特許第6075877号(P6075877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075877
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】半導体磁器組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20170130BHJP
   H01C 7/02 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C04B35/468
   H01C7/02
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-226128(P2013-226128)
(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-86104(P2015-86104A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上城 政博
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康行
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−256179(JP,A)
【文献】 特開2005−255493(JP,A)
【文献】 特開2010−241684(JP,A)
【文献】 特開平11−021166(JP,A)
【文献】 特開2014−205585(JP,A)
【文献】 特開平01−242464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/468
H01C 7/02
JSTPlus(JDreamIII)
REGISTRY(STN)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が、組成式(1-x)(BaaMe1-a)TiO3-x(Bi,Li)TiO3で表される半導体磁器組成物であって、
前記aは0.4950≦a≦0.9500であり、
前記Meは、SrまたはCaのいずれか1種であるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であり、
前記MeがSrであるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であるときは、前記xが0.0030≦x≦0.0070であり、
前記MeがCaであるときは、前記xが0.0050≦x≦0.0080であること
を特徴とする半導体磁器組成物。
【請求項2】
希土類元素を含有しないことを特徴とする、請求項1に記載の半導体磁器組成物。
【請求項3】
前記半導体磁器組成物が、さらにMnおよびSiを含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体磁器組成物。
【請求項4】
Ba,Me,Tiをそれぞれ含む化合物を秤量、混合、仮焼して、組成式(BaaMe1-a)TiO3で表されるBT仮焼粉末を得る工程(aは0.4950≦a≦0.9500であり、Meは、SrまたはCaのいずれか1種、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上)、
Bi,Li,Tiをそれぞれ含む化合物を秤量、混合、仮焼して、組成式(Bi,Li)TiO3で表されるBLT仮焼粉末を得る工程、
前記BT仮焼粉末とBLT仮焼粉末とを、1-x:xの重量比にて混合し、造粒して造粒粉を得る工程(xは、MeがSrであるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であるときは、0.0030≦x≦0.0070であり、MeがCaであるときは、0.0050≦x≦0.0080)、および
前記造粒粉を、成形、焼成する工程
を含む、半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項5】
希土類元素を使用しないことを特徴とする、請求項4に記載の半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項6】
前記BT仮焼粉末を得る工程において、Mn含有化合物およびSi含有化合物を添加混合した後、仮焼するか、あるいは、
