【実施例1】
【0026】
図1乃至
図3を参照しながら、本発明の実施例1に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法を説明する。
図1は、射出成形機の一般的な構成を示す概略図である。
図2は、射出成形機の射出充填工程の、一般的な制御方法の射出速度及び射出圧力の設定値と、それぞれの時間経過に伴う実測値の挙動を示す図である。
図3は、射出成形機の射出充填工程の、本発明に係る制御方法の射出速度の設定値と、その時間経過に伴う射出速度及び射出圧力の実測値の挙動を示す図である。
【0027】
本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法は、射出成形機側に特別な構成は不要であり、一般的な射出成形機を使用して実施することができる。よって、最初に、
図1を参照しながら、一般的な射出成形機1の基本構成について説明する。
【0028】
射出成形機1は、ベッド2に固定された固定盤3と、固定盤3に対して図示しない型締手段により、ベッド2上で型開閉方向に移動可能に設けられた可動盤5と、固定盤3側に設けられた射出装置20と、を備えている。
【0029】
固定盤3には、正面側(可動盤5と対向する側)の面に固定金型30が取り付けられると共に、その背面側から正面側に亘って射出装置20を固定金型30に向けて進退させるための貫通穴3aが形成されている。固定盤3の四隅からは図示しないタイバーが突出して設けられ、このタイバーは可動盤5を貫通している。また、図示しないタイバーに案内され、図示しない型締手段によって、固定盤3に対して進退自在に設けられている可動盤5には、固定盤3と対向する面に可動金型50が取り付けられている。
【0030】
固定金型30及び可動金型50は、型締めにより組み合わされて、その内部に金型キャビティ40を形成させる。固定金型30内には、金型キャビティ40に連通するゲート30aが配置され、射出装置20を型開閉方向に前進(
図1の左側)させると、射出装置20の加熱シリンダ21の先端(
図1の左側)に設けられた射出ノズル21aが、ゲート30aの固定盤3側のノズル接続孔30bにドッキングする。このようにして、加熱シリンダ21内で可塑化(溶融)された樹脂材料を、ゲート30aを介して、金型キャビティ40内に射出充填させることができる。
図1は、射出ノズル21aをノズル接続孔30bにドッキングさせた状態を示している。
【0031】
射出装置20は、その外周面に電気ヒータ等の加熱手段(図示せず)を配置させ、一方の端部に射出ノズル21aを、他方の端部に材料供給ホッパ等の材料供給部21bを備える加熱シリンダ21と、その加熱シリンダ21内に、その長手軸中心に回転可能に、且つ、該軸方向に移動可能に配置されるスクリュ22とで構成される。また、スクリュ22の外周面には、加熱シリンダ21の内周面とスクリュ22の外周面との間に形成される樹脂流路において、スクリュ22を回転させることにより、材料供給部21bから供給された樹脂ペレット等の樹脂材料を射出ノズル21a側に流動させる、螺旋状の鍔部、フライト22aが連続して形成される。説明を簡単にするために、加熱シリンダ21の射出ノズル21a側を射出装置20の”前方”、材料供給部21b側を”後方”とし、スクリュ22や樹脂材料等のそれぞれの方向への移動を”前進”及び”後退”とする。
【0032】
尚、
図1に示す射出成形機1においては、スクリュ22を回転させる駆動源をサーボモータ22b及びギアの組み合わせとし、スクリュ22を前進・後退させる駆動源をサーボモータ22c及びボールねじの組み合わせとしたが、油圧モータや油圧シリンダを駆動源とする射出装置であっても良く、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法の実施において、これら射出装置の駆動源の差異は、駆動源としての機械的差異を除き、発明の効果に差異は生じない。
【0033】
