特許第6075714号(P6075714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075714
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20170130BHJP
   C03C 10/08 20060101ALI20170130BHJP
   C03C 10/04 20060101ALI20170130BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20170130BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C03C10/12
   C03C10/08
   C03C10/04
   C03C10/02
   G02B1/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-120510(P2013-120510)
(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公開番号】特開2014-237564(P2014-237564A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】俣野 高宏
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−060218(JP,A)
【文献】 特開2002−154841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiO、MgO、ZnO、Al及びSiOから選択される少なくとも2種の成分を含有する結晶を主結晶として析出してなる光学ガラスであって、質量%で、La+Gd+Nb+Ta+WO 4.5〜20%を含有し、かつ、30〜300℃における熱膨張係数が−10〜70×10−7/℃、屈折率が1.55〜1.85であり、光学レンズ用であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
β−石英固溶体、β−スポジュメン固溶体、ガーナイト、エンスタタイト、フォルステライト及びコーディエライトから選択される少なくとも1種を主結晶として析出してなることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、SiO 20〜65.5%、Al 14〜30%、LiO 0〜10%、MgO 0〜20%、ZnO 0〜30%、TiO 0〜10%、及びZrO 0〜10% を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
さらに、質量%で、B 0〜20%、P 0〜10%、NaO 0〜5%、及びKO 0〜5%を含有することを特徴とする請求項3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
鉛成分、ヒ素成分及びフッ素成分を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
主結晶の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
ッベ数が40〜70であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
厚み5mmにおける着色度λ70が600nm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイス用レンズとして好適な光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラやビデオカメラの高性能化、具体的には、小型化、高倍率化、高精細化等がますます進んでいる。このような高性能化を達成するため、デジタルカメラやビデオカメラに使用される光学レンズ用ガラスには、高屈折率、高分散および異常分散等の特性が要求されることが多くなっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、用途によっては、上記のような光学特性以外の特性が求められる場合がある。例えば、望遠鏡用レンズや高温環境下で使用されるカメラ用レンズには、上記の要求特性に加え、熱膨張係数が低く、温度変化に対する良好な形状安定性が強く求められる。また、ハイパワーな光を使用するステッパーやプロジェクターにおけるレンズについても、同様に、温度変化に対する良好な形状安定性が強く求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−179538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提案されている光学ガラスは、十分な低熱膨張特性を有していないのが現状である。なお、組成改善によりある程度の低熱膨張化を図ることも可能であるが、その場合は屈折率が低下しやすくなるという問題がある。従って、低熱膨張特性と高屈折率を両立することは困難である。
【0006】
以上の課題に鑑み、本発明は、温度変化に対する形状安定性に優れ、かつ高屈折率特性を有する光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学ガラスは、LiO、MgO、ZnO、Al及びSiOから選択される少なくとも2種の成分を含有する結晶を主結晶として析出してなる光学ガラスであって、質量%で、La+Gd+Nb+Ta+WO 3.8〜20%を含有し、かつ、30〜300℃における熱膨張係数が−10〜70×10−7/℃であることを特徴とする。