前記造粒粉を得る工程において、Mn含有化合物およびSi含有化合物を添加混合した後、造粒する
ことを特徴とする、請求項4または5に記載の半導体磁器組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体磁器組成物およびその製造方法に関する。より詳しくは、正の温度係数を有するチタン酸バリウム系半導体磁器組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体磁器組成物は、主成分であるチタン酸バリウムを半導体化させた組成物であり、常温では比抵抗が低いが、キュリー点を超えると急激に比抵抗が増大(ジャンプ)するという、正の抵抗温度特性を有しており、従来からヒータ用、過電流保護用、温度検知用等の正特性サーミスタとして広く用いられている。
従来、チタン酸バリウムを半導体化させるための半導体化剤として、希土類元素(レアアース)が一般に用いられてきた。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、耐突入電流特性を向上させることにより、正特性サーミスタ素子の小形化が可能なチタン酸バリウム系半導体磁器組成物として、チタン酸バリウムまたはその固溶体からなる主成分と半導体化剤と添加剤とが添加含有されているチタン酸バリウム系半導体磁器組成物が開示されている。
特許文献1の実施例で用いられている半導体化剤は、Y,Er,La、またはNdの酸化物であり、いずれも希土類元素の酸化物である。
【0004】
また、特許文献2には、素子材料を低比抵抗化しても耐電圧、突入許容電力およびON−OFFサイクル寿命が低下することがなく、抵抗値の低い正特性サーミスタを得ることができる組成物として、組成式(BaxSryCazPbsDt)TiuO3で表されるチタン酸バリウム系固溶体に対して、Mn、Siを所定量含有することを特徴とする正特性サーミスタ磁器組成物が開示されているが、やはり半導体化剤として希土類元素D(Pr、Sm)が用いられている。
【0005】
また、特許文献3には、耐電圧および減衰電流特性をともに向上させた消磁用正特性サーミスタに用いられるチタン酸バリウム系半導体磁器組成物が開示され、特許文献4には、アルカリ金属元素やBiの含有量が少なくても、適度な高キュリー点を維持しつつ、製品間での抵抗値のバラツキが抑制された半導体セラミックが開示され、特許文献5には、高抵抗化するのを回避し、信頼性に優れた半導体セラミックを得ることができる半導体セラミックの製造方法が開示されているが、いずれも、半導体化剤として希土類元素が用いられている。
【0006】
また、特許文献6には、チタン酸バリウム系組成物を主成分とする非鉛系の半導体セラミックを部品素体とする正特性サーミスタが開示されているが、実施例では、半導体化剤としてYが用いられている。特許文献7にも、Pbを使用しないチタン酸バリウム系の半導体磁器組成物が開示されているが、やはり半導体化剤として希土類元素(La、Dy、Eu、Gd、Y)が用いられている。
【0007】
希土類元素はその名が示すとおり、希少な元素で生産国も限られており、日本はほぼ100%輸入に頼っているのが現状である。したがって、外交関係の悪化により急に輸入困難な事態に陥る場合があり、昨今では、希土類元素を用いない代替手段が求められている。
【0008】
希土類元素を半導体化剤として用いないものとして、特許文献8には、所定のpHに調整した五酸化アンチモンゾルを半導体化剤として使用することを特徴とするチタン酸バリウム系磁器半導体の製造方法が開示されている。しかし、アンチモンは希土類元素ではないものの、資源枯渇や生産コストの問題から、希土類元素と同様、現在はほぼ100%輸入に頼っているのが現状であるため、希土類元素と同じ問題が存在する。
【0009】
上記問題に鑑み、本発明者は以前にも、希土類元素等の希少金属元素を用いずに半導体磁器組成物を製造する方法を開発し出願しているが(特願2012-177851号および特願2013-082710号)、今なお、希少金属元素を用いない半導体磁器組成物およびその製造方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−203866号公報
【特許文献2】特開2001−85201号公報
【特許文献3】特開2007−8768号公報
【特許文献4】特開2010−138044号公報
【特許文献5】特開2012−64840号公報
【特許文献6】特開2012−209292号公報
