(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075790
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】廃棄物中の有価金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/02 20060101AFI20170130BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20170130BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20170130BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20170130BHJP
C04B 7/60 20060101ALI20170130BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20170130BHJP
C22B 15/00 20060101ALN20170130BHJP
C22B 19/30 20060101ALN20170130BHJP
C22B 13/00 20060101ALN20170130BHJP
C22B 43/00 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
C22B7/02 B
C22B1/00 601
C22B3/04
C22B3/44 101A
C22B3/44 101
C04B7/60
B09B3/00 304G
B09B3/00ZAB
!C22B15/00 107
!C22B19/30
!C22B13/00 101
!C22B43/00 102
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-19072(P2014-19072)
(22)【出願日】2014年2月4日
(62)【分割の表示】特願2013-46114(P2013-46114)の分割
【原出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-173188(P2014-173188A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】中野 修一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】花田 隆
(72)【発明者】
【氏名】生田 考
(72)【発明者】
【氏名】不死原 正文
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−210574(JP,A)
【文献】
特開2002−018394(JP,A)
【文献】
特開2008−143728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を原料又は/及び燃料としてエコセメントキルンでエコセメントを焼成し、該エコセメントキルンから排出された燃焼ガスの全量を冷却塔で冷却し、該冷却塔の排ガスに含まれるダストを回収し、該回収したダストを水洗して脱塩するエコセメント製造工程において、
前記エコセメントキルンに金及び銀を含む廃棄物を供給し、
前記水洗後のダストを金及び銀を含むダストとして回収することを特徴とする廃棄物中の有価金属回収方法。
【請求項2】
前記廃棄物に焼却灰を用いることを特徴とする請求項1に記載の廃棄物中の有価金属回収方法。
【請求項3】
前記エコセメントキルンに金、銀及びビスマスを含む廃棄物を供給し、前記水洗後のダストを金、銀及びビスマスを含むダストとして回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃棄物中の有価金属回収方法。
【請求項4】
前記水洗したダストを酸浸出工程及びアルカリ浸出工程に供して前記金及び銀を含むダストを回収することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の廃棄物中の有価金属回収方法。
【請求項5】
前記水洗したダストの一部、又は前記水洗したダストを酸浸出工程及びアルカリ浸出工程に供したダストの一部を前記金及び銀を含むダストとして回収し、残りを前記エコセメントキルンに戻すことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の廃棄物中の有価金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物中の有価金属回収方法に関し、特に、都市ごみ焼却灰、汚泥等の廃棄物に含まれる有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家電に使用される電子基板類をリサイクルし、金、銀、銅、錫、ニッケル等の有価金属が回収されている。また、水銀灯や蛍光灯のリサイクルを通じて水銀の回収も行われている。
