(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜7の何れかに記載のビスマス系ガラスからなるガラス粉末 55〜100体積%、耐火性フィラー粉末 0〜45体積%含有することを特徴とする封着材料。
耐火性フィラー粉末が、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズから選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項8に記載の封着材料。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットディスプレイパネルとして、有機ELディスプレイが注目されている。有機ELディスプレイは、直流電圧で駆動できるため駆動回路を簡略化し得ると共に、液晶ディスプレイのように視野角依存性がなく、また自己発光のため明るく、更には応答速度が速い等の利点がある。現在、有機ELディスプレイは、主に携帯電話等の小型携帯機器に利用されているが、今後は超薄型テレビへの応用が期待されている。なお、有機ELディスプレイは、液晶ディスプレイと同様にして、薄膜トランジスタ(TFT)等のアクティブ素子を各画素に配置して、駆動させる方式が主流である。
【0003】
有機ELディスプレイは、2枚のガラス基板、金属等の陰電極、有機発光層、ITO等の陽電極、接着材料等で構成される。従来、接着材料として、低温硬化性を有するエポキシ樹脂、或いは紫外線硬化樹脂等の有機樹脂系接着材料が使用されてきた。しかし、有機樹脂系接着材料では、気体の侵入を完全に遮断できない。このため、有機樹脂系接着材料を用いると、有機ELディスプレイ内部の気密性を保持することができず、これに起因して、耐水性が低い有機発光層が劣化し易くなって、有機ELディスプレイの表示特性が経時的に劣化する不具合が生じていた。また、有機樹脂系接着材料は、ガラス基板同士を低温で接着できる利点を有するものの、耐水性が低いため、有機ELディスプレイを長期に亘って使用した場合に、ディスプレイの信頼性が低下し易くなる。
【0004】
一方、ガラス粉末を含む封着材料は、有機樹脂系接着材料に比べて、耐水性に優れると共に、有機ELディスプレイ内部の気密性の確保に適している。
【0005】
しかし、ガラス粉末は、一般的に、軟化温度が300℃以上であるため、有機ELディスプレイに適用が困難であった。具体的に説明すると、上記の封着材料でガラス基板同士を封着する場合、電気炉に有機ELディスプレイ全体を投入して、ガラス粉末の軟化温度以上の温度で焼成し、ガラス粉末を軟化流動させる必要があった。しかし、有機ELディスプレイに用いられるアクティブ素子は、120〜130℃程度の耐熱性しか有していないため、この方法でガラス基板同士を封着すると、アクティブ素子が熱により損傷して、有機ELディスプレイの表示特性が劣化してしまう。また、有機発光材料も耐熱性が乏しいため、この方法でガラス基板同士を封着すると、有機発光材料が熱により損傷して、有機ELディスプレイの表示特性が劣化してしまう。
【0006】
このような事情に鑑み、近年、有機ELディスプレイを封着する方法として、レーザー封着が検討されている。レーザー封着によれば、封着すべき部分のみを局所加熱できるため、アクティブ素子等の熱劣化を防止した上で、ガラス基板同士を封着することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2には、フィールドエミッションディスプレイのガラス基板同士をレーザー封着することが記載されている。しかし、特許文献1、2には具体的な材料構成について記載がなく、どのような材料構成がレーザー封着に好適であるのか不明であった。このため、レーザー光を封着材料に照射しても、封着材料がレーザー光を的確に吸収できず、封着すべき部分において、レーザー光を熱エネルギーに効率良く変換させることが困難であった。なお、レーザー光の出力を上げると、材料構成を適正化しなくても、レーザー封着が可能になるが、この場合、アクティブ素子等が加熱されて、有機ELディスプレイの表示特性が劣化する虞がある。
【0009】
また、本発明者等の調査によると、レーザー封着には、封着材料の流動性が要求される。封着材料の流動性が高いと、封着強度が向上し、機械的衝撃等によりリーク等の気密不良が生じ難くなる。
【0010】
更に、本発明者等の調査によると、レーザー封着には、封着材料の低融点化も要求される。封着材料を低融点化すれば、局所加熱の熱衝撃によって、封着部分が破壊し難くなる。
【0011】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、レーザー光を熱エネルギーに変換し易く、良好な流動性を示し、しかも低融点化に資するビスマス系ガラス及びこれを用いた封着材料を提供することにより、有機ELデバイス等の長期信頼性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、Bi
