特許第6075694号(P6075694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6075694-射出成形機の射出充填工程の制御方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075694
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】射出成形機の射出充填工程の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/50 20060101AFI20170130BHJP
   B29C 45/77 20060101ALI20170130BHJP
   B22D 17/32 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   B29C45/50
   B29C45/77
   B22D17/32 A
   B22D17/32 B
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-155398(P2013-155398)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-24568(P2015-24568A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】宇部興産機械株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和明
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−127196(JP,A)
【文献】 特開平4−12821(JP,A)
【文献】 特開2002−28959(JP,A)
【文献】 特開2012−144042(JP,A)
【文献】 特開昭63−286320(JP,A)
【文献】 特開平10−272663(JP,A)
【文献】 特開2003−25394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/50
B22D 17/32
B29C 45/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュが設定された速度/圧力切換点に到達するまで、前記スクリュの射出速度1が制御される射出工程と、スクリュが前記速度/圧力切換点に到達後、射出充填の完了まで、前記スクリュの射出圧力が制御される保圧工程と、を有する射出成形機の射出充填工程の制御方法において、
前記保圧工程における射出圧力設定をゼロ設定として射出成形を行い、成形される成形品の品質チェックにより、ガス残りに起因する成形不良が発生しない、新たな速度/圧力切換点を求め、前記新たな速度/圧力切換点を制御切換点として設定する制御切換点設定工程と、
前記スクリュが前記制御切換点に到達後、前記スクリュの射出速度が制御されるように、射出速度2、及び前記射出速度1から前記射出速度2まで移行させる移行時間を設定して、前記制御切換点、前記射出速度2及び前記移行時間に基づく射出成形を行い、成形される成形品の品質チェックにより、成形不良が発生しない、新たな射出速度2及び新たな移行時間を求め、前記新たな射出速度2及び前記新たな移行時間を射出保圧速度及び射出保圧速度移行時間として設定する射出保圧速度設定工程と、を有し、
前記制御切換点設定工程及び前記射出保圧速度設定工程において設定された、前記制御切換点、前記射出保圧速度及び前記射出保圧速度移行時間に基づき、射出充填工程が制御される射出成形機の射出充填工程の制御方法。
【請求項2】
前記制御切換点、前記射出保圧速度及び前記射出保圧速度移行時間に基づく射出成形を行い、
前記射出保圧速度と、前記射出保圧速度到達時から、時間経過に伴う前記スクリュの実測射出速度との速度差ΔVと、
前記スクリュの前記射出保圧速度到達後、前記射出速度1から前記射出保圧速度までの速度降下に連動した射出圧力最降下点となる実測射出圧力1と、前記実測射出圧力1から、時間経過に伴う前記スクリュの実測射出圧力との圧力差ΔPと、を監視し、
成形される成形品の品質チェックにより、成形品が仕様を満足し、且つ、前記時間経過が最短となる、射出充填完了速度差ΔVt及び射出充填完了圧力差ΔPtを求め、前記射出充填完了速度差ΔVt及び前記射出充填完了圧力差ΔPtの少なくとも一方を射出充填完了設定値として設定する射出充填完了設定工程と、を更に有し、
前記速度差ΔV及び前記圧力差ΔPの少なくとも一方の値が、前記射出充填完了設定工程において設定された、前記射出充填完了設定値に到達することにより、射出充填工程の完了と判断させる請求項1に記載の射出成形機の射出充填工程の制御方法。
【請求項3】
前記射出充填完了設定値として、前記速度差ΔV及び前記圧力差ΔPの少なくとも一方が、前記射出充填完了速度差ΔVt及び前記射出充填完了圧力差ΔPtの少なくとも一方に到達する経過時間ΔTを、更に含む請求項2に記載の射出成形機の射出充填工程の制御方法。
【請求項4】
前記制御切換点設定工程、前記射出保圧速度設定工程及び前記射出充填完了設定工程の少なくとも一つの結果に基づき、前記制御切換点前の前記射出速度1の設定を修正する射出速度1修正設定工程と、を更に含む請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の射出成形機の射出充填工程の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の射出充填工程の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の射出充填工程においては、まず、金型キャビティ内に溶融状態の樹脂を充填させる射出工程において、射出成形機の射出装置内のスクリュの前進速度、すなわち、射出速度が制御される。そして、射出工程において、金型キャビティ内が溶融状態の樹脂によりほぼ充満された後に、金型キャビティ内の樹脂の冷却固化による収縮容積を補うための保圧工程に移行させる。保圧工程においては、金型キャビティ内の樹脂に、所定の射出圧力を所定時間付与させるために、同スクリュの前進力、すなわち、射出圧力(保圧力)が制御されることが一般的である。このような射出工程と保圧工程とから成る射出充填工程の制御方法において、スクリュの制御対象項目が、射出速度から射出圧力(保圧力)へと切り換えられるスクリュの前進位置を、速度/圧力切換点(あるいはV/P切換点)等と呼称している。