【0003】
さらに、特許文献1には、都市ごみ等の廃棄物を破砕機で破砕し、必要に応じて乾燥機で水分除去し、熱分解炉で熱分解させて熱分解残渣を生成し、該熱分解残渣からチャーを選別装置で選別した後微粉化装置で微粉化し、微粉化したチャーを移送手段で移送し、別設備で燃料として燃焼させることで、良質な有価金属やガラス類を回収し得る廃棄物の燃料利用方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、飛灰を脱塩素洗浄し、該脱塩素洗浄した飛灰、亜鉛含有原料、フラックス及び石炭を混合し、乾燥させて粉砕した後、団鉱とし、該団鉱を溶融還元することで有価金属を回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−283430号公報
【特許文献2】特開2007−186761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の技術では、廃棄物等の乾燥粉砕や熱処理等に大量のエネルギーを消費するため、運転コストが高騰する。一方、小規模のバッチ式等の回収装置を用いた場合には、採算面から実現が困難であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、都市ごみ焼却灰、汚泥等の廃棄物に含まれる有価金属を低コストで回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、
廃棄物中の有価金属回収方法であって、廃棄物を原料又は/及び燃料として
エコセメントキルンでエコセメントを焼成し、該エコセメントキルンから排出された燃焼ガスの全量を
冷却塔で冷却
し、該冷却塔の排ガスに含まれるダストを回収し、該回収したダストを水洗して
脱塩するエコセメント製造工程において、前記エコセメントキルンに金及び銀を含む廃棄物を供給し、前記水洗後のダストを金及び銀を含むダスト
として回収することを特徴とする。
また、前記廃棄物に焼却灰を用いることができる。さらに、前記エコセメントキルンに金、銀及びビスマスを含む廃棄物を供給し、前記水洗後のダストを金、銀及びビスマスを含むダストとして回収することができる。
【0009】
本発明によれば、
エコセメント製造工程から有価金属を含むダストを回収するため、別途熱処理等のエネルギーを必要とせず、低コストで有価金属を含むダストを回収することができる。
【0011】
さらに、前記水洗したダストを酸浸出工程及びアルカリ浸出工程に供して
前記金及び銀を含むダストを回収することができ、有価金属濃度の高いダストを回収することができる。
【0012】
また、前記水洗したダストの一部、又は前記水洗したダストを酸浸出工程及びアルカリ浸出工程に供したダストの一部を
前記金及び銀を含むダストとして回収し、残りを前記
エコセメントキルンに戻すことができる。ダストを循環させることにより、有価金属が濃縮したダストを回収することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、都市ごみ焼却灰、汚泥等の廃棄物に含まれる有価金属を低コストで回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る廃棄物中の有価金属回収方法を適用したエコセメントキルン排ガスの処理装置を示す全体構成図である。
【
図2】
図1のエコセメントキルン排ガスの処理装置のHMX処理工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明においては、本発明に係
る方法をエコセメント焼成装置に適用した場合を例にとって説明する。
【0016】
図1は、本発明を適用したエコセメント焼成装置のキルン排ガスの処理装置を示し、この排ガス処理装置1は、ロータリキルン2からの燃焼排ガスの全量を冷却する冷却塔3からの排ガスG1を処理するために設けられ、排ガスG1から粗粉を分離するための分級装置としてのサイクロン4と、サイクロン4からの排ガスG2に含まれる微粉を回収する第1バグフィルタ5と、第1バグフィルタ5からの排ガスG3に消石灰粉等の酸性ガス処理剤GTを添加した後にダストを回収する第2バグフィルタ6と、第2バグフィルタ6の排ガスG4を脱硫・脱硝する脱硫塔8及び脱硝塔9と、脱硫塔8から排出された活性コークスACを加熱再生する再生塔11と、再生塔11の排ガスG7を洗浄する排ガス洗浄工程12と、洗浄後の排ガスから水銀を回収する水銀回収工程13と、高濃度の塩化物を含有するダストD1〜D3をゼロエミッション思想に基づいて処理するHMX処理工程14と、最終排水処理工程15と、HMX処理工程14で分離された有価金属を含むカルシウム澱物CAを分取する分取装置16とで構成される。
