(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075723
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸を用いる発光増強方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/66 20060101AFI20170130BHJP
G01N 21/76 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
C12Q1/66
G01N21/76
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-182223(P2012-182223)
(22)【出願日】2012年8月21日
(65)【公開番号】特開2014-39486(P2014-39486A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山岡 利彦
【審査官】
北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−545378(JP,A)
【文献】
特開2000−253899(JP,A)
【文献】
特開2000−319280(JP,A)
【文献】
特開平07−067696(JP,A)
【文献】
Luminesecence,2011年,Vol.26,p.167-171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタルルシフェラーゼの発光反応において、発光増強作用を有する化合物としてN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を用い、該N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は発光反応開始時の直前或いは直後にはじめてルシフェリンと混和されることを特徴とする発光増強方法であり、該発光増強方法は、リン酸イオン存在下を除いて実施される発光増強方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、以下の工程を含む発光増強方法。
( a ) ルシフェラーゼを含む試料にルシフェラーゼの補因子およびATPを含む試薬を添加する工程、
( b ) ルシフェリンおよびN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬は用時調製されるものであり、これを添加する工程、
( c ) ルシフェリンの発光を検出する工程。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、以下の工程を含む発光増強方法。
( a' ) ルシフェラーゼを含む試料にルシフェラーゼの補因子およびATPを含む試薬を添加する工程、
( b' ) ルシフェリンを含む試薬を添加する工程、
( c’) N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬を添加する工程、
( d' ) ルシフェリンの発光を検出する工程。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、以下の工程を含む発光増強方法。
( a'' ) ルシフェラーゼを含む試料にルシフェラーゼの補因子、ATPおよびN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬を添加する工程、
( b'' ) ルシフェリンを含む試薬を添加する工程、
( c'' ) ルシフェリンの発光を検出する工程。
【請求項5】
N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の反応液中の終濃度が0.18mmol/L以上である請求項2乃至4のいずれか1に記載の発光反応を増強する方法。
【請求項6】
ホタルルシフェラーゼの発光反応において、発光増強作用を有する化合物としてN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含み、該N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は発光反応開始時の直前或いは直後にはじめてルシフェリンと混和されることを特徴とする発光増強剤であり、該発光増強剤は、リン酸イオン存在下を除いて用いられる発光増強剤。
【請求項7】
請求項6の発光増強剤を含むことを特徴とする生物発光反応試薬キット。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1に記載の発光増強方法に使用される発光反応試薬であって、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む発光反応試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の存在下におけるホタルルシフェラーゼによる発光反応の増強方法、発光増強剤としての利用および発光試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ホタルルシフェラーゼによる発光反応は、酸素、ATPおよび補因子として2価金属イオン、例えばMg
2+、Mn
2+の存在下において、ホタルルシフェラーゼの触媒作用により、その基質であるホタルルシフェリンが酸化される際に光が生じるものである。
【0003】
ホタルルシフェラーゼによる発光反応における発光量はATP量に比例することから、ホタルルシフェラーゼによる発光反応はATPの定量に利用されている。細菌検査の分野においては、細菌由来のATPを発光反応で検出することにより、細菌の有無や菌数の検査に利用されている。食品加工の分野においては、加工用食材残渣に由来するATPを検出することにより、加工用の器具や設備の清浄度の検査に利用されている。
【0004】
また、ATPの定量以外の発光反応の利用方法としては、臨床検査分野において、生体内物質、例えばホルモンや疾患マーカー抗原あるいは抗体等の測定系において、ホタルルシフェラーゼを標識物質として用いる生物発光酵素免疫測定法がある。
