特許第6075481号(P6075481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

特許6075481ガラスセラミックス組成物およびコイル電子部品
<>
  • 特許6075481-ガラスセラミックス組成物およびコイル電子部品 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075481
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス組成物およびコイル電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/16 20060101AFI20170130BHJP
   C04B 35/14 20060101ALI20170130BHJP
   C03B 19/06 20060101ALI20170130BHJP
   C03C 8/14 20060101ALI20170130BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20170130BHJP
   H01F 17/00 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
   C04B35/16
   C04B35/14
   C03B19/06 A
   C03B19/06 B
   C03B19/06 C
   C03C8/14
   H01B3/12 336
   H01B3/12 331
   H01B3/12 330
   H01B3/12 337
   H01B3/12 335
   C03B19/06 D
   !H01F17/00 D
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-19132(P2016-19132)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-155746(P2016-155746A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-24761(P2015-24761)
(32)【優先日】2015年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】梅本 周作
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 聖樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英和
(72)【発明者】
【氏名】秋田 由香里
(72)【発明者】
【氏名】飛田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真一
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−152059(JP,A)
【文献】 特開2005−217170(JP,A)
【文献】 特開2000−344572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/16
C04B 35/14
C03B 19/06
C03C 8/14
H01B 3/12
H01F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス、第2のガラス、AlおよびSiOからなる主成分を有するガラスセラミックス組成物であり、
前記第1のガラスが、SiO−KO−B系ガラスであり、
前記第2のガラスが、MO−SiO−Al−B系ガラス(Mは、アルカリ土類金属)および/またはCaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスであり、
前記主成分が、その全量を100重量%としたときに、前記第2のガラスを12〜30重量%、前記第1のガラスおよび前記第2のガラスを合計で40〜56重量%、さらに、Alを7〜18重量%含むことを特徴とする、ガラスセラミックス組成物。
【請求項2】
さらに、前記主成分100重量%に対して、添加物として第3のガラスを5重量%以下で含有し、
前記第3のガラスが、SrO−SiO−B系ガラスであることを特徴とする、請求項1に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項3】
前記SiOが、石英および/または石英ガラスあることを特徴とする、請求項1または2に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のガラスセラミックス組成物を備えるコイル素子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のガラスセラミックス組成物からなる焼結体。
【請求項6】
