(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重合開始剤、少なくとも1種の有機溶媒、および少なくとも1種の分子量調節剤の存在下に、少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、および任意選択的に1種または複数のさらなる共重合性モノマーをフリーラジカル重合させることによる、ニトリルゴムを調製するための金属フリーな方法であって、前記分子量調節剤が、C1〜C16アルキルメルカプタンから選択されることを特徴とする、方法。
前記分子量調節剤が、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、およびtert−ドデシルメルカプタンから選択される、請求項1または2に記載の方法。
分子量調節剤として、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオール、2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、および2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオールの混合物が使用される、請求項1または2に記載の方法。
前記重合が、有機溶媒中、70℃〜200℃の温度で10時間以上の半減期を有する少なくとも1種のアゾ重合開始剤の存在下、60℃〜150℃の範囲の温度で行われる、請求項1または2に記載の方法。
前記重合が、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ−tert−ブチルペルオキシド、ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、tert−ブチルクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルアセテート、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジペルベンゾエート、またはtert−ブチルペル−3,5,5−トリメチルヘキサノエートを使用して実施される、請求項1または2に記載の方法。
有機溶媒として、ジメチルアセトアミド、モノクロロベンゼン、トルエン、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、t−ブタノール、イソブチロニトリル、3−プロパノン、ジメチルカーボネート、4−メチルブタン−2−オン、メチルエチルケトン、またはメチル−tert−ブチルエーテルが使用される、請求項1または2に記載の方法。
請求項11に記載の任意選択的に水素化されたニトリルゴム、少なくとも1種の架橋剤、任意選択的に少なくとも1種の充填剤、および任意選択的に1種または複数のさらなるゴム添加剤を含む、加硫可能な混合物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
エマルション中ではなく、有機溶液中で、工業的に有利な重合時間の内に、工業的に使用可能な分子量を有するニトリルゴムを与えるためのフリーラジカル重合が本当に可能であるなどということは、当業者にはまったく予想もできないことであったが、その理由は、これまでに実施されたNBRを溶液重合させようという研究はすべて、妥当な成功をもたらさなかったからである。
【0017】
本発明の方法は、少なくとも1種の有機溶媒および少なくとも1種の分子量調節剤の存在下に実施される。重合を開始させるためには、重合開始剤が使用される。
【0018】
任意選択的に、本発明の方法の後に水素化をすることもできる。
【0019】
本発明の方法を用いれば、NBRを調製するための従来からの乳化重合で必要とされるのと同等の時間の内に、この方法を工業的な実施に適したものとする転化率を得ることが可能となる。そうして得られたニトリルゴムが、完全に塩フリーかつ乳化剤フリーであるというのがメリットである。それとは対照的に、この数十年間、工業的実施では常用されてきた乳化重合においては、乳化剤含量および塩含量の抑制を少なくとも達成するために、強力な洗浄および後処理作業が恒常的に実施されている。
【0020】
本発明の方法は、化合物(i)〜(xi)から選択される少なくとも1種の分子量調節剤の存在下に実施される。
【0021】
好ましいメルカプタン(i)はアルキルメルカプタンであり、特に好ましいのはC
1〜C
16アルキルメルカプタンであるが、それらは分岐状であってもあるいは非分岐状であってもよい。特に好ましいのは、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、およびtert−ドデシルメルカプタンである。tert−ドデシルメルカプタンは、個々の異性体の形態でも、2種以上の異性体の混合物の形態でも使用することができる。
【0022】
好ましいメルカプトアルコール(ii)は、脂肪族または脂環族メルカプトアルコールであり、より詳しくは、2−メルカプト−1−エタノール、3−メルカプト−1−プロパノール、3−メルカプトプロパン−1,2−ジオール(チオグリセロールとも呼ばれる)、4−メルカプト−1−ブタノール、および2−メルカプトシクロヘキサノールである。
【0023】
好ましいメルカプトカルボン酸(iii)は、メルカプト酢酸(スルファニル酢酸とも呼ばれる)、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトブタン二酸(メルカプトコハク酸とも呼ばれる)、システイン、およびN−アセチルシステインである。好ましいメルカプトカルボン酸エステル(iii)は、チオグリコール酸アルキル、より詳しくは、チオグリコール酸エチルヘキシルである。
【0024】
好ましいチオカルボン酸(iv)は、チオ酢酸である。
【0025】
好ましいジスルフィド(v)は、キサントゲンジスルフィドであり、特に好ましいのはジイソプロピルキサントゲンジスルフィドである。
【0026】
好ましいアリル化合物(vii)は、アリルアルコールまたは塩化アリルである。
【0027】
好ましいアルデヒド(viii)は、クロトンアルデヒドである。
【0028】
好ましい脂肪族ハロ炭化水素または芳香脂肪族(araliphatic、アリール脂肪族)ハロ炭化水素(ix)は、クロロホルム、四塩化炭素、ヨードホルム、または臭化ベンジルである。
【0029】
上述の分子量調節剤は、基本的には文献から公知であり(参照:J.Brandrup,E.H.Immergut「Polymer Handbook」(3rd edn.)(John Wiley & Sons,New York,1989)中の、K.C.Berger and G.Brandrup,p.II/81〜II/141)、市場で入手することが可能であるが、別な方法として、当業者には周知の文献記載の方法によって調製してもよい(参照:たとえば、Chimie & Industrie,Vol.90(1963),No.4,358〜368、米国特許第A2,531,602号明細書、旧東独国特許第137 307号明細書、旧東独国特許第160 222号明細書、米国特許第A3,137,735号明細書、国際公開第A2005/082846号パンフレット、英国特許第823,824号明細書、英国特許第823,823号明細書、特開平07−316126号公報、特開平07−316127号公報、特開平07−316128号公報)。
【0030】
分子量調節剤の特徴は、重合反応の文脈において、それらが連鎖移動反応を促進し、その結果生成するポリマーの重合度を下げるということにある。上述の重合調節剤には、1個または複数の連鎖移動反応を起こさせることが可能な分子中の官能基の数に応じて、単官能、二官能および多官能の重合調節剤が含まれる。
【0031】
本発明の方法において使用される分子量調節剤は、より好ましくは、個々の異性体の形態にあるか、2種以上の異性体の混合物の形態にある、tert−ドデシルメルカプタンである。
【0032】
tert−ドデシルメルカプタンは、多くの場合、硫化水素を12個の炭素を有するオレフィンと酸触媒的付加反応させることによって調製される。C
12オレフィン出発物質(C
12原料」とも呼ばれる)としては、四量化プロペン(「テトラプロペン」または「テトラプロピレン」とも呼ばれる)、三量化イソブテン(「トリイソブテン」または「トリイソブチレン」とも呼ばれる)、三量化n−ブテン、および二量化ヘキセンをベースとするオリゴマー混合物が主として使用される。
【0033】
