【0083】
フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)以外の樹脂としては、なかでも、アクリル樹脂が最も好ましい。
【0084】
フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)以外の樹脂の種類及び量を調整することにより、得られる高分子多孔質膜の膜強度、透水性能、阻止性能等を調整することができる。
【0085】
本発明の組成物は、親水化の観点や、相分離制御の観点、機械的強度向上の観点から、更に、ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリエチレングリコール、モンモリロナイト、SiO
2、TiO
2、CaCO
3、ポリテトラフルオロエチレン等の添加剤を含んでいてもよい。
【0086】
本発明の組成物は、溶媒を含むものであってもよい。溶媒としては、シクロヘキサノン、イソホロン、γーブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、脂肪族多価アルコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート等の中鎖長のアルキルケトン、エステル、グリコールエステル、有機カーボネート、HFC−365、HCFC−225等の含フッ素溶媒、ジフェニルカーボネート、メチルベンゾエート、ジエチレングリコールエチルアセテート、ベンゾフェノン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等が挙げられる。
【0087】
本発明の組成物は、非溶媒を含むものであってもよい。非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン、トリクロロエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、メタノール、エタノール、プロパノール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、又はその他の塩素化有機液体及びその混合溶媒等が挙げられる。
【0088】
本発明の組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂、共重合体(A)及び良溶媒を含むものが好ましい。良溶媒としては、HCFC−225等の含フッ素溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0089】
本発明の組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を組成物の5〜60質量%含むことが好ましい。より好ましい下限は10質量%であり、より好ましい上限は50質量%である。
【0090】
本発明の組成物は、高分子多孔質膜用組成物として有用である。また、高分子多孔質膜を製造するための本発明の組成物の使用も本発明の一つである。
【0091】
本発明は、上記組成物からなる高分子多孔質膜でもある。
【0092】
本発明の高分子多孔質膜は、孔径が2nm〜2.0μmであることが好ましく、5nm〜0.5μmであることがより好ましい。孔径が小さすぎると、気体や液体の透過率が不充分になるおそれがあり、孔径が大きすぎると、阻止性能の低下や、機械的強度が低下して破損しやすくなるおそれがある。
【0093】
孔径は、細孔が明瞭に確認できる倍率で、SEM等を用いて高分子多孔質膜の表面の写真を撮り、細孔の直径を測定する。楕円形状の孔である場合、細孔の直径は、短径をa、長径をbとすると、(a×b)×0.5で求めることができる。また、微粒子阻止率から大まかな孔径を求めることが出来る。つまり、例えば50nmのポリスチレン微粒子等を95%以上阻止する多孔質膜は、50nm以下の孔径を有すると考えられる。
【0094】
本発明の高分子多孔質膜は、例えば、50nmの微粒子を95%以上阻止する性能を有する場合、純水透過係数が1.5×
10−10m
3/m
2/s/Pa以上であることが好ましく、3.0×10
−10m
3/m
2/s/Pa以上であることがより好ましい。純水透過係数の上限は特に限定されないが、目的の阻止率及び強度を保持する範囲で、高い値であればあるほど望ましい。
【0095】
純水透過係数は、温度25℃でイオン交換水を、必要に応じてポンプ又は窒素圧で0.01MPa以上に加圧し、作製した中空糸膜又は平膜でろ過することにより求めることができる。具体的には、下記式から求められる。
純水透過係数〔m
3/m
2/s/Pa〕=(透過水量)/(膜面積)/(透過時間)/(評価圧力)
【0096】
本発明の高分子多孔質膜は、100nm又は50nmの微粒子阻止率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは、95%以上である。
【0097】
微粒子阻止率は、粒径が制御されたポリスチレンラテックス微粒子をイオン交換水にて100ppm程度に希釈した分散溶液を評価原液としてろ過し、次式にて求められる。
微粒子阻止率(%)=((評価原液吸光度)−(透過液吸光度))/(評価原液吸光度)×100
【0098】
本発明の高分子多孔質膜は親水性にも優れる。親水性の評価は水中接触角で評価できる。水中接触角は水中での濡れ性の指標である。本発明の高分子多孔質膜は、水中接触角が大きく、水中で利用する多孔質膜として好適に利用できる。本発明の高分子多孔質膜は、水中接触角が60°以下であることが好ましい。より好ましくは55°以下であり、更に好ましくは50°以下である。フッ化ビニリデン系樹脂からなる多孔質膜は通常70°前後の水中接触角を示し、疎水性が高く、これが理由でファウリングしやすいと推測される。
【0099】
本発明の高分子多孔質膜は、機械的強度の観点から、最大点破断強度が1.0MPa以上であることが好ましく、2.0MPa以上であることがより好ましい。
最大点破断強度は、チャック間距離50mm、引張速度200mm/分の条件下で試験片の破断強度を測定し、引張試験前の断面積を単位測定面積として求めることができる。また、チャック間距離25mm、引張速度50mm/分の条件下で試験片の破断強度を測定し、引張試験前の断面積を単位測定面積としても求めることができる。なお、試験片を引っ張る向きは中空糸膜の場合は押出方向で、平膜の場合はキャストの方向である。
【0100】
本発明の高分子多孔質膜は、靭性の観点から、最大点伸度が90%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましい。
最大点伸度は、チャック間距離50mm、引張速度200mm/分の条件下で試験片の破断強度を測定し、チャック間距離50mmを基準にして最大点の伸び率より求められる。また、チャック間距離25mm、引張速度50mm/分の条件下で試験片の破断強度を測定し、チャック間距離25mmを基準にして最大点の伸び率からも求められる。なお、試験片を引っ張る向きは中空糸膜の場合は押出方向で、平膜の場合はキャストの方向である。
【0101】
本発明の高分子多孔質膜の構造は特に限定されない。例えば、固形分が三次元的に網目状に広がっている三次元網目状構造、多数の球状若しくは球状に近い形状の固形分が、直接若しくは筋状の固形分を介して連結している球状構造等であってもよい。また、これらの両方の構造を有していてもよい。
【0102】
本発明の高分子多孔質膜の形状は、平膜形状又は中空糸膜形状であることが好ましい。
【0103】
平膜形状の場合、本発明の高分子多孔質膜は、共重合体(A)からなるフルオロポリマー層及び多孔質基材からなる複合膜でもよい。複合膜の場合、多孔質基材表面に共重合体(A)からなるフルオロポリマー層が被覆されているものであってもよいし、多孔質基材と共重合体(A)からなるフルオロポリマー層とが積層されているものであってもよい。また、多孔質基材、フルオロポリマー層、及び、共重合体(A)以外の樹脂からなる樹脂層とからなる複合膜であってもよい。上記樹脂層を形成する樹脂としては、上述した熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0104】