2O
3を多量に含むビスマス系ガラスを採用すると共に、ガラス組成中にCuO及び/又はFe
2O
3を所定量導入することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のビスマス系ガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi
2O
3 70〜90%、B
2O
3 2〜12%、ZnO 1〜15%、CuO+Fe
2O
3 0.2〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜20%含有することを特徴とする。ここで、「CuO+Fe
2O
3」は、CuOとFe
2O
3の合量である。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量である。
【0013】
ビスマス系ガラスは、他のガラス系に比べて、レーザー封着の際に、発泡し難い特徴を有する。このため、ビスマス系ガラスを用いると、発泡に起因して、封着部分の機械的強度が低下する事態を防止することができる。更に、ビスマス系ガラスは、他のガラス系に比べて、熱的安定性が高い特徴を有する。このため、ビスマス系ガラスを用いると、レーザー封着の際に、失透に起因して、封着強度が低下する事態を防止することができる。
【0014】
また、上記のように、ビスマス系ガラスのガラス組成範囲を規制すれば、熱的安定性を維持した上で、軟化点を下げることができる。その結果、低温(500℃以下、好ましくは480℃以下、より好ましくは450℃以下)で良好な流動性を確保することができる。
【0015】
更に、本発明のビスマス系ガラスは、CuO+Fe
2O
3を0.2質量%以上(好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、特に好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5質量%以上)含む。このようにすれば、レーザー光等が効率良く熱エネルギーに変換されて、封着すべき部位のみを局所加熱することができる。その結果、アクティブ素子や有機発光層の熱的損傷を防止した上で、ガラス基板同士を封着することができる。なお、レーザー封着の場合、照射箇所から1mm離れた部位の温度は100℃以下になり、アクティブ素子や有機発光層の熱的損傷を防止することができる。一方、本発明のビスマス系ガラスは、CuO+Fe
2O
3の含有量が15質量%以下に規制されている。このようにすれば、レーザー封着の際に、ガラスが失透し難くなる。
【0016】
第二に、本発明のビスマス系ガラスは、CuO+Fe
2O
3の含有量が4質量%以上であることが好ましい。
【0017】
第三に、本発明のビスマス系ガラスは、モル比率BaO/ZnOの値が0.01〜2であることが好ましい。
【0018】
第四に、本発明のビスマス系ガラスは、モル比率Bi
2O
3/B
2O
3の値が1.6以上であることが好ましい。
【0019】
第五に、本発明のビスマス系ガラスは、モル比率Bi
2O
3/ZnOの値が1.55以上であることが好ましい。
【0020】
第六に、本発明のビスマス系ガラスは、BaOの含有量が0.1質量%以上であることが好ましい。このようにすれば、熱的安定性と低温封着性を高めることができる。
【0021】
第七に、本発明のビスマス系ガラスは、CuO+Fe
2O
3の含有量が5質量%以上、モル比率Bi
2O
3/B
2O
3の値が1.5以下、且つモル比率BaO/ZnOの値が0.7以上であることが好ましい。このようにすれば、低融点特性と熱的安定性を高いレベルで両立し得ると共に、レーザー光をガラスに照射すると、レーザー光が高効率で熱エネルギーに変換されるため、ガラスが十分に軟化流動し、ガラス基板同士の封着強度を高めることができる。
【0022】
第八に、本発明の封着材料は、上記のビスマス系ガラスからなるガラス粉末 55〜100体積%、耐火性フィラー粉末 0〜45体積%含有することを特徴とする。このようにすれば、被封着物の熱膨張係数に整合するように、封着材料の熱膨張係数を下げることができる。
【0023】
第九に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末が、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズから選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0024】