【0003】
このような射出充填工程の制御方法においては、保圧工程での保圧力や保圧力付与時間の設定値が適切でない場合、例えば、保圧過多の場合、過充填によるバリ吹き等の成形不良が発生し、保圧不足の場合、充填不足によるショートやヒケ等の成形不良が発生することが知られている。しかしながら、これらの成形不良は、速度/圧力切換点、保圧力及び保圧力付与時間等が、他の射出成形条件と複雑に影響し合って発生するため、熟練者であっても、適切な設定値を見極めることが難しいとされている。そのため、このような成形不良を防止するために、保圧工程における射出圧力制御(保圧力制御)を含め、様々な射出充填工程の制御方法が考案されている。
【0004】
特許文献1には、スクリュを前進させて樹脂の金型のキャビティ(金型キャビティ)内への充填を開始し、前記キャビティ内で樹脂が満杯になる手前より、前記樹脂の圧縮性を利用して前記キャビティ内を充満させる射出成形機の制御方法が開示されている。具体的には、前記キャビティ内で樹脂が満杯になる手前より、前記スクリュのスクリュ位置を所定時間維持し、前記キャビティ内を充満させた後、保圧工程に移行するものである。
【0005】
すなわち、キャビティ内の樹脂は溶融状態では高い圧縮性を有しているため、キャビティ内で樹脂が満杯になる手前で、スクリュの前進が停止され、その停止位置が所定時間維持されると、スクリュの前進停止以降の樹脂は、その間、樹脂自体の圧縮状態からの開放力のみにより、キャビティ内でちょうど樹脂が充満して満杯状態になるように充填される。この作用により、過充填に起因する、ゲートから遠方の箇所で生じるバリの発生(バリ吹き)を防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−074114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の射出成形機の制御方法においては、射出工程の完了直前に、スクリュの前進が停止されてから所定時間経過後、一般的な射出充填工程の制御方法と同様に、保圧工程に移行される。従って、保圧工程における保圧力や保圧力付与時間の適切な設定値を決定する必要性については、従来の射出充填工程の制御方法となんら変わらないため、これら保圧工程における保圧力や保圧力付与時間の不適切な設定値に起因する成形不良を防止することができないという問題がある。
【0008】
例えば、保圧工程における保圧力が、速度/圧力切換点における射出速度制御下の射出圧力(実測値)より低く設定される場合、射出装置内の密閉された溶融状態の樹脂の圧力(保圧力)を設定保圧力まで下げる制御により、一般的には、スクリュが一旦後退する(特許文献1/段落0024)。保圧力の設定値によっては、その射出圧力の急激な低下により、スクリュが瞬間的に後退する場合がある。これにより、金型キャビティ内の溶融状態の樹脂が射出装置内に逆流する現象(引き抜き現象)が発生し、成形品にフローマークやショート等の成形不良を誘発させる。一方、保圧工程における保圧力が、速度/圧力切換点における射出速度制御下の射出圧力(実測値)より高く設定される場合、射出装置内の密閉された溶融状態の樹脂の圧力(保圧力)を設定保圧力まで上げる制御により、スクリュが前進する。そのため、保圧力の設定値によっては、スクリュが瞬間的に前進することにより、引き抜き現象と逆の現象(押し出し現象)が発生し、成形品にフローマークやバリ吹き等の成形不良を誘発させる。保圧工程における、このような引き抜き現象や押し出し現象は、特許文献1の射出成形機の制御方法に限らず、速度/圧力切換点の前後において急激な圧力変化が発生する、一般的な射出充填工程の制御方法における問題点の1つである。
【0009】
更に、特許文献1の射出成形機の制御方法も含め、速度/圧力切換点の前後で、射出速度制御と射出圧力制御とを切り換える射出充填工程の制御方法においては、スクリュが速度/圧力切換点に到達するまでの射出工程中に、その多くが発生するとされている、金型キャビティ内のガス残りに起因する成形不良(ガス残り不良)を防止することが難しいという問題がある。以下に、その理由を説明する。
【0010】
まず、金型キャビティ内のガス残りとは、予め存在する金型キャビティ内の空気や、射出工程の射出充填中の溶融状態の樹脂から発生するガスが、金型キャビティ内への樹脂の充填に逆らって、金型キャビティから排出されずに、金型キャビティに残存する現象である。ガス残りの要因としては、以下が挙げられる。
1 充填樹脂量の増加率>ガス排出能力
2 ガス排出経路の有効面積
3 残存ガス圧力<ガス排出経路(ガスベントや金型PL面)の排出抵抗
4 流動樹脂によるガス排出経路の閉塞
5 ウエルド樹脂流動(ポケット状態となる樹脂合流部)
6 ガス排出経路の未形成もしくはガス排出経路の機械的な閉塞
(型締力過多による金型PL面の隙間閉塞等)
7 成形品意匠(凹凸形状等)による樹脂の流動性悪化(ガス巻き込み)
【0011】
このようなガス残りに起因する成形品の成形不良(ガス残り不良)は、ガス残りの発生位置によって大きく異なる。例えば、金型キャビティ内に充填された樹脂と金型キャビティ面との間にガス残りが発生した場合には、樹脂焼け、シルバー、ウエルド、転写ムラ、アバタ(微小凹凸)及びヒケ等の成形品の外観不良となる。また、金型キャビティ内に充填された樹脂の内部にガス残りが発生した場合には、ボイド及び膨れ等の成形品の内部不良となる。ガス残りの発生位置が部分的な場合は、これに起因する外観不良及び内部不良も部分的な不良となるが、成形品の略全面にガス残りが発生した場合には、金型キャビティ内に充填された樹脂の冷却固化状態が不均一となり、成形品の変形不良を生じさせることもある。
【0012】