【特許文献7】特開2013−14508号公報
【特許文献8】特開平4−238860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それゆえ、本発明は、チタン酸バリウム系の半導体磁器組成物であって、希土類元素に代表される希少な金属元素を添加しなくても、希土類元素を用いた従来の半導体磁器組成物に匹敵する性能を有する半導体磁器組成物およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために種々検討した結果、Baの一部をストロンチウム、カルシウムのいずれか1種、または、ストロンチウム、カルシウムおよび鉛からなる群から選ばれる2種以上で置換したチタン酸バリウム系の磁器組成において、半導体化剤として希土類元素の代わりに、チタン酸ビスマスリチウム[(Bi,Li)TiO3]を特定の割合で添加含有させることによって、半導体磁器を得ることに成功し、前記課題を解決した。
【0013】
すなわち本発明は、主成分が、組成式(1-x)(BaaMe1-a)TiO3-x(Bi,Li)TiO3で表される半導体磁器組成物であって、
前記aは0.4950≦a≦0.9500であり、
前記Meは、SrまたはCaのいずれか1種であるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であり、
前記MeがSrであるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であるときは、前記xが0.0030≦x≦0.0070であり、
前記MeがCaであるときは、前記xが0.0050≦x≦0.0080であること
を特徴とする。
【0014】
本発明に係る半導体磁器組成物は、希土類元素(Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)を含んでいなくても、低い比抵抗値と高い耐電圧性を示し、キュリー点付近における抵抗値の立ち上がり幅(PTCジャンプ)の桁数が高く、優れた電気的特性を有するため、正特性サーミスタとして用いるのに好適である。
希土類元素の代わりに添加されているチタン酸ビスマスリチウムを構成する各金属元素は、国内で容易に入手できる元素であるため、本発明によれば、輸入に依存しない半導体磁器組成物の提供が可能となる。
【0015】
また、本発明は、前記半導体磁器組成物の製造方法であって、
Ba,Me,Tiをそれぞれ含む化合物を秤量、混合、仮焼して、組成式(BaaMe1-a)TiO3で表されるBT仮焼粉末を得る工程(aは0.4950≦a≦0.9500であり、Meは、SrまたはCaのいずれか1種、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上)、
Bi,Li,Tiをそれぞれ含む化合物を秤量、混合、仮焼して、組成式(Bi,Li)TiO3で表されるBLT仮焼粉末を得る工程、
前記BT仮焼粉末とBLT仮焼粉末とを、1-x:xの重量比にて混合し、造粒して造粒粉を得る工程(xは、MeがSrであるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であるときは、0.0030≦x≦0.0070であり、MeがCaであるときは、0.0050≦x≦0.0080)、および
前記造粒粉を、成形、焼成する工程
を含むことを特徴とする。
【0016】
このように、Baの一部が、Sr,Caの少なくとも1種、さらに任意でPbによって置換されたチタン酸バリウム系の仮焼粉末を用意し、さらに、チタン酸ビスマスリチウムの仮焼粉末を用意し、これを上記所定の重量比にて混合し、造粒、成形、焼成することにより、半導体化剤として希土類元素を用いなくても、上記組成式で表される主成分を含み、優れた電気的特性を有する半導体磁器組成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、希土類元素に代表される希少な金属元素を使用しなくても、優れた電気的特性を有する半導体磁器組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の半導体磁器組成物の主成分は、組成式(1-x)(BaaMe1-a)TiO3-x(Bi,Li)TiO3で表される。前記xは、前記MeがSrであるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であるとき(すなわち、MeがSr,Sr+Ca,Sr+Pb,Ca+PbまたはSr+Ca+Pbの場合)は、0.0030≦x≦0.0070の範囲内にある必要があり、前記MeがCaであるときは、前記xが0.0050≦x≦0.0080の範囲内にある必要がある。xが上記範囲を外れる場合は、比抵抗が高くなる。また、PTCジャンプが4桁未満まで低下する場合がある。