第十に、本発明の封着材料は、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、封着材料中のPbOの含有量が1000ppm(質量)未満の場合を指す。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。
【0025】
第十一に、本発明の封着材料は、軟化点が500℃以下であることが好ましい。軟化点が高過ぎると、レーザー光を照射しても、ガラスが十分に軟化流動せず、ガラス基板同士の封着強度を高めるために、レーザー光の出力を上げる必要がある。そして、レーザー光の出力が高いと、レーザー封着時に、レーザー光の照射部と非照射部間の熱衝撃が大きくなり、封着部分にクラック等が発生し易くなる。ここで、「軟化点」とは、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、
図1に示す第四屈曲点の温度(Ts)を指す。なお、軟化点の下限は特に限定されないが、上記ビスマス系ガラスの熱的安定性を考慮すれば、390℃以上が好ましい。
【0026】
第十二に、本発明の封着材料は、レーザー封着に用いることが好ましい。このようにすれば、封着材料を局所加熱することができ、アクティブ素子や有機発光層の熱的損傷を防止することができる。レーザー光の光源の種類は特に限定されないが、例えば半導体レーザー、YAGレーザー、CO
2レーザー、エキシマレーザー、赤外レーザー等は、取り扱いが容易な点で好適である。また、発光中心波長は、上記ビスマス系ガラスにレーザー光を的確に吸収させるために、500〜1600nm、特に750〜1300nmが好ましい。
【0027】
第十三に、本発明の封着材料は、有機ELデバイス又は太陽電池の封着に用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のビスマス系ガラスのガラス組成範囲を限定した理由を下記に示す。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を指す。
【0030】
Bi
2O
3は、軟化点を下げるための主要成分であり、その含有量は70〜90%、好ましくは75〜90%、より好ましくは80〜90%、更に好ましくは82〜88%である。Bi
2O
3の含有量が70%より少ないと、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。一方、Bi
2O
3の含有量が90%より多いと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は照射時にガラスが失透し易くなる。
【0031】
B
2O
3は、ビスマス系ガラスのガラスネットワークを形成する成分であり、その含有量は2〜12%、好ましくは3〜10%、より好ましくは3〜8%である。B
2O
3の含有量が2%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は照射時にガラスが失透し易くなる。一方、B
2O
3の含有量が12%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。
【0032】
モル比率Bi
2O
3/B
2O
3の値は、好ましくは1.6以上、1.65以上、1.9以上、特に2.5以上である。モル比率Bi
2O
3/B
2O
3の値が小さ過ぎると、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。なお、CuO+Fe
2O
3の含有量が多い場合、例えばCuO+Fe
2O
3の含有量が5質量%以上の場合に、モル比率Bi
2O
3/B
2O
3の値が大き過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は照射時にガラスが失透し易くなる。よって、その場合、モル比率Bi
2O
3/B
2O
3の値は、好ましくは2.3以下、2.0以下、1.8以下、1.7以下、1.6以下、特に1.5以下である。
【0033】
ZnOは、溶融時又は照射時の失透を抑制し、また熱膨張係数を低下させる成分であり、その含有量は1〜15%、好ましくは1.5〜10%である。ZnOの含有量が1%より少ないと、溶融時又は照射時の失透抑制効果が乏しくなる。一方、ZnOの含有量が15%より多いと、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。
【0034】
モル比率Bi
2O
3/ZnOの値は、好ましくは1.55以上、1.6〜10、3〜9.5、4〜9、5〜8.5、特に5.5〜8である。このようにすれば、低融点特性と熱的安定性を高いレベルで両立することができる。
【0035】
