(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、薄肉の板ガラスを化学強化し、強化ガラス板を製造した場合には、以下のような問題を生じることがある。
【0006】
すなわち、強化ガラス板には、表面側及び裏面側の表層部に圧縮応力層が形成されると共に、両圧縮応力層の間に引張応力層が形成される。そして、化学強化された薄肉の強化ガラス板においては、引張応力層の引張応力が、当該強化ガラス板の強度に対して過大となりやすい。
【0007】
このため、強化ガラス板に何ら外力や衝撃等が作用しなくとも、引張応力層の過大な引張応力によって、強化ガラス板が自然に割れてしまうことがある。これにより、当該強化ガラス板の製品としての品質が大きく低下する、或いは、製品として採用することが不可能となる問題が生じていた。
【0008】
上記事情に鑑みなされた本発明は、化学強化された強化ガラス板において、割れの発生を抑制することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、化学強化処理により強化ガラス板を製造する方法において、相対的に熱膨張係数の小さいコア板ガラスの表面及び裏面に、相対的に熱膨張係数の大きい表層板ガラスを面接触させ、これらのガラスが相互に密着したガラス積層体を作製する積層体作製工程と、前記ガラス積層体を加熱した後、徐冷する徐冷工程と、徐冷した前記ガラス積層体を化学強化処理により強化ガラス板とする強化工程とを含むことに特徴付けられる。
【0010】
このような方法によれば、積層体作製工程において、表層板ガラスとコア板ガラスとを面接触させ、相互に密着させることでガラス積層体が作製される。その後、徐冷工程において、ガラス積層体を加熱することにより、表層板ガラスとコア板ガラスとの両板ガラスが、相互に密着した状態から接合した状態へと変化しつつ熱膨張する。このとき、相互に拘束された両板ガラス間において、表層板ガラスの熱膨張係数がコア板ガラスの熱膨張係数よりも大きいことから、熱膨張によって表層板ガラスには圧縮応力、コア板ガラスには引張応力が発生する。しかしながら、この表層板ガラスの圧縮応力、及びコア板ガラスの引張応力は、加熱時の熱によって緩和される。その後、徐冷によりガラス積層体の温度が低下するのに伴って、表層板ガラスとコア板ガラスとが収縮していく。このとき、両板ガラスの熱膨張係数の違いから表層板ガラスに発生する引張応力、及びコア板ガラスに発生する圧縮応力によって、加熱時に発生した表層板ガラスの圧縮応力(緩和された圧縮応力)、及びコア板ガラスの引張応力(緩和された引張応力)が消失する。従って、徐冷工程後のガラス積層体には、表層板ガラスに引張応力が作用すると共に、コア板ガラスに圧縮応力が作用した状態となる。その後、強化工程において、化学強化処理により、ガラス積層体の表面側及び裏面側の表層部に圧縮応力層が形成されると共に、両圧縮応力層の間に引張応力層が形成され、強化ガラス板が製造される。このとき、強化工程前(徐冷工程後)のガラス積層体において、コア板ガラスには圧縮応力が作用していたため、この圧縮応力の大きさの分だけ、強化工程でコア板ガラスに形成される引張応力層の引張応力が小さくなる。すなわち、コア板ガラスに作用する引張応力を、表層板ガラスに作用する引張応力よりも小さくすることができる。その結果、製造された強化ガラス板における割れの発生を抑制することが可能となる。
【0011】
上記の方法において、前記コア板ガラスの熱膨張係数の値と、前記表層板ガラスの熱膨張係数の値との差が、1×10
−7/℃〜30×10
−7/℃の範囲内であることが好ましい。
【0012】
コア板ガラスの熱膨張係数の値と、表層板ガラスの熱膨張係数の値との差が大きいほど、徐冷工程後のコア板ガラスに作用する圧縮応力を大きくすることができる。従って、強化工程でコア板ガラスに形成される引張応力層の引張応力を小さくする上で有利となる。しかしながら、両熱膨張係数の値の差が大きすぎると、徐冷工程において、ガラス積層体に割れや反りが発生しやすくなる。上記のように、両熱膨張係数の値の差を1×10
−7/℃〜30×10
−7/℃の範囲内とすれば、徐冷工程において、ガラス積層体に割れや反りを発生させることなく、徐冷工程後のコア板ガラスに圧縮応力を好適に作用させることが可能となる。
【0013】