請求項5に記載の焼結体からなるセラミックス層を備えるコイル電子部品。
【請求項7】
コイル導体およびセラミックス層が積層されて構成される電子部品であって、
前記コイル導体がAgを含み、
前記セラミックス層が請求項5に記載の焼結体で構成されている電子部品。
【請求項8】
第1のガラス、第2のガラス、AlおよびSiOからなる主成分を有する高周波コイル用層間組成物であり、
前記第1のガラスが、SiO−KO−B系ガラスであり、
前記第2のガラスが、MO−SiO−Al−B系ガラス(Mは、アルカリ土類金属)および/またはCaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスであり、
前記主成分が、その全量を100重量%としたときに、前記第2のガラスを12〜30重量%、前記第1のガラスおよび前記第2のガラスを合計で40〜56重量%、さらに、Alを7〜18重量%含むことを特徴とする、高周波コイル用層間組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼成可能で、極めて低い誘電率と十分強度を有するガラスセラミックス組成物、およびこれを用いたコイル電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの通信機器の高周波数化に伴い、これらの送信部および受信部には、1GHz以上の高周波に対応したセラミックコイルが多数採用されている。特に、これらのセラミックコイルは、高周波に対応するために、低誘電率であることが求められ、また、低抵抗、低損失なAg系を内部導体に適用するために、950℃以下の低温焼結が必須とされている。
【0003】
そのため、このようなセラミックコイルの材料としては、低誘電率なガラス系材料が広く一般的に用いられている。しかしながら、ガラス系材料は、セラミックコイル等のコイル電子部品の素体として用いた場合、素体表面に生じた傷などがクラックの起点となり、本来期待される強度よりも、はるかに低い強度しか発揮できないという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1および2では、ガラス系材料自体の機械強度を向上させる技術が提案されている。特許文献1のガラス系材料は、コイル電子部品の素体として用いた場合に十分な機械強度を確保できるものの、原材料の仮焼きを必須とするため、積層部品に適用可能な粒度分布を有したセラミック粉体になるまでの製造工程が煩雑であり、工程負荷が大きいという問題がある。また、特許文献2のガラス系材料も、素体として用いた場合に機械強度は確保できるが、焼成後に多数の結晶粒子が生成し、これにより内部電極層に凹凸が形成され、高周波領域におけるQ値が低下するという問題がある。
【0005】
また別の観点から、特許文献3では、コイル部の上下を、保形性の高いガラス系材料で挟み、コイル電子部品全体として機械強度を向上させる技術が提案されている。このような技術によれば、コイル部の上下に保形層が配置され、これにより強度を確保できるため、その内側のコイル部には、強度を気にせず、Q値を高めるのに好適な、結晶粒子が少なく、比誘電率の低いガラス系材料を用いることができる。しかしながら、保形層に用いる高強度のガラス系材料は、コイル部に用いるガラス系材料に比べて、比誘電率が高いため、いくらコイル部にQ値を高めやすいガラス系材料を選択的に用いても、コイル電子部品全体としてQ値が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4239534号公報
【特許文献2】特開2005−15239号公報
【特許文献3】特開2013−58538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、低温焼成が可能であり、極めて低い誘電率と十分なたわみ強度を有するガラスセラミックス組成物と、これを用いたコイル電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、高周波コイル用のガラスセラミックス組成物としては、低温焼成が可能でありながら、低誘電率であり、さらに高強度を維持できる程度に結晶質が少ないものが望ましいことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 第1のガラス、第2のガラス、AlおよびSiOからなる主成分を有するガラスセラミックス組成物であり、
前記第1のガラスが、SiO−KO−B系ガラスであり、
前記第2のガラスが、MO−SiO−Al−B系ガラス(Mは、アルカリ土類金属)および/またはCaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスであり、
前記主成分が、その全量を100重量%としたときに、前記第2のガラスを12〜30重量%、前記第1のガラスおよび前記第2のガラスを合計で40〜56重量%、さらに、Alを7〜18重量%含むことを特徴とする、ガラスセラミックス組成物。
【0010】