本発明の方法における分子量調節剤としては、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオール、2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオール、および上述の異性体の2種以上のあらゆる所望の混合物からなる群より選択される、1種または複数のtert−ドデシルメルカプタンを使用するのが特に好ましい。
【0034】
本発明の方法においては、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオール、2,4,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−2−チオール、および2,3,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−3−チオールを含む混合物を使用するのが特に好ましい。この混合物の調製法は、欧州特許出願公開第A2 162 430号明細書に記載されている。
【0035】
通常は、重合開始剤1モルあたり、1〜5000mol%の分子量調節剤が使用される。重合開始剤1モルあたり、5〜2000mol%の分子量調節剤を使用するのが好ましい。
【0036】
重合開始剤:
本発明の方法は、少なくとも1種の重合開始剤を使用するフリーラジカル重合である。
【0037】
重合開始剤は、典型的には10
−4〜10
−1mol/Lの範囲の量、好ましくは10
−3〜10
−2mol/Lの量で使用する。使用する重合開始剤の量の、使用する分子量調節剤の量に対する比率をバランスさせることによって、反応動力学のみならず、分子構造(分子量、多分散性)にも特異的に影響を与えることに成功する。
【0038】
使用される重合開始剤は、典型的にはペルオキシド系重合開始剤またはアゾ重合開始剤である。長い分解時間を有するペルオキシド系重合開始剤またはアゾ重合開始剤を使用するのが好ましい。この場合においては、重合のために選択された有機溶媒中、70℃〜200℃、好ましくは80℃〜175℃、より好ましくは85℃〜160℃、特に好ましくは85℃〜150℃の範囲の温度で、10時間以上の半減期を有するペルオキシド系重合開始剤またはアゾ重合開始剤を使用するのが適切であることが見出された。
【0039】
「半減期」の概念は、重合開始剤に関連する当業者にはなじみのあるものである。単なる一例であるが、ある溶媒中で特定の温度で10時間の半減期ということは、具体的には、そのような条件下では、10時間後にはその重合開始剤の半分が、分解されているということを意味している。
【0040】
次の構造式(Ini−1)〜(Ini−6)のアゾ重合開始剤を使用するのが特に好ましい。
【化1】
【0041】
構造式(Ini−1)〜(Ini−6)で表される重合開始剤は、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(Ini−1)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド](Ini−2)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド(Ini−3)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)(Ini−4)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)(Ini−5)、および2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(Ini−6)である。
【0042】
式(Ini−2)および(Ini−3)の重合開始剤を使用するのがとりわけ好ましい。上述の構造式(Ini−1)〜(Ini−6)のアゾ重合開始剤は、たとえば、和光純薬工業株式会社から市販されている。
【0043】
比較的高い平均分子量Mw(重量平均分子量)およびMn(数平均分子量)を有するニトリルゴムを合成したい場合には、それら特定のアゾ重合開始剤(Ini−1)〜(Ini−6)を使用することが特に適切であることが見出された。
【0044】
特に適切なペルオキシド系重合開始剤は、−O−O単位を含む以下のペルオキソ化合物である(それらは、選択された有機溶媒中での半減期に関して上述の定義を満たしている必要がある):過酸化水素、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ二リン酸塩、ヒドロペルオキシド、過酸、過酸エステル、過酸無水物、および2個の有機残基を含むペルオキシド。ペルオキソニ硫酸およびペルオキソニリン酸の塩としては、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウム塩を使用することが可能である。好適なヒドロペルオキシドの例としては以下のものが挙げられる:t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、およびp−メンタンヒドロペルオキシド。好適な、二つの有機残基を有するペルオキシドとしては、以下のものが挙げられる:ジベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシド、ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルペルアセテート、2,5−ジメチルヘキサン2,5−ジペルベンゾエート、t−ブチルペル−3,5,5−トリメチルヘキサノエート。p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、またはピナンヒドロペルオキシドを使用するのが好ましい。
【0045】
溶媒:
本発明の方法は、少なくとも1種の有機溶媒の中で実施される。したがって、その反応系の中には、乳化重合の場合におけるような大量の水は存在しない。より少量の水、すなわち有機溶媒の量を基準にして5重量%まで、好ましくは1重量%までの水がその反応系の中に存在していてもよい。重要なのは、生成してくるNBRポリマーの沈殿が起きないように、存在している水の量を低く維持するべきだということである。明確に宣言しておくが、本発明の方法は、乳化重合ではない。
【0046】
好適な有機溶媒の例としては、以下のものが挙げられる:ジメチルアセトアミド、モノクロロベンゼン、トルエン、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、t−ブタノール、イソブチロニトリル、3−プロパノン、ジメチルカーボネート、4−メチルブタン−2−オン、およびメチルエチルケトン。15.5〜26(MPa)
1/2の間の範囲にあるHildebrand溶解パラメーターδを有する極性溶媒が好ましい(δ=((ΔH
V−RT)/V
m)
1/2[(MPa)
1/2])(V
m=モル体積;ΔH
V=蒸発エンタルピー;R=理想気体定数)。
【0047】
溶媒が適切かどうかにおいて重要なのは、生成したニトリルゴムが、(通常、より低い範囲にある)その反応温度で、完全に溶液の中に留まっているべきであるということである。
【0048】
2種以上の有機溶媒の混合物を使用することも、同様に可能である。
【0049】
上記の要件を満たし、アクリロニトリルの沸点よりも低い沸点を有する溶媒、たとえばメチルtert−ブチルエーテル(MTBE)を使用することもまた可能である。
【0050】
温度:
本発明の方法は、典型的には60℃〜150℃の範囲、好ましくは70℃〜130℃の範囲、より好ましくは80℃〜120℃の範囲、特に好ましくは90℃〜110℃の範囲の温度で実施される。選択された温度がさらに低いと、重合もそれ相応に遅くなる。顕著に高い温度では、使用した重合開始剤の分解が急速すぎて、分子量が低いポリマーが得られる可能性がある。
【0051】
反応:
本発明の方法の実施では、典型的には、α,β−不飽和ニトリルおよび任意選択的に採用されるその他の共重合性モノマー、溶媒、重合開始剤、ならびにさらには分子量調節剤/重合調節剤を、反応容器に仕込み、次いで、共役ジエンまたはジエンを計量仕込みするようにする。次いで温度を上げることによって、重合を開始させる。
【0052】
コポリマー/ターポリマーの中におけるそれぞれのモノマーを特定の比率とするためには、計量添加において適切な調節(たとえば、後工程で、個別のモノマー、重合開始剤、分子量調節剤、または溶媒をより大量に計量仕込みすることによる)を実施するのが賢明であり、また当業者にはよく知られたことである。このような、後工程で計量添加する方法は、上述の個々の成分について連続てきに実施してもよいし、あるいは、1回または数回に分けて非連続的に実施してもよい。
【0053】