【0008】
ここで、「主結晶」とは、ガラス中に含まれる結晶のうち、含有量の最も多い結晶をいう。
【0009】
β−石英固溶体、β−スポジュメン固溶体、ガーナイト、エンスタタイト、フォルステライト及びコーディエライトから選択される少なくとも1種を主結晶として析出してなることが好ましい。
【0010】
質量%で、SiO 20〜65.5%、Al 14〜30%、LiO 0〜10%、MgO 0〜20%、ZnO 0〜30%、TiO 0〜10%、及びZrO 0〜10% を含有することが好ましい。
【0011】
さらに、質量%で、B 0〜20%、P 0〜10%、NaO 0〜5%、及びKO 0〜5%を含有することが好ましい。
【0012】
鉛成分、ヒ素成分及びフッ素成分を実質的に含有しないことが好ましい。
【0013】
主結晶の平均粒径が100nm以下であることが好ましい。
【0014】
屈折率が1.55〜1.85、アッベ数が25〜70であることが好ましい。
【0015】
厚み5mmにおける着色度λ70が600nm以下であることが好ましい。
【0016】
ここで、「着色度λ70」とは、透過率曲線において透過率が70%になる最短波長をいう。
【0017】
光学レンズ用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温度変化に対する形状安定性に優れ、かつ高屈折率特性を有する光学ガラスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の光学ガラスは、内部に結晶を析出してなるものである。ガラスマトリクス中に低膨張結晶を析出させることで熱膨張係数を低減させることができ、その結果、温度変化に対する形状安定性に優れたガラスとなる。具体的には、LiO、MgO、ZnO、Al及びSiOから選択される少なくとも2種の成分を含有する結晶を析出させるため、熱膨張係数の低減効果が得られる。また、上記結晶は、異種成分が結晶に固溶しにくく、微細な結晶が析出しやすい。そのため、ガラス中に上記結晶を主結晶として析出させることによって、高い透過率が得られる。また、液相温度と成形温度の差が大きく、安定なガラスが得られやすい。さらに、ヌープ硬度に優れた(例えば550以上(6級以上))ガラスが得られやすい。
【0020】
LiO、MgO、ZnO、Al及びSiOから選択される少なくとも2種の成分を含有する結晶(以下、「主結晶」ともいう)としては、β−石英固溶体(LiO・Al・nSiO;2≦n<4)β−スポジュメン固溶体(LiO・Al・nSiO;4≦n≦8)、ガーナイト(ZnO・Al)、エンスタタイト(MgO・SiO)、フォルステライト(MgO・2SiO)、コーディエライト(MgO・Al・SiO)等が挙げられる。
【0021】
光学ガラスにおいて、主結晶の含有量は、質量%で、好ましくは1〜99%、より好ましくは5〜95%、さらに好ましくは10〜90%、特に好ましくは20〜80%である。主結晶の含有量が少なすぎると、所望の屈折率やアッベ数、または熱膨張係数が得られにくい。さらに、緻密な結晶が析出しにくくなり、透過率が低下する傾向がある。一方、主結晶の含有量が多すぎると、透過率が低下しやすくなる。
【0022】
主結晶の平均粒径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。主結晶の平均粒径が大きすぎると、光の散乱により透過率が低下する傾向がある。なお、主結晶の平均粒径の下限については特に限定されないが、小さすぎると十分な結晶量が得られにくくなるため、1nm以上であることが好ましい。
【0023】
本発明の光学ガラスの30〜300℃における熱膨張係数は−10〜70×10−7/℃であり、好ましくは0〜65×10−7/℃、より好ましくは10〜60×10−7/℃、さらに好ましくは30〜55×10−7/℃である。熱膨張係数が大きすぎると、温度変化に対する寸法安定性に劣る傾向がある。そのため、レンズとして使用した場合に、焦点距離や光路長が変化しやすくなる。一方、熱膨張係数が小さすぎる場合は、結晶析出量が多く、結晶構造中にマイクロクラックが発生する傾向があるため、透過率が低下しやすい。
【0024】
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.55〜1.85、より好ましくは1.56〜1.83、さらに好ましくは1.57〜1.81、特に好ましくは1.58〜1.80、最も好ましくは1.59〜1.75である。
【0025】
本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは40〜70、より好ましくは41〜65、さらに好ましくは42〜60、特に好ましくは43〜55である。
【0026】
なお、アッベ数が高いほど、光学設計上、他のレンズとの組み合わせにおける色収差の低減に有利となるが、一方で、屈折率が低下したり、ガラスが不安定になったりする傾向がある。このような事情に鑑み、屈折率とアッベ数は適切な範囲に調整することが好ましい。具体的には、本発明の光学ガラスのアッベ数と屈折率は、−0.0077×νd+1.9422≦nd≦−0.0077×νd+1.9822の関係にあることが好ましい。
