(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
共重合ポリアミド樹脂(A)中の前記デカンテレフタルアミド単位(a)の含有量、および前記ウンデカンアミド単位および/またはドデカンアミド単位(b)の含有量が、前記単位(a)および前記単位(b)の合計含有量100モル%に対してそれぞれ75〜98モル%、25〜2モル%であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
共重合ポリアミド樹脂(A)が、前記単位(a)と前記単位(b)以外に、アミノ基およびカルボキシル基を含有する単位(c)を含み、前記単位(c)の含有量が、前記単位(a)、前記単位(b)および前記単位(c)の合計含有量100モル%に対して最大30モル%であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
ガラス繊維(B)の一部または全てが扁平断面ガラス繊維であり、この扁平断面ガラス繊維が、短径/長径比が0.3〜0.5である扁平断面ガラス繊維(B−1)と、短径/長径比が0.2〜0.3である扁平断面ガラス繊維(B−2)からなり、その重量比((B−1):(B−2))が0:100〜100:0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
さらに離型剤、安定剤、カーボンブラック、及び/又はカップリング剤を含む添加成分(D)を最大5重量%の量で含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、ガラス繊維で強化することによって、高い剛性、高い靭性だけでなく高い荷重たわみ性を発現することができる。そのため、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、電子電機機器や自動車分野において内部部材および外部部材として広く用いられている。近年、特に電子電機部材における製品肉厚の薄肉化や、車両用部品の小サイズ化から要求される振動特性のレベルが高まっており、弾性率/比重で示される比弾性率のより高い熱可塑性樹脂組成物が求められている。しかし、ポリアミド樹脂は、一般的に吸水が大きく、吸水すると弾性率の低下を引き起こすため、例えばポリアミド6、ポリアミド66成分をベースとしたガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、吸水時に耐振動特性が低下するという欠点がある。さらに、ガラス繊維の充填量が60重量%以上になると、樹脂比率が低くなるため、吸水の絶対量に対して強度、弾性率などの低下率がより大きくなり、特に車両の内装および外装部品としての使用が制限される。
【0003】
特許文献1では、ナイロン66ベースに結晶性を低下させるイソフタラミド成分を共重合し、ガラス繊維などの強化材を60%以上配合して共振周波数の高い樹脂組成物耐振動特性を得ている。しかしながら、結晶性を低下させる成分によって弾性率の上昇は充分でなく、試験サンプル形状で200Hz以上の共振周波数を得るための曲げ弾性率と比重の良好なバランスを得られていない。また、マイカを添加することによって伸度、耐衝撃性を落としている問題がある。さらに、吸水することによって大幅な弾性率の低下を引き起こすため、実使用時に大きく共振周波数が低下する問題がある。
【0004】
特許文献2では、ポリアミド樹脂と非円形断面のガラスロービング繊維とを組み合わせた長繊維ポリアミド成形材料が開示されている。しかしながら、この特許文献の実施例においては、ガラス繊維を60%以上配合しておらず、したがって共振周波数が比例する関係にある弾性率/比重が充分に高くないため、強度、衝撃面では高度な特性も持つ成形材料であっても耐振動性に関しては充分な特性を発現しない。さらに、ここで例示されているポリアミドも吸水率の大きいものであり、吸水することによって大幅な弾性率の低下を引き起こすため、実使用時に大きく共振周波数が低下する問題がある。
【0005】
特許文献3では、ポリアミド6、66、非結晶ポリアミド等の複数樹脂を共重合でなくブレンドベースで使用し、結晶性を保持しながら強化材を高充填し、さらに最適量のポリプロピレンを添加することによって高い共振周波数を得ると同時に減衰特性も付与している。しかしながら、現在の耐振動要求としては、特許文献3の試験法において230Hz以上の共振周波数を求められており、ポリプロピレンのような弾性率発現の低い樹脂を成分としている場合は、これには到底届かない。このため、さらに比弾性率の高い特性発現を得られる、ガラス繊維と熱可塑性樹脂の組合せが求められている。ここで例示されているポリアミドも吸水率の大きいものであり、吸水することによって大幅な弾性率の低下を引き起こすため、実使用時に大きく共振周波数が低下する問題がある。
【0006】
特許文献4では、脂肪族ポリアミド10T11をベースに無機充填材や安定剤、エラストマーを添加することによって優れた機械特性と成形性を持つ樹脂組成物が開示されている。しかし、無機充填材の添加量は60重量%までに限定され、しかも弾性率を低下させるエラストマーを添加している。このため、共振周波数が比例する関係にある弾性率/比重の平方根は充分に高くなく、強度、衝撃面では高度な特性も持つ成形材料であっても耐振動性に関しては十分な特性を発現しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、高い耐振動特性、つまり極めて高い共振周波数を持ち、特に吸水時でも高い共振周波数を保持することができる成形品を得ることができるポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の形状の断面積を有する複数のガラス繊維を、特定の共重合ポリアミド樹脂(即ち、10Tナイロンに対して、11ナイロンおよび/または12ナイロンを特定の割合で共重合させたポリアミド樹脂(以下、例えば10Tナイロンと11ナイロンとの共重合体を「10T11」と略し、10Tナイロンと12ナイロンとの共重合体を「10T12」と略することがある))に添加することによって、その比重に対して弾性率の発現を最大限にでき、しかも吸水時もその特性を保持できることを見出した。また、ポリアミド10T11や10T12にガラス繊維を添加することは、ポリアミド6や66にガラス繊維を添加するより、親和性の観点から困難であるが、ガラス繊維の断面積を汎用ガラス繊維と異なるものにすることによって、汎用で使用される断面積が9.5×10
