(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0015】
本発明の電子伝導性材料内包活物質はキュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料を内包することを特徴とする。すなわち、本発明の電子伝導性材料内包活物質は、二次電池に用いられる従来の活物質の内部にキュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料が含まれているものである。
【0016】
活物質としては、正極活物質でもよく、負極活物質でもよい。
【0017】
正極活物質としては公知のもので良い。例えば、リチウム二次電池用の正極活物質の場合、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な材料であれば良く、LiCoO
2等のコバルト複合酸化物、LiMn
2O
4、Li
2MnO
3等のマンガン複合酸化物、LiNiO
2等のニッケル複合酸化物、LiFePO
4、Li
2FeSO
4、LiFeVO
4等の鉄複合酸化物、Li
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Zr、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1) で表される化合物、Li
2MnO
2、Li
2MnO
3、LiFePO
4、Li
2FeSO
4、LiMPO
4、LiMVO
4又はLi
2MSiO
4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)で表される化合物を挙げることができる。
【0018】
リチウム二次電池用の正極活物質としては、高容量である点から、層状岩塩構造のLi
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦1、b+c+d+e=1、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Zr、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)が好ましく、このうち、0<b<70/100、0<c<50/100、10/100<d<1の範囲内のものが好ましく、1/3≦b≦50/100、20/100≦c≦1/3、1/3≦d<1の範囲内のものがより好ましく、b=1/3、c=1/3、d=1/3、または、b=50/100、c=20/100、d=30/100のものが特に好ましい。a、e、fについては、上述の範囲内の数値であれば特に制限は無い。例えば、a=1、e=0、f=2を例示できる。
【0019】
負極活物質としては公知のもので良い。例えば、リチウム二次電池用の負極活物質の場合、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物などを挙げることができる。
【0020】
炭素材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類を例示できる。
【0021】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biを例示でき、特にリチウムを高容量で吸蔵及び放出可能なSiまたはSnが好ましい。
【0022】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にCuSn、CoSn、ZnLiAl、AlSb、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Sn、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、 CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
v(0<v≦2)、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSiO あるいはLiSnOを例示でき、特にリチウムを高容量で吸蔵及び放出可能なSiO
x(0.5≦x≦1.7)が好ましい。
【0023】
電子伝導性材料について説明する。本発明で意味する電子伝導性材料とは、キュリー温度が30〜400℃の範囲内の強誘電体材料である。キュリー温度とは、強誘電体が常誘電体に変化する転移温度のことであり、強誘電体が自発分極を失う温度である。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛として知られるPbZr
xTi
1−xO
3(0≦x≦1)は、その結晶構造が常温では自発分極した強誘電体の正方晶であるが、キュリー温度を超えると、自発分極を失った常誘電体の立方晶に転移する。本発明の電子伝導性材料は30〜400℃で自発分極を失い、活物質内で電子の移動に何ら関与しない絶縁体となる。そのため、電子伝導性材料内包活物質はキュリー温度以上の温度で高抵抗を示す。本発明の電子伝導性材料を、30〜400℃で抵抗が増加するPTC材料と把握することもできる。
【0024】
なお、キュリー温度が30℃未満のものは、二次電池が通常使用される常温で高抵抗となるため、活物質に内包される電子伝導性材料として好ましくない。キュリー温度が400℃を超えるものは、二次電池を構成する有機物の分解温度又は燃焼温度付近で高抵抗となるが、そのような温度で高抵抗を示しても二次電池の安全性に寄与するとはいえないため、好ましくない。このような観点でみると、本発明の電子伝導性材料はキュリー温度が30〜400℃の範囲内のものであるが、キュリー温度が50〜300℃の範囲内のものが好ましく、70〜200℃の範囲内のものがより好ましく、90〜150℃の範囲内のものが特に好ましい。
