【実施例】
【0014】
ガスセンサの構造
図1は実施例のCOセンサ2の構造を示し、4はアニオン導電性高分子膜で、例えば水酸化物イオン導電性であるが、空気中のCO
2を吸収して一部がHCO
3-イオン導電性等に変化していても良い。アニオン導電性高分子膜4の膜厚は例えば10μm〜100μm程度で、実施例では約28μmで、ポリオレフィン系あるいはポリスチレン系等の固体高分子骨格に、4級アンモニウム基が導入され、アンモニウム基に代えて、4級ホスホニウム基、ピリジニウム基、イミダゾール基等でも良い。
【0015】
6は検知極で、検知極6と向き合うように、アニオン導電性高分子膜4の反対面に対極8(
図2参照)がある。検知極6は、Auと、In
2O
3,SnO
2,またはIn
2O
3-SnO
2(ITO)のいずれかの金属酸化物と、アニオン導電性高分子との混合物である。そして検知極6は、In
2O
3,SnO
2,またはIn
2O
3-SnO
2にAuを担持させた電極触媒に、アニオン導電性を付与するためにアニオン導電性高分子を混合したものである。Auの質量と、金属酸化物とAuとの合計質量との比をAu濃度としてmass%単位で示し、Au濃度は0.5mass%以上10mass%以下、特に1mass%以上で5mass%以下が好ましい。アニオン導電性高分子の質量と、金属酸化物とAuとアニオン導電性高分子との合計質量との比をアニオン導電性高分子濃度としてmass%単位で示し、アニオン導電性高分子濃度は1mass%以上で20mass%以下が好ましい。対極の組成は任意であるが、実施例では検知極6と同じ組成で同じ膜厚の電極とした。
【0016】
金属酸化物の調製
検知極材料の金属酸化物は以下のようにして調製した。金属酸化物がIn
2O
3,SnO
2,ZnO,Co
3O
4の場合、これらの金属の硝酸塩(ただしSnO
2のみ塩化物)の水溶液にアンモニア水を滴下し、水酸化物を沈殿させた。沈殿時のpHはIn
2O
3で3.5,SnO
2で2.0,ZnOとCo
3O
4で8.5とした。沈殿を純水で洗浄し、遠心分離を施し、120℃の空気中で乾燥し、次いで空気中500℃で3時間焼成し、金属酸化物とした。なおMnO
2では、MnSO
4・5H
2OにKMnO
4水溶液を加え、80℃で1時間撹拌することにより沈殿を生成させ、純水洗浄と遠心分離とを施した。次いで120℃で乾燥し、さらに空気中500℃で3時間焼成して、MnO
2とした。ITOでは、InCl
3とSnCl
2・2H
2OとをInとSnとの原子比で10:1で混合し、pH12のアンモニア水中へ滴下して沈殿させ、沈殿を純水で洗浄し、遠心分離を施し、120℃の空気中で乾燥した。次いで空気中500℃で3時間焼成し、ITOとした。ITOでのInとSnの原子比は、例えば25:1〜4:1とする。
【0017】
Auの担持とアニオン導電性高分子の添加
HAuCl
4・4H
2Oの水溶液(濃度1mM)にアンモニア水を加えてpHを4〜5に調整し、焼成済みの金属酸化物とアンモニア水とを加えてpHを7.0とし、70℃で1時間撹拌した。この過程で、Auの微粒子が金属酸化物上に担持される。Auを担持させた金属酸化物に純水洗浄と遠心分離とを施し、空気中110℃で乾燥後に、空気中400℃で1時間の焼成を施した。Au濃度は、Auの質量と、金属酸化物とAuとの合計質量との比で0.5mass%以上で10mass%以下、特に1mass%以上で5mass%以下が好ましい。以上のようにして検知極の電極触媒を調製し、アニオン導電性高分子膜4と同じ組成のアニオン導電性高分子の1-プロパノール溶液を電極触媒と混合し、ペーストとした。このペーストをアニオン導電性高分子膜4の表裏にスクリーン印刷し、50℃で乾燥し、COセンサ2とした。アニオン導電性高分子濃度は金属酸化物がMnO