代表的なガス残り不良を説明する。樹脂焼け不良は、残存空気及びガスが樹脂の充填により圧縮される際、断熱圧縮状態となり、瞬間的に数百度に到達し、残存ガス周囲の樹脂が瞬間的に加熱され炭化(黒色化)する成形不良であり、主に、樹脂の流動末端部に発生する。シルバー不良は、樹脂充填中に発生し、樹脂流動中に樹脂内に巻き込まれた残存ガスが、樹脂の充填に伴い圧縮され、樹脂から発散される際に、発散箇所がガス発散模様として成形品の表面に形成される成形不良である。また、残存ガスを巻き込んだまま樹脂が冷却固化してしまうと、ボイド不良と呼称される内部空洞が生じ、この内部空洞が収縮するとヒケ不良となり、膨張すると膨れ不良と呼称される成形不良となる。一般的に、これらは、樹脂の流動性が悪化する、凹凸形状付近、ウエルド部(樹脂合流部)、流動末端部に発生する。一方、樹脂の流動末端部にガス残りが発生すると、ショート不良(充填樹脂不足)となり、ウエルド部にガス残りが発生すると、ウエルド模様(樹脂合流跡)やウエルド接合強度不足、あるいは、ウエルドショート等のウエルド不良となる。また、ショート不良やウエルド不良を改善しようとして、樹脂の充填を継続させると、残存空気やガスが圧縮され、先に説明した樹脂焼け不良となる。更に、ガス残りが、成形品表面と金型キャビティとの間に薄い膜状に発生すると、金型キャビティ面に形成された意匠性の模様を成形品の表面に忠実に転写できない転写ムラ不良となり、シボ等の微小意匠の凹凸部にガス残りが分散して発生すると、成形品の表面に、意匠性を損なう微小凹凸が生じるアバタ不良となる。また更に、このように、ガス残り(層)が、成形品表面と金型キャビティとの間に薄い膜状に発生してしまうと、これが断熱層となり、金型による成形品の冷却固化作用を阻害してしまい、成形品内部に残留応力を生じさせるため、成形後の成形品の変形の要因となる。
【0013】
すなわち、ガス残り不良は、前述したガス残りの要因4〜7に示すような、金型キャビティ(成形品)の形状や金型の温度調整、及び、金型キャビティへの樹脂の充填位置(ゲート)、ガス排出経路(ガスベント)の配置等の、金型に起因する要因を除けば、金型キャビティ内へ充填される樹脂の流動状態(充填樹脂量の増加率)と、金型キャビティ内に残存する空気及びガスの排出とのバランスとに起因するところが大きい成形不良と言える。従って、金型キャビティ内に残存する空気及びガスの量が多い程、ガス残り不良の発生確率が高いと考えられ、金型キャビティ内へ樹脂がほぼ充填され、残存空気及びガス量が少ない保圧工程よりも、空気で満たされた金型キャビティ内へ樹脂を充填させる射出工程の方が、ガス残り不良の発生確率が高いと言える。
【0014】
引き続き、射出工程におけるガス残り不良の発生メカニズムを詳細に説明する。樹脂を充填する前の金型キャビティ内の空気の圧力は大気圧と同程度である。樹脂の充填開始後は、金型キャビティ内に充填される樹脂量の増加に伴って、金型キャビティ内の空気と、充填される樹脂から放出されるガスとが共に圧縮され、金型キャビティ内に残存するこれら空気及びガスからなる残存ガスの圧力は上昇する。同時に、その圧力が上昇した残存ガスは、金型に設けられた、あるいは、形成されたガス排出経路から排出される。すなわち、前述したガス残り要因1で示すように、金型キャビティ内へ充填される樹脂の充填樹脂量の増加率よりガス排出能力の方が劣る(それぞれの大小関係の結果)場合に、ガス残りが発生し、先に説明したように、その発生位置により、様々な不良が発生する。
【0015】
ここで、ガス排出能力は、ガス排出経路の排出抵抗(要因3)、及び、ガス排出経路の有効面積(要因2)で決まる。前者のガス排出経路の排出抵抗に関しては、排出抵抗が低い程、ガス排出能力は高くなる。しかしながら、ガス排出経路の有効面積を広くしたり、ガス排出経路を直線的に配置したりして、排出抵抗そのものを低くすると、ガス排出経路に樹脂が差し込む等のガス排出経路の閉塞や、ガス排出経路からのバリ吹き等が発生し易くなる。そのため、排出抵抗そのものを低下させるのではなく、残存ガスの圧力を排出抵抗よりも高くして、強制的に排出することが好ましい。充填される樹脂量の増加に伴う残存ガスの圧力の上昇は、ガス排出経路からの残存ガスの排出の促進に好適である。尚、一般的な射出充填工程の制御方法における問題点の1つである、保圧工程における引き抜き現象は、金型キャビティ内に充填された樹脂の圧力を低下させ、それに伴って残存ガスの圧力も低下させるため、残存ガスの排出が促進されず、ガス残り不良の改善が困難になる。また、保圧工程における押し出し現象は、バリ吹き等の成形不良が発生する可能性が高い。
【0016】
一方、後者のガス排出経路の有効面積に関しては、金型キャビティ内へ充填される樹脂量の増加に伴い、ガス排出経路が充填された樹脂によって閉塞されるため、その有効面積は減少していく。これにより、残存ガスの排出能力は低下し、ガス残り不良が発生し易い状況となる。特に、残存ガスの排出に必要な有効面積が殆ど無くなり、残存ガスの排出能力が大幅に低下する射出工程の後半に発生する引き抜き現象や押し出し現象は、ガス残り不良に直結する。そのため、特許文献1の射出成形機の制御方法も含め、一般的な射出充填工程の制御方法では、ガス残り不良を確実に改善させることは困難である。
【0017】
また、ガス残り不良の大きな要因である上記1〜3は、他の要因である4〜7がある程度、樹脂流動解析ソフト等を使用したCAE解析により、予想や調整が可能であるのに対して、成形条件や射出充填の進行状況により刻々と変化するため、CAE解析によっても予測することが非常に難しく、一般的には、トライアンドエラーで発生の解決を図ることが多い。
【0018】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたもので、具体的には、保圧工程においても射出速度制御を行わせ、ガス残りに起因する成形不良を防止することができる射出成形機の射出充填工程の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するため、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法は、スクリュが設定された速度/圧力切換点に到達するまで、前記スクリュの射出速度1が制御される射出工程と、スクリュが前記速度/圧力切換点に到達後、射出充填の完了まで、前記スクリュの射出圧力が制御される保圧工程と、を有する射出成形機の射出充填工程の制御方法において、
前記保圧工程における射出圧力設定をゼロ設定として射出成形を行い、成形される成形品の品質チェックにより、ガス残りに起因する成形不良が発生しない、新たな速度/圧力切換点を求め、前記新たな速度/圧力切換点を制御切換点として設定する制御切換点設定工程と、
前記スクリュが前記制御切換点に到達後、前記スクリュの射出速度が制御されるように、射出速度2、及び前記射出速度1から前記射出速度2まで移行させる移行時間を設定して、前記制御切換点、前記射出速度2及び前記移行時間に基づく射出成形を行い、成形される成形品の品質チェックにより、成形不良が発生しない、新たな射出速度2及び新たな移行時間を求め、前記新たな射出速度2及び前記新たな移行時間を射出保圧速度及び射出保圧速度移行時間として設定する射出保圧速度設定工程と、を有し、