また、射出充填工程の前には、材料供給部21bから供給される、樹脂ペレット等の樹脂材料を、加熱シリンダ21の内周面とスクリュ22の外周面との間に形成される樹脂流路において連続的に可塑化(溶融)させ、加熱シリンダ21の先端内部の貯留部と呼称される空間に、1回の射出充填工程に必要な量の可塑化状態の樹脂材料を貯留させる計量工程が行われる。本発明は、射出成形機の射出充填工程の制御方法であり、本発明の実施に際し、計量工程において、射出成形機の特殊な構成や制御方法は必要とせず、公知の計量工程が行われれば良いため、計量工程の説明については省略する。
【0034】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法を、一般的な射出充填工程の制御方法と対比させながら説明する。
【0035】
一般的な射出充填工程の制御方法は、先に説明したように、まず、金型キャビティ40内に溶融状態の樹脂を充填させる射出工程において、射出装置20内のスクリュ22の前進速度、すなわち、射出速度1が制御される。そして、射出工程において、金型キャビティ40内が溶融状態の樹脂によりほぼ満たされた後は、引き続き、金型キャビティ40内の樹脂の冷却固化による収縮容積を補うための保圧工程に移行させる。その保圧工程においては、金型キャビティ40内の樹脂に、所定の射出圧力を所定時間付与させるために、スクリュ22の前進力、すなわち、射出圧力(保圧力)が制御される。
【0036】
これを
図2に示す。横軸は時間軸であり、射出工程から保圧工程への切換点が、速度/圧力切換点Bである。射出充填工程の開始点Aにおいて、スクリュ22は、計量工程完了時の後退限位置にあり、射出充填工程の完了点Cにおいて、スクリュ22は、計量工程開始時の前進限位置にある。速度/圧力切換点B(以後:点B)までは、スクリュ22の前進速度、すなわち、射出速度1が制御される(射出速度制御(太線))。ここで、
図2においては、射出速度1が点Bまで2段階で制御されている。このように、点Bまでの射出速度1を多段で制御する方法は、射出工程において一般的に用いられ、例えば樹脂流動の乱れによる成形不良が発生しないように、成形品形状に応じて射出速度を多段に設定するものである。このような射出速度制御下において生じる射出圧力(金型キャビティ40内の樹脂圧力)は、射出圧力(実測値)で表されるように、金型キャビティ40内への樹脂の充填量の増加に準じて漸次増加する。点Bにおける射出圧力(実測値)を速度/圧力切換点圧力等と呼称する。
【0037】
ここで、特許文献1の射出成形機の制御方法は、金型キャビティ内で樹脂が満杯になる手前より、スクリュの位置を維持し、金型キャビティ内を充満させた後、保圧工程に移行させることにより、樹脂が、樹脂自体の圧縮状態からの開放力のみで、金型キャビティ内でちょうど樹脂が充満して満杯状態になるように充填されることにより、過充填に起因する、ゲートから遠方の箇所で生じるバリの発生(バリ吹き)を防止するものである。しかしながら、先に説明したように、保圧工程における保圧力や保圧力付与時間の適切な設定値を決定する必要性については、従来の射出充填工程の制御方法となんら変わらないため、これら保圧工程における保圧力や保圧力付与時間の不適切な設定値に起因する成形不良を防止することができない。
【0038】
そして、射出速度制御下の点Bの射出圧力(速度/圧力切換点圧力(実測値))が、点Bにおいて射出圧力(保圧力)の制御(射出圧力(保圧力)制御(太線))に切り換えられる。設定される保圧力が、速度/圧力切換点圧力より低い場合、これら保圧力と速度/圧力切換点圧力との差異によっては、
図2に示すように点B直後に、射出圧力制御下において生じる射出速度(スクリュ22の前進速度)が射出速度(実測値)で表されるように、ごく短時間であるがマイナス値となる。すなわち、これは、先に説明したように、この間において、短時間ではあるが、スクリュ22が後退することを示すものである。
【0039】
