特許第6075618号(P6075618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075618
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】ポリマーの処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/02 20060101AFI20170130BHJP
   C08J 9/12 20060101ALI20170130BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C08J7/02 ZCER
   C08J7/02CEZ
   C08J9/12CFG
   C23C18/18
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-273985(P2012-273985)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-118472(P2014-118472A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】日立マクセル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000187149
【氏名又は名称】昭和電工ガスプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 敦
(72)【発明者】
【氏名】那須 貴樹
(72)【発明者】
【氏名】海老原 克巳
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−091527(JP,A)
【文献】 特開2003−055496(JP,A)
【文献】 特開2005−075980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00−7/02
C08J 7/12−7/18
C08J 9/00−9/42
C23C 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーの処理方法であって、
高圧容器の温度を所定温度に制御することと、
前記高圧容器にポリマーを収容することと、
加圧二酸化炭素に機能性材料を溶解することと、
温度制御され、前記ポリマーが収容された前記高圧容器に、圧力が1.5〜8MPaである、前記機能性材料が溶解した加圧二酸化炭素を供給することと、
前記高圧容器に供給された加圧二酸化炭素の圧力が、加圧二酸化炭素供給時の圧力より高くなるように、前記高圧容器の温度を制御することを含むポリマーの処理方法。
【請求項2】
前記所定温度が、−25〜30℃であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーの処理方法。
【請求項3】
加圧二酸化炭素が供給された前記高圧容器の温度を加圧二酸化炭素供給時の温度より、15℃以上高い温度に制御することを含む請求項1又は2に記載のポリマーの処理方法。
【請求項4】
加圧二酸化炭素が供給された前記高圧容器の温度を制御することが、前記高圧容器を加熱することである請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマーの処理方法。
【請求項5】
加圧二酸化炭素が供給された前記高圧容器の温度を制御することによって、前記高圧容器に供給された加圧二酸化炭素を前記ポリマーに浸透させることを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマーの処理方法。
【請求項6】
前記高圧容器には、加圧二酸化炭素を貯蔵する第1の二酸化炭素貯蔵容器が接続されており、
前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給することが、第1の二酸化炭素貯蔵容器に貯蔵される加圧二酸化炭素を貯蔵時の圧力を保持したまま、又は、貯蔵時の圧力から減圧して、前記高圧容器へ供給することを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマーの処理方法。
【請求項7】
前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給した後、前記高圧容器を回転させることを含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマーの処理方法。
【請求項8】
前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給した後、前記高圧容器と前記第1の二酸化炭素貯蔵容器とを切り離すことと、
前記高圧容器と前記第1の二酸化炭素貯蔵容器を切り離した後、前記高圧容器を回転させることを含む請求項6に記載のポリマーの処理方法。
【請求項9】
前記高圧容器を回転させながら、加圧二酸化炭素が供給された前記高圧容器の温度を制御することを含む請求項7又は8に記載のポリマーの処理方法。
【請求項10】
前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給することが、液体二酸化炭素を前記高圧容器に満充填することを含む請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリマーの処理方法。
【請求項11】
前記高圧容器には、第1の液体二酸化炭素と第1の気体二酸化炭素とを含む第1の加圧二酸化炭素を貯蔵する第1の二酸化炭素貯蔵容器が接続されており、第1の二酸化炭素貯蔵容器には、第2の気体二酸化炭素を含む第2の加圧二酸化炭素を貯蔵する第2の二酸化炭素貯蔵容器が接続されており、
前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給することが、
第1の二酸化炭素貯蔵容器から、第1の液体二酸化炭素を前記高圧容器に供給することと、
第2の気体二酸化炭素の圧力を第1の気体二酸化炭素の圧力よりも高く制御することと、
第2の気体二酸化炭素を第1の二酸化炭素貯蔵容器に供給することを含む請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリマーの処理方法。
【請求項12】
第2の気体二酸化炭素の圧力を第1の気体二酸化炭素の圧力より0.1〜3MPa高く制御することを含む請求項11に記載のポリマーの処理方法。
【請求項13】
前記ポリマーの処理方法が、ポリマーの改質処理である請求項1〜12のいずれか一項に記載のポリマーの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界状態等の加圧二酸化炭素を用いたポリマーの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界二酸化炭素は、気体の浸透性と液体の溶媒性能の両方を有するユニークな流体であり、それを応用した技術に関して様々な研究成果及び実用化が報告されている。例えば、超臨界流体を利用し工業化されている射出成形プロセスとして発泡成形がある(特許文献1)。特許文献1に開示されている成形方法では、発泡剤として、従来の化学発泡剤でなく窒素や二酸化炭素の不活性ガスを用いるもので、不活性ガスは超臨界状態にて溶融樹脂と混錬され、ポリマー成形体中に発泡セルを形成する。
【0003】