多孔質基材としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、綿、絹等の有機繊維からなる織物、編物又は不織布が挙げられる。また、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維からなる織物、編物又は不織布も挙げられる。伸縮性、コストの観点からは、有機繊維からなる多孔質基材が好ましい。
【0105】
多孔質基材の表面の孔径は、用途によって自由に選択できるが、好ましくは5nm〜100μm、より好ましくは8nm〜10μmである。
【0106】
平膜形状の場合、高分子多孔質膜の厚みは、10μm〜2mmであることが好ましく、30μm〜500μmであることがより好ましい。上記の多孔質基材を用いた複合膜である場合においても高分子多孔質膜の厚みは上述の範囲内にあることが好ましい。
【0107】
本発明の高分子多孔質膜は、単位面積、単位体積当たりの処理水量の観点から、中空糸膜形状であることがより好ましい。
【0108】
中空糸膜形状の場合、中空糸膜の内径は100μm〜10mmが好ましく、150μm〜8mmがより好ましい。中空糸膜の外径は120μm〜15mmが好ましく、200μm〜12mmがより好ましい。
【0109】
中空糸膜形状の場合、高分子多孔質膜の膜厚は、20μm〜3mmが好ましく、50μm〜2mmがより好ましい。また、中空糸膜の内外表面の孔径は、用途によって自由に選択できるが、好ましくは2nm〜2.0μm、より好ましくは5nm〜0.5μmの範囲である。
【0110】
本発明の高分子多孔質膜は、XPS(X線光電子分光法)で測定される膜表面のフッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)の合計質量に対する共重合体(A)の割合が、膜全体のフッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)の合計質量に対する共重合体(A)の割合よりも10質量%以上高いことが好ましい。すなわち、本発明の高分子多孔質膜は、共重合体(A)が膜表面に偏析していることが好ましい。この数値を表面移行性とよぶ。該表面移行性は20%以上であることがより好ましく、更に好ましくは30%以上である。上限は特に設けない。
【0111】
本発明の高分子多孔質膜は、種々の方法により製造することができる。例えば、相分離法、溶融抽出法、蒸気凝固法、延伸法、エッチング法、高分子シートを焼結することにより多孔質膜とする方法、気泡入りの高分子シートを圧潰することにより多孔質膜を得る方法、エレクトロスピニングを用いる方法等が挙げられる。
【0112】
溶融抽出法は、混合物に無機微粒子と有機液状体を溶融混練し、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)の融点以上の温度で口金から押出したり、プレス機等により成形した後、冷却固化し、その後有機液状体と無機微粒子を抽出することにより多孔構造を形成する方法である。
【0113】
蒸気凝固法は、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を良溶媒に溶解した組成物からなる薄膜状物の少なくとも一方の表面に、上記良溶媒と相溶性がありフッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を溶解しない非溶媒及び/又は貧溶媒の飽和蒸気又はミストを含む蒸気を強制的に供給する方法である。
【0114】
本発明の高分子多孔質膜の製造方法は、細孔サイズの制御が容易であることから相分離法が好ましい。相分離法としては、例えば、熱誘起相分離法(TIPS)、非溶媒誘起相分離法(NIPS)等が挙げられる。
【0115】
熱誘起相分離法を用いる場合、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を貧溶媒又は良溶媒である溶媒に、比較的高い温度で溶解させて組成物を得る工程、及び、該組成物を冷却固化する工程からなる製造方法により本発明の高分子多孔質膜は製造することができる。
【0116】
フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)が溶媒に溶解した組成物は、クラウドポイント(曇点)と呼ばれる温度よりも高い温度に維持されている場合は均一な1相の液体となるが、クラウドポイント以下では相分離が起こり、ポリマー濃厚相と溶媒濃厚相の2相に分離し、さらに結晶化温度以下になるとポリマーマトリックスが固定化され、多孔質膜が形成する。
【0117】
熱誘起相分離法を用いる場合、上記組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)がフッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)と溶媒との合計に対して10〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは15〜50質量%である。
【0118】
フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)の濃度を適正な範囲に調整することにより、組成物の粘度を適切な範囲に調整することができる。組成物の粘度が適切な範囲になければ、高分子多孔質膜に成形することができないおそれがある。
【0119】
上記貧溶媒は、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を60℃未満の温度では5質量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつ樹脂の融点以下では5質量%以上溶解させることができる溶媒のことである。貧溶媒に対し、60℃未満の温度でも樹脂を5質量%以上溶解させることができる溶媒を良溶媒という。樹脂の融点又は液体の沸点まで、樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒を非溶媒という。
【0120】
貧溶媒としては、シクロヘキサノン、イソホロン、γーブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、脂肪族多価アルコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート等の中鎖長のアルキルケトン、エステル、グリコールエステル及び有機カーボネート等、並びに、その混合溶媒が挙げられる。HFC−365等の含フッ素溶媒、ジフェニルカーボネート、メチルベンゾエート、ジエチレングリコールエチルアセテート、ベンゾフェノン等も挙げられる。なお、非溶媒と貧溶媒の混合溶媒であっても、上記貧溶媒の定義を満たす溶媒は、貧溶媒である。
熱誘起相分離法を用いる場合、組成物の溶媒としては貧溶媒が好ましいが、この限りではなく、フルオロポリマーの相分離挙動の検討から良溶媒を用いる場合もある。
【0121】
良溶媒としては、HCFC−225等の含フッ素溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0122】
非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン、トリクロロエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、メタノール、エタノール、プロパノール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、又はその他の塩素化有機液体及びその混合溶媒等が挙げられる。
【0123】