上記の方法で、前記徐冷工程において、前記ガラス積層体を150℃〜600℃の温度域で加熱することが好ましい。
【0014】
徐冷工程において、ガラス積層体をより高い温度で加熱するほど、表層板ガラスとコア板ガラスとを確実に接合することができる。そのため、強化工程において、ガラス積層体の温度変化に起因して、表層板ガラスとコア板ガラスとが剥離してしまうような事態の発生を防止しやすくなる。また、ガラス積層体をより高い温度で加熱するほど、表層板ガラスに発生する圧縮応力、及びコア板ガラスに発生する引張応力を緩和させやすくなる。その結果、強化工程でコア板ガラスに形成される引張応力層の引張応力を小さくする上で有利となる。しかしながら、ガラス積層体を加熱しすぎると、表層板ガラスとコア板ガラスとの熱膨張係数の違いから、ガラス積層体に割れを生じる恐れが高まってしまう。上記のように、ガラス積層体を150℃〜600℃の温度域で加熱すれば、ガラス積層体に割れを生じることなく、表層板ガラスとコア板ガラスとを確実に接合することができる。また、ガラス積層体を加熱する際に、表層板ガラスに発生する圧縮応力、及びコア板ガラスに発生する引張応力を好適に緩和させることが可能となる。
【0015】
上記の方法において、前記コア板ガラス及び前記表層板ガラスが、アルカリ成分を含有するガラスであることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、製造された強化ガラス板の表面側及び裏面側の表層部のみでなく、端面の表層部についても圧縮応力層が形成される。これにより、端面に作用する応力が不安定となりやすい強化ガラス板の問題点を解消することができる。また、アルカリ成分を含有したガラス同士は、徐冷工程において、ガラス積層体の加熱に伴って、相互に接合する力が大きくなる。そのため、強固な強化ガラス板を製造することが可能である。
【0017】
上記の方法において、前記ガラス積層体の板厚が2.0mm以下であることが好ましい。
【0018】
強化ガラス板は板厚が薄くなるほど、当該強化ガラス板が自然に割れやすくなる。しかしながら、上記の強化ガラス板の製造方法によれば、強化ガラス板の元となるガラス積層体の板厚が薄くなるほど、徐冷工程後のコア板ガラスに作用する圧縮応力によって、強化工程でコア板ガラスに形成される引張応力層の引張応力を小さくする効果を、好適に得ることが可能である。従って、ガラス積層体の板厚が薄いほど、上記の強化ガラス板の製造方法による効果を好適に享受することができる。そして、上記の強化ガラス板の製造方法は、板厚が2.0mm以下のガラス積層体を化学強化処理によって強化ガラス板とする場合に用いるのが好適である。
【0019】
上記の方法において、前記コア板ガラスと、該コア板ガラスの表面側の前記表層板ガラスと、裏面側の前記表層板ガラスとのうち、少なくとも1つを複数枚の板ガラスが積層された積層体としてもよい。
【0020】
このようにしても、上記の強化ガラス板の製造方法で既に説明した作用・効果を同様に得ることが可能である。
【0021】
また、上記課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、化学強化処理により強化ガラス板を製造する方法において、相対的に熱膨張係数の小さいコア板ガラスの表面及び裏面に、相対的に熱膨張係数の大きい表層板ガラスを面接触させ、これらのガラスが相互に密着したガラス積層体を作製する積層体作製工程と、前記ガラス積層体を化学強化処理により強化ガラス板とする強化工程とを含むことに特徴付けられる。
【0022】
このような方法によれば、積層体作製工程において、表層板ガラスとコア板ガラスとを面接触させ、相互に密着させることでガラス積層体が作製される。その後、強化工程において、以下の(1),(2)の作用が生じる。(1)化学強化処理に伴う熱により、ガラス積層体が加熱され、表層板ガラスとコア板ガラスとの両板ガラスが、相互に密着した状態から接合した状態へと変化しつつ熱膨張する。このとき、相互に拘束された両板ガラス間において、表層板ガラスの熱膨張係数がコア板ガラスの熱膨張係数よりも大きいことから、熱膨張によって表層板ガラスには圧縮応力、コア板ガラスには引張応力が発生する。しかしながら、この表層板ガラスの圧縮応力、及びコア板ガラスの引張応力は、化学強化処理に伴う熱によって緩和される。(2)化学強化処理により、ガラス積層体の表面側及び裏面側の表層部に圧縮応力層が形成されると共に、両圧縮応力層の間に引張応力層が形成され、強化ガラス板が製造される。