適切な分子量、転化率および所望のPDIに設定するために、本発明の方法の一つの実施態様においては、重合反応の過程で1回または数回に分けて、より大量の重合開始剤または重合調節剤、さらにはより大量の溶媒を後工程で計量添加することが適切であるということが見出された。
【0054】
ニトリルゴム:
本発明はさらに、本発明の方法によって得ることが可能で、完全に塩フリーおよび乳化剤フリーであるニトリルゴムも提供する。
【0055】
この新規な重合プロセスによって提供されるのは、少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、および任意選択的に1種または複数のさらなる共重合性モノマーから誘導される繰り返し単位を有する、任意選択的に水素化されたニトリルゴムである。
【0056】
ニトリルゴム中の共役ジエンは、いかなるタイプのものであってもよい。(C
4〜C
6)共役ジエンを使用するのが好ましい。1,2−ブタジエン、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレン、またはそれらの混合物が特に好ましい。1,3−ブタジエンおよびイソプレンまたはそれらの混合物がさらに特に好ましい。1,3−ブタジエンがとりわけ好ましい。
【0057】
α,β−不飽和ニトリルとしては、あらゆる公知のα,β−不飽和ニトリルを使用することができるが、(C
3〜C
5)α,β−不飽和ニトリル、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルまたはそれらの混合物が好ましい。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0058】
一つの特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとのコポリマーである。
【0059】
さらなる共重合性ターモノマーとしては、たとえば以下のものを使用することが可能である:芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン、α−メチルスチレンおよびビニルピリジン、フッ素含有ビニルモノマー、好ましくはフルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−フルオロメチルスチレン、ビニルペンタフルオロベンソエート、ジフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレン、またはそうでなければ共重合性老化防止性モノマー、好ましくはN−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、およびN−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリン、さらには非共役ジエン、たとえば4−シアノシクロヘキセンおよび4−ビニルシクロヘキセン、あるいは他のアルキン、たとえば1−もしくは2−ブチン。
【0060】
別な方法として、さらなる共重合性ターモノマーとして、カルボキシル基を含む共重合性ターモノマーを使用することも可能であるが、その例としては以下のものが挙げられる:α,β−不飽和モノカルボン酸、それらのエステル、α,β−不飽和ジカルボン酸、それらのモノエステルもしくはジエステル、またはそれらに対応する酸無水物もしくはアミド。
【0061】
α,β−不飽和モノカルボン酸としては、好ましくは、アクリル酸およびメタクリル酸を使用することが可能である。
【0062】
α,β−不飽和モノカルボン酸のエステル、好ましくはそれらのアルキルエステルおよびアルコキシアルキルエステルを採用することもまた可能である。α,β−不飽和モノカルボン酸のアルキルエステル、とりわけC
1〜C
18アルキルエステルが好ましい。特に好ましいのは以下のものである:アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルエステル、とりわけC
1〜C
18アルキルエステル、より詳しくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、およびメタクリル酸2−エチルヘキシル。α,β−不飽和モノカルボン酸のアルコキシアルキルエステルもまた好ましく、より好ましくはアクリル酸もしくはメタクリル酸のアルコキシアルキルエステル、より好ましくはアクリル酸もしくはメタクリル酸のC
2〜C
12アルコキシアルキルエステル、極めて好ましくはアクリル酸メトキシメチル,(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸メトキシメチル。アルキルエステル、たとえば上に挙げたようなものと、アルコキシアルキルエステル、たとえば上に挙げた形態のものとの混合物を使用してもよい。その中のシアノアルキル基のC原子の数が2〜12である、アクリル酸シアノアルキルおよびメタクリル酸シアノアルキル、好ましくはアクリル酸α−シアノエチル、アクリル酸β−シアノエチル、およびメタクリル酸シアノブチルを使用してもよい。その中のヒドロキシアルキル基のC原子の数が1〜12である、アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびメタクリル酸ヒドロキシアルキル、好ましくはアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよびアクリル酸3−ヒドロキシプロピルを使用してもよく、さらには、フッ素置換ベンジル基含有アクリレートまたはメタクリレート、好ましくはアクリル酸フルオロベンジルおよびメタクリル酸フルオロベンジルを使用してもよい。フルオロアルキル基を含むアクリレートおよびメタクリレート、好ましくはアクリル酸トリフルオロエチルおよびメタクリル酸テトラフルオロプロピルを使用してもよい。アミノ基を含むα,β−不飽和カルボン酸エステル、たとえばアクリル酸ジメチルアミノメチルおよびアクリル酸ジエチルアミノエチルを使用してもよい。
【0063】
その他の共重合性モノマーとしては、さらに、α,β−不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、およびメサコン酸を使用することもまた可能である。
【0064】
さらに、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、および無水メサコン酸を使用してもよい。
【0065】
さらに、α,β−不飽和ジカルボン酸のモノエステルまたはジエステルを使用することも可能である。
【0066】
これらのα,β−不飽和ジカルボン酸のモノエステルもしくはジエステルとしては、たとえば、アルキルエステル、好ましくはC
1〜C
10アルキル、より詳しくはエチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、もしくはn−ヘキシルエステル;アルコキシアルキルエステル、好ましくはC
2〜C
12アルコキシアルキル、より好ましくはC
3〜C
8−アルコキシアルキル;ヒドロキシアルキル、好ましくはC
1〜C
12ヒドロキシアルキル、より好ましくはC
2〜C
8ヒドロキシアルキル;シクロアルキルエステル、好ましくはC
5〜C
12シクロアルキル、より好ましくはC
6〜C
12シクロアルキル;アルキルシクロアルキルエステル、好ましくはC
6〜C
12アルキルシクロアルキル、より好ましくはC
7〜C
10アルキルシクロアルキル;アリールエステル、好ましくはC
6〜C
14アリールエステルが挙げられるが、これらのエステルはモノエステルまたはジエステルであり、また、ジエステルの場合には、そのエステルを混合エステルとすることも可能である。
【0067】
特に好ましいα,β−不飽和モノカルボン酸のアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、アクリル酸2−プロピルヘプチル、および(メタ)アクリル酸ラウリルである。アクリル酸n−ブチルを使用するのが、より好ましい。
【0068】
特に好ましいα,β−不飽和モノカルボン酸のアルコキシアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸メトキシメチルである。アクリル酸メトキシエチルを使用するのが、より好ましい。
【0069】
特に好ましいα,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルである。
【0070】