熱誘起相分離法を用いる場合、組成物を得る工程は、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を貧溶媒又は良溶媒である溶媒に20〜270℃で溶解させるものであることが好ましい。溶解させる温度は30〜250℃であることが好ましい。比較的高温で溶解させた場合には、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)の濃度を高くすることができ、これにより、高い機械的強度を有する高分子多孔質膜を得ることができる。フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)の濃度が高すぎると、得られる高分子多孔質膜の空隙率が小さくなり、透水性能が低下するおそれがある。また、調製した組成物の粘度が適正範囲に無ければ、多孔質膜に成形することができないおそれがある。
【0124】
組成物を冷却固化する方法としては、例えば、上記組成物を、口金から冷却浴中に吐出する方法が好ましい。高分子多孔質膜が平膜の場合、キャストして、冷却浴に浸漬させる方法も好ましい方法として挙げられる。
【0125】
冷却浴として用いることができる冷却液体は、組成物よりも温度が低いものであり、例えば、温度が0〜80℃であり、濃度が60〜100質量%の貧溶媒又は良溶媒である溶媒を含有する液体を用いることができる。また、冷却液体には、非溶媒や、貧溶媒や良溶媒を含有する非溶媒を用いてもよい。
【0126】
本発明の高分子多孔質膜の製造方法においては、組成物の濃度、フルオロポリマーを溶解する溶媒の組成、冷却浴を構成する冷却液体の組成が重要である。これらの組成を調整することによって、高分子多孔質膜の多孔質構造を制御することができる。
【0127】
例えば、高分子多孔質膜の片面と他方の面とで、組成物の組成や冷却液体の組成の組み合わせを変更することによって、高分子多孔質膜の片面の構造と、他方の面の構造とを異なるものにすることもできる。
【0128】
本発明の高分子多孔質膜を非溶媒誘起相分離法により製造する場合、例えば、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を溶媒に溶解して組成物を得る工程、得られた組成物を、口金から非溶媒を含む凝固浴中に吐出する工程からなる製造方法により高分子多孔質膜を得ることが好ましい。
【0129】
上記組成物を、非溶媒を含む凝固浴中に浸漬することにより、該組成物と凝固浴中の溶媒と非溶媒の濃度勾配を駆動力として、非溶媒誘起型の相分離を生じせしめることができる。この方法によれば、最初に溶媒と非溶媒の置換により相分離が起こる外表面において緻密なスキン層が形成し、膜内部方向に向かって相分離現象が進んでいく。その結果、スキン層に続いて膜内部方向に向かって連続的に孔径が大きくなる非対称膜を製造することもできる。
【0130】
非溶媒誘起相分離法を用いる場合、上記組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂、共重合体(A)及び溶媒からなることが好ましい。上記組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂、共重合体(A)及び溶媒に加えて、更に、非溶媒からなることも好ましい形態の一つである。
【0131】
組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂、共重合体(A)、溶媒及び非溶媒の合計(組成物が非溶媒を含まない場合には、フッ化ビニリデン系樹脂、共重合体(A)及び溶媒の合計)に対して、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)が5〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは、10〜50質量%である。
組成物は、フッ化ビニリデン系樹脂、共重合体(A)、溶媒及び非溶媒の合計に対して、非溶媒が0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜8質量%である。
フルオロポリマー濃度を適正な範囲に調整することにより、組成物の粘度を適切な範囲に調整することができる。組成物の粘度が適切な範囲になければ、高分子多孔質膜に成形することができないおそれがある。
【0132】
組成物は、常温であってもよいし、加熱されたものでもよい。例えば、10〜75℃が好ましい。
【0133】
非溶媒誘起相分離法において、上記溶媒としては、熱誘起相分離法で例示した溶媒を用いることができる。上記溶媒は、貧溶媒であっても良溶媒であってもよいが、良溶媒が好ましい。
上記非溶媒としては、熱誘起相分離法で例示した非溶媒を使用することができる。
【0134】
上記凝固浴として用いることができる凝固液体として、非溶媒を含有する液体を用いて固化させることが好ましく、貧溶媒、良溶媒を含有していてもよい。上記非溶媒としては、熱誘起相分離法で例示した非溶媒を用いることができる。例えば、水を好適に用いることができる。
【0135】
本発明の高分子多孔質膜を製造する場合、上記熱誘起相分離法と非溶媒誘起相分離法とを併用してもよい。
【0136】
非溶媒誘起相分離法及び熱誘起相分離法では、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)を溶媒に溶解した組成物を口金から吐出した後、固化させることで多孔質膜を得ることができる。上記口金としては、例えば、スリット口金、二重管式口金、三重管式口金等が用いられる。
【0137】
高分子多孔質膜の形状を中空糸膜とする場合、上記口金としては、中空糸膜紡糸用の二重管式口金、三重管式口金等が好ましく用いられる。
【0138】
二重管式口金を用いる場合、二重管式口金の外側の管から組成物を吐出し、イオン交換水等の中空部形成流体を内側の管から吐出しながら凝固浴又は冷却浴中で固化することで、中空糸膜とすることができる。
【0139】
中空部形成流体には、通常、気体もしくは液体を用いることができる。熱誘起相分離法では、冷却液体と同様の、濃度が60〜100%の貧溶媒若しくは良溶媒を含有する液体が好ましく採用できるが、非溶媒や、貧溶媒や良溶媒を含有する非溶媒を用いてもよい。非溶媒誘起相分離法では、上記中空部形成流体としては、上述した非溶媒を用いることが好ましく、例えば、イオン交換水等の水が好ましい。また、上述した非溶媒は、貧溶媒、良溶媒を含有していてもよい。
【0140】
熱誘起相分離法を用いる場合は、上記中空部形成流体としては、上述した溶媒を用いることが好ましく、例えば、グリセロールトリアセテート等の貧溶媒が好ましい。また、熱誘起相分離法を用いる場合は、窒素ガスを用いることもできる。
【0141】
中空部形成流体と冷却液体又は凝固液体の組成を変えることにより、二種の構造を有する中空糸膜を形成することもできる。中空部形成流体は、冷却して供給してもよいが、冷却浴の冷却力のみで中空糸膜を固化するのに十分な場合は、中空部形成流体は冷却せずに供給してもよい。
【0142】
三重管式口金は、2種の樹脂溶液を用いる場合に好適である。例えば、三重管式口金の外側の管と中間の管から2種の組成物を吐出し、中空部形成液体を内側の管から吐出しながら凝固浴又は冷却浴中で固化することで、中空糸膜とすることができる。また、三重管式口金の外側の管から組成物を吐出し、中間の管からフッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)以外の樹脂からなる樹脂溶液を吐出し、中空部形成流体を内側の管から吐出しながら凝固浴又は冷却浴中で固化することで、中空糸膜とすることができる。
フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)以外の樹脂としては上述したものが挙げられる。中でも、上述した熱可塑性樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。
【0143】
上記のように、二重管式口金や三重管式口金を用いた製造方法で中空糸膜を製造した場合、凝固液体又は冷却液体の量を、平膜を製造した場合よりも少なくすることができる点で好ましい。
【0144】
