(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075798
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】適合的ノイズキャンセリングパーソナルオーディオデバイスにおけるスピーカ損傷防止
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20170130BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20170130BHJP
H04M 1/60 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
G10K11/16 H
H04R3/00 310
H04R3/00 320
H04M1/60 D
【請求項の数】25
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-513529(P2014-513529)
(86)(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公表番号】特表2014-521988(P2014-521988A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】US2012037449
(87)【国際公開番号】WO2012166320
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年4月14日
(31)【優先権主張番号】61/493,162
(32)【優先日】2011年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/249,687
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504371240
【氏名又は名称】シラス ロジック、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】クワトラ, ニティン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリックス, ジョン ディー.
【審査官】
渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−104769(JP,A)
【文献】
特開平09−036784(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/041012(WO,A1)
【文献】
特開平11−149292(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/110087(WO,A1)
【文献】
特開2004−007107(JP,A)
【文献】
特開2009−246431(JP,A)
【文献】
特開平03−274898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
H04M 1/02− 1/23
H04R 1/00− 1/08
H04R 1/10
H04R 1/12− 1/14
H04R 1/42− 1/46
H04R 3/00− 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーソナルオーディオデバイスであって、該パーソナルオーディオデバイスは、
パーソナルオーディオデバイス筐体と、
オーディオ信号を再生するために該筐体に設置されているトランスデューサであって、該オーディオ信号は、リスナへの再生のためのソースオーディオと、該トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオサウンドの影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含む、トランスデューサと、
該周囲のオーディオサウンドを示す基準マイクロフォン信号を提供するために該筐体に設置されている基準マイクロフォンと、
該筐体に設置されているエラーマイクロフォンであって、該エラーマイクロフォンは、該トランスデューサの音響出力を示すエラーマイクロフォン信号を提供する、エラーマイクロフォンと、
該筐体内の処理回路であって、該処理回路は、該アンチノイズ信号が、該周囲のオーディオサウンドの実質的なキャンセレーションを引き起こすように、該基準マイクロフォン信号から該アンチノイズ信号を適合的に生成する、処理回路と
を備え、
該処理回路は、該アンチノイズ信号のレベルをモニタすることと、該アンチノイズ信号が、該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することと、該トランスデューサへの損傷が防止されるように、該アンチノイズ信号の生成を調節することとをさらに行い、
該処理回路は、応答を有する適合的フィルタを実装し、該応答は、該エラーマイクロフォン信号における該周囲のオーディオサウンドの存在を低減するための該アンチノイズ信号を成形し、
該処理回路は、該アンチノイズ信号が該トランスデューサに損傷を与えることを決定したことに応答して、(i)該適合的フィルタの応答が一定のままであるように該適合的フィルタの適合を凍結し、(ii)該処理回路が該適合的フィルタの適合を凍結している間に、該アンチノイズ信号を制限または圧縮することによって該アンチノイズ信号を調節し、該調節されたアンチノイズ信号を出力することにより、該トランスデューサへの損傷を防止する、パーソナルオーディオデバイス。
【請求項2】
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過したことを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号を制限または圧縮する、請求項1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
【請求項3】
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が前記第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行う、請求項2に記載のパーソナルオーディオデバイス。
【請求項4】
前記処理回路は、前記第1の制限または前記第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行う、請求項3に記載のパーソナルオーディオデバイス。
【請求項5】
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行い、該処理回路は、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の全帯域幅が第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行い、該処理回路は、該アンチノイズ信号の該低周波成分が該第1の閾値を超過した場合、該適合的フィルタの適合を凍結する、請求項1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
【請求項6】