[2] さらに、前記主成分100重量%に対して、添加物として第3のガラスを5重量%以下で含有し、
前記第3のガラスが、SrO−SiO−B系ガラスであることを特徴とする、上記[1]に記載のガラスセラミックス組成物。
【0011】
[3] 前記SiOが、石英および/または石英ガラスあることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載のガラスセラミックス組成物。
【0012】
[4] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載のガラスセラミックス組成物を備えるコイル素子。
【0013】
[5] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載のガラスセラミックス組成物からなる焼結体。
【0014】
[6] 上記[5]に記載の焼結体からなるセラミックス層を備えるコイル電子部品。
【0015】
[7] コイル導体およびセラミックス層が積層されて構成される電子部品であって、
前記コイル導体がAgを含み、
前記セラミックス層が上記[5]に記載の焼結体で構成されている電子部品。
【0016】
[8] 第1のガラス、第2のガラス、AlおよびSiOからなる主成分を有する高周波コイル用層間組成物であり、
前記第1のガラスが、SiO−KO−B系ガラスであり、
前記第2のガラスが、MO−SiO−Al−B系ガラス(Mは、アルカリ土類金属)および/またはCaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスであり、
前記主成分が、その全量を100重量%としたときに、前記第2のガラスを12〜30重量%、前記第1のガラスおよび前記第2のガラスを合計で40〜56重量%、さらに、Alを7〜18重量%含むことを特徴とする、高周波コイル用層間組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低温焼成が可能であり、極めて低い誘電率でありながら高密度で絶縁抵抗が高く、さらに、電子部品化した際に十分なたわみ強度を実現し得るガラスセラミックス組成物と、これを用いたコイル電子部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るコイル電子部品としての積層チップコイルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態のみに限定されない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
(コイル電子部品)
図1に、本発明の一実施形態に係るコイル電子部品として、積層チップコイル1を例示する。積層チップコイル1は、セラミックス層2と、内部電極層3とがZ軸方向に交互に積層してあるチップ素体4を有する。
【0021】
各内部電極層3は、四角状環またはC字形状またはコ字形状を有し、隣接するセラミックス層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30を構成している。
【0022】
チップ素体4のY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5が形成してある。各端子電極5には、Z軸方向の上下に位置する引出電極3a,3bの端部が接続してあり、各端子電極5は、閉磁路コイル(巻線パターン)を構成するコイル導体30の両端に接続される。
【0023】
本実施形態では、セラミックス層2および内部電極層3の積層方向がZ軸に一致し、端子電極5の表面がX軸およびY軸に平行になる。なお、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。図1に示す積層チップコイル1では、コイル導体30の巻回軸が、Z軸に略一致する。
【0024】
チップ素体4の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、例えばX軸寸法は0.1〜0.8mm、Y軸寸法は0.2〜1.6mm、Z軸寸法は0.1〜1.0mmである。
【0025】
また、セラミックス層2の電極間厚みおよびベース厚みには特に制限はなく、電極間厚み(内部電極層3、3の間隔)は3〜50μm、ベース厚み(Y軸方向での、引出電極3a,3bからチップ素体4の端部までの距離)は5〜300μm程度で設定することができる。
【0026】
本実施形態では、端子電極5としては、特に限定されず、素体4の外表面にAgやPdなどを主成分とする導電性ペーストを付着させた後に焼付け、さらに電気めっきを施すことにより形成される。電気めっきには、Cu、Ni、Snなどを用いることができる。
【0027】
コイル導体30は、好ましくはAg(Agの合金含む)を含み、例えばAg単体、Ag−Pd合金などで構成される。また、コイル導体の副成分として、Zr、Fe、Mn、Ti、およびそれらの酸化物を含むことができる。
【0028】