本発明の高分子多孔質膜の形状が中空糸膜の場合、上記の方法で得られた中空糸膜の外表面又は内表面に、更に、フルオロポリマー層又はフッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)以外の樹脂からなる樹脂層を形成してもよい。
【0145】
フルオロポリマー層又は樹脂層は、中空糸膜の外表面又は内表面に組成物又は樹脂溶液を塗布することで形成することができる。中空糸膜の外表面に組成物又は樹脂溶液を塗布する方法としては、中空糸膜を組成物又は樹脂溶液に浸潰したり、中空糸膜に組成物又は樹脂溶液を滴下したりする方法等が好ましく用いられる。中空糸膜の内表面に組成物又は樹脂溶液を塗布する方法としては、組成物又は樹脂溶液を中空糸膜内部に注入する方法等が好ましく用いられる。
組成物又は樹脂溶液の塗布量を制御する方法としては、組成物又は樹脂溶液の塗布量自体を制御する方法の他に、多孔質膜を組成物又は樹脂溶液に浸漬したり、多孔質膜に組成物又は樹脂溶液を塗布した後に、組成物又は樹脂溶液の一部をかき取ったり、エアナイフを用いて吹き飛ばす方法や、塗布の際の濃度を調整する方法も好ましく用いられる。
【0146】
本発明の高分子多孔質膜の形状を平膜とする場合、組成物をキャストして、冷却浴又は凝固浴に浸漬させることによって製造することができる。また、スリット口金を用いて、冷却浴又は凝固浴に組成物を吐出することでも製造することができる。
【0147】
本発明の高分子多孔質膜が多孔質基材からなる複合膜である場合、多孔質基材を組成物に浸漬する方法、多孔質基材の少なくとも片面に組成物を塗布する方法等により本発明の高分子多孔質膜を得ることもできる。
【0148】
上述した製造方法により、優れた透水性を有する高分子多孔質膜を得ることができるが、透水性能が十分でない場合には、上記製造方法で得られた多孔質膜を更に延伸して本発明の高分子多孔質膜としてもよい。
【0149】
本発明の高分子多孔質膜の孔径を制御する方法としては、例えば、組成物に孔径を制御するための添加剤を入れ、フッ化ビニリデン系樹脂及び共重合体(A)による多孔質構造を形成する際、又は多孔質構造を形成した後に、添加剤を溶出させることにより高分子多孔質膜の孔径を制御することができる。また、添加剤は多孔質膜内に留まらせてもよい。
【0150】
非溶媒誘起相分離法及び熱誘起相分離法のいずれにおいても、組成物は添加剤を含んでいてもよい。多孔質構造を形成した後、添加剤を溶出させることにより、高分子多孔質膜の孔径を制御することができる。添加剤は、必要に応じて多孔質膜内に留まらせてもよい。
【0151】
添加剤としては、有機化合物及び無機化合物を挙げることができる。有機化合物としては、組成物を構成する溶媒に溶解するもの、又は、均一に分散するものであることが好ましい。更に、非溶媒誘起相分離法では凝固液体に含まれる非溶媒、熱誘起相分離法では冷却液体に含まれる溶媒に溶解するものが好ましい。
【0152】
例えば、有機化合物としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、
デキストラン等の水溶性ポリマー、Tween40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート)等の界面活性剤、グリセリン、糖類等を挙げることができる。
【0153】
無機化合物としては、水溶性化合物が好ましく用いられる。例えば、塩化カルシウム、塩化リチウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。
【0154】
添加剤を用いずに、凝固液における非溶媒の種類、濃度及び温度によって相分離速度をコントロールすることによって表面の平均孔径を制御することも可能である。一般的には、相分離速度が速いと表面の平均孔径が小さく、遅いと大きくなる。また、組成物に非溶媒を添加することも、相分離速度制御に有効である。
【0155】
組成物は、親水化の観点や、相分離制御の観点、機械的強度向上の観点から、更に、ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸メチル樹脂、モンモリロナイト、SiO
2、TiO
2、CaCO
3、ポリテトラフルオロエチレン等の添加剤を含んでいてもよい。
【0156】
本発明の高分子多孔質膜は、透水性向上の観点から、アルカリで処理を行ってもよい。アルカリとは、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液、アンモニア水、アミン溶液等である。これらは、エタノール、メタノール等のアルコールや有機溶剤を含んでいてもよい。特にアルカリがアルコールを含むことが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0157】
本発明の高分子多孔質膜は、飲料水製造、浄水処理、排水処理等の水処理に用いられる精密濾過膜又は限外濾過膜として好適である。本発明の高分子多孔質膜は、透過性が高く、耐薬品性に優れるため、水処理用の高分子多孔質膜であることが好ましい。
【0158】
また、本発明の高分子多孔質膜は、医療分野、食品分野、電池分野等においても好適に用いられる。
【0159】
医療分野においては、血液浄化、特に、腎機能を代用するための血液透析、血液濾過、血液濾過透析等の体外循環による血中老廃物の除去を目的とした血液浄化用膜として本発明の高分子多孔質膜を用いることができる。
【0160】
食品分野においては、発酵に用いた酵母の分離除去や、液体の濃縮を目的として本発明の高分子多孔質膜を用いることができる。
【0161】
電池分野においては、電解液は透過できるが、電池反応で生じる生成物は透過できないようにするための電池用セパレーター、又は、高分子固体電解質の基材として本発明の高分子多孔質膜を用いることができる。
【0162】
本発明は、ビニルアルコール単位及びフルオロモノマー単位を有する共重合体(A)からなることを特徴とする、フッ化ビニリデン系樹脂からなる多孔質膜の親水化剤でもある。
【0163】
本発明の親水化剤は、フッ化ビニリデン系樹脂に対して、1〜30質量%となるように添加して組成物とすることができる。より好ましい下限は5質量%であり、更に好ましい下限は10質量%であり、より好ましい上限は25質量%である。
得られる組成物からは、上述した方法により高分子多孔質膜を作製することができる。好適な共重合体(A)の種類、組成、交互率等、好適なフッ化ビニリデン系樹脂の種類、組成等は、上述したとおりである。
【実施例】
【0164】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0165】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。また、以下の実施例では、XPS(X線光電子分光法)、NMR(核磁気共鳴法)による測定を下記の測定条件で行った。
【0166】
〔XPS(X線光電子分光法)による表面移行性〕
本発明の組成物を多孔質膜状に成形し、得られた成形物の表面をXPS(X線光電子分光法)により下記の方法で測定した。
測定には、ESCA3400(SHIMADZU社製)を用いた。線源にMgKα線(1253.6eV)を使用し、測定領域直径約3mm、検出深さ約7nm(光電子取出角:90°)の条件下で測定を行った。
【0167】
なお、製膜に使用したDMAC等の試薬の影響を取り除くため、以下の方法で評価した。
リファレンスとしてフッ化ビニリデン系樹脂のみからなる多孔質膜を作製し、得られた成形物の表面をXPSにより測定されたO原子の数、N原子の数をそれぞれ、On、Nnとし、補正係数α=On/Nnと定義する。
次に、本発明のフッ化ビニリデン系樹脂と共重合体(A)からなる多孔質膜を作製し、得られた成形物の表面をXPSにより測定されたO原子の数、N原子の数、F原子の数をそれぞれ、Ox、Nx、Fxとする。リファレンスの結果から計算した補正係数を用いてO原子の数の補正を以下の式でおこなった。
Oh=Ox−α×Nx
この補正後のOhの値を用いてL=O/Fを計算する。O/Fから共重合体(A)の組成を下式で計算した。
フッ化ビニリデン系樹脂のフッ素含有率をFVF(wt%)、共重合体(A)のフッ素含有率をAF(wt%)、共重合体(A)の酸素含有率をAO(wt%)としたときに、
