(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(ii)および(iv)において、前記乾燥前正極合剤層に対し乾燥前正極合剤層側より赤外線を照射し且つ熱風を当てることに加え、前記乾燥前正極合剤層を集電箔側から冷却する請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【背景技術】
【0002】
電極合剤は、非水電解質二次電池等の電極材料として用いられる。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン二次電池が代表的であり、携帯電話やノートパソコン等の電源として実用化されている。更に、リチウムイオン二次電池は自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型用途においても、その適用が試みられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、通常、リチウムイオンをドープ・脱ドープすることのできる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンをドープ・脱ドープすることのできる負極活物質を含む負極と、電解質とを備える。
【0004】
リチウムイオン二次電池の製造において、集電箔に電極ペーストを塗布して電極を製造する方法が知られている。電極ペーストに含まれる電極合剤としては、正極活物質、負極活物質などの電極活物質、結着剤および分散媒を混合、混練したものが挙げられる。結着剤および分散媒としては、有機溶媒系バインダーが代表的であり、例えば、ポリフッ化ビニリデン(バインダー)およびN−メチル−2−ピロリドン(分散媒)が挙げられる。
【0005】
一方、有機溶媒の使用による電極製造コスト上昇を抑えるために、分散媒として水を用い、増粘剤としてカルボキシルセルロース(CMC)を加え、また結着剤として水系専用結着剤を用いる方法が知られている。具体的には、結着剤および分散媒として、ポリテトラフルオロエチレンの水性ディスパージョン(特許文献1)や、セルロースなどの水溶性高分子および水(特許文献2)を用いることが知られている。
【0006】
また、特許文献3には、正極ペーストを炭酸ガスで中和する方法が開示されている。特許文献4には、アルミニウム集電箔を加熱バックアップロールによって加熱することにより、アルミニウム集電箔と正極ペーストとの界面を乾燥させる方法が開示されている。特許文献5には、正極ペーストを繰り返し塗布、乾燥する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および2のような水を分散媒とする正極ペーストは、ニッケル含有リチウム複合酸化物等の正極活物質の製造時に残存したリチウム化合物を含むため、塩基性を示す。このため、アルミニウム等の集電箔に水を分散媒とする正極ペーストを塗布して正極を製造する場合、正極ペーストの塩基性成分のために集電箔が腐食する場合がある。例えば集電箔の材料がアルミニウムの場合、正極ペーストのpHが9以下であればアルミニウム集電箔の腐食は生じない。しかし、前述したように正極ペーストは塩基性を示すため、そのpHが9を超えるとアルミニウム集電箔は腐食する。アルミニウム集電箔が腐食されると、アルミニウム酸化物が生成し、水素ガスによる気泡が発生し、集電箔と正極合剤層との密着強度が低下し均質な正極を製造することが出来ない。また、アルミニウム酸化物の存在により二次電池の内部抵抗が上昇し、製品品質が低下する。
【0009】
特許文献3に記載の方法では、塩基性成分による集電箔の腐食を防ぐことは出来るが、正極ペーストの乾燥による発泡を防ぐことが出来ず、均質な正極を製造することは出来ない。
【0010】
特許文献4に記載の方法では、正極合剤層表面の乾燥が不十分であり、界面以外の水分による界面付近の再湿潤と、加熱バックアップロールによる正極ペースト温度の上昇により集電箔の腐食がより促進されるため、集電箔の腐食を十分に抑制できない。
【0011】
特許文献5に記載の方法では、正極ペーストが塩基性を示さないため均一な正極合剤層が作製可能である。しかし、塩基性を示す正極ペーストを用いる場合、集電箔の腐食を抑制するためには正極ペーストの塗布条件およびその乾燥条件をより厳密に制御する必要がある。
【0012】
本実施形態の目的は、集電箔の腐食を防いでリチウムイオン二次電池用正極を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、
(i)リチウム金属複合酸化物と水とを含む正極ペーストを集電箔上に薄膜状に塗布することにより乾燥前正極合剤層を形成する工程と、