また、非特許文献1では、超臨界流体を用いたポリマーの無電解メッキ法が提案されている。非特許文献1に記載された方法によれば、有機金属錯体を超臨界状態の二酸化炭素に溶解させ、各種ポリマーに接触させることで、ポリマー表面内部に金属錯体を注入することができる。そして、金属錯体が注入されたポリマーに対して加熱や化学還元等の還元処理を行うことによりポリマー表面に金属微粒子を析出させる。これにより、ポリマー表面全体が無電解メッキ可能になる。このプロセスによれば、ポリマーの無電解メッキプロセスの廃液を削減できる。
【0004】
更に、近年、環境負荷の低減が益々重要視されている背景を踏まえ、大手スポーツメーカが、超臨界二酸化炭素を用いた無水染色をスポーツウエアに適用することを発表している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−150504号公報
【非特許文献1】堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
【非特許文献2】"ナイキが無水染色技術の量産利用を目指した戦略的パートナーシップを発表"、[online]、2012年2月9日、ビジネスワイヤ、[2012年9月12日検索]、インターネット〈URL:http://www.businesswire.com/news/home/20120208006847/ja/〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の超臨界状態等の加圧二酸化炭素を用いたポリマーの発泡や改質処理は、超臨界二酸化炭素の発生装置又は、二酸化炭素の加圧に必要な高価な加圧ポンプが必要となり、これらがコスト高の要因となっている。また、従来の加圧二酸化炭素を用いたポリマー処理方法では、ポリマー処理が行われる高圧容器や成形装置へ加圧二酸化炭素を安定に供給することが困難であった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、高コストの要因となっている加圧ポンプ等の特別な昇圧装置を用いることのない、低コストで実施可能なポリマーの処理方法を提供する。また、ポリマーの処理方法において、ポリマー処理が行われる高圧容器や成形装置へ安定して加圧二酸化炭素を供給する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従えば、ポリマーの処理方法であって、高圧容器の温度を所定温度に制御することと、前記高圧容器にポリマーを収容することと、加圧二酸化炭素に機能性材料を溶解することと、温度制御され、前記ポリマーが収容された前記高圧容器に、圧力が1.5〜8MPaである、前記機能性材料が溶解した加圧二酸化炭素を供給することと、前記高圧容器に供給された加圧二酸化炭素の圧力が、加圧二酸化炭素供給時の圧力より高くなるように、前記高圧容器の温度を制御することを含むポリマーの処理方法が提供される。
【0009】
本発明において、所定温度は−25〜30℃であってもよい。また、加圧二酸化炭素が供給された前記高圧容器の温度を加圧二酸化炭素供給時の温度より、15℃以上高い温度に制御してもよい。加圧二酸化炭素が供給された前記高圧容器の温度を制御することは、前記高圧容器を加熱することであってもよい。加圧二酸化炭素が供給された前記高圧容器の温度を制御することによって、前記高圧容器に供給された加圧二酸化炭素を前記ポリマーに浸透させる。これにより、高価な加圧ポンプ等の特別な昇圧装置を用いることなく、ポリマーに目的とする処理を施すことができる。
【0010】
前記高圧容器には、加圧二酸化炭素を貯蔵する第1の二酸化炭素貯蔵容器が接続されており、前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給することが、第1の二酸化炭素貯蔵容器に貯蔵される加圧二酸化炭素を貯蔵時の圧力を保持したまま、又は、貯蔵時の圧力から減圧して、前記高圧容器へ供給してもよい。また、前記高圧容器には、第1の液体二酸化炭素と第1の気体二酸化炭素とを含む第1の加圧二酸化炭素を貯蔵する第1の二酸化炭素貯蔵容器が接続されており、第1の二酸化炭素貯蔵容器には、第2の気体二酸化炭素を含む第2の加圧二酸化炭素を貯蔵する第2の二酸化炭素貯蔵容器が接続されており、前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給することが、第1の二酸化炭素貯蔵容器から、第1の液体二酸化炭素をサイフォン管を用いて前記高圧容器に供給することと、第2の気体二酸化炭素の圧力を第1の気体二酸化炭素の圧力よりも高く制御することと、第2の気体二酸化炭素を第1の二酸化炭素貯蔵容器に供給することを含んでもよい。また、第2の気体二酸化炭素の圧力を第1の気体二酸化炭素の圧力より、0.1〜3MPa高く制御してもよい。このように、第1及び第2の二酸化炭素貯蔵容器を用いることで、高圧容器へ加圧二酸化炭素を安定して供給することができる。更に、前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給することが、液体二酸化炭素を前記高圧容器に満充填することであってもよい。
【0011】
本発明は、前記高圧容器に加圧二酸化炭素を供給した後、前記高圧容器を回転させてもよい。また、前記高圧容器と前記第1の二酸化炭素貯蔵容器とを切り離し、前記高圧容器と前記第1の二酸化炭素貯蔵容器を切り離した後、前記高圧容器を回転させてもよい。前記高圧容器を回転させながら、加圧二酸化炭素が供給された前記高圧容器の温度を制御してもよい。本発明のポリマーの処理方法は、ポリマーの改質処理であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリマーの処理方法によれば、高価な加圧ポンプ等の昇圧装置を用いた昇圧工程を実施する必要がなく、低コストで加圧二酸化炭素を用いたポリマー処理を行うことができる。また、本発明のポリマー処理方法では、ポリマー処理が行われる高圧容器へ安定して加圧二酸化炭素を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態のポリマー処理方法を説明するフローチャートである。
図2図2は、参考例1及び2、並びに実施例1で使用したポリマー処理装置の概略図である。
図3図3は、図2に示すポリマー処理装置が備える円筒形容器のA-A’断面図である。
図4図4は、図2に示すポリマー処理装置が備える円筒形容器内に形成された流路の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態として、図1に示すフローチャートに従ってポリマーの処理方法を説明する。本明細書においてポリマーの処理とは、例えば、ポリマーの内部に発泡セルを形成する発泡処理、ポリマー中に含有される特定成分を抽出する抽出処理、ポリマーに機能性材料を浸透させることによりポリマーを改質する改質処理等が含まれる。いずれのポリマー処理方法も、以下に説明するように超臨界状態等の加圧二酸化炭素を用いて行われる。
【0015】
まず、高圧容器の温度を所定温度に制御し(図1のステップS1)、高圧容器に処理対象であるポリマーを収容する(同、ステップS2)。ここで「高圧容器」とは、超臨界状態等の加圧二酸化炭素を収容可能な耐圧性を有する容器を意味する。
【0016】