使用されるその他のα,β−不飽和モノカルボン酸のエステルとしては、さらに、たとえば以下のものが挙げられる:ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシメチル)アクリルアミド、およびウレタン(メタ)アクリレート。
【0071】
α,β−不飽和ジカルボン酸モノエステルの例には、以下のものが包含される:
・ マレイン酸モノアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、およびマレイン酸モノ−n−ブチル;
・ マレイン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘプチル;
・ マレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル、およびマレイン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ マレイン酸モノアリールエステル、好ましくはマレイン酸モノフェニル;
・ マレイン酸モノベンジルエステル、好ましくはマレイン酸モノベンジル;
・ フマル酸モノアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、およびフマル酸モノ−n−ブチル;
・ フマル酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびフマル酸モノシクロヘプチル;
・ フマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはフマル酸モノメチルシクロペンチル、およびフマル酸モノエチルシクロヘキシル;
・ フマル酸モノアリールエステル、好ましくはフマル酸モノフェニル;
・ フマル酸モノベンジルエステル、好ましくはフマル酸モノベンジル;
・ シトラコン酸モノアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、およびシトラコン酸モノ−n−ブチル;
・ シトラコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、およびシトラコン酸モノシクロヘプチル;
・ シトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはシトラコン酸モノメチルシクロペンチル、およびシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ シトラコン酸モノアリールエステル、好ましくはシトラコン酸モノフェニル;
・ シトラコン酸モノベンジルエステル、好ましくはシトラコン酸モノベンジル;
・ イタコン酸モノアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、およびイタコン酸モノ−n−ブチル;
・ イタコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、およびイタコン酸モノシクロヘプチル;
・ イタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはイタコン酸モノメチルシクロペンチル、およびイタコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ イタコン酸モノアリールエステル、好ましくはイタコンモノフェニル;
・ イタコン酸モノベンジルエステル、好ましくはイタコンモノベンジル;
・ メサコン酸モノアルキルエステル、好ましくはメサコン酸モノエチルエステル。
【0072】
α,β−不飽和ジカルボン酸ジエステルとしては、上述のモノエステル基をベースとする類似のジエステルを使用することができ、それらのエステル基が、化学的に異なった基であってもよい。
【0073】
さらなる共重合性モノマーとして、1分子あたり二つ以上のオレフィン性二重結合を含むフリーラジカル的重合性化合物を使用することもさらに可能である。そのようなジもしくはポリ不飽和の化合物の例としては以下のものが挙げられる:ポリオールのジもしくはポリ不飽和アクリレート、メタクリレートまたはイタコネート、たとえば、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDODA)、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ブタン−1,4−ジオールジアクリレート、プロパン−1,2−ジオールジアクリレート、ブタン−1,3−ジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールエタンジアクリレート、トリメチロールエタンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、グリセリルジアクリレートおよびトリアクリレート、ペンタエリスリトールジ−、トリ−、およびテトラ−アクリレートもしくはメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ−、ペンタ−およびヘキサ−アクリレートもしくはメタクリレートもしくはイタコネート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールヘキサメタクリレート、ジアクリレートもしくはジメタクリレート、または1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリエチレングリコール、または末端ヒドロキシル基を有するオリゴエステルもしくはオリゴウレタン。ポリ不飽和モノマーとしては、以下のものを使用することもまた可能である:アクリルアミド、たとえば、メチレンビスアクリルアミド、ヘキサメチレン−1,6−ビスアクリルアミド、ジエチレントリアミントリスメタクリルアミド、ビス(メタクリルアミドプロポキシ)エタン、またはアクリル酸2−アクリルアミドエチル。ポリ不飽和ビニル化合物およびアリル化合物の例としては以下のものが挙げられる:ジビニルベンゼン、エチレングリコールジビニルエーテル、フタル酸ジアリル、メタクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレート、またはリン酸トリアリル。
【0074】
そのようなターモノマーを採用すると、重合を高い転化率とすると同時に、比較的に高い平均分子量Mw(重量平均)および/またはMn(数平均)を有し、かつゲルフリーなニトリルゴムを調製することが、有利かつ満足のいくレベルで可能である。
【0075】
得られるNBRポリマーの中における共役ジエンとα,β−不飽和ニトリルとの比率は、広い範囲で変化させてもよい。共役ジエンの比率または合計は、ポリマー全体を基準にして重量で、典型的には40〜90%の範囲、好ましくは50〜85%の範囲である。α,β−不飽和ニトリルの比率または合計は、ポリマー全体を基準にして重量で、典型的には10〜60%、好ましくは15〜50%である。いずれの場合においても、モノマーの比率を合計したものが100重量%となる。追加のモノマーは、その1種または複数のターモノマーの性質に応じて、ポリマー全体を基準にして0%〜40重量%の量で存在させてよい。この場合、1種または複数の共役ジエンおよび/または1種または複数のα,β−不飽和ニトリルの相当する比率を、追加のモノマーの比率で置き換えるが、それぞれの場合において、全部のモノマーの比率を合計して100重量%とする。
【0076】
それらのターモノマーが、三級ラジカルを形成するタイプのモノマー(たとえば、メタクリル酸)である場合には、それらを0%〜10重量%の量で使用するのが適切であることが判った。
【0077】
追加のモノマーについて上に述べた、最大で重量40%までという限度は、モノマーの全量を、反応の開始時または途中に重合バッチの中に計量仕込みするというシナリオ(別の言い方をすれば、ランダムターポリマー系を製造する目的)の場合にのみ、あてはまるということに注意されたい。
【0078】
本発明に従って調製することが可能な任意選択的に水素化されたニトリルゴムのガラス転移温度は、−70℃〜+20℃の範囲、好ましくは−60℃〜10°の範囲に設定する。
【0079】
重合調節剤の濃度を調節することによって、本発明の方法では、所望の分子量と、目標とする分子量分布(狭い分子量分布から広い分子量分布まで、モノモーダルからバイモーダルを経由してマルチモーダル分布まで)を極めて正確に調節することが可能となる。
【0080】
使用されるニトリルゴムは、1.5〜6.0の範囲、好ましくは1.7〜5.0の範囲の多分散性指数PDI=Mw/Mnを有するが、ここでMwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量を表している。