そして、強化工程後、製造された強化ガラス板の温度が低下するのに伴って、表層板ガラスとコア板ガラスとが収縮していく。このとき、両板ガラスの熱膨張係数の違いから、表層板ガラスには引張応力、コア板ガラスには圧縮応力が発生する。これにより、この圧縮応力の大きさの分だけ、コア板ガラスに形成された引張応力層の引張応力が小さくなる。すなわち、コア板ガラスに作用する引張応力を、表層板ガラスに作用する引張応力よりも小さくすることができる。その結果、製造された強化ガラス板における割れの発生を抑制することが可能となる。
【0023】
また、上記課題を解決するために創案された本発明に係る強化ガラス板は、化学強化処理によって、表面側及び裏面側の表層部に圧縮応力層が形成されると共に、両圧縮応力層の間に引張応力層が形成される強化ガラス板において、相対的に熱膨張係数の小さいコア板ガラスと、該コア板ガラスの表面側及び裏面側に積層され且つ相対的に熱膨張係数の大きい表層板ガラスとを備え、前記コア板ガラスに形成された前記引張応力層の引張応力が、前記表層板ガラスに形成された前記引張応力層の引張応力よりも小さいことに特徴付けられる。
【0024】
このような構成によれば、コア板ガラスに形成された引張応力層の引張応力が、表層板ガラスに形成された引張応力層の引張応力よりも小さいため、割れの発生を抑制できる強化ガラス板とすることが可能である。
【0025】
上記の構成において、前記コア板ガラスと、該コア板ガラスの表面側の前記表層板ガラスと、裏面側の前記表層板ガラスとのうち、少なくとも1つを複数枚の板ガラスが積層された積層体としてもよい。
【0026】
このようにしても、上記の強化ガラス板で既に説明した作用・効果を同様に得ることが可能である。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、化学強化された強化ガラス板において、割れの発生を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る強化ガラス板について、添付の図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る強化ガラス板Gを示す縦断側面図である。
図1に示すように、強化ガラス板Gは、相対的に熱膨張係数の小さいコア板ガラスG1と、コア板ガラスG1の表面G1a側及び裏面G1b側に積層され、且つ相対的に熱膨張係数の大きい表層板ガラスG21,G22とを備えている。
【0031】
ここで、コア板ガラスG1としては、例えば、日本電気硝子社製:T2X−0を用いることができる。また、表層板ガラスG21,G22としては、例えば、日本電気硝子社製:T2X−1を用いることができる。そして、下記の強化ガラス板Gの説明においては、コア板ガラスG1、表層板ガラスG21,G22として、これら日本電気硝子社の製品を用いた場合を例に挙げて説明している。
【0032】
コア板ガラスG1、及び両表層板ガラスG21,G22の表裏面の寸法は、縦×横が50mm×50mmである。また、コア板ガラスG1の板厚は0.4mmであり、両表層板ガラスG21,G22の板厚は各々0.3mmである。従って、強化ガラス板Gの板厚は1.0mmとなる。なお、コア板ガラスG1の30℃〜380℃の温度域における熱膨張係数の値は、79×10
−7/℃であり、両表層板ガラスG21,G22の30℃〜380℃の温度域における熱膨張係数の値は、91×10
−7/℃である。
【0033】
強化ガラス板Gは、化学強化処理(イオン交換法)によって強化されている。これにより、
図1にクロスハッチングで示すように、強化ガラス板Gの表面Ga側及び裏面Gb側の表層部には、イオン強化層として圧縮応力層Aが形成されている。そして、両圧縮応力層Aの間には、引張応力層Bが形成されている。さらに、強化ガラス板Gは、化学強化処理によって表面Ga側及び裏面Gb側の表層部のみでなく、端面の表層部についても、圧縮応力層が形成されている(図示省略)。
【0034】
図2における実線は、
図1に示す厚み範囲Tにおける強化ガラス板Gの応力分布を示している。また、
図2における点線は、従来の強化ガラス板の一例として、強化ガラス板Gに備えられた表層板ガラスG21,G22と同一の組成を有し、且つ強化ガラス板Gと同一の板厚(=1.0mm)を有した単体の板ガラスを、強化ガラス板Gと同一の条件で化学強化した強化ガラス板(以下、従来強化ガラス板と表記する)の応力分布を示している。
