(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、異なるオペレータ構成を有する4つの異なる微小チャネルを概略的に示している。
【
図1B】
図1Bは、複数のオペレータ構成を含むライブラリを図示している。
【
図1C】
図1Cは、複数のオペレータを含む例示的なプログラムを示している。オペレータ1と2の組み合わせは流体を回転させ、オペレータ3と1の組み合わせはストリームを右へと移動させる。
【
図2A】
図2Aは、微小流体デバイス内に作ることができるプログラムのシーケンスを作成するために、ライブラリを作成し、さらにライブラリからオペレータを選択する方法を示している。
【
図2B】
図2Bは、初期条件Sに基づいて異なるオペレータ関数を選択することにより、いかに最終流れ状態F(s)が得られるかを概略的に表している。この例では、連続して処理される4つの論理ステップにおいて3つのオペレータ関数(f
1、f
2、f
3)を利用するプログラムが図示されている。
【
図3A】
図3Aは、ポスト又はピラーの形状をした複数の微小構造を通過する、微小流体チャネル内の流れを示している。矢印のプロットは、流体の塊が入力断面(上流)から出力断面(下流)に移動したときの平均横方向速度場を示している。
図3Aはさらに、入口、10のピラー、20のピラー、および30のピラー後における、微小流体チャネルを通って流れる流体の断面画像を示している。
【
図3B】
図3Bは5つの異なるピラー構造を示しており、最終的な循環の位置がピラーの位置によって制御されている。上側には、各ピラー構造に係る、数値シミュレーションによって予想されるような最終的な変形の矢印プロットがそれぞれ図示されている。下側は、異なる下流位置における、各ピラー構造に係る微小流体チャネルの共焦点断面画像である。
【
図4A】
図4Aは、チャネルに沿ったピラー付近のストークス流れと慣性流れの変化の比較を示している(チャネルの右上四半分に示す)。
【
図4B】
図4Bは、レイノルズ数(Re)の関数とした、下流の流速によって正規化した最大流体移動σのグラフである。
【
図4C】
図4Cは、4つの異なるレイノルズ数における、チャネルの4分の1の垂直方向のセットの入口の流線及びその変形のシミュレーション結果を示している。z=0における流線の上面図は、Reが増加するとピラー後方に渦が生じることを明らかにしており、Reと共にσが増加から減少へと推移するのに対応している。正面図は、入口(破線表示、x/D=−4)における流体の塊の初期垂直線のアウトライン、x=0でトレースされたアウトライン(破線表示、x/D=4)、および出口におけるアウトライン(実線表示)を示している。実線はチャネルの壁を表し、一点鎖線はチャネルの対称性を表している。灰色の領域は、それぞれのチャネルの四半分における4分の1のピラーの概略を示している。
【
図4D】
図4Dは、変形を生じさせる障害物が直線チャネルの中心における円筒ピラーの場合を簡略化したケースについての慣性流れ変形の状態図を示しており、4つの支配的な動作モードを表している。無次元解析は、(軸上に示す)特定の状態を規定するために3つの独立した無次元グループのセットが必要とされることを実証している。この状態図は、どのモードが所与のセットの無次元グループ、または同等の所与のセットの流れ状態および幾何学的パラメータで有効であるかを示している。
【
図4E】
図4Eは、実験的に得られた4つのモードで撮影した共焦点断面画像を示している。四半分のチャネルにおける流れパターンを表す画像には、その動作モードに係る動作方向を示す矢印が重ね合わせられている。
【
図5A】
図5Aは、微小流体チャネル内の様々な位置におけるピラー中心の横方向位置の上面図を示している。
【
図5B】
図5Bは、
図5Aの配置を用いて選択したピラー位置に基づく4つの異なるプログラム(すなわち、ピラーのシーケンスおよび関心があるストリームの入口状態)を示している。各プログラムの下側には、流れの数値予想および実験の観察結果に基づく断面流れがそれぞれ図示されている。数値予想は、ピラーのシーケンス周囲の流れの完全な有限要素シミュレーションではなく、ライブラリからの基本的なオペレータの一連のマッピングに基づいていることに留意されたい。
【
図5C】
図5Cは、8つの異なるプログラム、及び異なるプログラムによって作り出すことができる様々な幾何学的形状を示すそれぞれの断面流れを図示している。
【
図5D】
図5Dは、微小流体チャネルの入口および出口の画像をそれぞれ示しており、キャリア流体内に含まれる粒子は一連の障害物を通過した後にキャリア流体から分離している。一連の最後の障害物は「出口」画像に見ることができる。
【
図5E】
図5Eは、2つの個体群を分離した結果、1μmサイズの粒子が横方向に移動した流体ストリームに付随する一方、中心線付近に集束して残っている10μmサイズの粒子を示している。
【
図6】
図6Aは、一実施形態による、粒子周辺の流体を交換するために使用される微小流体チャネルを示している。
図6Bは、ピラーに到達する前の、微小流体チャネル内に慣性集束している粒子および流体を示す断面図を図示している。
図6Cは、第1のプログラムを通過した後の粒子及び流体を示す断面図を図示している。
図6Dは、第2のプログラムを通過した後の粒子及び流体を示す断面図を図示している。
図6Eは、
図6Aの微小流体デバイスに接続された出口の図を示している。
【
図7】
図7は、1つの蛍光標識化したストリームを出口において3つのストリームに分割させるためのプログラムと組み合わせてシース流れを利用する微小流体チャネルの入口および出口の蛍光画像である。
【
図8】
図8は、ストリームの微小流体混合の共焦点断面図を示している。
【
図9】
図9Aは、特注の断面形状を有する重合繊維を製造するために、プログラムされた流体流れと併せてシース流れを利用する微小流体チャネルベースのデバイスを示している。
図9Bは、シース流体の内側に整列したポリマ前駆体の断面図を示している。
図9Cは、微小流体チャネルのプログラムされた領域を通過した後のポリマ前駆体の断面形状を示している。
図9Dは、所望の形状に成形されて重合した後に、ポリマ前駆体から作られた繊維を示している。
【
図10】
図10Aは、3次元粒子を製造するために、プログラムされた流体流れと併せてシース流れを利用する微小流体チャネルベースのデバイスを示している。
図10Bは、シース流体の内側に整列した前駆体材料の断面図を示している。
図10Cは、1以上のプログラムの一部としての1以上のオペレータを流体が通過することにより作成することができる、3つの異なる種類のプログラムされた流体形状を示している。
図10Dは、マスクを通って光を微小流体チャネル内の成形流へと露出することによる個々の粒子の形成を示している。
図10Eは、
図10Aの微小流体チャネルデバイスの出口を示している。
【
図11】
図11Aは、フローサイメトリなどの後の光学的な観察、または流体ストリームの分散を低減させるために集束した流体ストリームを作り出すべく利用される微小流体チャネルを示している。