前記処理回路は、前記第1の制限または前記第1の圧縮の結果の全帯域幅が前記第2の閾値を超過した場合も、前記適合的フィルタの適合を凍結する、請求項5に記載のパーソナルオーディオデバイス。
【請求項7】
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行い、該処理回路は、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の全帯域幅が第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行い、該処理回路は、該第1の閾値または該第2の閾値のうちのいずれかが超過された場合、前記適合的フィルタの適合を凍結する、請求項1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
【請求項8】
前記パーソナルオーディオデバイスは、ダウンリンクオーディオ信号として前記ソースオーディオを受信するためのトランシーバをさらに備えている無線電話機である、請求項1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
【請求項9】
前記パーソナルオーディオデバイスは、オーディオ再生デバイスであり、前記ソースオーディオは、プログラムオーディオ信号である、請求項1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
【請求項10】
適合的ノイズキャンセリングを有するパーソナルオーディオデバイスのトランスデューサへの損傷を防止する方法であって、該方法は、
基準マイクロフォンを用いて、周囲のオーディオサウンドを測定することと、
該測定の結果から、該トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオサウンドの影響を打ち消すためのアンチノイズ信号を適合的に生成することと、
該アンチノイズ信号をソースオーディオ信号と組み合わせることと、
該組み合わせることの結果をトランスデューサに提供することと、
エラーマイクロフォンを用いて、該トランスデューサの該音響出力を測定することであって、該適合的に生成することは、応答を有する適合的フィルタを実装し、該応答は、該トランスデューサの該音響出力の測定の結果において該周囲のオーディオサウンドの存在を低減するための該アンチノイズ信号を成形する、ことと、
該アンチノイズ信号のレベルをモニタすることと、
該アンチノイズ信号が、該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することと、
該トランスデューサへの損傷が防止されるように該アンチノイズ信号を調節することと、
該アンチノイズ信号が該トランスデューサに損傷を与えることを決定したことに応答して、
(i)該適合的フィルタの応答が一定のままであるように該適合的フィルタの適合を凍結することと、
(ii)該適合的フィルタの適合を凍結している間に、該アンチノイズ信号を制限または圧縮することによって該アンチノイズ信号を調節し、該調節されたアンチノイズ信号を出力することにより、該トランスデューサへの損傷を防止することと
を含む、方法。
【請求項11】
前記調節することは、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過したことを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号を制限または圧縮することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記制限または圧縮することは、前記アンチノイズ信号が前記第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行うことを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の制限または前記第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行うことをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行うことと、
該第1の制限または該第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行うことと
をさらに含み、前記凍結は、該アンチノイズ信号の低周波成分が該第1の閾値を超過したことを決定したことに応答して実行される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記凍結はまた、前記第1の制限または前記第1の圧縮の結果の全帯域幅が、前記第2の閾値を超過したことを決定したことに応答して実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行うことと、
該第1の制限または該第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行うことと
をさらに含み、前記凍結は、該アンチノイズ信号の低周波成分が該第1の閾値を超過したことを決定したことに応答して実行され、該凍結は、該第1の閾値または該第2の閾値のうちのいずれかが超過されたことを決定したことに応答して実行される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記パーソナルオーディオデバイスは、無線電話機であり、前記方法は、ダウンリンクオーディオ信号として前記ソースオーディオ信号を受信することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記パーソナルオーディオデバイスは、オーディオ再生デバイスであり、前記ソースオーディオ信号は、プログラムオーディオ信号である、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
パーソナルオーディオデバイスの少なくとも一部分を実装するための集積回路であって、該集積回路は、
リスナへの再生のためのソースオーディオと、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオサウンドの影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含む信号を該トランスデューサに提供するための出力部と、
該周囲のオーディオサウンドを示す基準マイクロフォン信号を受信するための基準マイクロフォン入力部と、
該トランスデューサの音響出力を示すエラーマイクロフォン信号を受信するためのエラーマイクロフォン入力部と、
該アンチノイズ信号が、該周囲のオーディオサウンドの実質的なキャンセレーションを引き起こすように、該基準マイクロフォン信号から該アンチノイズ信号を適合的に生成するための処理回路と
を備え、
該処理回路は、該アンチノイズ信号のレベルをモニタすることと、該アンチノイズ信号が、該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することと、該トランスデューサへの損傷が防止されるように、該アンチノイズ信号の生成を調節することとをさらに行い、
該処理回路は、応答を有する適合的フィルタを実装し、該応答は、該エラーマイクロフォン信号における該周囲のオーディオサウンドの存在を低減するための該アンチノイズ信号を成形し、