MgO+CaO+SrO+BaOは、溶融時又は照射時の失透を抑制する成分である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は0.1〜20%、好ましくは0.1〜15%、より好ましくは0.1〜10%である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が20%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。
【0036】
BaOの含有量は0.1〜15%、好ましくは0.1〜8%である。BaOの含有量が15%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。MgO、CaO、SrOの各々の含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。MgO、CaO、SrOの各々の含有量が多過ぎると、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。
【0037】
モル比率BaO/ZnOの値は、好ましくは0.01〜2、0.03〜1.5、0.05〜1.2、0.1〜0.9、0.4〜0.9、特に0.7〜0.9である。このようにすれば、低融点特性と熱的安定性を高いレベルで両立することができる。
【0038】
CuO+Fe
2O
3は、光吸収特性を有する成分であり、所定の発光中心波長を有する光を照射すると、光を吸収して、ガラスを軟化させ易くする成分である。また、CuO+Fe
2O
3は、溶融時又は照射時の失透を抑制する成分である。CuO+Fe
2O
3の含有量は0.2〜15%、好ましくは1〜10%、より好ましくは2〜9%、更に好ましくは3〜8%、特に好ましくは4〜8%、最も好ましくは5〜8%である。CuO+Fe
2O
3の含有量が0.2%より少ないと、光吸収特性が乏しくなり、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。一方、CuO+Fe
2O
3の含有量が15%より多いと、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなり、流動性が低下し易くなる。
【0039】
CuOは、光吸収特性を有する成分である。つまり所定の発光中心波長を有する光を照射すると、光を吸収して、ガラスを軟化させ易くする成分である。更に、溶融時又は照射時の失透を抑制する成分である。CuOの含有量は、好ましくは0〜15%、0.2〜10%、1〜9%、特に3〜7%である。CuOの含有量が15%より多いと、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなり、流動性が低下し易くなる。なお、CuOの含有量が少ないと、光吸収特性が乏しくなり、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。
【0040】
Fe
2O
3は、光吸収特性を有する成分である。つまり所定の発光中心波長を有する光を照射すると、光を吸収して、ガラスを軟化させ易くする成分である。更に、溶融時又は照射時の失透を抑制する成分である。Fe
2O
3の含有量は、好ましくは0〜7%、0.05〜7%、0.1〜4%、特に0.2〜2%である。Fe
2O
3の含有量が7%より多いと、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなり、流動性が低下し易くなる。なお、Fe
2O
3の含有量が少ないと、光吸収特性が乏しくなり、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。
【0041】
ガラス組成中のFeは、Fe
2+又はFe
3+の形で存在することが想定されるが、本発明において、ガラス組成中のFeは、Fe
2+とFe
3+の何れかに限定されるものではなく、何れであっても構わない。そこで、本発明では、Fe
2+の場合はFe
2O
3に換算した上で取り扱うものとする。特に、赤外レーザーを用いる場合、Fe
2+は、赤外域に吸収ピークを有するため、Fe
2+の割合を高くする方が好ましく、Fe
2+/Fe
3+の割合を0.03以上(望ましくは0.08以上)に規制することが好ましい。
【0042】
上記の成分以外にも、例えば、以下の成分を添加してもよい。なお、その添加量は、合量で20%以下、10%以下、特に5%以下が好ましい。
【0043】
SiO
2は、耐水性を高める成分である。その含有量は0〜10%、特に0〜3%が好ましい。SiO
2の含有量が10%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。
【0044】
Al
2O
3は、耐水性を高める成分である。その含有量は0〜5%、特に0.1〜2%が好ましい。Al