−7cm
2(ガラス繊維径11μm)のガラス繊維や断面積が13.3×10
−6cm
2(ガラス繊維径13μm)のガラス繊維を使う場合に比べて、その繊維本数およびガラス繊維表面積が低減され、高いガラス充填量にもかかわらず、ポリアミド10T11、10T12に対しても2軸押出機で容易に生産することができることを見出した。具体的には、このようなポリアミド樹脂組成物を用いることによって曲げ特性に関して満足な成形品が得られること、そしてこれが従来技術では達成できなかった高い共振周波数を持つということだけでなく、吸水時の振動特性の低下もなく、強度、耐衝撃性においても優れることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(9)の構成を採用するものである。
(1)共重合ポリアミド樹脂(A)と、断面積が1.5〜5.0×10
−6cm
2のガラス繊維(B)とからなるポリアミド樹脂組成物であって、共重合ポリアミド樹脂(A)とガラス繊維(B)の重量比((A):(B))が20:80〜35:65であり、共重合ポリアミド樹脂(A)が、デカンテレフタルアミド単位(a)と、ウンデカンアミド単位および/またはドデカンアミド単位(b)とを含み、共重合ポリアミド樹脂(A)中の前記デカンテレフタルアミド単位(a)の含有量、および前記ウンデカンアミド単位および/またはドデカンアミド単位(b)の含有量が、前記単位(a)および前記単位(b)の合計含有量100モル%に対してそれぞれ50〜98モル%、50〜2モル%であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)共重合ポリアミド樹脂(A)中の前記デカンテレフタルアミド単位(a)の含有量、および前記ウンデカンアミド単位および/またはドデカンアミド単位(b)の含有量が、前記単位(a)および前記単位(b)の合計含有量100モル%に対してそれぞれ75〜98モル%、25〜2モル%であることを特徴とする(1)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)共重合ポリアミド樹脂(A)が、前記単位(a)と前記単位(b)以外に、アミノ基およびカルボキシル基を含有する単位(c)を含み、前記単位(c)の含有量が、前記単位(a)、前記単位(b)および前記単位(c)の合計含有量100モル%に対して最大30モル%であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)ガラス繊維(B)の一部または全てが扁平断面ガラス繊維であり、この扁平断面ガラス繊維が、短径/長径比が0.3〜0.5である扁平断面ガラス繊維(B−1)と、短径/長径比が0.2〜0.3である扁平断面ガラス繊維(B−2)からなり、その重量比((B−1):(B−2))が0:100〜100:0であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)さらに銅化合物(C)を最大0.5重量%の量で含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)さらに離型剤、安定剤、カーボンブラック、及び/又はカップリング剤を含む添加成分(D)を最大5重量%の量で含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品であって、成形品の比重ρ(g/cm
3)と曲げ弾性率E(GPa)が11<E/ρ<18,1.7<ρ<2.0を満足することを特徴とする成形品。
(8)成形品における残存ガラス繊維長の重量平均が260〜1000μmであることを特徴とする(7)に記載の成形品。
(9)電子電気筐体または車両の内装品もしくは外装品に使用されることを特徴とする(7)または(8)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、添加されるガラスの断面積を特定範囲に規定することによって比重に対する弾性率発現をガラス高充填領域でコントロール可能としており、しかもガラス繊維を、10Tナイロンに対して11ナイロンおよび/または12ナイロンを特定の割合で共重合させたポリアミド樹脂に添加することによって、吸水率が低く、共振周波数の低下を極めて少なくなるようにしている。その結果、本発明のポリアミド樹脂組成物は高い共振周波数を得ることができ、かつ高い強度と耐衝撃性を有し、さらには吸水による共振周波数低下がないため、電気電子機器の筐体や自動車内装および外装用の部品として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定の共重合ポリアミド樹脂(A)と、断面積が1.5〜5.0×10
−6cm
2のガラス繊維(B)とからなるものである。
【0014】
本発明で使用する共重合ポリアミド樹脂(A)は、デカンテレフタルアミド単位(a)と、ウンデカンアミド単位および/またはドデカンアミド単位(b)とを含むものである。
【0015】
デカンテレフタルアミド単位(a)は、1,10−デカンジアミン(10)とテレフタル酸(T)とを等量モルで縮重合させることにより得られる10Tナイロンに相当する構成単位であり、具体的には、下記式(I)で表される。