【0035】
ここで、厚み範囲Tは、強化ガラス板Gの表面Gaから板厚の中央までの範囲である(
図2において、左端が強化ガラス板Gの表面Gaを表し、右端が板厚の中央を表す)。つまり、厚み範囲Tは、強化ガラス板Gの表面Gaから0.5mmの深さまでの範囲となる。なお、図示を省略した強化ガラス板Gの裏面Gbから板厚の中央までの厚み範囲においても、厚み範囲Tと同様な応力分布となっている。
【0036】
図2に実線で示すように、強化ガラス板Gに形成された引張応力層Bのうち、コア板ガラスG1に形成された引張応力層B1の引張応力は、両表層板ガラスG21,G22に形成された引張応力層B2の引張応力よりも小さくなっている。
【0037】
なお、本実施形態においては、強化ガラス板Gにおける表面Ga側及び裏面Gb側の圧縮応力層Aにおいて、圧縮応力の最大値は850MPaであり、圧縮応力層Aの厚みは0.035mmである。また、コア板ガラスG1に形成された引張応力層B1の引張応力と、両表層板ガラスG21,G22に形成された引張応力層B2の引張応力との値の差は、4MPa〜6MPaとなっている。
【0038】
さらに、強化ガラス板Gと上記の従来強化ガラス板との比較において、引張応力層Bのうち、両表層板ガラスG21,G22に形成された引張応力層B2の引張応力は、従来強化ガラス板に形成される引張応力層の引張応力と略同じ大きさである。一方、コア板ガラスG1に形成された引張応力層B1の引張応力は、従来強化ガラス板に形成される引張応力層の引張応力よりも4MPa〜6MPa小さくなっている。
【0039】
ここで、本実施形態においては、強化ガラス板Gは、1枚のコア板ガラスG1と、2枚の表層板ガラスG21,G22とを備える構成となっているが、この限りではない。強化ガラス板Gは、コア板ガラスG1と、表面Ga側の表層板ガラスG21と、裏面Gb側の表層板ガラスG22とのうち、少なくとも1つを、複数枚の板ガラスが積層された積層体とした構成であってもよい。この場合、強化ガラス板Gの板厚の中央を基準として、表面Ga側と裏面Gb側とが対称な構成となることが好ましい。また、本実施形態においては、強化ガラス板Gの板厚が1.0mmとなっているが、この限りではなく、任意の板厚としてよい。
【0040】
以下、上記の強化ガラス板Gの作用・効果について説明する。
【0041】
上記の強化ガラス板Gにおいては、
図2に実線で示したように、引張応力層Bのうち、コア板ガラスG1に形成された引張応力層B1の引張応力が、両表層板ガラスG21,G22に形成された引張応力層B2の引張応力よりも小さくなっている。このため、強化ガラス板Gにおける割れの発生を抑制することができる。
【0042】
また、上記の強化ガラス板Gにおいては、表面Ga側及び裏面Gb側の表層部のみでなく、端面の表層部についても、圧縮応力層が形成されている。このことから、端面に作用する応力が不安定となりやすい強化ガラス板の問題点を解消することが可能となる。
【0043】
以下、上記の強化ガラス板のように、コア板ガラスに形成される引張応力層の引張応力が、両表層板ガラスに形成される引張応力層の引張応力よりも小さい強化ガラス板を製造するための方法について、添付の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する本発明の実施形態に係る強化ガラス板の製造方法は、板厚が2.0mm以下の強化ガラス板の製造に用いることが好ましく、板厚が0.5mm以下の強化ガラス板の製造に用いることがより好ましく、板厚が0.3mm以下の強化ガラス板の製造に用いることが最も好ましい。
【0044】
本発明の実施形態に係る強化ガラス板の製造方法は、相対的に熱膨張係数の小さいコア板ガラスの表面及び裏面に、相対的に熱膨張係数の大きい表層板ガラスを面接触させ、これらのガラスが相互に密着したガラス積層体を作製する積層体作製工程と、ガラス積層体を加熱した後、徐冷する徐冷工程と、徐冷したガラス積層体を化学強化処理により強化ガラス板とする強化工程とを含んでいる。
【0045】
図3(a),(b)は、積層体作製工程を示す縦断側面図である。積層体作製工程においては、まず、
図3(a)に示すように、相対的に熱膨張係数の小さい1枚のコア板ガラスG1と、相対的に熱膨張係数の大きい2枚の表層板ガラスG21,G22とを準備する。