【0025】
本発明の電子伝導性材料としては、BaTiO
3、PbZr
xTi
1−xO
3(0<x<1)、Pb
1−xLa
xTi
1−yZr
yO
3(0<x<1、0<y<1)などの常温(25℃)で強誘電体の複合金属酸化物を挙げることができる。これらの材料に対しアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素などの金属元素を有する化合物を添加したものを焼結した焼結体を、本発明の電子伝導性材料として用いても良い。このような材料は、例えば、一般式Ba
1−xTi
1−yM
1xM
2yO
3(M
1、M
2はそれぞれ1種類以上の金属元素である。0≦x<1、0≦y<1)で表される。M
1、M
2としては、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、ランタノイド、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、Fr、Ra、アクチノイドが挙げられる。
【0026】
また、強誘電体として知られるKNbO
3は、そのキュリー温度が435℃であるため、本発明の電子伝導性材料ではないが、KNbO
3に対し金属化合物を添加したものを焼結しキュリー温度を低下させた焼結体を、本発明の電子伝導性材料として用いても良い。この材料は一般式K
1−xNb
1−yM
1xM
2yO
3(M
1、M
2はそれぞれ1種類以上の金属元素である。0≦x<1、0≦y<1、0<x+y<2)で表される。M
1、M
2としては、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、ランタノイド、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、Fr、Ra、アクチノイドが挙げられる。
【0027】
さらに、本発明の電子伝導性材料としては、BaTiO
3よりも比誘電率が低いことで知られる、強誘電体の一般式Ti
vM
1WM
2xM
3yO
z(M
1、M
2、M
3はそれぞれ金属元素である。0≦v≦1、0≦w≦1、0≦x≦1、0≦y≦1、0<z≦3)で表される材料を挙げることができる。M
1、M
2、M
3としては、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、ランタノイド、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、Fr、Ra、アクチノイドが挙げられる。一般式Ti
vM
1WM
2xM
3yO
zで表される材料の具体例としては、Ti
vSr
WCa
xZr
yO
2、Sr
wCa
xO、Ti
vZr
yOを挙げることができる。
【0028】
本発明の電子伝導性材料としてこれらの材料を単独で用いても良いし又は複数を併用してもよい。上記材料のキュリー温度は、特許文献4乃至8などの多くの文献で明らかにされている。例えば、BaTiO
3のキュリー温度は120℃付近であり、Ba
0.94Sn
0.06TiO
3のキュリー温度は80℃付近である。チタン酸ジルコン酸鉛として知られるPbZr
xTi
1−xO
3(0<x<1)のキュリー温度はxの値に左右されるが概ね200〜330℃である。チタン酸ジルコン酸ランタン鉛として知られるPb
1−xLa
xTi
1−yZr
yO
3(0<x<1、0<y<1)のキュリー温度はx及びyの値に左右されるが概ね70〜350℃である。
【0029】
本発明の電子伝導性材料内包活物質は、活物質の内部にキュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料が含まれ、活物質と電子伝導性材料とが一体化しているものである。ここで、電子伝導性材料内包活物質における電子伝導性材料と活物質の状態は、両者が混じり合って固相となった固溶体であるのが好ましく、特に電子伝導性材料の結晶構造が電子伝導性材料内包活物質中で維持されているものが良い。
【0030】
本発明の電子伝導性材料内包活物質における活物質と電子伝導性材料との質量比は、活物質:電子伝導性材料=100:1〜1:1の範囲内が好ましく、19:1〜3:2の範囲内がより好ましく、9:1〜13:7の範囲内が特に好ましい。電子伝導性材料の質量が多すぎると、電子伝導性材料内包活物質の活物質としての性能が著しく劣る場合がある。
【0031】
本発明の電子伝導性材料内包活物質の製造方法は、活物質及びキュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料をプラズマに導入する導入工程と、前記プラズマ中で前記活物質及び前記電子伝導性材料を融解して融解体とする融解工程と、前記融解体を冷却し、前記活物質と前記電子伝導性材料との固溶体を形成する固溶体形成工程と、を有することを特徴とする。
【0032】
導入工程は、活物質及びキュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料をプラズマに導入する工程である。導入工程において、プラズマに導入される活物質と電子伝導性材料との質量比は、活物質:電子伝導性材料=100:1〜1:1の範囲内が好ましく、19:1〜3:2の範囲内がより好ましく、9:1〜13:7の範囲内が特に好ましい。