(ii)前記乾燥前正極合剤層を乾燥炉に導入し、乾燥前正極合剤層側より赤外線を照射し且つ熱風を当てて、前記乾燥前正極合剤層形成後30秒以内に乾燥することにより正極合剤層を形成する工程と、
(iii)前記正極合剤層上に前記正極ペーストを薄膜状に更に塗布することにより乾燥前正極合剤層を形成する工程と、
(iv)前記工程(iii)で得られた乾燥前正極合剤層を前記工程(ii)と同様に乾燥することにより正極合剤層を形成する工程と、
を含むリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であって、
前記工程(iii)および(iv)を少なくとも一回以上行
い、
前記正極ペーストのpHが10〜14の範囲であり、
前記集電箔の材料が、アルミニウムおよびアルミニウムを含有する合金からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0015】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池
の製造方法は、本実施形態に係る
方法によりリチウムイオン二次電池用正極を
製造する工程を含む。
【発明の効果】
【0016】
本実施形態に係る方法によれば、集電箔の腐食を防いでリチウムイオン二次電池用正極を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[リチウムイオン二次電池用正極の製造方法]
本実施形態においては、正極ペーストを薄膜状に塗布することにより乾燥時間の短い乾燥前正極合剤層を形成する。該乾燥前正極合剤層の乾燥では、赤外線照射により塗膜温度を速やかに上昇させ、これに加えて乾燥前正極合剤層側より熱風を吹き付ける。また、乾燥時間を30秒以内とする。これによって蒸発速度が一定でかつ塗膜表面の乾燥が進みすぎることなく、溶剤の蒸発を塗膜内部からも進行させることができる。また、塩基性の水系正極ペーストを均質に素早く十分に乾燥させることができるため、集電箔の腐食が進行する前に正極を製造することができる。そのため、該正極を用いてリチウムイオン二次電池を製造した場合、二次電池の内部抵抗上昇を低減して高出力なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0019】
また、本実施形態に係る方法により実現される均質な乾燥により、塗布後塗工幅の安定化や結着剤の表面偏析抑制の効果も得られ、塗膜と集電箔との密着強度が向上する。また、水系ベースの正極ペーストを用いて正極合剤層を形成することが出来るため、溶媒そのもののコストを減らすことができるだけでなく、乾燥前正極合剤層を乾燥する際の揮発成分の回収コストも低減できる。即ち、乾燥エネルギーを減少させることができ、環境保護にも優れる。
【0020】
さらに、本実施形態では、正極ペーストの塗布と乾燥を少なくとも一回以上繰り返す。これにより、電池設計より要求された厚さの正極を製造することができる。以下、本実施形態に係る方法の詳細を説明する。
【0021】
(工程(i))
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、リチウム金属複合酸化物と水とを含む正極ペーストを集電箔上に薄膜状に塗布することにより乾燥前正極合剤層を形成する工程を含む。
【0022】
本実施形態に係る正極活物質であるリチウム金属複合酸化物としては、特に限定されないが、例えば、ニッケル含有リチウム酸化物、コバルト含有リチウム酸化物、マンガン含有リチウム酸化物等が挙げられる。ニッケル含有リチウム酸化物としては、例えば、Li
xNi
1-aMe
aO
2(Meは、Mg、Al、Zn、Ca、Cd、Sr、Ba、Co、Mn、Fe、Li及びCuからなる群から選択される少なくとも一種、xは0≦x≦1.2、aは0≦a≦0.5である)などが挙げられる。コバルト含有リチウム酸化物としては、例えば、Li
yCo
1-bMe
bO
2(Meは、Mg、Al、Zn、Ca、Cd、Sr、Ba、Ni、Mn、Fe、Li及びCuからなる群から選択される少なくとも一種、yは0≦y≦1.2、bは0≦b≦0.5である)などが挙げられる。マンガン含有リチウム酸化物としては、例えば、Li
zMn
2-cMe
cO
4(Meは、Mg、Al、Zn、Ca、Cd、Sr、Ba、Co、Ni、Fe、Li及びCuからなる群から選択される少なくとも一種、zは0≦z≦1.2、cは0≦c≦0.5である)などが挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、これらのリチウム金属複合酸化物は水に分散させると塩基性を示す。特にニッケル含有リチウム酸化物の製造時に残存するリチウム化合物は強塩基性を示し、そのpHは14程度である。