【0016】
デカンテレフタルアミド単位(a)は、共重合ポリアミド樹脂(A)に優れた耐熱性、低吸水性、耐薬品性、摺動性などを付与する役割を果たす。共重合ポリアミド樹脂(A)中のデカンテレフタルアミド単位(a)の含有率は、前記単位(a)および前記単位(b)の合計含有量100モル%に対して、50〜98モル%であり、好ましくは75〜98モル%である。単位(a)の含有率が前記範囲より少ないと、結晶成分である10Tナイロンが共重合成分により結晶阻害を受け、成形性や高温特性の低下を招くおそれがあり、一方、前記範囲より多いと、加工性や耐衝撃性が著しく低下する傾向があるため、好ましくない。
【0017】
ウンデカンアミド単位および/またはドデカンアミド単位(b)は、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、ウンデカンラクタムまたはラウリルラクタムを重縮合させることにより得られる11ナイロン(ウンデカンアミド単位)、12ナイロン(ドデカンアミド単位)に相当する構成単位である。具体的には、ウンデカンアミド単位は下記式(II)で表され、ドデカンアミド単位は下記式(III)で表される。前記単位(b)は、ウンデカンアミド単位とドデカンアミド単位のいずれか一方であってもよいし、両方であってもよい。
【0018】
前記単位(b)は、前記単位(a)の欠点を改良するために使用されるものであり、共重合ポリアミド樹脂(A)の耐衝撃性、加工性、低吸水性の全てを改善する役割を果たす。共重合ポリアミド樹脂(A)中のウンデカンアミド単位および/またはドデカンアミド単位(b)の含有率(ウンデカンアミド単位とドデカンアミド単位の両方を含む場合にはその合計)は、前記単位(a)および前記単位(b)の合計含有量100モル%に対して、2〜50モル%、好ましくは2〜25モル%である。前記単位(b)の含有率が前記範囲より少ないと、共重合ポリアミド樹脂(A)の耐衝撃性の向上効果が薄くなったり、低吸水化効果も不充分となる傾向があり、一方、前記範囲より多いと、共重合ポリアミド樹脂(A)の結晶性が大幅に低下して結晶化速度が遅くなる結果、成形性が損なわれたり、耐衝撃性が低くなったりするおそれがある。また、前記単位(b)の含有率が前記範囲より多いと、相対的に10Tナイロンに相当する前記単位(a)の含有率が少なくなり、耐熱性や摺動性が不足するおそれがあり、好ましくない。
【0019】
共重合ポリアミド樹脂(A)は、前記単位(a)および前記単位(b)以外に、アミノ基およびカルボキシル基を含有する単位(c)を含有していてもよい。単位(c)の具体例としては、アミドを形成するアミン成分と酸成分との等量モル塩から得られる構成単位、または、アミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位が挙げられる。この単位(c)は、共重合ポリアミド樹脂(A)に、10Tナイロンや11ナイロン、12ナイロンによっては得られない他の特性を付与したり、10Tナイロンや11ナイロン、12ナイロンによって得られる特性をさらに改良する役割を果たす。前記単位(c)を含有する場合、その含有率は、前記単位(a)、前記単位(b)および前記単位(c)の合計含有量100モル%に対して、最大30モル%であるのが好ましく、より好ましくは最大20モル%、さらに好ましくは最大15モル%である。前記単位(c)の含有率が前記範囲を超えると、必須成分である前記単位(a)や前記単位(b)の含有量が少なくなるので、共重合ポリアミド樹脂(A)の本来意図される効果が充分に発揮されないおそれがあり、好ましくない。
【0020】
前記単位(c)を構成するアミン成分としては、1,2−エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ベンタメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン;ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、ビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタン、ビス−(4,4’−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン;メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン;およびこれらの水添物等が挙げられる。
【0021】
前記単位(c)を構成する酸成分としては、多価カルボン酸もしくは酸無水物を使用することができる。多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,14−テトラデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。また、ε−カプロラクタムなどのラクタムおよびこれらが開環した構造であるアミノカルボン酸などを用いることもできる。
【0022】
前記単位(c)の具体例としては、以下のポリアミドに相当する構成単位が挙げられる。すなわち、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ナイロンPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ナイロン4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ナイロン5T)、ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ナイロンM−5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン6T(H))ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ナイロンPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ナイロンPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ナイロンPACM14)などのポリアミドである。これらの中でも特に、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカアミド(ナイロン1012)などが、加工性、低吸水性および耐衝撃性の向上効果が高い点で好ましい。