【0005】
しかし、ホタルルシフェラーゼによる発光は、瞬間的なフラッシュ発光である。このことから、産業分野においてホタルルシフェラーゼによる発光反応を利用するには、反応により生じた光の急激な減衰を抑制するおよび/あるいは発光量を増加、すなわち発光を増強させることが要求される。
【0006】
ルシフェラーゼによる発光反応の発光を増強する方法としては、これまでに、コエンザイムA(CoA)やDTT等のチオール試薬を含むスルフヒドリル化合物を添加する方法(特許文献1)、チオール試薬とBSAを共存させる方法(特許文献1)、ルシフェラーゼ阻害剤を添加する方法(特許文献2)、ピロリン酸を添加する方法(特許文献3、非特許文献1)、D-システイン、ルシフェリン再生酵素を添加する方法(特許文献4)、D-システイン、ルシフェリン再生酵素に加えてピリドキサールリン酸を添加する方法(特許文献5)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平6−500921号公報
【特許文献2】米国特許第5814471号
【特許文献3】特開昭55−13893号公報
【特許文献4】特開平10−114794号公報
【特許文献5】特許3983023号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Arch. Biochem. Biophys. 46、399-416、1953
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ホタルルシフェラーゼによる発光反応における発光増強方法、その方法を実施するための発光試薬キット、発光増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために検討を行った結果、ホタルルシフェラーゼによる発光反応において、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の存在下で発光が増強することを見出した。
すなわち、本発明の構成は、以下の[1 ]から[
8 ]の通りである。
[ 1 ]
ホタルルシフェラーゼの発光反応において、発光増強作用を有する化合物としてN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を用い、該N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は発光反応開始時の直前或いは直後にはじめてルシフェリンと混和されることを特徴とする発光増強方法であり、該発光増強方法は、リン酸イオン存在下を除いて実施される発光増強方法。
[
2 ] 請求項1に記載の方法であって、以下の工程を含む発光増強方法。
( a ) ルシフェラーゼを含む試料にルシフェラーゼの補因子およびATPを含む試薬を添加する工程、
( b ) ルシフェリンおよびN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬
は用時調製されるものであり、これを添加する工程、
( c ) ルシフェリンの発光を検出する工程。
[
3 ]
請求項1に記載の方法であって、以下の工程を含む発光増強方法。
( a' ) ルシフェラーゼを含む試料にルシフェラーゼの補因子およびATPを含む試薬を添加する工程、
( b' ) ルシフェリンを含む試薬を添加する工程、
( c’) N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬を添加する工程、
( d' ) ルシフェリンの発光を検出する工程。
[
4 ]
請求項1に記載の方法であって、以下の工程を含む発光増強方法。
( a'' ) ルシフェラーゼを含む試料にルシフェラーゼの補因子、ATPおよびN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬を添加する工程、
( b'' ) ルシフェリンを含む試薬を添加する工程、
( c'' ) ルシフェリンの発光を検出する工程。
[
5 ]N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の反応液中の終濃度が0.18mmol/L以上である
[ 2 ]乃至[ 4 ]のいずれか1に記載の発光反応を増強する方法。
[
6 ]
ホタルルシフェラーゼの発光反応において、発光増強作用を有する化合物としてN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含み、該N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は発光反応開始時の直前或いは直後にはじめてルシフェリンと混和されることを特徴とする発光増強剤であり、該発光増強剤は、リン酸イオン存在下を除いて用いられる発光増強剤。
[
7 ]
[ 6 ] の発光増強剤を含むことを特徴とする生物発光反応試薬キット。
[
8 ]
[ 1 ]乃至[ 5 ]のいずれか1に記載の発光増強方法に使用される発光反応試薬であって、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む発光反応試薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ホタルルシフェラーゼによる発光反応において、
発光増強作用を有する化合物としてN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の存在によって、発光を増強することができ
、該N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は発光反応開始時の直前或いは直後にはじめてルシフェリンと混和されることを特徴とする。かかる発明の効果は、
リン酸イオン存在下を除いて実施され、予め発光反応系にN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む発光反応の態様において発揮されるだけでなく、発光反応が開始した後にN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を添加する態様においても発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例3の反応時の各種pHにおける発光強度曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0014】