点B以降、射出圧力制御下において、保圧力が設定値に到達した後、スクリュ22は後退から再び前進に転じ、金型キャビティ40内の樹脂に、設定された保圧力を付与させる。しかしながら、保圧工程におけるスクリュ22の後退動作は、先に説明したように、金型キャビティ40内の溶融状態の樹脂が射出装置20内に逆流する引き抜き現象を発生させ、成形品にフローマークやショート等の成形不良を誘発させる。逆に、図示はしていないが、設定される保圧力が、速度/圧力切換点圧力より高い場合には、点B直後にスクリュ22が瞬間的に前進する押し出し現象が発生することは先に説明したとおりである。
【0040】
ここで、従来の保圧工程における保圧力付与時間は、本来、金型キャビティ40内に適切な量の樹脂が充填され、適切な保圧力を付与された状態で樹脂の冷却固化が進行し、保圧力による樹脂の供給が停止し、スクリュ22が全く前進しなくなった充填完了状態(完全充填の状態/
図2の保圧工程において、射出速度(実測値)がゼロとなる状態)に到達する時間が設定されることが理想的であるが、現実的には、そのような状態とは直接関係ない独立した時間値として設定される。そのため、成形サイクルタイムを優先させて、保圧力付与時間を短く設定した保圧不足の状態(
図2の「保圧不足」の範囲)では、ショートやヒケ等の成形不良が発生したり、ゲートシール(金型のゲート部の樹脂が冷却固化している状態)に未到達であれば、ゲート部から射出装置側への樹脂の逆流が発生し、成形品重量のバラツキや品質の不安定化やゲート部からの樹脂漏れ(ハナタレ不良や糸引き不良)が発生したりする。一方、必要以上に長い保圧力付与時間の設定(
図2の「保圧過多」の範囲)であれば、成形後の残留応力による成形品の変形や、成形サイクルタイムが長くなるという問題が生じる。
【0041】
このような一般的な射出充填工程の制御方法に対して、本発明に係る射出充填工程の制御方法においては、保圧工程においても射出速度制御を行わせることが最大の特徴である。これを、
図3を参照しながら説明する。
【0042】
まず、保圧工程における射出圧力設定(保圧力設定)をゼロ設定に変更する(保圧工程のゼロ設定)。この設定変更により、保圧工程における金型キャビティ40内への樹脂の充填が略停止され、スクリュ22は点Bに到達後、急激に後退する(引き抜き現象)。そのため、点B以降も、スクリュ22の前進速度、すなわち、射出速度が制御されるように、仮の射出速度2を設定する。仮の射出速度2は、保圧工程において、スクリュ22の引き抜き現象が生じることなく、且つ、金型キャビティ40内への樹脂の充填が略停止される、最小の射出速度とすることが好ましい。具体的には、従来の保圧工程において、射出圧力制御下の射出速度(実測値)のデータから、スクリュ22の後退動作が前進動作に転じ、増速した後、再び前進速度が減速する際のピーク部に相当等する射出速度等(
図2参照)を設定すれば良い。同時に、点Bにおける射出速度1から仮の射出速度2まで移行させる移行時間も、従来の保圧工程における、速度/圧力切換圧力から設定保圧力までの到達時間等(
図2参照)を設定すれば良い。尚、従来の保圧工程において、速度/圧力切換圧力よりも高い保圧力を設定していた場合も、従来の保圧工程をベースに、前述したような設定を行えば良い。
【0043】
また、保圧工程における射出圧力付与時間(保圧力付与時間)は、後に最適な設定条件を求めるため、ここでは、当初の射出充填工程の設定値に基づく、射出充填工程開始から完了までに要していた時間と同じ時間が経過した後に、射出充填工程が完了するように、射出圧力付与時間(保圧力付与時間)を仮設定する。
【0044】
上記の保圧工程における設定変更が終了した後、点Bまでの射出工程における射出速度制御に関する射出速度1を含む諸設定値はそのままで射出成形を行う。そして、成形される成形品の品質チェックを行い、ガス残りに起因する成形不良(ガス残り不良)の有無をチェックする。
【0045】