【0023】
本実施形態に係る正極ペーストは、溶媒として水を含む。本実施形態では溶媒として水を用い、NMP(N−メチルピロリドン)などの高沸点有機溶媒を用いる必要がないため、溶媒そのもののコストを減らすことができる。さらに、乾燥前正極合剤層を乾燥する際の揮発成分の回収コストの低減(乾燥エネルギーの低減)及び環境配慮にも優れる。本実施形態に係る正極ペーストは、溶媒として水を単独で含んでもよく、アルコール等の水溶性有機溶媒を数%程度含んでもよい。
【0024】
本実施形態に係る正極ペーストのpHは10〜14の範囲であることが好ましく、10.5〜13.5の範囲であることがより好ましい。また、後述するように、本実施形態に係る集電箔の材料はアルミニウムであることが好ましい。本実施形態に係る方法は、塩基性の正極ペーストを両性金属であるアルミニウムを材料とする集電箔へ塗布する場合に特に有効である。即ち、塩基性の正極ペーストを、アルミニウム集電箔へ塗布する場合、乾燥が不十分であると、正極ペースト中の塩基性成分により集電箔が腐食する。しかしながら、本実施形態に係る方法によれば、集電箔の腐食が発生する前に乾燥前正極合剤層を乾燥させ、乾燥前正極合剤層表面の水の気化も促進させるため、集電箔の腐食を抑制することができる。集電箔の腐食の抑制効果をより高めるためには、正極ペーストの塗布直後、例えば塗布後10秒以内から、乾燥前正極合剤層を乾燥させることが好ましい。なお、正極ペーストのpHは、pHメータ(商品名:D−51AC、(株)堀場製作所製)により測定した値とする。
【0025】
本実施形態に係る正極ペーストは、リチウム金属複合酸化物及び水以外にも、結着剤、増粘剤、導電剤等を含むことができる。
【0026】
結着剤としては、水を溶媒として含む正極ペーストとの相溶性又は分散性が良好である高分子材料を用いることができる。該高分子材料としては、形成される正極合剤層に、柔軟性や耐久性を付与させることができる観点から、ゴム系樹脂を主成分とする材料が好ましい。該ゴム系樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ハイスチレンゴム(HSR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、シリコーンゴム等が挙げられる。これらの中でも、ゴム系樹脂としてはスチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0027】
正極ペースト中の結着剤の含有量は、正極ペースト中の正極活物質の含有量を100質量部とした場合、0.5質量部以上、3質量部以下であることが好ましく、1質量部以上、2質量部以下であることがより好ましい。結着剤の含有量が前記範囲内であることにより、正極合剤層を集電箔上に十分に固定させることができ、均質性、導電性が向上する。
【0028】
増粘剤としては、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
導電剤としては、導電性に優れ、非水電解液二次電池の導電剤として用いられている材料であれば、特に限定されない。導電剤としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質材料などが挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、正極ペースト中の導電剤の含有量は、特に限定されない。
【0030】
正極ペーストの調製方法は、増粘剤の増粘作用などの特性が消失しないように調製される限り、特に限定されない。正極ペーストの調製方法の一例を以下に挙げる。水を主体とする水系溶媒に、増粘剤であるCMCを加えて分散させる。さらに、リチウム金属複合酸化物及び導電剤を加えて分散させて、水系分散液を得る。該水系分散液に結着剤を加えて分散させて、正極ペーストを調製する。前記成分の他に、必要に応じて、その他の添加剤を加えてもよい。また、粘度を調節するために、水を主体とする水系溶媒をさらに加えてもよい。
【0031】
集電箔の材料としては、例えばアルミニウム、アルミニウムを含有する合金等を用いることができる。これらの中でも、集電箔の材料としてはアルミニウムが好ましい。これらの材料は一種のみを用いてもよく、二種以上を用いてもよい。集電箔の形状としては、特に限定されないが、例えば平板状、メッシュ状等が挙げられる。集電箔の厚さとしては、特に限定されないが、例えば10μm以上、25μm以下とすることができる。
【0032】
正極ペーストを集電箔上に薄膜状に塗布する方法としては、ダイコーティング法、インクジェット法、スプレーコート法などを用いることができる。なお、薄膜状とは、50μm以下の厚みであることを示す。また、
