特許第6075700号(P6075700)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6075700環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075700
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/83 20060101AFI20170130BHJP
   C08G 63/672 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C08G63/83
   C08G63/672
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-514762(P2014-514762)
(86)(22)【出願日】2013年5月10日
(86)【国際出願番号】JP2013063195
(87)【国際公開番号】WO2013168804
(87)【国際公開日】20131114
【審査請求日】2016年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-109677(P2012-109677)
(32)【優先日】2012年5月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】峯崎 琢也
(72)【発明者】
【氏名】広兼 岳志
(72)【発明者】
【氏名】吉村 康明
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−128881(JP,A)
【文献】 特開2010−121080(JP,A)
【文献】 特開2011−052190(JP,A)
【文献】 特開2009−179656(JP,A)
【文献】 特開昭51−064100(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/029842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とからなり、前記ジオール構成単位として環状アセタール骨格を有する構成単位を少なくとも有するポリエステル樹脂の製造方法であって、
環状アセタール骨格を有するジオール(A)と、ジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)と、環状アセタール骨格を有しないジオール(C)とを、塩基性化合物(D)の存在下で反応させる工程を有し、
前記塩基性化合物(D)が酢酸カリウムをみ、
前記(B)成分に対する前記(D)成分の割合が、0.001〜0.5モル%である、ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記(A)成分が、式(i)で表される化合物、式(ii)で表される化合物、又はその両方である、請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【化1】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、2価の置換基であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。)
【化2】
(式中、R3は、2価の置換基であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。R4は、水素原子又は1価の置換基であり、前記1価の置換基は、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。)
【請求項3】
前記(A)成分が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、又はその両方である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記(B)成分が、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルからなる群より選ばれるいずれか1種以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記工程は、前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを、前記(D)成分の存在下で反応させて、オリゴマー化させる工程と、前記オリゴマー化させる工程で得られた反応混合物にモノマーを更に添加し、さらに高分子量化させる工程と、を有し、
前記高分子量化させる工程において用いられる触媒が、アルミニウム、ゲルマニウム、アンチモン及びスズからなる群より選ばれる1種以上の金属化合物である、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略すことがある。)は、透明性、溶融安定性、耐溶剤性、保香性、及びリサイクル性等に優れている。そのため、フィルム、シート、及び中空容器等の材料として広く利用されている。しかしながら、耐熱性等のように十分でない物性があるため、共重合による改質等が試みられている。
【0003】
共重合による改質に関するものとして、環状アセタール骨格を有する化合物によってポリエステル樹脂を改質することが挙げられる。この具体例としては、例えば、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシメチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンで変性されたPET等が挙げられる。テレフタル酸、1,4−ブタンジオール、及び環状アセタール骨格を有するグリコールからなる共重合ポリエステル等も挙げられる。さらに、環状アセタール骨格を有するジオールをモノマーとして用いたポリエステル樹脂等も挙げられる。
【0004】
ところで、ポリエステル樹脂の製造方法としては、ジカルボン酸又はジカルボン酸のビスアルキルエステルを過剰量のジオールと反応させ、ジカルボン酸のビスヒドロキシアルキルエステルとし、このビスヒドロキシアルキルエステルを減圧下で重縮合してポリマーを得る方法が一般的である。ジカルボン酸とジオールからビスヒドロキシアルキルエステルを得る方法は「直接エステル化法」と呼ばれ、ジカルボン酸のビスアルキルとジオールからビスヒドロキシアルキルエステルを得る方法は「エステル交換法」と呼ばれている。