「ホタルルシフェラーゼ」とはアメリカホタル、ゲンジボタル、ヘイケボタル、コメツキムシなどの甲虫類由来のルシフェラーゼであり、これらのルシフェラーゼはその一次構造すなわちアミノ酸配列において異なるが、ATPとルシフェリンを基質とした生物発光反応を触媒する点すなわち機能において同等である。また、ルシフェラーゼの安定性の向上や発光波長を改変するために一部のアミノ酸配列を置換することで作り出された変異ルシフェラーゼすなわち組換えルシフェラーゼも天然のルシフェラーゼと同様に利用することが可能である。
【0015】
「ホタルルシフェリン」とは、ホタルルシフェラーゼによる発光反応における基質である。ホタルルシフェリンもホタルルシフェラーゼと同様に発光反応における発光の制御のために、ホタルルシフェリン誘導体、ホタルルシフェリン類似体等が多数開発され、実際に利用されている。また、発光の制御以外に、検出の可視化や多項目検出を目的に発光波長を改変したものも開発されている。ホタルルシフェリンは、ホタルルシフェラーゼによる生物発光反応における基質となるものであれば特に構造や由来は限定されない。例えば、D-ルシフェリン誘導体、アミノルシフェリン誘導体等の公知のものを用いることが可能である。
【0016】
「2価金属イオン」は、ホタルルシフェラーゼによる発光反応系における補因子として必須である。2価金属イオンとして、好ましくはMg
2+、Mn
2+等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0017】
「N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸」は、ADAとも呼ばれる(CAS No. 26239-55-4、以下、ADAと記載する場合もある)。また、pH5.8−7.4の範囲で緩衝作用を示し、グッドバッファーの一つとして知られているが、本発明においては発光増強作用を利用するものであり、緩衝作用を利用するものではない。通常、発光反応がホタルルシフェラーゼの至適pHで行われることから、発光反応時のpHがN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸が緩衝作用を示すpHの範囲外となる場合もあるためである。
【0018】
本発明の要件は、主たる緩衝作用をN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸とは異なる他の一般的な緩衝剤が担うホタルルシフェラーゼによる発光反応系にN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸が存在することにある。
【0019】
ホタルルシフェラーゼによる発光反応系の主たる緩衝作用を担う、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸と異なる他の一般的な緩衝剤(以下、発光反応緩衝剤という)とN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は、それぞれ別個の試薬組成物として調製されてもよく、あるいは、一つの試薬組成物として調製されていてもよい。
【0020】
発光反応緩衝剤とN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸がそれぞれ別個の試薬組成物として調製される場合、発光反応緩衝剤は、発光反応系の至適pHに調整されていてもよく、あるいは、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の添加後に発光反応系の至適pHに落ち着くように予め高めのpHに調整されていてもよい。
【0021】
発光反応緩衝剤とN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸が一つの試薬組成物として調製される場合、発光反応緩衝剤にはそのpH調整のためにN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸が使用されていてもよい。
【0022】
N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は、上述したように調製された発光反応緩衝剤に対して、適宜用いることができる。N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の発光増強作用は、発光反応系におけるN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の終濃度が0.18mmol/L以上から認められる。
【0023】
さらに、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は単独あるいは、他の発光増強剤、例えば、CoAやDTT等のチオール試薬、ルシフェラーゼ阻害剤、ピロリン酸、D-システインとルシフェリン再生酵素の組合せ等のうちの何れか一つ以上と組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明は、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸の存在下において、ホタルルシフェラーゼによる発光反応を行うことにより発光を増強する。
【0025】
本発明は、予めホタルルシフェラーゼによる発光反応系にN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含んでいてもよい。
【0026】
本発明は、また、ホタルルシフェラーゼによる発光反応系において、発光反応が開始した後にN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を添加してもよい。
【0027】
本発明の生物発光反応方法は、ホタルルシフェラーゼによる発光反応方法であり、例えば、ATPの検出や定量のための発光反応方法、あるいはルシフェラーゼ活性の検出や定量のための発光反応方法等である。