【0017】
サイクロン4は、排ガスG1に含まれる粗粉ダストを回収するために備えられ、回収されたダストD1は、HMX処理工程14に送られる。
【0018】
第1バグフィルタ5は、サイクロン4からの排ガスG2に含まれる微粉ダストを回収するために備えられ、回収されたダストD2は、HMX処理工程14に送られる。
【0019】
第2バグフィルタ6は、排ガスG3に脱硫剤として、消石灰粉等の酸性ガス処理剤GTを添加した後、この排ガスG3に含まれるダストD3を回収するために備えられ、回収されたダストD3は、HMX処理工程14に送られる。
【0020】
脱硫塔8は、活性コークスACに排ガスG4を接触させ、排ガスG4に含まれるSOxを活性コークスACに吸着させて除去するために設けられる。排ガス中のSOxは、硫酸として活性コークスACに吸着されて除去される。
【0021】
脱硝塔9は、脱硫塔8からの排ガスG5にアンモニアガス(NH
3)を注入した後、活性コークスACに排ガスG5を接触させ、NH
3によってNOxを窒素に還元して無害化すると共に、排ガスG5に残留するNOxを活性コークスACに吸着させて除去するために設けられる。
【0022】
再生塔11は、活性度が低下した活性コークスACを再生するために備えられ、硫酸、アンモニウム塩等の吸着物質を熱風によって加熱して脱離させて活性度を元に戻す。加熱再生の際には、活性コークスACからの脱離物をパージするため窒素ガスが供給される。
【0023】
排ガス洗浄工程12は、再生塔11からの排ガスG7を洗浄するために備えられ、この洗浄によって、水銀を多く含む廃液W2と、その他の成分を含む廃液W3とに分離する。
【0024】
水銀回収工程13は、排ガス洗浄工程12からの廃液W2に含まれる水銀を回収するために備えられ、排ガス洗浄工程12からの廃液W2を、水銀を含む汚泥Sと、廃液W4とに分離する。
【0025】
HMX処理工程14は、高濃度の塩化物を含有するダストD1〜D3から有価物を回収するために備えられ、
図2に示すように、ダストD1〜D3に水と苛性ソーダを添加して水洗し(ステップS1)、水洗によって発生した塩素を含む廃液W1を最終排水処理工程15に導入し、水洗後の固形分を水と硫酸を用いて酸浸出させる酸浸出工程(ステップS2)に供給する。
【0026】
酸浸出工程(ステップS2)からは、2系統の工程に供給される。浸出残渣はアルカリ浸出工程(ステップS3)へ供給される。浸出液は、亜鉛粉を添加した後、銅回収工程(ステップS4)へ供給される。アルカリ浸出工程(ステップS3)では、苛性ソーダを添加しアルカリ性の状態とし、浸出残渣をカルシウム澱物CAとする一方、浸出液は亜鉛・鉛回収工程(ステップS5)へ供給される。
【0027】
銅回収工程(ステップS4)では、先に添加された亜鉛粉の効果によりイオン化傾向の違いを利用して、銅人工鉱物を析出させて回収すると共に、析出後の残液を亜鉛・鉛回収工程(ステップS5)に供給する。
【0028】
亜鉛・鉛回収工程(ステップS5)では、アルカリ浸出工程(ステップS3)の浸出液及び銅回収工程(ステップS4)の残液の供給を受けて、苛性ソーダ又は硫酸によりpHを10〜12に調整することにより亜鉛・鉛化合物を析出させて回収し、析出後の残液を最終排水処理工程15に導入する。回収された亜鉛・鉛化合物、銅人工鉱物は非鉄金属精錬原料NIとして回収される。
【0029】
図1に戻り、最終排水処理工程15は、排ガス洗浄工程12、水銀回収工程13及びHMX処理工程14の各々からの廃液W3、W4、W1を排水処理して放流するために備えられ、これらの廃液W3、W4、W1に含まれるエコセメント原料に由来する鉄澱物Iを回収する。
【0030】
分取装置16は、HMX処理工程14で分離されたカルシウム澱物CAを分取するために備えられ、分取したカルシウム澱物CAは、有価金属を含むダストMEとして回収される。
【0031】
次に、上記構成を有する排ガス処理装置1の動作について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0032】
ロータリキルン2から排出される600〜900℃の燃焼排ガスを冷却塔3で冷却して150〜200℃とした後、サイクロン4によって排ガスG1に含まれる粗粉(ダストD1)を回収し、第1バグフィルタ5によってサイクロン4からの排ガスG2に含まれる微粉(ダストD2)を回収する。
【0033】
次に、第1バグフィルタ5からの排ガスG3に脱硫剤として消石灰粉等の酸性ガス処理剤GTを添加して排ガスG3中のSOx濃度を低下させ、第2バグフィルタ6によって排ガスG3に含まれるダストD3を回収する。