【0046】
ここで、コア板ガラスG1及び両表層板ガラスG21,G22は、アルカリ成分を含有するガラスであることが好ましい。詳述すると、いずれもガラス組成として、質量%で、SiO
2:50〜80%、Al
2O
3:5〜25%、B
2O
3:0〜15%、Na
2O:1〜20%、K
2O:0〜10%を含有することが好ましい。また、コア板ガラスG1の熱膨張係数の値と、両表層板ガラスG21,G22の熱膨張係数の値との差は、1×10
−7/℃〜30×10
−7/℃の範囲内であることが好ましく、1×10
−7/℃〜10×10
−7/℃の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
次に、コア板ガラスG1の表面G1a及び裏面G1bと、表面G1aに面接触させる表層板ガラスG21の裏面G21bと、裏面G1bに面接触させる表層板ガラスG22の表面G22aとを、各々の表面粗さRaの値が2.0nm以下となるように調節する。その後、常温下において、
図3(b)に示すように、コア板ガラスG1の表面G1a、裏面G1bに、それぞれ表層板ガラスG21の裏面G21b、表層板ガラスG22の表面G22aを面接触させる。これにより、コア板ガラスG1と両表層板ガラスG21,G22とが相互に密着したガラス積層体GGを作製する。なお、コア板ガラスG1と両表層板ガラスG21,G22との間に作用する密着力は、水素結合に起因して発生しているものと想定されている。
【0048】
図4(a),(b)は、徐冷工程を示す縦断側面図である。徐冷工程においては、まず、積層体作製工程で作製したガラス積層体GGを炉の中に入れ、400℃で1時間加熱する。なお、ガラス積層体GGを加熱する態様は、これに限られるものではない。ここで、ガラス積層体GGを加熱する温度は、150℃〜600℃の温度域であることが好ましく、300℃〜500℃の温度域であることがより好ましい。また、ガラス積層体GGを加熱する時間は、1時間〜6時間であることが好ましく、1時間〜3時間であることがより好ましい。
【0049】
ガラス積層体GGを加熱することにより、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1とが、相互に密着した状態から接合した状態へと変化しつつ熱膨張する。なお、この密着した状態から接合した状態への変化は、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1とが、加熱によって、水素結合した状態から共有結合した状態へと変化することに起因しているものと想定されている。
【0050】
ガラス積層体GGを加熱する際、相互に拘束された両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1との間において、両表層板ガラスG21,G22の方が、コア板ガラスG1よりも熱膨張係数が大きいことから、
図4(a)に矢印で示すように、熱膨張により両表層板ガラスG21,G22には圧縮応力、コア板ガラスG1には引張応力が発生する。しかしながら、この両表層板ガラスG21,G22の圧縮応力、及びコア板ガラスG1の引張応力は、加熱時の熱によって緩和される。
【0051】
次に、加熱したガラス積層体GGを徐冷する。これにより、ガラス積層体GGの温度が低下するため、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1とが収縮していく。このとき、
図4(b)に矢印で示すように、熱膨張係数の値の違いから両表層板ガラスG21,G22に発生する引張応力、及びコア板ガラスG1に発生する圧縮応力によって、加熱時に発生した両表層板ガラスG21,G22の圧縮応力(緩和された圧縮応力)、及びコア板ガラスG1の引張応力(緩和された引張応力)が消失する。従って、徐冷工程後のガラス積層体GGには、両表層板ガラスG21,G22に引張応力が作用すると共に、コア板ガラスG1に圧縮応力が作用した状態となる。
【0052】
ここで、徐冷工程後のガラス積層体GGにおいて、両表層板ガラスG21,G22に作用する引張応力の大きさは、30MPa以下とすることが好ましい。また、コア板ガラスG1に作用する圧縮応力の大きさについても、30MPa以下とすることが好ましい。
【0053】