2以外では5mass%、MnO
2では20mass%としたが、一般には1mass%以上20mass%以下が好ましい。
【0018】
測定方法
図2に測定方法を示し、8は対極で、10はAuメッシュ、12は電圧計で検知極6と対極8間の起電力を測定し、配管14側に検知ガスを、配管16側に空気を、各々100ml/minずつ流した。周囲温度は30℃に固定し、相対湿度は検知ガス側も空気側もほぼ0%の乾燥雰囲気から100%の結露雰囲気までの範囲で変化させた。
【0019】
電極触媒の2次電子顕微鏡写真
電極触媒の2次電子顕微鏡写真を、
図3(2Au/In
2O
3-ACP5mass%)、
図4(2Au/SnO
2-ACP5mass%)、
図5(2Au/ZnO-ACP5mass%)に示す。In
2O
3とSnO
2では2次粒子は塊状で粒度分布が広く、ZnOでは棒状で粒度が揃っている。
【0020】
2Au/In2O3-ACP5mass%電極触媒での特性
図6〜
図11に、2Au/In
2O
3-ACP5mass%電極触媒での特性を示す。なお以下の特性は、湿度依存性の測定を除き、30℃で相対湿度57%の雰囲気で行った。
図6はAuを含まないIn
2O
3-ACP5mass%電極触媒での特性を示し、還元性ガスに対する応答は小さくかつ緩慢で、製造後数週間程度で起電力はドリフトし、応答はやや速くなった。これに対して2mass%のAuを加えると、
図7のように、COへの応答が速くかつ大きくなって、製造直後にはオーバーシュートを示し、かつ水素に対するCOへの選択性が生じ、さらに起電力は経時的に安定していた。2Au/In
2O
3-ACP5mass%電極触媒を用いたセンサでの、応答波形のCO濃度依存性を
図8に示し、500ppm以上のCOでオーバーシュートが生じた。
図9は、同じ電極触媒での、H
2への応答波形を示す。
図10は起電力のCO濃度とH
2濃度への依存性を示し、COではH
2よりも低い濃度から起電力の変化が始まった。
図11はAuを担持したIn
2O
3への熱処理の効果を示し、400℃での熱処理を省略し、110℃での乾燥のみとするか、あるいは100℃での水素中還元を施すと、オーバーシュートは解消した。
【0021】
以上のように、2mass%のAuをIn
2O
3に担持させることにより、CO感度とCOへの応答速度とが増し、H
2に対するCOへの選択性が得られ、製造後の特性のドリフトが小さくなった。またCOへの応答でオーバーシュートが生じたが、Auの担持後の熱処理条件を選択すると、オーバーシュートを小さくできた。さらに2mass%程度のAu濃度で良いので、使用するAuの量を少なくできる。
【0022】
2Au/SnO2-ACP5mass%電極触媒での特性
図12,
図13に、2Au/SnO
2-ACP5mass%電極触媒での特性を示し、Auを担持しないと(
図12)、COへの応答もH
2への応答も僅かである。これに対し2mass%のAuを担持すると、CO感度が増すと共にCO選択性が得られ、COへのオーバーシュートが生じ、製造後の特性のドリフトは小さかった。
【0023】
2Au/ITO-ACP5mass%電極触媒での特性
図14,
図15に、2Au/ITO-ACP5mass%電極触媒での特性を示し、ITOはInとSnとを原子比で10:1で含有している。Auを担持しないと(
図14)、COへの応答もH
2への応答も僅かで、これに対し2mass%のAuを担持すると、CO感度が増し、かつCO選択性が得られた。
【0024】
図16に2Au/In
2O
3-ACP5mass%電極触媒での応答波形の相対湿度依存性を示し、
図17に2Au/SnO
2-ACP5mass%電極触媒での相対湿度依存性を示す。いずれもdry雰囲気では特異な応答波形を示すが、2Au/In
2O
