(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075712
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】発光デバイス
(51)【国際特許分類】
F21S 2/00 20160101AFI20170130BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20170130BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20170130BHJP
G03B 21/16 20060101ALI20170130BHJP
F21V 9/08 20060101ALI20170130BHJP
F21V 29/74 20150101ALI20170130BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20170130BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20170130BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20170130BHJP
H01L 33/50 20100101ALN20170130BHJP
G02B 1/02 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
F21S2/00 311
C09K11/08 Z
G03B21/14 A
G03B21/16
F21V9/08 100
F21V29/74
G02B5/02 B
G02B5/08 A
G02B1/11
!H01L33/50
!G02B1/02
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-61353(P2013-61353)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-186882(P2014-186882A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【弁理士】
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】森安 研吾
(72)【発明者】
【氏名】井上 正樹
(72)【発明者】
【氏名】蕪木 清幸
【審査官】
鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−047539(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/097137(WO,A1)
【文献】
特表2010−528467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00−19/00
F21V 1/00−15/04
F21V23/00−99/00
C09K11/00−11/89
H01L33/00
H01L33/48−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光が入射し、蛍光を放射する蛍光体を有し、ヒートシンクを介して当該蛍光体の熱を排熱する発光デバイスにおいて、
前記蛍光体は、バルク状の結晶から成り、当該蛍光体の内部には蛍光を散乱する散乱体が分散されてなり、
前記蛍光体の励起光入射面と蛍光出射面とが同一面であるとともに、
前記蛍光体は、前記励起光入射面に近い側に分散された散乱体の数密度が、奥側に分散された散乱体の数密度に比べて低いことを特徴とする発光デバイス。
【請求項2】
前記蛍光体は、密接配置された複数の板状蛍光体からなり、前記励起光入射側の板状蛍光体に分散された散乱体の数密度が、奥側の板状蛍光体に分散された散乱体の数密度に比べて低いことを特徴とする請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
励起光が入射し、蛍光を放射する蛍光体を有し、ヒートシンクを介して当該蛍光体の熱を排熱する発光デバイスにおいて、
前記蛍光体は、バルク状の結晶から成り、当該蛍光体の内部には蛍光を散乱する散乱体が分散されてなり、
前記蛍光体の励起光入射面と蛍光出射面とが反対側面であるとともに、
前記蛍光体は、密接配置された複数の板状蛍光体からなり、前記励起光入射側および前記蛍光出射側の板状蛍光体に分散された散乱体の数密度が、これらに挟まれた板状蛍光体に分散された散乱体の数密度に比べて低いことを特徴とする発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光デバイスに関し、特に、励起光により蛍光を放射する発光デバイスに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プロジェクター等の用途に、レーザ光を励起光として蛍光体に照射することによって、緑色の蛍光を放射する発光デバイスが知られている。
