(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記振動体の鉛直方向に沿う側面から、該振動体を把持する際に利用される把持部が突出し、該振動体と該振動体を鉛直方向に上下動させる移動手段とが、該把持部を介して連結されており、
前記把持部は、前記振動体が前記上杵の超音波振動に合わせて受動的に同調して振動するときのその振動が最も小さい部分に位置している請求項1に記載の粉体の圧縮成型装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施態様に基づき図面を参照して説明する。本実施態様の圧縮成型装置1は、
図1及び
図2に示すように、皿状の容器S内に収容された粉体40に超音波振動を印加しながら該粉体40を圧縮成型して容器S付きの成型体50を製造する装置であり、鉛直方向(
図1及び
図2の上下方向)に延び且つ容器Sの収容空間として利用される貫通口10を有する臼体11と、該貫通口10に鉛直方向の上方側から挿入され且つ該貫通口10内の該容器S内の粉体40に超音波振動を印加する上杵12と、該貫通口10に鉛直方向の下方側から挿入される下杵15とを備え、上杵12と下杵15とによって粉体40を容器Sごと圧縮可能になされている。下杵15は、容器Sの下面の一部と接触した状態で該容器Sを下方から支持し、臼体11の貫通口10と下杵15とによって容器Sの前記収容空間が画成可能になされている。容器Sと下杵15(振動体16)との間には他の部材は介在されておらず、容器Sと下杵15とは接触している。
【0012】
臼体11は、略円筒状の金属等の剛体からなり、その上端部が水平方向(
図1の左右方向)に張り出してフランジを形成しており、該フランジは成型テーブル30へボルト締め(図示せず)されている。貫通口10は、臼体11の鉛直方向と直交する水平方向の中央に位置し、鉛直方向の上方から見たときに(上面視において)、円形形状をなしている。貫通口10の開口径は、貫通口10の長さ方向(鉛直方向)の全長に亘って一定である。
【0013】
上杵12は、容器S内の粉体を圧縮成型する際に、該粉体に超音波振動を印加する役割、及び該粉体を圧縮するための成型用杵としての役割を担うもので、金属等の剛体からなり、貫通口10の形状に合致した形状をなし、本実施態様においては略円筒形状をなしている。上杵12の上端には超音波振動素子13が取り付けられており、該素子13は移動手段14によって支持されており、これら三者は同一軸線上に位置している。移動手段14は、図示しない支持部材に取り付けられ、そこから垂下している。斯かる構成によって、上杵12及び素子13は上下方向へ一体的に移動可能になされている。移動手段14は特に限定されず、例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ、サーボモータ等の電動モータを用いたボールネジプレス等の機器を用いることができる。尚、移動手段14は、上杵12及び超音波振動素子13に対して同一線上に位置していなくても良い。
【0014】
下杵15は、上杵12の超音波振動に合わせて受動的に同調して振動可能な振動体16を含んで構成されている。振動体16(下杵15)は、貫通口10の形状に合致した形状をなし、本実施態様においては、
図3に示すように円筒状をなしている。下杵15には超音波振動素子は取り付けられておらず、下杵15を構成する振動体16は、それ自体は上杵12のように超音波振動を印加せず、あくまで上杵12の超音波振動に同調して振動するだけである。
【0015】
そして、振動体16の固有振動数は、上杵12の振動周波数の99.0%以上で且つ99.8%以下である。斯かる構成により、粉体が収容された容器Sを下方から支持する振動体16(下杵15)が、上杵12の超音波振動に略合致して振動するため、本実施態様の圧縮成型装置1によれば、特許文献2に記載の如き、下杵がこのような振動体を含んで構成されていない圧縮成型装置で懸念される不都合(容器の損傷、成型体の硬度低下等)が生じ難く、全体に亘って均一で硬度分布が無く、充分な硬度を有する高品質の成型体が安定的に得られる。また、下杵15は、このような特定の振動体16を含んで構成されていれば良く、下杵15には超音波振動素子を取り付ける必要が無いため、本実施態様の圧縮成型装置1によれば、充分な硬度を有する高品質の成型体を比較的簡単な装置構成で得ることができる。