セラミックス層2は、本発明の一実施形態に係るガラスセラミックス組成物からなる焼結体で構成してある。以下、ガラスセラミックス組成物について詳細に説明する。
【0029】
本実施形態のガラスセラミックス組成物は、第1のガラス、第2のガラス、AlおよびSiOからなる主成分を有する。ここで、第1のガラスは、SiO−KO−B系ガラスであり、第2のガラスは、MO−SiO−Al−B系ガラス(Mは、アルカリ土類金属)、またはCaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスある。さらに、主成分は、その全量を100重量%としたときに、第2のガラスを12〜30重量%、第1のガラスと第2のガラスを合計で40〜56重量%、Alを7〜18重量%含み、好ましくは残部をSiOで構成する。
【0030】
このような本実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、低温焼成が可能であり、極めて低い誘電率でありながら高密度で絶縁抵抗が高く、さらに、電子部品化した際に十分なたわみ強度と高いQ値を実現し得る。
【0031】
上述のように、第1のガラスは、SiO−KO−B系ガラスである。SiO−KO−B系ガラスは、特に限定されず、市販のガラスを用いることができる。該ガラスは、好ましくは、ガラス転移点が480〜520℃である。なお、ガラス転移点は、熱機械分析装置(TMA)により測定される(以下において同じ)。
【0032】
また、SiO−KO−B系ガラスは、主としてSiO、KOおよびBから構成されており、好ましくは、該ガラスは、SiOを77〜83重量%、KOを1.6〜2.4重量%含有し、残部はBで構成される。また、該ガラスは、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を一種以上含有していてもよく、他の成分の含有量の合計は、該ガラス中に、好ましくは0.5重量%以下である。他の成分としては、例えばAl等が挙げられる。
【0033】
また、本実施形態において、第2のガラスは、MO−SiO−Al−B系ガラス(Mは、アルカリ土類金属)および/またはCaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスである。すなわち、第2のガラスは、上記2種類のガラスの混合物であってもよいし、上記2種類のガラスのうちいずれか一方のみからなってもよい。また、第2のガラスは、少なくともMO−SiO−Al−B系ガラスであることが好ましい。
【0034】
MO−SiO−Al−B系ガラスは、特に限定されず、市販のガラスを用いることができる。Mは、アルカリ土類金属(Mg、Ca、SrおよびBa)から選択される1種以上であればよく、好ましくはMg、Ca、SrおよびBaの全てを含む。また、該ガラスは、好ましくは、ガラス転移点が690〜730℃である。
【0035】
また、MO−SiO−Al−B系ガラスは、主としてMO、SiO、AlおよびBから構成されており、好ましくは、該ガラスは、SiOを45〜55重量%、Alを10〜12重量%、MOを28〜43重量%含有し、残部はBで構成される。なお、該ガラスは、MOとして、MgOを1〜2.5重量%、CaOを3〜4重量%、SrOを24〜35重量%、BaOを0.1〜1重量%含有することがより好ましい。また、該ガラスは、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を一種以上含有していてもよく、他の成分の含有量の合計は、該ガラス中に、好ましくは0.5重量%以下である。他の成分としては、例えばNaO等が挙げられる。
【0036】
CaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスは、特に限定されず、市販のガラスを用いることができる。該ガラスは、好ましくは、ガラス転移点が650〜700℃である。
【0037】
また、CaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスは、主としてCaO、SiO、Al、ZnO、ZrO、およびBから構成されており、好ましくは、該ガラスは、SiOを40〜45重量%、Alを28〜32重量%、CaOを9〜11重量%、ZnOを0.5〜1.3重量%、ZrOを1〜2重量%含有し、残部はBで構成される。また、該ガラスは、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を一種以上含有していてもよく、他の成分の含有量の合計は、該ガラス中に、好ましくは0.5重量%以下である。他の成分としては、例えばTiO等が挙げられる。
【0038】
さらに、主成分中における、第2のガラスの含有量は、12〜30重量%であり、好ましくは12〜22重量%、より好ましくは14〜20重量%である。第2のガラスが、多すぎると比誘電率が高くなる(例えば、5.0を超える)傾向にあり、少なすぎるとたわみ強度が十分に確保できない傾向にある。