【0005】
PETの製造においては、以下に示す理由等からエステル交換法よりも直接エステル化法が有利であると考えられている。すなわち、その理由とは、(i)ジカルボン酸ビスアルキルエステル(テレフタル酸ジメチル等)に比べてジカルボン酸(テレフタル酸等)が安価であること、(ii)ジカルボン酸ビスヒドロキシアルキルエステルを得る際に発生する副生成物が、エステル交換法ではアルコールであるのに対して、直接エステル法では環境負荷の小さい水であること、(iii)ジカルボン酸ビスヒドロキシアルキルエステルを得る反応において、エステル交換法では触媒を必要とするのに対して、直接エステル化法では触媒を必要としないため、触媒残渣等が発生しにくいこと、等である。
【0006】
しかしながら、環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂を、通常の直接エステル化法によって製造すると、系中に存在するカルボキシル基由来の酸や生成する水によって、環状アセタール骨格が分解してしまう。その結果、3官能モノマーや4官能モノマー等が生成し、得られる樹脂がゲル状となったり、樹脂の分子量分布が著しく広がったりするという問題がある。これら分子量分布の広い樹脂やゲル状の樹脂は、成形性及び機械的物性が著しく悪いという問題も有している。
【0007】
そこで、環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂の製造において、酸価の少ないジカルボン酸ビスヒドロキシアルキルエステルと、環状アセタール骨格を有するジオールを反応させることで、環状アセタール骨格を有するジオールの分解を抑制する方法が試みられている。例えば、特許文献1には、エステル中の遊離カルボキシル量の規定されたエステルと環状アセタール骨格を有するジオールとをエステル交換させる方法が開示されている。特許文献2には、酸価が規定されたジカルボン酸ビスヒドロキシアルキルエステルと環状アセタール骨格を有するジオールとを塩基性化合物の存在下でエステル交換させる方法が開示されている。特許文献3には、酸価が規定されたジカルボン酸ビスヒドロキシアルキルエステルと環状アセタール骨格を有するジオールとをチタン化合物の存在下でエステル交換させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4328948号公報
【特許文献2】特許第4848631号公報
【特許文献3】特許第4720229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した製造方法は、環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂を製造方法として有用である。しかしながら、環状アセタール骨格を有するジオールと反応させる物質が、ジカルボン酸ビスヒドロキシアルキルエステルや、特定の酸価であるエステルでなければならないといった制限を受ける。さらに、これらの特定のエステルが入手できない場合は、当該エステルを製造するための追加の工程が必要となってしまう点でも、制限を受ける。よって、このような制限が緩和された、製造工程上の自由度が高い製造方法の開発が望まれている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とからなり、ジオール構成単位として環状アセタール骨格を有する構成単位を少なくとも有するポリエステル樹脂の製造方法として、製造工程上の自由度が高く、かつ、得られるポリエステル樹脂が優れた物性を有する、製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外にも、環状アセタール骨格を有するジオール(A)とジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)と環状アセタール骨格を有しないジオール(C)とを塩基性化合物(D)の存在下でエステル交換反応させることで、ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とからなり、ジオール構成単位として環状アセタール骨格を有する構成単位を少なくとも有するポリエステル樹脂を効率よく製造できることを見出した。この知見に基づき更なる検討を進めた結果、環状アセタールを有するジオールと反応させる物質をジカルボン酸ビスヒドロキシアルキルエステルに限定せずとも、諸物性の良好なポリエステル樹脂を得られることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とからなり、前記ジオール構成単位として環状アセタール骨格を有する構成単位を少なくとも有するポリエステル樹脂の製造方法であって、
環状アセタール骨格を有するジオール(A)と、ジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)と、環状アセタール骨格を有しないジオール(C)とを、塩基性化合物(D)の存在下で反応させる工程を有し、
前記塩基性化合物(D)が酢酸カリウムをみ、
前記(B)成分に対する前記(D)成分の割合が、0.001〜0.5モル%である、ポリエステル樹脂の製造方法
〔2
前記(A)成分が、式(i)で表される化合物、式(ii)で表される化合物、又はその両方である、〔1〕に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【化1】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、2価の置換基であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。)
【化2】
(式中、R3は、2価の置換基であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。R4は、水素原子又は1価の置換基であり、前記1価の置換基は、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。)