【0028】
本発明の生物発光反応方法には、例えば、ATPの検出や定量のための発光反応方法の場合では、ルシフェラーゼ、ルシフェラーゼの補因子、ルシフェリンおよびN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を任意の組合せで含む試薬とATPを含む試料のいずれかに対して残りのものを任意の順序で添加する工程と、ルシフェラーゼの発光を検出する工程が含まれる。あるいは、ルシフェラーゼ活性の検出や定量のための発光反応方法の場合では、ルシフェラーゼの補因子、ATP、ルシフェリン、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を任意の組合せで含む試薬とルシフェラーゼを含む試料のいずれかに対して残りのものを任意の順序で添加する工程と、ルシフェラーゼの発光を検出する工程が含まれる。
【0029】
本発明の発光増強剤は、ホタルルシフェラーゼによる発光反応のための発光増強剤であり、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含むことを特徴とする。
【0030】
本発明の生物発光反応試薬キットは、ホタルルシフェラーゼによる発光反応のための試薬キットであり、例えば、ATPの検出や定量のための試薬キット、あるいはルシフェラーゼ活性の検出や定量のための試薬キット等である。
【0031】
ホタルルシフェラーゼによる発光反応のための発光試薬キットは、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含むことを特徴としており、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸は発光反応系に必要な試薬組成物からなるキット内に含まれるものであれば、どのような構成、組合せでもよい。
【0032】
したがって、本発明の発光試薬キットは、ホタルルシフェラーゼを含む試薬、ホタルルシフェリンを含む試薬、これら以外の発光反応試薬組成物、補因子、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸以外の発光増強剤等を含む試薬で構成され、いずれか一つ以上の試薬がN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含んでいてもよく、あるいは、ホタルルシフェラーゼを含む試薬、ホタルルシフェリンを含む試薬、これら以外の発光反応試薬組成物、補因子、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸以外の発光増強剤等を含む試薬とN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬から構成されていてもよい。
【0033】
本発明は、特に好適には生物発光酵素免疫反応に用いられる。
【0034】
生物発光酵素免疫反応に用いる場合、例えば以下の工程が含まれる。
(a)ルシフェラーゼ標識された抗体あるいは抗原を含む試料にルシフェラーゼの補因子、ATPを含む試薬を添加する工程、
(b)ルシフェリンおよびN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬を添加する工程、
(c)ルシフェラーゼの発光を検出する工程。
【0035】
生物発光酵素免疫反応試薬キットには、以下の試薬が含まれる。
・ルシフェラーゼ標識された抗体あるいは抗原を含む試薬
・ルシフェラーゼの補因子およびATPを含む試薬
・ルシフェリンおよびN-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸を含む試薬
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1.各種化合物の比較(その1)
(1)実験材料
試薬1として、100mM Tris-HCl(pH8.5)、30mM MgSO
4・7H
2O、4mM ATP-2Na、0.1mM ピロリン酸カリウムからなる試薬を調製した。試薬2として、20mM 各種化合物、0.5mM D-ルシフェリンからなる試薬をpH6.5あるいはpH6.0となるように調製した。また、ホタルルシフェラーゼ溶液として5×10
-12(M)を調製した。
【0038】
(2)実験方法
マイクロプレートにホタルルシフェラーゼ溶液10μLを分注し、発光マイクロプレートリーダー(ベルトールド社、Centro LB 960)を用いて 50μLの試薬1、 50μLの試薬2を相次いで添加し、発光強度を測定した。反応時のpH(試薬1と試薬2を等容量混和したときのpHの測定値)は、pHは8.2±0.1であった。
【0039】
(3)結果
表1に示すように、発光増強作用を有しない化合物MOPSO-NaOHを用いた系における発光強度を100%とし、各種化合物を用いた場合の発光強度を比較したところ、ADA-NaOH、BES-NaOH、Bis-Tris-HCl、MES-NaOH、KH
2PO
4-Na
2HPO
4、KH
2PO
4-四ホウ酸ナトリウム、3,3-Dimethylglutaric acid-NaOH、酢酸-酢酸ナトリウムを用いた系では発光強度が大きくなった。特にADA-NaOHを用いた系ではADA-NaOHのpHによらず顕著な発光強度の増大が認められた。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例2.発光反応中での化合物の添加による発光強度の増強効果の有無の確認および比較
(1)実験材料
試薬1として実施例1と同じ組成条件の試薬を調製した。試薬2として、10mM MOPSO(pH6.5)、0.5mM D-ルシフェリンからなる試薬を調製した。試薬3として、ADA、MOPSO、PIPES 3種類の化合物について、それぞれ30mM水溶液を調製した。3種類の水溶液はいずれもpH6.5に調整した。発光増強効果を比較するための対照には試薬3の代わりに精製水を用いた。また、ホタルルシフェラーゼ溶液として5×10
-12(M)、1×10
-10(M)を調製した。
【0042】
(2)実験方法