【0039】
また、主成分中における、第1のガラスと第2のガラスの含有量の合計は、40〜56重量%であり、好ましくは45〜56重量%、より好ましくは50〜55重量%である。第1のガラスと第2のガラスの合計量が、多すぎるとたわみ強度が十分に確保できなくなる傾向にあり、少なすぎると十分な焼結が得られない傾向にある。
【0040】
本実施形態において、Al(アルミナ)はフィラーとして用いられている。主成分中における、Alの含有量は、7〜18重量%であり、好ましくは7〜15重量%、より好ましくは7.5〜12重量%である。Alが、多すぎると比誘電率が高くなる(例えば、5.0を超える)傾向にあり、少なすぎるとたわみ強度が十分に確保できなくなる傾向にある。
【0041】
なお、フィラーを構成する粒子の形状は、特に制限されないが、例えば球状、針状、板状等が挙げられ、強度、特に電子部品化した際のたわみ強度を向上させる観点からは、板状のフィラー成分が好ましい。
【0042】
また、本実施形態において、SiOは、特に限定されないが、例えば、フィラーとしての石英(結晶シリカ)や、石英ガラス(アモルファスシリカ)の形態で用いることができ、必要に応じてこれらを併用してもよい。
【0043】
本実施形態において主成分は、上述のように第1のガラス、第2のガラスおよびAlを所定量含有し、残部としてSiOを含有することが好ましい。なお、残部は、SiOのみから構成されていることがより好ましいが、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を含有してもよい。
【0044】
本実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、必要に応じて、添加剤として第3のガラスをさらに含んでもよい。ここで、第3のガラスは、SrO−SiO−B系ガラスである。さらに、第3のガラスの添加量は、主成分100重量%に対して、5重量%以下である。
【0045】
第3のガラスは、上記主成分との関係で良好な焼結性を示す。そのため、本実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、第3のガラスを上記範囲で含有することにより、量産化に伴う焼成条件の変化やロッドサイズの変化等に対して、より安定した焼結性を確保することができ、量産化に好適な焼成条件を幅広に採用可能となる。
【0046】
本実施形態において、第3のガラスは、SrO−SiO−B系ガラスである。SrO−SiO−B系ガラスは、特に限定されず、市販のガラスを用いることができる。該ガラスは、好ましくは、ガラス転移点が640〜670℃である。本実施形態のガラスセラミックス組成物は、低軟化点の第3のガラスを含有することにより、比較的低温の焼成でも、良好な焼結性が確保できる。
【0047】
また、SrO−SiO−B系ガラスは、主としてSiO、SrOおよびBから構成されており、好ましくは、該ガラスは、SiOを10〜15重量%、SrOを40〜45重量%含有し、残部はBで構成される。また、該ガラスは、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を一種以上含有していてもよく、他の成分の含有量の合計は、該ガラス中に、好ましくは1.0重量%以下である。他の成分としては、例えばNaOやCaO等が挙げられる。
【0048】
また、主成分100重量%に対する、第3のガラスの添加量は、5重量%以下であり、好ましくは2〜5重量%、より好ましくは3〜4.5重量%である。第3のガラスの添加量を多くすると、焼成によるガラス相の軟化の度合いが大きくなる傾向にある。特に、焼成によるガラス相の軟化の度合いが大きくなりすぎると、電子部品化した際に、焼成後のチップ素体4が、接触している物に融着しやすくなる。
【0049】
図1に示す積層チップコイル1は、一般的な製造方法により製造することができる。すなわち、本発明のガラスセラミックス組成物を、バインダーと溶剤とともに混練して得たガラスセラミックスペーストを、Agなどを含む導体ペーストと交互に印刷積層した後、焼成することで、チップ素体4を形成することができる(印刷法)。
【0050】
あるいはガラスセラミックスペーストを用いてグリーンシートを作製し、グリーンシートの表面に内部電極ペーストを印刷し、それらを積層して焼成することでチップ素体4を形成しても良い(シート法)。いずれにしても、チップ素体4を形成した後に、端子電極5を焼き付けあるいはメッキなどで形成すれば良い。
【0051】
ガラスセラミックスペースト中のバインダーおよび溶剤の含有量には制限はなく、例えば、バインダーの含有量は5〜25重量%、溶剤の含有量は30〜80重量%程度の範囲で設定することができる。また、ペースト中には、必要に応じて分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等を20重量%以下の範囲で含有させることができる。Agなどを含む導体ペーストも同様にして作製することができる。また、焼成条件などは、特に限定されないが、内部電極層にAgなどが含まれる場合には、焼成温度は、好ましくは950℃以下、さらに好ましくは900℃以下である。