前記(A)成分が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、又はその両方である、〔1〕又は〔2〕に記載のポリエステル樹脂の製造方法。

前記(B)成分が、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルからなる群より選ばれるいずれか1種以上である、〔1〕〜〔〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。

前記工程は、前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを、前記(D)成分の存在下で反応させて、オリゴマー化させる工程と、前記オリゴマー化させる工程で得られた反応混合物にモノマーを更に添加し、さらに高分子量化させる工程と、を有し、
前記高分子量化させる工程において用いられる触媒が、アルミニウム、ゲルマニウム、アンチモン及びスズからなる群より選ばれる1種以上の金属化合物である、〔1〕〜〔〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とからなり、ジオール構成単位として環状アセタール骨格を有する構成単位を少なくとも有するポリエステル樹脂の製造方法として、製造工程上の自由度が高く、かつ、得られるポリエステル樹脂も優れた物性を有する、製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
本実施形態の製造方法は、ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とからなり、ジオール構成単位として環状アセタール骨格を有する構成単位を少なくとも有するポリエステル樹脂の製造方法であって、環状アセタール骨格を有するジオール(A)と、ジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)と、環状アセタール骨格を有しないジオール(C)とを、塩基性化合物(D)の存在下で反応させる工程を有する、ポリエステル樹脂の製造方法である。
【0016】
本実施形態の製造方法はポリエステル樹脂の製造に用いられる従来既知の製造装置をそのまま用いることもできる。
【0017】
環状アセタール骨格を有するジオール(A)は、式(i)で表される化合物、式(ii)で表される化合物、又はその両方であることが好ましい。
【化3】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、2価の置換基であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。)
【化4】
(式中、Rは、2価の置換基であり、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。Rは、水素原子又は1価の置換基であり、1価の置換基は、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群より選ばれるいずれかを表す。)
【0018】
(A)成分の具体例としては、特に制限されないが、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、又はその両方であることがより好ましい。
【0019】
環状アセタール骨格を有するジオール(A)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)としては、特に制限されないが、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロデカンジカルボン酸、デカリンカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロペンタデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸のビスアルキルエスエル;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸のビスアルキルエステルが挙げられる。
【0021】
ビスアルキルエステルとしては、特に制限されないが、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、シクロヘキシルエステル等が挙げられる。得られるポリエステル樹脂の機械的物性や耐熱性、及び原料の経済性等の観点から、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルが好ましく、テレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルがより好ましい。
【0022】
上記したジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。さらに、本実施形態の目的を損なわない範囲で、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸の単アルキルエステル又は多アルキルエステルを用いることもできる。
【0023】
通常、製法上の理由から、上記のジカルボン酸ビスアルキルエステルには、その製造工程で混入する微量の酸が含まれる。その酸の含有量の指標として酸価が用いられる。ジカルボン酸ビスアルキルエステルの1つであるテレフタル酸ジメチルの酸価は、通常0.030KOHmg/g程度であり、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルの酸価は、通常0.010KOHmg/g程度である。しかし、本実施形態の製造方法では、ジカルボン酸ビスアルキルエステルの酸価の制限を受けないため、上記したような特定の酸価のジカルボン酸ビスアルキルエステルの使用に制限されることはない。このような観点からも、本実施形態の製造方法は、原料の選択の幅が広く、自由度が高い製造方法であるといえる。
【0024】
環状アセタール骨格を有しないジオール(C)としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0025】