2O
3の含有量が5%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。
【0045】
CeO
2は、溶融時又は照射時の失透を抑制する成分である。CeO
2の含有量は、好ましくは0〜5%、0〜2%、特に0〜1%が好ましい。CeO
2の含有量が多過ぎると、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。
【0046】
Sb
2O
3は、失透を抑制する成分である。Sb
2O
3の含有量は、好ましくは0〜5%、0〜2%、特に0〜1%が好ましい。Sb
2O
3は、ビスマス系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、Sb
2O
3を適宜添加すれば、Bi
2O
3の含有量が多い場合、例えばBi
2O
3の含有量が76%以上であっても、熱的安定性が低下し難くなる。但し、Sb
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。
【0047】
Nd
2O
3は、失透を抑制する成分である。Nd
2O
3の含有量は、好ましくは0〜5%、0〜2%、特に0〜1%が好ましい。Nd
2O
3は、ビスマス系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、Nd
2O
3を適宜添加すれば、Bi
2O
3の含有量が多い場合、例えばBi
2O
3の含有量が76%以上であっても、熱的安定性が低下し難くなる。但し、Nd
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。
【0048】
WO
3は、失透を抑制する成分である。WO
3の含有量は、好ましくは0〜10%、特に0〜2%である。但し、WO
3の含有量が多過ぎると、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。
【0049】
In
2O
3+Ga
2O
3(In
2O
3とGa
2O
3の合量)は、失透を抑制する成分である。In
2O
3+Ga
2O
3の含有量は、好ましくは0〜5%、特に0〜3%である。ただし、In
2O
3+Ga
2O
3の含有量が多過ぎると、ガラス組成内の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。なお、In
2O
3の含有量は0〜1%が好ましく、Ga
2O
3の含有量は0〜0.5%が好ましい。
【0050】
Li
2O、Na
2O、K
2O及びCs
2Oは、軟化点を低下させる成分であるが、溶融時に失透を助長する作用を有する。よって、これらの成分の含有量は、合量で2%以下が好ましい。
【0051】
P
2O
5は、溶融時の失透を抑制する成分であるが、その添加量が1%より多いと、溶融時にガラスが分相し易くなる。
【0052】
La
2O
3、Y
2O
3及びGd
2O
3は、溶融時の分相を抑制する成分であるが、各々の成分の含有量が3%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難くなる。
【0053】
NiO、V
2O
5、CoO、MoO
3、TiO
2及びMnO
2は、光吸収特性を有する成分である。つまり所定の発光中心波長を有する光を照射すると、光を吸収して、ガラスを軟化させ易くする成分である。各々の成分の含有量は、好ましくは0〜7%、特に0〜3%である。各々の成分の含有量が多過ぎると、失透により流動性が低下し易くなる。
【0054】
上記の通り、PbOは、環境的観点から、実質的に含有しないことが好ましい。
【0055】
上記のビスマス系ガラスは、良好な耐候性を有すると共に、熱的安定性が高く、しかも低温で良好な流動性を有する。その結果、長期間に亘って、有機ELデバイス等の気密性を確保することができる。
【0056】
本発明の封着材料は、上記ビスマス系ガラスからなるガラス粉末55〜100体積%、耐火性フィラー粉末0〜45体積%を含有し、好ましくはビスマス系ガラス粉末60〜100体積%、耐火性フィラー粉末0〜40体積%であり、より好ましくはビスマス系ガラス粉末60〜85体積%、耐火性フィラー粉末15〜40体積%である。上記ビスマス系ガラスは、低融点であるため、低温で良好に流動する。また、ビスマス系ガラス粉末に耐火性フィラー粉末を添加すると、封着材料の熱膨張係数を調整し得るため、被封着物の熱膨張係数に容易に整合させることができる。その結果、封着部位に不当な応力が残留する事態を防止することができる。但し、耐火性フィラー粉末の含有量が45体積%より多いと、ビスマス系ガラス粉末の含有量が相対的に少なくなって、所望の流動性を確保し難くなる。
【0057】