【0016】
これに対し、振動体16の固有振動数が上杵12の振動周波数との関係において前記特定範囲外である(上杵12の振動周波数の99.0%未満あるいは99.8%を超える)と、成型体の硬度の向上効果に乏しく、高品質の成型体が得られないおそれがある。その理由は、振動体16の固有振動数が上杵12の振動周波数の99.0%未満であると、振動体16は上杵12の振動に追従して振動できず、容器Sと振動体16との間に微小な空間が発生し、そのため振動エネルギーの一部が容器S内の粉体の成型に使用されず、振動エネルギーのロスが生じるためである。また、振動体16の固有振動数が上杵12の振動周波数に対して99.8%よりも大きくなると、振動体16は上杵12の振動にほぼ同期して振動する状態になるが、この場合、上杵12の先端が超音波振動で下方に向かう動作の時に、振動体16の容器Sに接する先端も下方に動く動作となって、上杵12及び振動体16がほぼ同方向に動くようになるため、粉体を圧縮する効果としては小さくなり、結果として成型体の高い硬度が得られないからである。
【0017】
振動体16の固有振動数は次のようにして測定される。
図1に示す如く他の部材(後述する移動手段20)によって支持されている振動体16における、容器Sとの接触面とは反対側の端面の中央部に、加速度計((株)東陽テクニカ製、352A60)をネジにて取り付け、シグナルコンディショナ((株)東陽テクニカ製、482B06)を経由して該加速度計をFFTアナライザー((株)アドバンテスト製、R9211A)と接続する。そして、インパクトハンマー((株)東陽テクニカ製、086E80)で振動体16を打撃し、その際に加速度計にて計測された加速度信号がFFTアナライザーに入力されることで、一次固有振動数を得、該一次固有振動数を振動体16の固有振動数とした。
【0018】
また、振動体16の固有振動数の別の測定方法として、超音波振動子を利用する方法もある。通常、超音波振動子は圧電体に高電圧を印加すると伸縮するという原理を利用しているが、逆に圧電体は圧力を受けることで電圧を発生させることができる。この発生電圧は振動子が受けた圧力として見ることができる。即ち、超音波振動子と振動体16とをネジで直列に締結し、振動体16をハンマーで打撃することによって該超音波振動子の圧電体から電圧を取り出し、この電圧波形をFFTアナライザーに入力して固有振動数を求めることも可能である。
【0019】
振動体16の固有振動数は、振動体16の材質及び長さ(
図1中符合Lで示す、振動体16の鉛直方向の長さ)によって決まる。従って、振動体16の固有振動数を上杵12の振動周波数の99.0%以上で且つ99.8%以下とするためには、上杵12の所定の振動周波数に対して、振動体16の材質及び長さの一方又は両方を適宜調整すれば良い。通常、振動体16の材質は変えずにその長さのみを適宜調整して、振動体16の固有振動数を上杵12の振動周波数との関係において前記特定範囲に設定する。振動体16の材質としては、上杵12の超音波振動に合わせて受動的に同調して振動可能なものであれば良く、例えば、超々ジュラルミン(A7075)等が挙げられる。
【0020】
図1及び
図3に示すように、振動体16の鉛直方向に沿う側面から、該振動体16を把持する際に利用される把持部17が突出し、振動体16と該振動体16を鉛直方向に上下動させる移動手段20とが、把持部17を介して連結されている。斯かる構成によって、振動体16(下杵15)は、移動手段20とは一切接触することなく、上下方向へ移動可能になされている。本実施態様においては、把持部17は、円筒状の振動体16の長さ方向(鉛直方向)の一部(中央部)が水平方向に張り出して形成されており、平面視して円形形状をなしている。把持部17は、振動体16と一体的に成型されていても良く、あるいは振動体16とは別体の部材を振動体16の側面に固定して設けられていても良い。
【0021】
把持部17は、振動体16が上杵12の超音波振動に合わせて受動的に同調して振動するときのその振動が最も小さい部分(振動最小部)に位置している。振動最小部は、小さいながらも振動が認められる場合のみならず、全く振動しない場合(振動がゼロの場合)を含む。把持部17が振動体16の振動最小部に位置していることにより、振動体16の振動に影響を及ぼすことなく、把持部17を用いて振動体16を支持することが可能となる。振動体16の鉛直方向の長さは通常、振動波長の1/2の長さ、又はこの整数倍の長さ程度に設定すれば良い。例えば、振動体16を最も単純な形状である円柱にし且つその鉛直方向(中心軸方向)の長さを振動波長の1/2にした場合、円柱状の振動体16における振動が最小となる節の部分は、その鉛直方向のちょうど中央の位置となるので、その鉛直方向中央に把持部17を設ければ良い。