【0033】
具体的な導入工程としては、活物質及びキュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料を混合して混合物とし、前記混合物及びキャリアガスを混合して第1流動体とし、第1流動体をプラズマに導入する第1導入工程、又は、活物質及びキャリアガスを混合して第2流動体とし、キュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料及びキャリアガスを混合して第3流動体とし、第2流動体及び第3流動体をプラズマに導入する第2導入工程のうち、いずれか一方の導入工程を挙げることができる。
【0034】
第1導入工程は、活物質及びキュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料を混合して混合物とし、前記混合物及びキャリアガスを混合して第1流動体とし、第1流動体をプラズマに導入する工程である。
【0035】
まず、適切な容器内に活物質及び電子伝導性材料を加えて混合し混合物とする。容器は撹拌装置を伴うものが好ましい。混合物100質量部における電子伝導性材料の量は、0質量部を超えて50質量部以下の範囲内が好ましく、5〜40質量部の範囲内がより好ましく、10〜35質量部の範囲内が特に好ましい。電子伝導性材料の量が多すぎると、電子伝導性材料内包活物質の活物質としての性能が著しく劣る場合がある。
【0036】
キャリアガスは、プラズマ発生部位に連通する導入管を通じて、混合物をプラズマが発生している高温領域に運搬するためのガスである。キャリアガスの種類としては、アルゴンを挙げることができる。
【0037】
容器内の前記混合物に対し、導入管に合流する陰圧管(なお、陰圧管は、真空ポンプあるいは導入管のキャリアガス流によって陰圧となっている。)を接近させて陰圧管内に混合物を吸引する。なお、前記混合物は容器内で撹拌され続けているのが好ましい。吸引された混合物は陰圧管と導入管との合流地点でキャリアガスと混合して第1流動体となる。第1流動体は導入管内を移動し、プラズマが発生している高温領域に導入される。キャリアガスの流量は適宜適切に設定すればよい。
【0038】
プラズマは高周波誘導熱プラズマ発生装置などのプラズマ発生装置のチャンバー内にて発生される。プラズマ化されるガスはアルゴン、アルゴン及び酸素、アルゴン及び水素のいずれかでよい。プラズマの温度は活物質及び電子伝導性材料の融解温度以上であれば良いが、活物質及び電子伝導性材料を融解するのに十分に余裕のある温度であって且つプラズマを安定に発生することのできる10000℃付近の温度とするのが好ましい。
【0039】
第2導入工程は、活物質及びキャリアガスを混合して第2流動体とし、キュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料及びキャリアガスを混合して第3流動体とし、第2流動体及び第3流動体をプラズマに導入する工程である。
【0040】
まず、適切な容器内に活物質又は電子伝導性材料を配置する。容器は撹拌装置を伴うものが好ましい。
【0041】
次に、容器内の活物質又は電子伝導性材料に対し、導入管に合流する陰圧管をそれぞれ接近させて別々の陰圧管内に活物質又は電子伝導性材料を吸引する。活物質又は電子伝導性材料は容器内で撹拌され続けているのが好ましい。吸引された活物質又は電子伝導性材料はそれぞれの陰圧管と導入管との合流地点でキャリアガスと混合してそれぞれ第2流動体又は第3流動体となる。
【0042】
第2流動体又は第3流動体は導入管内を移動し、所定の比率で、プラズマが発生している高温領域に導入される。第2流動体及び第3流動体は、プラズマに導入される前に所定の比率で混合されて、同一の導入管内を移動して、プラズマに導入されても良いし、又は、別々の導入管内を移動して、所定の比率でプラズマに導入されても良い。上記所定の比率は、プラズマに導入される活物質及び電子伝導性材料の合計量100質量部に対し、電子伝導性材料の質量が、0質量部を超えて50質量部以下の範囲内が好ましく、5〜40質量部の範囲内がより好ましく、10〜35質量部の範囲内が特に好ましい。電子伝導性材料の比率が高すぎると、電子伝導性材料内包活物質の活物質としての性能が著しく劣る場合がある。
【0043】
なお、キャリアガス、導入管、陰圧管、プラズマなどは、第2導入工程にて特段の説明を加えたもの以外は、第1導入工程で説明したとおりのものである。キャリアガスの流量は適宜適切に設定すればよい。
【0044】
導入工程に用いられる活物質及び電子伝導性材料は粉末状のものが好ましい。粉末の平均粒子径としては、10nm〜100μmの範囲内が好ましく、100nm〜50μmの範囲内が好ましく、200nm〜10μmの範囲内が特に好ましい。粉末の平均粒子径が大きすぎると導入工程にて、プラズマへの導入が困難になる場合がある。
【0045】
融解工程はプラズマ中で前記活物質及び前記電子伝導性材料を融解して融解体とする工程である。前記導入工程でプラズマが発生している高温領域に導入された活物質及び前記電子伝導性材料は、即時に融解し融解体となる。なお、活物質及び前記電子伝導性材料に含まれる材料によっては、融解工程にて気化を伴う場合もある。本発明では、融解体なる文言を、融解工程にて気化した材料を包含する意味で用いる。融解体は、キャリアガス流及びプラズマ流によって、次第にプラズマ発生部位の遠方に運搬される。
【0046】