共重合体(A)の組成(Aesca)=L・FVF/(AO−L・(AF−FVF))
ただし、L= (Oh×15.999) / (Fx×18.998)
【0168】
表面移行性の評価基準は以下の通りである。
〔評価基準〕
膜全体のフッ化ビニリデン系樹脂と共重合体(A)の組成比を元素分析で算出した。(Agenso)
表面移行性 = (Aesca − Agenso) / Agenso × 100
により求められる表面移行性が10%以上の場合は、表面移行性は○、5%以上10%未満の場合は、表面移行性は△、5%未満の場合は、表面移行性は×とした。
【0169】
〔NMR(核磁気共鳴法)によるフルオロポリマーの組成、および交互率の測定〕
1H−NMR(核磁気共鳴法)測定には、JNM−EX270(JEOL社製:270MHz)を用いた。溶媒は重アセトンを用いた。
【0170】
〔浸透ぬれ張力〕
水とエタノールを比率を変えて混合し、表面張力の異なる水溶液を用意した。エタノール濃度と表面張力の関係は化学工学便覧(丸善株式会社、改訂第5版)の記載を参照した。温度25℃、相対湿度50%の雰囲気中でこの水溶液に、膜形状が中空糸の場合には、長さ5mmに裁断した試料を、平膜の場合には5mm四方に裁断した試料を静かに浮かべ、多孔質膜が1分以内に水面から下に100mm以上沈むことのできる水溶液の表面張力の最大値をその多孔質膜の浸透ぬれ張力(以降、表面ぬれ張力ともいう。)とした。
【0171】
〔ぬれ性〕
水70%、エタノール30%の混合液(表面張力:25.0mN/m)を用意し、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気中でこの水溶液に、膜形状が中空糸の場合には、長さ5mmに裁断した試料を、平膜の場合には5mm四方に裁断した試料を静かに浮かべ、多孔質膜が1分以内に水面から下に100mm 以上沈むことのできた場合を○、全く沈まなかった場合を×、中間の状態を△とした。
【0172】
〔純水透過係数〕
純水透過係数は、温度25℃で、イオン交換水を窒素で0.01MPa以上に加圧し、作製した中空糸膜でろ過することで求めた。
純水透過係数〔m
3/m
2/s/Pa〕=(透過水量)/(膜面積)/(透過時間)/(評価圧力)
【0173】
〔微粒子阻止率〕
微粒子阻止率は、粒径が制御されたポリスチレンラテックス微粒子(100nm)をイオン交換水にて100ppm程度に希釈した分散溶液を評価原液としてろ過し、次式にて求めた。
微粒子阻止率〔%〕=((評価原液吸光度)−(透過液吸光度))/(評価原液吸光度)×100
【0174】
〔最大点破断強度〕
最大点破断強度は、チャック間距離25mm、引張速度50mm/分の条件下で試験片の破断強度を測定し、引張試験前の断面積を単位測定面積として求めた。
【0175】
〔耐薬品性〕
1重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に室温にて平膜を1週間浸漬し、浸透ぬれ張力を測定した。
【0176】
〔耐ファウリング性〕
50ppmのフミン酸水溶液を作製し、外圧式クロスフロー方式にて、流量1L/時、圧力0.05MPaにて2時間透過させた後の50ppmのフミン酸水溶液の透過率の値と初期の純水透過率の値の比較をおこなった。フミン酸は、和光純薬工業(株)製のフミン酸を用いた。
【0177】
〔分子量及び分子量分布〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、東ソー(株)製のGPC HLC−8020を用い、Shodex社製のカラム(GPC KF−801を1本、GPC KF−802を1本、GPC KF−806Mを2本直列に接続)を使用し、溶媒としてテトラハイドロフラン(THF)を流速1ml/分で流して測定したデータより、平均分子量を算出した。
また、THFにサンプルが溶解しない場合は、以下の方法にて平均分子量を算出した。日本分光社製の高速液体クロマトグラフを用い、分析カラムセットは、ガードカラム(Shodex GPC KD−G [4.6mm I.D.× 10mm L])1本、分析カラム(KD−806M [8.0mm I.D.× 300mm L] 3本を使用した。移動溶媒に10mM LiBrを含むN−メチル−2−ピロリドンを、検出器にはRI、検量線サンプルはポリスチレン標準サンプルを使用し、流速1ml/分、サンプル打込量200μLで測定を行った。データ解析にはデータステーション(ChromNAV)を使用した。
【0178】
〔ガラス転移温度(Tg)〕
DSC(示差走査熱量計:SEIKO社製、RTG220)を用いて、−50℃から200℃までの温度範囲を10℃/分の条件で昇温(ファーストラン)−降温−昇温(セカンドラン)させ、セカンドランにおける吸熱曲線の中間点をTg(℃)とした。
【0179】
〔IR分析〕
Perkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光光度計1760Xで室温にて測定した。
【0180】
〔フッ素含有率〕
酸素フラスコ燃焼法により試料10mgを燃焼し、分解ガスを脱イオン水20mlに吸収させ、吸収液中のフッ素イオン濃度をフッ素選択電極法(フッ素イオンメーター、オリオン社製 901型)で測定することにより求めた(質量%)。
【0181】
(合成例1)
6Lステンレス製オートクレーブ中に溶媒として酢酸ブチル1800gとビニルエステル単量体として酢酸ビニル51gを仕込み、重合開始剤としてパーブチルPV(製品名、日油株式会社製)3.0gを加え、フランジを締め、オートクレーブを真空置換して、槽温を60℃まで昇温した。これに攪拌下、フッ素オレフィンガスとしてテトラフルオロエチレン(TFE)を241g封入して反応を開始した。このとき槽内の圧力は0.8MPaとなり、攪拌速度は280rpmであった。
反応開始時に酢酸ビニルの追加を開始し、6時間かけて280gの酢酸ビニルを追加した。反応中は酢酸ビニル/テトラフルオロエチレンの比率が一定になるように、電磁弁を用いてテトラフルオロエチレンを連続供給した。撹拌速度は280rpmであった。
具体的には、テトラフルオロエチレンが消費されて槽内が0.775MPaになると自動的に電磁弁を開いてテトラフルオロエチレンを供給し、0.800MPaになると自動的に電磁弁を閉じてテトラフルオロエチレンの供給を停止するサイクルでテトラフルオロエチレンの供給と圧力を制御しながら、テトラフルオロエチレンの消費量に合わせて酢酸ビニルを追加した。
反応開始から6時間後にテトラフルオロエチレンと酢酸ビニルの供給を停止した。その後槽内を常温常圧に戻して重合を停止し、酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体の酢酸ブチル溶液2770g(固形分濃度:28.5質量%)を得た。
反応終了後、ポリマー溶液を大量のメタノール溶液に再沈させ、ポリマーの精製を行い、ポリマーA1を得た。
【0182】
ポリマーA1の組成をフッ素の元素分析から求め、テトラフルオロエチレンと酢酸ビニルとの交互率を
1H−NMRから計算し、重量平均分子量及び分子量分布(Mw/Mn)をGPCから求めた。またガラス転移温度をDSCから測定した。結果を表1に示す。
【0183】
(合成例2)
3Lステンレス製オートクレーブに純水1000g、酢酸ビニル23.2g、ネオコールP(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの76.4質量%イソプロピルアルコール溶液:第一工業製薬(株)製)を入れ、窒素置換し、テトラフルオロエチレン(TFE)37gを加え、槽内を80℃まで昇温した。その後、テトラフルオロエチレンを30g加えた。このとき槽内の圧力は0.809MPaとなった。これに撹拌下、過硫酸アンモニウム(APS)の1質量%水溶液22gを加え、反応を開始した。反応開始時に酢酸ビニルの追加を開始し、6時間かけて283gの酢酸ビニルを追加した。反応中は酢酸ビニル/テトラフルオロエチレンの比率が一定になるように、電磁弁を用いてテトラフルオロエチレンを連続供給した。撹拌速度は500rpmであった。