図5は、強化工程を示す縦断側面図である。強化工程においては、徐冷工程後のガラス積層体GGを、400℃の硝酸カリウム溶液に3時間浸漬し、化学強化処理(イオン交換法)によって強化ガラス板Gとする。強化工程により、表面Ga側(表層板ガラスG21の表面G21a側)、及び裏面Gb側(表層板ガラスG22の裏面G22b側)の表層部に、イオン強化層として圧縮応力層Aが形成される。また、両圧縮応力層Aの間に引張応力層Bが形成され、強化ガラス板Gが製造される。
【0054】
ここで、本実施形態においては、強化工程は、ガラス積層体GGを400℃の硝酸カリウム溶液に3時間浸漬する態様となっているが、この限りではない。硝酸カリウム溶液の温度や、当該硝酸カリウム溶液にガラス積層体GGを浸漬する時間等は変更可能であり、変更することで、強化ガラス板Gに形成される圧縮応力層Aに作用する圧縮応力の大きさや、当該圧縮応力層Aの厚みを調節することが可能である。
【0055】
なお、本実施形態においては、1枚のコア板ガラスG1と、2枚の表層板ガラスG21,G22とから強化ガラス板Gを製造しているが、このような態様に限定されるものではない。コア板ガラスG1と、表面Ga側の表層板ガラスG21と、裏面Gb側の表層板ガラスG22とのうち、少なくとも1つを、複数枚の板ガラスが積層された積層体として強化ガラス板Gを製造してもよい。この場合、板厚の中央を基準として、強化ガラス板Gの元となるガラス積層体GGが、表面側と裏面側とで対称な構成となることが好ましい。
【0056】
以下、上記の強化ガラス板の製造方法について、その作用・効果を説明する。
【0057】
上記の強化ガラス板の製造方法によれば、
図4(b)に矢印で示したように、強化工程前(徐冷工程後)のガラス積層体GGにおいて、コア板ガラスG1には圧縮応力が作用していたため、この圧縮応力の大きさの分だけ、強化工程でコア板ガラスG1に形成される引張応力層B1の引張応力が小さくなる。すなわち、
図5に矢印で示すように、コア板ガラスG1に作用する引張応力を、両表層板ガラスG21,G22に作用する引張応力よりも小さくすることができる。その結果、製造された強化ガラス板Gにおける割れの発生を抑制することが可能となる。
【0058】
また、コア板ガラスG1の熱膨張係数の値と、両表層板ガラスG21,G22の熱膨張係数の値との差が、上述した好ましい範囲内にある場合には、以下のような効果をも得ることができる。
【0059】
コア板ガラスG1の熱膨張係数の値と、両表層板ガラスG21,G22の熱膨張係数の値との差が大きいほど、徐冷工程後のコア板ガラスG1に作用する圧縮応力を大きくすることができる。従って、強化工程でコア板ガラスG1に形成される引張応力層B1の引張応力を小さくする上で有利となる。しかしながら、両熱膨張係数の値の差が大きすぎると、徐冷工程において、ガラス積層体GGに割れや反りが発生しやすくなる。しかしながら、両熱膨張係数の値の差が、上述した好ましい範囲内にある場合には、徐冷工程において、ガラス積層体GGに割れや反りを発生させることなく、徐冷工程後のコア板ガラスG1に圧縮応力を好適に作用させることが可能となる。
【0060】
また、徐冷工程において、ガラス積層体を上述した好ましい温度域で加熱した場合には、さらに以下のような効果をも得ることが可能である。
【0061】
徐冷工程において、ガラス積層体GGをより高い温度で加熱するほど、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1とを確実に接合することができる。そのため、強化工程において、ガラス積層体GGの温度変化に起因して、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1とが剥離してしまうような事態の発生を防止しやすくなる。また、ガラス積層体GGをより高い温度で加熱するほど、両表層板ガラスG21,G22に発生する圧縮応力、及びコア板ガラスG1に発生する引張応力を緩和させやすくなる。その結果、強化工程でコア板ガラスG1に形成される引張応力層B1の引張応力を小さくする上で有利となる。しかしながら、ガラス積層体GGを加熱しすぎると、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1との熱膨張係数の違いから、ガラス積層体GGに割れを生じる恐れが高まってしまう。上述した好ましい温度域でガラス積層体GGを加熱すれば、ガラス積層体GGに割れを生じることなく、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1とを確実に接合することができる。また、ガラス積層体GGを加熱する際に、両表層板ガラスG21,G22に発生する圧縮応力、及びコア板ガラスG1に発生する引張応力を好適に緩和させることが可能となる。