該処理回路は、該アンチノイズ信号が該トランスデューサに損傷を与えることを決定したことに応答して、(i)該適合的フィルタの応答が一定のままであるように該適合的フィルタの適合を凍結し、(ii)該処理回路が該適合的フィルタの適合を凍結している間に、該アンチノイズ信号を制限または圧縮することによって該アンチノイズ信号を調節し、該調節されたアンチノイズ信号を出力することにより、該トランスデューサへの損傷を防止する、集積回路。
【請求項20】
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過したことを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号を制限または圧縮する、請求項19に記載の集積回路。
【請求項21】
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が前記第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行う、請求項20に記載の集積回路。
【請求項22】
前記処理回路は、前記第1の制限または前記第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行う、請求項21に記載の集積回路。
【請求項23】
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行い、該処理回路は、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の全帯域幅が第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行い、該処理回路は、該アンチノイズ信号の該低周波成分が該第1の閾値を超過した場合、該適合的フィルタの適合を凍結する、請求項19に記載の集積回路。
【請求項24】
前記処理回路は、前記第1の制限または前記第1の圧縮の結果の全帯域幅が前記第2の閾値を超過した場合も、前記適合的フィルタの適合を凍結する、請求項23に記載の集積回路。
【請求項25】
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定したことに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行い、該処理回路は、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の全帯域幅が第2の閾値を超過したことを決定したことにより、該第1の制限または該第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行い、該処理回路は、該第1の閾値または該第2の閾値のうちのいずれかが超過された場合、前記適合的フィルタの適合を凍結する、請求項19に記載の集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して、ノイズキャンセレーションを含む、例えば、無線電話機のようなパーソナルオーディオデバイスに関し、より詳細には、適合的ノイズキャセリングをなおも提供しながら、出力トランスデューサへの損傷が防止されるパーソナルオーディオデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
無線電話機(例えば、移動/携帯電話)、コードレス電話、および、例えばmp3プレイヤのような他の消費者オーディオデバイスが、広く用いられている。了解度に関するそのようなデバイスの性能は、周囲の音響イベントを測定するためにマイクロフォンを用い、次に、周囲の音響イベントをキャンセルするためにデバイスの出力の中にアンチノイズ信号を挿入するために信号処理を用い、ノイズキャンセリングを提供することによって改善されることができる。
【0003】
存在するノイズのソース(source)およびデバイス自体の位置に応じて、例えば、無線電話機のようなパーソナルオーディオデバイスの周囲の音響環境は大きく変化し得るので、そのような環境の変化を考慮してノイズキャンセリングを適合させることが望ましい。しかし、適合的ノイズキャンセリング回路は、複雑であり得、さらなる電力を消費し、特定の状況の下で望ましくない結果を生じ得る。
【0004】
従って、変わりやすい音響環境においてノイズキャンセレーションを提供する、無線電話機を含むパーソナルオーディオデバイスを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
変わりやすい音響環境においてノイズキャンセレーションを提供するパーソナルオーディオデバイスを提供する上述の目的は、パーソナルオーディオデバイス、操作方法、および集積回路において達成される。
【0006】
パーソナルオーディオデバイスは筐体を含み、トランスデューサが、リスナへの再生のためのソースオーディオ(source audio)と、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオサウンドの影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含むオーディオ信号を再生するために、筐体に設置されている。基準マイクロフォンが、周囲のオーディオサウンドを示す基準マイクロフォン信号を提供するために、筐体に設置されている。パーソナルオーディオデバイスは、基準マイクロフォン信号からアンチノイズ信号を適合的に生成するための適合的ノイズキャンセリング(ANC)処理回路を筐体内にさらに含み、それによって、アンチノイズ信号は、周囲のオーディオサウンドの実質的なキャンセレーションを引き起こす。ANC処理回路は、アンチノイズ信号のレベルをモニタし、アンチノイズ信号が、トランスデューサに損傷を与え得ることを決定し、トランスデューサへの損傷が防止されるように、アンチノイズ信号の生成を調節する。集積回路は、そのようなモニタリングおよび調節を実行する処理回路を含み、方法は、集積回路の動作の方法である。
【0007】
添付の図面に例示されているとおり、本発明の前述の目的、特徴、および利点、ならびに、他の目的、特徴、および利点は、本発明の好ましい実施形態の以下のより詳細な説明から明らかとなる。
本願明細書は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
パーソナルオーディオデバイスであって、該パーソナルオーディオデバイスは、
パーソナルオーディオデバイス筐体と、
オーディオ信号を再生するために該筐体に設置されているトランスデューサであって、該オーディオ信号は、リスナへの再生のためのソースオーディオと、該トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオサウンドの影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含む、トランスデューサと、
該周囲のオーディオサウンドを示す基準マイクロフォン信号を提供するために該筐体に設置されている基準マイクロフォンと、
該筐体内の処理回路であって、該処理回路は、該アンチノイズ信号が、該周囲のオーディオサウンドの実質的なキャンセレーションを引き起こすように、該基準マイクロフォン信号から該アンチノイズ信号を適合的に生成する、処理回路と