図1に示すように、正極ペーストの塗布と、後述する乾燥前正極合剤層の乾燥とを一連の装置により行うこともできる。
【0033】
形成される乾燥前正極合剤層の厚さとしては、各工程において形成される乾燥前正極合剤層の厚みとして、それぞれ5μm以上、50μm以下の範囲であることが、後述する乾燥前正極合剤層の乾燥において、乾燥前正極合剤層を早く均一に乾燥させることができるため好ましい。乾燥前正極合剤層の厚さは、それぞれ10μm以上、47μm以下がより好ましく、それぞれ20μm以上、45μm以下がさらに好ましい。
【0034】
(工程(ii))
本実施形態に係る方法は、前記乾燥前正極合剤層を乾燥炉に導入し、乾燥前正極合剤層側より赤外線を照射し且つ熱風を当てて、前記乾燥前正極合剤層形成後30秒以内に乾燥することにより正極合剤層を形成する工程を含む。
【0035】
乾燥炉としては、乾燥前正極合剤層側、即ち乾燥前正極合剤層の表面側に対し赤外線を照射し且つ熱風を当てることができればその構成は特に限定されない。例えば、
図1に示される乾燥炉4のように、乾燥前正極合剤層が形成された側に、複数の赤外線ヒーター10と熱風チャンバー11とを交互に備える装置を用いることができる。
【0036】
本実施形態における赤外線ヒーター温度、熱風温度、風速等は、塗布する正極ペーストの水分量、正極合剤層の単位面積当たりの質量、塗布速度などに依存するため、これらに基づいて乾燥時間が30秒以内になるように最適化することが好ましい。なお、ここで言う乾燥時間とは、乾燥前正極合剤層の形成後から乾燥前正極合剤層中の水分等の溶剤が蒸発するまでの時間を指す。溶剤の蒸発については、乾燥炉中の乾燥前正極合剤層の温度を計測することにより判断することができる。乾燥時間は25秒以内であることが好ましく、20秒以内であることがより好ましく、15秒以内であることがさらに好ましい。また、乾燥時間は5秒以上であることができる。
【0037】
乾燥前正極合剤層の表面に対して赤外線を照射する手段としては、一般的な赤外線ヒーターを用いることができる。乾燥前正極合剤層は薄膜状であるため赤外線はその内部にまで到達し、乾燥前正極合剤層は内部からも加熱される。早期に塗膜の内部温度を上昇させる観点から、赤外線ヒーター温度は200℃以上、330℃以下が好ましく、250℃以上、300℃以下がより好ましい。
【0038】
熱風温度は110℃以上、150℃以下が好ましく、120℃以上、140℃がより好ましい。また、熱風は弱風であることが好ましい。例えば、熱風の風速は、3m/s以上、20m/s以下が好ましく、5m/s以上、15m/s以下がより好ましい。熱風により溶剤は乾燥前正極合剤層の表面から蒸発し始める。溶剤は乾燥前正極合剤層の内部から表層に向かって流動して行くため、正極合剤層内部は均一に乾燥する。なお、熱風温度が高い、または熱風の風速が速いため、乾燥前正極合剤層表面の乾燥が速い場合、表層が乾燥され過ぎて表層割れ等により均一な正極の製造が困難となる場合がある。
【0039】
また、乾燥前正極合剤層に対し乾燥前正極合剤層側より赤外線を照射し且つ熱風を当てることに加え、乾燥前正極合剤層を集電箔側から冷却することが好ましい。集電箔側、即ち乾燥前正極合剤層の裏面側から冷却することにより、集電箔界面の乾燥前正極合剤層の温度の上昇によって反応が活発になる正極ペーストによる集電箔の腐食反応を抑制することができる。この結果、集電箔が腐食されることなく、均一な電極を効率よく製造することができる。
【0040】
冷却には冷風を用いることができる。冷風温度は室温に近い温度であることが好ましい。例えば、冷風温度は15℃以上、35℃以下が好ましく、20℃以上、30℃以下がより好ましい。また、冷風は弱風であることが好ましい。例えば、冷風の風速は、3m/s以上、20m/s以下が好ましく、5m/s以上、15m/s以下がより好ましい。これによって乾燥前正極合剤層と集電箔との界面の温度を低下させることができ、腐食反応をより抑制することができる。なお、冷風温度が低すぎる、または、冷風が強すぎる場合、乾燥前正極合剤層の全体温度が低くなり、乾燥時間が長くなるため、均一な正極の製造が困難となる場合がある。
【0041】
乾燥時の乾燥前正極合剤層の温度は、水分が沸騰する温度を下限として出来るだけ高温にすることが好ましく、例えば、100℃以上、200℃以下が好ましい。
【0042】
(工程(iii)、(iv))
本実施形態に係る方法は、(iii)前記正極合剤層上に前記正極ペーストを薄膜状に更に塗布することにより乾燥前正極合剤層を形成する工程と、(iv)前記工程(iii)で得られた乾燥前正極合剤層を前記工程(ii)と同様に乾燥することにより正極合剤層を形成する工程と、を含む。