【0019】
また、前記組成式において、Baの組成値aは0.4950≦a≦0.9500である。0.4950未満では比抵抗が高くなりやすく、0.9500を超えると耐電圧が低下しやすい。
【0020】
前記組成式において、MeはSr,CaおよびPbからなる群から選択される金属元素を表し、1種類の金属元素であっても、2種または3種の金属元素であってもよいが、SrかCaのいずれかは必須である(すなわち、MeがPb単独となる場合はない)。このように、Baの一部を、Sr,Caの少なくとも1種、および任意でPbで置換することにより、耐電圧を高くすることができる。
本発明において、Meの組成値は、1.0000から前記Baの組成値aを引いたものであるため、0.0500〜0.5050の範囲となる。
【0021】
また、前記組成式中の「Me1-a」を「SrbCacPbd(b+c+d=1-a)」と表した場合、各組成値b、c、d、およびBaの組成値aの特に好ましい値は以下の通りである。
・MeがSr,CaおよびPbである場合(Sr+Ca+Pb)、a,b,c,dの好ましい値は、0.4950≦a≦0.8700、b≦0.1000、0.0300≦c≦0.2000、および、0.0300≦d≦0.3250;各組成値のより好ましい値は、0.5500≦a≦0.8700、b≦0.0800、0.0700≦c≦0.1700、0.0600≦d≦0.2000;
・MeがCaおよびPbである場合(Ca+Pb)、各組成値の好ましい値は、bがゼロであることを除いて、Sr+Ca+Pbの場合と同じである。
・MeがSrおよびCaである場合(Sr+Ca)、a,b,cの好ましい値は、0.6200≦a≦0.9500、0.0500≦b≦0.2500、および、c≦0.20000;
・MeがSr単独である場合、各組成値の好ましい値は、cがゼロであることを除いて、Sr+Caの場合と同じである。
・MeがSrおよびPbである場合(Sr+Pb)、a,b,dの好ましい値は、0.7400≦a≦0.90000、0.0400≦b≦0.2000、および、0.0400≦d≦0.2000;
・MeがCa単独である場合、a,cの好ましい値は、0.8000≦a≦0.9300、および、0.0700≦c≦0.2000;
各組成値を上記範囲とすることが、低い比抵抗値、高い耐電圧性、4桁以上のPTCジャンプ特性を達成する上で好ましい。
【0022】
また、本発明は、希土類元素を添加せずに半導体磁器組成物を得ることを目的として開発されたものであるため、希土類元素を含んでいないことが好ましい。
【0023】
前記組成式中の(BaaMe1-a)TiO3を、(BaMe)TifO3と表した場合、Tiの組成値f[言い換えれば、Tiと(BaMe)のモル比;Ti/(BaMe)]は、0.9800≦f≦1.0250であることが好ましい。この範囲を外れると比抵抗が高くなりやすいか、耐電圧が低くなりやすい。
より好ましいfの値は1.0000≦f≦1.0150である。
【0024】
前記組成式中の(Bi,Li)TiO3を、(BiLi)TiiO3と表した場合、Tiの組成値i[言い換えれば、Tiと(BiLi)のモル比;Ti/(BiLi)]は、1.0000であること(すなわちBiLi:Ti=1:1)が好ましい。
また、前記組成式中の(Bi,Li)TiO3を、(Big,Lih)TiO3と表した場合(g+h=1)、Biの組成値gとLiの組成値hの値はそれぞれ0.5であること(すなわちBi:Li=1:1)が好ましい。
【0025】
また、前記半導体磁器組成物は、さらにMnおよびSiを含有することが好ましい。MnおよびSiは、(BaaMe1-a)TiO3仮焼粉末(BT仮焼粉末)を作製する際に添加してもよいし、仮焼後、BT仮焼粉末とBLT仮焼粉末とを混合する際に添加してもよい。
Mnを添加することにより、電気的特性を向上させることができるが、添加量が多すぎると、比抵抗が高くなるため、(BaaMe1-a)TiO3に対し、Mnが元素換算で0.0075〜0.0230重量%となる量で添加することが好ましい。