を備え、該処理回路は、該アンチノイズ信号のレベルをモニタすることと、該アンチノイズ信号が、該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することと、該トランスデューサへの損傷が防止されるように、該アンチノイズ信号の該生成を調節することとをさらに行う、
パーソナルオーディオデバイス。
(項目2)
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過したことを決定することに応答して、該アンチノイズ信号を制限または圧縮する、項目1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目3)
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が前記第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行う、項目2に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目4)
前記処理回路は、前記信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行う、項目3に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目5)
前記筐体に設置されているエラーマイクロフォンをさらに備え、該エラーマイクロフォンは、前記トランスデューサの音響出力を示すエラーマイクロフォン信号を提供し、前記処理回路は、応答を有する適合的フィルタを実装し、該応答は、該エラーマイクロフォン信号における前記周囲のオーディオサウンドの存在を低減するための前記アンチノイズ信号を成形し、該処理回路は、該アンチノイズ信号が該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することに応答して、該適合的フィルタの適合を凍結する、項目1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目6)
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が前記の第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行い、該処理回路は、該信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行い、該処理回路は、該アンチノイズ信号の該低周波成分が該第1の閾値を超過した場合、該適合的フィルタの適合を凍結する、項目5に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目7)
前記処理回路は、前記信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が前記第2の閾値を超過した場合も、前記適合的フィルタの適合を凍結する、項目6に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目8)
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が前記の第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行い、該処理回路は、該信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行い、該処理回路は、該第1の閾値または該第2の閾値のうちのいずれかが超過された場合、前記適合的フィルタの適合を凍結する、項目5に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目9)
前記パーソナルオーディオデバイスは、ダウンリンクオーディオ信号として前記ソースオーディオを受信するためのトランシーバをさらに備えている無線電話機である、項目1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目10)
前記パーソナルオーディオデバイスは、オーディオ再生デバイスであり、前記ソースオーディオは、プログラムオーディオ信号である、項目1に記載のパーソナルオーディオデバイス。
(項目11)
適合的ノイズキャンセリングを有するパーソナルオーディオデバイスのトランスデューサへの損傷を防止する方法であって、該方法は、
基準マイクロフォンを用いて、周囲のオーディオサウンドを測定することと、
該測定の結果から、該トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオサウンドの影響を打ち消すためのアンチノイズ信号を適合的に生成することと、
該アンチノイズ信号をソースオーディオ信号と組み合わせることと、
該組み合わせることの結果をトランスデューサに提供することと、
該アンチノイズ信号のレベルをモニタすることと、
該アンチノイズ信号が、該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することと、
該トランスデューサへの損傷が防止されるように該アンチノイズ信号を調節することと
を含む、方法。
(項目12)
前記調節することは、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過したことを決定することに応答して、該アンチノイズ信号を制限または圧縮することを含む、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記制限または圧縮することは、前記アンチノイズ信号が前記の第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行うことを含む、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行うことをさらに含む、項目13に記載の方法。
(項目15)
エラーマイクロフォンを用いて、前記トランスデューサの前記音響出力を測定することであって、前記適合的に生成することは、応答を有する適合的フィルタを実装し、該応答は、該トランスデューサの該音響出力の測定の結果において前記周囲のオーディオサウンドの存在を低減するためのアンチノイズ信号を成形する、ことと、
該アンチノイズ信号が該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することに応答して、該適合的フィルタの適合を凍結することと
をさらに含む、項目11に記載の方法。
(項目16)
前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行うことと、
該信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行うことと
をさらに含み、前記凍結は、該アンチノイズ信号の低周波成分が該第1の閾値を超過したことを決定することに応答して実行される、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記凍結はまた、前記信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が、前記第2の閾値を超過したことを決定することに応答して実行される、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行うことと、