ガス残り不良とは、先に説明したような、樹脂焼け、シルバー、ウエルド、転写ムラ、アバタ(微小凹凸)及びヒケ等の成形品の外観不良や、ボイド及び膨れ等の成形品の内部不良や、成形品の変形不良等である。これらの中には、保圧工程において発生する成形不良も一部含み、それが、射出工程及び保圧工程のいずれの工程で発生したものなのか、成形品の品質チェックだけでは判断が難しい場合がある。そのような場合においても、保圧工程の保圧力設定のゼロ設定下において、成形品に発生する成形不良を、従来の保圧工程の設定下において成形品に発生する成形不良と比較することにより、それら成形不良が、射出工程と保圧工程のいずれで発生したものかどうかの判断を容易にすることができる。そのために、また、この段階における射出成形のトライアンドエラーの回数をできるだけ少なくするためにも、この段階で、ガス残り不良と判断する基準を絞り込むと共に、各成形不良の位置、大きさ、不良程度等を基に、写真やイラスト等で判断基準として取り纏め、作業者の熟練度に依らず、できる限り差異の少ない判断ができるようにすることが好ましい。
【0046】
このような品質チェックに基づき、成形品にガス残りに起因する成形不良が確認された場合は、射出工程に発生要因が含まれていると判断し、射出速度1の設定はそのままで、速度/圧力切換点B、すなわち、スクリュ22の前進位置を所定量後退させる設定変更を行い、これに基づく射出成形を行った後、成形品の品質チェックを上記判断基準に基づき行う。これを、成形品にガス残り不良が発生しなくなるまで繰り返し、その時の新たな速度/圧力切換点Bを制御切換点B’とする(制御切換点設定工程)。尚、この段階では、上記判断基準に基づき、ガス残りに起因すると判断された成形不良以外の成形不良については無視しても良い。
【0047】
図3に示すように、制御切換点B’は、当初の速度/圧力切換点B(点B)よりもスクリュ22の前進位置が後退しているため、制御切換点B’における射出工程の射出速度1に基づく射出速度制御下の射出圧力(実測値)は、当初の速度/圧力切換点Bにおける速度/射出切換点圧力(実測値:
図2参照)よりも確実に低くなり、且つ、金型キャビティ40内の樹脂の充填量も、当初の速度/圧力切換点Bにおける樹脂の充填量よりも確実に少なくなる。これにより、制御切換点B’の前後における金型キャビティ40内の樹脂の圧力や流動速度の変化量を低減させ、スクリュ22の瞬間的な後退動作による引き抜き現象の防止だけでなく、スクリュ22の瞬間的な前進動作による押し出し現象に起因する過充填も防止することができる。
【0048】
ここで、制御切換点B’における射出圧力(実測値)が低くなることで、樹脂のバリ吹き不良の発生も抑制することができる。また、従来の速度/圧力切換点Bにおけるスクリュ22の前進位置に対する、制御切換点B‘におけるスクリュ22の前進位置の後退は、金型キャビティ40内への樹脂の充填量がより少ない状態への設定変更であり、樹脂の充填量に対して、ガス排出能力が優る方向への設定変更である(前述の要因1)。同時に、この従来の速度/圧力切換点Bから本発明に係る制御切換点B‘への設定変更は、ガス排出経路の有効面積がより広い状態への設定変更でもあり(要因2)、理論的にも、前述の要因1や要因2に起因するガス残り不良を抑制する手段として好適である。
【0049】
制御切換点設定工程後、成形品にガス残りに起因する成形不良以外の成形不良が発生している場合は、前述の要因1で示した、樹脂充填量の増加率と残存ガスのガス排出能力とが上手くバランスできていないと判断し、先に設定した、仮の射出速度2や、射出速度1から仮の射出速度2までの移行時間の設定値を変更して射出成形を行う。制御切換点B’以降の保圧工程においては、設定した仮の射出速度2及び移行時間に基づいて射出速度制御が行われるが、仮の射出速度2の設定値が大きければ、結果として金型キャビティ40内の樹脂に付与される射出圧力(生じる樹脂圧力)は大きくなり、仮の射出速度2の設定値が小さければ、射出圧力(樹脂圧力)は小さくなる。これを鑑み、成形品に発生している成形不良の種類に準じて、仮の射出速度2を所定量増減させる設定変更を行えば良い。例えば、ショート、ヒケ、ウエルドマーク等の成形不良が発生している場合は、射出速度2を増加させる設定変更を行い、バリ吹きや成形後の変形が発生している場合は射出速度2を低下させる設定変更を行う等である。ここで、射出速度2について、ガス残り不良が発生しないことを優先させることは言うまでもない。また、点Bにおける射出速度1から仮の射出速度2まで移行させる移行時間の設定変更も成形不良の改善に有効であるため、射出速度2の設定変更と合わせて、この移行時間の設定変更も必要に応じて行えば良い。