図11Bは、最初に設定されたシース流れの断面を示している。
図11Cは、プログラムを受けた後の集束したストリームの断面図を示している。
【
図12】
図12は、2つの高温スポットまたは領域に隣接する2つの低温ストリームを発生させるために流体分割ステップを利用する微小流体デバイスを示している。
【
図13】
図13Aは、チャネル容量の約半分に位置する対象種と共に上面及び下面上に結合要素を有する微小流体チャネルの断面図を示している。
図13Bは、上面及び下面に隣接して集束している対象種と共に上面及び下面上に結合要素を有する微小流体チャネルの断面図を示している。
図13Cは、上面及び下面から離れて集束している非特異的な結合分子と共に上面及び下面上に結合要素を有する微小流体チャネルの断面図を示している。
【
図14】
図14は、一定勾配を有する流体のプラグの断面画像(上側)を示している。
図14はさらに、微小流体チャネル内の流体のプラグの異なる勾配をそれぞれ作り出す2つの異なるプログラム(AおよびB)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、微小流体チャネル12などのチャネル内を流れる流体ストリーム10の断面を選択的に形作る方法および手法を広く表した概略図を示している。この方法は、3つの主な要素:(1)微小流体チャネル12内で流体の塊の横方向位置を局所的に変えるための一組の手法であるオペレータ(O
1、O
2、O
3)と;(2)それぞれ別個のオペレータが実行する流れにおける一組の変化であるライブラリと;(3)変化を流体に連続的に与えることによって更に複雑な形状用にコード化する、オペレータのシーケンスであるプログラムと、を含んでいる。このオペレータのシーケンスは、それぞれ独立して流れに作用すると考えることができるように、十分に離れている一連の流れ変形要素となって物理的に現れる。
【0019】
図1Aは、矢印Aに示す流れ方向と略垂直に向いた局所的な最終二次流れ(net secondary flow)を生じさせる、4つの例示的なオペレータ(O
1、O
2、O
3、O
4)を示している。オペレータは、微小流体チャネル12内で局所的に流体の横運動を実現する様々な手法を含みうる。オペレータは、ストローク(Stroock)等によって開示されたように構成されたチャネルを含んでもよく、このチャネル内では、斜めに傾いた溝部が溝付近を流れる領域にらせん運動を生じさせる。参照により援用されている、ストローク等著、サイエンス誌「微小流体用のカオス混合器(Chaotic Mixer for Microchannels)」、2002年1月25日、第295巻、第5555号、p.647−651を参照されたい。オペレータは、
図1Aに示すような1または複数のポスト13(または、ピラー)、または円筒形、四角形、長方形、三角形、多角形、楕円形、半円形、または他の断面形状であって、かつ微小流体チャネル12の断面全体におよぶ様々な直径の障害物をも含みうる。個々のオペレータの断面形状はその長さに沿って均一であってもよく、あるいは代替的に、断面形状は異なっていてもよい。オペレータは微小流体チャネル12の断面全体にはおよばないが、多様な直径の断面が約10%乃至約90%位である部分的なポスト13も含みうる。オペレータは1以上の段も含みうる。オペレータはさらに、局所的な二次流れ(すなわち、メインの流動に対して垂直な流れ)を生じさせる、微小流体チャネル12内に配置された突起部または凸凹を一般に含みうる。これらの物理的なオペレータは、層流の範囲全体にわたって(決定論的流れ操作が基本的に可能な状態のみ)流体流れを操作することが知られている。本書に記載された流体プログラミング技術は、流れ方向に鏡面対称性を有する突起部については広範囲の流速(例えば、Re〜1−500)にわたって使用することができ、溝部のように流れ方向に非対称な構造についてはストークス流れである0に至るReに使用することができる。
【0020】
図1Aに見られるように、4つの異なるオペレータが図示されており、各オペレータ(O
1、O
2、O
3、O
4)は、微小流体チャネル12内の異なる横方向配置に並べられた複数のポストを有している。しかしながら、これらのオペレータは、本書に記載のプラットフォームおよび方法と併せて利用することができるオペレータの一種類の例示である。本書に示すようなオペレータの実施形態の一つとしては、チャネル断面の異なる位置で微小流体チャネル12内に配置された比較的単純な障害物(例えば、円筒形ピラー)は、中程度から高い流速において、ストークス流れの知識とは異なり、ピラーを過ぎた後に厳密には逆流しないように流線を回転させてストレッチさせる傾向がある。湾曲チャネル内の再循環ディーン流れと似た調整可能な(垂直な)最終二次流れを効率的に生じさせる、流体慣性によるピラーの上流および下流での非対称流れの性質は、流線のトポロジの合計変形として現れる。重要なことに、二次的な移動は、1桁のレイノルズ数(または流速)にわたって、それぞれの下流距離について比較的一定で推移し、それぞれ新しい構造をシミュレーションする必要がなくとも、ピラーを通過した後の移動の1マッピングに基づいて、プログラムされた流れ場を容易に予想可能となる。他の実施形態のように、ヘリンボンのような構造(チャネルの側壁に間隔を空けて配置した斜めの溝部のアレイ)を用いて、低から中程度の流速における流体流れをプログラムすることができる。
【0021】
ここで
図1Bを参照すると、オペレータのライブラリLが、各オペレータに対応する不連続な数の変化マップから構成されている。各変化マップは、オペレータと相互作用し合う(例えば、円筒形の障害物を越えて流動する)と、高分解でチャネルの断面内での各位置において流体の塊に変位を与えるベクトルの2D行列から構成されている。非圧縮性のナビエ−ストークス方程式の流体力学数値シミュレーションおよび流線のトレース(定常流と考えると、流跡線と同一である)によって変化マップを得て、微小流体チャネル12の断面における流体の塊の横方向運動を見出すことができる。例えば、一実施形態では、ポストまたはピラー周囲の流体流れの流体力学シミュレーションが利用される。オペレータのライブラリは、殆どの一般的なケースでは、異なるピラーの形状、サイズ、および位置、さらにはチャネルのサイズや流れ状態を組み合わせることにより、少なくて4つから多くて数万のオペレータを含みうる。以下に更に詳しく見られるように、ライブラリの一実施形態は、1つの流れ状態について、微小流体チャネル12の断面に8箇所の円筒形ピラーに対応する8つの不連続なオペレータを含んでいる。一般に、微小流体チャネル12の断面全体にわたって流体運動を生じさせるのに十分なオペレータを含んでいれば、ライブラリLは完成している考えられる。すなわち、プログラム中の連続した複数のオペレータが流体ストリームを連続的に変形させて、チャネルの断面全体にわたって任意の断面形状を作り出すことができるように、流体の操作する領域が重複した状態で、チャネルにわたって空間的に配置されたオペレータがなくてはならない。
【0022】