該信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行うことと
をさらに含み、前記凍結は、該アンチノイズ信号の低周波成分が該第1の閾値を超過したことを決定することに応答して実行され、該凍結は、該第1の閾値または該第2の閾値のうちのいずれかが超過されたことを決定することに応答して実行される、項目15に記載の方法。
(項目19)
前記パーソナルオーディオデバイスは、無線電話機であり、前記方法は、ダウンリンクオーディオ信号として前記ソースオーディオを受信することをさらに含む、項目11に記載の方法。
(項目20)
前記パーソナルオーディオデバイスは、オーディオ再生デバイスであり、前記ソースオーディオは、プログラムオーディオ信号である、項目11に記載の方法。
(項目21)
パーソナルオーディオデバイスの少なくとも一部分を実装するための集積回路であって、該集積回路は、
リスナへの再生のためのソースオーディオと、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオサウンドの影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含む信号を該トランスデューサに提供するための出力部と、
該周囲のオーディオサウンドを示す基準マイクロフォン信号を受信するための基準マイクロフォン入力部と、
該アンチノイズ信号が、該周囲のオーディオサウンドの実質的なキャンセレーションを引き起こすように、該基準マイクロフォン信号から該アンチノイズ信号を適合的に生成するための処理回路と
を備え、該処理回路は、該アンチノイズ信号のレベルをモニタすることと、該アンチノイズ信号が、該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することと、該トランスデューサへの損傷が防止されるように、該アンチノイズ信号の該生成を調節することとをさらに行う、
集積回路。
(項目22)
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が第1の閾値を超過したことを決定することに応答して、該アンチノイズ信号を制限または圧縮する、項目21に記載の集積回路。
(項目23)
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が前記第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行う、項目22に記載の集積回路。
(項目24)
前記処理回路は、前記信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が、第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行う、項目23に記載の集積回路。
(項目25)
前記トランスデューサの音響出力を示すエラーマイクロフォン信号を受信するためのエラーマイクロフォン入力部をさらに備え、前記処理回路は、応答を有する適合的フィルタを実装し、該応答は、該エラーマイクロフォン信号における前記周囲のオーディオサウンドの存在を低減するための前記アンチノイズ信号を成形し、該処理回路は、該アンチノイズ信号が該トランスデューサに損傷を与え得ることを決定することに応答して、該適合的フィルタの適合を凍結する、項目21に記載の集積回路。
(項目26)
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が前記の第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行い、該処理回路は、該信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行い、該処理回路は、該アンチノイズ信号の該低周波成分が該第1の閾値を超過した場合、該適合的フィルタの適合を凍結する、項目25に記載の集積回路。
(項目27)
前記処理回路は、前記信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が前記第2の閾値を超過した場合も、前記適合的フィルタの適合を凍結する、項目26に記載の集積回路。
(項目28)
前記処理回路は、前記アンチノイズ信号が前記の第1の閾値を超過した低周波成分を有することを決定することに応答して、該アンチノイズ信号の第1の制限または第1の圧縮を行い、該処理回路は、該信号の第1の制限または第1の圧縮の結果の全帯域幅が第2の閾値を超過したことを決定することにより、該第1の制限または第1の圧縮の結果の第2の制限または第2の圧縮を行い、該処理回路は、該第1の閾値または該第2の閾値のうちのいずれかが超過された場合、前記適合的フィルタの適合を凍結する、項目25に記載の集積回路。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による無線電話機10の例示である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態による無線電話機10内の回路のブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態による、
図2のCODEC集積回路20のANC回路30内の信号処理回路および機能ブロックを描いているブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態による、
図3のスピーカ損傷防止回路60の詳細を描いているブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態による、集積回路内の信号処理回路および機能ブロックを描いているブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明を実行するための最良のモード)
本発明は、例えば無線電話機のようなパーソナルオーディオデバイスにおいて実装されることができるノイズキャンセリング技術および回路を包含する。パーソナルオーディオデバイスは、適合的ノイズキャンセリング(ANC)回路を含み、適合的ノイズキャンセリング(ANC)回路は、周囲の音響環境を測定し、周囲の音響イベントをキャンセルするためにスピーカ(または他のトランスデューサ)出力の中に注入される適合的信号を生成する。ANC回路は、アンチノイズ信号のレベルをモニタし、スピーカまたは他のトランスデューサへの損傷が差し迫っているかどうかを決定し、スピーカへの損傷が生じ得る場合、アンチノイズ信号を調節する。
【0010】
ここで
図1を参照すると、無線電話機10が、本発明の実施形態に従って例示され、ヒトの耳5の近くに示されている。例示されている無線電話機10は、本発明の実施形態による技術が使用され得るデバイスの例であるが、しかし、例示されている無線電話機10において、またはこれ以降の図に描かれている回路において具現化されている要素もしくは構成のうちの全てが、請求項に記載されている本発明を実行するために必要とされるわけではないことが理解される。無線電話機10は、例えばスピーカSPKRのようなトランスデューサを含み、スピーカSPKRは、バランスの取れた会話認知を提供するための他のローカルオーディオソース(例えば、呼び出し音、格納されたオーディオプログラム材料、近端音声(すなわち、無線電話機10のユーザの音声)の注入)と共に、無線電話機10によって受け取られた遠い音声、ならびに、無線電話機10による再生を必要とする他のオーディオ(例えば、無線電話機10によって受け取られたウェブページまたは他のネットワーク通信からのソース(source)、ならびに、例えばバッテリ電力低下および他のシステムイベント通知のようなオーディオ指示)を再生する。近い音声マイクロフォンNSが、近端音声を捕捉するために提供され、この近端音声は、無線電話機10から他の会話参加者(複数可)に伝達される。