【0023】
なお、共重合ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド成形体としての特性上は大きな差異はないが、低炭素社会や環境調和を目指す観点からは、植物由来の原料を用いることが好ましい。具体的には、食用と競合しないヒマシ油由来原料を用いることが好ましく、例えば、前記単位(a)としてデカンジアミンに相当する構成単位を含む場合、前記単位(b)としてアミノウンデカン酸に相当する構成単位を含む場合、前記単位(c)としてセバシン酸に相当する構成単位を含む場合などには、植物由来原料を利用することができる。本発明において推奨される共重合ポリアミド樹脂(A)の組成は、これら植物原料を極めて高い比率(例えば50重量%以上)で含むナイロン10T/11、ナイロンPA10T/1010/11などが挙げられる。
【0024】
共重合ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)は、220〜315℃が好ましく、より好ましくは240〜300℃である。融点(Tm)が前記範囲を超えると、ポリアミド樹脂組成物を発泡成形などにより成形する際に必要となる加工温度が極めて高くなるため、加工時に樹脂等が分解し、劣化による分子量低下が発生するなどして所望の物性が得られなかったり、成形性が低下したりする場合がある。一方、融点(Tm)が前記範囲より低いと、結晶化速度が遅くなり成形が困難になる場合がある。
【0025】
共重合ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、50〜120℃が好ましく、より好ましくは60〜100℃である。ガラス転移温度(Tg)が前記範囲を超えると、ポリアミド樹脂組成物をブロー成形法などにより成形する際に必要とされる金型温度が高くなりすぎて成形が困難になるだけでなく、ブロー成形のサイクルの中では十分に結晶化が進まない場合があり、熱変形温度が低下したり、後の使用において、高温下で結晶化が進行し二次収縮による変形が生じるなどの問題が起こる場合がある。一方、ガラス転移温度(Tg)が前記範囲より低いと、物性の大幅な低下が生じやすくなる。
【0026】
共重合ポリアミド樹脂(A)の96%濃硫酸中20℃で測定した相対粘度(RV)は、0.4〜4.0が好ましく、より好ましくは1.0〜3.5、さらに好ましくは1.5〜3.0である。ポリアミドの相対粘度を一定範囲とする方法としては、分子量を調整する手段が挙げられる。なお、本明細書で記載の相対粘度(RV)は、いずれも96%濃硫酸中20℃で測定したものである。
【0027】
共重合ポリアミド樹脂(A)の酸価およびアミン価は、いずれも0〜200当量/1×10
6gが好ましく、0〜100当量/1×10
6gであることがより好ましい。末端官能基が200当量/1×10
6gを超えると、溶融滞留時にゲル化や劣化が生じやすくなるだけでなく、使用環境においても着色や加水分解等の問題を引き起こすおそれがある。特に、ガラスファイバーやマレイン酸変性ポリオレフィンなどの反応性化合物をコンパウンドする際は、反応性および反応基に合わせ、酸価および/またはアミン価を5〜100当量/1×10
6gとすることが好ましい。
【0028】
共重合ポリアミド樹脂(A)は、アミノ基量とカルボキシル基量とのモル比を調整して重縮合する方法や末端封止剤を添加する方法によって、ポリアミドの末端基量および分子量を調整することができる。アミノ基量とカルボキシル基量とのモル比を一定比率で重縮合する場合には、使用する全ジアミンと全ジカルボン酸のモル比をジアミン/ジカルボン酸=1.00/1.05から1.10/1.00の範囲に調整することが好ましい。
【0029】
共重合ポリアミド樹脂(A)の末端を封鎖する場合、末端封止剤を添加する時期として、原料仕込み時、重合開始時、重合後期、または重合終了時が挙げられる。末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物(無水フタル酸等)、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などを使用することができる。具体的には、末端封止剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;無水マレイン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。
【0030】
共重合ポリアミド樹脂(A)は、従来公知の方法で製造することができるが、例えば、