加圧二酸化炭素を導入する前における高圧容器の温度の制御方法は任意であるが、本実施形態では、容器の内部又は周囲に温度調節された水等の液体を循環させる流路を設け、流路内に循環させる液体の温度を制御することによって、高圧容器の温度を所定温度に制御する。所定温度としては、加圧二酸化炭素導入後の昇温による圧力上昇が容易となることから、−25〜30℃が好ましく、−10〜30℃がより好ましく、5〜20℃が更により好ましい。
【0017】
本実施形態の処理対象であるポリマーは、例えば、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ナイロン等のポリアミド、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテーテルエーテルケトン、ABS系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等の熱可塑性樹脂を用いることできる。また、ポリマーには、ガラス繊維、タルク、カーボン繊維等、各種無機フィラー等を混練させることもできる。ポリマーは、一種類のポリマーを用いても、又は、二種類以上のポリマーを混合して用いても良い。
【0018】
ポリマーの形状は、使用する高圧容器の内部に収容できる形状であれば任意であり、例えば、シート状、チップ状、ペレット状、ロッド状等種々の形状のポリマー成形体、糸状の化学繊維、化学繊維を加工した織布又は不織布等を用いることができる。シート状又は布状のポリマーは、セパレータを介して反物状に巻いた状態で高圧容器の内部に収容してもよく、糸状のポリマーは、芯材の周囲に巻きつけて芯材と共に高圧容器の内部に収容してもよい。尚、本実施形態において、高圧容器に収容するポリマーは固体であり、例えば、溶融状態のポリマーは除かれる。
【0019】
本実施形態では、高圧容器の温度を制御した後に高圧容器内にポリマーを収容するが、高圧容器にポリマーを収容した後に高圧容器の温度を制御してもよい。但し、量産性向上の観点からは、高圧容器の温度を制御した後に高圧容器内にポリマーを収容することが好ましい。
【0020】
次に、所定温度に温度制御され、ポリマーが収容された高圧容器に、圧力1.5〜8MPaである加圧二酸化炭素を供給する(図1のステップS3。以下、適宜「加圧二酸化炭素供給工程」と記す)。そして、高圧容器に供給された加圧二酸化炭素の圧力が、加圧二酸化炭素供給時の圧力より高くなるように、前記高圧容器の温度を制御する。本実施形態では、高圧容器を加熱する。高圧容器を加熱することにより、高圧容器内の加圧二酸化炭素を膨張させ、圧力を上昇させることができる(同、ステップS4。以下、適宜「高圧容器加熱工程」と記す)。
【0021】
高圧容器に供給された加圧二酸化炭素の圧力が、加圧二酸化炭素供給時の圧力より高くなるように、高圧容器の温度を制御することにより、加圧二酸化炭素のポリマーへの浸透性が向上する。そして、加圧二酸化炭素がポリマーに十分に浸透することによって、ポリマーに目的とする処理を施すことができる。本実施形態では、高圧容器の温度を制御することによって、ポリマー処理が可能な圧力まで加圧二酸化炭素の圧力を上昇させることができる。これにより、加圧ポンプ等の加圧二酸化炭素の昇圧設備を必要とせず、ポリマー処理コストを低減できる。
【0022】
加圧二酸化炭素供給工程では、供給される加圧二酸化炭素の圧力はポリマーに浸透可能な高い圧力である必要がない。加圧二酸化炭素供給工程では、加圧二酸化炭素はポリマーに浸透しないか、浸透したとしてもポリマー処理を行うには不十分な浸透量であっても問題がない。したがって、本実施形態では、ボンベ等の二酸化炭素貯蔵容器から、そこに貯蔵される加圧二酸化炭素を更に昇圧することなく高圧容器へ供給することができる。そのため、加圧二酸化炭素供給工程においても、加圧ポンプ等の加圧二酸化炭素の昇圧設備を必要としない。
【0023】
高圧容器へ供給する加圧二酸化炭素の圧力は、1.5〜8MPaである。加圧二酸化炭素の圧力が1.5MPa未満であると、冷温、低圧で加圧された液体二酸化炭素を貯蔵する断熱容器又は断熱貯槽が使用できなくなり量産性が悪化し、一方、8MPaを越えると、通常のボンベが使用できなくなる。また、圧力上昇が容易となり、更に、安定供給が容易であるという観点から、高圧容器へ供給する加圧二酸化炭素の圧力は、4〜8MPaであることが好ましく、5〜7MPaであることが更に好ましい。
【0024】
高圧容器への加圧二酸化炭素の供給は、二酸化炭素貯蔵容器に貯蔵される加圧二酸化炭素を貯蔵時の圧力を保持したまま、又は、貯蔵時の圧力から減圧して前記高圧容器へ供給してもよい。この場合、二酸化炭素貯蔵容器には、高圧容器への供給圧力以上の圧力で二酸化炭素が貯蔵されている。
【0025】
高圧容器に供給される加圧二酸化炭素は、液体状態又は、ガス(気体)状態の加圧二酸化炭素を用いることができる。上述したように、加圧二酸化炭素供給工程においては、加圧二酸化炭素はポリマーに浸透する必要がないので、加圧二酸化炭素は超臨界二酸化炭素である必要はない。加圧二酸化炭素は、密度が高く、安定して供給(液送)できることから、液体二酸化炭素が好ましい。また、高圧容器加熱工程において、高圧容器内に気体二酸化炭素が存在すると、昇温による昇圧時間が不安定となる。したがって、高圧容器に液体二酸化炭素を満充填することが更に好ましい。ここで、「満充填」とは、高圧容器内の空間において、ポリマー等の固体が占めるスペース以外のスペースを全て液体二酸化炭素が占め、空気や気体二酸化炭素等の気体が存在しない状態を意味する。本実施形態では、液体二酸化炭素を供給しながら、高圧容器内に存在する空気や気体二酸化炭素等の気体を排出する方法を用いて、液体二酸化炭素を高圧容器に満充填する。尚、高圧容器に供給される加圧二酸化炭素の供給量は、供給前後の高圧容器の重量を測定し、重量変化からもとめることができる。
【0026】
また、高圧容器に液体二酸化炭素を満充填しない場合には、例えば、計測器等を用いて所定重量の液体二酸化炭素を高圧容器に供給してもよい。この場合、高圧容器の容量とは別に、液体二酸化炭素の供給量を任意に設定(調整)することができる。高圧容器加熱工程において、高圧容器に供給された加圧二酸化炭素の圧力は上昇するが、加圧二酸化炭素の供給量を調整することで、高圧容器昇温後の加圧二酸化炭素の圧力(後述する「到達圧力」)を制御することが容易となる。
【0027】
本実施形態では、図2に示す、第1及び第2の二酸化炭素貯蔵容器10、12を備える二酸化炭素供給装置300を用いて、高圧容器100に液体二酸化炭素を供給する。高圧容器100には、第1の液体二酸化炭素13aと第1の気体二酸化炭素13bを含む第1の加圧二酸化炭素13を貯蔵する第1の二酸化炭素貯蔵容器10が接続されており、第1の二酸化炭素貯蔵容器10には、第2の気体二酸化炭素15bを含む第2の加圧二酸化炭素15を貯蔵する第2の二酸化炭素貯蔵容器12が接続されている。本実施形態では、第1の二酸化炭素貯蔵容器10から、第1の液体二酸化炭素13aをサイフォン管を用いて高圧容器100に供給し、一方で第2の気体二酸化炭素15bの圧力を第1の気体二酸化炭素13bよりも高く制御し、第2の気体二酸化炭素15bを第1の二酸化炭素貯蔵容器10に供給する。
【0028】
第1の二酸化炭素貯蔵容器10から第1の液体二酸化炭素13aを高圧容器に供給すると、第1の液体二酸化炭素13aの量が急激に減り断熱膨張により温度が下がり、液相(第1の液体二酸化炭素)13aと気相(第1の気体二酸化炭素)13bの界面において、液体二酸化炭素13aが気化する。これにより、第1の二酸化炭素貯蔵容器内の圧力、及び高圧容器への加圧二酸化炭素の供給圧力が変動して、高圧容器へ加圧二酸化炭素を安定供給できなくなる。また、ポリマーの処理としてポリマーの改質処理を行う場合に、機能性材料を第1の液体二酸化炭素13aへ溶解することがある。この場合には、液体二酸化炭素に溶解した機能性材料の濃度も変動してしまう。