【0081】
水素化:
本発明はさらに、第一の重合工程に続けて、直接的な水素化工程を実施することによる、水素化ニトリルゴムを提供するが、この場合には、従来技術において今日まで採用されているNBRの乳化重合の場合におけるように、ニトリルゴムを予め単離することは必要ない。所望により、水素化反応を、あえて同一の反応器の中で実施してもよい。このことによって、実質的な単純化となり、そのために、HNBRの調製において、コスト的に有利となる。
【0082】
水素化は、均一系または不均一系の水素化触媒を使用して実施してよい。採用される触媒は、典型的にはロジウム、ルテニウム、またはチタンをベースとするものではあるが、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、または銅を、金属としてまたはその他のものとして、好ましくは金属化合物の形態で使用してもよい(たとえば、米国特許第A3,700,637号明細書、独国特許出願公開第A25 39 132号明細書、欧州特許出願公開第A0 134 023号明細書、独国特許出願公開第A35 41 689号明細書、独国特許出願公開第A35 40 918号明細書、欧州特許出願公開第A0 298 386号明細書、独国特許出願公開第A35 29 252号明細書、独国特許出願公開第A34 33 392号明細書、米国特許第A4,464,515号明細書、および米国特許第A4,503,196号明細書を参照されたい)。
【0083】
均一相における水素化のために好適な触媒および溶媒は、以下において記述するし、独国特許出願公開第A25 39 132号明細書および欧州特許出願公開第A0 471 250号明細書からも公知である。
【0084】
選択的水素化は、たとえば、ロジウム含有またはルテニウム含有触媒の存在下で達成することができる。たとえば、次の一般式の触媒を使用してよいが、
(R
1mB)
lMX
n
ここで、Mは、ルテニウムまたはロジウムであり、R
1は、それぞれの場合で同一であっても異なっていてもよく、C
1〜C
8アルキル基、C
4〜C
8シクロアルキル基、C
6〜C
15アリール基、またはC
7〜C
15アラルキル基であり、Bは、リン、ヒ素、硫黄またはスルホキシド基S=Oであり、Xは水素またはアニオン、好ましくはハロゲン、より好ましくは塩素または臭素であり、lは2、3または4であり、mは2または3であり、かつnは1、2または3、好ましくは1または3である。好適な触媒は、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、およびトリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリド、さらには式((C
6H
5)
3P)
4RhHのテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウム水素化物および、そのトリフェニルホスフィンの一部または全部をトリシクロヘキシルホスフィンで置換したそれに対応する化合物である。触媒の使用量は少量でよい。その量を、ポリマーの重量を基準にして、0.01〜1重量%の範囲、好ましくは0.03〜0.5重量%の範囲、より好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲とするのが好適である。
【0085】
典型的には、その触媒を助触媒と共に使用するのが賢明であるが、その助触媒は、式R
1mBの配位子であり、ここでR
1、mおよびBは、先に触媒について述べた定義を有する。好ましくは、mが3であり、Bがリンであり、残基R
1は同一であっても異なっていてもよい。対象となっている助触媒は、トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリール−モノアルキル、ジアリール−モノシクロアルキル、ジアルキル−モノアリール、ジアルキル−モノシクロアルキル、ジシクロアルキル−モノアリール、またはジシクロアルキル−モノアリール残基を有しているのが好ましい。
【0086】
助触媒の例は、たとえば米国特許第A4,631,315号明細書に見出される。好適な助触媒は、トリフェニルホスフィンである。助触媒は、水素化されたニトリルゴムの重量を基準にして、0.3〜5重量%の範囲、好ましくは0.5〜4重量%の範囲の量で使用するのが好ましい。ロジウム含有触媒の助触媒に対する重量比は、水素化されたニトリルゴム100重量部を基準にして、好ましくは(1:3)〜(1:55)の範囲、より好ましくは(1:5)〜(1:45)の範囲であり、また、助触媒を、水素化されたニトリルゴム100重量部あたり、適切には0.1〜33重量部、好ましくは0.5〜20、極めて好ましくは1〜5重量部、特には2重量部よりは多いが5重量部未満の助触媒を使用する。
【0087】
この水素化の実施は、米国特許第A6,683,136号明細書からも、当業者には周知である。それは、典型的には、トルエンまたはモノクロロベンゼンのような溶媒の中で、100℃〜150℃の範囲の温度と50〜150バールの範囲の圧力で2〜10時間かけて、水素化されるニトリルゴムに水素を作用させることによって達成される。
【0088】
本発明の目的のための水素化とは、元々のニトリルゴムの中に存在していた二重結合を、少なくとも50%、好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%、特別には90〜100%の程度にまで反応させることと理解されたい。
【0089】
不均一系触媒を使用するならば、それは、典型的にはパラジウムをベースとする担持触媒であって、たとえば木炭、シリカ、炭酸カルシウム、または硫酸バリウムの上に担持されている。
【0090】
重合調節剤の手段によって、得られるポリマーの分子量を調節することが容易となるために、低分子量かつ低ムーニー粘度のNBR反応生成物(および、さらには下流側の追加の水素化を用いた、HNBR生成物も同様に)を調製することが可能であり、HNBRの場合におけるような、水素化の前にさらなるプロセス工程において、その分子量を(たとえば、素練り、化学分解またはメタセシスによって)意図的に低下させることを自動的に実施する必要はない。言うまでもないことであるが、所望により、このタイプのさらなる分子量の低減を、特にメタセシスによって起こさせてもよいが、それについては、たとえば国際公開第A−02/100941号パンフレット、さらには国際公開第A−02/100905号パンフレットから当業者には公知である。
【0091】
そのニトリルゴムが乳化重合によって得られた任意選択的に水素化されたニトリルゴムに比較すると、本発明に従って得ることが可能なニトリルゴムおよびさらにはそれに対応する水素化ニトリルゴムのいずれもが、完全にそれらが乳化剤フリーであり、さらには、乳化重合の後にニトリルゴムを沈降させる目的でラテックスをコアグレート化させるのに通常採用される種類の塩をまったく含まないという特徴を有している。
【0092】
本発明のニトリルゴムおよびそれに対応する水素化ニトリルゴムを使用してさらに、加硫可能な混合物を調製することもできる。それらの加硫可能な混合物には、本発明に従って調製された任意選択的に水素化されたニトリルゴム、ならびに少なくとも1種の架橋剤および任意選択的にさらに少なくとも1種の充填剤が含まれる。
【0093】
任意選択的に、このタイプの加硫可能な混合物が、当業者にはなじみのある、ゴムのための1種または複数の添加剤をさらに含んでいることも可能である。それらの添加剤としては、以下のものが挙げられる:老化防止剤、加硫戻り防止剤、光安定剤、オゾン保護剤、加工助剤、可塑剤、鉱油、粘着付与剤、発泡剤、染料、顔料、ワックス、樹脂、エクステンダー、有機酸、加硫遅延剤、金属酸化物、さらには、充填剤活性化剤たとえば、トリエタノールアミン、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ヘキサントリオール、もしくは脂肪族トリアルコキシシラン、またはゴム産業において公知のその他の添加剤(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,VCH Verlagsgesellschaft mbH,D−69451,Weinheim,1993,Vol.A23,”Chemicals and Additives”,pp.366〜417)。
【0094】