前記単位(a)を導入するための原料モノマー(デカンジアミンおよびテレフタル酸)と、前記単位(b)を導入するための原料モノマー(11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム及びこれら混合物からなる群より選ばれた原料モノマー)と、必要に応じて、前記単位(c)を導入するための原料モノマー(アミン成分と酸成分との等量モル塩、アミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる原料モノマー)とを共縮合反応させることによって容易に合成することができる。共縮重合反応の順序は特に限定されず、全ての原料モノマーを一度に反応させてもよいし、一部の原料モノマーを先に反応させ、続いて残りの原料モノマーを反応させてもよい。また、重合方法は特に限定されないが、原料仕込みからポリマー作製までを連続的な工程で進めてもよいし、一度オリゴマーを作製した後、別工程で押出し機などにより重合を進めるか、もしくはオリゴマーを固相重合により高分子量化するなどの方法を用いてもよい。原料モノマーの仕込み比率を調整することにより、合成される共重合ポリアミド樹脂中の各構成単位の割合を制御することができる。
【0031】
共重合ポリアミド樹脂(A)を製造するに際に使用する触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸もしくはその金属塩やアンモニウム塩、エステルが挙げられる。金属塩の金属種としては、具体的には、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどが挙げられる。エステルとしては、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどを添加することができる。また、溶融滞留安定性向上の観点から、水酸化ナトリウムを添加することが好ましい。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、共重合ポリアミド樹脂(A)とガラス繊維(B)の重量比((A):(B))が20:80〜35:65であることが必要である。これにより本発明のポリアミド樹脂組成物からなる成形品は、成形品の比重ρ(g/cm
3)と曲げ弾性率E(GPa)が11<E/ρ<18、1.7<ρ<2.0を満足することができる。ガラス繊維(B)の重量比が上記範囲より低い場合、前述のE/ρの値が1.7未満になることがあり、充分に高い共振周波数を得ることができない。ガラス繊維(B)の重量比が上記範囲より高い場合、ガラス繊維(B)の比率が高くなりすぎて効率的に成形品を生産できないばかりか、ガラス繊維(B)とポリアミド樹脂の界面に欠損が生じ、充分な強度、耐衝撃性が得られない。
【0033】
ガラス繊維(B)の一部(例えば50重量%以上)または全部に扁平断面ガラス繊維を使用することが好ましい。扁平断面ガラス繊維とは、繊維の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円系、略長円系、略繭形系であるものを含み、扁平度が1.5〜8であることが好ましく、より好ましくは2〜5である。ここで扁平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径とした場合の、長径/短径の比である。扁平度が上記範囲未満である場合には、円形断面のガラス繊維と形状に大きな差がないため、成形物の耐衝撃性があまり向上しない場合がある。一方、扁平度が上記範囲を超える場合には、ポリアミド樹脂中における嵩密度が高くなるので、ポリアミド樹脂中に均一に分散できない場合があり、成形物の耐衝撃性があまり向上しない場合がある。本発明では、略長円形断面を有し、扁平度が2〜5のガラス繊維が、高い機械的物性を発現するために特に好ましい。本発明ではガラス繊維(B)は、その断面形状によらず、その太さが断面積として1.5〜5.0×10
−6cm
2に限定されることが必要であり、従来汎用で使用されている11μm、13μm径の丸型断面を有するガラス繊維は、65重量%以上の高充填領域では物性発現が効率的に行われないため好ましくない。ガラス繊維の一部もしくは全てに扁平断面形状ガラス繊維を使用する場合、短径/長径比が0.3〜0.5である扁平断面ガラス繊維(B−1)と、短径/長径比が0.2〜0.3である扁平断面ガラス繊維(B−2)を(B−1):(B−2)=0:100〜100:0、好ましくは10:90〜90:10で併用することによって、成形品のそり、収縮と、曲げ弾性率/比重の値をコントロールすることができるとともに、カーボンブラックや安定剤などの耐候性を向上させるのに必要な添加剤を十分に添加することができる。
【0034】
本発明においては、共重合ポリアミド樹脂(A)にガラス繊維(B)を添加していった時、比重に対する曲げ弾性率発現が高く、特に吸水で弾性率が低下しないポリアミド樹脂組成物ペレットを得ることが重要である。このためガラス繊維数が少なく、ガラス繊維同士の干渉が少ない特定の範囲の断面積を持つガラス繊維を使用することが必要である。この場合、必要なガラス繊維(B)の断面積は1.5〜5.0×10
−6cm
2である。ガラス繊維の断面積がこれより小さい場合、単位重量あたりの繊維本数が多くなるばかりか、単糸一本一本が折れやすいため、2軸押出機のペレット造粒において高いガラス繊維率でかつ充分に長い繊維長を有するペレットを得ることができない。また、ポリアミド6やポリアミド66などを用いた場合は、吸水で弾性率が低下してしまうため、吸水によって弾性率低下の少ない共重合ポリアミドを用いることが重要である。
【0035】