【0027】
光学デバイスにおいて色収差の補正をおこなうため、低分散ガラスと高分散ガラスを組み合わせて使用するのが一般的である。ここで、低分散ガラスとして部分分散比の大きいガラスを使用することにより、色収差の補正を効果的に行なえることがわかっている。そこで、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は0.552以上であることが好ましく、0.56以上であることがより好ましい。
【0028】
本発明の光学ガラスは、La、Gd、Nb、TaまたはWOを必須成分として含有する。これらの成分は結晶析出後にマトリクスガラス中に残存し、屈折率向上に寄与する成分である。La+Gd+Nb+Ta+WOの含有量は好ましくは3.8〜20%であり、好ましくは4〜17.5%、より好ましくは4.5〜15%、さらに好ましくは5〜12.5%、特に好ましくは5.5〜10%である。La+Gd+Nb+Ta+WOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、La+Gd+Nb+Ta+WOの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。また、主結晶の析出量が低下しやすくなる。
【0029】
次に本発明に光学ガラスの、La、Gd、Nb、Ta及びWO以外の組成について説明する。本発明の光学ガラスは、LiO、MgO、ZnO、Al及びSiOから選択される少なくとも2種の成分を含有する結晶を主結晶として析出可能なものであれば特に限定されない。本発明の光学ガラスの組成の具体例としては、質量%で、SiO 20〜65.5%、Al 14〜30%、LiO 0〜10%、MgO 0〜20%、ZnO 0〜30%、TiO 0〜10%、及びZrO 0〜10% を含有するものが挙げられる。以下に、各成分の含有量を上記のように限定した理由を説明する。なお、特に断りがない場合、以下の説明において「%」は「質量%」を意味する。
【0030】
SiO及びAlはガラス骨格または主結晶の構成成分である。また、液相温度を低下させて失透を抑制する効果や、化学的耐久性を向上させる効果がある。SiOの含有量は、好ましくは20〜65.5%、より好ましくは22.5〜62.5%、さらに好ましくは25〜60%、特に好ましくは27.5〜59%である。Alの含有量は、好ましくは14〜30%、より好ましくは15〜28%、さらに好ましくは16〜26%、特に好ましくは17〜25%である。SiOまたはAlの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、SiOまたはAlの含有量が多すぎると、溶融性が低下して未溶解による脈理や気泡がガラス中に残存しやすくなる、あるいは、屈折率が低くなったり、アッベ数が大きくなったりしやすく、光学レンズ用ガラスとしての要求特性を満たさなくなるおそれがある。
【0031】
LiOは主結晶の構成成分、あるいは軟化点を低下させたり、ガラス化を容易にしたりする成分である。さらに、部分分散比を調整する成分でもある。LiOの含有量は好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜9%、さらに好ましくは0.5〜8%、特に好ましくは1〜7%である。一方、LiOの含有量が多すぎると、緻密な結晶が得られにくくなり、高透過率特性の達成が困難になる傾向がある。また、高屈折率特性が得られにくくなる。
【0032】
MgO及びZnOは主結晶の構成成分、あるいは中間酸化物としてガラス骨格を形成する成分である。また、軟化点を低下させたり、ガラス化を容易にする効果がある。MgOの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0.5〜10%、さらに好ましくは1〜8%である。ZnOの含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは0.5〜27.5%、さらに好ましくは1〜25%、特に好ましくは2〜20%である。MgOまたはZnOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、MgOまたはZnOの含有量が多すぎると、緻密な結晶が得られにくくなり、高透過率特性の達成が困難になる傾向がある。また、高屈折率特性が得られにくくなる。
【0033】
TiOは核形成剤として作用する成分である。また、高屈折率化を達成するための成分であり、アッベ数及び部分分散比を調整する効果も有する。さらに、化学的耐久性を向上させたり、紫外光による着色を抑制したりする効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると、耐失透性が低下してガラス化が困難になる傾向がある。また、可視域透過率が低下しやすくなる。従って、TiOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜8%、さらに好ましくは0.5〜7%、特に好ましくは1〜6%である。
【0034】
ZrOは核形成剤として作用する成分である。また、高屈折率化を達成するための成分であり、アッベ数及び部分分散比を調整する効果も有する。さらに、化学的耐久性を向上させる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると、耐失透性が低下してガラス化が困難になる傾向がある。従って、ZrOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜9%、さらに好ましくは0.5〜8%、特に好ましくは1〜7.5%である。