耐火性フィラー粉末として、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズから選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。これらの耐火性フィラー粉末は、熱膨張係数が低いことに加えて、機械的強度が高く、しかもビスマス系ガラス粉末との適合性が良好である。更に、上記の耐火性フィラー粉末以外にも、封着材料の熱膨張係数の調整、流動性の調整及び機械的強度の改善のために、石英ガラス、β−ユークリプタイト等の耐火性フィラー粉末を添加することができる。
【0058】
有機ELデバイス用ガラス基板には、通常、無アルカリガラス基板(例えば、日本電気硝子株式会社製OA−10G)が用いられる。無アルカリガラス基板の熱膨張係数は、通常、40×10
−7/℃以下である。無アルカリガラス基板同士を封着する場合、封着材料の熱膨張係数を無アルカリガラス基板に整合させる必要がある。よって、封着材料の熱膨張係数を可及的に低下させることは重要であり、封着材料の熱膨張係数は80×10
−7/℃以下、特に70×10
−7/℃以下が好ましい。このようにすれば、封着部分にかかる応力が小さくなるため、封着部分の応力破壊を防止し易くなる。ここで、「熱膨張係数」は、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指し、測定温度範囲は30〜300℃とする。
【0059】
本発明の封着材料において、軟化点は480℃以下、450℃以下、特に430℃以下が好ましい。軟化点が高過ぎると、レーザー光等を照射しても、ガラスが軟化し難い傾向があり、ガラス基板同士の封着強度を高めるためには、レーザー光等の出力を上げる必要がある。
【0060】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末の最大粒子径D
maxは15μm以下、10μm未満、5μm未満、特に3μm未満が好ましい。耐火性フィラー粉末の最大粒子径D
maxが大き過ぎると、両ガラス基板間のギャップを均一化し難くなり、有機ELデバイスを薄型化し難くなる。また、耐火性フィラー粉末の最大粒子径D
maxが大き過ぎると、両ガラス基板間のギャップが大きくなり、このような場合、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数差が大きくても、ガラス基板及び封着部分にクラック等が発生し難くなる。ここで、「最大粒子径D
max」とは、レーザー回折装置で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0061】
本発明の封着材料において、ビスマス系ガラス粉末の最大粒子径D
maxは10μm以下、特に5μm以下が好ましい。ビスマス系ガラス粉末の最大粒子径D
maxを大き過ぎると、両ガラス基板間のギャップを狭小化し難くなり、この場合、レーザー封着に要する時間を短縮し得ると共に、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数の差が大きくても、ガラス基板及び封着部位にクラック等が発生し難くなる。
【0062】
本発明の封着材料は、粉末の状態で使用に供してもよいが、ビークルと均一に混練し、ペーストに加工すると取り扱い易い。ビークルは、主に溶媒と樹脂で構成される。樹脂は、ペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いてガラス基板に塗布され、脱バインダー工程に供される。
【0063】
樹脂として、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0064】
溶媒として、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【実施例】
【0065】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜8)、比較例(試料No.9、10)を示している。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
次のようにして、表中に記載の各試料を調製した。まず、表中のガラス組成になるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1000〜1100℃で1時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスを水冷ローラーにより薄片状に成形した。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、空気分級し、平均粒子径D
50が2.5μm、最大粒子径D