【0052】
また、本実施形態のガラスセラミックス組成物からなる焼結体の相対密度は、理論密度を100%とした場合に、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。ここで、本明細書において、相対密度とは、理論密度に対する密度の実測値の割合をいう。なお、該焼結体の理論密度は、例えば、焼結体を素体中の気泡の影響を受けない程度の大きさまで乳鉢粉砕した後、気相置換法(アルキメデスの原理)により真密度を測定し、これを理論密度として採用できる。また、該焼結体の密度の実測値は、例えば、焼結体の寸法及び重量を測定することで算出できる。該焼結体の相対密度は、焼成温度や焼成時間などを変えることによって調整することができる。
【0053】
本実施形態のガラスセラミックス組成物は、焼結されていない粉末や凝集物、スラリーに含まれる固形分等の形態であるガラスセラミックス材料であってもよい。本実施形態のガラスセラミックス組成物は、焼結性に優れているため、好ましくは840℃〜950℃、より好ましくは870℃〜950℃程度の低温で焼成しても十分に高い焼結密度(焼結体の密度)を有するガラスセラミックス焼結体とすることができる。そのため、例えば低温で焼結させることが求められるAgを導体とする積層チップコイル等のコイル電子部品のセラミックス層として好適に用いることができる。
【0054】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0055】
また、本実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、半導体装置のコイル素子などとして用いることもできる。本発明に係るコイル素子としては、例えば、本発明に係るガラスセラミックス組成物を薄膜化し、半導体装置等の基板に組み込むコイル部品等が挙げられる。
【0056】
また、本実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、高周波コイル用層間組成物として好適に用いることができる。
【0057】
本実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、低温焼成が可能で、極めて低い誘電率でありながら、機械強度にも優れるため、コイル電子部品のセラミックス層を構成する材料として好適であるが、さらに、焼成時の結晶粒子の生成が極めて少ないため、特に、内部電極層3、3間のセラミックス層2を構成する層間組成物としてより好適である。
【0058】
本実施形態に係る層間組成物によれば、焼成後のセラミックス層において結晶粒子の生成が抑制され、凹凸の少ない平滑な内部電極層が得られ、コイル電子部品全体として、高周波領域での高いQ値を実現できる。このような層間組成物は、特に、1GHz以上の周波数領域で使用される高周波コイル用として特に好適である。
【0059】
上記本実施形態では、コイル電子部品1のセラミックス層2は、同一の材料で形成している例を示しているが、必ずしも同一材料にて形成する必要はない。上述のように、本実施形態に係るガラスセラミックス組成物は、内部電極層3、3間のセラミックス層2を構成する層間組成物として特に好適であり、コイル導体30に接していないセラミックス層2は、他のセラミック材料により構成されていてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を、更に詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0061】
(実施例1)
まず、第1のガラスとしてSiO−KO−B系ガラス、第2のガラスとしてMO−SiO−Al−B系ガラス、アルミナ(Al)、SiOとして石英ガラス(アモルファスシリカ)、第3のガラスとしてSrO−SiO−B系ガラスを準備し、表1に示す組成となるように各種原材料を秤量した。
【0062】
次に、予め秤量しておいた原材料を、溶媒(99%メタノール変性エタノール)と共に、ボールミル(メディアはジルコニアボール)を用いて、24時間湿式混合し、原料スラリーを得た。この原料スラリーを、溶媒がなくなるまで乾燥機にて乾燥させ、ガラスセラミックス材料を得た。
【0063】
次に、得られたガラスセラミックス材料100重量部に対して、バインダーとしてアクリル樹脂系バインダー(エルバサイト、デュポン社製)を2.5重量部添加して造粒し、20メッシュの篩で整粒して顆粒とした。この顆粒を74MPa(0.75ton/cm)の圧力で加圧成形して、17φディスク形状(寸法=直径17mm、厚さ8.5mm)の成形体を得た。その後、得られた成形体を、空気中、900℃にて2時間焼成し、焼結体を得た(試料1〜32)。
【0064】