【0035】
なお、緻密な結晶を析出させ、高透過率を達成するため、TiOとZrOの合量を適宜調整することが好ましい。具体的には、TiO+ZrOの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0.1〜15%、さらに好ましくは0.5〜10%、特に好ましくは1〜5%である。TiO+ZrOの含有量が多すぎると、耐失透性が低下してガラス化しにくくなる。
【0036】
本発明の光学ガラスは、上記成分以外にも下記の成分を含有することができる。
【0037】
はSiOとともにガラス骨格を形成する成分である。また、耐候性を向上させる効果があり、特にガラス中の成分が水へ選択的に溶出することを抑制する効果が高い。Bの含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0.1〜15%である。Bの含有量が多すぎると、高屈折率特性が得られにくくなる。また、部分分散比が不当に高くなる傾向がある。
【0038】
はガラス骨格を形成する成分であり、失透を抑制するとともに耐候性を向上させる効果がある。またアッベ数を高める効果がある。ただし、Pの含有量が多すぎると、かえって耐候性が低下する傾向がある。また、屈折率が低下する傾向がある。従って、Pの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%である。
【0039】
NaO及びKOは軟化点を低下させたり、ガラス化を容易にしたりする効果がある。また、部分分散比を調整する効果もある。ただし、NaOまたはKOの含有量が多すぎると、耐候性が低下したり、また熱膨張係数が高くなって寸法安定性が低下したりする傾向がある。さらに、屈折率が低下する傾向がある。従ってNaO及びKOの含有量は、それぞれ好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%である。
【0040】
なお、低熱膨張係数、及び、緻密な結晶の析出による高透過率を達成するため、NaOとKOの合量を適宜調整することが好ましい。具体的には、NaO+KOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜7.5%、さらに好ましくは0.5〜5%、特に好ましくは1〜2.5%である。
【0041】
Bi、Y、Yb、TeO及びGeOは屈折率を高める成分である。ただし、その含有量が多すぎると、成形時に失透しやすくなる。従って、Bi+Y+Yb+TeO+GeOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜9%、さらに好ましくは0〜8%、特に好ましくは0〜5%である。
【0042】
CaO、SrO及びBaOは屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、耐失透性を改善したり、化学的耐久性を向上したりする効果もある。ただし、その含有量が多すぎると、部分分散比が不当に高くなる傾向がある。従って、CaO+SrO+BaOの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜8%、さらに好ましくは0.1〜7、5%、特に好ましくは0.5〜6.5%である。
【0043】
清澄剤として、例えばSb、SnO、CeO、NOまたはSOを含有させることができる。Sb及びCeOは少量であれば可視域透過率を向上させる効果も有する。SnOは少量であれば核形成剤として作用する。上記清澄剤の含有量が多すぎると、着色しやすくなる。よって、これらの成分の含有量はそれぞれ1%以下とすることが好ましい。
【0044】
鉛成分(例えばPbO)、ヒ素成分(例えばAs)及びフッ素成分(例えばF)は環境への負荷が大きく、また、ガラスへの着色が懸念されるため、実質的に含有しないことが好ましい(具体的には各々0.1%未満)。
【0045】
本発明の光学ガラスの着色度λ70は、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下、さらに好ましくは540nm以下、特に好ましくは520nm以下、最も好ましくは500nm以下である。着色度λ70が大きすぎると、光学レンズ用途としての使用に支障を来たすおそれがある。
【0046】
本発明の光学ガラスの屈伏点は、好ましくは800℃以上、より好ましくは900℃以上である。屈伏点が低すぎると、高温環境下で使用した場合に寸法変化の原因となるおそれがある。
【0047】
次に、本発明の光学ガラス、及びそれを用いた光学レンズを作製する方法を説明する。
【0048】
まず所望の組成となるように原料粉末を調合し、溶融容器中で溶融する。ここで、一次溶融によりカレットを作製後、当該カレットを用いて二次溶融を行なうことにより、屈折率の調整や組成の均質化を図ることができる。組成が均質化されることにより、透過率の高いガラスを得ることができる。なお、二次溶融の際、屈折率の高いカレットと屈折率の低いカレットを用いることにより、屈折率の精密制御が可能となる。
【0049】