前記制御切換点設定工程及び前記射出保圧速度設定工程において設定された、前記制御切換点、前記射出保圧速度及び前記射出保圧速度移行時間に基づき、射出充填工程が制御される。
【0020】
また、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法は、前記制御切換点、前記射出保圧速度及び前記射出保圧速度移行時間に基づく射出成形を行い、
前記射出保圧速度と、前記射出保圧速度到達時から、時間経過に伴う前記スクリュの実測射出速度との速度差ΔVと、
前記スクリュの前記射出保圧速度到達後、前記射出速度1から前記射出保圧速度までの速度降下に連動した射出圧力最降下点となる実測射出圧力1と、前記実測射出圧力1から、時間経過に伴う前記スクリュの実測射出圧力との圧力差ΔPと、を監視し、
成形される成形品の品質チェックにより、成形品が仕様を満足し、且つ、前記時間経過が最短となる、射出充填完了速度差ΔVt及び射出充填完了圧力差ΔPtを求め、前記射出充填完了速度差ΔVt及び前記射出充填完了圧力差ΔPtの少なくとも一方を射出充填完了設定値として設定する射出充填完了設定工程と、を更に有し、
前記速度差ΔV及び前記圧力差ΔPの少なくとも一方の値が、前記射出充填完了設定工程において設定された、前記射出充填完了設定値に到達することにより、射出充填工程の完了と判断させることが好ましい。
【0021】
ここで、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法は、前記射出充填完了設定値として、前記速度差ΔV及び前記圧力差ΔPの少なくとも一方が、前記射出充填完了速度差ΔVt及び前記射出充填完了圧力差ΔPtの少なくとも一方に到達する経過時間ΔTを、更に含んでいても良い。
【0022】
更に、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法は、前記制御切換点設定工程、前記射出保圧速度設定工程及び前記射出充填完了設定工程の少なくとも一つの結果に基づき、前記制御切換点前の前記射出速度1の設定を修正する射出速度1修正設定工程と、を更に含んでいても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スクリュが設定された速度/圧力切換点に到達するまで、前記スクリュの射出速度1が制御される射出工程と、スクリュが前記速度/圧力切換点に到達後、射出充填の完了まで、前記スクリュの射出圧力が制御される保圧工程と、を有する射出成形機の射出充填工程の制御方法において、
前記保圧工程における射出圧力設定をゼロ設定として射出成形を行い、成形される成形品の品質チェックにより、ガス残りに起因する成形不良が発生しない、新たな速度/圧力切換点を求め、前記新たな速度/圧力切換点を制御切換点として設定する制御切換点設定工程と、
前記スクリュが前記制御切換点に到達後、前記スクリュの射出速度が制御されるように、射出速度2、及び前記射出速度1から前記射出速度2まで移行させる移行時間を設定して、前記制御切換点、前記射出速度2及び前記移行時間に基づく射出成形を行い、成形される成形品の品質チェックにより、成形不良が発生しない、新たな射出速度2及び新たな移行時間を求め、前記新たな射出速度2及び前記新たな移行時間を射出保圧速度及び射出保圧速度移行時間として設定する射出保圧速度設定工程と、を有し、
前記制御切換点設定工程及び前記射出保圧速度設定工程において設定された、前記制御切換点、前記射出保圧速度及び前記射出保圧速度移行時間に基づき、射出充填工程が制御されるため、保圧工程においても射出速度制御を行わせ、ガス残りに起因する成形不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】射出成形機の一般的な構成を示す概略図である。
図2】射出成形機の射出充填工程の、一般的な制御方法の射出速度及び射出圧力の設定値と、それぞれの時間経過に伴う実測値の挙動を示す図である。
図3】射出成形機の射出充填工程の、本発明に係る制御方法の射出速度の設定値と、その時間経過に伴う射出速度及び射出圧力の実測値の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1乃至図3を参照しながら、本発明の実施例1に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法を説明する。図1は、射出成形機の一般的な構成を示す概略図である。図2は、射出成形機の射出充填工程の、一般的な制御方法の射出速度及び射出圧力の設定値と、それぞれの時間経過に伴う実測値の挙動を示す図である。図3は、射出成形機の射出充填工程の、本発明に係る制御方法の射出速度の設定値と、その時間経過に伴う射出速度及び射出圧力の実測値の挙動を示す図である。
【0027】
本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法は、射出成形機側に特別な構成は不要であり、一般的な射出成形機を使用して実施することができる。よって、最初に、図1を参照しながら、一般的な射出成形機1の基本構成について説明する。
【0028】
射出成形機1は、ベッド2に固定された固定盤3と、固定盤3に対して図示しない型締手段により、ベッド2上で型開閉方向に移動可能に設けられた可動盤5と、固定盤3側に設けられた射出装置20と、を備えている。
【0029】
固定盤3には、正面側(可動盤5と対向する側)の面に固定金型30が取り付けられると共に、その背面側から正面側に亘って射出装置20を固定金型30に向けて進退させるための貫通穴3aが形成されている。固定盤3の四隅からは図示しないタイバーが突出して設けられ、このタイバーは可動盤5を貫通している。また、図示しないタイバーに案内され、図示しない型締手段によって、固定盤3に対して進退自在に設けられている可動盤5には、固定盤3と対向する面に可動金型50が取り付けられている。
【0030】
固定金型30及び可動金型50は、型締めにより組み合わされて、その内部に金型キャビティ40を形成させる。固定金型30内には、金型キャビティ40に連通するゲート30aが配置され、射出装置20を型開閉方向に前進(図1の左側)させると、射出装置20の加熱シリンダ21の先端(図1の左側)に設けられた射出ノズル21aが、ゲート30aの固定盤3側のノズル接続孔30bにドッキングする。このようにして、加熱シリンダ21内で可塑化(溶融)された樹脂材料を、ゲート30aを介して、金型キャビティ40内に射出充填させることができる。図1は、射出ノズル21aをノズル接続孔30bにドッキングさせた状態を示している。