【0029】
本実施形態では、第2の気体二酸化炭素15bの圧力を第1の気体二酸化炭素13bよりわずかに高く保ちつつ、第2の気体二酸化炭素15bを第1の第1の二酸化炭素貯蔵容器10に供給することで、第1の気体二酸化炭素13bの圧力を調整する。これにより、第1の二酸化炭素貯蔵容器内の圧力を安定化し、加圧二酸化炭素を高圧容器100へ常時安定供給することができる。
【0030】
二酸化炭素供給装置において、第1の加圧二酸化炭素の圧力は、安定性確保の観点から、7MPa以下が好ましく、1.5〜7MPaであることが更に好ましい。第2の気体二酸化炭素の圧力は、第1の加圧二酸化炭素の圧力を保持する観点から、第1の気体二酸化炭素よりも0.1〜3MPa高いことが好ましく、0.1〜1MPa高いことが更に好ましい。第2の気体二酸化炭素の圧力を第1の気体二酸化炭素よりも高く制御する方法は任意であるが、例えば、第2の加圧二酸化炭素貯蔵容器を加熱することにより、第2の気体二酸化炭素の圧力を上昇させてもよい。尚、本実施形態に用いる第1及び第2の二酸化炭素貯蔵容器を備える二酸化炭素供給装置300、並びに上述した二酸化炭素供給装置300を用いた加圧二酸化炭素の供給方法は、本実施形態においては高圧容器へ加圧二酸化炭素を供給することに用いているが、この用途に限定されず、加圧二酸化炭素を安定供給する必要がある種々の用途に用いることができる。
【0031】
高圧容器加熱工程(図1、ステップS4)において、高圧容器の加熱は任意の方法で行えるが、本実施形態では、上述のように容器の内部又は周囲に温度調節された水等の液体を循環させる流路を設け、流路内に循環させる液体によって高圧容器を直接加熱する。また、他の加熱方法としては、高圧容器の外部に高周波誘導加熱装置を設置し、高周波誘導加熱装置を用いて高圧容器を外部から間接的に加熱してもよい。この場合、高圧容器に温度センサーを設けて高圧容器の温度をモニターし、モニターした値を無線またはスリップリングを用いて高周波誘電装置にフィードバックすることで、高圧容器の温度を制御することができる。尚、本実施形態では、加圧二酸化炭素が供給された高圧容器を加熱することにより、高圧容器の温度を制御したが、高圧容器の温度制御方法は、これに限定されない。例えば、加圧二酸化炭素供給時の高圧容器の温度が室温以下であった場合は、高圧容器を加熱せず、単に放置しておいてもよい。高圧容器を放置することによって、高圧容器の温度は室温まで上昇し、内部の加圧二酸化炭素の圧力を加圧二酸化炭素供給時の圧力より高くすることができる。
【0032】
高圧容器加熱工程において、高圧容器の温度は、加圧二酸化炭素供給時の温度より15℃以上高い温度に達することが好ましい(以下、適宜、高圧容器加熱工程の「到達温度」と記載する)。到達温度と加圧二酸化炭素供給時の温度との差が15℃以上であれば、高圧容器内の加圧二酸化炭素の圧力がポリマーに十分に浸透可能な圧力まで上昇し、目的とする処理をポリマーに効率的に施すことができる。また、生産性向上やエネルギー削減の観点からは、高圧容器加熱工程の到達温度は、加圧二酸化炭素供給時の温度より、10〜40℃高いことが好ましく、10〜25℃高いことが更に好ましい。尚、本実施形態において、高圧容器加熱工程の到達温度は、その絶対値よりも加熱前の加圧二酸化炭素供給時の温度との温度差(相対値)が重要である。高圧容器に供給される加圧二酸化炭素は、その温度によって密度が異なり、低温であるほど密度が高い。したがって、供給時の加圧二酸化炭素が比較的低い温度であれば、高圧容器加熱工程の到達温度も比較的低い温度でよい。加熱前後において、適当な温度差があれば、加圧二酸化炭素は十分に膨張し、目的とする処理をポリマーに施すことが可能な圧力に達することができる。反対に、供給時の液体二酸化炭素が比較的高い温度であれば、高圧容器加熱工程の到達温度も比較的に高い温度となる。このように、高圧容器加熱工程の到達温度は、供給する時の加圧二酸化炭素の温度に依存して適宜決定することができるが、連続生産性やエネルギーロスの観点からは、到達温度の絶対値は、20〜80℃が好ましく、25〜45℃が更に好ましい。
【0033】
高圧容器加熱工程において、加圧二酸化炭素の圧力はポリマーに目的の処理を施すことが可能な圧力まで上昇する(この圧力を適宜、高圧容器加熱工程の「到達圧力」と記す)。高圧容器加熱工程の到達圧力は、高圧容器に所定の値に設定した背圧弁を設けることにより制御してもよい。高圧容器加熱工程の到達圧力は、8〜50MPaが好ましく、10〜30MPaがより好ましく、10〜20MPaが更により好ましい。
【0034】
高圧容器加熱工程において、例えば、ポリマー処理が機能性材料を用いたポリマーの改質処理であって、機能性材料の加圧二酸化炭素に対する溶解度が低い場合には、高圧容器内の加圧二酸化炭素は超臨界状態であることが好ましい。一方、上記溶解度が高い場合、又は二酸化炭素を相変化させることによるエネルギー消費を抑制したい場合には、高圧容器内の加圧二酸化炭素は、超臨界状態でないことが好ましい。高圧容器加熱工程において、加圧二酸化炭素を超臨界状態とするか否かは、目的とするポリマー処理の種類、処理対象であるポリマーの種類等に応じて、高圧容器加熱工程の到達温度及び到達圧力を制御することにより選択できる。
【0035】
高圧容器加熱工程において、加圧二酸化炭素の圧力及びポリマーへの浸透性が向上し、高圧容器内のポリマーを処理することが可能となるが、ここで、ポリマーの処理とは、例えば、ポリマーの発泡処理、ポリマー中に含有される特定成分の抽出処理、ポリマーの改質処理等が含まれる。ポリマーの発泡処理では、例えば、高圧容器加熱工程の後、ポリマーを高圧容器から取り出して加熱することで、ポリマーに浸透した加圧二酸化炭素が物理発泡剤として作用し、ポリマーを発泡させることができる。ポリマー中に含まれる特定成分の抽出処理では、ポリマー中に加圧二酸化炭素に溶解する物質が含有されている場合に、ポリマーに浸透した加圧二酸化炭素によって、加圧二酸化炭素中に前記物質を抽出することができる。また、ポリマーの改質処理では、金属微粒子等の機能性材料を加圧二酸化炭素に溶解、又は分散させ、加圧二酸化炭素と共にポリマーに浸透させ、機能性材料によりポリマーを改質することができる。
【0036】
ポリマーの改質処理に用いる機能性材料としては、加圧二酸化炭素に溶解又は分散でき、処理対象であるポリマーに所定の機能を付与できるものであれば特に制限されない。このような機能性材料としては、例えば、有機金属錯体、金属アルコキシド等の無機粒子或いはその前駆体、炭素繊維、ガラス繊維等の無機フィラー或いはその修飾化合物、各種樹脂のアロイ化を促進させるための相溶化剤、界面活性剤、染料、ナノカーボン、帯電防止剤、難燃材料などが挙げられる。例えば、機能性材料として染料を用いると、ポリマーを染色することができる(ポリマーの染色処理)。Pd、Ni、Pt、Cu等の金属微粒子、金属錯体、金属アルコキシド等の金属酸化物の前駆体を用いると、これらの機能性材料は無電解メッキの触媒として機能し、ポリマー表面に無電解メッキを施すことができる。また、Agの金属微粒子等を用いると、ポリマーに抗菌機能を付与することができる。
【0037】
ポリマー処理としてポリマーの改質処理を行う場合、予め機能性材料を加圧二酸化炭素に溶解させ、機能性材料が溶解した加圧二酸化炭素を高圧容器に供給してもよい。加圧二酸化炭素への溶解度が高い機能性材料の場合、二酸化炭素貯蔵容器において、予め機能性材料を加圧二酸化炭素に溶解させることができる。