具体的には、テトラフルオロエチレンが消費されて槽内が0.775MPaになると自動的に電磁弁を開いてテトラフルオロエチレンを供給し、0.800MPaになると自動的に電磁弁を閉じてテトラフルオロエチレンの供給を停止するサイクルでテトラフルオロエチレンの供給と圧力を制御しながら、テトラフルオロエチレンの消費量に合わせて酢酸ビニルを追加した。
反応開始から6時間後にテトラフルオロエチレンと酢酸ビニルの供給を停止した。その後1時間反応させた後に、槽内を常温常圧に戻して重合を停止し、酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体のエマルション1661g(固形分濃度:38.5質量%)を得た。
得られた酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体(ポリマーA2)について、合成例1と同様にして、ポリマーの物性を測定した。ポリマーA2のガラス転移温度は40℃であり、また粒子径を日機装(株)製の粒度分析計UPA9340を用いて測定したところ116nmであった。ポリマー物性の測定結果を表1に示す。
【0184】
(合成例3)
300mLステンレス製オートクレーブ中に溶媒として酢酸ブチル50gとビニルエステル単量体として酢酸ビニル10gを仕込み、重合開始剤としてパーブチルPV(製品名、日油株式会社製)を0.4g加え、フランジを締め、オートクレーブを真空置換して、フッ素オレフィンガスとして、17gのクロロトリフルオロエチレン(CTFE)を封入し、60℃の振とう式恒温槽に入れて反応を開始した。重合圧力が降下していることからガスモノマーの消費を確認し、4時間で振とうを止め、残ガスをブローして反応を終了し、ポリマーB2を得た。
得られたポリマーB2について、合成例1と同様にして、ポリマーの物性を測定した。ポリマー物性の測定結果を表1に示す。
【0185】
(合成例4)
300mLステンレス製オートクレーブ中に酢酸ブチル溶媒50gとステアリン酸ビニルモノマー10gを仕込み、重合開始剤としてパーブチルPV(製品名、日油株式会社製)を0.4g加え、フランジを締め、オートクレーブを真空置換して、フッ素オレフィンガスとして、8.0gのテトラフルオロエチレン(TFE)を封入し、引き続いて2.6gのヘキサフルオロプロピレン(HFP)を封入し60℃の振とう式恒温槽に入れて反応を開始した。重合圧力が降下していることからガスモノマーの消費を確認し、15時間で振とうを止め、残ガスをブローして反応を終了した。
反応終了後、ポリマー溶液を大量のメタノール溶液に再沈させ、ポリマーの精製を行い、ポリマーB1を得た。
得られたポリマーB1について、合成例1と同様にして、ポリマーの物性を測定した。ポリマー物性の測定結果を表1に示す。
【0186】
(合成例5)
3Lステンレス製オートクレーブ中に溶媒として酢酸ブチル1200gとビニルエステル単量体として酢酸ビニル140gを仕込み、重合開始剤としてパーブチルPV(製品名、日油株式会社製)7.2gを加え、フランジを締め、オートクレーブを真空置換して、槽温を60℃まで昇温した。これに攪拌下、フッ素オレフィンガスとして、200gのテトラフルオロエチレン(TFE)を封入して反応を開始した。このとき槽内の圧力は1.00MPaとなり、攪拌速度は500rpmであった。重合圧力が降下していることからガスモノマーの消費を確認し、6時間で槽内を常温常圧に戻して重合を停止し、残ガスをブローして反応を終了した。
反応終了後、ポリマー溶液を大量のメタノール溶液に再沈させ、ポリマーの精製を行い、ポリマーA3を得た。
得られたポリマーA3について、合成例1と同様にして、ポリマーの物性を測定した。ポリマー物性の測定結果を表1に示す。
【0187】
(合成例6 t−ブチルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン共重合体の合成)
300mlステンレス製オートクレーブ中にt−ブタノール150gとt−ブチルビニルエーテル(tBuビニルエーテル)26.7g、炭酸カリウム0.48gを仕込み、触媒のパーブチルPVの70%イソオクタン溶液0.46gを加え、フランジを締め、オートクレーブを真空置換して、テトラフルオロエチレンを26.7g封入し、60℃の振とう式恒温槽に入れて反応を開始した。重合圧力が降下していることからガスモノマーの消費を確認し、3時間で振とうを止め、残ガスをブローして反応を終了した。
反応終了後、ポリマー溶液を大量のメタノール溶液に再沈させ、ポリマーの精製を行い、t−ブチルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン共重合体(ポリマーC1)を得た。
得られたポリマーC1について、合成例1と同様にして、ポリマーの物性を測定した。ポリマーC1におけるt−ブチルビニルエーテル単位とテトラフルオロエチレン単位との組成は、52/48(モル比)であった。ポリマー物性の測定結果を表1に示す。
【0188】
(合成例7)
2.5Lステンレス製オートクレーブにイオン交換水679g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(東京化成製)の1%水溶液を130gを仕込みフランジを閉めた。その後、槽内をゆるやかに撹拌しながら十分に窒素置換をした後、真空引きして減圧にした状態で、テトラフルオロエチレン(TFE)58g、酢酸ビニル5g、イソプロピルアルコール(IPA)5%水溶液1gを仕込んだ。槽内の撹拌を450rpmまで上げた状態で、60℃まで昇温した。このとき槽内の圧力は0.82MPaとなった。過硫酸アンモニウム(APS)の0.41gを5gのイオン交換水に溶解させたものを、槽内に窒素加圧仕込みして反応を開始させた。反応開始後から槽内圧を0.82MPaで保持するようにTFEと酢酸ビニルの比率が一定になるように追加した。また、反応終了までTFE10g仕込み毎にIPA5%水溶液1gの追加を継続した。具体的には、TFEが消費されて槽内が0.80MPaになると自動的に電磁弁を開いてTFEを供給し、0.82MPaになると自動的に電磁弁を閉じてTFEの供給を停止するサイクルでTFEを供給しながら、TFEの消費量に合わせて酢酸ビニルを送液ポンプにて追加した。TFEと酢酸ビニルの比率は36.4/63.6質量%を維持した。APS投入して3時間20分経過後、TFE62g、酢酸ビニル107gを追加時点でTFEと酢酸ビニルの供給を停止し、撹拌を80rpmに下げ、槽内圧が0MPaになるまで脱圧した。ポリ容器に抜き出した酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体の微粒子からなるディスパージョン重量は1092gで、固形分濃度は20.8質量%であった。
得られた酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体(ポリマーA4)について、合成例1と同様にして、ポリマーの物性を測定した。ポリマーA4のガラス転移温度は38℃であり、また粒子径を日機装(株)製の動的光散乱式ナノトラック粒度分析計UPA−EX150を用いて測定したところ50nmであった。ポリマー物性の測定結果を表1に示す。
【0189】
(合成例8)
3Lステンレス製オートクレーブに純水815g、酢酸ビニル19g、ネオコールP(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムの76.4質量%イソプロピルアルコール溶液:第一工業製薬(株)製)を入れ、窒素置換し、テトラフルオロエチレン(TFE)58gを加え、槽内を60℃まで昇温した。このとき槽内の圧力は0.84MPaとなった。これに撹拌下、過硫酸アンモニウム(APS)の1質量%水溶液41gを加え、反応を開始した。反応開始時に酢酸ビニルの追加を開始し、24分間かけて10gの酢酸ビニルを追加した。反応中は酢酸ビニル/テトラフルオロエチレンの比率が一定になるように、電磁弁を用いてテトラフルオロエチレンを連続供給した。撹拌速度は450rpmであった。