【0031】
射出装置20は、その外周面に電気ヒータ等の加熱手段(図示せず)を配置させ、一方の端部に射出ノズル21aを、他方の端部に材料供給ホッパ等の材料供給部21bを備える加熱シリンダ21と、その加熱シリンダ21内に、その長手軸中心に回転可能に、且つ、該軸方向に移動可能に配置されるスクリュ22とで構成される。また、スクリュ22の外周面には、加熱シリンダ21の内周面とスクリュ22の外周面との間に形成される樹脂流路において、スクリュ22を回転させることにより、材料供給部21bから供給された樹脂ペレット等の樹脂材料を射出ノズル21a側に流動させる、螺旋状の鍔部、フライト22aが連続して形成される。説明を簡単にするために、加熱シリンダ21の射出ノズル21a側を射出装置20の”前方”、材料供給部21b側を”後方”とし、スクリュ22や樹脂材料等のそれぞれの方向への移動を”前進”及び”後退”とする。
【0032】
尚、図1に示す射出成形機1においては、スクリュ22を回転させる駆動源をサーボモータ22b及びギアの組み合わせとし、スクリュ22を前進・後退させる駆動源をサーボモータ22c及びボールねじの組み合わせとしたが、油圧モータや油圧シリンダを駆動源とする射出装置であっても良く、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法の実施において、これら射出装置の駆動源の差異は、駆動源としての機械的差異を除き、発明の効果に差異は生じない。
【0033】
また、射出充填工程の前には、材料供給部21bから供給される、樹脂ペレット等の樹脂材料を、加熱シリンダ21の内周面とスクリュ22の外周面との間に形成される樹脂流路において連続的に可塑化(溶融)させ、加熱シリンダ21の先端内部の貯留部と呼称される空間に、1回の射出充填工程に必要な量の可塑化状態の樹脂材料を貯留させる計量工程が行われる。本発明は、射出成形機の射出充填工程の制御方法であり、本発明の実施に際し、計量工程において、射出成形機の特殊な構成や制御方法は必要とせず、公知の計量工程が行われれば良いため、計量工程の説明については省略する。
【0034】
次に、図2及び図3を参照しながら、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法を、一般的な射出充填工程の制御方法と対比させながら説明する。
【0035】
一般的な射出充填工程の制御方法は、先に説明したように、まず、金型キャビティ40内に溶融状態の樹脂を充填させる射出工程において、射出装置20内のスクリュ22の前進速度、すなわち、射出速度1が制御される。そして、射出工程において、金型キャビティ40内が溶融状態の樹脂によりほぼ満たされた後は、引き続き、金型キャビティ40内の樹脂の冷却固化による収縮容積を補うための保圧工程に移行させる。その保圧工程においては、金型キャビティ40内の樹脂に、所定の射出圧力を所定時間付与させるために、スクリュ22の前進力、すなわち、射出圧力(保圧力)が制御される。
【0036】
これを図2に示す。横軸は時間軸であり、射出工程から保圧工程への切換点が、速度/圧力切換点Bである。射出充填工程の開始点Aにおいて、スクリュ22は、計量工程完了時の後退限位置にあり、射出充填工程の完了点Cにおいて、スクリュ22は、計量工程開始時の前進限位置にある。速度/圧力切換点B(以後:点B)までは、スクリュ22の前進速度、すなわち、射出速度1が制御される(射出速度制御(太線))。ここで、図2においては、射出速度1が点Bまで2段階で制御されている。このように、点Bまでの射出速度1を多段で制御する方法は、射出工程において一般的に用いられ、例えば樹脂流動の乱れによる成形不良が発生しないように、成形品形状に応じて射出速度を多段に設定するものである。このような射出速度制御下において生じる射出圧力(金型キャビティ40内の樹脂圧力)は、射出圧力(実測値)で表されるように、金型キャビティ40内への樹脂の充填量の増加に準じて漸次増加する。点Bにおける射出圧力(実測値)を速度/圧力切換点圧力等と呼称する。
【0037】
ここで、特許文献1の射出成形機の制御方法は、金型キャビティ内で樹脂が満杯になる手前より、スクリュの位置を維持し、金型キャビティ内を充満させた後、保圧工程に移行させることにより、樹脂が、樹脂自体の圧縮状態からの開放力のみで、金型キャビティ内でちょうど樹脂が充満して満杯状態になるように充填されることにより、過充填に起因する、ゲートから遠方の箇所で生じるバリの発生(バリ吹き)を防止するものである。しかしながら、先に説明したように、保圧工程における保圧力や保圧力付与時間の適切な設定値を決定する必要性については、従来の射出充填工程の制御方法となんら変わらないため、これら保圧工程における保圧力や保圧力付与時間の不適切な設定値に起因する成形不良を防止することができない。
【0038】
そして、射出速度制御下の点Bの射出圧力(速度/圧力切換点圧力(実測値))が、点Bにおいて射出圧力(保圧力)の制御(射出圧力(保圧力)制御(太線))に切り換えられる。設定される保圧力が、速度/圧力切換点圧力より低い場合、これら保圧力と速度/圧力切換点圧力との差異によっては、図2に示すように点B直後に、射出圧力制御下において生じる射出速度(スクリュ22の前進速度)が射出速度(実測値)で表されるように、ごく短時間であるがマイナス値となる。すなわち、これは、先に説明したように、この間において、短時間ではあるが、スクリュ22が後退することを示すものである。
【0039】
点B以降、射出圧力制御下において、保圧力が設定値に到達した後、スクリュ22は後退から再び前進に転じ、金型キャビティ40内の樹脂に、設定された保圧力を付与させる。しかしながら、保圧工程におけるスクリュ22の後退動作は、先に説明したように、金型キャビティ40内の溶融状態の樹脂が射出装置20内に逆流する引き抜き現象を発生させ、成形品にフローマークやショート等の成形不良を誘発させる。逆に、図示はしていないが、設定される保圧力が、速度/圧力切換点圧力より高い場合には、点B直後にスクリュ22が瞬間的に前進する押し出し現象が発生することは先に説明したとおりである。
【0040】