得られるポリエステル樹脂の機械的物性、及び原料の経済性等の観点から、上記の中でも、エチレングリコールが好ましい。
【0026】
上記した環状アセタール骨格を有しないジオール(C)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。さらに、本実施形態の目的を損なわない範囲で、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等のモノアルコール類やトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類を併用することもできる。
【0027】
環状アセタール骨格を有するジオール(A)とジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)と環状アセタール骨格を有しないジオール(C)は、いわゆるモノマーであってもよいし、オリゴマーであってもよい。
【0028】
本実施形態の製造方法では塩基性化合物(D)を使用する。塩基性化合物(D)を使用することで、諸物性の良好なポリエステル樹脂を効率よく得ることができる。その理由としては、定かではないが、以下のように推測される。まず、(D)成分を用いることで、酸による環状アセタール骨格の分解を抑制できると考えられる。(D)成分が存在しない条件下で反応を行った場合、環状アセタール骨格が分解し、3官能以上の多官能モノマーが生成してしまう。その結果、得られるポリエステル樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が大きくなってしまう。このような分子量分布が大きいポリエステル樹脂は、機械的物性が劣ってしまうという問題を有する。しかしながら、本実施形態の製造方法では、(D)成分の使用により環状アセタール骨格の分解を抑制できるため、反応を効率よく促進させるとともに、得られるポリエステル樹脂の機械的物性等も優れたものにできると考えられる(但し、本実施形態の作用はこれらに限定されない。)。
【0029】
(B)成分に対する(D)成分の割合((D)/(B))は、好ましくは0.001〜5モル%であり、より好ましくは0.001〜1モル%であり、更に好ましくは0.01〜0.1モル%である。(B)成分に対する(D)成分の割合を上記上限値以下とすることで、得られるポリエステル樹脂中に存在する塩基によるエステル結合の加水分解を効果的に抑制できる。そのため、得られるポリエステル樹脂の物性が一層優れたものになる。また、(B)成分に対する(D)成分の割合を上記下限値以下とすることで、(D)成分の添加効果が十分に得られる。
【0030】
同様の観点から、(B)成分に対する(D)成分の割合の上限は、好ましくは5モル%以下であり、より好ましくは1モル%以下であり、更に好ましくは0.5モル%以下であり、より更に好ましくは0.1モル%以下であり、一層好ましくは0.05モル%以下である。(B)成分に対する(D)成分の割合の下限は、好ましくは0.001モル%以上であり、より好ましくは0.002モル%以上であり、更に好ましくは0.005モル%以上であり、より更に好ましくは0.01モル%以上である。
【0031】
特に、塩基性化合物(D)の使用量を上記した数値範囲にすることで、得られるポリエステル樹脂の外観等を一層良好なものにすることができる。ひいては、ポリエステル樹脂の機械的物性と外観の両方が優れたものにすることができる。外観については、例えば、ポリエステル樹脂の透明性向上や、成形体とした場合の白濁防止等が挙げられる。
【0032】
塩基性化合物(D)としては、特に制限されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、カルボン酸塩、酸化物、塩化物、アルコキシド;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物、カルボン酸塩、酸化物、塩化物、アルコキシド;トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアミン化合物等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、及びカルボン酸塩;アルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物、及びカルボン酸塩が好ましく、アルカリ金属のカルボン酸塩がより好ましい。アルカリ金属のカルボン酸塩を使用することで、得られるポリエステル樹脂の耐熱性を特に向上させることができるだけでなく、樹脂の外観が特に優れたものとなる。その理由としては、定かではないが、以下のように推測される。(i)アルカリ金属のカルボン酸塩の塩基性が、本実施形態の反応促進にとって適度な塩基性であること、(ii)カルボン酸基とポリマー中のエステル結合との親和性が高いため、反応中又は反応後における塩基性化合物の凝集を抑制でき、ポリエステル樹脂にとって好適なモルホロジーを維持できること、等が考えられる。その結果、従来では為し得なかったポリエステル樹脂の分子量の増大や分子量分布の制御と、塩基性化合物成分の凝集による外観悪化の抑制が同時に達成できるものと推測される(但し、本実施形態の作用はこれらに限定されない。)。
【0033】
アルカリ金属のカルボン酸塩としては、例えば、アルカリ金属のギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属のギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、安息香酸塩が好ましく、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸リチウムがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本実施形態の製造方法では、少なくとも環状アセタール骨格を有するジオール(A)と、ジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)と、環状アセタール骨格を有しないジオール(C)とを、塩基性化合物(D)の存在下で反応させる工程を有していればよいため、自由度が高い製造方法である。例えば、従来では必ず多工程を経なければ製造できなかったようなポリエステル樹脂であっても、本実施形態の製造方法によれば、特に(D)成分を効果的に用いることで、1工程あるいは従来よりも少ない工程で効率よく製造することができる。加えて、本実施形態では、意外にも、(B)成分に対する(D)成分の比率を比較的低濃度に制御することで、従来では簡便には製造できなかったような構造のポリエステル樹脂であっても、一層簡便かつ効率よく製造することができる。