【0050】
上記のような射出速度2及び移行時間の設定変更の後、射出成形を行い、品質チェックを行う。これを、成形品に成形不良が発生しなくなるまで繰り返し、その時の新たな射出速度2を射出保圧速度Vh、射出速度1から射出保圧速度Vhまで移行させる移行時間を射出保圧速度移行時間Thとする(射出保圧速度設定工程)。尚、この段階での成形品の品質チェックは、成形品が製品として仕様を満足する、一般的な成形品の品質基準に基づいて行われることが必要である。また、この段階における射出成形のトライアンドエラーの回数をできるだけ少なくするために、この段階において発生する成形不良の種類や不良程度に準じた、射出速度2の設定変更基準を作成することが好ましい。
【0051】
一方、制御切換点設定工程後、成形品にガス残りに起因する成形不良以外の成形不良が発生していない場合でも、成形品が仕様を満足する範囲内で射出速度2を増加させる設定変更を行い、上記作業を繰り返し行い、成形サイクルタイムを短縮することができる射出保圧速度Vh及び射出保圧速度移行時間Thを設定することが好ましい。
【0052】
このように、制御切換点設定工程及び射出保圧速度設定工程において設定された、制御切換点B’、射出保圧速度Vh及び射出保圧速度移行時間Thに基づき、射出充填工程が制御される、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法を図示したものが
図3である。
【0053】
制御切換点B‘到達前の射出速度1と、制御切換点B’以降における射出保圧速度Vhとは、射出速度差を有しているもの、スクリュ22は、制御切換点B‘の前後においても、射出保圧速度移行時間Thの設定により、射出速度制御下で前進動作を滑らかに継続するよう制御されるため、従来の射出充填工程の制御方法における、スクリュ22の瞬間的な後退動作や前進動作は発生しない。これにより、引き抜き現象や押し出し現象の発生を確実に防止することができる。
【0054】
そして、制御切換点B‘以降は、ガス残り不良を含む成形不良の発生が無く、成形品が製品として仕様を満足する射出保圧速度Vh及び射出保持速度移行時間Thに基づく射出速度制御下で、金型キャビティ40内の樹脂の充填率がほぼ100%になるまで射出充填を行うことにより、従来の、速度/圧力切換点Bを基準とする射出充填工程の制御方法では防止することが困難な、ガス残りに起因する成形不良を防止することができる。
【0055】
また、
図3に示すように、制御切換点B‘以降において、射出保圧速度Vhに到達後、時間経過に伴い、金型キャビティ40内が樹脂でほぼ充満され、冷却固化による樹脂の収縮量が漸次減少すると(完全充填の状態)、当然ながら、スクリュ22の射出速度(実測値)は、射出保圧速度Vhの設定に依らず、漸次減少しゼロに近づく。一方、スクリュ22の射出圧力(実測値/樹脂圧力)は、漸次増加していく。尚、射出速度制御下において、実際には、スクリュ22の射出速度(実測値)は制御射出速度と若干相違するが、
図3においては、図を簡単にするために、保圧工程におけるスクリュ22の射出速度(実測値)が、射出保圧速度Vhから漸次減少(乖離)する部分を除き、制御射出速度=射出速度(実測値)としている。
【0056】
ここで、射出保圧速度設定工程の後、この射出保圧速度Vhと、射出保圧速度Vh到達時から、時間経過に伴う射出速度(実測値)との速度差ΔVと、射出保圧速度Vh到達後、射出速度1から射出保圧速度Vhまでの速度降下に連動した射出圧力最降下点となる実測射出圧力1と、実測射出圧力1から、時間経過に伴う射出圧力(実測値)との圧力差ΔPとを監視し、成形される成形品の品質チェックにより、成形品が仕様を満足し、且つ、この時間経過が最短となる、射出充填完了速度差ΔVt及び射出充填完了圧力差ΔPtを求め、このようにして求めた射出充填完了速度差ΔVt及び前記射出充填完了圧力差ΔPtの少なくとも一方を射出充填完了設定値として設定する射出充填完了設定工程を行うことが好ましい。