ここで、従来の保圧工程における保圧力付与時間は、本来、金型キャビティ40内に適切な量の樹脂が充填され、適切な保圧力を付与された状態で樹脂の冷却固化が進行し、保圧力による樹脂の供給が停止し、スクリュ22が全く前進しなくなった充填完了状態(完全充填の状態/図2の保圧工程において、射出速度(実測値)がゼロとなる状態)に到達する時間が設定されることが理想的であるが、現実的には、そのような状態とは直接関係ない独立した時間値として設定される。そのため、成形サイクルタイムを優先させて、保圧力付与時間を短く設定した保圧不足の状態(図2の「保圧不足」の範囲)では、ショートやヒケ等の成形不良が発生したり、ゲートシール(金型のゲート部の樹脂が冷却固化している状態)に未到達であれば、ゲート部から射出装置側への樹脂の逆流が発生し、成形品重量のバラツキや品質の不安定化やゲート部からの樹脂漏れ(ハナタレ不良や糸引き不良)が発生したりする。一方、必要以上に長い保圧力付与時間の設定(図2の「保圧過多」の範囲)であれば、成形後の残留応力による成形品の変形や、成形サイクルタイムが長くなるという問題が生じる。
【0041】
このような一般的な射出充填工程の制御方法に対して、本発明に係る射出充填工程の制御方法においては、保圧工程においても射出速度制御を行わせることが最大の特徴である。これを、図3を参照しながら説明する。
【0042】
まず、保圧工程における射出圧力設定(保圧力設定)をゼロ設定に変更する(保圧工程のゼロ設定)。この設定変更により、保圧工程における金型キャビティ40内への樹脂の充填が略停止され、スクリュ22は点Bに到達後、急激に後退する(引き抜き現象)。そのため、点B以降も、スクリュ22の前進速度、すなわち、射出速度が制御されるように、仮の射出速度2を設定する。仮の射出速度2は、保圧工程において、スクリュ22の引き抜き現象が生じることなく、且つ、金型キャビティ40内への樹脂の充填が略停止される、最小の射出速度とすることが好ましい。具体的には、従来の保圧工程において、射出圧力制御下の射出速度(実測値)のデータから、スクリュ22の後退動作が前進動作に転じ、増速した後、再び前進速度が減速する際のピーク部に相当等する射出速度等(図2参照)を設定すれば良い。同時に、点Bにおける射出速度1から仮の射出速度2まで移行させる移行時間も、従来の保圧工程における、速度/圧力切換圧力から設定保圧力までの到達時間等(図2参照)を設定すれば良い。尚、従来の保圧工程において、速度/圧力切換圧力よりも高い保圧力を設定していた場合も、従来の保圧工程をベースに、前述したような設定を行えば良い。
【0043】
また、保圧工程における射出圧力付与時間(保圧力付与時間)は、後に最適な設定条件を求めるため、ここでは、当初の射出充填工程の設定値に基づく、射出充填工程開始から完了までに要していた時間と同じ時間が経過した後に、射出充填工程が完了するように、射出圧力付与時間(保圧力付与時間)を仮設定する。
【0044】
上記の保圧工程における設定変更が終了した後、点Bまでの射出工程における射出速度制御に関する射出速度1を含む諸設定値はそのままで射出成形を行う。そして、成形される成形品の品質チェックを行い、ガス残りに起因する成形不良(ガス残り不良)の有無をチェックする。
【0045】
ガス残り不良とは、先に説明したような、樹脂焼け、シルバー、ウエルド、転写ムラ、アバタ(微小凹凸)及びヒケ等の成形品の外観不良や、ボイド及び膨れ等の成形品の内部不良や、成形品の変形不良等である。これらの中には、保圧工程において発生する成形不良も一部含み、それが、射出工程及び保圧工程のいずれの工程で発生したものなのか、成形品の品質チェックだけでは判断が難しい場合がある。そのような場合においても、保圧工程の保圧力設定のゼロ設定下において、成形品に発生する成形不良を、従来の保圧工程の設定下において成形品に発生する成形不良と比較することにより、それら成形不良が、射出工程と保圧工程のいずれで発生したものかどうかの判断を容易にすることができる。そのために、また、この段階における射出成形のトライアンドエラーの回数をできるだけ少なくするためにも、この段階で、ガス残り不良と判断する基準を絞り込むと共に、各成形不良の位置、大きさ、不良程度等を基に、写真やイラスト等で判断基準として取り纏め、作業者の熟練度に依らず、できる限り差異の少ない判断ができるようにすることが好ましい。
【0046】
このような品質チェックに基づき、成形品にガス残りに起因する成形不良が確認された場合は、射出工程に発生要因が含まれていると判断し、射出速度1の設定はそのままで、速度/圧力切換点B、すなわち、スクリュ22の前進位置を所定量後退させる設定変更を行い、これに基づく射出成形を行った後、成形品の品質チェックを上記判断基準に基づき行う。これを、成形品にガス残り不良が発生しなくなるまで繰り返し、その時の新たな速度/圧力切換点Bを制御切換点B’とする(制御切換点設定工程)。尚、この段階では、上記判断基準に基づき、ガス残りに起因すると判断された成形不良以外の成形不良については無視しても良い。
【0047】
図3に示すように、制御切換点B’は、当初の速度/圧力切換点B(点B)よりもスクリュ22の前進位置が後退しているため、制御切換点B’における射出工程の射出速度1に基づく射出速度制御下の射出圧力(実測値)は、当初の速度/圧力切換点Bにおける速度/射出切換点圧力(実測値:図2参照)よりも確実に低くなり、且つ、金型キャビティ40内の樹脂の充填量も、当初の速度/圧力切換点Bにおける樹脂の充填量よりも確実に少なくなる。これにより、制御切換点B’の前後における金型キャビティ40内の樹脂の圧力や流動速度の変化量を低減させ、スクリュ22の瞬間的な後退動作による引き抜き現象の防止だけでなく、スクリュ22の瞬間的な前進動作による押し出し現象に起因する過充填も防止することができる。
【0048】
ここで、制御切換点B’における射出圧力(実測値)が低くなることで、樹脂のバリ吹き不良の発生も抑制することができる。また、従来の速度/圧力切換点Bにおけるスクリュ22の前進位置に対する、制御切換点B‘におけるスクリュ22の前進位置の後退は、金型キャビティ40内への樹脂の充填量がより少ない状態への設定変更であり、樹脂の充填量に対して、ガス排出能力が優る方向への設定変更である(前述の要因1)。同時に、この従来の速度/圧力切換点Bから本発明に係る制御切換点B‘への設定変更は、ガス排出経路の有効面積がより広い状態への設定変更でもあり(要因2)、理論的にも、前述の要因1や要因2に起因するガス残り不良を抑制する手段として好適である。
【0049】