3-ACP5mass%電極触媒では相対湿度が40-100%で湿度依存性は小さく、2Au/SnO
2-ACP5mass%電極触媒では相対湿度が20-100%で湿度依存性は小さい。従って通常の居住雰囲気では、COを小さな湿度依存性で検出できる。
【0025】
1Pd/SnO2-ACP5mass%電極触媒での特性
Auの代わりに他の貴金属を金属酸化物に担持させて、特性を調査した。1mass%のPdをSnO
2に担持させた際の結果を
図18〜
図20に示す。硝酸Pdの水溶液中にSnO
2の粉体を加え、超音波を10分間加えた後に、空気中110℃で乾燥し、粉砕して、水素中350℃で60分間還元し、1mass%のPdを担持するSnO
2を調製した。このSnO
2に、ACP濃度が5mass%となるようにアニオン導電性高分子を混合し、実施例と同様にしてCOセンサとした。製造直後には高いCO感度を示すが、数週間で失活した(
図18)。なお製造直後の起電力のCO濃度依存性は48.9mV/decadeで(
図19)、2Au/In
2O
3-ACP5mass%電極触媒での27.6mV/decadeよりも大きい。
図20に相対湿度依存性を示し、乾燥雰囲気からRH100%まで正常な応答を示すが、相対湿度20%から100%までの起電力の変化が大きく、かつ湿度依存性に規則性がない。従って湿度センサ等で相対湿度を測定しても、湿度依存性の補正が難しい。
【0026】
ZnO,Co
3O
4,MnO
2での特性を
図21,
図22,
図23に示す。2Au/ZnO-ACP5mass%電極触媒を用いると、製造直後はCOに高感度で応答も速いが、数週間で失活した(
図21)。2Au/Co
3O
4-ACP5mass%電極触媒では、COへの応答もH
2への応答も小さく、かつ遅かった(
図22)。2Au/MnO
2-ACP5mass%電極触媒では、COへの応答もH
2への応答も極く小さかった(
図23)。
【0027】
これらのことを整理すると、Pd等の他の貴金属ではなく、Auを金属酸化物に担持させることと、金属酸化物をIn
2O
3,SnO
2,あるいはITOとすることとにより、
・ CO選択性を得、
・ COへの応答を速くし、
・ 製造後の特性のドリフトを小さくすることができた。
【0028】
補足
固体高分子電解質膜にアニオン導電性高分子の代わりにプロトン導電体を用い、あるいは電極触媒中のアニオン導電性高分子を、プロトン導電体に代えると、検知極でのCOの検出に関与する反応は、(1)式から(2)式で表されるものに変化すると考えられる。
CO+2OH
−→CO
2+H
2O+2e
− (1)
CO+H
2O→CO
2+2H
++2e
− (2)
いずれの反応も、Au担持の金属酸化物上でのCOの酸化反応で、(1)式の反応を効率的に行える電極触媒は、(2)式の反応も効率的に行えると考えられる。従って、固体高分子電解質膜にプロトン導電体を用いても良く、また電極触媒中のアニオン導電性高分子をプロトン導電体に代えても良いと考えられる。また実施例の検知極材料にさらに、カーボンブラック等の電子導電体を加えても良い。さらに(1)式の反応を効率的に行える電極触媒では、検知極と対極間の反応電流も増加するので、ガスセンサの起電力を測定する代わりに、反応電流を測定しても良い。検知極と対極間の起電力を測定し、対極は一定の温湿度の空気雰囲気に接触していたので、対極の触媒活性はCOセンサの特性へ僅かしか寄与していないはずである。従って対極はPt-カーボンブラック−固体高分子電解質,RuO
2−カーボンブラック−固体高分子電解質等の在来の電極触媒でも良い。
【0029】
実用的なCOセンサの構造としては、金属缶と封孔体とを有するボタン電池型のパッケージを用い、対極を缶と封孔体の一方に、検知極を他方に接触させ、検知極を設けた側で缶もしくは封孔体にガス導入孔を設ければよい。