固溶体形成工程は、前記融解体を冷却し、前記活物質と前記電子伝導性材料との固溶体を形成する工程である。プラズマ発生部位の遠方に運搬された融解体は、次第に冷却される。そして、各材料の融点以下に冷却された融解体は、それぞれの材料ごとに固体となる。このとき、各材料の融点に差があるので、高い融点の材料が先に固体の粒子となり、そして、次の融点の材料が先の材料の粒子の周りに付着して固体となる。ここで、活物質としてSiO
x(0.5≦x≦1.7)、電子伝導性材料としてBaTiO
3を用いた融解体の固溶体形成工程について考察する。SiO
x(0.5≦x≦1.7)はその主要成分であるSiの融点が1414℃であり、BaTiO
3の融点は1625℃である。そうすると、融解体が冷却されると、まずBaTiO
3の固体の粒子が形成し、次いで、BaTiO
3粒子(又はその凝集体)の周りにSiが付着しつつ固体となり、その結果、BaTiO
3粒子を内包したSiが形成される。用いる材料によっては、活物質と電子伝導性材料との固化の順序が逆になる場合もありえるが、そのような場合であっても活物質と電子伝導性材料との質量比が活物質:電子伝導性材料=100:1〜1:1の範囲内であれば、電子伝導性材料内包活物質におけるマトリックスは活物質となるから、活物質が電子伝導性材料を内包しているといえる。なお、この製造方法からみて、活物質の融点(又は活物質の主要成分の融点)は電子伝導性材料の融点よりも低いのが好ましい。
【0047】
このようにして、本発明の電子伝導性材料内包活物質が製造される。本発明の電子伝導性材料内包活物質の形状は、融解体をチャンバー内の空間で冷却して製造されることから、概ね球状である。また、電子伝導性材料内包活物質の粒子径は、チャンバー内の温度分布を制御することにより、制御可能である。
【0048】
本発明の電子伝導性材料内包活物質は、内部にキュリー温度が30〜400℃の範囲内の電子伝導性材料、すなわち30〜400℃で抵抗が増加するPTC材料を包含している。そのため、本発明の電子伝導性材料内包活物質を用いたリチウムイオン二次電池がキュリー温度以上になった場合には、電子伝導性材料内包活物質の抵抗が増加し、過剰電流が流れることを抑制する。よって、本発明の電子伝導性材料内包活物質は、安全性の確保に好適なリチウムイオン二次電池用活物質といえる。リチウムイオン二次電池の活物質として本発明の電子伝導性材料内包活物質を用いる場合には、本発明の電子伝導性材料内包活物質を単独で活物質として用いるのが好ましいが、公知の活物質と組み合わせて用いても良い。
【0049】
リチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、セパレータ及び電解液を有する。そして、正極及び負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた活物質層を有する。
【0050】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0051】
活物質層は活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
【0052】
活物質としては、本発明の電子伝導性材料内包活物質を正極活物質又は負極活物質の少なくともいずれか一方として用いれば良いが、公知の活物質を併用してもよい。公知の活物質は前述のとおりである。
【0053】
結着剤は活物質を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.05〜1:0.5であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0054】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤としては、炭素質微粒子であるカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。導電助剤の使用量については特に制限はないが、例えば、活物質100質量部に対して0.5〜30質量部とすることができる。
【0055】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む混合物を調製し、この混合物に適当な溶剤を加えてペースト状の活物質層形成用組成物とする。集電体の表面に活物質層形成用組成物を塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0056】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン若しくはポリエチレンなどの合成樹脂を1種又は複数用いた多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が例示できる。
【0057】
電解液は正極及び負極間をイオンが移動するための媒体であって、溶媒と該溶媒に溶解された電解質とを含む液である。
【0058】
リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等の非水系溶媒を挙げることができる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステルを例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。電解液の溶媒として、上述のものを複数併用してもよい。特に、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネートの3種を併用するのが好ましい。