このような発光デバイスの一例として、特開2012−199075号公報(特許文献1)が知られていて、その概要が
図6に示されている。
図において、ガラス粉末と蛍光体粉末を焼結させた蛍光体層21を反射体22の上に貼り付け、さらに発光効率向上のため、所定の入射角範囲内の励起光を透過し、範囲外の励起光を反射するとともに、蛍光を透過させる波長選択反射層23を設けたものである。
【0003】
ところで、上記従来技術における蛍光体層21はガラス粉末と蛍光体粉末を焼結させた焼結体であるために、熱伝導が悪くて十分な冷却効果が得られず、蛍光体層21が高温化して温度消光が発生しやすい、といった問題があった。
また、蛍光体層21が焼結体であるために、その表面には凹凸があって誘電体多層膜からなる波長選択反射層23を形成することが困難であった。
また、この蛍光体層21で発生した蛍光が全反射によって蛍光体層内に閉じ込められ、この閉じ込められた蛍光は外部に放射されることがなく、そのため発光効率が低下する、といった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−199075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、励起光が入射し、蛍光を放射する蛍光体を有し、高熱伝導材料からなるヒートシンクを介して当該蛍光体の熱を排熱する発光デバイスにおいて、蛍光体の熱伝導性を高めて、ヒートシンクによる冷却を効果的なものとして温度消光が発生することを防止し、更には、発生した蛍光が蛍光体内に閉じ込められることなく、効率的に外部に放射できて発光効率の高い発光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係る発光デバイスは、蛍光体が、バルク状の結晶から成り、当該蛍光体の内部には蛍光を散乱する散乱体が分散されていることを特徴とする。
また、前記蛍光体の励起光入射面と蛍光出射面とが同一面であることを特徴とする。
また、前記蛍光体の励起光入射面と蛍光出射面とが反対側面であることを特徴とする。
また、前記蛍光体の励起光入射面には、前記励起光の反射を防止する反射防止層が設けられていることを特徴とする。
また、前記蛍光体と、前記ヒートシンクとの間には、蛍光を反射する反射層が設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、前記蛍光体は、前記励起光入射面に近い側に分散された散乱体の数密度が、奥側に分散された散乱体の数密度に比べて低いことを特徴とする。
また、前記蛍光体は、密接配置された複数の板状蛍光体からなり、前記励起光入射側の板状蛍光体に分散された散乱体の数密度が、奥側の板状蛍光体に分散された散乱体の数密度に比べて低いことを特徴とする。
また、前記蛍光体は、密接配置された複数の板状蛍光体からなり、前記励起光入射側および前記蛍光出射側の板状蛍光体に分散された散乱体の数密度が、これらに挟まれた板状蛍光体に分散された散乱体の数密度に比べて低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の発光デバイスによれば、蛍光体が、バルク状の結晶から成るので、粉末の蛍光体層や、樹脂やガラス中に分散させた従来の蛍光体層に比べて熱伝導率が高くなり、蛍光体に当接したヒートシンクへの熱伝導が良好となって、排熱効率が高められ、蛍光体の温度消光という不具合が回避される。
また、蛍光体内に粒子状の散乱体を分散混入することで、蛍光の進行方向をランダムに変化させ、蛍光が蛍光体の界面で全反射して内部に閉じ込められる光を低減させることが可能となって、光取り出し効率を高めることができる。
また、蛍光体の励起光入射面に励起光の反射防止層を設けることで、励起光が効率的に蛍光体に入射するようになり、励起光の利用効率を高めることができる。更に、この蛍光体がバルク状の結晶構造であるので、その表面に凹凸が形成されることもなく、反射防止層の接合性が良好なものとなる。
また、蛍光体のヒートシンクに接する面に反射層を設けることで、光取り出し効率を高めることができる。
【0009】
また、蛍光体は、励起光入射面に近い側に分散された散乱体の数密度が、奥側に分散された散乱体の数密度に比べて低いことにより、励起光が散乱体により散乱されることがなく、蛍光体の奥部まで進行できて、有効な蛍光変換ができる。