【0022】
移動手段20は、
図1に示すように、把持部17を把持して振動体16を下方から支持する支持要素22と該支持要素22を鉛直方向に上下動させる移動要素21とを含んで構成されている。振動体16(下杵15)並びに移動手段20を構成する支持要素22及び移動要素21は、同一軸線上に位置している。移動要素21としては、例えばエアシリンダや油圧シリンダ等、上杵12の移動手段14として利用可能なものを用いることができる。支持要素22は、移動要素21に固定されたベース部23と、該ベース部23の周縁部から鉛直方向の上方側(臼体11側)に立設し、上端部に把持部17との係合部24aを有する支持部24とを備え、係合部24aの凹部に把持部17が嵌合されることによって、振動体16と移動手段20とが把持部17を介して連結されている。支持部24によって包囲された空間部には、振動体16の一部(把持部17よりも下方に位置する部分)が、移動手段20と接触しないように収容される。
【0023】
粉体が収容される容器Sは、
図1及び
図2に示すようにバットの如き底の浅い箱形の容器であり、下面〔下杵15(振動体16)との接触面〕を形成する平らな底板と該底板を包囲し且つ鉛直方向に立設する壁部とを有し、該底板と該壁部とに画成された凹部(空間部)に、粉体が収容される。容器Sは、前記収容空間に収容された時における該収容空間を構成する貫通口10の壁面とのクリアランス(間隙)が50〜150μm程度となるような大きさを有している。容器Sは、本実施態様の圧縮成型装置を構成する部材ではなく、該圧縮成型装置とは別体である。
【0024】
前述した構成を有する圧縮成型装置1を用いた粉体の圧縮成型方法(固形粉体成型体の製造方法)を
図1及び
図2を参照しながら説明する。本実施態様の粉体の圧縮成型方法は、前記収容空間に容器Sを収容し、該容器S内に粉体40を充填する工程と、上杵12と下杵15とによって粉体40を容器Sごと圧縮しつつ粉体40に超音波振動を印加する工程とを有する。
【0025】
先ず、移動手段20(移動要素21)を動作させて、臼体11の貫通口10内に予め挿入されている下杵15を貫通口10内で下降させ、貫通口10内における下杵15の上方位置に容器Sの収容空間を画成する。このとき、上杵12は、貫通口10の上方の所定の待機位置にて待機している。そして、前記収容空間に容器Sを1個収容し、更に容器Sに粉体40を充填する(
図2(a)参照)。
【0026】
次いで、移動手段14を動作させて上杵12を待機位置から下降させ、臼体11の所定の位置まで挿入する。次いで、下杵15(振動体16)を移動要素21によって上昇させ、粉体40を容器Sごと圧縮成型するのと同時に上杵12を超音波振動させる(
図2(b)参照)。これにより、容器Sと接触している振動体16は、上杵12の超音波振動に合わせて受動的に同調し、上杵12の振動周波数に近い振動数(上杵の振動周波数の99.0%以上で且つ99.8%以下)で振動する。こうして、容器S内の粉体40は、上杵12とこれに近い振動数で同調して振動する振動体16とによって、その全体が振動して流動化し、これに上下からの圧縮が加わって成型体50とされる。成型体50は、全体に亘って均一で硬度分布が無く、充分な硬度を有する高品質なものである。また、振動体16は上杵12の振動周波数に近い振動数で振動するため、容器Sと振動体16とが該振動体16の振動によって激しく衝突することがなく、容器Sの損傷が防止される。
【0027】
粉体40を一定時間圧縮した後、超音波振動素子13の動作を停止し、移動手段14を動作させて上杵12を上昇させて所定の待機位置に戻すと共に、移動手段20(移動要素21)を動作させて下杵15(振動体16)を上昇させ、該下杵15の上面を成型テーブル30の上面に一致させる(
図2(c)参照)。こうして、目的とする成型体50が、容器S内に収容された状態で得られる。
【0028】