図1Cに見られるように、ライブラリLによる一連のオペレータからプログラムPを作成することができる。プログラムは、流体の全体的な変形を生じさせる所与の順番で、ユーザによって指示された一連の変化マップを与える。例えば、
図1CのプログラムPでは、オペレータO
1およびO
2の連続した組み合わせを用いて流体を回転させ、次のオペレータO
3およびO
1を用いて流体を右へと移動させる。“関数”としてより複雑な変形を行う、このように小さいサブセットのオペレータを順々に作成し、階層的に組み立てることができる。物理的に、チャネルの異なる横方向位置を中心とした一連の円筒障害物を有するチャネルとして、プログラムを表すことができる。オペレータ(例えば、障害物)間の距離が流体力学的に独立して作用するように(すなわち、それらの影響が流れ方向で空間的に重複しないように)気を付けねばならない。この最適距離は流れの状態に依存するが、多くの場合、約4−15ポストの直径ほど離れている。流れを複数の微小流体チャネル12に分割できること(壁によって分割される)、あるいはチャネルを広げることによって流れを拡張したり、チャネル内の流体ストリームの一部と平行して別個のプログラムが起動することに留意されたい。より複雑な操作が必要な場合には、微小流体チャネル12を次いで再結合することができる。流体力学の知識が殆どなくとも、ユーザによってプログラムをライブラリから設計することができる。
【0023】
全体的に見て、この方法は微小流体チャネル12内の流体の三次元(3D)構造を例外的に制御する可能性を生み出すものであり、医療診断や健康監視から、化学、熱管理、および材料科学に至るまで、流体界面を制御または操作する必要がある様々な用途を著しく進歩させうるものである。
【0024】
図2Aを参照すると、コンピュータ14を利用して、単一のオペレータまたは連続した複数のオペレータ(例えば、ポストまたはピラー)を越えて流れる流体の結果として、流れ変形を数値的に予測することができる。シミュレーションは、安定化有限要素法(FEM)に基づいて行うことができる。シミュレーションでは、追加の時間が掛かったり、複雑なFEMシミュレーションをすることなく、微小流体チャネル12内で適宜間隔を空けて配置されるようなオペレータで与えられた簡単な数値マッピングプログラムにおいて、連続した各オペレータの出力を次またはその後のオペレータの入力として得ることができる。
図2Aに見られるように、コンピュータ14を利用して、オペレータ100を数値的にシミュレーションすることができる。次に、この数値シミュレーション100を利用して、様々な所望の流れ移動または状態を作ることができる、オペレータのライブラリ110を生成することができる。このライブラリ110は、コンピュータ14内に含まれる、あるいはコンピュータ14によってアクセス可能なデータベースなどに内蔵されうる。例えば、ソフトウェアをコンピュータ14上で起動して、ユーザはオペレータのライブラリからカスタムの流体流れプログラムを構築することができる。これらは、1以上のオペレータに付随する特定の流れ特徴と関係する、ユーザーフレンドリーなフォーマットのソフトエアに内蔵されうる。例えば、ユーザは、“流体ストリームを右へと移動させる”ために利用される、単一のオペレータまたは一連のオペレータからなる関数をライブラリから選択することができる。ユーザは流体力学を理解している必要がなく、構築したライブラリで作業が既にされているため、流体効果をリモデルする必要がない。微小流体チャネル12内に所望の、あるいはプログラムされた流れを生じさせるため、
図2Aの動作120に見られるように、1以上のオペレータがライブラリから選択される。一旦、オペレータのライブラリが作成され(例えば、コンピュータ14内かどこかに)記録されると、ユーザは、この予めシミュレーションされた運動のライブラリを利用して、流れの形状を構築するか設計することができることに留意することが重要である。所望の流体流れを作り出すためのツールセットとして利用可能なライブラリの一部として既に作成され適合されているため、ユーザは流体力学またはオペレータによって作成される数値シミュレーションに関する知識を有している必要はない。微小流体チャネル12の初期状態に基づいて所望の流体出力を作り出す一連のオペレータが構築された場合、動作130に示すように、プログラムが作成される。流体ストリームの幅での微小流体チャネル12の入口の状態およびストリームの入口の位置を修正する。プログラムされた機構を有する微小流体チャネル12を有するデバイスは、次いで、動作140に見られるように製造することができる。
【0025】
限定されたセットのオペレータ(例えば、ピラーの大きさ、形状、横方向の位置、チャネルのサイズ)の変形関数を有することにより、コンピュータ14は無限数ある潜在的なプログラムの全体的な変形関数を予想することができる。その結果、ユーザは予めシミュレーションされた運動のライブラリを利用し、流体力学または数値シミュレーションの知識がなくとも、低コスト且つ高い精度で、これらを連続して配置し、関心のある流れ形状を迅速に設計することができる。曲譜の離散化と同様に、オペレータの体系的な離散化は、プログラムの抽出および階層的な組み立てを可能にし、複雑な流体システムを設計する機能が高まる。したがって、微小流体チャネル12の入口の状態およびプログラム毎に作成された一連のオペレータを用いて、各プログラムは簡単に通信される。
【0026】
図2Bは、いかにして一連の個々のオペレータを組み合わせて、所望の出力流れを作り出すかを概略的に示している。
図2Bは、複数の異なる個々のオペレータマップ(f
1、f
2、f
3)を含むシンタックスライブラリ200を示している。各オペレータマップは、異なる流れ変形の結果を生み出すポスト、ピラー、または他の突起部の1以上の異なる構造を含みうる。
図2Bは、例えば、各オペレータマップ(f
1、f
2、f
3)に係るチャネル内の異なる位置の1つのポスト(または他の突起部)を示しているが、ライブラリに保存可能な複数のポスト(または突起部)が関数を定義することもできると理解されたい。さらに、3つのオペレータマップのみが図示されているが、シンタックスライブラリ200内には、任意の数のオペレータマップを入れることができる。
図2Bに示す例では、初期条件Sに基づいて、最終的な流体変形マップF(s)が作成される。この初期条件Sは一般に、プログラムの入口における流体の塊の構造を指している。より具体的には、デバイスを通って投入される不連続のストリームの数の性質に対応しうる。これは、例えば、不連続のストリームの数、および入口の流体の塊のセットであるストリームそれぞれの幅および位置(例えば、3つのストリームであって、中央ストリームが粒子を含み、15μmの幅を有する)を含みうる。図示された実施形態では、第2のオペレータマップ(f
2)で開始し、第1のオペレータマップ(f
1)が続き、第3のオペレータマップ(f
3)が続き、最後に第2のオペレータマップ(f
2)が続く4つの論理ステップで、3つの別個のオペレータマップ(f
1、f
2、f
3)を連続して組み合わせることにより、最終的な流体変形マップF(s)が構築される。したがって、最終的な流体変形マップF(s)はf