【0011】
無線電話機10は、適合的ノイズキャンセリング(ANC)回路および機能を含み、適合的ノイズキャンセリング(ANC)回路および機能は、アンチノイズ信号をスピーカSPKRの中に注入し、遠い音声およびスピーカSPKRによって再生される他のオーディオの了解度を向上させる。基準マイクロフォンRが、周囲の音響環境を測定するために提供され、基準マイクロフォンRは、ユーザの口の通常の位置から離して位置決めされ、その結果、近端音声は、基準マイクロフォンRによって生成される信号において最小化される。無線電話機10が耳5の近くにある場合、耳5の近くのスピーカSPKRによって再生されたオーディオと組み合わされた周囲のオーディオの尺度を提供することによりANC動作をさらに向上させるために、第3のマイクロフォン、すなわちエラーマイクロフォンEが提供されている。無線電話機10内の例示的回路14は、オーディオCODEC集積回路20を含み、オーディオCODEC集積回路20は、基準マイクロフォンR、近い音声マイクロフォンNS、およびエラーマイクロフォンEから信号を受信し、他の集積回路(例えば、無線電話機トランシーバを含む無線周波(RF)集積回路12)と接続する。本発明の他の実施形態において、本明細書に開示されている回路および技術は、単一の集積回路の中に組み込まれ得、この単一の集積回路は、パーソナルオーディオデバイス(例えば、MP3プレイヤオンチップ(player−on−a−chip)集積回路)全体を実装するための制御回路および他の機能性を含む。
【0012】
一般的に、本発明のANC技術は、基準マイクロフォンRに衝突する周囲の音響イベント(スピーカSPKRの出力および/または近端音声と対立するものとしての)を測定し、そして、例示されている無線電話機10のANC処理回路は、エラーマイクロフォンEに衝突する同じ周囲の音響イベントも測定することにより、基準マイクロフォンRの出力から生成されるアンチノイズ信号が、エラーマイクロフォンEにおける周囲の音響イベントの振幅を最小化する特性を有するように、基準マイクロフォンRの出力から生成されるアンチノイズ信号を適合させる。音響経路P(z)は、基準マイクロフォンRからエラーマイクロフォンEまで延びているので、ANC回路は、電子音響経路S(z)の除去効果と組み合わされた音響経路P(z)を本質的に推定している。電子音響経路S(z)は、特定の音響環境におけるスピーカSPKRとエラーマイクロフォンEとの間の結合を含み、CODEC IC 20のオーディオ出力回路の応答、および、スピーカSPKRの音響/電気伝達関数を表しており、スピーカSPKRとエラーマイクロフォンEとの間の結合は、耳5の近さおよび構造、ならびに、無線電話機が耳5にしっかりと押圧されていない場合、無線電話機10の近くにあり得る他の物体およびヒトの頭の構造によって影響される。例示されている無線電話機10は、第3の近い音声マイクロフォンNSを有する2マイクロフォンのANCシステムを含むが、本発明の一部の局面は、別個のエラーマイクロフォンおよび基準マイクロフォンを含まないシステム、または、基準マイクロフォンRの機能を実行するために近い音声マイクロフォンNSを用いる無線電話機において実行され得る。さらに、オーディオ再生のためにのみ設計されているパーソナルオーディオデバイスにおいては、近い音声マイクロフォンNSは一般的に含まれず、以下にさらに詳細に記述されている回路における近い音声信号経路は、本発明の範囲を変更することなく省略されることができる。
【0013】
ここで
図2を参照すると、無線電話機10内の回路が、ブロック図において示されている。CODEC集積回路20は、基準マイクロフォン信号を受信し、基準マイクロフォン信号のデジタル表現refを生成するためのアナログデジタル変換器(ADC)21Aと、エラーマイクロフォン信号を受信し、エラーマイクロフォン信号のデジタル表現errを生成するためのADC21Bと、近い音声マイクロフォン信号を受信し、近い音声マイクロフォン信号のデジタル表現nsを生成するためのADC21Cとを含む。CODEC 集積回路20は、スピーカSPKRを駆動するための出力を増幅器A1から生成し、増幅器A1は、コンバイナ26の出力を受信するデジタルアナログ変換器(DAC)23の出力を増幅する。コンバイナ26は、内部オーディオソース24からのオーディオ信号と、ANC回路30によって生成されるアンチノイズ信号とを組み合わせるが、該アンチノイズ信号は、慣例上、基準マイクロフォン信号refにおけるノイズと同じ極性を有し、従って、コンバイナ26によって差し引かれる。コンバイナ26はまた、近い音声信号nsの一部分を注入し、それによって、無線電話機10のユーザは、ダウンリンク音声dsとの適切な関連で彼ら自身の声を聞き、ダウンリンク音声dsは、RF集積回路22から受信され、コンバイナ26によって同じく組み合わされる。近い音声信号は、RF集積回路22にも提供され、アップリンク音声として移動電話サービスプロバイダにアンテナANTを介して送信される。
【0014】
ここで
図3を参照すると、ANC回路30の詳細が、本発明の実施形態に従って示されている。適合的フィルタ32は、基準マイクロフォン信号refを受信し、そして、適合的フィルタ32は、理想的な状況の下で、その伝達関数W(z)をP(z)/S(z)となるように適合してアンチノイズ信号を生成する。適合的フィルタ32の係数は、係数制御ブロック31によって制御され、係数制御ブロック31は、2つの信号の相関関係を用いて適合的フィルタ32の応答を決定し、適合的フィルタ32は、一般的に、最小二乗平均の意味で、基準マイクロフォン信号refの成分とエラーマイクロフォン信号errとの間におけるエラーを最小化する。W係数制御ブロック31によって比較される信号は、フィルタ34Bによって提供される経路S(z)の推定のコピーによって成形された基準マイクロフォン信号refと、エラーマイクロフォン信号errを含む別の信号とである。基準マイクロフォン信号refを経路S(z)の応答の推定のコピー、SE
COPY(z)によって変形し、結果として生じる信号とエラーマイクロフォン信号errとの間の差を最小化して、応答SE
COPY(z)を適用することの影響を基準マイクロフォン信号refから除去するように適合することによって、適合的フィルタ32は、所望の応答のP(z)/S(z)に適合する。W係数制御ブロック31によってフィルタ34Bの出力と比較される信号は、エラーマイクロフォン信号errに加えて、フィルタ応答SE(z)(フィルタ応答SE
COPY(z)は、そのコピーである)によって処理されたダウンリンクオーディオ信号dsの反転された量を含む。ダウンリンクオーディオ信号dsの反転された量を注入することによって、適合的フィルタ32が、エラーマイクロフォン信号errに存在するダウンリンクオーディオの比較的大きな量に適合することが防止され、ダウンリンクオーディオ信号dsの反転されたコピーを経路S(z)の応答の推定を用いて変形することによって、比較の前にエラーマイクロフォン信号errから除去されるダウンリンクオーディオは、エラーマイクロフォン信号errで再生されるダウンリンクオーディオ信号dsの予期されるバージョン(version)と整合するはずである。なぜなら、S(z)の電気的および音響的経路は、エラーマイクロフォンEに到達するために、ダウンリンクオーディオ信号dsによって取られる経路であるからである。