具体的には、テトラフルオロエチレンが消費されて槽内が0.82MPaになると自動的に電磁弁を開いてテトラフルオロエチレンを供給し、0.84MPaになると自動的に電磁弁を閉じてテトラフルオロエチレンの供給を停止するサイクルでテトラフルオロエチレンの供給と圧力を制御しながら、テトラフルオロエチレンの消費量に合わせて酢酸ビニルを追加した。
反応開始から24分後にテトラフルオロエチレンと酢酸ビニルの供給を停止した。槽内を常温常圧に戻して重合を停止し、酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体のエマルション862g(固形分濃度:4.5質量%)を得た。
得られた酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体(ポリマーA5)について、合成例1と同様にして、ポリマーの物性を測定した。ポリマーA5のガラス転移温度は35℃であり、また粒子径を日機装(株)製の粒度分析計UPA9340を用いて測定したところ68nmであった。ポリマー物性の測定結果を表1に示す。
【0190】
【表1】
【0191】
(合成例9)
合成例1で得られたTFE/酢酸ビニルポリマー(ポリマーA1)を10gTHF(テトラハイドロフラン)溶媒中に濃度が10質量%になるように均一溶解させた。その後、0.6NのNaOH溶液をポリマー中の酢酸ビニル当量になるように添加し、24時間室温で撹拌後にポリマーを大量の水中に再沈させた。1NのHClで洗浄後、イオン交換水でよく洗浄し、再沈したポリマーを吸引ろ過し、乾燥機で80℃、2時間乾燥させた。IRにより、カルボニルピークの相対強度より、加水分解率を計算した結果、98%である、TFE/ビニルアルコール/酢酸ビニルポリマー(A1−98)を得た。結果を表2にまとめる。
【0192】
(合成例10)
合成例2で得られた酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体のエマルションを凍結凝析させ、純水で洗い流した後乾燥させたTFE/酢酸ビニルポリマー(ポリマーA2)を10gTHF溶媒中に濃度が10質量%になるように均一溶解させた。その後、0.6NのNaOH溶液をポリマー中の酢酸ビニル当量になるように添加し、24時間攪拌後に1NのHClで中和後、大量の純水に再沈させ、イオン交換水でよく洗浄し、再沈したポリマーを吸引ろ過し、乾燥機で80℃、2時間乾燥させた。IRにより、カルボニルピークの相対強度より、加水分解率を計算した結果、96%である、TFE/ビニルアルコール/酢酸ビニルポリマー(A2−96)を得た。結果を表2にまとめる。
【0193】
(合成例11〜13)
合成例3〜5で得られたポリマーを用いる以外は合成例10と同様にして、ケン化ポリマーである、A3−96、B1−97及びB2−96を得た。結果を表2にまとめる。
【0194】
(合成例14 ビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体の合成)
100mlナスフラスコに、合成例6で得たt−ブチルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン共重合体(ポリマーC1;t−ブチルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン=52/48(モル比))2.63g、1,4−ジオキサン1.2ml、4N HCl水溶液50mlを入れ、80℃で加熱撹拌した。2時間後、加熱を止め放冷し、析出したポリマーを純水で3回洗浄した。ポリマーをTHFに溶解させ、エタノール/水(50/50体積%)の溶液に再沈殿し、真空乾燥することで精製したビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体を得た(C1−95)。H-NMRにより脱保護前後の保護基由来のプロトンの積分値と主鎖のメチレン基由来のプロトンの積分値から計算した結果、脱保護率は95%であった。交互率は95%であった。結果を表2にまとめる。
【0195】
(合成例15)
合成例7で得られた酢酸ビニル/テトラフルオロエチレン共重合体のエマルションを凍結凝析させ、純水で洗い流した後乾燥させたTFE/酢酸ビニルポリマー(ポリマーA4)を10gメタノール溶媒中に濃度が10質量%になるように均一分散させた。その後、0.6NのNaOH溶液をポリマー中の酢酸ビニルに対して約0.6当量になるように添加し、6時間攪拌後に1NのHClで中和後、大量の純水に再沈させ、イオン交換水でよく洗浄し、再沈したポリマーを吸引ろ過し、乾燥機で45℃、24時間乾燥させた。IRにより、カルボニルピークの相対強度より、加水分解率を計算した結果、98%である、TFE/ビニルアルコール/酢酸ビニルポリマー(A4−98)を得た。結果を表2にまとめる。
(合成例16)
合成例14と同様にして合成例8で得られたTFE/酢酸ビニルポリマー(ポリマーA5)を加水分解し、TFE/ビニルアルコール/酢酸ビニルポリマーを得た。結果を表2にまとめる。
【0196】
【表2】
【0197】
(合成例17 PVdF(ポリフッ化ビニリデン)の合成例)
内容量2リットルのSUS製オートクレーブに、イオン交換水910g、メチルセルロース0.5gを仕込み、窒素置換後に槽内を真空に引いた後、酢酸エチル1.5g、1,1−ジフルオロエチレン(VdF)(フッ化ビニリデン)365gを仕込み、28℃で一定にさせた。槽内温度一定後、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート12gを仕込み、懸濁重合を開始した。10時間経過後に槽内を脱圧させ、反応を終了させた。ポリマースラリーを脱水、水洗した後105℃で24時間乾燥してポリビニリデンフルオライドポリマー粉末を得た。得られた粉末ポリマーは110gで、重量平均分子量27万であった。
【0198】
(合成例18 VdF/TFE共重合体の合成例)
内容量4リットルのグラスライニング製オートクレーブに、イオン交換水1300gを仕込み、窒素置換後に槽内を真空に引いた後、オクタフルオロシクロブタン1300gを仕込み、槽内を45℃まで昇温し、攪拌速度580rpmで攪拌した。槽内温度一定後、テトラフルオロエチレン(TFE)/1,1−ジフルオロエチレン(VdF)=6/94モル%の混合ガス150g、酢酸エチル10gを仕込み、その後ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネートの50質量%メタノール溶液2gを仕込み、懸濁重合を開始した。反応開始時からTFE/VdF=20/80モル%の混合ガスを連続して供給し、槽内圧力を1.3MPaに保った。攪拌速度は580rpmで保った。
反応開始から24時間後に槽内を脱圧させ、反応を終了させた。反応生成物を水洗した後120℃で12時間乾燥してVdF/TFE共重合体の粉末を得た。得られた粉末ポリマーは600gで、重量平均分子量は23万、組成比はVdF/TFE=80/20(モル%)であった。
【0199】
(実施例1)
合成例17で得たポリフッ化ビニリデンと合成例9で得られたビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体(A1−98)とを重量比90:10でブレンドしたものが18.0質量%、ジメチルアセトアミドが82.0質量%になるようにポリマー溶液を調整した。
このポリマー溶液を、ガラス板にアプリケーター(203μm)を用いて塗布し、直ちに25℃の水凝固浴中に10分間浸漬し平膜の多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の浸透ぬれ張力の測定およびぬれ性の評価をおこなったところ、浸透ぬれ張力は28.0mN/mであり、ぬれ性の結果は良好(○)で、十分に親水化されていた。またESCAにより表面移行性を評価したところ、10%以上で評価は良好(○)で、添加したビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体(A1−98)が表面移行し親水性が発現したと考えられた。結果を表3にまとめる。