2 (f
3(f
1(f
2(s))))と等しい。
【0027】
実験
一連の微小構造を利用して流体流れをプログラムする機能を調査するために、円筒を微小流体チャネルのストリームを横切る様々な位置に配置し、プログラムスキームのオペレータとして機能させた。これらの幾何学的な障害物を利用して流れに著しい変形を引き起こし、流体の塊を局所的に移動させて流体ストリームを変形させる、有用な最終回転二次流れを作り出すことができる。特に、流体慣性は多くの場合重要とは考えられないため、従前の微小流体システムでは、ピラー周囲の流体の最終的なねじれは無視されてきた。運動の線形方程式を時間反転(time-reversal)したときの流れの鏡面対称性により、慣性を有しない直線チャネル内でのピラー周囲の流れ(すなわち、ストークス流れ)は前後の対称性を要求する。したがって、チャネルの断面内に方向付けられた二次流体運動は、円筒形の中央平面を通過した後に完全に反転する。
【0028】
微小ピラーを通過すると完全に反転するストークス流れに係る流体運動とは異なり、有限慣性を有する流れは流体ストリームの最終変形を伴う。数値シミュレーションは、流体が直線の微小チャネルの中央に位置するピラーを通過すると、チャネルの中心線付近の流体の塊が側壁の方に向かって外側に移動し、上壁と下壁付近の流体の塊がチャネル中心に向かって移動するように、流れが変形することを予測する。実験により確認されたこの現象は、微小流体チャネル内に一組の最終回転二次流れを効果的に作り出す。その結果、流れは反転しないようにねじれ、ピラー付近の前後の対称性を失って、流れストリームに著しい最終変形を生じさせる。この現象は、湾曲チャネル内に生じる有限慣性を有する(ディーン流れ)二次流れと共通の特徴を有している。両方の現象とも慣性によって生じ、狭い3Dチャネルにより与えられた高い速度勾配を要求し、これにより、湾曲領域の流れは異なるレベルの運動量を有することとなる。
【0029】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)のレプリカ成形プロセスを用いて微小流体デバイスを製造したが、当該分野の当業者に既知のガラス、熱硬化性材料または熱可塑性材料での製造もできる。一般的なリソグラフィー技術を用いて、SU−8フォトレジスト(MicroChem社)でスピンコーティングしたシリコンマスターから型を作成した。この型から、Sylgard184のエラストマーのキット(Dow Corning社)を用いてPDMSチップを作成した。ピンバイス(Technical Innovations社)を用いて、PDMSを貫通する入口穴と出口穴を開けた。PDMSとガラスは空気プラズマ(Harrick Plasma社、プラズマ洗浄装置)によって活性化され、チャネルを密閉するため互いに接着した。チャネルのPDMSの壁を見えるようにするため、PDMSに浸透するローダミンBの赤色染料をチャネル内に注入し、実験前に洗浄した。ポストまたはピラーを用いる基本的な実験については、微小流体チャネルの寸法を200μm(幅)×50μm(高さ)とし、直径100μmのポストを隣接するポストから1mmの間隔を空けて配置した。微小スケールのチャネルおよび突起部の製造について示したが、レイノルズ数および他の無次元パラメータが記載された範囲内にある限り、流体変形およびプログラミング現象は、様々な長さのスケールおよび製造プロセスに拡張可能である。対称の突起部については、流れは層流レジーム(例えば、1<Re<2000)であるべきである。ピラーについて著しい程度の変化を得るために、標準的なピラー直径(チャネルの幅で割ったピラーの直径)は約0.05を超えるべきである。溝のように非対称の突起部には、小さいReを用いることができる。
【0030】
可視化を補助するために、流体ストリームをFITCデキストラン500kDa(4μMの脱イオン水)または青色食用染料と混合した。蛍光単分散粒子(1μmおよび10μm、1.05g/ml)はDuke Scientific社から購入した。粒子は脱イオン水に混合した。シリンジポンプ(Harvard Apparatus社、PHD2000)を用いて、流体ストリームと粒子の懸濁液をPEEKチューブ(Upchurch Scientific社、製品番号1569)を通してデバイス内にポンプした。このデバイスは広範囲の流速にわたって効率的に動作し、特に100マイクロリットル/分乃至500マイクロリットル/分の範囲内(約6乃至60の範囲内のRe)で適切に動作する。
【0031】
ライカ社のSP1倒立共焦点顕微鏡を用いて共焦点画像化を実行した。共焦点画像は、平均で8y−zスキャンである。Nikon社のEclipse Ti顕微鏡に搭載されたPhotometrics社のCoolSNAP HQ2のCCDカメラを用いて蛍光画像を記録した。Nikon社のNIS−エレメントAR3.0ソフトウェアを用いて画像をキャプチャした。高精密な観察および測定をするために、ファントムv7.3ハイスピードカメラ(Vision Research社)およびファントムカメラコントロールソフトウェアを用いて高速画像も記録した。
【0032】
図3Aは、ピラーの微小構造13によって生じた局所的慣性流れの変形を概略的に示している。
図3Aの矢印のプロットは、流体の塊が入力断面(上流)から出力断面(下流)へと移動する場合に並んだ平均横方向速度を示している。
図3Aはさらに、入口、10のピラー13の後、20のピラー13の後、および30のピラー13の後における、微小流体チャネルを通って流れる流体の断面画像を示している。
【0033】
図3Bは5つの異なるピラー構造を示しており、最終的な循環の位置はピラーの位置によって制御される。上側には、各ピラー構造の、数値シミュレーションによって予想されるようなそれぞれの最終的な変形の矢印のプロットが図示されている。下側は、異なる下流位置における、各ピラー構造に係る微小流体チャネルの共焦点断面画像である。それぞれのピラーシーケンスの横方向位置は、各画像のパネルの隣に見ることができる。3つの蛍光標識化したストリームを観察するために追跡した。
図3Bに見られるように、チャネルの中央から側方へとピラーの中心を移動させることによって(構造iから構造v)、最終的な再循環流れの横方向位置が同様に移動する。
【0034】
しかしながら、ディーン流れとは異なり、ピラーの横方向位置を利用して、
図3Bに示すように、チャネルにわたって最終的な再循環流れがどこに生じるかを調整することができる。チャネルを横切って(y方向に)ピラーのシーケンスを移動させることにより、運動の中心が後に続く。この位置調整により、例えば、中央のピラー(
図3Bの画像i)を一対の側方の半分のピラー(
図3Bの画像v)と交換し、最終二次流れの方向を反転させることにより、引き起こされる変形を空間的に制御することが可能となる。
【0035】