尚、成型時に振動体16が上杵12から受ける振動波形を観測することにより、様々な情報が得られる。検査対象物の内部の欠陥検査で用いられている非線形超音波法において、欠陥が無い場合には、印加された超音波振動に対して受信される超音波振動は振動強度のみが変化する。一方、検査対象物の内部に亀裂等の欠陥がある場合には、その欠陥によって波の透過・反射が複雑に発生するために、受信された波形は、透過波・反射波の合成波形となって印加された超音波振動波形とは異なった複雑なものとなり、その周波数スペクトル解析を行なうと、印加した超音波振動周波数の整数倍の高調波が発生することが判っている。従って、この原理を用いれば、以下の現象が確認できる。即ち、容器Sと振動体16との間に空間ができずに上杵12から印加された振動がロス無く伝達している場合には、振動体16で観測される振動波形は印加された超音波振動と相似であるが、容器Sと振動体16との間に微小ではあっても空間がある場合には、振動体16で受ける振動波形は該空間によるロスや透過波・反射波等によって複雑な波形となり、その周波数スペクトルを観測すると高調波が発生している。
【0029】
上杵12の振動波形及び振動体16の振動波形は、それぞれ次のようにして測定される。上杵12の振動波形については、超音波振動素子13に高電圧を印加する端子(図示せず)から、また振動体16の振動波形については、該振動体16に取り付けた前記加速度計から、それぞれの出力を取り出し、それぞれオシロスコープ(岩通計測(株)製、DS−5102)等に入力して波形を記録する。周波数スペクトルは、この波形データをパソコンに取り込み、高速フーリエ変換して求める。
【0030】
本発明は、種々の粉体の圧縮成型に用いることができ、例えば、固形粉体成型体の一種である粉体化粧料の圧縮成型に用いることができ、この場合高品質の固形化粧料が得られる。該固形化粧料は、例えばアイシャドウ、チーク、ファンデーション等のメイクアップ化粧料の形態として好適に用いられる。粉体化粧料は、一般に体質顔料、着色顔料、光輝性顔料等の各種顔料及び油性成分を含有する。顔料の含有量は、通常、粉体化粧料中に5〜80質量%程度である。
【0031】
一方、前記油性成分は、固形粉体化粧料において固形形状を賦形するためのバインダーとしての役割を持つ。また、化粧料を塗布した際の化粧膜の肌への付着性の面でも重要である。油性成分としては、例えば、動物油、植物油、合成油等の起源や、固形油、半固形油、液体油、揮発性油等の性状を問わず、炭化水素、油脂、ロウ、硬化油、エステル油、脂肪酸、高級アルコール、シリコーン油、フッ素系油、ラノリン誘導体、油性ゲル化剤等を用いることができる。油性成分の含有量は、通常、粉体化粧料中に3〜20質量%程度である。
【0032】
特に本発明は、製造目的物である成型体が、均一な厚みを有する扁平な成型体である場合は勿論のこと、表面(上面)がドーム状、半球状、円錐状、角錐状、ダイヤカット状等の立体形状に成型された、厚みが均一ではない成型体である場合でも、全体に亘って均一で硬度分布が無く、高い硬度を有する成型体を提供することができるので、そのような厚みが均一ではない成型体の製造に有効である。
【0033】
以上、本発明をその好ましい実施態様に基づき説明したが、本発明は前記実施態様に制限されない。例えば前記実施態様においては、粉体40が上杵12に付着することを防止する目的で、これらの間にポリ四フッ化エチレン製のシート等の付着防止用介在物を介在させても良く、あるいは不織布及び/又は織布、紙等を介在させて、成型体50の表面に網目模様を施し、成型体50に一層の高級感を付与しても良い。
【0034】
前述した本発明の実施態様に関し、更に以下の付記(粉体の圧縮成型装置及び固形粉体成型体の製造方法)を開示する。
【0035】
<1>
皿状の容器内に収容された粉体に超音波振動を印加しながら該粉体を圧縮成型する粉体の圧縮成型装置であって、
鉛直方向に延び且つ前記容器の収容空間として利用される貫通口を有する臼体と、該貫通口に鉛直方向の上方側から挿入され且つ該貫通口内の該容器内の前記粉体に超音波振動を印加する上杵と、該貫通口に鉛直方向の下方側から挿入される下杵とを備え、該上杵と該下杵とによって該粉体を該容器ごと圧縮可能になされており、
前記下杵は、前記上杵の超音波振動に合わせて受動的に同調して振動可能な振動体を含んで構成されており、
前記振動体の固有振動数は、前記上杵の振動周波数の99.0%以上で且つ99.8%以下である粉体の圧縮成型装置。
<2>