【0200】
(実施例2)
実施例1と同様にして、ポリフッ化ビニリデンと合成例9で得られたビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体(A1−98)とを重量比75:25でブレンドしたものの平膜の多孔質膜を得た。実施例1と同様に表面ぬれ張力、ぬれ性、表面移行性を評価したところ10%以上で評価は良好(○)であった。結果を表3にまとめる。
【0201】
(比較例1)
実施例1と同様にして、ポリフッ化ビニリデンのみからなる平膜の多孔質膜を得た。実施例1と同様に表面ぬれ張力、ぬれ性を評価した。結果を表3にまとめる。
【0202】
(実施例3)
ポリフッ化ビニリデンの代わりに合成例18で得たVdF/TFE共重合体を用いる以外は実施例1と同様にして平膜の多孔質膜を得た。実施例1と同様に表面ぬれ張力、ぬれ性、表面移行性を評価した。結果を表3にまとめる。
【0203】
(実施例4及び5)
実施例3と同様にしてVdF/TFE共重合体と合成例9で得られたビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体(A1−98)とを重量比75:25及び95:5でブレンドしたものの平膜の多孔質膜を得た。実施例1と同様に表面ぬれ張力、ぬれ性、表面移行性を評価した。結果を表3にまとめる。
【0204】
(実施例6〜12)
合成例10〜16で得られたケン化ポリマーを使用する以外は実施例2と同様にしてポリフッ化ビニリデンとの重量比75:25でブレンドしたものの平膜の多孔質膜を得た。実施例1と同様にぬれ性を評価した。結果を表3にまとめる。
【0205】
実施例13
実施例1と同様にして、ポリフッ化ビニリデンと合成例15で得られたビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体(A4−98)とを重量比90:10でブレンドしたものの平膜の多孔質膜を得た。実施例1と同様にぬれ性を評価した。結果を表3にまとめる。
【0206】
(実施例14)
各成分を25℃で混合し、合成例9で得たポリビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体(A1−98)5質量%、合成例17で得たポリフッ化ビニリデン15質量%(ポリフッ化ビニリデン:ポリビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体=75:25)、ジメチルアセトアミド78.5質量%のポリマー溶液を得た。このポリマー溶液を二重管式口金から、内部液としてイオン交換水を同伴させながら吐出し、イオン交換水中にて固化した。得られた中空糸膜は、外径0.87mm、内径0.75mmであった。実施例1と同様にぬれ性を評価した。結果を表3に示す。
【0207】
(実施例15)
合成例14で得たポリビニルアルコール/テトラフルオロエチレン共重合体(C1−95)を使用する以外は実施例11と同様にして中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は、外径0.92mm、内径0.78mmであった。実施例1と同様にぬれ性を評価した。結果を表3に示す。
【0208】
【表3】
【0209】
(実施例16)
実施例1で得られた平膜の破断強度および純水透過係数(透水率)と微粒子阻止率を求めた。結果を表4に示す。
【0210】
(比較例2)
合成例17で得たポリフッ化ビニリデンが18.0質量%、ジメチルアセトアミドが79.7質量%、Tween40が2.3質量%になるようにポリマー溶液を調整した。
このポリマー溶液を、ガラス板にアプリケーター(203μm)を用いて塗布し、直ちに25℃の水凝固浴中に10分間浸漬し平膜の多孔質膜を得た。得られた平膜の破断強度および純水透過係数(透水率)と微粒子阻止率を求めた。結果を表4に示す。
【0211】
(実施例17)
実施例3〜5および実施例11、13で得られた平膜の破断強度および純水透過係数(透水率)と微粒子阻止率を求めた。結果を表4に示す。
【0212】
(比較例3)
ポリフッ化ビニリデンのかわりに合成例18で得たVdF/TFE共重合体を用いる以外は比較例2と同様にして平膜の多孔質膜を得た。得られた平膜の破断強度および純水透過係数(透水率)と微粒子阻止率を求めた。結果を表4に示す。
【0213】
【表4】
【0214】
(実施例18)
実施例1で得た平膜の耐薬品性(1重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液中)を評価した。結果を表5に示す。
【0215】
(比較例4)
合成例13で得たポリフッ化ビニリデンとPVP(ポリビニルピロリドン K−25:和光純薬工業株式会社 試薬 平均分子量;35,000)とを重量比75:25でブレンドしたものが18.0質量%、ジメチルアセトアミドが82.0質量%になるようにポリマー溶液を調整した。
このポリマー溶液を、ガラス板にアプリケーター(203μm)を用いて塗布し、直ちに25℃の水凝固浴中に10分間浸漬し平膜の多孔質膜を得た。
実施例18と同様に耐薬品性を評価した。結果を表5に示す。
【0216】
【表5】
【0217】
(実施例19)
平膜の耐ファウリング性を評価した結果、比較例1で作製したPVDF単独膜では大きく透水量が低下したが、実施例13で作製した平膜は、あきらかに透水量の低下の度合いが抑えられ、耐ファウリング性がみとめられた。
【0218】
(実施例20 水中接触角の測定)
実施例11および13で得られた平膜の水中接触角を測定した。
この接触角測定は、水中で平膜に気泡を接触させ、当該気泡の接触角を測定することによって行った(captive bubble法)。測定は、静的接触角計(協和界面科学社製、製品名:Drop Master 701)を用い、室温、常圧のもとで2μLの気泡を水中で表面に接触させ、接触角を測定した。水中に4時間浸漬したものを測定した。結果を表6に示す。
【0219】
(実施例21)
実施例11および13で得られた平膜の水中接触角の耐薬品性(5000ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液中)を評価した。具体的には平膜を室温で5000ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬し、1週間後の水中接触角を測定した。一週間後の水中接触角が60°以下の場合は○、60°より大きく70°以下の場合は△、70°より大きい場合を×として評価した。結果を表7に示す。
【0220】
(比較例5)
実施例20と同様にして比較例3で得られた平膜の水中接触角を測定した。結果は74.3°であった。
【0221】
(比較例6)
実施例21と同様にして比較例3で得られた平膜の水中接触角の耐薬品性を評価した。結果を表7に示す。
【0222】
【表6】
【0223】
【表7】
【0224】
(実施例22)
作製した平膜のタンパク質吸着抑制効果を評価するために、ケン化ポリマー自体へ吸着するタンパク質の重量評価をQCM(Quartz crystal microbalance:メイワフォーシス(株)社製QCM−D)を用いて行った。
水晶発振子基板上にDMAC溶液で1質量%になるように調整した合成例15で得られたポリマー(A4−98)を室温で2000rpm、30秒間スピンコートし、80℃で30分間乾燥させ、A4−98で被覆された水晶振動子基板を調製した。この基板をリン酸緩衝溶液(pH7.0)中25℃の状態で安定化させ、100ppmBSA(ウシ血清アルブミン)を添加した。BSAの添加に伴って変化する発振子の周波数を計測し、吸着量に換算し、ポリマーA4−98のBSA吸着量とした。
その結果、3.4mg/m
2であった。
【0225】
(比較例7)
ポリマーA4−98の代わりに合成例17で得られたポリフッ化ビニリデンを使用する以外は実施例22と同様にしてポリフッ化ビニリデンのBSA吸着量を評価した。
その結果、4.8mg/m
2であった。
【0226】
以上の結果から、ポリマーA4−98はあきらかにBSAの吸着が抑えられていることが明確にわかる。