好適な架橋剤としては、たとえば、以下のものが挙げられる:ペルオキシド系架橋剤たとえば、ビス(2,4−ジクロロベンゾイル)ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(4−クロロベンゾイル)ペルオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブテン、4,4−ジ−tert−ブチルペルオキシノニルバレレート、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルクミルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、および2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシ−3−イン。
【0095】
これらのペルオキシド系架橋剤に加えて、他の添加剤を同様に使用するのも有利となりうるが、それらは、架橋収率を向上させるために採用することができ、そのような添加剤の適切な例としては以下のものが挙げられる:トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アクリル酸亜鉛、二アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、二メタクリル酸亜鉛、1,2−ポリブタジエン、またはN,N’−m−フェニレンジマレイミド。
【0096】
その1種または複数の架橋剤の全量は、任意選択的に水素化されたニトリルゴムを基準にして、典型的には1〜20phrの範囲、好ましくは1.5〜15phrの範囲、より好ましくは2〜10phrの範囲である。
【0097】
架橋剤としては、元素状で、可溶性または不溶性の形態にある硫黄、または硫黄供与体を使用することもまた可能である。
【0098】
好適な硫黄供与体としては、たとえば以下のものを挙げることができる:ジモルホリルジスルフィド(DTDM)、2−モルホリノジチオベンゾチアゾール(MBSS)、カプロラクタムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、およびテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)。
【0099】
本発明の任意選択的に水素化されたニトリルゴムを硫黄加硫する場合においても同様に、架橋収率の向上に寄与することが可能な他の添加剤を使用することもできる。しかしながら、原則的には、硫黄または硫黄供与体のみを用いて架橋を起こさせるのがよい。
【0100】
逆に、本発明の任意選択的に水素化されたニトリルゴムの架橋を、上述の添加剤の存在下のみにおいて、別の言い方をすれば、元素の硫黄または硫黄供与体を添加することなく、起こさせてもよい。
【0101】
採用することが可能な、架橋収率を向上させるのに寄与する適切な添加剤の例としては以下のものが挙げられる:ジチオカルバミン酸塩、チウラム、チアゾール、スルフェンアミド、キサントゲン酸塩、グアニジン誘導体、カプロラクタム、およびチオ尿素誘導体。
【0102】
使用することが可能なジチオカルバミン酸塩としては、たとえば以下のものが挙げられる:ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDBC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDMC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZEPC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(Z5MC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル、およびジイソノニルジチオカルバミン酸亜鉛。
【0103】
使用することが可能なチウラムとしては、たとえば以下のものが挙げられる:テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジメチルジフェニルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、およびテトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)。
【0104】
使用することが可能なチアゾールとしては、たとえば以下のものが挙げられる:2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、亜鉛メルカプトベンゾチアゾール(ZMBT)、および銅2−メルカプトベンゾチアゾール。
【0105】
使用することが可能なスルフェンアミド誘導体としては、たとえば以下のものが挙げられる:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(DCBS)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(MBS)、N−オキシジエチレンチオカルバミル−N−tert−ブチルスルフェンアミド、およびオキシジエチレンチオカルバミル−N−オキシエチレンスルフェンアミド。
【0106】
使用することが可能なキサントゲン酸塩としては、たとえば以下のものが挙げられる:ジブチルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルジブチルキサントゲン酸亜鉛、およびジブチルキサントゲン酸亜鉛。
【0107】
使用することが可能なグアニジン誘導体としては、たとえば以下のものが挙げられる:ジフェニルグアニジン(DPG)、ジ−o−トリルグアニジン(DOTG)、およびo−トリルビグアニジン(OTBG)。
【0108】
使用することが可能なジチオリン酸塩としては、たとえば以下のものが挙げられる:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル残基の鎖長:C
2〜C
16)、ジアルキルジチオリン酸銅(アルキル残基の鎖長:C
2〜C
16)、およびジチオホスホリルポリスルフィド。
【0109】
カプロラクタムとしては、たとえばジチオビスカプロラクタムを使用することができる。
【0110】
チオ尿素誘導体としては、たとえば以下のものを使用することができる:N,N’−ジフェニルチオ尿素(DPTU)、ジエチルチオ尿素(DETU)、およびエチレンチオ尿素(ETU)。
【0111】
同様に添加剤として好適なものとしては、たとえば以下のものが挙げられる:亜鉛ジアミンジイソシアネート、ヘキサメチレンテトラミン、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、および環状ジスルファン。
【0112】
前記添加剤、およびさらには架橋剤は、個別に使用することも、あるいは混合物中で使用することも可能である。ニトリルゴムを架橋するためには、以下の物質を使用するのが好ましい:硫黄、2−メルカプトベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジモルホリルジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、およびジチオビスカプロラクタム。
【0113】
架橋剤および上述の添加剤は、それぞれの場合において、任意選択的に水素化されたニトリルゴムに対して、約0.05〜10phr、好ましくは0.1〜8phr、特に好ましくは0.5〜5phrの量で使用してよい(それぞれの場合において、その活性物質を基準にして、個別に計量添加)。
【0114】
硫黄架橋の場合においては、架橋剤および上述の添加剤に加えて、さらなる有機および/または無機物質も同様に使用してもよいが、そのような物質の例としては以下のものが挙げられる:酸化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、飽和もしくは不飽和の有機脂肪酸およびそれらの亜鉛塩、ポリアルコール、アミノアルコールたとえば、トリエタノールアミン、およびさらには、アミンたとえば、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルエチルアミン、およびポリエーテルアミン。
【0115】
本発明に従って得ることが可能な任意選択的に水素化されたニトリルゴムが、1種または複数のカルボキシル含有ターモノマーの繰り返し単位を有すゴムである場合には、ポリアミン架橋剤を使用し、好ましくは架橋性加硫促進剤の存在下に架橋を起こさせてもよい。ポリアミン架橋剤には制限はないが、ただし、(1)2個以上のアミノ基を有する化合物であるか(任意選択的に、塩の形態であってもよい)、または(2)架橋反応の際に、インサイチューで、2個以上のアミノ基を形成する化合物を形成する化学種である必要がある。その中で少なくとも2個の水素原子がアミノ基で置換されているか、そうでなければヒドラジド構造(後者は、「C(=O)NHNH