生じた変形の大半は、使用された流れ状態に係るピラーのピラー直径の4倍以内で生じ、シーケンスにおける個々のピラーそれぞれによる変形が独立して作用するようにするためのピラー間の効果的な間隔を規定している。チャネルに沿った、ピラー付近のストークス流れと慣性流れの変化の数値比較は、ピラーの存在がストリームラインの変化を招くが、この変化は、ストークス流れに時間反転の定理の鏡面対称性に一致する前後対称性を与え、この対称性は慣性が存在する場合に破られることを示している。
【0036】
これは、慣性流れ変形の変化および動作レジームを示す
図4Aに見ることができる。
図4Aは、チャネルに沿った、ピラー付近のストークス流れと慣性流れの変化の比較を示している(チャネルの右上、四半分に示す)。各断面では、数値シミュレーションを使用して、トレーサー流体の塊の5つの垂直線が、障害物を越えて移動するのに伴い続いており、安定状態に達している。ストークス流れに存在する変化の前後対称性は、慣性が存在する場合に破られる。
【0037】
上流の慣性流れは、ストークス流れと比較して大きく異なっていない。この2つの流れは、x=0(すなわち、ピラーの中心位置)でほぼ一致しているが、ピラーの下流では、慣性流れがストークス流れから大きく逸脱し、初期の流体トポロジと比較して大きな変化が生じている。この回転運動はピラー直径の約3−4倍の下流にまで含まれており、これにより、実験では、連続して配置した場合に前のピラーの下流流れの特徴が次のピラーの上流流れの特徴と確実に相互作用しないようにするために、ピラー直径の10倍の間隔を空けた内部ピラーを設定した。このように、組み合わせたシーケンスの流体動的シミュレーションを要する別個の動作間でクロストークすることなく、各ピラーによって起こる変化を連続して適用することができる。
【0038】
有限レイノルズ数の層流の流速範囲にわたる慣性流れ変形の比較的均一な性質は、プログラミングにとって重要な特徴である。レイノルズ数は流れ中の慣性力と粘性力の比である。
Re=ρUH/μ
【0039】
ここで、Hはチャネルの水力直径または固有サイズであり、Uは密度ρおよび粘性μを有する流体の平均下流速度である。σを規定し、異なる流れおよび幾何学的状況について横方向の流体運動の量を定量的に比較するために利用できる正規化された値によって、z=0におけるチャネルの中央から離れる流れ変形の程度を測定した。これは、z=0(チャネルの中央高さ)における最終横方向速度の平均として規定され、メイン流れの平均下流速度によって正規化されるか、
である。
【0040】
これは、下流に移動する単位長さ当たりで流体が(平均、およびチャネルの中央平面で)横方向に移動した距離を測定することが不可欠である。
図4Bに示すように、σは一桁の大きさの状態(Re〜6−60)にわたって均一のままであり、2−3倍のみで変化する。さらに、最終二次流れは単一のピラー直径では広範囲の流速にわたって代わることなく作用するが、σはピラー直径を調整することによって調節可能であることが分かった。Reの関数とした流れの精密な検査(
図4C)は、小さいレイノルズ数のチャネルについて、流れはストークス流れと同様に動き、認識される流れ変形はないことを明らかにした(
図4Cの画像i、Re=0.08)。構造チャネルを用いて流れを変形する他の方法はこのような状態を補完することができるが、これらの手法はReの増加に伴ってあまり効果的に作用しなくなる。対照的に、本書で使用される円筒部については、Reの増加に伴って、著しい慣性流れ変形が観察された(
図4Cの画像ii、Re=12)。Reが増加すると更に、ピラーの下流表面に沿った境界層剥離を引き起こし、ピラー後に伴流領域が生じ(
図4Cの画像iii、Re=40)、慣性流れ変形を開始してより複雑な性質を表す(
図4Dの画像iv、Re=100)。この場合、チャネルの上部付近の流体の塊はチャネル中心に向かって移動し、チャネル中心から離れて更にz−中央平面に向かって変形するように流れが開始されることが観察された。予想外にも、変形はz=0の中心に向かって再び方向付けられている(
図4Cの画像iv)。このような結果は、単一モードにおいて動作するのに必要な流れ状態の範囲を特定するが、異なる流れ状態にわたってより複雑な基本的変形を伴う個別の動作モードを利用する機能についても提案している。例えば、異なるモードを先立って予想してライブラリに含め、異なる流れレジームにわたる流体流れのプログラムミングを補助することができる。
【0041】
単一のピラーシステムにおける予想外の複雑さを特定した後、実際的に制御可能な幾何学的パラメータおよび流れパラメータのセットにわたる、想定される流れ変形の範囲を体系的に分類した。次元解析は、
図4Dに示すように、(2つの制約:(1)ピラーは円筒形であって、(2)それらはチャネルの中心に配置されていること、を仮定した場合)3つの無次元グループ:Re、チャネルのアスペクト比h/w、および正規化したピラー直径D/wを用いて表されるシステムの性質を予想し、
図4Dは所与の流れ状態と幾何学的パラメータのセットにおける実質的なモードを表す状態図を示している。流れ変形を引き起こす障害物が直線チャネルの中心における円筒部の場合、慣性流れの変形について4つの支配的な動作モードが明らかとなった。同様の動作モードが、チャネルの中心線に配置されない非円筒形のピラーなどにも予想される。
図4Eは、それぞれの動作モードについて、運動方向を示す矢印を重ね合わせた流れの非対称の四分円の共焦点断面画像を示している。チャネルの4分の1に生じた最終二次流れの数(すなわち、1または2)、さらには、これらの流れそれぞれの最終的な渦軸方向に基づいてモードが規定される(
図4E)。数値シミュレーションに基づいて、特にピラー直径が小さい場合には、4つの更なる推移する動作モードが存在することも予想される。しかしながら、これらのモードは状態図の非常に狭い領域にわたって存在する。さらに、小さいD/wについては、最終的な回転流れは弱いままであり、これらのモードは実際的に有用ではない。
【0042】
慣性流れの変形はチャネルの断面にわたる流体運動量および圧力の勾配に依存し、ピラーの前後で等しく反転しない。ピラー後方に渦が存在しない場合、この領域に発生する流れ変形は、ピラーの上流に発生する反対方向の変形を支配する(
図4A)。チャネルの上部と底部における2つの圧力が高い領域の間のチャネル中央部には、(この領域の高速流体による)圧力が低い領域が見られた(y=0付近)。これは、流体の塊をチャネルの上部および底部から中心に方向付ける運動をもたらし、中央領域から側方への流体の塊の運動を伴って質量を保存する(モード1)。しかしながら、Reが増加する、あるいはシステムの幾何学的配置が変化(例えば、チャネルのアスペクト比が増加)すると、ポスト後方に渦が発生し、ピラー後方に三次元的に複雑な再循環の閉鎖領域を形成する。この伴流は、円筒形の後方を通過し、圧力場の変化を伴う流体ストリームの湾曲を減少させる。このような効果を組み合わせると、ピラー下流に生じる変形の優位性は低下し、反対方向の最終的な流体回転を有する上流の変形へとバランスが推移する、代替的な動作モードに対応する。
【0043】
高度なプログラムを実行し、複雑な流れ形状を与えるために、流体変形動作を組み合わせることができる。本書に説明されているように、