前記振動体の鉛直方向に沿う側面から、該振動体を把持する際に利用される把持部が突出し、該振動体と該振動体を鉛直方向に上下動させる移動手段とが、該把持部を介して連結されており、
前記把持部は、前記振動体が前記上杵の超音波振動に合わせて受動的に同調して振動するときのその振動が最も小さい部分に位置している前記<1>に記載の粉体の圧縮成型装置。
【0036】
<3>
前記<1>又は<2>に記載の粉体の圧縮成型装置を用いた固形粉体成型体の製造方法であって、粉体の圧縮成型時において、前記振動体の振動波形の位相が前記上杵のそれよりも遅れ且つその位相差が0度より大きく50度以下となるように、前記上杵の振動周波数を調整する固形粉体成型体の製造方法。
<4>
前記振動体の振動波形が前記上杵のそれに対して遅れ位相である場合において、該振動体の振動波形の位相と該上杵のそれとの位相差は、好ましくは0度以上、更に好ましくは15度以上、そして、好ましくは50度以下、更に好ましくは45度以下、より具体的には、好ましくは0度以上50度以下、更に好ましくは15度以上45度以下である前記<3>に記載の固形粉体成型体の製造方法。
<5>
前記振動体の振動波形における高調波の信号強度は、該振動体が前記上杵より受けている基本振動の信号強度の1/10以下、好ましくは1/20以下である前記<3>又は<4>に記載の固形粉体成型体の製造方法。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施製造例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施製造例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施製造例1〜4及び比較製造例1〜5〕
図1に示すものと同様の構成の圧縮成型装置を用い、且つ該装置における下杵を構成する振動体の長さ(
図1中符合Lで示す、振動体の鉛直方向の長さ)を適宜変更して、前述した方法に準じて粉体を圧縮成型し、固形粉体化粧料(固形粉体成型体)を製造した。前述したように、振動体の長さを変更すると、該振動体の固有振動数が変化する。圧縮成型装置において、上杵に連結される超音波振動素子として、精電舎電子工業(株)製の超音波振動素子(15kHz、1.5kW)を用い、また、上杵及び振動体(下杵)の材質は、何れも超々ジュラルミン(A7075)であった。成型条件は次の通り。プレス圧1kN(成型体への荷重0.4MPa)、上杵に連結された超音波振動素子の超音波周波数15kHz、該超音波振動素子の超音波振幅25μm、該超音波振動素子の超音波振動印加時間3秒。また、成型時の上杵の振動波形及び振動体の振動波形をそれぞれ計測し、波形形状及び周波数スペクトル、並びにそれぞれの振動波形の位相差を評価した。位相差は、成型時の上杵の振動波形に対し、振動体の振動波形が遅れている場合は、遅れ位相(−)で表し、振動体の振動波形が進んでいる場合は、進み位相(+)で表した(下記表2参照)。
【0039】
〔比較製造例6〕
図4に示す圧縮成型装置を用い、前述した方法に準じて固形粉体化粧料(固形粉体成型体)を製造した。
図4に示す圧縮成型装置は、下杵15Aが、「上杵の超音波振動に合わせて受動的に同調して振動可能な振動体」を含んで構成されておらず、単なるSUS440C製の剛体である点以外は、
図1に示す圧縮成型装置1と同様に構成されている。また、比較製造例6においては、
図4に示すように、容器と下杵との間に、臼体の貫通口の形状に合致した形状の、大同特殊鋼(株)製のNAK55製ブロック31を介在させた。
【0040】
各実施製造例及び比較製造例で用いた粉体の組成を下記表1に示す。また、各実施製造例及び比較製造例で用いた容器を、最終的に得られた固形粉体化粧料(固形粉体成型体)と共に
図5に示す。
図5に示す容器Sはアルミ製で、
図5(a)に示す如き平面視(上面視)において外径58mmの真円形状をなし、容器厚みS1は0.5mm、容器高さS2は5mmであった。また、この容器Sを用いて得られた固形粉体化粧料90は、
図5(b)に示すように、中央部が周縁部91に比して隆起した立体形状をなしている。固形粉体化粧料90の中央部には、周縁部91(非隆起部)からの隆起高さの異なる3つの隆起部92,93,94が形成されており、該隆起高さはこの順で高くなっている。隆起部92,93,94の頂部はそれぞれ平坦である。周縁部91の厚みT1は4.0mm(容器厚み0.5mmを含む)、最も隆起高さの高い隆起部92の周縁部91からの隆起高さT2は3mm、隆起部93の隆起部94からの隆起高さT3は1mm、最も隆起高さの低い隆起部94の周縁部91からの隆起高さT4は1mmであった。