2」の構造である)で置換されている、脂肪族または芳香族炭化水素化合物を使用するのが好ましい。
【0116】
このタイプのポリアミン架橋剤(ii)の例としては以下のものが挙げられる:
・ 脂肪族ポリアミン、好ましくはヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタアミン、ヘキサメチレンジアミン−シンナムアルデヒドアダクト、またはヘキサメチレンジアミンジベンゾエート;
・ 芳香族ポリアミン、好ましくは2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、または4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン);
・ 少なくとも二つのヒドラジド構造を有する化合物、好ましくはイソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、またはセバシン酸ジヒドラジド。
【0117】
ヘキサメチレンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0118】
加硫可能な混合物の中におけるポリアミン架橋剤の量は、100重量部の任意選択的に水素化されたニトリルゴムを基準にして、典型的には0.2〜20重量部の範囲、好ましくは1〜15重量部の範囲、より好ましくは1.5〜10重量部の範囲である。
【0119】
架橋性加硫促進剤としては、ポリアミン架橋剤と組み合わせて、当業者には公知の任意のもの、好ましくは塩基性の架橋性加硫促進剤を使用することが可能である。たとえば、テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン(DOTG)、o−トリルビグアニジン、およびジカテコールホウ酸のジ−o−トリルグアニジン塩などが使用できる。アルデヒド−アミン架橋性加硫促進剤たとえば、n−ブチルアルデヒド−アニリンを使用してもよい。架橋性加硫促進剤として特に好ましいのは、少なくとも1種の2環式または多環式アミン塩基である。それらは、当業者には公知である。特に好適なのは、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デス−5−エン(TBD)、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デス−5−エン(MTBD)である。
【0120】
この場合における架橋性加硫促進剤の量は、100重量部の任意選択的に水素化されたニトリルゴムを基準にして、典型的には0.5〜10重量部、好ましくは1〜7.5重量部、特に好ましくは2〜5重量部の範囲である。
【0121】
本発明に従って得ることが可能な任意選択的に水素化されたニトリルゴムが、1種または複数のヒドロキシル含有ターモノマーの繰り返し単位を有するゴムである場合には、少なくとも2個のイソシアネート基を含むイソシアネート架橋剤を使用して、好ましくは架橋性加硫促進剤をさらに存在させて、架橋を起こさせてもよい。
【0122】
その任意選択的に水素化されたニトリルゴムのための架橋剤としては、ダイマー性、トリマー性、オリゴマー性、またはポリマー性のジイソシアネートまたはポリイソシアネートが使用される。本明細書における「ジイソシアネートまたはポリイソシアネート」という表現は、その架橋剤が、1分子の中に、2個以上の遊離の、またはそうでなければ任意選択的にブロックされたイソシアネート基を有しているということを意味しており、「ダイマー性、トリマー性、オリゴマー性またはポリマー性」とは、その架橋剤が、対応する数の、2個、3個、またはそれ以上のモノマー性のモノイソシアネート、ジイソシアネートまたはポリイソシアネートからなっているということを意味している。
【0123】
1分子の中に、アロファネート、ビウレット、ウレトジオン、ウレトンイミン、橋かけカルバメート、カルボジイミド、オキサジアジントリオン、イソシアヌレートまたはイミノオキサジアジンジオンの構造要素と、さらに2個以上の遊離イソシアネート基を有するダイマー性またはトリマー性ジイソシアネートをベースとする架橋剤を使用するのが特に好ましい。これらの化合物はさらに、オリゴマー性またはポリマー性のアロファネート、ビウレット、ウレトジオン、ウレトンイミン、橋かけカルバメート、カルボジイミド、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、またはイミノオキサジアジンジオンの形態(それらの個々の環がさらに結合してオリゴマーまたはポリマーを形成していることを意味している)をとっていてもよい。それらの相当するオリゴマー化または重合は、具体的には、モノマー性イソシアネートとして2個以上の官能基を有するイソシアネートを使用した場合に起きる。
【0124】
原理的には、架橋剤が、モノマー性、オリゴマー性またはポリマー性のジイソシアネートまたはポリイソシアネートの単一のタイプをベースとしていることも可能である。しかしながら、異なったモノマー性、オリゴマー性またはポリマー性のジイソシアネートまたはポリイソシアネートを反応させることによって、上述の構造要素を出現させることもまた可能である。
【0125】
脂肪族または脂環族基を有するモノマー性ジイソシアネートをベースとする環状架橋剤の好適な例は当業者には公知であり、たとえば、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシル1,4−ジイソシアネート、1,1−メチレンビス(4−イソシアナトシクロヘキサン)、1,2−ビス(4−イソシアナトノニル)−3−ヘプチル−4−ペンチルシクロヘキサン、およびヘキサメチレン1,6−ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0126】
少なくとも2個のイソシアネート基を含む架橋剤の量は、ヒドロキシル基を含む任意選択的に水素化されたニトリルゴムを基準にして、典型的には0.2〜25phrの範囲、好ましくは1〜20phr、より好ましくは1.5〜15phrの範囲、特に好ましくは2〜10phrの範囲である。
【0127】
本発明に従って得ることが可能な任意選択的に水素化されたニトリルゴムをベースとする加硫可能な混合物は、原則的には、加硫開始遅延剤も含んでいてもよい。そのようなものとしては、シクロヘキシルチオフタルイミド(CTP)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)、無水フタル酸(PTA)およびジフェニルニトロソアミンが挙げられる。シクロヘキシルチオフタルイミド(CTP)が好ましい。
【0128】
架橋剤または架橋剤の添加とは別に、本発明に従って得ることが可能な任意選択的に水素化されたニトリルゴムには、慣用されるさらなるゴム添加剤を混合してもよい。
【0129】
使用することが可能な充填剤としては、たとえば以下のものを使用することができる:カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土、タルク、カオリン、ベントナイト、カーボンナノチューブ、Teflon(後者は粉体の形状にあるのが好ましい)、またはケイ酸塩。
【0130】
好適な充填剤活性化剤としては、特に、たとえば以下のような有機シランが挙げられる:ビニルトリメチルオキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、または(オクタデシル)メチルジメトキシシラン。さらなる充填剤活性化剤としては、たとえば、トリエタノールアミンおよび74〜10000g/molの分子量を有するエチレングリコールのような表面活性物質が挙げられる。充填剤活性化剤の量は、典型的には、100phrの任意選択的に水素化されたニトリルゴムを基準にして、0〜10phrである。
【0131】
老化防止剤としては、文献から公知の、加硫可能な混合物の老化防止剤を添加することが可能である。それらの防止剤は、任意選択的に水素化されたニトリルゴム100phrあたり、典型的には約0〜10phr、好ましくは0.25〜7.5phr、より好ましくは0.5〜5phrの範囲の量で使用する。
【0132】
好適なフェノール系老化防止剤としては、以下のものが挙げられる:アルキル化フェノール、スチレン化フェノール、立体障害フェノールたとえば、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、エステル基を含む立体障害フェノール、チオエーテル含有の立体障害フェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(BPH)、およびさらには立体障害チオビスフェノール。