【0015】
上記を実行するために、適合的フィルタ34Aは、SE係数制御ブロック33によって制御される係数を有し、SE係数制御ブロック33は、ダウンリンクオーディオ信号dsと、上述のフィルタリングされたダウンリンクオーディオ信号dsの除去後のエラーマイクロフォン信号errとを比較し、このフィルタリングされたダウンリンクオーディオ信号dsは、適合的フィルタ34Aによってフィルタリングされることにより、エラーマイクロフォンEに送達される予期されるダウンリンクオーディオを表し、コンバイナ36によって適合的フィルタ34Aの出力から除去される。SE係数制御ブロック33は、実際のダウンリンク音声信号dsをエラーマイクロフォン信号errに存在するダウンリンクオーディオ信号dsの成分と関連づける。それによって、適合的フィルタ34Aは、エラーマイクロフォン信号errから差し引かれる場合、ダウンリンクオーディオ信号dsに起因しないエラーマイクロフォン信号errの内容を含む信号をダウンリンクオーディオ信号dsから生成するように適合される。以下にさらに詳細に開示されるように、イベント検出および制御論理38は、本発明の様々な実施形態に従い、様々なイベントに応答して様々な措置を実行する。
【0016】
適合的フィルタ32は、W係数制御部31が、適合的フィルタ32の応答を適合させる環境に依存する様々な周波数において広い範囲のゲインを有することができるので、ANC回路30によって生成されるアンチノイズ信号は、高い振幅を取り得、高い振幅は、特に、スピーカSPKRが貧弱な音響応答を有する低周波において、スピーカSPKRに損傷を与え得る。高い振幅が生じ得るのは、W係数制御部31が、概して、スピーカSPKRの周波数応答にかかわりなく、低周波帯域における適合的フィルタ32のゲインを高めることにより、いかなる低周波の周囲の音響イベントをもキャンセルしようと試みるからである。さらに、低周波信号成分は、高周波成分よりもスピーカSPKRにとって損傷の大きい共振を刺激し得る。従って、スピーカ損傷防止回路60が、アンチノイズ信号を処理することによりスピーカSPKRへの損傷を防止するために、ANC回路20内に含まれる。
【0017】
ここで
図4を参照すると、スピーカ損傷防止回路60の詳細が、本発明の実施形態に従って示されている。入力信号inが、適合的フィルタ32の出力から受信され、倍率器66Aは、可変減衰値atten1を適用し、可変減衰値atten1は、低域通過フィルタ62によって生成される、入力信号inのフィルタリングされたバージョンのレベルを検出する信号レベル検出器64Aによって決定される。低域通過フィルタ62は、入力信号inから高周波成分(例えば、500Hzを上回る周波数成分)を除去し、従って、減衰値atten1は、500Hzを下回る周波数範囲内にある入力信号inにおけるエネルギーによってほとんど完全に決定される。倍率器66Aは、ゲイン制御ブロックを提供し、このゲイン制御ブロックは、入力信号inをフィルタリングすることなく、すなわち、入力信号inのスペクトルを変更することなく、全体的なゲインのみを変更して、入力信号inのレベルを調節する。別の倍率器66Bは、第2のゲイン制御セルを提供し、この第2のゲイン制御セルは、減衰値atten2に従って第1の倍率器66Aの出力のレベルを調節し、減衰値atten2は、第2の信号レベル検出器64Bによって、第1の倍率器66Aのフィルタリングされていない出力から決定される。描かれている実施形態における信号レベル検出器64Aおよび64Bは、閾値検出器である。すなわち、減衰値atten1およびatten2は、信号レベル検出器64Aおよび64Bの入力に到達する対応する信号レベルが、所定の閾値を超過すると適用される。さらに、減衰値atten1およびatten2の信号レベルに対する変化は、そのようなものなので、無限圧縮比が適用される。すなわち、減衰値atten1およびatten2は、対応する信号レベルが、対応する閾値を超過しないことを確実にするように変化する。従って、低域通過フィルタ62、信号レベル検出器64A、および倍率器66Aは、第1のソフトリミッタを形成し、信号レベル検出器64Bおよび倍率器66Bは、第2のソフトリミッタを形成する。本発明の他の実施形態において、圧縮比は、無限を下回り得、閾値検出は、省略され得、それによって、制限するよりむしろ、純粋な圧縮が適用される。
【0018】
さらに、第1のリミッタまたは第2のリミッタのいずれか、または第1のリミッタと第2のリミッタとの両方が、活性である場合、適合的フィルタ制御の方程式は、もはや当てはまらないので、イベント検出および制御ブロック38は、W(z)の適合を凍結するように作用する。すなわち、W係数制御ブロック31は、制限がアンチノイズ信号に対してもはや適用されていないことを、信号レベル検出器64Aと64Bとの両方が、指示するまで、適合的フィルタ32の係数の値を変更することを中止するように信号伝達される。
【0019】
ここで
図5を参照すると、CODEC集積回路20内で実装され得る、本発明の実施形態によるANCシステムのブロック図が示されている。基準マイクロフォン信号refは、デルタ−シグマADC41Aによって生成され、デルタ−シグマADC41Aは、64倍オーバサンプリングで動作し、その出力は、デシメータ42Aにより2の因数によってデシメートされ、32倍オーバサンプリングされた信号を生成する。デルタ−シグマシェーパ43Aは、並列の一対の適合的フィルタステージ44Aおよび44Bの結果として生じる応答が有意な応答を有する帯域の外へイメージのエネルギーを広げる。フィルタステージ44Bは、固定応答W
FIXED(z)を有し、固定応答W
FIXED(z)は、一般的に、通常のユーザ用の無線電話機10の特定の設計のためのP(z)/S(z)の推定における開始点を提供するために予め決定されている。P(z)/S(z)の推定の応答の適合的部分W
ADAPT(z)は、適合的フィルタステージ44Aによって提供され、適合的フィルタステージ44Aは、リーキー(leaky)最小二乗平均(LMS)型の係数コントローラ54Aによって制御される。エラー入力が提供されない場合、応答は、フラットな応答または所定の応答に経時的に正常化することによりリーキーLMS係数コントローラ54Aを適合させるという点で、リーキーLMS係数コントローラ54Aは、リーキーである。リーキーなコントローラを提供することは、特定の環境条件の下で生じ得る長期にわたる不安定性を防止し、一般的に、ANC応答の特定の感知性に対してシステムをよりロバストにする。
【0020】
図3の例においてそうであったように、基準マイクロフォン信号refは、経路S(z)の応答の推定のコピーであるフィルタ応答SE
COPY(z)によって、すなわち、応答SE
COPY(z)を有するフィルタ51によってフィルタリングされ、その出力は、デシメータ52Aにより32の因数によってデシメートされ、ベースバンドオーディオ信号を生成し、このベースバンドオーディオ信号は、無限インパルス応答(IIR)フィルタ53Aを通して、リーキーLMS54Aに提供される。エラーマイクロフォン信号errは、デルタ−シグマADC41Cによって生成され、デルタ−シグマADC41Cは、64倍オーバサンプリングで動作し、その出力は、デシメータ42Bにより2の因数によってデシメートされ、32倍オーバサンプリングされた信号を生成する。