次に、得られた焼結体(試料1〜32)に対し、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[相対密度]
相対密度(%)は、得られた焼結体の寸法および重量から焼結体密度を算出し、理論密度に対する焼結体密度の比率を算出して求めた。
【0066】
[比誘電率εs]
比誘電率(単位なし)は、ネットワークアナライザー(HEWLETT PACKARD社製8510C)用いて、共振法(JIS R 1627)にて測定した。なお、本実施例では、比誘電率5.0以下を良好とした。
【0067】
[絶縁抵抗ρ]
絶縁抵抗(単位:Ωm)は、得られた焼結体の両面にIn−Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、抵抗値と寸法から算出した。測定は、絶縁抵抗計(HEWLETT PACKARD社製 4329A)を用いて、25V−30秒の条件で行った。なお、本実施例では、1×10Ω・m以上を良好とした。
【0068】
(実施例2)
まず、実施例1と同様の方法により、表1の組成となるガラスセラミックス材料を得た。
【0069】
次に、ガラスセラミックス材料100重量部に、バインダーとしてアクリル樹脂系バインダー(エルバサイト、デュポン社製)を加えて十分に混合し、ガラスセラミックススラリーを得た。その後、ドクターブレード法により、得られたガラスセラミックススラリーを成形し、厚さ30μmのグリーンシートを得た。
【0070】
次に、得られたグリーンシートの所定の位置にビアホールを形成した後、別途調製した、銀粉末、ワニスおよび有機溶剤を含む導体ペーストを、上記グリーンシートの表面にスクリーン印刷し、かつビアホールに充填して、所定形状のコイルパターンおよびビアホールを有する内部電極層を形成した。
【0071】
その後、所定のコイルパターンが形成されたグリーンシートを適切に積層した後、これらを、内部電極層が形成されていないグリーンシートで挟持し、60℃の温度で100MPaの圧力で圧着し、所定のサイズに切断して、積層体を得た。
【0072】
さらに、得られた積層体を、大気中で400℃に加熱して十分に脱脂した。次いで、焼成炉に積層体を投入し、大気中で900〜930℃の温度域において、1〜5時間保持することにより熱処理(焼成)し、チップ素体を得た。
【0073】
次いで、銀粉末、ガラスフリット、ワニスおよび有機溶剤を含有した端子電極用導電ペーストを用意し、この端子電極用導電ペーストを、上記チップ素体のコイルの軸方向に対向した両端に塗布して乾燥させた後、750℃で焼き付けて、端子電極を形成し、積層チップコイル(0.6mm×0.3mm×0.3mm)を得た。
【0074】
次に、得られた積層チップコイル(試料1〜32)に対し、以下に示す条件で、たわみ強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0075】
[たわみ強度試験]
たわみ強度試験は、試料1〜32につき各10個の試料を用いて、基板(ガラスエポキシ基板、大きさ100mm×40mm、厚さ0.08mm)の中央部に試料をはんだ付けした後、試料がはんだ付けされた面とは別の面(基板裏)から荷重を加え(たわみ量=1.3mmで5秒保持)、荷重印加後の試料について外観および内部におけるクラックの有無を評価して行った。なお、本実施例では、各試料につき、10個中クラックの発生が0個のものを良好とした。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1の結果から、本発明に係るガラスセラミックス組成物からなる焼結体(試料2〜5、11〜14、20〜24、27〜32)は、高い絶縁抵抗と、低い比誘電率を有することが確認された。
【0078】
さらに、実施例2の結果から、本発明に係るガラスセラミックス組成物からなる焼結体(試料2〜5、11〜14、20〜24、27〜32)を有する積層チップコイルは、たわみに対して優れた強度を有していることが確認された。
【0079】
(実施例3および4)
第2のガラスとしてCaO−SiO−Al−ZnO−ZrO−B系ガラスを用い、表2に示す組成となるようにガラスセラミックス材料を得た以外は、実施例1および2と同様にして焼結体および積層チップコイルを作製し(試料51〜82)、同様の条件で各種特性を評価した。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
実施例3の結果から、本発明に係るガラスセラミックス組成物からなる焼結体(試料52〜55、61〜64、70〜74、77〜82)は、高い絶縁抵抗と、低い比誘電率を有することが確認された。
【0082】
さらに、実施例4の結果から、本発明に係るガラスセラミックス組成物からなる焼結体(試料52〜55、61〜64、70〜74、77〜82)を有する積層チップコイルは、たわみに対して優れた強度を有していることが確認された。
【符号の説明】
【0083】
1…積層チップコイル
2…セラミックス層
3…内部電極層
3a,3b…引出電極
30…コイル導体
4…チップ素体
5…端子電極
図1