【0035】
本実施形態の製造方法は、モノマーである(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を、塩基性化合物(D)の存在下で反応させるといったシンプルなものであるため、他の工程との組み合わせが容易であるといった点でも、自由度が高い製造方法である。したがって、本実施形態の製造方法は、目的とするポリエステル樹脂に所望する物性等を踏まえ、必要に応じて、複数の工程を組み合わせることも可能である。
【0036】
従来の製造方法において汎用されていた原料の1つであるジカルボン酸ビスヒドロキシアルキルエステル等は、入手容易ではないといった問題があるが、本実施形態の製造方法によれば、このような入手困難な原料を必ずしも使用しなくてもよいといった利点がある。すなわち、使用する原料の制限を緩和でき、かつ、経済性に優れる製造方法であるといった利点も有する。
【0037】
本実施形態の製造方法は、例えば、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分とを、(D)成分の存在下で反応させて、オリゴマー化させる工程(オリゴマー化工程)と、このオリゴマー化工程の反応混合物に所定のモノマーを更に添加し、さらに高分子量化させる工程(高分子量化工程)と、を有するものであってもよい。この場合、高分子量化工程において添加する所定のモノマーとしては、例えば、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分からなる群より選ばれるいずれか1種以上が挙げられる。あるいは、所定のモノマーは(A)〜(C)成分以外のモノマーであってもよい。以下、一例として、オリゴマー化工程と高分子量化工程を行う場合について説明する。
【0038】
オリゴマー化工程は、無触媒で行ってもよいし、オリゴマー化させるための触媒を用いてもよい。触媒を用いる場合、その添加量は、(B)成分に対して0.0001〜5モル%であることが好ましい。
【0039】
オリゴマー化工程の触媒としては、従来公知のものを使用することもでき、特に制限されない。触媒の具体例としては、亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、マンガン、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、スズ等の金属の化合物(例えば、脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物、アルコキシド等);金属マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、少なくとも、マンガン、アルミニウム、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、スズの化合物が好ましく、マンガン化合物がより好ましい。マンガン化合物としては、従来公知のものを使用することもでき、特に制限されないが、例えば、酢酸塩等が好ましい。なお、オリゴマー化工程の触媒は、上記した(D)成分として使用可能なものであってもよい。すなわち、(D)成分として例示したものの中で、オリゴマー化工程の触媒としても機能するものを選択した場合、(D)成分としてだけでなくオリゴマー化工程の触媒としても兼用することができる。また、オリゴマー化工程で用いる触媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
また、従来既知のエーテル化防止剤や熱安定剤等を併用してもよい。エーテル化防止剤としては、アミン化合物等が挙げられる。熱安定剤としては、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸エステル、亜リン酸エステル等が挙げられる。
【0041】
オリゴマー化工程の反応温度は、特に制限されないが、好ましくは80〜240℃であり、より好ましくは100〜235℃であり、更に好ましくは150〜230℃である。上記条件下でオリゴマー化工程を行うことで、環状アセタール骨格を有するジオール(A)の分解や、3官能モノマーや4官能モノマー等の副生といった副反応を効果的に抑制できる。さらには、環状アセタール骨格を有しないジオール(C)の脱水エーテル化等の副反応も抑制できる。
【0042】
オリゴマー化工程における、環状アセタールを有するジオール(A)とジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)と環状アセタール骨格を有しないジオール(C)の割合は、特に制限されないが、ジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)に対する、環状アセタールを有するジオール(A)と環状アセタール骨格を有しないジオール(C)の合計の割合(((A)+(C))/(B))は、1.2〜2.0倍モルであることが好ましく、1.5〜1.9倍モルであることがより好ましく、1.6〜1.8倍モルであることが更に好ましい。
【0043】
オリゴマー化工程は、ジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)のエステル交換反応の反応率が好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上に到達するまで行う。エステル交換反応の反応率は系外に留去したモノアルコールの質量より算出できる。オリゴマー化工程の反応時間は、モノアルコールの留去が終了するまで行うことが好ましい。
【0044】
高分子量化工程としては、例えば、オリゴマー化工程で得たオリゴマーを、減圧下で重縮合させて高分子量化させる工程等が挙げられる。高分子量化工程の重縮合の条件は、特に制限されず、例えば、従来のポリエステル樹脂の製造方法における重縮合工程と同様の条件を採用することもできる。