また、蛍光体は、密接配置された複数の板状蛍光体からなり、それぞれ分散された散乱体の数密度を異ならせた板状蛍光体を用意することで、励起光入射方向で散乱体の数密度を異ならせる構造が容易に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に本発明の第1実施例が示されており、蛍光体1は、蛍光材の多結晶または単結晶で形成されている。この蛍光体1は、例えば、Lu
3Al
5O
12結晶(以下LuAG結晶という)に発光元素として希土類を添加した材料を用いることができる。発光元素は、例えばCe、Pr、Nd、Eu、Tbなどがある。添加する発光元素によって、蛍光の波長を変えることも可能である。
一般的に、蛍光体は温度が上がると、温度消光を起こし、発光効率が低下するが、本発明における蛍光体は、バルク状の結晶から成るので粒子間の空間がほとんどなく熱伝導が優れており、従来のガラス粉末と蛍光体粉末を混合して焼結させたものと比較して、熱伝導率が大幅に向上し、排熱効率を大幅に高めて温度消光を抑制することができる。
【0012】
この蛍光体1には散乱体2が分散されて混入されている。
この散乱体2としては、蛍光体の焼結時に析出させたプレート状結晶の主成分と屈折率が異なる相や、焼結時に添加した不純物などを用いることができる。
例えば、蛍光体の母体材料(Lu
3Al
5O
12やY
3Al
5O
12など)を焼結して結晶化する際に、原材料の配合比率を調整することで、母体材料とは屈折率の異なる結晶相(例えばLu
2O
3、Y
2O
3、Al
2O
3を多く含む結晶相)を粒界に析出させ、散乱体として蛍光体の内部に設けることができる。
また、結晶中に微粒子(例えばLu
2O
3、Y
2O
3、Al
2O
3などの粒子)を添加することで、散乱体とすることもできる。
【0013】
この実施例では、励起光入射面と蛍光出射面とが同一面であって、つまり、蛍光体1の上面1aから励起光Xが入射し、蛍光体1内で発生した蛍光Yも同じ上面1aから出射される。
そして、この蛍光体1の下面1bには、金属などの高熱伝導材料からなるヒートシンク3を当接している。
また、蛍光体1の励起光入射面1aには、励起光の反射を防止する反射防止層4が設けられており、この反射防止層4には、例えばMgO膜などからなるARコートが用いられる。これにより、励起光の表面反射によるロスを低減できる。
前記したように、蛍光体1はプレート状の結晶体であるために、その表面に凹凸が形成されることがなく、前記反射防止層4が強固に接合される。なお、反射防止層4が形成される蛍光体1の表面は、予め研磨加工を施しておくことがより好ましい。
【0014】
また、蛍光体1の励起光入射面(蛍光出射面でもある)1aとは励起光入射方向の反対側の面1bには、蛍光Yを反射する反射層5が設けられている。この反射層5には、例えば銀の蒸着膜が用いられる。これにより、蛍光体1から反射層5に至った蛍光はこの反射層5により再び蛍光体1内に戻されて有効活用される。なお、銀の蒸着膜を用いた場合、励起光Xも反射されるので、その有効利用が図られる。
こうして反射層5が設けられた蛍光体1は、該反射層5を介在させて、接合層6によってヒートシンク3に接合されている。これにより、励起光Xの照射によって蛍光体1で発生した熱は、ヒートシンク3に伝わって外部へ排熱される。
なお、ヒートシンク3との接合は
図1では蛍光体1の底面1bのみであるが、励起光入射面(蛍光放射面)1a以外の面の全てがヒートシンク3と接していてもよい。
【0015】
上記構成において、励起光Xが入射して蛍光体1内で発生した蛍光Yの一部は、蛍光体1の内面、もしくは反射層5で全反射を起こす開口にあるが、蛍光体1内部にランダムに存在する散乱体2によって散乱されて光線の向きが変えられので、全反射によって閉じ込められる光を低減させ、光取り出し効率を高めることができる。
【0016】
図2には、本発明の第2実施例が示されていて、蛍光体1に分散される散乱体2の数密度が、励起光入射方向における深さ方向で異なっている例である。
即ち、蛍光体1の励起光入射面1aに近い部分における散乱体2の数密度が、奥側、つまり、反射層5形成面側における散乱体2の数密度に比べて低くなっている。
なお、ここでいう数密度とは、蛍光体1に含まれる散乱体2の単位体積あたりの個数を表している。
こうすることで、励起光Xが蛍光体1に入射したとき、入射方向の浅い部分で散乱体2によって散乱されてしまうことがなく、蛍光体1の奥部まで進行することができて、励起光Xによる蛍光変換を有効に行なうことができる。
また、併せて、蛍光体1内で発生した蛍光が、蛍光出射面でもある励起光入射面1aの近傍で散乱されて出射されなくなるという事態を回避している。
【0017】
図3には、本発明の第3実施例が示されていて、
図2に示す第2実施例の散乱体2の数密度勾配をもった蛍光体を容易に作製できる実施例である。