制御切換点設定工程後、成形品にガス残りに起因する成形不良以外の成形不良が発生している場合は、前述の要因1で示した、樹脂充填量の増加率と残存ガスのガス排出能力とが上手くバランスできていないと判断し、先に設定した、仮の射出速度2や、射出速度1から仮の射出速度2までの移行時間の設定値を変更して射出成形を行う。制御切換点B’以降の保圧工程においては、設定した仮の射出速度2及び移行時間に基づいて射出速度制御が行われるが、仮の射出速度2の設定値が大きければ、結果として金型キャビティ40内の樹脂に付与される射出圧力(生じる樹脂圧力)は大きくなり、仮の射出速度2の設定値が小さければ、射出圧力(樹脂圧力)は小さくなる。これを鑑み、成形品に発生している成形不良の種類に準じて、仮の射出速度2を所定量増減させる設定変更を行えば良い。例えば、ショート、ヒケ、ウエルドマーク等の成形不良が発生している場合は、射出速度2を増加させる設定変更を行い、バリ吹きや成形後の変形が発生している場合は射出速度2を低下させる設定変更を行う等である。ここで、射出速度2について、ガス残り不良が発生しないことを優先させることは言うまでもない。また、点Bにおける射出速度1から仮の射出速度2まで移行させる移行時間の設定変更も成形不良の改善に有効であるため、射出速度2の設定変更と合わせて、この移行時間の設定変更も必要に応じて行えば良い。
【0050】
上記のような射出速度2及び移行時間の設定変更の後、射出成形を行い、品質チェックを行う。これを、成形品に成形不良が発生しなくなるまで繰り返し、その時の新たな射出速度2を射出保圧速度Vh、射出速度1から射出保圧速度Vhまで移行させる移行時間を射出保圧速度移行時間Thとする(射出保圧速度設定工程)。尚、この段階での成形品の品質チェックは、成形品が製品として仕様を満足する、一般的な成形品の品質基準に基づいて行われることが必要である。また、この段階における射出成形のトライアンドエラーの回数をできるだけ少なくするために、この段階において発生する成形不良の種類や不良程度に準じた、射出速度2の設定変更基準を作成することが好ましい。
【0051】
一方、制御切換点設定工程後、成形品にガス残りに起因する成形不良以外の成形不良が発生していない場合でも、成形品が仕様を満足する範囲内で射出速度2を増加させる設定変更を行い、上記作業を繰り返し行い、成形サイクルタイムを短縮することができる射出保圧速度Vh及び射出保圧速度移行時間Thを設定することが好ましい。
【0052】
このように、制御切換点設定工程及び射出保圧速度設定工程において設定された、制御切換点B’、射出保圧速度Vh及び射出保圧速度移行時間Thに基づき、射出充填工程が制御される、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法を図示したものが図3である。
【0053】
制御切換点B‘到達前の射出速度1と、制御切換点B’以降における射出保圧速度Vhとは、射出速度差を有しているもの、スクリュ22は、制御切換点B‘の前後においても、射出保圧速度移行時間Thの設定により、射出速度制御下で前進動作を滑らかに継続するよう制御されるため、従来の射出充填工程の制御方法における、スクリュ22の瞬間的な後退動作や前進動作は発生しない。これにより、引き抜き現象や押し出し現象の発生を確実に防止することができる。
【0054】
そして、制御切換点B‘以降は、ガス残り不良を含む成形不良の発生が無く、成形品が製品として仕様を満足する射出保圧速度Vh及び射出保持速度移行時間Thに基づく射出速度制御下で、金型キャビティ40内の樹脂の充填率がほぼ100%になるまで射出充填を行うことにより、従来の、速度/圧力切換点Bを基準とする射出充填工程の制御方法では防止することが困難な、ガス残りに起因する成形不良を防止することができる。
【0055】
また、図3に示すように、制御切換点B‘以降において、射出保圧速度Vhに到達後、時間経過に伴い、金型キャビティ40内が樹脂でほぼ充満され、冷却固化による樹脂の収縮量が漸次減少すると(完全充填の状態)、当然ながら、スクリュ22の射出速度(実測値)は、射出保圧速度Vhの設定に依らず、漸次減少しゼロに近づく。一方、スクリュ22の射出圧力(実測値/樹脂圧力)は、漸次増加していく。尚、射出速度制御下において、実際には、スクリュ22の射出速度(実測値)は制御射出速度と若干相違するが、図3においては、図を簡単にするために、保圧工程におけるスクリュ22の射出速度(実測値)が、射出保圧速度Vhから漸次減少(乖離)する部分を除き、制御射出速度=射出速度(実測値)としている。
【0056】
ここで、射出保圧速度設定工程の後、この射出保圧速度Vhと、射出保圧速度Vh到達時から、時間経過に伴う射出速度(実測値)との速度差ΔVと、射出保圧速度Vh到達後、射出速度1から射出保圧速度Vhまでの速度降下に連動した射出圧力最降下点となる実測射出圧力1と、実測射出圧力1から、時間経過に伴う射出圧力(実測値)との圧力差ΔPとを監視し、成形される成形品の品質チェックにより、成形品が仕様を満足し、且つ、この時間経過が最短となる、射出充填完了速度差ΔVt及び射出充填完了圧力差ΔPtを求め、このようにして求めた射出充填完了速度差ΔVt及び前記射出充填完了圧力差ΔPtの少なくとも一方を射出充填完了設定値として設定する射出充填完了設定工程を行うことが好ましい。
【0057】
具体的には、射出保圧速度設定工程における品質チェックにより、成形品が製品として仕様を満足することが確認された後、仮に、射出充填工程完了としていた点C(例えば、当初の射出充填工程の設定値に基づく射出充填工程開始から完了までに要していた時間と同じ時間が射出充填工程開始から経過した点)を、所定時間短縮して射出成形を行い、成形品を取り出して品質チェックを行う。これを繰り返して、成形品が仕様を満足し、且つ、この時間経過が最短となる、射出充填完了速度差ΔVt及び射出充填完了圧力差ΔPtを求め、これらΔVt及びΔPtの少なくとも一方を射出充填完了設定値として設定する。そして、各設定工程が完了し、必要な設定がなされた後の連続成形において、ΔV及びΔPの少なくとも一方が、これら射出充填完了設定値(ΔVh及びΔPh)に到達することにより、射出充填工程の完了と判断させるものである。
【0058】
射出充填完了設定値として、これらΔVt及びΔPtに到達するそれぞれの経過時間ΔTを加えても良い。このように、射出充填工程の完了とする基準値を上記のように求め、射出充填完了設定値として設定することにより、射出充填工程の完了(完全充填の状態)を定量的に判断することができ、作業者の熟練度に依存することなく、成形品の品質の安定化を図ることができる。また、射出充填完了設定値を、1種類ではなく、速度差、圧力差及びそれらに到達する経過時間の3種類とすることで、様々な外乱因子に影響されることなく、射出充填工程の完了を精度良く判断できる。