【0045】
重縮合工程の圧力は、特に制限されないが、反応が進むにつれて徐々に減圧することが好ましい。重縮合反応の最終的な圧力は、好ましくは0.1〜300Paである。重縮合反応の最終的な圧力を300Pa以下とすることで、重縮合反応の反応速度を十分に大きくすることができる。
【0046】
重縮合工程の反応温度は、特に制限されないが、反応が進むにつれて徐々に昇温させることが好ましい。重縮合反応の最終的な反応温度は、好ましくは190〜300℃である。重縮合反応の最終的な反応温度を300℃以下にすることで、反応物の熱分解等の副反応を効果的に抑制できる。加えて、上記温度に制御することで、得られるポリエステル樹脂の黄変(黄色等への変色)を効果的に抑制できる。
【0047】
高分子量化工程の停止は、一般的なポリエステル樹脂の製造方法と同様にして行うこともできる。例えば、溶融粘度等を測定することでポリエステル樹脂が所望の重合度に達したことを確認した後、反応を停止すること等が挙げられる。溶融粘度は、攪拌機の負荷の程度を、トルク、モーターの負荷電流値等に基づき把握することができる。このような方法は簡便であり、好ましい。
【0048】
高分子量化工程の反応時間は、特に制限されないが、好ましくは6時間以下であり、より好ましくは4時間以下である。反応時間を上記範囲に制御することで、環状アセタール骨格を有するジオール(A)の分解や、3官能モノマーや4官能モノマー等の副生といった副反応を効率的に抑制できるとともに、ポリエステル樹脂の色調も一層良好なものとなる。
【0049】
高分子量化工程は、無触媒で行ってもよいし、高分子量化させるための触媒を用いてもよい。触媒を用いる場合、その添加量は、オリゴマー中のジカルボン酸構成単位に対して0.0001〜5モル%であることが好ましい。
【0050】
高分子量化工程の触媒としては、従来既知のものを使用することができ、特に制限されない。高分子量化工程の触媒としては、アルミニウム、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、スズ等の金属化合物が好ましい。これらの中でも、チタンのアルコキシド、酸化物、及びカルボン酸塩;ゲルマニウムのアルコキシド、及び酸化物;アンチモンのアルコキシド、及び酸化物がより好ましい。得られるポリエステル樹脂の物性、重合速度、及び原料の経済性の観点から、触媒はアンチモンの酸化物が更に好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
本実施形態のポリエステル樹脂の製造方法では、エーテル化防止剤、熱安定剤等の各種安定剤、重合調整剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤等も用いることができる。これらは従来既知のものを用いることもできる。
【0052】
エーテル化防止剤としては、例えば、アミン化合物等が挙げられる。熱安定剤としては、例えば、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸エステル、亜リン酸エステル等が挙げられる。重合調整剤としては、例えば、デカノール、ヘキサデカノール等の脂肪族モノアルコール類;ベンジルアルコール等の芳香族モノアルコール類;カプロン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の脂肪族モノカルボン酸類;安息香酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤、トリアジン系UV吸収剤等が挙げられる。帯電防止剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステルモノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。滑剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤等が挙げられる。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0053】
本実施形態の製造方法で得られうるポリエステル樹脂の構造について説明する。ポリエステル樹脂を構成する全ジオール構成単位中、環状アセタール骨格を有するジオール構成単位の割合は、好ましくは5〜60モル%であり、より好ましくは10〜60モル%であり、更に好ましくは15〜55モル%であり、より更に好ましくは20〜50モル%である。
【0054】
従来の製造方法では、環状アセタール骨格を有するジオール構成単位が5モル%以上であるポリエステル樹脂の製造は困難であったが、本実施形態の製造方法によれば、環状アセタール骨格を有するジオール構成単位が5モル%以上であるポリエステル樹脂を効率よく製造できる。また、環状アセタール骨格を有するジオール構成単位が5モル%以上であるポリエステル樹脂は種々の物性が優れているため、有用である。このような観点から、環状アセタール骨格を有するジオール構成単位は、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは10モル%以上であり、更に好ましくは15モル%以上であり、より更に好ましくは20モル%以上である。
【0055】
環状アセタール骨格を有するジオール構成単位が60モル%以下であるポリエステル樹脂であれば、本実施形態の製造方法において製造上の制限を受けずに、効率よく製造できる。また、環状アセタール骨格を有するジオール構成単位が60モル%以下であるポリエステル樹脂は、やはり、種々の物性が優れているため、有用である。このような観点から、環状アセタール骨格を有するジオール構成単位は、好ましくは60モル%以下であり、より好ましくは55モル%以下であり、更に好ましくは50モル%以下である。
【0056】