マイクロプレートにホタルルシフェラーゼ溶液10μLを分注し、発光マイクロプレートリーダーを用いて予め試薬1と試薬2を等容量混和した試薬100μLを添加し、次いで試薬3を50μL添加し、発光強度を測定した。発光マイクロプレートリーダーは2種類の試薬までしか添加できないため、試薬1と試薬2を予め混和して用いた。
【0043】
(3)結果
表2に示すように、ルシフェラーゼ反応中に精製水を添加した系を100%として発光強度を比較したところ、試薬3にADAを用いた場合にのみ、発光強度が増加した。発光反応が開始した後、すなわち発光反応中にADAを添加しても、発光強度が増強することを確認した。
【表2】
【0044】
実施例3.反応時の各種pHにおける発光強度曲線
(1)実験材料
試薬1として、実施例1の試薬1と同じ組成で、pH7.5-9.5の範囲でpH7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、すなわちpHの異なる5種類の試薬を調製した。試薬2として、ADA、MOPSO、PIPESそれぞれの20mM水溶液(pH6.5)、0.5mM D-ルシフェリンからなる、すなわち3種類の試薬を調製した。また、実施例1と同様にホタルルシフェラーゼ溶液5×10
-12(M)を調製した。
【0045】
(2)実験方法
マイクロプレートにホタルルシフェラーゼ溶液10μLを分注し、発光マイクロプレートリーダーを用いて 50μLの試薬1、次いで 50μLの試薬2を添加して、発光強度を測定した。また、反応時のpHは、試薬1と試薬2を等容量混和したときのpHの測定値とした。
【0046】
(3)結果
反応時のpHが8.3における発光強度を100%として、
図1に示すように、pHの異なる5種類の試薬1に対し、3種類の試薬2 ADA、MOPSO、PIPESをそれぞれ添加した場合の発光強度を比較したところ、全てのpHにおいて、ADAを添加した場合にMOPSO、PIPESした場合より高い発光強度を示した。
反応時のpHの影響によらず、ADAがルシフェラーゼの発光強度を増強することが明らかになった。
【0047】
実施例4. ADA濃度と発光増強効果(その1)
(1)実験方法
試薬1として、実施例1と同じ組成条件の試薬を調製した。試薬2として、0.5mM D-ルシフェリンに加えて、ADAとMOPSOを合わせて20mM(pH6.5)となるように表3に示す5種類の濃度の試薬を調製した。ホタルルシフェラーゼ溶液として5×10
-12(M)、1×10
-10(M)を調製した。
【0048】
(2)実験方法
マイクロプレートにホタルルシフェラーゼ溶液10μLを分注し、発光マイクロプレートリーダーで 50μLの試薬1、次いで 50μLの試薬2を添加して、発光強度を測定した。反応時のpH(試薬1と試薬2を等容量混和したときのpHの測定値)は、pHは8.3であった。
【0049】
(3)結果
表3に示すように、試薬2のADAを含まない反応系(ADA 0mM、MOPSO 20mMの組合せ)における発光強度を100%としてそれぞれの発光強度を比較したところ、ADA濃度0.4mMから20mMまで、ADAの終濃度で0.18mMから9.09mMまでは濃度依存的に発光強度の増加がみられた。
【0050】
【表3】
【0051】
実施例5. ADA濃度と発光増強効果(その2)
(1)実験方法
試薬1として、実施例1と同じ組成条件の試薬を調製した。試薬2として、0.5mM D-ルシフェリンに加えて、ADAを5-50mMの範囲で5、10、15、20、25、30、35、40、45、50mM含むように、すなわち10種類の試薬をいずれもpH6.5となるように調製した。ホタルルシフェラーゼ溶液として5×10
-12(M)、1×10
-10(M)を調製した。
【0052】
(2)実験方法
マイクロプレートにホタルルシフェラーゼ溶液10μLを分注し、発光マイクロプレートリーダーで 50μLの試薬1、次いで 50μLの試薬2を添加して、発光強度を測定した。反応時のpH(試薬1と試薬2を等容量混和したときのpHの測定値)は、pHは8.1±0.2であった。
【0053】
(3)結果
表4に示すように、試薬2のADA濃度5mMの反応系における発光強度を100%として、それぞれの発光強度を比較したところ、ADA濃度が10mMから20mMまで、ADAの終濃度で4.55mMから9.09mMまでは濃度依存的に発光強度の増加がみられ、ADA濃度20mMすなわちADAの終濃度で9.09mM以上ではプラトーとなった。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例6. ADA濃度と発光増強効果(その3)
(1)実験材料
試薬1は、実施例1の組成およびpH8.5の条件に加え、ADAを0-100mMの範囲で0、2.5、5、10、15、20、25、50、75、100mM含むように、すなわち10種類の試薬を調製した。試薬2は、10mM MOPSO、0.5mM D-ルシフェリン(pH6.5)となるように調製した。また、ホタルルシフェラーゼ溶液として5×10
-12(M)、1×10
-10(M)を調製した。
【0056】
(2)実験方法
マイクロプレートにホタルルシフェラーゼ溶液10μLを分注し、発光マイクロプレートリーダーを用いて 50μLの試薬1、次いで 50μLの試薬2を添加して、発光強度を測定した。反応時のpH(試薬1と試薬2を等容量混和したときのpHの測定値)は、pHは8.3であった。
【0057】
(3)結果
表5に示すように、試薬1のADA濃度が0mMの反応系の発光強度を100%として発光強度を比較したところ、ADA濃度が2.5mMから10mMまで、ADAの終濃度で1.14mMから4.55mMまでは濃度依存的に発光強度の増加がみられ、ADA濃度10mM以上すなわちADAの終濃度4.55mM以上ではプラトーとなった。
【0058】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ホタルルシフェラーゼによる発光反応において発光を増強する方法を提供することができる。すなわち、より高感度で安定性が向上した発光測定が可能となる。本発明は、細菌検査分野における細菌の有無や菌数の検査、あるいは、食品加工分野における加工用の器具や設備の洗浄度検査に利用されているATPの定量に利用できる。
また、ホタルルシフェラーゼを標識物質として用いる微量の生体内物質の検出、例えば、生物発光酵素免疫測定法に利用できる。