図3Bに示すような高精度で、1つのピラー付近の慣性流れ変形を数値的に予測することができる。微小流体チャネルに沿って適切に間隔を空けて連続して配置された一組のオペレータ(例えば、一組のピラー)を配置することにより、各ピラーの出力を次のピラーの入力として取り出すことができ、ピラーによって生成された最終変形を連続して組み合わせることができる。したがって、有限のセットのピラー構造(すなわち、ピラーのサイズ、横方向位置)について変形関数を有することにより、無限数ある任意の潜在的なプログラム全ての変形関数を予想することができる。
【0044】
その結果、
図2Aに関して記載されているように、ユーザは、既にシミュレーションされた運動のライブラリを使用することができ、流体力学または数値シミュレーションの知識を必要とすることなく、低コストかつ高精度で、関心がある流れ形状を素早く設計するためにこれらを連続して配置することができる。曲譜の離散化と同様に、ピラーの位置の体系的な離散化は、プログラムの抽出および階層的な組み立てを可能にし、複雑な流体システムを設計する機能が高まる。例えば、
図5Aは、微小流体チャネルの位置a、b、c、d、e、f、g、およびhにおけるピラーの不連続な位置を示している。
【0045】
図5Bは、微小流体チャネル内に様々に配置されたピラーのシーケンスを用いた、一連の4つの異なるプログラムを示している。各プログラムは、(1)チャネルにわたって異なる位置に配置されたピラーのシーケンス、および(2)初期状態、すなわち、流体ストリームの入口位置および幅からなる。各プログラムの下側には、1つのピラーの流れの変化マップのライブラリから得たシーケンスの動作に基づく数値予測が図示されている。さらに、各数値予測それぞれの下側には、観察された流れの共焦点断面蛍光画像も追加されている。実際の共焦点画像と数値予想を比較すると分かるように、算出された変化マップは実験結果と非常に厳密に一致している。
【0046】
図5Bの第1プログラムは、(cabac)のプログラムを用いてV字型に変形する、最初は直線的なストリームを示している。
図5Bの第2のプログラム(ccccccccaaaa)に見られるように、実現可能な形状の寄せ集めは閉鎖ループを含んでいる。
図5Bの第1、第3、および第4のプログラムに見られるように、シャープな屈曲を作り出すことができる。
図5Cは、
図5Aに見られるピラーの位置に基づく、その他の連続するプログラムを示している。
図5Cに見られるように、両凹面および両凸面の領域が形成される(画像vii)。他のプログラム(例えば、画像i、iii、vi)では、初期のストリームに対して更なる頂部が存在しており、屈曲には複数の変化がある。その結果、ソフトウェアプログラミングと同様に、ユーザは、既に実証された関数を構築し、それらを新たに統合して、より複雑で有用な流れを作り出すことができる。
【0047】
このプラットフォームおよび方法が利用されうる多くの異なる用途がある。例えば、このプラットフォームを利用して、例えば、機能性ビーズ、またはセル、細菌あるいは毒素などの生体粒子の形態をした粒子といった、粒子のストリームを制御することができる。周囲の液体を除去する、あるいは所与の反応物を粒子懸濁物に入れるため、粒子周囲の溶液交換は試料調製に関して特に有用である。さらに、粒子に作用する基本的な慣性揚力と相互作用する二次流れによって、粒子の選択的な分離を行うことができ、大きさベースの粒子の分離が可能となる。
図5Dは、流体ストリームからの粒子の抽出を示している。
図5Dに見られるように、色の濃いキャリア流体は中心線から離れて位置しているが、粒子は中心線に沿ってほぼ一直線に残っている。このように、慣性集束によって中心線に保持された粒子を残して、流体はチャネルから離れるように移動する。同様のプロセスを用いて、このプラットフォームを利用して異なるサイズの粒子を分離することができる。例えば、二次流れによる慣性揚力または慣性抗力が優位であるかに応じて、異なるサイズの粒子は異なる平衡位置を有し、それによって分離することが可能となる。
図5Eに見られるように、10μmのサイズの粒子は慣性集束したままであるが、1μmのサイズの粒子は流体ストリームに付随している。粒子はセル、細菌、原虫、ウイルスなどの生物または生体粒子を含み、任意に他の試薬と官能性、あるいは接合しうるビーズ(例えば、ガラス、ポリスチレン、PMMA等)などの非生物粒子も含みうる。
【0048】
プラットフォームを利用して、粒子周囲の流体を切り換える、あるいは交換することもできる。例えば、プラットフォームは、特定の流体ストリームを粒子に接触させることができる。これは、例えば、溶解バッファまたは染色液を含みうる。溶液の交換を利用して、最初に粒子の周囲にあったバッファまたは他のキャリア流体を除去することができる(例えば、セル周囲のDMSOの洗浄、染料の洗浄、血小板または毒素の除去)。
図5Dは、入口で最初は(色が濃い)流体内に含まれ、次いで出口付近で他の流体と交換された粒子を示している。初期の色が濃い流体は、中心線から離れて横方向に移動している。
【0049】
図6Aは、粒子20周囲の流体を交換するために利用される微小流体チャネル12を示している。粒子20を含む流体22が微小流体チャネル12の第1の入口24内に投入される。2つの更なる入口26、28を経てシース流れが構築される。1つの入口26を利用して反応バッファ30を送達し、他の入口を利用して洗浄バッファ32を送達する。反応バッファ30および洗浄バッファ32は、粒子20を含む流体22をシース流れへと狭める。微小流体チャネル12内に慣性集束した粒子20および流体22を示すチャネルの断面図が
図6Bに見られる。1以上のオペレータプログラムを用いて、
図6Bの慣性集束した状態を作り出すことができる。次いで、この流体流れは他のプログラム(プログラム#1)を受けて、
図6Cに示す流れ分布の断面を作り出す。
図6Cに示すように、粒子20は反応バッファ30内に含まれており、以前粒子20を含んでいた流体22はそこから分離している。洗浄バッファ32も粒子20から分離しているように見える。この状態では、粒子20は反応バッファ30と反応する。反応バッファ30内での粒子20のインキュベーション時間は、チャネルの長さを変化させることによって調節あるいは調整することができる。
【0050】
図6Dは、他のプログラム(プログラム#2)を経た後の微小流体チャネル12の断面図を示している。本書に記載されているように、このプログラムは、ライブラリから選択された1以上のオペレータを含みうる。
図6Dに見られるように、粒子20は洗浄バッファ32内に含まれている。したがって、洗浄バッファ32を優先して、反応バッファ30が入れ替わっている。粒子20を含んでいた初期流体22は更に、微小流体チャネル12の一領域に制限されている。
図6Eは、3つの出口34、36、および38を有する微小流体チャネル12の下流部分を示している。第1の出口34を用いて、粒子20を最初に運んでいた流体22を捕捉する。洗浄バッファ32内の粒子20は第2の出口36に収集され、第3の出口38は反応バッファ30を捕捉する。この特定の構成を、粒子20(例えば、セル)の抗体染色法、化学的機能化、固相合成反応などに利用することができる。