図3のシステムにおいてそうであってように、経路S(z)の推定応答を適用するために適合的フィルタによってフィルタリングされたある量のダウンリンクオーディオdsは、コンバイナ46Cによってエラーマイクロフォン信号errから除去され、コンバイナ46Cの出力は、デシメータ52Cにより32の因数によってデシメートされ、ベースバンドオーディオ信号を生成し、このベースバンドオーディオ信号は、無限インパルス応答(IIR)フィルタ53Bを通して、リーキーLMS54Aに提供される。応答S(z)は、別の並列の一組の適合的フィルタステージ55Aおよび55Bによって生成され、そのうちの一方、フィルタステージ55Bは、固定応答SE
FIXED(z)を有し、そのうちの他方、フィルタステージ55Aは、適合的応答SE
ADAPT(z)を有し、適合的応答SE
ADAPT(z)は、リーキーLMS係数コントローラ54Bによって制御される。適合的フィルタステージ55Aおよび55Bの出力は、コンバイナ46Eによって組み合わされる。上述の伝達関数W(z)の実装と同様に、フィルタ応答SE
FIXED(z)は、一般的に、電気的/音響的経路S(z)に対する様々な動作条件の下での適切な開始点を提供するために既知である所定の応答である。
図5のシステムにおいて、別個の制御値が、適合的フィルタ51を制御するために提供され、適合的フィルタ51は、応答SE
COPY(z)を有し、単一の適合的フィルタステージとして示されている。しかし、適合的フィルタ51は、代替として、2つの並列のステージを用いて実装され得、適合的フィルタステージ55Aを制御するために用いられる同じ制御値が、適合的フィルタ51の実装における適合的ステージを制御するために用いられ得る。リーキーLMS制御ブロック54Bへの入力も、ベースバンドにおけるものであり、該入力は、32の因数によってデシメートするデシメータ52Bによりダウンリンクオーディオ信号dsをデシメートすることによって提供され、該入力は、コンバイナ46Cが、適合的フィルタステージ55Aとフィルタステージ55Bとの組み合わされた出力から生成された信号を除去した後に該提供され、この組み合わされた出力は、別のコンバイナ46Eによって組み合わされている。コンバイナ46Cの出力は、ダウンリンクオーディオ信号dsに起因する成分が除去されたエラーマイクロフォン信号errを表し、コンバイナ46Cの出力は、デシメータ52Bによるデシメーションの後にLMS制御ブロック54Bに提供される。LMS制御ブロック54Bへの他の入力は、デシメータ52Cによって生成されるベースバンド信号である。
【0021】
ベースバンドおよびオーバサンプリングされた信号伝達の上述の構成は、オーバサンプリングされたレートで適合的フィルタステージ44A〜44B、55A〜55B、および適合的フィルタ51を実装することにより与えられるタップ(tap)柔軟性を提供しながら、単純化された制御、および、適合的制御ブロック(例えば、リーキーLMSコントローラ54Aおよび54B)において消費される低減された電力を提供する。
図5のシステムの残りは、コンバイナ46Dを含み、コンバイナ46Dは、ダウンリンクオーディオdsを内部オーディオiaおよび近端音声の一部分と組み合わせ、この近端音声の一部分は、シグマ−デルタADC41Bによって生成され、フィードバック状態を防止するために側音減衰器56によってフィルタリングされている。コンバイナ46Dの出力は、フィルタステージ55Aおよび55Bが有意な応答を有する帯域の外へイメージをシフトするように成形されている入力をフィルタステージ55Aおよび55Bに提供するシグマ−デルタシェーパ43Bによって成形される。
【0022】
本発明の実施形態に従って、コンバイナ46Dの出力は、適合的フィルタステージ44A〜44Bの出力とも組み合わされるが、この適合的フィルタステージ44A〜44Bの出力は、フィルタステージの各々に対して対応するハードミュートブロック(hard mute block)45A、45Bと、ハードミュートブロック45A、45Bの出力を組み合わせるコンバイナ46Aと、ANC動作を開始または終了する場合、アンチノイズチャネルのゲインを増大させるか、または低減するソフトミュート47と、次のソフトリミッタ48とを含む制御チェーンによって処理されてアンチノイズ信号を生成する。次に、アンチノイズ信号は、コンバイナ46Bによってコンバイナ46Dのソースオーディオ出力から差し引かれる。本実施形態において、ソフトリミッタ48は、
図3および
図4を参照して上述されたとおりの、スピーカ損傷防止回路を含む。コンバイナ46Bの出力は、補間器49により2の因数によって挿入が行われ、次に、64xオーバサンプリングレートで操作されるシグマ−デルタDAC50によって再生される。DAC50の出力は、増幅器A1に提供され、増幅器A1は、スピーカSPKRに送達される信号を生成する。
【0023】
イベント検出および制御ブロック38は、例えば、デシメータ52Cの出力(エラーマイクロフォンEにおいて測定される、いかにうまくANCシステムが音響ノイズをキャンセリングしているかを表す)、デシメータ52Aの出力(経路SE(z)によって成形される周囲の音響環境を表す)、ダウンリンクオーディオ信号ds、および近端音声信号nsのような、イベント検出のための様々な入力を受信する。検出された音響イベントまたは他の環境要因(例えば、耳5に対する無線電話機10の位置)に応じて、イベント検出および制御ブロック38は、様々な出力を生成し、これらの様々な出力は、明確さのために
図5には示されていないが、しかし、他の要素の中でもとりわけ、ハードミュートブロック45A〜45Bが適用されるかどうか、ミュート47およびリミッタ48の特性、リーキーLMS制御ブロック54Aおよび54Bが凍結されるか、またはリセットされるかどうか、ならびに、本発明の一部の実施形態において、適合的フィルタ(例えば、適合的フィルタステージ44Bおよび55B)の固定部分のためにどのような固定応答が選択されるかを制御し得る。
【0024】
図5のシステムならびに
図2〜
図4の例示的回路における要素の各々または一部は、論理で直接的に実装されることができるか、または、例えば、演算(例えば、適合的フィルタリングおよびLMS係数計算)を行うプログラム命令を実行するデジタル信号処理(DSP)コアのようなプロセッサによって実装されることができる。DACおよびADCステージは、一般的に、専用の混合性信号回路で実装される一方、本発明のANCシステムのアーキテクチャは、一般的に、ハイブリッドアプローチに適しており、このハイブリッドアプローチにおいて、論理は、例えば、高度にオーバサンプリングされた設計の区分において用いられ得、一方、プログラムコードまたはマイクロコード駆動処理要素は、より複雑ではあるが、しかし、より低速の演算(例えば、適合的フィルタに対するタップを計算すること、および/または、例えば本明細書において記述されたもののような検出されたイベントに応答すること)のために選択される。
【0025】
本発明は、特に、その好ましい実施形態を参照して示され、記述されたが、しかし、前記およびその他は、形態において変化すること、および、本発明の精神および範囲から逸脱することなく細部が、前記およびその他において決められ得ることが当業者によって理解される。