本実施形態の製造方法で得られうるポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸構成単位として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを導入することで、ポリエステル樹脂の物性を一層向上させることができる。特に、耐熱性に優れたポリエステル樹脂を得ることができる。すなわち、本実施形態の製造方法で得られうるポリエステル樹脂の好適例として、ジカルボン酸構成単位として2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルに由来する構成単位を有するものが挙げられる。ジカルボン酸構成単位中の2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルに由来する構成単位の割合は、好ましくは5〜100モル%であり、より好ましくは21〜100モル%であり、更に好ましくは45〜100モル%である。
【0057】
本実施形態の製造方法で得られうるポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは12,000〜18,000であり、より好ましくは13,000〜17,000であり、更に好ましくは14,000〜16,000である。数平均分子量を上記下限値以上とすることで、ポリエステル樹脂の機械的物性、特に引張伸び率が一層向上する。数平均分子量を上記上限値以下とすることで、ポリエステル樹脂の高粘度化を抑制でき、製造時のハンドリングが一層優れたものになる。
【0058】
本実施形態の製造方法で得られうるポリエステル樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは2.5〜3.8である。分子量分布を上記範囲とすることで、ポリエステル樹脂の諸物性、特に機械的物性が一層向上する。分子量分布の上限値は、より好ましくは3.5以下であり、更に好ましくは3.3以下である。分子量分布を上記上限値以下とすることで、ポリエステル樹脂の機械的物性、特に引張伸び率が一層向上する。このように、本実施形態では、分子量分布を上記のような低い値にすることが可能である。なお、本実施形態の製造方法によれば、分子量分布が3.0以上であれば、反応条件をそれ程厳密に制御せずとも十分に達成することができるといった利点も有する。
【0059】
本実施形態の製造方法で得られうるポリエステル樹脂の成形方法は、特に制限されず、従来公知の成形方法を用いることもできる。成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、カレンダー成形、押出し発泡成形、押出しブロー成形、インジェクションブロー成形等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0061】
〔ポリエステル樹脂の評価方法〕
(1)数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)
ポリエステル樹脂2mgをクロロホルム20gに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置で測定し、標準ポリスチレンで検量して、Mn、Mw及びMw/Mnを求めた。使用したGPC装置、装置カラム、及び測定条件は以下のとおりであった。
GPC装置:東ソー(株)製、「HLC−8320GPC」
装置カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ−N,M&H
測定溶媒:クロロホルム
流速:0.6mL/min
【0062】
(2)成分組成
H−NMR測定を行い、各構成単位由来のピーク面積比から、ポリエステル樹脂の成分組成を求めた。測定装置は日本電子(株)製、「JNM−AL400」を用い、400MHzで測定した。溶媒には重クロロホルムを用いた。ポリマーの溶解性が十分でない場合は、重トリフルオロ酢酸を適量加え、ポリマーを十分に溶解させた。なお、表2、表4、及び表6に記載したポリエステル樹脂の構成単位(表中の[mol%]の項目参照)に関しては、NDCM及びDMTの数値は全カルボン酸単位に対する割合であり、EG、SPG、及び反応の副生成物であるDEGの数値は全ジオール単位に対する割合である。
【0063】
(3)ガラス転移温度(Tmg)
ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して測定した。具体的には、ポリエステル樹脂をアルミニウム製の非密封容器に入れ、窒素ガス雰囲気下で280℃まで昇温させ、その後急冷した。そして、ポリエステル樹脂を再度昇温させたことで得られた温度プロファイルより、ガラス転移温度を求めた。測定装置及び測定条件は以下のとおりであった。
測定装置:島津製作所(株)製、「DSC/TA−60WS」
試料:約10mg
窒素流通量:50mL/min
測定範囲:20〜280℃
昇温速度:20℃/min
【0064】
(4)黄色度(YI)
黄色度は、ポリエステルペレット5.8gを直径20mm、高さ10mmの石英セルに入れ、JIS K7373に準拠して測定した。測定装置及び測定条件は以下のとおりであった。
測定装置:日本電色工業(株)製、測色色差計「ZE−2000」
測定回数:3回
【0065】
(5)固有粘度(IV)
ポリエステル樹脂を、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=6/4(重量比)の混合溶媒に溶解し、25℃に保持して、ウベローデ型粘度計を使用して固有粘度を測定した。
【0066】
〔ポリエステル樹脂成形体の成形方法〕
射出成形機(住友重機械工業(株)製、射出成型機「SE130DU」)と金型を用いて、シリンダ温度240〜280℃、金型温度40〜60℃で、ポリエステル樹脂を射出成形して成形体を得た。これを試験片として、物性を評価した。
【0067】
〔ポリエステル樹脂の成形体の評価方法〕
(引張強度、引張弾性率、引張伸び率)
JIS K7161に準拠して、引張強度、引張弾性率、及び引張伸び率を算出した。測定装置及び測定条件は以下のとおりであった。
測定装置:東洋精機製作所(株)製、「ストログラフAPIII」
測定試験片:JIS 1号試験片
試験速度:5mm/min
【0068】