次に、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して液滴状に成形(液滴成形)して硝材を得る。あるいは、溶融ガラスをインゴット状に成形し、適当な大きさに切り出すことにより硝材を得る。得られた硝材に対し、所定の熱処理条件により結晶化処理を行なうことにより、本発明の光学ガラスからなる光学レンズを得ることができる。なお、結晶化により部分分散比が上昇する傾向がある。例えば、結晶化前のガラス部分分散比より結晶化後のガラスの部分分散比が0.01以上高いことが好ましい。
【0050】
所定形状の光学レンズを得るために、結晶化処理の前または後に研磨処理を施すことが好ましい。なお、結晶化処理後のガラスは硬度が高く研磨処理が困難になる傾向があるため、結晶化処理前に研磨処理を行うことが好ましい。結晶化処理の際には通常、収縮を伴うため、収縮率を考慮して研磨処理を行う。
【0051】
必要に応じて、結晶化処理の際の雰囲気を加圧雰囲気または減圧雰囲気とすることにより、屈折率を適宜調整することができる。具体的には、加圧雰囲気で結晶化処理を行うことにより、屈折率を高めることができる。一方、減圧雰囲気で結晶化処理を行うことにより、屈折率を低下させることができる。
【0052】
また、例えばレーザー等を用いて熱処理することにより、局所的に結晶化させることも可能である。これにより、ガラス中に導波路を形成したり、マイクロレンズアレイを作製したりすることが可能となる。
【0053】
本発明の光学ガラスからなる光学レンズは、金属部品とアセンブリされたレンズキャップとして使用することもできる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
表1及び2は本発明の実施例(試料No.1〜13)及び比較例(試料No.14、15)を示している。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
各試料は次のようにして調製した。まず表に示す各組成になるように原料粉末を調合し、白金ルツボを用いて1400〜1550℃で3時間溶融した。得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、アニールを行うことにより、結晶性ガラスを得た。得られた結晶性ガラスについて屈折率(nd)、アッベ数(νd)及び部分分散比(θg,F)を測定した。
【0059】
その後、結晶性ガラスに対し、表に記載の各熱処理条件にて結晶化処理を行なうことにより結晶化ガラスを得た。
【0060】
得られた結晶化ガラスについて、屈折率、アッベ数、部分分散比、着色度、結晶含有量、結晶粒径、熱膨張係数、屈伏点及びヌープ硬度の測定を行った。結果を表1及び2に示す。
【0061】
屈折率はヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0062】
アッベ数は、ヘリウムランプのd線の屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)及びC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)={(nd−1)/(nF−nC)}の式から算出した。
【0063】
部分分散比は、水素ランプのF線及びC線、水銀ランプのg線(435.8nm)の屈折率の値を用い、部分分散比(θg,F)={(ng−nF)/(nF−nC)}の式から算出した。
【0064】
着色度λ70は、厚さ5mm±0.05mmの光学研磨された試料について、分光光度計を用いて200〜800nmの波長域での透過率を0.5nm間隔で測定して透過率曲線を作製し、当該透過率曲線において透過率70%を示す最短波長により評価した。
【0065】
結晶含有量は、X線回折測定で得られたチャートに基づき、ハロー法により算出した。なお、結晶種の同定も同時に行った。結晶粒径は、試料表面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した画像に基づき測定した。具体的には、透過型電子顕微鏡観察画像における各結晶の長径及び短径の平均値を結晶サイズとし、任意の10個の結晶の結晶サイズの平均値を結晶粒径とした。
【0066】
熱膨張係数及び屈伏点は、熱膨張測定装置(dilato meter)を用いて測定した。
【0067】
ヌープ硬度は、温度25℃、湿度50%に保たれた室内において、MXT50(マツザワ精機製)を用いて測定を行なった。具体的には、板状試料の表面に荷重100gの圧子を15秒押圧し、圧痕の対角線の長さに基づき、ヌープ硬度の算出を行った。
【0068】
表1から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜13の各試料(結晶化ガラス)は屈折率が1.5501〜1.6260、アッベ数が44.9〜55.3、部分分散比が0.5523〜0.5842であり、所望の光学特性を有していた。また、熱膨張係数が3〜63×10−7/℃、ヌープ硬度が570〜700と所望の範囲を満たしていた。
【0069】
一方、比較例であるNo.14及び15の試料(結晶化ガラス)は、屈折率が1.5445以下と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の光学ガラスは、CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、その他一般のカメラや携帯等の撮影用レンズ、光通信用レンズ、ステッパーに使用されるレンズ、その他プリズムや光フィルター等の光学部材に好適である。