また、Siを添加することにより、焼成温度を低くすることができ、1270〜1350℃程度の通常の焼成条件で、比抵抗が低く、良好な電気的特性を有する半導体磁器組成物を得ることができるが、添加量が多すぎると、電気的特性の劣化や、素子の融着が生じやすくなるため、(BaaMe1-a)TiO3に対し、SiO2換算で0.30〜0.75重量%となる量で添加することが好ましい。
【0026】
本発明に係る半導体磁器組成物の製造方法の一例を以下に概説する。
まず、Ba,Me(Sr,Caの少なくとも1種、任意でPb),Tiをそれぞれ含む化合物を、(BaaMe1-a)TiO3の組成となるように秤量・配合し(0.4950≦a≦0.9500)、さらに任意でMn含有化合物および/またはSi含有化合物を添加する。その後、ポットミル等を用いて、純水中で混合し、濾過・乾燥・仮焼の工程を経てチタン酸バリウム系の仮焼粉末(BT仮焼粉末)を得る。仮焼は、1100〜1250℃にて、1〜2時間行うことが好ましい。
同様に、チタン酸ビスマスリチウムを得るために、Bi,Li,Tiをそれぞれ含む化合物を、好ましくは(Bi0.5Li0.5)TiO3の組成となるように秤量・配合する。その後、ポットミル等を用いて、純水中で混合し、濾過・乾燥・仮焼の工程を経てチタン酸ビスマスリチウムの仮焼粉末(BLT仮焼粉末)を得る。仮焼は、700〜900℃にて、1〜2時間行うことが好ましい。
その後、BT仮焼粉末とBLT仮焼粉末が、重量比にて1-x:xとなるよう、秤量・配合し、ポットミル等を用いて、純水中で湿式にて混合を行い、その後濾過、乾燥、造粒を行う。なお、前記Mn含有化合物および/またはSi含有化合物は、当該造粒工程で添加してもよい(BT仮焼粉末およびBLT仮焼粉末とともに混合した後、造粒する)。
この際、前記xの値は、前記Meが、Srであるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であるときは、0.0030≦x≦0.0070の範囲とし、前記MeがCaであるときは、0.0050≦x≦0.0080の範囲とする。
その後、得られた造粒粉をプレス成形機等にて成形し、焼成を行うことにより、本発明に係る半導体磁器組成物を得ることができる。焼成は、1270〜1350℃で1〜3時間行うことが好ましい。
【0027】
前記各金属元素を含む化合物としては、例えば各金属元素の酸化物、窒化物、炭酸塩等が挙げられる。
例えば、BaはBaCO3として、SrはSrCO3として、CaはCaCO3として、PbはPb3O4として、TiはTiO2として、BiはBi2O3として、LiはLi2CO3として添加することができる。
これらの化合物を、各金属元素が、各仮焼粉末の組成式・組成値を満たすように配合し、上記手順にてBT仮焼粉末およびBLT仮焼粉末を得、その後、両者を混合し、上記手順にて焼成すればよい。なお、各金属元素が上記組成値を満たす割合で配合されていればよく、酸素の量は過剰となってもよい。
同様に、添加成分であるMnはMnCO3として、SiはSiO2やSi3N4として添加することができる。なお、焼成後の組成物において、MnやSiは主成分に固溶していてもよい。
【実施例】
【0028】
(BaaMe1-a)TiO3仮焼粉末(BT仮焼粉末)の出発原料としてBaCO3、SrCO3、CaCO3、Pb3O4、TiO2を、添加成分としてMnCO3、SiO2を準備し、これらを表1〜4に示す所定の組成となるよう、秤量し、配合した。その後、ポットミルを用いて純水中で湿式混合し、濾過し、乾燥を行った後、約1200℃で120分間仮焼して、BT仮焼粉末を得た。表中のMnおよびSiO2の%はそれぞれ、その左欄に示す組成式の化合物の重量に対するMn元素およびSiO2の重量%である。
同様に、(Bi,Li)TiO3仮焼粉末(BLT仮焼粉末)の出発原料としてBi2O3、Li2CO3、TiO2を準備し、これらを(Bi0.5Li0.5)TiO3の組成となるよう、秤量し、配合した。その後、ポットミルを用いて純水中で湿式混合し、濾過し、乾燥を行った後、約850℃で120分間仮焼して、BLT仮焼粉末を得た。
その後、BT仮焼粉末、BLT仮焼粉末を、表に示す重量比x(BT:BLT=1-x:x)で秤量、配合し、ポットミルを用いて純水中で湿式混合を行い、濾過、乾燥を行った後、ポリビニルアルコール(バインダー)を用いて造粒した。
得られた造粒粉を、プレス成形機によって、円柱状(直径18.0mm×厚さ3.0mm)に成形し、大気雰囲気下、約1300℃で60分間焼成を行い、焼成体を得た。
【0029】