【0043】
工程(iii)は、工程(i)と同様に行うことができる。なお、工程(i)で用いた正極ペーストを用いれば、正極ペーストの塗布方法や塗布条件、形成する乾燥前正極合剤層の厚み等は工程(i)と異なっていてもよい。また、工程(iv)は、工程(ii)と同様に行うことができる。なお、乾燥前正極合剤層を乾燥炉に導入し、乾燥前正極合剤層側より赤外線を照射し且つ熱風を当てて、乾燥前正極合剤層形成後30秒以内に乾燥させれば、乾燥方法や乾燥条件等は工程(ii)と異なっていてもよい。
【0044】
本実施形態に係る方法では、工程(iii)及び工程(iv)を少なくとも一回以上行う。これにより、電池設計より要求された厚さの正極を製造することができる。
【0045】
工程(iii)および工程(iv)を繰り返す回数としては、特に限定されないが、1回以上、10回以下が好ましく、2回以上、8回以下がより好ましく、3回以上、5回以下がさらに好ましい。最終的に得られる正極合剤層の厚みとしては、100μm以上、300μm以下が好ましく、150μm以上、250μm以下がより好ましい。
【0046】
[リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態に係る方法により製造される。また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を備える。該リチウムイオン二次電池の構成は、正極として本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を備えていれば特に限定されない。例えば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、非水電解質とを備えることができる。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、電池の内部抵抗が低減されているため高出力である特徴を有する。
【実施例】
【0047】
以下に実施例と比較例を用いて本実施形態の詳細について説明するが、本実施形態はかかる実施例に限定されない。
【0048】
(乾燥装置)
本実施例に用いた乾燥装置を
図1に示す。乾燥炉長が合計12mであり、4mごとの3ゾーンに分かれて乾燥条件の設定が可能なロールトゥーロール装置に、赤外線ヒーター10と熱風を送る熱風チャンバー11および12とを備える装置を使用した。熱風チャンバーとしては、乾燥前正極合剤層に対し上部に設置され、下方向の熱風を送風可能な熱風チャンバー11と、乾燥前正極合剤層に対し下部に設置され、上方向の冷風を送風可能な熱風チャンバー12(冷風用)とを使用した。
【0049】
赤外線ヒーター10の温度設定としては、塗布幅方向および搬送方向ともに同一温度とした。また、熱風については、乾燥前正極合剤層側からの熱風を上熱風、乾燥前正極合剤層の反対側(集電箔側)からの冷風を下冷風と定義した。表1〜4に示す温度、風速および時間にて乾燥前正極合剤層の乾燥を実施した。
【0050】
(剥離強度試験)
製造した正極について、JIS K6854−2に従い180度剥離試験を実施し、該剥離試験に用いたテープ幅で規格化した剥離強度を算出した。なお、各実施例、比較例において正極サンプルを5つ作製し、各正極サンプルについて剥離強度を測定し、該剥離強度の平均値を算出した。
【0051】
[実施例1]
正極活物質と、結着剤と、導電剤と、増粘剤と、溶剤である水とを含む正極ペーストを作製した。まず、ニッケル含有リチウム酸化物(LiNi
0.8Mn
0.1Al
0.1O
2)およびマンガン含有リチウム酸化物(LiMn
1.9Li
0.1O
4)を1:4(質量比)の割合で混合し、正極活物質混合粉末を調製した。該正極活物質混合粉末95質量部、導電剤としてのアセチレンブラック3質量部、増粘剤としてのカルボキシルセルロース1質量、およびイオン交換水150質量部を混合した。その後、結着剤としてのスチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)1質量部を加え、さらに混合することにより正極ペーストを調製した。この正極ペーストのpHをpHメータ(商品名:D−51AC、(株)堀場製作所製)にて測定したところ、10.9であった。
【0052】
厚さ20μmのアルミニウムシート上に前記正極ペーストを45μmの厚みで塗布し、乾燥前正極合剤層を形成した。正極ペーストの塗布方法としてはスプレーコート法を用いた。その後、前記乾燥装置を用いて表1に示す条件で乾燥前正極合剤層の乾燥を行った。
【0053】