maxが10μmの各ガラス粉末を得た。
【0069】
耐火物フィラー粉末は、コーディエライト、ウイレマイト、β−ユークリプタイト、リン酸ジルコニウムを用いた。各耐火性フィラー粉末は、空気分級により、平均粒子径D
50が2.5μm、最大粒子径D
maxが10μmに調整されている。なお、最大粒子径D
maxは、上記の通り、10μm未満、5μm未満、特に3μm未満が好ましい。
【0070】
表中に示す通り、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を混合し、試料No.1〜10を作製した。試料No.1〜10につき、熱膨張係数、ガラス転移点、軟化点、レーザー封着強度、流動性及びレーザー封着後の気密性を評価した。
【0071】
熱膨張係数及びガラス転移点は、TMA装置により測定した。熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲で測定した。なお、各試料を緻密に焼結させた後、所定形状に加工したものを測定試料とした。
【0072】
軟化点は、DTA装置により求めた。測定は、空気中で行い、昇温速度は10℃/分とした。
【0073】
流動性は、各試料の合成密度に相当する質量の粉末を金型により外径20mmのボタン状に乾式プレスし、これを40mm×40mm×2.8mm厚の高歪点ガラス基板上に載置し、空気中で10℃/分の速度で昇温した後、各試料の軟化点+30℃の温度で10分間保持した上で室温まで10℃/分で降温し、得られたボタンの直径を測定することで評価した。具体的には、流動径が20mm以上である場合を「○」、20mm未満である場合を「×」として評価した。なお、合成密度とは、ガラス粉末の密度と耐火物フィラー粉末の密度を、所定の体積比で混合させて算出される理論上の密度である。
【0074】
次のようにして、レーザー封着強度を評価した。まず、各試料とビークル(エチルセルロース樹脂含有のα−ターピネオール)を三本ロールミルで均一に混錬し、ペースト化した後、無アルカリガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10、□40mm×0.5mm厚)上に、無アルカリガラス基板の端縁に沿って枠形状(30μm厚、0.6mm幅)に塗布し、乾燥オーブンで125℃10分間乾燥した。次に、室温から10℃/分で昇温し、各試料の軟化点+30℃の温度で10分間焼成した後、室温まで10℃/分で降温し、ペースト中の樹脂成分の焼却(脱バインダー処理)及び封着材料の固着を行なった。次に、封着材料が固着された無アルカリガラス基板の上に、別の無アルカリガラス基板(□40mm×0.5mm厚)を正確に重ねた後、固着された封着材料を有する無アルカリガラス基板側から、封着材料に沿って、波長808nmのレーザー光を照射することにより、封着材料を軟化流動させて、無アルカリガラス基板同士を気密封着した。なお、封着材料の平均膜厚に応じて、レーザー光の照射条件(出力、照射速度)を調整した。最後に、レーザー封着後の両ガラス基板を上方1mからコンクリート上に落下させて、レーザー封着した部分で剥離が発生しなかったものを「○」、剥離が発生したものを「×」として評価した。
【0075】
次のようにして、レーザー封着後の気密性を評価した。レーザー封着強度の評価の場合と同様にして、無アルカリガラス基板(□40mm×0.5mm厚)上に封着材料の塗布、固着を行なった。続いて、別の無アルカリガラス基板(□40mm×0.5mm厚)上に金属Ca膜(□20mm、300nm厚)を真空蒸着にて形成し、湿度及び酸素濃度が管理されたグローブボックス中で、封着材料が固着された無アルカリガラス基板と金属Ca膜が形成された無アルカリガラス基板を正確に重ねた後、固着された封着材料を有する無アルカリガラス基板側から、封着材料に沿って、波長808nmのレーザー光を照射することにより、封着材料を軟化流動させて、無アルカリガラス基板同士を気密封着した。なお、封着材料の平均膜厚に応じて、レーザー光の照射条件(出力、照射速度)を調整した。レーザー封着後の無アルカリガラス基板を恒温恒湿槽にて40℃−90RH%の条件にて、1500時間保持した。その後、金属Ca膜が金属光沢を保持していたものを「○」、透明になったものを「×」として評価した。なお、金属Ca膜は、水分と反応すると、透明な水酸化カルシウムになる。
【0076】
表1、2から明らかなように、試料No.1〜8は、ガラス転移点が351〜400℃、軟化点が407〜444℃、熱膨張係数αが66〜85×10
−7/℃、流動性、レーザー封着強度及びレーザー封着後の気密性の評価も良好であった。一方、試料No.9、10は、ガラス組成中にCuO+Fe
2O
3を含んでいないため、レーザー光を照射しても封着材料が軟化せず、レーザー封着を適正に行うことができなかった。