また、BLT仮焼粉末を用いず、イットリウムを半導体化剤として用いた焼成体を製造した(比較例1〜比較例3および比較例5〜比較例8それぞれの枝番1参照)。出発原料として、Y2O3を添加した以外は、上記実施例のBT仮焼粉末の製造と同じ手順で仮焼を行い、得られた仮焼粉末を、BLT仮焼粉末と混合せずに造粒したこと以外は、上記実施例と同じ手順にて焼成し、焼成体を製造した。
また、希土類元素もBLT仮焼粉末も添加しない焼成体を製造した(比較例1〜比較例3および比較例5〜比較例8それぞれの枝番2参照)。実施例のBT仮焼粉末の製造と同じ手順で仮焼を行い、得られた仮焼粉末を、BLT仮焼粉末と混合せずに造粒したこと以外は、実施例と同じ手順にて焼成し、焼成体を製造した。
また、Me(Sr,Ca,Pb)を添加しない焼成体を製造した(比較例4−1〜4−5)。BT仮焼粉末製造時に、MeおよびMn,Siを添加しないこと以外は、実施例と同じ手順にて焼成体を製造した。
【0030】
このようにして得られた各焼成体の両面にIn−Ga電極を塗布し、比抵抗、耐電圧測定用の試料とした。比抵抗は温度25℃で測定し、耐電圧は、試料に印加する電圧を徐々に上昇させてゆき、絶縁破壊が生じる限界の電圧を測定することによって求めた。さらに、温度と抵抗の関係を測定し、キュリー点(CP)、PTCジャンプの桁数(比抵抗初期値からの変化桁数)を求めた。結果を表1〜4に示す。表1は、Meが(Sr+Ca+Pb)または(Ca+Pb)である場合のデータを示し、表2は、Meが(Sr+Ca)またはSr単独である場合のデータを示し、表3は、Meが(Sr+Pb)である場合のデータを示し、表4は、MeがCa単独である場合のデータを示す。
表中の評価が○の試料は、希土類不使用、比抵抗500Ω・cm以下、耐電圧200V以上、PTCジャンプ桁4.0以上を全て満たしたものであり、評価が×のものは、上記条件の一つ以上を満たさないものである。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
表に示すとおり、本発明の組成式で表されるチタン酸バリウム系の半導体磁器組成物は、半導体化剤としてイットリウムを用いた比較例の試料(比較例1〜比較例3,比較例5〜比較例8それぞれの枝番1の試料)と比べて遜色のない特性を示した。これに対し、半導体化剤としてイットリウムを用いず、また、チタン酸ビスマスリチウムも添加しなかった比較例の試料(比較例1〜比較例3,比較例5〜比較例8それぞれの枝番2の試料)は半導体化しなかった。
【0035】
また、チタン酸ビスマスリチウムを添加した場合であっても、xが所定の範囲にない場合は、比抵抗が増大して500Ω・cmを超え、正特性サーミスタ材料に要求される特性を満たさなかった。また、試料によっては、PTCジャンプ桁数が3.0以下になる試料が見られた。より具体的には、Meが、Sr+Ca+Pb、Ca+Pb、Sr+Ca、Sr+Pb、またはSrの場合は、xが0.0030≦x≦0.0070の範囲を外れた場合(比較例1〜比較例3,比較例5〜比較例7それぞれの枝番3および4の試料)、MeがCaの場合は、xが0.0050≦x≦0.0080の範囲を外れた場合(比較例8−3,8−4)、チタン酸ビスマスリチウムを添加しても、正特性サーミスタ材料に要求される特性を備えた半導体磁器組成物は得られなかった。
また、チタン酸ビスマスリチウムを添加した場合であっても、Meを添加していない比較例4−1〜4−5の試料は、PTCジャンプ桁が3.0以下になる、半導体化しない、比抵抗が増大する、耐電圧が低下する等の結果となり、正特性サーミスタ材料に要求される特性を満たさなかった。
また、Baの添加量が少なすぎる場合(a<0.4950である比較例1−5,3−5)、比抵抗が増大する傾向が見られ、Baの添加量が多すぎる場合(a>0.9500である比較例5−5)、耐電圧が低下する傾向が見られた。
【0036】
上記実験等の結果から、Baの組成値が0.4950〜0.9500であり、MeがSrまたはCaのいずれか1種であるか、または、Sr,CaおよびPbからなる群から選ばれる2種以上であり、さらに、前記xが特定の範囲となるようにチタン酸ビスマスリチウムを配合した場合、比抵抗が低く、耐電圧が高く、PTCジャンプ桁が4.0以上の半導体磁器組成物が得られることが分かった。
【0037】
上記実験から、本発明によれば、チタン酸バリウム系組成に半導体化剤である希土類元素の代わりにチタン酸ビスマスリチウムを添加した組成系とすることにより、希土類元素を用いた半導体磁器組成物と同等の性能を実現できることが分かった。