ガラス繊維(B)には、様々な断面形状のガラス繊維が適用されるが、ペレット生産時にガラス繊維が折れにくく、かつガラス繊維表面積の大きいため物性発現が大きく、さらに成形品のそり、変形を抑制できるという面から、比重に対して弾性率発現を上げる目的に使用するガラス繊維には扁平断面形状のものが含まれることが好ましい。さらに、共重合ポリアミド樹脂(A)との混練り時に異なる異形比の扁平断面ガラスを複数種使用することによって、樹脂流動パターンを乱し、押出機の特定オリフィス穴からの早い樹脂流を抑制することできる。これによって、2軸押出かつストランドカットでペレットを造粒する生産方法において生産性は格段に良好となり、比重に対して高い曲げ弾性率を発現する組成比ペレットを効率的に得ることができる。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物を作るにあたっては、共重合ポリアミド樹脂(A)とガラス繊維(B)からなる混合物に対して、特に扁平断面ガラス繊維を使用する場合、ポリアミド反応性シランカップリング剤をガラス繊維(B)の0.1〜1.0重量%の割合で添加することが好ましい。ポリアミド用チョップドストランドの集束剤にはマトリクス樹脂との接着性の向上のために、予めシランカップリング剤が繊維束に少量含まれている。しかし、予め繊維束に付着させることのできるアミノシランカップリング剤の量は、繊維束が押出時に解繊不良を起こさないように上限があるため、不足分を別途追加添加することが好ましい。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、銅化合物(C)を最大0.5重量%の量、さらには少なくとも0.01重量%、多くとも0.4重量%の量で含むことにより、耐熱性を向上することができる。銅化合物(C)が0.01重量部未満の場合、180℃、2000時間における曲げ強度保持率が低い値のままであり、耐熱老化性に効果を与えない可能性がある。一方、0.5重量%を超えて添加しても、それ以上の耐熱老化性の向上は見られず、物性が低下する可能性がある。銅化合物としては、具体的に、塩化銅、臭化銅、沃化銅、酢酸銅、銅アセチルアセトナート、炭酸銅、ホウフッ化銅、クエン酸銅、水酸化銅、硝酸銅、硫酸銅、蓚酸銅などが挙げられる。本発明では、銅化合物と併用する形で他の添加成分(D)として安定剤、例えばハロゲン化アルカリ化合物を配合することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、特に好ましくはヨウ化カリウムである。
【0038】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、共重合ポリアミド樹脂(A)、ガラス繊維(B)、及び銅化合物(C)の混合物に対して、本発明の特性を阻害しない範囲で、他の添加成分(D)、例えば上記の安定剤、無機充填材、耐候性改良剤としてカーボンブラック、光または熱安定剤としてフェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤、離型剤、結晶核剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、染料等を最大5重量%の量で配合することができる。
【0039】
本発明のポリアミド脂組成物の製造方法としては、特に制限は無く、各成分を従来公知の混練方法により溶融混練して得ることができる。具体的な混練装置にも制限はなく、例えば単軸または二軸の押出機、混練機、ニーダーなどが挙げられるが、特に二軸押出機が生産性の面で好ましい。スクリューアレンジにも特に制限は無いが、各成分をより均一に分散させるためにニーディングゾーンを設けることが好ましい。具体的な方法としては、共重合ポリアミド樹脂(A)、銅化合物(C)、その他の添加成分(D)をブレンダーでプリブレンドし、ホッパーから単軸や二軸の押出機に投入した後、(A)の少なくとも一部が溶融した状態で、溶融混合物中にガラス繊維(B)をフィーダーで単軸や二軸の押出機に投入し、溶融混練後ストランド状に吐出し、冷却、カットする方法が挙げられる。
【0040】
上述のようにして作られた本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定の共重合ポリアミド樹脂(A)と特定の断面積のガラス繊維(B)を用いることにより、成形品の比重ρ(g/cm
3)と曲げ弾性率E(GPa)が11<E/ρ<18,1.7<ρ<2.0を満足することができ、良好な耐振動性、極めて高い曲げ強度と耐衝撃性を達成することができる。
【0041】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形品における残存ガラス繊維長の重量平均が260〜1000μmであることが好ましい。残存ガラス繊維長の測定は、以下のように行う。ガラス繊維高充填材料では、ガラス繊維同士の干渉が多く、測定時にガラス繊維が破損しやすく、正確な繊維長を求めにくいので、本発明ではガラス繊維長を正確に測定するため、溶融混練して得られたペレットを650℃にて、2時間強熱し、ガラス繊維を破損することなくガラス繊維を灰分として取り出し、得られたガラス繊維を水に浸し、一般的に用いられる超音波洗浄機にてガラス繊維を分散させる。分散したガラス繊維をプレパラート上に取り出し、デジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製KH−7700)で、80倍にて観察し、重量平均の繊維長を求め、残存ガラス繊維長とする。なお、ペレットの形状は、一般的に得られる形状であれば、特に制限はない。例えば、断面は、円形、楕円形、長円形のいずれかであり、直径(短径、長径含む)は、2.0mm〜4.0mm、ペレットの長さは、2.5〜6.0mm程度である。また、ペレット化の条件は、一般的な条件であれば、特に制限はない。例えば、後記する実施例での方法が挙げられる。
【0042】
本明細書で記載している共振周波数F(0)は、弾性率E(MPa)と比重ρ(g/cm
3)に対して、F(0)∝k(E/ρ)^(1/2)の関係にあり、X=E/ρ として与えられているX値の平方根と比例関係にある。すなわち曲げ弾性率と成形品比重で示すと、比重のわりに曲げ弾性率の高い組成構成は、その成形品における共振周波数がより高くなり、耐振動性能が向上したといえる。主に射出成形を前提とする従来のガラス繊維強化ポリアミド組成物の構成は、ガラス繊維の添加量に対して強度や衝撃発現をより高くするために6,5〜13μmのガラス繊維径が最適とされていた。すなわち断面積としては、3.3×10
−7cm