(実施例1)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置、及び窒素導入管を備えたポリエステル製造装置を用意した。そこに、環状アセタール骨格を有するジオール(A)(3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン)と、ジカルボン酸成分としてジカルボン酸ビスアルキルエステル(B)(2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、テレフタル酸ジメチル)と、環状アセタール骨格を有しないジオール(C)(エチレングリコール)と、塩基性化合物(D)(酢酸カリウム)を、表1に記載の割合で仕込み、ジカルボン酸成分に対し酢酸マンガン四水和物0.03モル%の存在下、窒素雰囲気下で215℃迄昇温して、エステル交換反応を行った。そして、エステル交換反応におけるジカルボン酸成分の反応率を経時的に計測した。エステル交換反応におけるジカルボン酸成分の反応率は、系外に留去されたメタノールの質量より算出した。
ジカルボン酸成分の反応率が90%以上になった後、ジカルボン酸成分に対して酸化アンチモン(III)0.02モル%とリン酸トリエチル0.06モル%を加え、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に250〜280℃、0.1kPa以下の条件で重縮合を行った。適度な溶融粘度となった時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂を回収した。ポリエステル樹脂の評価結果を表2に示す。
【0069】
(実施例2、3)
表1に記載された量の原料を仕込んだ点以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂の評価結果を表2に示す。なお、実施例2で得られたポリエステル樹脂のMI(メルトインデックス;260℃、2.16kg)は13g/10minであり、実施例3で得られたポリエステル樹脂のMIは11g/10minであった。
【0070】
(比較例1)
表1に記載された量の原料を仕込み、酢酸カリウムを使用しない点以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂の評価結果を表2に示す。
【0071】
【表1】
略称
NDCM:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル
DMT:テレフタル酸ジメチル
SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
Mn(AcO):酢酸マンガン四水和物
AcOK:酢酸カリウム
Sb:酸化アンチモン(III)
TEP:リン酸トリエチル
【0072】
【表2】
【0073】
実施例1〜3と比較例1とを比較すると、少なくとも比較例1は分子量分布(Mw/Mn)の値が大きく、機械的物性の中でも引張伸び率の値が劣っていることが確認された。各実施例においては、自由度が高い簡便な製造方法でありながら、かつ、良好な物性を有するポリエステル樹脂を製造できたことが、少なくとも確認された。
【0074】
<製造条件について>
さらに、ポリエステル樹脂の製造条件を種々変更して、より詳細に検討した(実施例4〜7)。
【0075】
(実施例4〜7)
表3に記載された量の原料を仕込んだ点以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂の評価結果を表4に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
<ポリエステル樹脂の外観等について>
さらに、ポリエステル樹脂の製造条件を種々変更して、ポリエステル樹脂の外観等について詳細に検討した。なお、外観は以下の基準に基づき評価した。
【0079】
(外観評価)
製造した樹脂ペレットを目視で確認し、樹脂内部に白濁等のような透明性を阻害するものが観察されないものを「良好」と評価した。白濁が観察されたものを「白濁」と評価した。
【0080】
〔ストランドの作製及び物性評価〕
製造した樹脂ペレットからストランドを作製し、その機械的物性を評価した。
東洋精機製作所(株)製のキャピログラフを用いて、以下の方法によってストランドを作製した。シリンダ(シリンダ直径10mm、シリンダ温度240℃)内に樹脂ペレットを投入し、6分間滞留させて溶融させた。ピストンを用いて、溶融したポリエステル樹脂をオリフィス孔(オリフィス孔の直径1mm)からピストン速度30mm/分で押し出した。これを、引き取り速度5m/minで引き取ってストランド(直径0.9mm)を得た。JIS K7161に準拠して、ストランドの引張強度、引張弾性率、及び引張伸び率を算出した。測定装置及び測定条件は以下のとおりであった。
測定装置:東洋精機製作所(株)製、全自動引張試験機「ストログラフAPIII」
測定試験片:直径0.9mmのストランド
試験速度:5mm/min
【0081】
参考例1
表5に記載された量の原料を仕込んだ点以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。そして、ポリエステル樹脂の物性や外観について、実施例1と比較した。その評価結果を、表6に示す。
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
実施例1及び参考例1はいずれも製造方法として自由度が高い製造方法であるといえる。そして、得られたポリエステル樹脂の外観については、実施例1のポリエステル樹脂の外観は良好であり、更に改善されたことが確認された。また、ポリエステル樹脂の機械的物性についても、実施例1のポリエステル樹脂の引張強度が更に改善されたことが確認された。
【0084】
以上より、本実施例のポリエステル樹脂の製造方法は、環状アセタール骨格を有するポリエステル樹脂を製造する工程において、既存公知の製造方法のように酸価を規定する必要がなく、工程の自由度が高いことが確認された。本実施例の製造方法で得られたポリエステル樹脂は、その物性において、既存公知の製造方法で得られた樹脂に劣らぬ物性を有することも確認された
【0085】
本出願は、2012年05月11日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−109677)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。