【0051】
この微小流体プラットフォームおよび方法は、ストリームを分割するためのシステムを設計するために使用することもできる。ストリームの分割は、2以上のストリーム間の界面または接触を最大限にするため有用である。これは、フローサイトメトリーなどのスクリーニング用途の並列化に有用となりうる。このような界面の形成は、液液抽出に利用することもできる。
図7は、入口および出口の双方に係るこのような実施形態の流れプロファイルを示している。
図7に示すように、1つのストリームが3つの異なるストリームに分割される。
【0052】
更に他の例示的な使用法では、流体の微小流体混合に微小流体プラットフォームを使用することができる。強力な変形は流れに半らせん運動を作り出し(中央にピラーが配置された最も簡単な場合)、これを利用して高ペクレ数での混合を高めることができる。
図8は、ストリームの微小流体混合の共焦点断面図を示している。この場合、幾つかのピラーのみと接触した後、高流量(Pe=O(10
5))において3cm未満で完全な混合が実現する。湾曲したチャネルまたはヘリンボンの溝を有するチャネルの必要はない。むしろ、ピラーなどのオペレータを直線の微小流体チャネル12に追加することにより、混合を加えることができる。
【0053】
チャネル内の流体の流れをプログラムする機能、特に、移動している流体ストリームの断面形状、回転、および運動の制御は、様々な用途に利用することができる基本的な新たしい機能を導入するものである。例えば、モノマーストリームの断面形状を制御することにより、このプラットフォームは、自己アセンブリの連結能力(例えば、VELCROのような機能)といった特に設計された相互作用を有する新しい種類の重合化繊維の製造を可能にする。
図9Aは、特注の断面形状を有する重合化された繊維を製造するために使用される微小流体チャネル12を示している。このデバイスは3つの入口42、44、46を有し、中央の入口42はポリマ前駆体48を含んでいる。ポリマ前駆体48は光活性化することができるPEGジアクリレートなどのPEGベースの前駆体であってもよいが、ヒドロゲルなどの他の物質も使用することができる。外側の2つの入口44、46はそれぞれ、ポリマ前駆体48と同様の粘性および密度のシース流体50を包含している。例えば、シース流体50はPEGを含みうる。
図9Bは、シース流体50の内側で中央に整列したポリマ前駆体48の断面図を示している。この流体は次いで、本書に記載されたようなオペレータ(例えば、ピラーのオペレータ)のライブラリを使用することによって、その断面形状を変化させるように(矢印52に示すように)プログラムされる。
図9Cは、微小流体チャネル12のプログラムされた領域を通過した後のポリマ前駆体48の断面形状を示している。この断面形状は“I”状をしているが、使用される任意の断面パターンを作ることができる。
【0054】
次に、
図9Dに見られるように、所望の形状に形成された後、ポリマ前駆体48は重合を経て、微小流体チャネル12内に形成された断面を有する繊維54を作り出す。
図9Dに見られるように、重合は、光源56を用いて光(例えば、UV光)を露出することで活性化される。しかしながら、他のポリマ活性材も利用できると理解されたい。例えば、重合は、化学的、熱的露出等を用いて活性化させることができる。出口チャネル58は、この露出ステップの際に流れを減速させるため、任意に拡張してもよい。
【0055】
図10Aは、三次元形状の粒子20を生成するために使用される同様の手法を示している。この実施形態では、微小流体チャネル12には3つの入口60、62、64が設けられている。第1の中央の入口60は、前駆体材料66を送達するために使用される。2つの外側の入口62、64は、(前駆体材料66と同様の粘度の)シース流体68を用いて前駆体材料66周囲にシース流れを作り出すために使用される。
図10Bは、集束した前駆体材料66の断面図を表している。次いで、前駆体材料66は1以上のプログラムを経て、例えば、ピラーのオペレータを用いることにより、前駆体材料66の断面形状を変化させる。異なる形状の3つの代表例が
図10Cに見られる。一旦、所望の流体形状が作り出されると、前駆体材料66は次いで凝固するように活性化され、光源72と前駆体の間に配置されたマスク70を用いてポリマを形成する。例えば、
図10Dに見られるように、光(例えば、UV光)は、微小流体チャネル12と光源72の間に置かれたマスク70を通過する。このマスク70を通過した光は次に、前駆体材料66の一部を活性化させるか重合させて、
図10Eに示すように、3次元の粒子20を形成する。三次元の粒子20は次に、“オフチップ”収集される。複雑な三次元形状の粒子20を形成することができる。この3D形状は、(光を)予め形成された前駆体材料66へとマスクの形状に押し出し成形することによって規定される。再び、本書には、重合の触媒として光が記載されているが、熱または化学的な露出といった他の開始モードでも作用しうる。
【0056】
3次元形状の粒子20は、このデバイスによって別個に作られた、あるいは微小流体チャネル12を通って流れている他の粒子と相互作用することができ、3D認識および自己組織化が可能となる。作製された粒子20は、検体を収集または物質を送達するのに有用な、高い表面積対体積比を有しうる。
【0057】
微小流体チャネル12を利用して、光学励起および/または光学的観察(optical interrogation)のために集束した流体ストリームを作り出すこともできる。慣性集束を利用して、粒子、または微小流体チャネル12内の1または複数の特定の位置に他の要素を有している特定の流体ストリームを整列させることができる。流体は、フローサイメトリなどの光学的観察のために、同一のz平面に集束させることができる。
図11Aは、後のフローサイメトリなどの光学的観察のために、集束した流体ストリームを作り出すように使用される微小流体チャネル12を示している。
図11Bは、最初に設定されたシース流れの断面を示している。関心のある流体ストリーム80が、微小流体チャネル12の半分に図示されている。流体を集束させるため、流体は、関心のあるストリーム80を後で観察することができる共通のz平面に集束させる1以上のオペレータからなるプログラムを経る。
図11Cは、プログラムを受けた後の集束したストリーム80を示している。加えて、別々の屈折率の流体を有する様々な断面のレンズ形状をプログラミングして、光学流体の制御および検出に使用することができる。
【0058】
本書の方法および概念を利用して、制御された方法で、チャネルの低温側から高温スポットへと流体を動かすことができる。流体が素早くチャネルの表面へと、およびそこから離れるように移動し、温度勾配を最大限に生かすことができれば、熱伝達を大幅に向上させることができる。