2〜1.34×10
−6cm
2のガラス繊維径が最適として設計されていた。この断面積のガラス繊維は、その細い径ゆえにポリアミド樹脂組成物への充填量は65重量%程度が上限であり、本発明で示され共振周波数がその平方根に比例するところのX値としては、X<1.1の範囲であった。この領域では十分な共振周波数の高さを得られない。本発明では、これ以上の共振周波数発現をする、射出成形用を前提とするポリアミド樹脂組成物ペレットを得るために、より太いガラス繊維を使用している。加えて、吸水による共振周波数の低下を抑制するために、ポリアミドとして吸水による弾性率低下の少ない共重合ポリアミド樹脂を使用している。これにより、本発明の樹脂組成物の成形品は、良好な耐振動性を有し、吸水時でも共振周波数の低下がないものを達成することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、この実施例の物性値の測定方法は以下の方法に従った。
【0044】
<融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)>
105℃で15時間減圧乾燥した試料(ポリアミド樹脂)をアルミニウム製パン(TA Instruments社製「品番900793.901」)に10mg量り取り、アルミニウム製蓋(TA Instruments社製「品番900794.901」)で密封状態にした後、示差走査熱量計(TA Instruments製「DSCQ100」)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した後に上記パンを取出し、液体窒素に漬け込み、急冷させた。その後、液体窒素から上記パンを取出し、室温で30分間放置した後、再び、上記示差走査熱量計を用いて室温から20℃/分で350℃まで昇温し、その際の融解による吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。また、この2度目の昇温過程におけるガラス転移点以下のベースラインの延長線と、ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0045】
<共重合ポリアミド樹脂の相対粘度>
ポリアミド樹脂0.25gを96%の硫酸25mlに溶解し、この溶液10mlをオズワルド粘度管に入れ、20℃で測定し、以下の式より算出した。
RV=T/T0
RV:相対粘度、T:サンプル溶液の落下時間、T0:溶媒の落下時間
【0046】
<数平均分子量>
各試料を2mg秤量し、4mLのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)/トリフルオロ酢酸ナトリウム10mM溶液に溶解させた後、0.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、得られた試料溶液について下記条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析を行い、数平均分子量を求めた。なお、分子量換算は標準ポリメチルメタクリレート換算とし、分子量1000以下のものはオリゴマーとして除いて算出した。
装置:TOSOH製「HLC−8220GPC」
カラム:TOSOH製「TSKgel SuperHM−H×2」、「TSKgel SuperH2000」
流速:0.25mL/分
濃度:0.05質量%
温度:40℃
検出器:RI
【0047】
<曲げ強度、曲げ弾性率>
ISO−178に準じて測定した。
【0048】
<残存ガラス繊維長>
成形品における残存ガラス繊維長を以下の方法で測定した。
ガラス繊維高充填材料ではガラス繊維同士の干渉が多く測定時にガラス繊維が破損しやすく正確な繊維長が求めにくいので、本発明では、ガラス繊維長を正確に測定するため溶融混練して得られたペレットから曲げ試験用成形された成形品を650℃にて2時間強熱しガラス繊維を破損することなくガラス繊維を灰分として取り出し、得られたガラス繊維を水に浸し、分散したガラス繊維をプレパラート上に取り出し、デジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製KH−7700)で80倍にて観察し、重量平均の繊維長を求め、残存ガラス繊維長とした。
<比重>
JIS−Z8807に準じて測定した。
<共振周波数>
振動試験はISO6721−1を参考にISO引張りダンベル試験片を使用して、中央加振法で行なった(
図1参照)。試験片中央を加振機に固定し、23℃、50%RHの雰囲気で加振機より振動を与え、加速度応答をISO6721−1に準じてフーリエ変換を行なうことにより周波数応答関数を算出して共振周波数を求めた。
【0049】
<吸水による共振周波数低下>
80℃×95%の高温高湿環境で1週間処理したあとの曲げ弾性率と共振周波数を前述の測定方法で測定し、吸水処理前と比較して、曲げ弾性率保持率が60%以上、かつ一次共振点低下が10Hz以上低下したものを×とした。それに対して曲げ弾性率の保持が80%以上で、かつ共振周波数の低下が5Hz未満で収まったものを○とした。
【0050】
各実施例および比較例においては、以下の原料を用いた。
<共重合ポリアミド樹脂(A)>
(A1:ポリアミド10T11)
デカメチレンジアミン8.26kg、テレフタル酸7.97kg、11−アミノウンデカン酸6.43kg、触媒としてジ亜リン酸ナトリウム9g、末端調整剤として酢酸40gおよびイオン交換水17.52kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでN
2で加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N