【0057】
具体的には、射出保圧速度設定工程における品質チェックにより、成形品が製品として仕様を満足することが確認された後、仮に、射出充填工程完了としていた点C(例えば、当初の射出充填工程の設定値に基づく射出充填工程開始から完了までに要していた時間と同じ時間が射出充填工程開始から経過した点)を、所定時間短縮して射出成形を行い、成形品を取り出して品質チェックを行う。これを繰り返して、成形品が仕様を満足し、且つ、この時間経過が最短となる、射出充填完了速度差ΔVt及び射出充填完了圧力差ΔPtを求め、これらΔVt及びΔPtの少なくとも一方を射出充填完了設定値として設定する。そして、各設定工程が完了し、必要な設定がなされた後の連続成形において、ΔV及びΔPの少なくとも一方が、これら射出充填完了設定値(ΔVh及びΔPh)に到達することにより、射出充填工程の完了と判断させるものである。
【0058】
射出充填完了設定値として、これらΔVt及びΔPtに到達するそれぞれの経過時間ΔTを加えても良い。このように、射出充填工程の完了とする基準値を上記のように求め、射出充填完了設定値として設定することにより、射出充填工程の完了(完全充填の状態)を定量的に判断することができ、作業者の熟練度に依存することなく、成形品の品質の安定化を図ることができる。また、射出充填完了設定値を、1種類ではなく、速度差、圧力差及びそれらに到達する経過時間の3種類とすることで、様々な外乱因子に影響されることなく、射出充填工程の完了を精度良く判断できる。
【0059】
例えば、外乱因子が、金型や計量樹脂の温度変動である場合には、保圧工程における金型キャビティ40内の樹脂の冷却固化速度及びこれに伴う冷却固化収縮量が変化し、これら射出充填完了設定値の1つにおいて、その設定値に到達する時間が若干変動したり、その設定時間(時間経過)に対応するΔVやΔPが若干変動したりして、ΔVtやΔPtとの差異が許容範囲以上になる可能性がある。その場合、射出充填完了設定値が1種類であれば、射出充填工程の完了の判断に影響が生じる可能性があるが、他の設定値を含めた複数の射出充填完了設定値により射出充填完了を判断させることにより、このような外乱因子に大きく影響されることなく、適切な射出充填工程の完了を判断させることができる。また、同じ成形品であっても、納入先や製品グレード別で求められる品質が異なる場合、これら複数の射出充填完了設定値を任意に組み合わせたり、個々の設定値の許容範囲を個別に設定したりして、複数の射出充填完了基準を設定しても良い。
【0060】
このように判断される射出充填工程の新完了点C’に基づく、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法は、成形品の品質の確保だけでなく、射出充填完了設定値の決定において、金型のゲート部のゲートシールが完了していることを、ΔVt、ΔPt、及び、それらに到達するそれぞれの経過時間ΔTとして数値的に反映させることにより、新完了点C’においては、ゲート部から射出装置側への樹脂の逆流が発生することはなく、成形品重量のバラツキや品質の不安定化やゲート部からの樹脂漏れ(ハナタレ不良や糸引き不良)の発生を防止できる。そして、成形品の変形の防止や、成形サイクルタイムの短縮にも寄与する。
【0061】
ここで、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法においては、制御切換点以前の射出速度1に関わる設定について、特に制約はない。よって、射出速度1が、