【0133】
ニトリルゴムの変色がさほど重要ではない場合には、アミン系の老化防止剤も同様に使用されるが、その例は、ジアリール−p−フェニレンジアミン(DTPD)、オクチル化ジフェニルアミン(ODPA)、フェニル−α−ナフチルアミン(PAN)、フェニル−β−ナフチルアミン(PBN)の混合物であるが、フェニレンジアミンをベースとしたものが好ましい。フェニレンジアミンの例としては、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−1,4−ジメチルペンチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(7PPD)、N,N’−ビス−1,4−(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン(77PD)などが挙げられる。
【0134】
その他の老化防止剤としては、ホスファイトたとえばトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、重合2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(TMQ)、2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)、メチル−2−メルカプトベンズイミダゾール(MMBI)、亜鉛メチルメルカプトベンズイミダゾール(ZMMBI)などが挙げられる。ホスファイトは、一般的には、フェノール系老化防止剤と組み合わせた形で使用される。加硫をペルオキシド系で起こさせる場合には、とりわけTMQ、MBI、およびMMBIが使用される。
【0135】
離型剤としては、たとえば以下のものが考えられる:飽和もしくは部分的に不飽和な脂肪酸およびオレイン酸およびそれらの誘導体(脂肪酸エステル、脂肪酸塩、脂肪族アルコール、脂肪酸アミド)(それらは、混合物の構成成分として使用するのが好ましい)、さらには、型表面に塗布することが可能な製品、たとえば、低分子質量シリコーン化合物をベースとする製品、フルオロポリマーをベースとする製品、およびフェノール樹脂をベースとする製品。
【0136】
混合物の一成分として、100phrの任意選択的に水素化されたニトリルゴムを基準にして、離型剤を、約0〜10phr、好ましくは0.5〜5phrの量で使用する。
【0137】
米国特許第A4,826,721号明細書の教示に従って、ガラスの補強材(繊維)を用いて補強することも可能であり、同様に、脂肪族および芳香族ポリアミド(Nylon(登録商標)、Aramid(登録商標))、ポリエステル、および天然繊維製品のコード、織布、繊維によっても補強される。
【0138】
上述の加硫可能な混合物を架橋させることによって、加硫可能な混合物をベースとする加硫物を調製することができる。架橋は、典型的には、少なくとも1種の架橋剤によるか、そうでなければ光化学的な活性化によるかのいずれかで実施される。
【0139】
光化学的な活性化による架橋の場合においては、UV活性化剤として、当業者には典型的に公知な活性化剤を使用することが可能であるが、それらの例としては以下のものが挙げられる:ベンゾフェノン、2−メチルベンゾフェノン、3,4−ジメチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ビス[2−(1−プロペニル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4−(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、アセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチルフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン、3’−ヒドロキシアセトフェノン、4’−エトキシアセトフェノン、4’−ヒドロキシアセトフェノン、4’−フェノキシアセトフェノン、4’−tert−ブチル−2’,6’−ジメチルアセトフェノン、2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、メチルベンゾイルホルメート、ベンゾイン、4,4’−ジメトキシベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4,4’−ジメチルベンジル、ヘキサクロロシクロペンタジエン、またはそれらの組合せ。
【0140】
加硫は、典型的には、好ましくは射出成形プロセスを採用した成形プロセスの一部として、起こさせる。この場合においては、多種の成形物を得ることができるが、そのような例としては、シール材、キャップ、ホース、膜などを挙げることができる。例えば、以下のようなものを製造することが可能である:O−リングシール、フラットシール、ひだ付きガスケット、シーリングスリーブ、シーリングキャップ、ダスト保護キャップ、プラグシール、断熱ホース(PVCの添加有りおよび無し)、油冷却器ホース、空気取り入れホース、サーボ制御ホース、またはポンプのダイヤフラム。
【実施例】
【0141】
分子量および多分散性指数:
数平均分子量(M
n)および重量平均分子量(M
w)の形の分子量と、さらには多分散性指数とは、DIN 55672−1(パート1:溶媒としてテトラヒドロフランTHF)に従って、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の手段によって求めた。
【0142】
アクリロニトリル含量:
アクリロニトリル含量を求めるために、本発明のニトリルゴムの窒素含量を、DIN 53 625に従ってKjeldahl法によって測定した。
【0143】
ゲル含量:
不溶性画分(「ゲル含量」と呼ばれている)の測定は、室温でメチルエチルケトン(MEK)溶媒中、ポリマー濃度10g/Lでサンプルを22時間溶解させておいてから、25℃で20000rpmの超遠心に1時間かけて行った。
【0144】
以下の実施例の文脈においては、下記の物質を使用する:
TDM:tert−ドデシルメルカプタン(Lanxess Deutschland GmbH;国際公開第A−2008/142037号パンフレットの記載に従い調製)
VAm(登録商標)110:1,1’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)(重合開始剤、和光純薬工業株式会社から入手可能)
V30(登録商標):1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド(重合開始剤、和光純薬工業株式会社から入手可能)
Vulkanox BKF(登録商標):2−[(2−ヒドロキシ−5−メチル−3−tert−ブチルフェニル)メチル]−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール(安定剤、Lanxess Deutschland GmbH製)
【0145】
実施例1および2
VAm110(27.2g;87mmol、0.375phmに相当)および14.5g(0.2phmに相当)のTDMを10 282g(142phmに相当)のモノクロロベンゼンの中に溶解させ、2708gのアクリロニトリル(51.0mol、37phmに相当)を添加し、その溶液を窒素を用いて10分かけて脱気した。そのモノマー/重合開始剤溶液を反応器に移し、密閉し、真空排気/窒素を用いたフラッシングを3回繰り返すことによって酸素フリーの状態とした。3バールの圧力下に、1,3−ブタジエン(4551g;84.3mol、63phmに相当)を計量仕込みし、100℃に加熱することによって反応を開始させた。この温度に到達したところで、重合の開始とみなした。随時にサンプリングする方法で、転化率を重量分析して、重合の進行をモニターした。23時間の重合時間の後、反応器を冷却して25℃とし、過剰の1,3−ブタジエンおよびモノマー類を減圧下での蒸留により除去し、反応器を冷却してから、そのポリマーに、Vulkanox BKFを安定剤として、0.2phm混合した。次いで、高真空下で、溶媒を除去した。38%の転化率が達成された。
【0146】
重合開始剤および溶媒を変化させて、実施例2の重合を同様に実施した(表1参照)。重合条件が実施例1のそれと異なっている場合も表1に同様に示している。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】