2置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。その後、溶解液を送液ポンプにより連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加熱した上記溶解液を加圧反応缶に供給し、290℃に昇温して缶内圧を3MPaで維持するように水の一部を留出させることにより、低次縮合物を得た。次いで、この低次縮合物を、溶融状態を維持したまま直接二軸押出し機(スクリュー径37mm、L/D=60)に供給し、樹脂温度を330℃とし3箇所のベントから水を抜きながら溶融下で重縮合を進め、共重合ポリアミド樹脂(A1)を得た。得られた共重合ポリアミド樹脂(A1)は、デカンテレフタルアミド単位(10T)/ウンデカンアミド単位(11)=60/40(モル比)の組成で、融点250℃、相対粘度2.6、ガラス転移温度75℃であった。
【0051】
(A2:ポリアミド10T11)
上述した共重合ポリアミド樹脂(A1)の製造方法において、デカメチレンジアミンの量を11.01kgに変更し、テレフタル酸の量を10.62kgに変更し、11−アミノウンデカン酸の量を3.22kgに変更した以外は、上述した共重合ポリアミド樹脂(A1)の製造方法と同様にして、共重合ポリアミド樹脂(A2)を得た。得られた共重合ポリアミド樹脂(A2)は、デカンテレフタルアミド単位(10T)/ウンデカンアミド単位(11)=80/20(モル比)の組成で、融点289℃、相対粘度2.6、ガラス転移温度93℃であった。
【0052】
(A3:ポリアミド10T12)
上述した共重合ポリアミド樹脂(A2)の製造方法において、11−アミノウンデカン酸3.22kgをウンデカンラクタム2.93kgに変更した以外は、上述した共重合ポリアミド樹脂(A2)の製造方法と同様にして、共重合ポリアミド樹脂(A3)を得た。得られた共重合ポリアミド樹脂(A3)は、デカンテレフタルアミド単位(10T)/ドデカンアミド単位(12)=80/20(モル比)の組成で、融点288℃、相対粘度2.4、ガラス転移温度92℃であった。
【0053】
<その他のポリアミド樹脂>
ポリアミド6:東洋紡績製「ナイロンT−820」、相対粘度RV=3.1の6ナイロン、数平均分子量25400、融点225℃
ポリアミド66:東レ製「アミラン(登録商標)CM3001N」、相対粘度RV=2.8の66ナイロン、数平均分子量17900、融点265℃
ポリアミドMXD6:相対粘度RV=2.6のポリアミドMXD6(三菱ガス化学(株)製 MXナイロン S6007、メタキシレンジアミンとアジピン酸からなるポリアミド樹脂)
【0054】
<ガラス繊維(B)>
(b1)扁平断面ガラス繊維チョップドストランドとして日東紡社製「CSG3PA810S」、扁平度4(短径/長径比=0.25)、短径7μm、繊維長3mm 断面積=1.67×10
−6〜1.96×10
−6cm
2
(b2)扁平断面ガラス繊維チョップドストランドとして日東紡社製「CSG3PL810S」、扁平度2.5(短径/長径比=0.4)、短径9μm、繊維長3mm 断面積=1.72×10
−6〜2.03×10
−6cm
2
(b3)円形断面ガラス繊維チョップドストランドとして日本電気硝子社製「T−275N」、直径17μm、繊維長3mm 断面積=約2.27×10
−6cm
2
(b4)円形断面ガラス繊維チョップドストランドとして日本電気硝子社製「T−275H」、直径11μm、繊維長3mm 断面積=約9.50×10
−7cm
2
【0055】
<銅化合物(C)>
(c1)臭化銅(II)
【0056】
<他の添加成分(D)>
離型剤:クラリアント社製、モンタン酸エステルワックス「WE40」
安定剤:ヨウ化カリウム
カップリング剤:アミノシランカップリング剤として信越化学社製「KBE903」
黒顔料:カーボンブラックマスターバッチとしてレジノカラー社製 ABF−T−9801」マスターベース=AS樹脂、カーボンブラック含有量45重量%、ファーネスブラック使用
【0057】
<実施例1〜6、比較例1〜5>
表1に示す配合割合で、ガラス繊維(B)以外の成分をドライブレンドし、コペリオン社製ベント式2軸押出機「STS35mm」(バレル12ブロック構成)を用いてシリンダー温度はベース樹脂の融点プラス15℃に設定し、スクリュウ回転数250rpmの押出条件で溶融混合し、次いでガラス繊維(B)をサイドフィード方式で供給し溶融混練を行った。押出機から押出されたストランドは急冷してストランドカッターでペレット化した。なお、ペレットの形状は、一般的に得られる形状であれば、特に制限はない。例えば、断面は、円形、楕円形、長円形のいずれかであり、直径(短径、長径含む)は、2.0mm〜4.0mm、ペレットの長さは、2.5〜6.0mm程度である。また、ペレット化の条件は、一般的な条件であれば、特に制限はない。得られたペレットを100℃で12時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械株式会社製、IS80)でシリンダー温度はベース樹脂の融点プラス15℃、金型温度130℃にて各種試験用試験片を成形して評価に供した。評価結果も表1に記した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなように、実施例1〜5の試験片は、極めて高い共振周波数を持ちかつ吸水による共振周波数の低下のない成形品であり、曲げ強度及び曲げ弾性率がいずれも優れており、耐振動成形品として有用な特性値を持つ。比重に対する曲げ弾性率値:X=E/ρも高い値を示している。一方、比較例1〜5の試験片は、実施例1〜5のものに比べて、共重合ポリアミドを使用していない場合は共振周波数と弾性率の低下が激しく、実施例に劣る。共重合ポリアミドを使用しても小さい断面積のガラス繊維を用いると高充填できないため、充分に高いX=E/ρを調整できず、初期値において共振周波数が低い樹脂組成物となり実施例に劣る結果となっている。