さらに、前記方法と同様に正極ペーストの塗布、乾燥を3回繰り返し、合計の厚さが180μmの正極合剤層を形成した。これにより正極を得た。得られた正極について前記剥離強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2から5、比較例1から4]
赤外線ヒーター温度、上熱風温度及び風速、下冷風温度及び風速、並びに乾燥時間を表1に示す条件に変更した以外は実施例1と同様に正極を作製し、剥離強度試験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
実施例1から5のように乾燥時間が30秒以内の場合、正極合剤層の密着力が高かった。これに対し、比較例1から4のように乾燥時間が30秒を超える場合、正極合剤層の密着力が低下した。比較例1から4では乾燥工程において、乾燥前正極合剤層と集電箔との間で腐食反応が発生していることが確認された。
【0056】
[実施例6から10、比較例5から8]
乾燥工程において下冷風を当てず、赤外線ヒーター温度、上熱風温度及び風速、並びに乾燥時間を表2に示す条件に変更した以外は実施例1と同様に正極を作製し、剥離強度試験を行った。結果を表2に示す。
【0057】
実施例6から10のように乾燥時間が30秒以内の場合、正極合剤層の密着力が高かった。これに対し、比較例5から8のように乾燥時間が30秒を超える場合、正極合剤層の密着力が低下した。比較例5から8では乾燥工程において、乾燥前正極合剤層と集電箔との間で腐食反応が発生していることが確認された。また、乾燥工程において下冷風を当てない以外は表1に示す実施例、比較例と同様の条件で実施したにも関わらず、剥離強度がやや低下したのは、乾燥工程において乾燥前正極合剤層と集電箔との界面に微小な気泡が発生したためと考えられる。
【0058】
[実施例11から15、比較例9から12]
ニッケル含有リチウム酸化物(LiNi
0.8Mn
0.1Al
0.1O
2)およびマンガン含有リチウム酸化物(LiMn
1.9Li
0.1O
4)を4:1(質量比)の割合で混合し、正極活物質混合粉末を調製した。該正極活物質混合粉末を用いた以外は実施例1と同様に正極ペーストを調製した。この正極ペーストのpHを測定したところ、13.3であった。該正極ペーストを用いた以外は実施例1と同様に乾燥前正極合剤層を形成した。
【0059】
赤外線ヒーター温度、上熱風温度及び風速、下冷風温度及び風速、並びに乾燥時間を表3に示す条件に変更した以外は実施例1と同様に正極を作製し、剥離強度試験を行った。結果を表3に示す。
【0060】
実施例11から15のように乾燥時間が30秒以内の場合、正極合剤層の密着力が高かった。これに対し、比較例9から12のように乾燥時間が30秒を超える場合、正極合剤層の密着力が低下した。比較例9から12では乾燥工程において、乾燥前正極合剤層と集電箔との間で腐食反応が発生していることが確認された。
【0061】
[実施例16、比較例13]
塗工1回目の工程において前記正極ペーストを塗布する際の、乾燥前正極合剤層の厚みを表4に示す値に変更し、乾燥時間を10秒にした以外は、実施例1と同様に正極ペーストを45μmの厚みで塗布・乾燥を3回繰り返し、正極を作製し、剥離強度試験を行った。結果を表4に示す。なお、参考として、実施例1の結果についても合わせて表4に示す。
【0062】
実施例1および16のように各乾燥前正極合剤層の厚みが5μm以上、50μm以下の場合、正極合剤層の密着力が高かった。これに対し、比較例13のように各乾燥前正極合剤層の厚さが50μmを超える場合、早く均一に乾燥させることができずに、正極合剤層の密着力が低下した。比較例13では乾燥工程において、乾燥前正極合剤層と集電箔との間に腐食反応が発生していることが確認された。
【0063】
なお、乾燥工程において上熱風を当てなかった以外は実施例1と同様に正極を作製した場合、乾燥前正極合剤層の加熱および水蒸気の排気を十分に行うことができなかったため、本実施形態における乾燥時間の範囲内に乾燥前正極合剤層を乾燥させることはできず、リチウムイオン二次電池用正極を製造することが出来なかった。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
以上に示したように、本実施形態に係る方法では、水を溶媒とした正極ペーストを集電箔上に薄膜状に塗布し、直ちに乾燥させる。これにより、集電箔が腐食する前に正極ペーストを乾燥させ、正極合剤層を作製することができる。また、この工程を繰り返すことにより、良好な正極を製造することができる。
【0069】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法によれば、乾燥工程における集電箔の腐食を防ぎ、正極合剤層の密着力を向上させることができる。