この実施例では、蛍光体1が複数(この場合2つ)の板状蛍光体11、12からなり、互いに密接に積層配置されている。励起光入射側の板状蛍光体11における散乱体2の数密度は、励起光入射方向の奥側、即ち、ヒートシンク3側の板状蛍光体12における散乱体2の数密度よりも低くなっている。
こうすることで、蛍光体1に散乱体2の数密度の勾配を容易に付けることができる。
なお、板状蛍光体は2枚以上であってもよい。このとき、最も励起光入射側に位置する板状蛍光体には散乱体を全く含まないようにしてもよい。また、板状蛍光体は、単に重ねて設置してもよいし、密に貼り合わせてもよい。
【0018】
以上の実施例では、励起光入射面と蛍光出射面が同一面であるものを示したが、これらが異なる面であってもよい。
図4には、本発明の第4実施例が示されていて、蛍光体1への励起光Xの入射面と、蛍光Yの出射面が異なり、互いに平行な反対側の平面となっている。
この実施例では、蛍光体2の上面1aが励起光入射面であって、この面1aには励起光の反射防止層4が形成され、下面1bが蛍光出射面である。勿論この例でも蛍光体1には、散乱体2が分散して混入されている。
そして、励起光入射面1aと蛍光出射面1b以外の側面に反射層5、5が設けられていて、ヒートシンク3、3は、該反射層5を介して蛍光体1の側面に当接されている。
【0019】
図5には、本発明の第5実施例が示されていて、
図4の実施例における蛍光体1を複数の板状蛍光体によって構成したものである。
蛍光体1が、複数の密着配置された板状蛍光体13、14、15からなる。励起光入射側に位置する板状蛍光体13には励起光反射防止層4が設けられている。そして、該板状蛍光体13と、蛍光出射側に位置する板状蛍光体15における散乱体の数密度は、これらに挟まれた板状蛍光体14における散乱体2の数密度よりも低く、この例では、板状蛍光体13、15には散乱体が含まれず、板状蛍光体14にのみ散乱体2が分散された例が示されている。
もちろん、この例でも蛍光体1を構成する板状蛍光体の数は3枚に限定されない。
この場合も、励起光Xが励起光入射側の板状蛍光体13内で散乱されることがないので、板状蛍光体14にまで進行し、この間に発生した蛍光は分散体2によって分散されて蛍光出射側の板状蛍光体15から出射される。このとき、蛍光Yが板状蛍光体15内で散乱されて出射できなくなることもない。
【0020】
本発明の効果を検証した実験を以下に述べる。
<比較例>
実験に用いた蛍光体1は、Ceを元素割合で0.5%含むLu
3Al
5O
12結晶(LuAG)の粉末を加圧条件下で焼結して結晶化し、表面に研磨加工を施した。
この蛍光体は、蛍光ピーク波長である520nmにおける直線透過率が83%の透明蛍光体(A)であり、これを比較例とした。
<本発明品>
蛍光体は、比較例の蛍光体よりもLuを多く含む原料粉末を用い、粒界にLu
2O
3を析出させて、直線透過率を70%に低下させた散乱体混入蛍光体(B)である。
【0021】
上述の蛍光体(A)(B)の寸法は共に3mm×4mm×1mmであり、それぞれ3mm×4mmの面の片方にフッ化マグネシウム薄膜を約80nmの膜厚で蒸着し、励起光の反射防止層4を形成した。
また、反射防止層4を設けた面と対向する側である3mm×4mmの面には、銀粒子を蒸着し、蛍光の反射層5を形成した。
この蛍光体1の反射層5側をヒートシンク接合面とし、銀ペーストを用いて50×50×10mmのアルミニウム板(ヒートシンク3)に蛍光体1を接合した。
【0022】
上記のそれぞれの蛍光体(A)(B)の励起光入射面に対して、波長447nmのレーザ光を500W/cm
2の照度で照射し、蛍光体から放射される520nmをピークとする蛍光の照度を測定した。その結果が表1に表されている。
<表1>
その結果、表1に示すように、比較例に対して本発明品の蛍光の発光照度は3%高い値となった。これは、散乱体を混入することによって、全反射により蛍光体内部に閉じ込められる光が低減されたことによるものである。
【0023】
以上説明したように、本発明に係る発光デバイスは、蛍光体がバルク状の結晶から成り、当該蛍光体の内部に蛍光を散乱する散乱体が分散されている構成としたことにより、蛍光体の熱伝導率が高くなり、該蛍光体に当接したヒートシンクへの熱伝導が良好となって、排熱効率が高められ、蛍光体の温度消光という不具合が回避される。
また、蛍光体内に分散された粒子状の散乱体によって、蛍光の進行方向をランダムに変化させ、蛍光が蛍光体の界面で全反射して内部に閉じ込められてしまうことがなくなり、光取り出し効率を高めることができるものである。
【符号の説明】
【0024】
1 蛍光体
1a 上面
1b 下面
11〜15 板状蛍光体
2 散乱体
3 ヒートシンク
4 励起光反射層
5 蛍光反射層
6 接合層
X 励起光
Y 蛍光