【0038】
また、高圧容器の内部に機能性材料をポリマーと共に収容し、そこへ加圧二酸化炭素を導入してもよい。この場合、加圧二酸化炭素供給工程(図1、ステップS3)において、機能性材料は高圧容器に導入される加圧二酸化炭素に対して溶解度が低くてもよい。高圧容器加熱工程(同、ステップS4)において、加圧二酸化炭素の圧力が上昇すると共に、機能性材料の加圧二酸化炭素への溶解度及び加圧二酸化炭素のポリマーへの浸透性が向上し、加圧二酸化炭素と共に機能性材料がポリマーへ浸透して、ポリマーを機能性材料により改質することができる。
【0039】
更に、本実施形態では、加圧二酸化炭素供給工程(図1、ステップS3)の後、高圧容器を回転させてもよい。高圧容器を回転させることにより高圧容器の収容物を攪拌し、容器内部の温度、ポリマーと加圧二酸化炭素の接触頻度、加圧二酸化炭素中の機能性材料の濃度等を均一化することができる。更に、高圧容器を回転させることにより高圧容器の収容物を攪拌することは、他の攪拌手段と比較して以下に説明する利点を有する。
【0040】
本発明者らの検討によれば、ポリマーに加圧二酸化炭素を接触させて処理するポリマー処理法においては、高圧容器内の加圧二酸化炭素占有スペースを小さくすることが、ポリマーへの加圧二酸化炭素の浸透量を高める上で重要であることがわかった。高圧容器内の「加圧二酸化炭素占有スペース」とは、高圧容器内で加圧二酸化炭素又はそれに含まれる機能性材料が占有する空間を意味する。加圧二酸化炭素占有スペースを小さくするためには、高圧容器のポリマー占有体積を高めることが必要である。高圧容器内の加圧二酸化炭素占有スペースが全く無いと、高圧容器に加圧二酸化炭素を供給することが出来なくなるので、高圧容器内の加圧二酸化炭素占有スペースは、5〜50vol%が好ましく、5〜30vol%が更に好ましい。この傾向は、特にポリマーへ機能性材料を浸透させるポリマーの改質処理において顕著である。高圧容器の内部において加圧二酸化炭素占有スペースを小さくすることで、ポリマーへの機能性材料の浸透量、つまり分配効率を高めることができる。反対に、加圧二酸化炭素占有スペースが大きいと、ポリマー処理時間が長くなり量産性が低下するという問題も生じる。
【0041】
高圧容器内の温度等を均一化する目的で、高圧容器内に攪拌機を設置した場合、高圧容器に収容できるポリマーの量が減少してしまう。更に、上述した加圧二酸化炭素占有スペースが増加する可能性もあり、ポリマーの処理効率に悪影響を与える。高圧容器内を攪拌する他の方法としては、高圧容器の外部に循環ポンプ設け、循環ポンプと高圧容器とを配管で接続し、加圧二酸化炭素を循環させる方法が考えられる。しかし、ポリマーの存在しない配管は上述の加圧二酸化炭素占有スペースと同様にポリマーの処理効率を低下させ、更に配管での機能性材料の析出、残存等も問題になる。特に、機能性材料として染料を用いてポリマーの染色処理を行う場合、配管に染料が残存すると大きな問題となる。次回の染料処理において、残存した染料が加圧二酸化炭素に再溶解し、目的とするポリマーの色合い、濃度等を得られなくなるからである。
【0042】
本実施形態では、高圧容器そのものを回転することによって高圧容器の収容物を攪拌するので、高圧容器内の加圧二酸化炭素占有スペースは増加せず、外部に配管を設ける必要もない。したがって、ポリマーの処理効率を下げることなく、高圧容器内の温度、ポリマーと加圧二酸化炭素の接触頻度及び加圧二酸化炭素中の機能性材料の濃度等を均一化することができる。
【0043】
高圧容器の回転の前に、高圧容器と二酸化炭素貯蔵容器とを切り離し、その後、高圧容器を回転することが好ましい。高圧容器と二酸化炭素貯蔵容器とを切り離すことにより、高圧容器を安全及び簡便に回転させることができる。
【0044】
高圧容器と二酸化炭素貯蔵容器とを切り離すことは、高圧容器と二酸化炭素貯蔵容器とを接続する配管等を物理的に遮断して切り離すことのみならず、高圧容器と二酸化炭素貯蔵容器とを接続する配管に設けられているバルブを閉鎖することより、高圧容器と二酸化炭素貯蔵容器との間の流通を遮断することも意味する。高圧容器と二酸化炭素貯蔵容器とは、配管等を物理的に遮断して切り離した方が、高圧容器を回転させ易いため好ましい。しかし、高圧容器と二酸化炭素貯蔵容器とを配管等で接続した状態(バルブ等により流通を遮断した状態)であっても、高圧容器の回転方向を周期的に変化させることで、配管に負担をかけずに高圧容器を回転させることは可能である。
【0045】
また、高圧容器の回転は、高圧容器加熱工程(図1、ステップS4)中に、高圧容器を加熱しながら回転させてもよいし、高圧容器加熱工程後に回転させてもよいが、昇温中も高圧容器内の温度を均一化できることから、加熱しながら回転することが好ましい。
【0046】
また、回転方法は任意であり、高圧容器全体を回転させてもよいし、高圧容器内部にポリマーを収容する内部容器を設けて内部容器のみを回転させてもよい。コスト面やメンテナンス面を考慮すると、シール部が少なくて済み、加圧二酸化炭素占有スペースを低減できる等の利点のある、高圧容器全体を回転させる方式が好ましい。また、高圧容器の回転手段は任意であり、例えば、ローラー式攪拌機や、電磁誘導方式を用いた装置により回転させることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び参考例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例及び参考例により制限されない。
【0048】
参考例1
本参考例では、ポリマーとして厚み0.5mmのポリエチレンテレフタレート(PET)シートを用いて、ポリマーの発泡処理を行った。
【0049】
[ポリマー処理装置]
本参考例のポリマー処理方法に使用したポリマー処理装置について説明する。図2に示すポリマー処理装置1000は、主に、内部に処理対象となるポリマーを収容する高圧容器100と、高圧容器100の温度を制御する温度制御機構200と、高圧容器100へ加圧二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給装置300と、高圧容器100を回転させることにより、高圧容器の収容物を攪拌するローラー式攪拌機400と、高圧容器100から二酸化炭素を排気する二酸化炭素排出機構500を備える。
【0050】
高圧容器100は、中心軸mを回転中心とし、一方の底面1aに開口部を有する円筒形容器1と、円筒形容器1の開口部を封止可能な容器蓋2と、円筒形容器1の他方の底面1bに取り付けられる円筒形容器保持部材3を備える。円筒容器保持部材3には、円筒形容器保持部材3を貫通する2つの貫通穴3a、3bがそれぞれ形成されている。円筒形容器1及び容器蓋2は、中心軸mを回転軸として回転可能である。一方、円筒形容器保持部材3は、図示しない支持体によりポリマー処理装置1000の設置部位に固定されている。円筒形容器保持部材3は、ベアリングを介して円筒形容器1を回転可能に保持している。
【0051】
円筒形容器1は、内槽4と、内槽4に溶接された外槽5を有し、これらにより二重構造が形成されている。内槽4の内部空間6には処理対象となるポリマーが収容され、内槽4と外槽5との間には温度調節された水が循環する流路7が形成される。本参考例では、内部空間6の容積が20Lである高圧容器100を用いた。
【0052】