【0034】
上記回収されたダストD1〜D3をHMX処理工程14に供給し、HMX処理工程14において、上述のように、銅、鉛及び亜鉛を非鉄金属精錬原料NIとして回収すると共に、カルシウムを主成分としたカルシウム澱物CAを回収する。HMX処理工程14にて生じた廃液W1は、最終排水処理工程15へ送られる。
【0035】
HMX処理工程14にて回収されたカルシウム澱物CAは、表1に示すような化学成分を有し、同表には3つのサンプルの化学分析値を示すが、微量の金や銀の貴金属や、商用価値の高いビスマスが存在することが判る。これらの金、銀の濃度は、鉱山で産出される金、銀鉱石の10〜100倍以上の濃度である。
【0037】
そこで、このカルシウム澱物CAを分取装置16で分取し、有価金属を含むダストMEを回収する。カルシウム澱物CAの分取しなかった残りは、最終排水処理工程15からの鉄澱物Iと共に調合原料RMとしてロータリキルン2に戻す。
【0038】
一方、脱硫塔8において、活性コークスACに第2バグフィルタ6からの排ガスG4を接触させ、排ガスG4に含まれるSOxを活性コークスACに硫酸として吸着させて除去する。さらに、脱硫塔8からの排ガスG5にアンモニアガス(NH
3)を注入し、NH
3によってNOxを窒素に還元して無害化すると共に、活性コークスACに排ガスG5を接触させ、排ガスG5に残留するNOxを活性コークスACに吸着させて除去する。この際、排ガスG4に含まれる水銀も活性コークスACに吸着される。清浄化された排ガスG6は、煙突10から大気へ放出される。
【0039】
次に、再生塔11に熱風を導入し、脱硫塔8から排出された活性コークスACを加熱再生する。これによって、活性コークスACから硫酸、水銀、アンモニウム塩等が脱離する。
【0040】
次いで、再生塔11から硫酸、水銀、アンモニウム塩等を含む排ガスG7を排ガス洗浄工程12に導入し、排ガスG7に含まれる活性コークスACのダストと活性コークスから離脱した水銀を回収する。活性コークスACのダストが回収された後の排ガスは、排ガスに含まれる硫酸又は亜硫酸を中和するために再度洗浄され、この洗浄によって生じた廃液W3は、最終排水処理工程15へ送られる。
【0041】
次に、排ガス洗浄工程12から排出された廃液W2を、水銀回収工程13において、水銀を含む濃縮汚泥Sとして回収する。尚、水銀回収工程13にて生じた廃液W4は、最終排水処理工程15へと送られる。
【0042】
最終排水処理工程15へと送られた廃液W1、W3、W4からエコセメント原料に由来する鉄澱物Iを回収した後、残渣を放流する。
【0043】
以上のように、本実施の形態では、焼却灰や汚泥等の各種廃棄物を主原料とするエコセメント原料に由来する金や銀の貴金属、商用価値の高いビスマス等の有価金属を含むダストを回収することができる。
【0044】
尚、上記実施の形態においては、カルシウム澱物CAに金、銀及びビスマスが多く含まれているため、分取装置16によってカルシウム澱物CAを分取したが、排ガス処理装置1のその他の場所からも有価金属を含むダストを回収することができ、例えば、サイクロン4や第1バグフィルタ5あるいは第2バグフィルタ6から排出されたダストD1、D2、D3等から有価金属を含むダストを分取してもよく、カルシウム澱物CAと最終排水処理工程15からの鉄澱物Iとが合流した後、調合原料RMとしてロータリキルン2に戻される手前で調合原料RMを分取して有価金属を含むダストを得ることもでき、その他製造工程のいずれの場所からも分取することができる。
【0045】
また、上記実施の形態においては、本発明に係る廃棄物中の有価金属回収方法をエコセメントプラントに適用した場合を例示したが、廃棄物を原料や燃料として使用するセメント焼成炉から排出された燃焼ガスの全量を冷却する冷却塔と、この冷却塔からの排ガスを処理する排ガス処理装置と、排ガス処理装置で回収されたダストをセメント焼成炉に戻す経路とを有するセメント製造工程であれば、廃棄物由来の有価金属を製造工程内で循環濃縮させ、低コストで効率よく回収することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 排ガス処理装置
2 ロータリキルン
3 冷却塔
4 サイクロン
5 第1バグフィルタ
6 第2バグフィルタ
8 脱硫塔
9 脱硝塔
10 煙突
11 再生塔
12 排ガス洗浄工程
13 水銀回収工程
14 HMX処理工程
15 最終排水処理工程
16 分取装置
AC 活性コークス
CA カルシウム澱物
D1〜D3 ダスト
G1〜G7 排ガス
GT 酸性ガス処理剤
I 鉄澱物
ME 有価金属を含むダスト
NI 非鉄金属精錬原料
S 汚泥
W1〜W4 廃液
RM 調合原料