【0062】
さらに、徐冷工程後のガラス積層体GGにおいて、両表層板ガラスG21,G22に作用する引張応力の大きさを、30MPa以下とし、コア板ガラスG1に作用する圧縮応力の大きさについても、30MPa以下とした場合には、両表層板ガラスG21,G22に作用する引張応力に起因して、ガラス積層体GGに割れが生じるような事態を、より好適に防止することができる。
【0063】
加えて、コア板ガラスG1及び両表層板ガラスG21,G22がアルカリ成分を含有するガラスである場合には、製造された強化ガラス板Gの表面Ga側及び裏面Gb側の表層部のみでなく、端面の表層部についても圧縮応力層が形成される。これにより、端面に作用する応力が不安定となりやすい強化ガラス板の問題点を解消することができる。また、アルカリ成分を含有したガラス同士は、徐冷工程において、ガラス積層体GGの加熱に伴って、相互に接合する力が大きくなる。そのため、強固な強化ガラス板Gを製造することが可能となる。さらに、コア板ガラスG1及び両表層板ガラスG21,G22が、上述した好ましいガラス組成を有する場合には、イオン交換性能と耐失透性を高いレベルで両立し易くなる。
【0064】
なお、強化ガラス板Gは板厚が薄くなるほど、当該強化ガラス板Gが自然に割れやすくなる。しかしながら、上記の強化ガラス板の製造方法によれば、強化ガラス板Gの元となるガラス積層体GGの板厚が薄くなるほど、徐冷工程後のコア板ガラスG1に作用する圧縮応力により、強化工程でコア板ガラスG1に形成される引張応力層B1の引張応力を小さくする効果を、好適に得ることが可能である。従って、ガラス積層体GGの板厚が薄いほど、上記の強化ガラス板の製造方法による効果を享受することができる。
【0065】
ここで、上記の実施形態に係る強化ガラス板の製造方法において、徐冷工程については必ずしも実施しなくてもよい。すなわち、積層体作製工程の後、強化工程を実施して、ガラス積層体GGを硝酸カリウム溶液に浸漬し、化学強化処理(イオン交換法)によって強化ガラス板Gとしてもよい。
【0066】
この場合、積層体作製工程の後、強化工程において、以下の(1),(2)の作用が生じる。(1)化学強化処理に伴う熱により、ガラス積層体GGが加熱され、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1とが、相互に密着した状態から接合した状態へと変化しつつ熱膨張する。このとき、相互に拘束された両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1との間において、両表層板ガラスG21,G22の熱膨張係数がコア板ガラスG1の熱膨張係数よりも大きいことから、熱膨張によって両表層板ガラスG21,G22には圧縮応力、コア板ガラスG1には引張応力が発生する。しかしながら、この両表層板ガラスG21,G22の圧縮応力、及びコア板ガラスG1の引張応力は、化学強化処理に伴う熱によって緩和される。(2)化学強化処理により、ガラス積層体GGの表面側及び裏面側の表層部に圧縮応力層Aが形成されると共に、両圧縮応力層Aの間に引張応力層Bが形成され、強化ガラス板Gが製造される。
【0067】
そして、強化工程後、製造された強化ガラス板Gの温度が低下するのに伴って、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1とが収縮していく。このとき、両表層板ガラスG21,G22とコア板ガラスG1との熱膨張係数の違いから、両表層板ガラスG21,G22には引張応力、コア板ガラスG1には圧縮応力が発生する。これにより、この圧縮応力の大きさの分だけ、コア板ガラスG1に形成された引張応力層B1の引張応力が小さくなる。すなわち、コア板ガラスG1に作用する引張応力を、両表層板ガラスG21,G22に作用する引張応力よりも小さくすることができる。その結果、製造された強化ガラス板Gにおける割れの発生を抑制することが可能となる。