図3に示すように、内槽4及び外槽5の間には、内槽4と外槽5とを接続する接続部45a、45bが存在する。接続部45a、45bは、中心軸mと並行に延在し、中心軸mを対称軸とした回転対称な位置関係に配置されている。したがって、図4に示すように、流路7の形状は略円筒形であるが、接続部45a、45bにより一方の端部7aから2分割され、半円筒状の流路7b、7cを形成している。接続部45a、45bは流路7の他方の端部7dには達しておらず、流路7b、7cは、他方の端部7d付近で合流している。
【0053】
図2に示すように、流路7の一方の端部7aは、円筒形容器1の底面1bに達している。したがって、流路7は円筒形容器1の底面1bにおいて円筒形容器保持部材3の貫通穴3a、3bと通じている。一方、流路7の他方の端部7dは、円筒形容器1の底面1aには達していない。
【0054】
更に、円筒形容器1の底面1a付近の側面下部には、内部空間6へ加圧二酸化炭素を供給するための導入口19が設けられ、側面上部には、内部空間6から二酸化炭素を排出するための排出口20が設けられている。導入口19及び排出口20には、二酸化炭素供給装置300、二酸化炭素排出機構500がそれぞれ接続している。更に、導入口19には、二酸化炭素供給装置300とは別に、圧力計P6及び背圧弁23が接続している。背圧弁23を所定の圧力に設定することで、高圧容器100へ加圧二酸化炭素を供給した後の高圧容器100内部の圧力を所定の圧力以下に保持することができる。
【0055】
温度制御機構200は、水の温度を−20〜45℃に制御可能な温度制御機構と、温度制御した水を外部装置へ循環させる循環ポンプを備える。温度制御機構200からは、2本のホース8a、8bが伸びており、高圧容器100の円筒形容器保持部材3の2つの貫通穴3a、3bにそれぞれ接続している。温度制御機200は、温度制御した水をホース8a、8b及び貫通穴3a、3bを介して、高圧容器100内の流路7へ循環させることにより、高圧容器100の温度を制御する。本参考例の円筒形容器1は回転するが、流路7は円筒形容器1の底面1bにおいて、回転しない円筒形容器保持部材3の貫通穴3a、3bと常に接している。これにより、円筒形容器1が回転中であっても、温度制御機構200は、温度制御した水を流路7へ循環させて高圧容器100の温度を制御することができる。
【0056】
二酸化炭素供給装置300は、主に、並列に接続された3つの第1の二酸化炭素貯蔵容器10と、3つの第1の二酸化炭素貯蔵容器10を覆う断熱壁11と、断熱壁11内部の温度を制御する図示しない空気調節機と、断熱壁11の外に配置され、3つの第1の二酸化炭素貯蔵容器10に並列に接続される第2の二酸化炭素貯蔵容器12を備える。本参考例では、第1及び第2の二酸化炭素貯蔵容器10、12として、30kg入り二酸化炭素ボンベを用いた。
【0057】
第1の二酸化炭素貯蔵容器10は、内部に充填(密閉)された液相(第1の液体二酸化炭素)13aと気相(第1の気体二酸化炭素)13bからなる第1の加圧二酸化炭素13と、第1の二酸化炭素貯蔵容器10から液相13aを取り出すためのサイフォン管14を備える。
【0058】
第2の二酸化炭素貯蔵容器12は、内部に充填(密閉)された液相(第2の液体二酸化炭素)15aと気相(第2の気体二酸化炭素)15bからなる第2の加圧二酸化炭素15と、第2の二酸化炭素貯蔵容器の気相15bを取り出す管16と、第2の二酸化炭素貯蔵容器12の下部に取り付けられ、第2の二酸化炭素貯蔵容器12を加熱するヒーター17を備える。第2の二酸化炭素貯蔵容器は、減圧弁18を介して、3つの第1の二酸化炭素貯蔵容器10に並列に接続している。また、3つの第1の二酸化炭素貯蔵容器10及び第2の二酸化炭素貯蔵容器12には、それから取り出される加圧二酸化炭素の圧力を示す圧力計P1〜P4がそれぞれ設けられており、更に、減圧弁18と第1の二酸化炭素貯蔵容器10の間には圧力計P5が設けられている。
【0059】
3つの第1の二酸化炭素貯蔵容器10は、接続ジョイント21及びバルブ22を介して、円筒形容器1の下部に設けられた導入口19に接続している。二酸化炭素供給装置300は、第1の二酸化炭素貯蔵容器10内の液相13aをサイフォン管14を用いて、高圧容器100の内部空間6へ供給する。また、第1の二酸化炭素貯蔵容器10内の液相13aの量が減少すると、高圧容器100へ供給する加圧二酸化炭素の供給圧力が低下して不安定になるが、本参考例では、第1の二酸化炭素貯蔵容器10へ第2の二酸化炭素貯蔵容器12から気相15bを供給し、第1の二酸化炭素貯蔵容器10内の力の低下を防ぐことができる。尚、高圧容器100と第1の二酸化炭素貯蔵容器10とは、接続ジョイント21で切り離すことによって、物理的に分離することができる。
【0060】
ローラー式攪拌機400は、中心軸mと並行に延在する複数本の円柱状のローラー26と、ローラー26を回転させる回転台27を備え、複数本のローラー26上に高圧容器100が回転可能に戴置される。ローラー式攪拌機400は、ローラー26を回転させることにより、その上に戴置される高圧容器100を回転させる。したがって、ローラー26の回転方向と、高圧容器100の回転方向は、互いに逆回転となる。ローラー26の回転方向、回転速度及び回転時間を制御することにより、高圧容器100の回転方向、回転速度及び回転時間を制御することができる。
【0061】
二酸化炭素排出機構500は、主に、排出される二酸化炭素の質量と流量を計測可能なコリオリ流量計30と、排出される二酸化炭素に機能性材料等が含有されている場合に二酸化炭素から機能性材料を遠心分離するサイクロン31から構成される。コリオリ流量計30及びサイクロン31は、それぞれ排気バルブ32、33を介して接続ジョイント34に接続し、更に、自動バルブ35を介して円筒形容器1の上部に設けられた排出口20に接続している。尚、高圧容器100と二酸化炭素排出機構500とは、接続ジョイント34を切り離すことによって、物理的に分離することができる。
【0062】
[ポリマー処理]
まず、上述したポリマー処理装置1000において、温度制御機構200から冷却水を高圧容器100内部に設けられた流路7へ循環させ、高圧容器100の温度を10℃に制御(冷却)した。
【0063】
次に、高圧容器100の容器蓋2を取り外し、円筒形容器1の開口部から内部空間6へPETシートを挿入し、PETシートを高圧容器100に収容した。内部空間6内に収容するPETシートの量(仕込み量)を増やして高圧容器内の加圧二酸化炭素占有スペースを減らすために、PETシートはセパレータを介して反物状に巻いた状態で収容した。セパレータを介して巻くことで、PETシートが重なり合う部分が加圧二酸化炭素と接触しやすくなる。このとき、高圧容器内は常圧であり、常圧下においてPETシート及びセパレータは高圧容器の内容積の90vol%を占めた。したがって、本参考例における加圧二酸化炭素占有スペースは、10vol%であった。
【0064】
円筒形容器1の開口部を容器蓋2により封止した後、高圧容器100と二酸化炭素供給装置300との間のバルブ22を開放し、二酸化炭素供給装置300から第1の二酸化炭素貯蔵容器10の貯蔵する液相13aをサイフォン管14で吸い上げ、図示しない高圧流量計で調整しながら100ml/minの一定流量で、高圧容器100下部に設けられた導入口19より液体二酸化炭素を内部空間6へ供給した。液体二酸化炭素の供給圧力は、各第1の二酸化炭素貯蔵容器10に設けた圧力計P1〜P3により測定し、6.0〜6.5MPaとした。
【0065】