【0041】
【表1】
【0042】
〔試験例〕
各実施製造例及び比較製造例で得られた固形粉体化粧料の硬度を、マイクロゴム硬度計MD−1(高分子計器(株)製、触針φ0.16mm、長さ0.5mm)を用いて測定した。その結果を、前記方法により測定した「上杵の振動周波数」、「振動体の固有振動数」及び「上杵と振動体との振動波形の位相差」と共に下記表2に示す。尚、表2における「上杵と振動体との振動波形の位相差」に関し、「−」(マイナス)が付いているもの(負値)は、振動体の振動波形が上杵のそれに対して遅れ位相である場合を意味し、「−」(マイナス)が付いていないもの(正値)は、振動体の振動波形の位相が上杵のそれに対して進み位相である場合を意味し、「高調波」と記載されているものは、振動体の振動波形の周波数スペクトルを観測した時に、上杵の振動周波数の整数倍の高調波が大きく出現していることが観測された場合を意味する。
【0043】
【表2】
【0044】
また、実施製造例3に関して、
図6に、成型時に上杵の振動子に印加された電圧と振動体で検出した振動の電圧波形(
図6(a))、上杵に印加されている電圧の周波数スペクトル(
図6(b))、及び振動体で検出された振動電圧の周波数スペクトル(
図6(c))をそれぞれ示すと共に、比較製造例2に関しても、
図7に
図6と同様の3種類のグラフ(
図7(a)〜
図7(c))を示した。
図6(a)及び
図7(a)において、上杵は実線で示し、振動体は一点破線で示した。また、
図6(b)、
図6(c)、
図7(b)及び
図7(c)において、周波数スペクトルの横軸は周波数、縦軸は電圧である。
【0045】
表2から明らかなように、各実施製造例で得られた成型体(固形粉体化粧料)は、各比較製造例で得られた固形粉体化粧料に比して、高い硬度を有する。
実施製造例に対し、表1と
図6及び
図7とから判るように、比較製造例1、2では上杵の振動周波数に対する振動体の固有振動数の割合が99.0%未満であり、振動体の周波数スペクトルをみると、上杵から与えている基本周波数15kHzの振動以外にも2倍、3倍、4倍に相当する高調波が大きく発生しているのが判る。
比較製造例3、4、5では上杵の振動周波数に対する振動体の固有振動数の割合が99.8%以上であり、実施製造例と比して硬度が明らかに小さかった。
【0046】
実施製造例3と比較製造例2の周波数スペクトルより、振動体の振動波形における高調波の信号強度は、振動体が上杵より受けている基本振動の信号強度の1/10以下、好ましくは1/20以下の場合に高い硬度が得られることが判る。
【0047】
また、表2より、高い硬度を有する成型体を得るためには、粉体の圧縮成型時において、振動体の振動波形の位相が上杵のそれよりも遅れ且つその位相差が0度より大きく50度以下となるように、上杵の振動周波数を調整することが好ましいことが判る。振動体の振動波形が上杵のそれに対して遅れ位相である場合は、振動体の振動波形の位相と上杵のそれとが同位相(位相差0度)の場合、及び振動体の振動波形の位相が上杵のそれよりも進んでいる場合に比して、成型体の硬度が向上している。振動体の振動波形が上杵のそれに対して遅れ位相である場合において、振動体の振動波形の位相と上杵のそれとの位相差は、好ましくは0度以上、更に好ましくは15度以上、そして、好ましくは50度以下、更に好ましくは45度以下、より具体的には、好ましくは0度以上50度以下、更に好ましくは15度以上45度以下である。
【0048】
また、比較製造例6においても、
図4に示すように、下杵15Aと容器Sとの間にブロック31を挿入しているために、ブロック31及び下杵15Aが上杵12の振動に同調することがなく、容器Sとブロック31との間や、ブロック31と下杵15Aとの間に隙間が生じて振動エネルギーをロスしており、実施製造例と比較して硬度が小さい結果となっている。
【0049】
以上のことから、高い硬度を有する成型体を得るためには、各実施製造例のように、「下杵として、上杵の超音波振動に合わせて受動的に同調して振動可能な振動体を用いること」、即ち、本発明の主たる特徴部分の採用が有効であることが明らかである。