図12は、中央領域を通過する冷却流体86を有する微小流体チャネル12を示している。微小流体チャネル12の2つの対向する側面は高温領域またはスポット88を有している。これらの領域から適切に熱伝達するために、冷却流体86に1以上のオペレータのプログラムを通過させて、高温領域に隣接するよう冷却流体86を移動させる。次いで、冷却流体86は熱を取り出す又は逃がすことができ、熱伝達は向上する。図示された実施形態では、プログラムが冷却流体86を2つの異なるストリームに分割しているが、冷却流体86は必ずしも分割する必要はないことを理解されたい。例えば、微小流体チャネル12の片側のみが高温スポットまたは高温領域を有していてもよく、その場合には、冷却流体86は微小流体チャネル12の片側のみに向かって横方向に移動する必要がある。
【0059】
図12の実施形態と同様の方法では、流体ストリームを表面に近付けるように移動させる必要がある場合もある。例えば、所与の反応を高めるために、染料または反応物質が表面に必要なことがある。他の例として、対象の分子を結合表面へと近付けることにより、表面付近のそれぞれの速度を減速させて、接触する可能性を高め、その結果として、捕捉効率を高めることができる。他の反応は、限定的または制御した表面への露出を必要とし、表面に特定の時間だけ露出するように、微小流体チャネル12内に流れを確立することができる。反対に、表面から離れるように流体ストリームを動かす必要がある場合がある。例えば、種の特異的結合を防ぐ、あるいは付着物を促進させうるタンパク質又は他の対象の表面への接着を防ぎたい場合がある。他の例では、反応生成物または副生物が表面に、あるいは表面付近に生成されることがある。流れのプログラミングを用いて、このような成分を除去または溶出することができる。
【0060】
図13Aは、上面および下面を有する微小流体チャネル12の断面図を示しており、その面上に配置された結合分子または結合種90を有している。結合分子または結合種90は、流体94内に含まれる対象92と選択的に結合する。対象は、セル、ウイルス粒子、バイオ分子、化学物質、抗体、抗原類、核酸、タンパク質等を含みうる。
図13Aに見られるように、結合分子または結合種90の約半分は、対象92を含む流体94に露出されていない。
図13Bの断面図に示すように、結合分子または結合種90を有する上面および下面全体が、対象92を含む流体94に露出されるように、流体プログラミングを実行することができる。反対に、
図13Cは、流体98内に含まれる非特異的な対象96が意図的に上壁および下壁から離れて、反応または非特異的な吸収を防いでいる状態を示している。
【0061】
流体プログラムを利用して、テイラー分散を最小限にすることもできる。テイラー分散は、シアー流れが種の効果的な拡散性を高めうる、流体力学における効果である。テイラー分散は、流れの方向における濃度分布をスメアアウトするように作用する。テイラー分散を防ぐことにより、優れた濃度制御、反応時間および均一速度のための、より均一なプラグを微小流体チャネル内に作成することができる。例えば、特定の時間で表面から収集される物質、または特定の時間におけるバルク流れ内の物質は、関心がある流体プラグがチャネルに沿って通過するのに伴い、流体流れの方向に分布する傾向がある。流体プログラミングを実行して、この流体プラグをチャネル内の同一速度の流れの領域へと持っていき、それにより、テイラー分散を最小限にすることができる。ここで、テイラー分散によって反応を不鮮明にすることなく、下流解析を実行することができる。
【0062】
流体プログラミングは、様々な形状を有する種または分子の勾配を作り出すこともできる。勾配を発生させる現行の方法はいずれも、並列化ネットワークおよび高流体抵抗を有する複雑なデザインであるか、勾配について非常に限定された制御を提供するマクロスケールの堆積によるソリューションによってなされている。優れた制御を提供するために勾配形状や位置を確定的に規定しながら、ピラーなどのオペレータを単純なプラットフォーム上に簡単に形成して、小さい流体抵抗を提供する。
図14は、均一な勾配を有する流体のプラグの断面画像(上側)を示している。
図14はさらに、微小流体チャネル12内に異なる勾配の流体プラグをそれぞれ作り出す2つの異なるプログラム(AおよびB)を示している。プログラムAは、プログラム後の断面画像の下側に示す濃度グラフに見られるような線形勾配を作り出す。プログラムBは、それぞれの濃度グラフに見られるように、2つの局所化した最大値を有する異なる勾配を作り出す。このプラットフォームは、神経系細胞やそれらの伝達における勾配効果の研究などの学問に関して、平行または連続した複数の種の複数の勾配システムを潜在的に作り出すことができる。
【0063】
本書に記載のプログラミング法およびデバイスの利点は、1つのマスク、射出成形、熱エンボス加工、レーザ切断、または機械加工を伴うPDMSのレプリカ成形といった、標準的な2次元(すなわち、単一の層)の製造技術を用いて製造することができる点である。これは、製造時間および製造コストを著しく低下させる。さらに、能動的な制御(例えば、電極)を用いる先行技術の方法とは反対に、流れ場に運動または勾配を生じさせる複雑な外部の設定の必要がない。これにより構成要素が少なくなることとなり、デバイスの故障または不良を減少させ、プラットフォームのロバスト性および信頼性を非常に高める。
【0064】
ピラーベースのシステムの重要な特徴の1つは、同様のスケールの横方向の流体変形を伴う広範囲の流量およびレイノルズ数(Re〜6−60)に対して動作することであり、幾つもの利点を取り入れている。第1に、システムは流量に対して感度が低いため、比較的広範囲の流量について最終的な製品はその動作を反復することが可能であり、ひいては許容範囲が広くなる。システムの感度が高くなるほど、システムはより適切に制御されるべきであり、より適切に制御されるほど、さらに費用が掛かるため、このような利点はシステムをより信頼性が高く且つ安価にするものである。第2に、これにより、システムは広範囲の関連性のある界面の時定数にわたって動作することができ、様々な運動を伴う化学的/生物学的用途には特に有用となりうる。さらに、広範囲の流量にわたって均一な動作は、全体的に異なるチャネル容積、すなわち、流体が実質的にどこで加速または減速するかを詳細なシミュレーションをすることなく、ポスト/ピラーのパターンの連続的なアセンブリを可能にする。代替的に、チャネルの拡張および分割、ならびに異なるレイノルズ数または異なる動作モードにおけるプログラミングに対処するために、異なる流量で算出されたオペレータを含むようライブラリを拡張することができる。
【0065】
上述したように、このシステムは、システムの状態(Re、ポストの直径(D/w)、およびチャネルのアスペクト比(h/w))に応じて、異なる動作モードを提示することができる。これは、高流量では流れレジームが異なることがあり、二次流れの数がチャネル内で倍増しうることを意味する。このシステムに使用することができる高流量は非常に高い処理量につながる。
【0066】
本発明の実施形態が図示され説明されているが、本発明の範囲を逸脱することなく様々な改変をすることができる。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲、およびその均等物を除き、限定すべきではない。