本参考例では、二酸化炭素供給装置300において、3つの第1の二酸化炭素貯蔵容器10を覆う断熱壁11の内部は図示しない空気調節機により20±3℃に制御した。第1の二酸化炭素貯蔵容器10において、高圧容器100へ第1の液体二酸化炭素13aを供給することによりその量が減少すると、第1の液体二酸化炭素(液相)13aと第1の気体二酸化炭素(気相)13bの界面で液相が気化し、高圧容器100への第1の液体二酸化炭素13aの供給圧力が低下するという不都合が生じる。本参考例では、第1の二酸化炭素貯蔵容器10に接続される第2の二酸化炭素貯蔵容器12をヒーター17により加熱し、30〜35℃程度に制御した。これにより、第2の二酸化炭素貯蔵容器内の第2の気体二酸化炭素15bの圧力が上昇し、第2の二酸化炭素貯蔵容器12に設けた圧力計P4の表示は7.5〜8.5MPaとなった。第1の二酸化炭素貯蔵容器10と第2の二酸化炭素貯蔵容器12との間に設けた圧力計P5が示す値が6.5MPaとなるように、減圧弁18により第2の気体二酸化炭素15bの圧力を減圧した後、第1の二酸化炭素貯蔵容器10に導入した。このように、本参考例では、第1の加圧二酸化炭素13よりも圧力の高い第2の気体二酸化炭素15bを第1の二酸化炭素貯蔵容器10へ供給することにより、第1の液体二酸化炭素13aの量が減少しても、高圧容器100への加圧二酸化炭素の供給圧力は低下することがなく、各圧力計P1〜P3の表示は、6.0〜6.5MPaに安定に維持された。
【0066】
また、本参考例では、次に説明する方法により、高圧容器100の内部空間6に液体二酸化炭素を満充填した。高圧容器100と二酸化炭素排出機構500との間に設けられた自動バルブ35、更にコリオリ流量計30へ続く排気バルブ32を開き、液体二酸化炭素を高圧容器100下部に設けられた導入口19より内部空間6へ供給しながら、高圧容器100上部に設けられた排出口20から、内部空間6に存在する空気、気体二酸化炭素等の気体を排出した。排出口20から排出された気体は、コリオリ流量計30により質量をモニターし、密度の高い液体二酸化炭素を検知したタイミングで自動バルブ35を閉じた。これにより、高圧容器100の内部空間6に液体二酸化炭素を満充填できた。本参考例では、圧力約6MPaである液体二酸化炭素を約1.5kg、高圧容器100に充填した。加圧二酸化炭素の供給量は、高圧容器100が戴置されている円柱状ローラー26を介して供給前後の高圧容器100の重量を測定し、供給前後の重量変化からもとめた。
【0067】
高圧容器100の内部空間6を液体二酸化炭素で満充填した後、接続ジョイント21、34において、二酸化炭素供給装置300、二酸化炭素排出機構500をそれぞれ高圧容器100から物理的に切り離した。二酸化炭素供給装置300、二酸化炭素排出機構500をそれぞれ高圧容器100から切り離した後、ローラー式攪拌機400のローラー26を回転されることにより、その上に戴置されている高圧容器100を回転速度50rpmで回転させた。高圧容器を回転させながら、温度制御機構200から温度制御した水を流路7へ循環させて高圧容器100を加熱し、高圧容器100の温度を40℃に制御した。高圧容器100の温度が上昇したことに伴い、高圧容器100内部の加圧二酸化炭素の圧力も上昇した。本参考例では、導入口19に接続する背圧弁23の値を20MPaに設定することで、高圧容器100内部の圧力が20MPaを越えないように調整した。
【0068】
高圧容器100内部の圧力が20MPaに達した後、高圧容器100を回転させながら、その状態で2時間保持した。その後、温度制御機構200から冷却水を高圧容器100内の流路7へ循環させ、高圧容器100冷却し、その温度を10℃に制御した。このとき、高圧容器100内の圧力は5MPaまで低下した。その後、ローラー式攪拌機400のローラー26の回転を停止させることにより、高圧容器100の回転を停止した。高圧容器100の回転停止後、接続ジョイント34において、二酸化炭素排出機構500を接続した。高圧容器100と二酸化炭素排出機構500の間に設けられている自動バルブ35及び排気バルブ33を開放し、高圧容器100内部の二酸化炭素を排出することで、高圧容器100内部の圧力を大気圧まで低下させた。尚、本参考例では、排気する二酸化炭素には機能性材料等は含まれていないので、サイクロン31は使用しなかった。
【0069】
高圧容器100の容器蓋2を取り外し、内部空間6からPETシートを取り出した。PETシートは、十分に冷却された状態であり発泡していなかった。次に、高圧容器100から取り出した反物状のPETシートを広げて反物状に丸める前の状態に戻し、150℃の電気炉で5分間加熱した。加熱されたPETシートは発泡した。発泡したPETシートに形成された発泡セルの平均セル径は0〜15μm程度と微細であった。この結果から、本参考例では、ポリマー処理装置1000において実施した処理により、PETシートに発泡セルを形成するのに十分な量の加圧二酸化炭素を浸透させることができたことがわかった。
【0070】
参考例2
本参考例では、ポリマーとして糸状のナイロン繊維を用い、機能性材料として染料を用いてポリマーの改質処理(染色処理)を行った。ナイロンとしてナイロン6を用い、染料として青色染料であるBlue35を用いた。本参考例のポリマー処理には、参考例1と同様に図2に示すポリマー処理装置1000を用いた。
【0071】
まず、参考例1と同様の方法で、高圧容器100の温度を10℃に制御(冷却)した。次に、ナイロン繊維を円筒状の芯材の周囲に巻き付けた状態で、円筒形容器1の開口部から内部空間6へ挿入し、ナイロン繊維を高圧容器100に収容した。このとき、高圧容器内は常圧であり、常圧下においてナイロン繊維及び芯材は高圧容器の内容積の93vol%を占めた。したがって、本参考例における加圧二酸化炭素占有スペースは、7vol%であった。
【0072】
更に、本参考例では、ナイロン繊維と共に青染料も粉末状態のまま高圧容器100内へ20g収容した。本参考例で用いた青染料(Blue35)は、加圧二酸化炭素への溶解度が低く、二酸化炭素供給装置300の第1の二酸化炭素貯蔵容器10の液相13aに溶解させることは困難だからである。
【0073】
次に、参考例1と同様の方法で、二酸化炭素供給装置300から第1の二酸化炭素貯蔵容器10の貯蔵する液相13aを高圧容器100の内部空間6へ供給し、内部空間6に液体二酸化炭素を満充填した。本参考例では、圧力約6MPaである液体二酸化炭素を約1.2kg高圧容器100に充填した。尚、この時点では、青染料は、供給された加圧二酸化炭素と接触しているが、加圧二酸化炭素への溶解度が低いため十分に溶解していないと考えられる。
【0074】
高圧容器100の内部空間6を液体二酸化炭素で満充填した後、参考例1と同様の方法で、二酸化炭素供給装置300、二酸化炭素排出機構500をそれぞれ高圧容器100から物理的に切り離した。高圧容器100から二酸化炭素供給装置300及び二酸化炭素排出機構500を切り離した後、参考例1と同様の方法で、高圧容器100を回転速度50rpmで回転させながら加熱し、高圧容器100の温度を40℃に制御した。高圧容器100の温度が上昇したことに伴い、高圧容器100内部の加圧二酸化炭素の圧力も上昇した。本参考例では、導入口19に接続する背圧弁23の設定値を参考例1よりも高い30MPaとした。高圧容器100内の加圧二酸化炭素の到達圧力は、22MPaであった。このように、背圧弁23の設定値を高く設定することで、処理中に加圧二酸化炭素及び染料が高圧容器の外部に排気されることを防止した。
【0075】