【0059】
例えば、外乱因子が、金型や計量樹脂の温度変動である場合には、保圧工程における金型キャビティ40内の樹脂の冷却固化速度及びこれに伴う冷却固化収縮量が変化し、これら射出充填完了設定値の1つにおいて、その設定値に到達する時間が若干変動したり、その設定時間(時間経過)に対応するΔVやΔPが若干変動したりして、ΔVtやΔPtとの差異が許容範囲以上になる可能性がある。その場合、射出充填完了設定値が1種類であれば、射出充填工程の完了の判断に影響が生じる可能性があるが、他の設定値を含めた複数の射出充填完了設定値により射出充填完了を判断させることにより、このような外乱因子に大きく影響されることなく、適切な射出充填工程の完了を判断させることができる。また、同じ成形品であっても、納入先や製品グレード別で求められる品質が異なる場合、これら複数の射出充填完了設定値を任意に組み合わせたり、個々の設定値の許容範囲を個別に設定したりして、複数の射出充填完了基準を設定しても良い。
【0060】
このように判断される射出充填工程の新完了点C’に基づく、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法は、成形品の品質の確保だけでなく、射出充填完了設定値の決定において、金型のゲート部のゲートシールが完了していることを、ΔVt、ΔPt、及び、それらに到達するそれぞれの経過時間ΔTとして数値的に反映させることにより、新完了点C’においては、ゲート部から射出装置側への樹脂の逆流が発生することはなく、成形品重量のバラツキや品質の不安定化やゲート部からの樹脂漏れ(ハナタレ不良や糸引き不良)の発生を防止できる。そして、成形品の変形の防止や、成形サイクルタイムの短縮にも寄与する。
【0061】
ここで、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法においては、制御切換点以前の射出速度1に関わる設定について、特に制約はない。よって、射出速度1が、図2に示すように、多段で制御されても、特許文献1のように、一時的に停止させる(射出速度1のゼロ設定)制御であっても良い。しかしながら、これまで説明した制御切換点設定工程や射出保圧速度設定工程において、トライアンドエラーで射出成形を行っても、ガス残りに起因する成形不良やその他の成形不良が発生しない、制御切換点B’や射出保圧速度Vhや射出保圧速度移行時間が得られない場合は、当初の射出工程の射出速度1の設定に問題があると判断して、これを修正することが好ましい(射出速度1修正設定工程)。
【0062】
本発明に係る、射出成形機の射出充填工程の制御方法において、制御切換点以前の射出速度1に関わる設定について、特に制約していないのは、ガス残りに起因する成形不良を含め、様々な成形不良は、速度/圧力切換点、保圧力及び保圧力付与時間等が、他の射出成形条件と複雑に影響し合って発生するため、何の基本設定もない状態から、いきなり適切な射出成形条件を設定するためには、多くの労力と時間を必要とするからである。
【0063】
そのため、まずは、その射出成形条件と、その射出成形条件において得られる成形品の状況(品質、良品率、多く発生する成形不良等)が周知である、従来採用していた射出充填工程の制御方法をベースとして、これまで説明したような工程を経て、各種設定値を求め、設定して、本発明を実施することが好ましい。制御切換点設定工程や射出保圧速度設定工程においては、基本的に、修正すべき設定値をトライアンドエラーで求めていく必要があるため、従来の制御方法において周知されている、その射出成形条件と対応する成形品の状況(各種成形不良)と比較することにより、個々の工程で解消すべき問題を絞り込んだ上で、段階を経て設定値を設定変更していく方が、総花的に設定値を設定変更して、その都度、トライアンドエラーで求めていくよりも、短時間で最適な設定値を求めることができる。
【0064】
一方、新たな製品の成形や、新たな金型を使用する際等、ベースとなる射出充填工程における制御方法の各種設定値が確立されていない場合においても、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程における制御方法を実施することは可能である。
【0065】
具体的には、保圧工程の保圧力設定のゼロ設定を行った上で、作業者の経験則やCAE解析を基に、射出工程における適当な射出速度1を設定する。そして、ショートショットとなるように、成形品から計算される必要樹脂量よりも少ない射出充填重量(計量重量)を設定して射出成形を開始し、そこから所定量ずつ射出充填重量を増やして射出成形を行う。平行して、射出速度1を調整しながら射出成形を行い、ガス残り不良が発生しない制御切換点B’を求める。この制御切換点B’はできるだけスクリュの後退限に近い方が良い。このように、射出速度1及び制御切換点B’を平行して求めていく必要はあるものの、これ以降は、先に説明した、本発明に係る、射出成形機の射出充填工程における制御方法を実施すれば良い。
【0066】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく色々な方法で実施できる。例えば、実施例1の射出保圧速度設定工程において、射出保圧速度Vhと射出保圧速度移行時間Thを設定するとしたが、射出速度1から射出保圧速度Vhまでの射出速度移行パターンは、これら2速度の移行時間ではなく、移行加速度として設定されても良い。また、射出保圧速度Vhを、図2の射出速度1(制御射出速度)のように、多段で制御(設定)しても良い。このようにすることにより、金型キャビティ40内の樹脂の充填率がほぼ100%になるまで余裕がある、制御切換点B’からの射出速度変化パターンを、より詳細に、充填状況に対応させて制御(設定)することが可能になるため、金型キャビティ40内の樹脂の充填率がほぼ100%になった状態から、射出圧力制御に切り換えられる、従来の射出充填工程の制御方法に対して、設定変更の自由度が高く、設定変更に伴う成形品の成形不良の改善効果も高くなる。
【符号の説明】
【0067】
A 開始点(射出充填工程)
B 速度/圧力切換点(射出充填工程)
B’ 制御切換点(射出充填工程)
C 完了点(射出充填工程)
C’ 新完了点(射出充填工程)
Th 射出保圧速度移行時間
ΔT 経過時間(速度差/圧力差)
Vh 射出保圧速度
ΔV 速度差
ΔVt 射出充填完了速度差
ΔP 圧力差
ΔPt 射出充填完了圧力差
図1
図2
図3