【0059】
リチウムイオン二次電池の電解質としては、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を挙げることができる。電解液中の電解質の濃度は、0.5〜1.7mol/Lの範囲が好ましい。
【0060】
リチウムイオン二次電池の製造方法の一例を説明する。正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等で接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とする。リチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、積層型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0061】
リチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器、電池で駆動される各種の家電製品、家庭用分散型蓄電システム、オフィス機器、産業機器などに用いることができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
本発明の電子伝導性材料内包活物質を以下のとおり製造した。
【0065】
活物質として市販のSiO
x(0.5≦x≦1.7)7g及び電子伝導性材料として市販のBaTiO
33gを、撹拌部を備える容器内で混合し混合物とした。なお、BaTiO
3のキュリー温度は120℃付近である。
【0066】
高周波誘導熱プラズマ発生装置を起動させ、以下の条件下で該装置内にプラズマを発生させた。
高周波出力:6kW、ガス:アルゴン、ガス流量:30L/min.、チャンバー内圧力:7〜100kPa
容器内で4000rpmの速度で撹拌されている前記混合物に対し、高周波誘導熱プラズマ発生装置のアルゴン導入管に合流する陰圧管を接近させて、陰圧管内に混合物を吸引した。吸引された混合物は陰圧管とアルゴン導入管との合流地点でアルゴンガスと混合して流動体となった。流動体はアルゴン導入管内を移動し、高周波誘導熱プラズマ発生装置内のプラズマが発生している高温領域に導入された。
【0067】
プラズマが発生している高温領域に導入された混合物は、即時に融解し融解体となった。そして、融解体は、アルゴンガス流によって、次第にプラズマ発生部位の遠方に運搬され、冷却されて粉末となった。この粉末が実施例1の電子伝導性材料内包活物質である。
【0068】
得られた電子伝導性材料内包活物質を粉末X線回折装置で測定したところ、原料のBaTiO
3結晶由来のピーク及び原料のSiO
xに含まれるSi結晶由来のピークが観察された。
【0069】
さらに、得られた電子伝導性材料内包活物質の粒子をレーザーで分割し、得られた断片の切断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、該粒子がSiO
xをマトリックスとし、その内部にBaTiO
3が存在する固溶体であることが判明した。
図1及び
図2に実施例1の電子伝導性材料内包活物質の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0070】
(応用例1)
実施例1の電子伝導性材料内包活物質45質量部と、天然黒鉛粉末40質量部と、アセチレンブラック5質量部と、バインダー溶液33質量部とを混合してスラリーを調製した。バインダー溶液としては、ポリアミドイミド樹脂をN-メチル−2−ピロリドンに30質量%の濃度で溶解させた溶液を用いた。このスラリーをガラス板の表面に塗布し、N-メチル−2−ピロリドンを揮発させて、矩形の電子伝導性材料内包活物質含有膜を形成させた。なお、電子伝導性材料内包活物質含有膜は、リチウムイオン二次電池における負極活物質層に相当する。電子伝導性材料内包活物質含有膜上に別のガラス板を配置した。ガラス板で挟まれた電子伝導性材料内包活物質含有膜をホットプレート上に配置し、電子伝導性材料内包活物質含有膜の0℃〜140℃の範囲での抵抗(電気抵抗率)、比誘電率及び磁束密度を測定した。
【0071】
抵抗(電気抵抗率)は四探針法、比誘電率はネットワークアナライザを用いたインピーダンス測定法、磁束密度はガウスメータを用いて測定した。測定結果をグラフにして
図3〜5に示す。
【0072】
図3〜5に示したグラフから明らかなように、100℃付近からの温度上昇とともに、電子伝導性材料内包活物質含有膜の抵抗(電気抵抗率)及び比誘電率は上昇し、磁束密度は減少した。特に120℃付近での抵抗(電気抵抗率)、比誘電率及び磁束密度の変動が著しい。
【0073】
この結果は、電子伝導性材料内包活物質含有膜に含まれるキュリー温度が120℃付近のBaTiO
3の特性変化で説明できる。すなわち、常温で正方晶構造であり強誘電体であったBaTiO
3が、キュリー温度を経て立方晶構造の常誘電体に変化したことに伴い、BaTiO
3内包活物質含有膜の抵抗(電気抵抗率)、比誘電率及び磁束密度が変化したといえる。 上記結果は、本発明の電子伝導性材料内包活物質がPTC材料として機能することを意味する。したがって、本発明の電子伝導性材料内包活物質を用いたリチウムイオン二次電池が内部短絡などによって発熱したとしても、電池の温度が電子伝導性材料のキュリー温度を超えた時点で電子伝導性材料内包活物質は高抵抗となるため、電極間の過剰電流の発生を抑制することができる。本発明の電子伝導性材料内包活物質は、リチウムイオン二次電池の安全性を高めることが裏付けられた。