高圧容器100内部の圧力が22MPaに達した後、高圧容器100を回転させながら、その状態で1時間保持した。その後、本参考例では、参考例1とは異なり、高圧容器100を冷却せずに高圧容器100の回転を停止した。高圧容器100の回転停止後、接続ジョイント34において、二酸化炭素排出機構500を接続した。高圧容器100と二酸化炭素排出機構500の間に設けられている自動バルブ35、排気バルブ33を開放し、高圧容器100内部の二酸化炭素を排出した。二酸化炭素の排出時、サイクロン31を駆動させ、ナイロン繊維に浸透せず、排出される二酸化炭素中に含有される染料を遠心分離することにより回収した。
【0076】
加圧二酸化炭素の排出後、高圧容器100の容器蓋2を取り外し、内部からナイロン繊維を取り出した。ナイロン繊維は濃い青に染色されていた。この結果から、ポリマー処理装置1000において実施した処理により、ナイロン繊維を染色するのに十分な量の染料が、加圧二酸化炭素と共にナイロン繊維に浸透したことがわかった。高圧容器100を加熱することで、その内部の加圧二酸化炭素の温度及び圧力が上昇し、それに伴って青染料の加圧二酸化炭素への溶解度も上昇し、加圧二酸化炭素と共に染料がナイロン繊維に浸透したと推測される。
【0077】
更に、染色されたナイロン繊維をエタノールに1週間浸漬させた。エタノールは、染料の良溶媒である。1週間の浸漬後、エタノールは着色しなった。この結果から、本参考例で染色されたナイロン繊維が超臨界無水染色の利点である高堅牢性を有することがわかった。
【0078】
実施例1
本実施例では、ポリマーとして厚み0.5mmのナイロンシートを用い、機能性材料として無電解メッキの触媒として機能するパラジウム錯体を用いてポリマーの改質処理を行った。ナイロンとしてナイロン6を用い、パラジウム錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。本実施例のポリマー処理には、参考例1と同様に図2に示すポリマー処理装置1000を用いた。
【0079】
まず、参考例1と同様の方法で、高圧容器100の温度を10℃に制御(冷却)した。次に、参考例1と同様に、ナイロンシートをセパレータを介して反物状に巻いた状態で、円筒形容器1の開口部から内部空間6へ挿入し、ナイロンシートを高圧容器100に収容した。このとき、高圧容器内は常圧であり、常圧下においてナイロンシート及びセパレータは高圧容器の内容積の95vol%を占めた。したがって、本実施例における加圧二酸化炭素占有スペースは、5vol%であった。
【0080】
本実施例に用いたパラジウム錯体は、加圧二酸化炭素に対する溶解度が高く、液体二酸化炭素に溶解する。本実施例では、二酸化炭素供給装置300の第1の二酸化炭素貯蔵容器10に貯蔵される第1の液体二酸化炭素13aにパラジウム金属錯体を溶解させた。液体二酸化炭素中のパラジウム錯体濃度は0.1g/Lとした。
【0081】
参考例1と同様の方法で、パラジウム錯体の溶解した第1の液体二酸化炭素13aを高圧容器100の内部空間6へ供給し、内部空間6に液体二酸化炭素を満充填した。本実施例では、圧力約6MPaである液体二酸化炭素を約1.0kg高圧容器100に充填した。
【0082】
高圧容器100の内部空間6に液体二酸化炭素を満充填した後、参考例1と同様の方法で、二酸化炭素供給装置300、二酸化炭素排出機構500をそれぞれ高圧容器100から物理的に切り離した。高圧容器100から二酸化炭素供給装置300及び二酸化炭素排出機構500を切り離した後、参考例1と同様の方法で、高圧容器100を回転速度50rpmで回転させながら加熱し、高圧容器100の温度を40℃に制御した。高圧容器100の温度が上昇したことに伴い、高圧容器100内部の加圧二酸化炭素の圧力も上昇した。本実施例では、導入口19に接続する背圧弁23の設定値は、参考例2と同様に30MPaとした。高圧容器100内の加圧二酸化炭素の到達圧力は、22MPaであった。このように、背圧弁23の設定値を高く設定することで、参考例2と同様に、処理中に加圧二酸化炭素及びパラジウム錯体が高圧容器の外部に排気されることを防止した。
【0083】
高圧容器100内部の圧力が22MPaに達した後、高圧容器100を回転させながら、その状態で1時間保持した。その後、本実施例では、参考例2と同様に、高圧容器100を冷却せずに高圧容器100の回転を停止した。高圧容器100の回転停止後、接続ジョイント34において、二酸化炭素排出機構500を接続した。高圧容器100と二酸化炭素排出機構500の間に設けられている自動バルブ35、排気バルブ33を開放し、高圧容器100内部の二酸化炭素を排出した。二酸化炭素の排出時、サイクロン31を駆動させ、ナイロンシートに浸透せず、排出される二酸化炭素中に含有されるパラジウム錯体を遠心分離することにより回収した。
【0084】
加圧二酸化炭素の排出後、高圧容器100の容器蓋2を取り外し、内部からナイロンシートを取り出した。ナイロンシートは、本来の白色から薄茶色に変色していた。この変色は、パラジウム錯体がナイロンシートに浸透していることを示す。
【0085】
次に、高圧容器100から取り出した反物状のナイロンシートを広げて反物状に丸める前の状態に戻し、ナイロンシートに浸透したパラジウム錯体を熱還元するために、150℃の電気炉で10分間加熱した。
【0086】
ナイロンシートを電気炉で加熱した後、200mm×200mmの大きさに切り出し、以下に説明する方法で無電解メッキを行った。まず、ナイロンシートを80℃、濃度75vol%の1,3−ブタンジオール水溶液に5分間浸漬し、その後、85℃の無電解ニッケルリンメッキ液(奥野製薬工業製、トップニコロンRCH)に浸漬した。浸漬後5分で、ナイロンシート全面にニッケルリン膜が形成された。
【0087】
次に、ニッケルリン膜の上に、電解メッキ法により、銅メッキ膜を20μm形成し、ニッケルリン膜及び銅メッキ膜からなる金属膜を有する試料を作製した。作製した試料の金属膜の密着強度を引っ張り試験機を用いて測定した。その結果、本実施例で作製した試料の金属膜は10N/cmと高い密着強度を有していた。
【0088】
以上の結果から、本実施例では、ポリマー処理装置1000において実施した処理により、加圧二酸化炭素と共にパラジウム錯体がナイロンシートに浸透し、ナイロンシートが無電解メッキ可能なように改質されたことがわかった。また、本実施例で処理されたナイロンシートは、無電解メッキ液に浸漬後5分という短時間でメッキ膜を形成することができ、更に、形成されたメッキ膜が高い密着強度を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のポリマーの処理方法は、高価な加圧ポンプ等の昇圧装置を用いた昇圧工程を実施することなく、低コストで加圧二酸化炭素を用いたポリマー処理を行うことができる。また、本発明のポリマーの処理方法では、ポリマー処理が行われる高圧容器へ安定して加圧二酸化炭素を供給することができる。更に、本発明のポリマーの処理方法は、プラスチックの無電解メッキプロセスや無水染色にも応用でき、廃液を削減し環境負荷を低減できる。
【符号の説明】
【0090】
1 円筒形容器
2 容器蓋
3 円筒形容器保持部材
4 内槽
5 外槽
6 内部空間
7 流路
m 中心軸
10 第1の二酸化炭素貯蔵容器
11 断熱壁
12 第2の二酸化炭素貯蔵容器
13 第1の加圧二酸化炭素
13a 第1の液体二酸化炭素
13b 第1の気体二酸化炭素
14 サイフォン管
15 第2の加圧二酸化炭素
15a 第2の液体二酸化炭素
15b 第2の気体二酸化炭素
16 管
17 ヒーター
26 ローラー
27 回転台
30 コリオリ流量計
31 サイクロン
21、34 接続ジョイント
100 高圧容器
200 温度制御機構
300 二酸化炭素供給装置
400 ローラー式攪拌機
500 二酸化炭素排出機構
1000 ポリマー処理装置
図1
図2
図3
図4