図2に示すように、多段で制御されても、特許文献1のように、一時的に停止させる(射出速度1のゼロ設定)制御であっても良い。しかしながら、これまで説明した制御切換点設定工程や射出保圧速度設定工程において、トライアンドエラーで射出成形を行っても、ガス残りに起因する成形不良やその他の成形不良が発生しない、制御切換点B’や射出保圧速度Vhや射出保圧速度移行時間が得られない場合は、当初の射出工程の射出速度1の設定に問題があると判断して、これを修正することが好ましい(射出速度1修正設定工程)。
【0062】
本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法において、制御切換点以前の射出速度1に関わる設定について、特に制約していないのは、ガス残りに起因する成形不良を含め、様々な成形不良は、速度/圧力切換点、保圧力及び保圧力付与時間等が、他の射出成形条件と複雑に影響し合って発生するため、何の基本設定もない状態から、いきなり適切な射出成形条件を設定するためには、多くの労力と時間を必要とするからである。
【0063】
そのため、まずは、その射出成形条件と、その射出成形条件において得られる成形品の状況(品質、良品率、多く発生する成形不良等)が周知である、従来採用していた射出充填工程の制御方法をベースとして、これまで説明したような工程を経て、各種設定値を求め、設定して、本発明を実施することが好ましい。制御切換点設定工程や射出保圧速度設定工程においては、基本的に、修正すべき設定値をトライアンドエラーで求めていく必要があるため、従来の制御方法において周知されている、その射出成形条件と対応する成形品の状況(各種成形不良)と比較することにより、個々の工程で解消すべき問題を絞り込んだ上で、段階を経て設定値を設定変更していく方が、総花的に設定値を設定変更して、その都度、トライアンドエラーで求めていくよりも、短時間で最適な設定値を求めることができる。
【0064】
一方、新たな製品の成形や、新たな金型を使用する際等、ベースとなる射出充填工程における制御方法の各種設定値が確立されていない場合においても、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程における制御方法を実施することは可能である。
【0065】
具体的には、保圧工程の保圧力設定のゼロ設定を行った上で、作業者の経験則やCAE解析を基に、射出工程における適当な射出速度1を設定する。そして、ショートショットとなるように、成形品から計算される必要樹脂量よりも少ない射出充填重量(計量重量)を設定して射出成形を開始し、そこから所定量ずつ射出充填重量を増やして射出成形を行う。平行して、射出速度1を調整しながら射出成形を行い、ガス残り不良が発生しない制御切換点B’を求める。この制御切換点B’はできるだけスクリュの後退限に近い方が良い。このように、射出速度1及び制御切換点B’を平行して求めていく必要はあるものの、これ以降は、先に説明した、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程における制御方法を実施すれば良い。
【0066】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく色々な方法で実施できる。例えば、実施例1の射出保圧速度設定工程において、射出保圧速度Vhと射出保圧速度移行時間Thを設定するとしたが、射出速度1から射出保圧速度Vhまでの射出速度移行パターンは、これら2速度の移行時間ではなく、移行加速度として設定されても良い。また、射出保圧速度Vhを、
図2の射出速度1(制御射出速度)のように、多段で制御(設定)しても良い。このようにすることにより、金型キャビティ40内の樹脂の充填率がほぼ100%になるまで余裕がある、制御切換点B’からの射出速度変化パターンを、より詳細に、充填状況に対応させて制御(設定)することが可能になるため、金型キャビティ40内の樹脂の充填率がほぼ100%になった状態から、射出圧力制御に切り換えられる、従来の射出充填工程の制御方法に対して、設定変更の自由度が高く、設定変更に伴う成形品の成形不良の改善効果も高くなる。